説明

流体軸受装置及び流体軸受装置を有するディスク駆動用モータ

【課題】テーパシール部がスリーブと一体であることに起因してロータの回転振れが大きくなるという問題に対応するために、スリーブとは別にテーパリングを備えてテーパシール部を構成するようにテーパリングの中心位置合わせを高精度に行う。
【解決手段】シャフトと、スリーブと、潤滑流体とを備える流体軸受装置において、スリーブの端部にテーパリングを備え、スリーブの端部に環状の突出壁を有し、リング内周面とシャフトの外周面との少なくとも一方を傾斜面として、テーパリングは、第1の接着剤によりスリーブの端面に接着されると共に第1の接着剤とは異なる種類の第2の接着剤により突出壁の内周面に接着され、リング外周面が突出壁の内周面に当接するように固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体軸受装置及びその流体軸受装置を有するディスク駆動用モータに係り、特に、ハードディスクドライブに好適に搭載されるのディスク駆動用モータ及びそのディスク駆動用モータに好適に搭載される流体軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の流体軸受装置を搭載したモータの例として、特許文献1及び2に記載されたものがある。このようなモータの一般的形態を図5に示す。
この図5に示すモータ500は、ハードディスクドライブのディスク駆動用モータであり、ステータSとロータRとにより構成される。
【0003】
ステータSは、モータべースJ13と、その中心部に円環状に立ち上げられた立ち上げ部J13aの内周面に固定された真鍮よりなるスリーブJ9と、立ち上げ部J13aの外周面に固定されたステータコアJ14とを含んで構成される。
【0004】
ロータRは、ハブJ2と、このハブJ2に固定されたリングマグネットJ6とを含んで構成される。
ハブJ2の外周面J2aにはハードディスク(図示せず)が装着される。
また、このハブJ2の中心孔J2bにはステンレス鋼よりなるシャフトJ1が固定されている。
【0005】
この構成において、スリーブJ9は、シャフトJ1を、スラスト方向及びラジアル方向に流体軸受を介して軸支しており、これにより、ロータRはステータSに対して回転自由に支持される。
【0006】
ラジアル方向の流体軸受は、シャフトJ1の外周面J1aとスリーブJ9の内周面J9aとその間隙に充填された潤滑流体20とを含んで構成される。この潤滑流体20は、図示しないスラスト方向の流体軸受にも共有されている。
この潤滑流体20をシールするテーパシール部JTSは、スリーブJ9におけるハブJ2側の端部に設けられ、スリーブJ9の内周面J9aとこれに対向するシャフトJ1の外周面J1aとで形成される。
また、潤滑流体20は、その液面20aがテーパシール部JTSに位置するように充填量が規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−101610号公報
【特許文献2】特開平8−210364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した流体軸受を用いたモータ500は、軸受内部が潤滑流体20で満たされ、ロータRの回転により発生する潤滑流体20の圧力を利用してシャフトJ1がスリーブJ9などに非接触状態で回転自由に支持されるものである。
【0009】
また、流体軸受の開放端部には、潤滑流体20を封止するためのテーパシール部JTSが設けられているが、このテーパシール部JTSは、ロータRの回転に伴う温度上昇によって潤滑流体20が膨張しても溢れ出ないような形状にて形成されている。
すなわち、テーパシール部JTSは、その形状が潤滑流体20を所定の容量だけ蓄えられる形状とされている。
【0010】
この膨張について例を用いて説明する。
ステンレス鋼よりなるシャフトJ1の熱膨張係数は、10.5×10-6/℃ であり、真鍮よりなるスリーブJ9の熱膨張係数は、17×10-6/℃ である。
また、モータ500の使用上限温度は通常80℃であり、常温の25℃からこの使用上限温度まで温度が上昇すると、その温度増分は55℃である。
【0011】
この流体軸受は、常温の25℃において、孔の直径が4.0050mm、深さ(孔の長さ)が21.000mmの真鍮製のスリーブJ9の中に、外径が4.0000mm、長さが20.000mmのステンレス鋼製のシャフトJ1が挿入され、潤滑流体20を保持する容量(テーパシール部JTSを除く間隙の体積)が13.227mm3である。
温度が常温から80℃に上昇すると、スリーブJ9の孔の直径は4.0087mmに変化し、シャフトJ1の外径は4.0023mmに変化し、容量は13.431mm3へと1.0154倍に増加する。この増加分は1.54%である。
一方、テーパシール部JTSは、常温の25℃において、最小径が4.0050mm、最大径が4.2050mm、軸方向長さが2.1000mmで形成されており、その容量が1.4091mm3である。
温度が常温から80℃に上昇すると、容量は、1.4306mm3へと1.0153倍増加する。この増加分は1.53%である。
【0012】
これらに対して、潤滑流体20として一般的に使用されるオイルの熱膨張係数は、8×10-6/℃ なので、温度が同様に常温の25℃から80℃に上昇すると、温度増分は55℃であるから体積増加分は4.40%である。
【0013】
このように、温度上昇による容量(または体積)の増加は、テーパシール部JTSを除いて潤滑流体を保持する容量の増加分とテーパシール部JTSの容量の増加分とを合わせた容量増加量よりも潤滑流体自体の体積増加量の方が大きいので、温度上昇に伴い潤滑流体20の液面20aはテーパシール部JTSにおいて上昇する。
【0014】
具体的には、常温の25℃において、図5におけるスリーブJ9の端面J9bから液面20aまでの距離が1.100mmであるとすると、温度が80℃に上昇した場合、潤滑流体20自体の体積膨張分から潤滑流体を保持する全容量の増加分を差し引くと、0.3824mm3となり、このとき液面は0.479mm上昇するので、この液面上昇があっても潤滑流体20が溢れないようにテーパシール部JTSの軸方向長さが設定される。
【0015】
実際の設計においては、この液面上昇に加えて、量産における寸法のばらつき,潤滑流体の蒸発による液量減少分,外部から加わる衝撃による液面揺動分等を考慮してテーパシール部の形状を設定しなければならない。
【0016】
しかしながら、モータの厚さは、例えば、ハードディスクドライブに搭載する場合、7.5mm以下等のように厳しく規定されるので、テーパシール部の軸方向長さを大きく(長く)すると、その分スラスト方向の軸受スパンが短くなり、軸受に加わる負荷が増加してロータの回転振れが大きくなるという問題があった。
【0017】
この問題に対しては、スリーブの材質を、他の部材よりも大きい熱膨張係数を有する材質にするという構成も検討されている。
この構成によれば、温度上昇に伴い、スリーブの内径が拡張してテーパシール部の容量が増加して潤滑流体の液面上昇を抑制することができるものの、テーパシール部以外の潤滑流体保持部、すなわち、シャフトとスリーブとの間隙も、その間隙が微少であるが故に大幅に拡張して軸受剛性が低下し、ロータの回転振れが大きくなるという問題が生じる。
【0018】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、軸受の軸方向長さを大きく(長く)することなく、回転振れが少なく高い信頼性が得られる流体軸受装置を提供することにある。そして、従来のモータ500のテーパシール部がスリーブと一体であることに起因してロータの回転振れが大きくなるという問題に対応するために、スリーブとは別にテーパリングを備えてテーパシール部を構成するようにテーパリングの中心位置合わせを高精度に行うことが課題であると認識した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の流体軸受装置は、シャフトと、シャフトが挿入されたスリーブと、シャフトとスリーブとの間隙に介在させた潤滑流体と、を備え、シャフトをスリーブに対して相対的に回転自在に支持する流体軸受装置において、スリーブの端部に環状のテーパリングを備え、テーパリングは、リング内周面と、リング外周面と、スリーブと軸方向に対向するリング下面と、を有し、テーパリングのリング内周面とこれに対向するシャフトの外周面との少なくとも一方をリング内周面とシャフトの外周面とで形成する間隙がスリーブから離れるに従って広がる傾斜面として、リング内周面とシャフトの外周面との間隙に潤滑流体の液面が位置してテーパシール部を形成すると共に、スリーブは、端部から軸方向に突出する環状の突出壁を有し、テーパリングは、第1の接着剤によりスリーブの端面に接着されると共に第1の接着剤とは異なる種類の第2の接着剤により突出壁の内周面に接着され、リング外周面が突出壁の内周面に当接するように固定されることを特徴とします。
この態様によると、突出壁の内周面にテーパリングの外周面が当接するようにテーパリングを固定するから、テーパリングの中心位置合わせを高精度に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、スリーブとは別にテーパリングを備えてテーパシール部を構成した流体軸受装置を提供して、軸受の軸方向長さを大きく(長く)することなく、回転振れが少なく高い信頼性が得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の流体軸受装置における実施例を搭載したモータの断面図である。
【図2】本発明の流体軸受装置の要部を説明する拡大断面図である。
【図3】本発明の流体軸受装置における昇温状態での要部を説明する拡大断面図である。
【図4】本発明の流体軸受装置における他の実施例を搭載したモータの断面図である。
【図5】従来の流体軸受装置を搭載したモータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により図1〜図4を用いて説明する。図1は、本発明の流体軸受装置における実施例を搭載したモータの断面図である。図2は、本発明の流体軸受装置の要部を説明する拡大断面図である。図3は、本発明の流体軸受装置における昇温した状態での要部を説明する拡大断面図である。図4は、本発明の流体軸受装置における他の実施例を搭載したモータの断面図である。
【0023】
<第1実施例>
図1に示す第1実施例の流体軸受装置を搭載したモータ50は、ハードディスクドライブに用いられるディスク駆動用モータであり、ステータSとロータRとにより構成される。
【0024】
ステータSは、モータべース13と、その中心部に円環状に立ち上げられた立ち上げ部13aの内周面13a1に固定された真鍮よりなるスリーブ9と、立ち上げ部13aの外周面13a2に固定された環状のステータコア14とを含んで構成される。このステータコア14は、図示しない複数の突極を備え、各突極にはコイル30が巻回されている。
【0025】
ロータRは、略カップ状のハブ2と、その最外周の周壁2dの内面2d1に固定されたリング状のマグネット6とを含んで構成される。
ハブ2の外周面2aにはハードディスク(図示せず)が装着される。
【0026】
このハブ2の中心孔2bにはステンレス鋼よりなるシャフト1が固定されている。
シャフト1は、スリーブ9に挿入されると共にラジアル方向及びスラスト方向に流体軸受装置Bを介して軸支される。
この流体軸受装置Bは、ラジアル方向の軸受RBとスラスト方向の軸受SBとで構成されている。
【0027】
ラジアル方向の軸受RBは、シャフト1の外周面1aとスリーブ9の内周面9aとその間隙に充填された潤滑流体20とを含んで構成される。
スラスト方向の軸受SBは、スリーブ9における図1の下方側の端部に形成された段部9bと、シャフト1の端部に固定され段部9bに収容されたスラストリング31と、段部9bに固定されスリーブ9の開口端部を封止するスラストプレート32と、これらの部材の間隙、すなわち、スリーブ9及びスラストプレート32と、スラストリング31及びシャフト1の先端面と、の間隙に充填された潤滑流体20とを含んで構成される。
以上の構成において、ロータRはステータSに対して回転自由に支持されている。
【0028】
次に、流体軸受装置Bのテーパシール部TSについて詳述する。
実施例の流体軸受Bにおいて、そのテーパシール部TSは、シャフト1と、スリーブ9と、このスリーブ9の外周部から軸方向に環状に突出する突出壁9k及びスリーブ9の端面9tに固定されたテーパリング4とにより構成される。このテーパリング4は、端面9tと接着剤adh1により固定され、突出壁9kとも接着剤adh2により固定される。
【0029】
接着剤adh1は、例えば面接着に適した嫌気性接着剤を用いることができる。
接着剤adh2は隅部に盛られて硬化しており、例えば体積変化が少ないエポキシ系接着剤を用いることができる。
【0030】
また、テーパリング4の外周側である接着剤adh2が塗布される部分には、軸方向の厚さを小さく(薄く)する凹部4kが形成されている。
これにより、接着剤adh2はテーパリング4の上面4tから突出することがないので、接着剤adh2によりモータ50の軸方向の厚さが増加することはない。
【0031】
また、突出壁9kの内周面にテーパリング4の外周面が当接するようにテーパリング4を固定することで、テーパリング4の中心位置合わせを高精度に行うことができる。
【0032】
この固定方法においては、ロータRの回転による温度上昇でテーパリング4が膨張した際には、テーパリング4の内径が拡張すると共に厚さが増加するように変形する。
従って、テーパリング4とスリーブ9の端面9tとの間の接着面などに剥離が生じることもない。
【0033】
このテーパリング4を含む部分の構成について、図2を用いて具体的に説明する。この図は、常温での状態を説明する図である。
【0034】
図2において、テーパシール部TSは、シャフト1の外周面1aと、スリーブ9の内周面9aの端面9t側に、端面9tに向かうに従って大径となるよう傾斜して形成された第1テーパ面9cと、テーパリング4の内周面であってスリーブ9から離れるに従って大径となるよう傾斜した第2テーパ面4aと、により構成される。
すなわち、テーパシール部TSにおいて、テーパリング4の内周面4aとシャフト1の外周面1aとの径方向の間隙が、スリーブ9から離れるに従って拡大するように形成されている。
潤滑流体20は、その液面20aがテーパシール部TSの途中に位置するような量で充填されている。
【0035】
次に、各部材の熱膨張について詳述する。
シャフト1はマルテンサイト系のステンレスで形成され、スリーブ9は銅合金で形成され、テーパリング4はアルミニウムで形成されており、それぞれ熱膨張係数は、
シャフト1:10.5×10-6/℃
スリーブ9:17×10-6/℃
テーパリング4:23.5×10-6/℃
である。
すなわち、テーパリング4を、シャフト1及びスリーブ9よりも熱膨張係数の大きな材料で形成してある。
また、潤滑流体20としてエステル系オイルを使用しており、その熱膨張係数は、8×10-6/℃ である。
【0036】
ここで、各部材は、常温25℃において、以下の寸法になるよう形成してある。
すなわち、
シャフト1の外径ds:φ4.0000mm
テーパリング4の内周面である第2テーパ面4aにおいて、
最小内径d1(スリーブ側の内径):φ4.0050mm
最大外径d2(スリーブとは反対側の内径):φ4.2050mmである。
【0037】
従って、ロータRの回転に伴う昇温で各部材の温度が80℃になったとすると、温度増分が55℃であるから、各寸法は、以下のように大きくなる方向に変化する。ここでは区別の為に符号に添え字「(80)」を付記し、この昇温した状態を、図3を用いて説明する。
【0038】
すなわち、昇温した80℃での各寸法は、
シャフト1の外径ds(80):φ4.0023mm
第2テーパ面4cの最小内径d1(80):φ4.0102mm
第2テーパ面4cの最大内径d2(80):φ4.2104mm
である。
【0039】
また、上述したように、テーパリング4は、スリーブ9の端面9tに接着剤adh1により固定され、突出壁9kとも接着剤adhにより固定されているので、ロータRの回転による温度上昇でテーパリング4が膨張した際には、図3において矢印で示したように、テーパリング4の内径が拡張すると共に厚さが増加する方向に変形する。
【0040】
この寸法変化により、テーパシール部TSの容積は、1.4091mm3から1.4505mm3へと1.0294倍に拡張する。この増加分は2.94%である。
これは、従来の例で示した容積増分1.53%に対して約2倍の増加である。
【0041】
一方、テーパシール部TS以外の、流体軸受装置Bの潤滑流体20を保持する容量(間隙)も同様に増加(拡張)するが、これは、ステンレスのシャフト1と銅合金のスリーブ9との組み合わせであるので、従来と同様に容量増分は1.54%である。
また、潤滑流体20の体積は4.40%増加する。
【0042】
これら各部材や潤滑流体の膨張による容量や体積の増分を総合すると、潤滑流体20の液面20aは、温度が常温25℃から80℃に上昇した場合、0.466mm変位(上昇)するが、これは、従来例の変位(上昇)量である0.479mmに対して0.013mm少ない。
従って、テーパシール部TSとして、テーパリング4を用いない従来の構造に対してその軸方向長を0.013mm短縮することができ、すなわち、この流体軸受Bを搭載したモータ50の厚さを0.013mm薄くすることができる。
【0043】
上述した内容からわかるように、テーパリング4の材質はその熱膨張係数が大きい程好ましい。
例えば、POM(ポリアセタール)を用いると、その熱膨張係数は90×10-6/℃ であるからアルミニウムの熱膨張係数より更に大きく、この場合に他の部材や寸法などを同様の条件として80℃における液面変位(上昇)を求めると、0.326mmとなる。
従って、この変位量は、アルミニウムを用いた場合の変位量より0.140mm少ない。
すなわち、この流体軸受装置Bを搭載したモータの厚さを、さらに0.140mm短縮することが可能となる。
【0044】
以上詳述した構成によれば、流体軸受装置Bにおけるテーパシール部TS以外における潤滑流体20の充填隙間を過剰に広げることなく、テーパシール部TSにおける潤滑流体20の保持容量をより増加させることができるので、昇温時の潤滑流体20の液面上昇を抑制して流体軸受装置Bの軸方向長さを短くすることができる。
【0045】
また、軸受スパンを短くする必要がないのでこれに伴う軸受剛性の低下を招くことはなく、ロータRの回転振れが大きくなることがない。
また、シャフト1とスリーブ9の間隙も大幅に拡張することがないので、軸受剛性の低下が抑制され、ロータRの回転振れが大きくなることがない。
【0046】
<第2実施例>
次に、本発明の流体軸受装置の第2実施例について図4を用いて詳述する。
図4に示す第2実施例の流体軸受装置を搭載したモータ50Aは、ハードディスクドライブに用いられるディスク駆動用モータであり、ステータSとロータRとにより構成される。
【0047】
第1実施例のモータ50は、モータベース13に固定されたスリーブ9がシャフト1を回転自由に軸支する構成のものであったが、この第2実施例のモータ50Aは、シャフト51sの一端側がモータベース63に固定され、そのシャフト51sに対してスリーブ59を含むロータRが回転する構造のものである。
【0048】
ステータSは、モータベース63と、このモータベース63に形成された環状の立ち上げ部63aの外周面63a1に固定された環状のステータコア64とを含んで構成される。
このステータコア64は、図示しない複数の突極を備え、各突極にはコイル80が巻回されている。
モータベース63の中心孔63bには、ステンレス鋼よりなるシャフト芯51sが固定されており、このシャフト芯51sの外周面には円筒状の円筒体91が固定されている。
シャフト芯51sと円筒体91とは一体化されているので、この円筒体91を含めてシャフト51と見なすことができる。
【0049】
ロータRは、貫通孔72bを有する略環状のハブ72と、その周壁72dの内面72d1に固定されたリング状のヨーク56Yとその内周面に固定されたリング状のマグネット56Mとを含んで構成される。
ハブの外周面72aにはハードディスク(図示せず)が装着される。
このハブ72の貫通孔72bの内面72b1には、スリーブ59が固着されている。
【0050】
スリーブ59にはその貫通孔59aに円筒体91が挿入されており、この円筒体91は、スリーブ59によりラジアル及びスラスト方向に流体軸受装置Bを介して軸支される。
以上の構成において、ロータRはステータSに対して回転自由に支持されている。
【0051】
流体軸受装置Bは、スリーブ59の貫通孔59aの内周面59a1と、円筒体91の外周面91aと、これらの間隙に充填された潤滑流体20とを含んで構成される。
この流体軸受Bのテーパシール部TSは、スリーブ59の両端部側に一対設けられている。
【0052】
具体的には、このテーパシール部TSは、スリーブ59の内周面59a1と、円筒体91の外周面91aの両端部91t側に設けられ各端部91tに向かうに従って小径となるように傾斜する第1テーパ面91bと、スリーブ59の両端面59tに接着により固定された一対のテーパリング54の内周面であって、スリーブ59から離れるに従って小径となるように傾斜して形成された第2テーパ面54aと、により構成される。
【0053】
テーパリング54は、その外周面もスリーブ59から軸方向に延出した環状壁59kの内周面に接着により固定されている。これにより、テーパリング54の中心位置合わせを高精度に行うことができる。
図4において、スリーブ59における環状壁59kの内周面及び内側隅に設けられた断面三角形状の周溝59m1,59m2は、テーパリング54を接着する接着剤を良好に保持するための接着剤溜まりである。
【0054】
第1テーパ面91bと第2テーパ面54aとは間隙を有して互いに対向し、スリーブ59から離れるに従ってその径方向の間隙が拡大するように各傾斜が設定されている。
潤滑流体20は、その液面20aがテーパシール部TSの途中に位置するような量で充填されている。
【0055】
このような構成において、円筒体91はシャフト芯51と同じ材質であり、他の各部材を第1実施例と同様の材料として、テーパリング54を円筒体91及びスリーブ59よりも熱膨張係数の大きな材料で形成してある。
【0056】
これにより、昇温に伴い、テーパリング54の第2テーパ面54aが大径方向に大きく拡張しテーパシール部TSの容量が潤滑流体20の体積膨張に合わせるように増加するので、ロータRの回転に伴う昇温による潤滑流体20の液面20aの液面上昇は僅かなものとなる。
従って、この第2実施例においても、第1実施例と同様に、テーパシール部TSの軸方向の長さを短くすることができ、この流体軸受装置Bを搭載したモータ50の厚さをその分薄くすることができる。
【0057】
すなわち、この流体軸受装置Bは、テーパシール部TS以外における潤滑流体20の充填隙間を過剰に広げることなく、テーパシール部TSにおける潤滑流体20の保持容量を大きく増加させるものであるので、昇温時の潤滑流体20の液面上昇を抑制して流体軸受装置Bの軸方向長さを短くすることができる。
【0058】
また、軸受スパンを短くする必要がないのでこれに伴う軸受剛性の低下を招くものではなく、ロータRの回転振れが大きくなることがない。
また、シャフト51とスリーブ59の間隙も大幅に拡張することがないので、軸受剛性の低下が抑制され、ロータRの回転振れが大きくなることがない。
また、一対のテーパリング54の両方ではなく、一方のみを他の部材よりも熱膨張係数が大きい材料にしたものであってもよいことは言うまでもない。
【0059】
以上、詳述した各実施例は、低温下においても格別の効果を発揮する。
低温環境下での動作について説明すると、その環境下では潤滑流体20は熱収縮して体積が減少する。
一方、各テーパリング4,54は、上述したように他の部材(シャフト1,51やスリーブ9,59)よりも熱膨張係数が大きいので、他の部材よりも著しく縮小してテーパシール部TSの容量の減少度合いが大きくなる。
従って、潤滑流体20の体積収縮に伴う液面降下が抑制され、テーパシール部TSまで液面が到達せず(テーパシール部TSに液面が位置せず)に動圧発生部等においていわゆる潤滑油切れが発生するのを防止することができる。
このように、この流体軸受装置Bは、温度変化の影響を極めて受けにくく、長期間にわたり初期性能が維持でき、極めて高い信頼性を有する。
【0060】
以上詳述した各実施例の説明からわかるように、各部材の熱膨張係数や寸法の設定により、温度変化に伴うテーパシール部TSにおける潤滑流体の液面位置の変化を任意に設定することができる。
各実施例においては、昇温により液面上昇を抑制する例を示したが、昇温により液面がほとんど変化しないように設定することもでき、また、液面が降下するように設定することもできる。
【0061】
いずれにおいても、温度が変化しても液面をテーパシール部TS内に留め、その変位を最小限のものとすることができるので、流体軸受装置の軸方向長さを短縮し、その結果として、この流体軸受装置を搭載したモータの軸方向長さ(厚さ)を短く(薄く)することができる。
【0062】
本発明の各実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよいのは言うまでもない。
【0063】
各実施例は、流体軸受装置をハードディスクドライブのディスク駆動用モータに搭載した例を説明したが、この用途に限るものではなく、流体軸受を使用するあらゆるモータへ搭載が可能である。
【0064】
潤滑流体としてオイルの例を説明したが、もちろんこれに限るものではない。
潤滑流体の流動性についても特に限定するものではなく、半流体のものであってもよい。その場合、実施例における液面とは界面を含むものと解釈してよい。
【0065】
第1実施例においては、テーパシール部TSのテーパ面をテーパリング4側にのみ設けた例を説明したが、これに限るものではなく、テーパ面を、テーパリング4と対向するシャフト1側にも設けてよい。また、テーパ面をシャフト1側のみに設けてもよい。
いずれの場合も、テーパリング4の内周面4aとシャフト1の外周面1aとの径方向の間隙が、ハブ2側に向かうに従って広がるように形成されていればよい。
【符号の説明】
【0066】
1 シャフト、 1a 外周面、 2 ハブ、 2a 外周面、 2b 中心孔、 2d 周壁、 2d1 内面、 4 テーパリング、 4a 第2テーパ面(内周面)、 6 マグネット、 9 スリーブ、 9a 内周面、 9b 段部、 9c 第1テーパ面、 9k 突出壁、 9t 端面、 13 モータベース、 13a 立ち上げ部、 13a1 内周面、 13a2 外周面、 14 ステータコア、 20 潤滑流体、 20a 液面(界面)、 30 コイル、 31 スラストリング、 32 スラストプレート、 50,50A モータ、 51 シャフト、 54 テーパリング、 54a 第2テーパ面(内周面)、 56 マグネット、 59 スリーブ、 59a 貫通孔、 59a1 内周面、 59m1,59m2 周溝(接着剤溜まり)、 63 モータベース、 63a 立ち上げ部、 63a1 外周面、 63b 中心孔、 64 ステータコア、 72 ハブ、 72a 外周面、 72b 貫通孔、 72b1 内面、 72d 周壁、 72d1 内面、 80 コイル、 91 円筒体、 91a 外周面、 91b 第1テーパ面、 91t 端部、 adh 接着剤、 B 流体軸受(装置)、 S ステータ、 TS テーパシール部、 R ロータ、 RB (ラジアル方向の)軸受、 SB (スラスト方向の)軸受、 ds,d1,d2 径。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、 前記シャフトが挿入されたスリーブと、 前記シャフトと前記スリーブとの間隙に介在させた潤滑流体と、を備え、 前記シャフトを前記スリーブに対して相対的に回転自在に支持する流体軸受装置において、 前記スリーブの端部に環状のテーパリングを備え、 前記テーパリングは、リング内周面と、リング外周面と、前記スリーブと軸方向に対向するリング下面と、を有し、 前記テーパリングの前記リング内周面とこれに対向する前記シャフトの外周面との少なくとも一方を前記リング内周面と前記シャフトの外周面とで形成する間隙が前記スリーブから離れるに従って広がる傾斜面として、前記リング内周面と前記シャフトの外周面との間隙に前記潤滑流体の液面が位置してテーパシール部を形成すると共に、 前記スリーブは、端部から軸方向に突出する環状の突出壁を有し、 前記テーパリングは、第1の接着剤により前記スリーブの端面に接着されると共に前記第1の接着剤とは異なる種類の第2の接着剤により前記突出壁の内周面に接着され、前記リング外周面が前記突出壁の内周面に当接するように固定されることを特徴とする流体軸受装置。
【請求項2】
前記テーパリングは前記リング下面の反対側のリング上面に軸方向の厚さを小さくする凹部を有し、前記凹部と前記突出壁の内周面とに亘って前記第2の接着剤が塗布されることを特徴とする請求項1に記載の流体軸受装置。
【請求項3】
前記スリーブの内周面の端面側には、軸方向で当該端面に向かうに従って大径となる傾斜面であって前記リング内周面と連続して前記テーパシール部を構成するテーパ面が形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の流体軸受装置。
【請求項4】
前記スリーブは、前記スリーブの内周面の端面における直径が前記リング内周面の直径より小さく形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項5】
前記リング下面のうち少なくとも前記リング内周面に連続する領域が前記スリーブの端面に接する形状に形成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項6】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の流体軸受装置を有することを特徴とするディスク駆動用モータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−37056(P2012−37056A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245156(P2011−245156)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【分割の表示】特願2006−195321(P2006−195321)の分割
【原出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(508100033)アルファナテクノロジー株式会社 (100)
【Fターム(参考)】