説明

流路構成部材および流路構成部材を備える画像形成装置

【課題】管同士の接続境界近傍において沈降物が滞留しにくい流路を提供する。
【解決手段】液滴吐出型の画像形成装置に備えられた吐出液の流路を構成する流路構成部材であって、第一の管と、前記第一の管の上流側において前記第一の管と水平方向に接続している第二の管と、を備え、前記吐出液に面する内周面における前記第一の管と前記第二の管との接続境界から上流側に所定距離の範囲内において、前記第二の管の鉛直方向における上側の内周面に前記流路の断面積を局所的に狭める突起物が設けられており、前記接続境界において前記流路を切断した場合の断面を前記鉛直方向における最上部から最下部までの長さが二等分となる位置で二分した場合の下半分の面積は上半分の面積よりも広い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出型の画像形成装置に備えられた吐出液の流路を構成する流路構成部材およびその流路構成部材を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク液中に含まれる粒子がインクの流路内で沈降することを防ぐために様々な工夫がなされている。特許文献1には、インク循環型の画像形成装置に用いられる流路において、流路内のインクの流量や流速を所定の期間において増加させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−155757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、印刷ヘッドに続く流路は単一の管のみでは構成されず、複数の管同士を接続して構成される。その場合に、管同士の接続境界に生じる段差部分で沈降物が滞留しやすくなる。
本発明は管同士の接続境界において沈降物が滞留しにくい流路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明の液滴吐出型の画像形成装置に備えられた吐出液の流路構成部材は、第一の管と、第一の管の上流側において第一の管と水平方向に接続している第二の管と、を備える。そして、吐出液に面する内周面における第一の管と第二の管との接続境界から上流側に所定距離の範囲内において、第二の管の鉛直方向における上側の内周面に流路の断面積を局所的に狭める突起物が設けられている。また、接続境界において流路を切断した場合の断面を鉛直方向における最上部から最下部までの長さが二等分となる位置で二分した場合の下半分の面積は上半分の面積よりも広い。
【0006】
管同士の接続境界に段差が生じ、管の接続境界の近傍を流れる吐出液が段差から摩擦抵抗を受けるため、管同士の接続境界における鉛直方向下側に沈降物が滞留しやすい。本発明のように、管同士の流路に面する接続境界において流路を切断した場合の断面の形状が、下半分の面積が上半分の面積より広い形状であると、接続境界から受ける抵抗の影響は上半分より下半分の方が少なくなる。したがって管の下部においては上部よりも流速が低下しにくくなるため、接続境界付近の流路底部に沈降物を滞留しにくくすることができる。
【0007】
また、本発明のように、接続境界から上流側に所定距離の範囲内において第二の管の鉛直方向上側の内周面に流路の断面積を局所的に狭める突起物が設けられていることによって、断面積が狭くなった箇所において吐出液の流速を速めることができる。その結果、接続境界において沈降物を滞留させにくくすることができる。なお、接続境界から上流側に所定距離の範囲内に設けられる突起物に関しては、接続境界のうち鉛直方向に最も下の部分(流路の最も底の部分)から上流側に所定距離の範囲内に突起物の最上流部分から最下流部分までのいずれかの部分が設けられていればよい。所定距離や突起物が設けられた範囲における流路の断面積は、接続境界近傍における流速が沈降物を滞留させにくくするような流速となるように、例えばインクの種類や流量などに基づいて設計される。
【0008】
また本発明において、第一の管および第二の管のいずれか一方の管の内周面に他方の管の外周面が接するように嵌め込まれ、他方の管の端部は、当該他方の管の外周面が当該他方の管の内周面に向かって接近していることによって先細った形状をしていてもよい。
この構成によると、二つの管の接続境界において生じる内周面の段差を小さくすることができる。
【0009】
また本発明において、第二の管は、第二の管よりさらに上流側に設けられた第三の管と水平方向に接続する継手であってもよい。
前述の突起部が設けられ前述のように先細った形状をしている継手を用いると、継手より柔らかい部材からなる一般的に用いられるような管同士を、接続境界付近に沈降物が滞留しにくい状態で容易に連結することができる。
【0010】
さらに本発明において、第二の管は、吐出液を吐出する印刷ヘッドの上流側の流路のうち、吐出液の主流路から分岐し印刷ヘッドに接続するまでの分岐流路の一部を構成する管であってもよい。
印刷ヘッドに対して流入する側の流路に対して上述したような構成を採用することによって、印刷ヘッド内で詰まりが生じることを防止することができる。主流路より吐出液の移送方向において印刷ヘッドに近い分岐流路に上述した構成を採用することによって、印刷ヘッド内での詰まりを防止するためにさらに効果的である。その結果、印刷ヘッド内の詰まりによって印刷品質が低下することを防止することができる。
【0011】
また本発明は、上述したような流路構成部材を備えた、液滴吐出型の画像形成装置の発明としても成立する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第一実施形態にかかる模式図。
【図2】(2A)〜(2E)は第一実施形態にかかる流路の断面図。
【図3】(3A)〜(3C)は他の実施形態にかかる流路の断面図、(3D)は他の実施形態にかかる切り口の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。尚、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
【0014】
1.第一実施形態
図1は液滴吐出型の画像形成装置としてのインクジェットプリンター1のうち発明に関連している部分を示す、鉛直方向の上方から見た模式図である。インクジェットプリンター1は、印刷ヘッド10、インクタンク11、ポンプP、管120,130,140,150を備えている。管120,130,140,150はそれぞれ上流側主流路12,上流側分岐流路13,下流側分岐流路14,下流側主流路15を構成している。上流側主流路12から分岐している上流側分岐流路13は印刷ヘッド10内のインク室と連通し、インク室はインクタンク11から供給されたインク(吐出液)で満たされる。インク室にはノズルごとに図示しないピエゾ素子が備えられている。ピエゾ素子に駆動電圧パルスが印加されるとピエゾ素子が機械的に変形し、インク室に満たされたインクが加減圧されノズルからインク滴が吐出される。印刷ヘッド10がインク滴を吐出することによりインクタンク11からインクが吸引されるとともに、ポンプPによってもインクタンク11からインクが吸引され、上流側主流路12にインクが移送される。
【0015】
インク室は下流側分岐流路14にも連通しており、下流側分岐流路14は下流側主流路15に合流する。インク室内の吐出されなかったインクは下流側分岐流路14・下流側主流路15を経て再びインクタンク11に回収される。すなわち本実施形態においては、流路内においてインクに含まれる成分が沈降することを防止するために、インクが循環するように流路が構成されている。
【0016】
上流側分岐流路13は、印刷ヘッド10において水平方向に複数配置された各インク室と接続するために細分化され(不図示)、細分化された各流路を接続する流路を構成する管は水平方向にインクを移送するように設置される。細分化された流路内で沈降物が滞留すると流路が詰まりやすい。上流側分岐流路13が詰まってしまうとノズルからインクを吐出できなくなるため、上流側分岐流路13において流路が詰まらないようにすることは重要である(下流側の流路が仮に詰まってしまったとしてもインクを吐出することはできる)。本実施形態においては、上流側分岐流路13の水平方向にインクを移送する部分において、継手を用いて管同士が接続されている。
【0017】
図2Aは、上流側分岐流路13のうち水平方向にインクを移送する継手を用いて管が接続されている部分の断面図であって、インクの移送方向と平行な断面図である。当該部分において流路構成部材としての管130は、第一の管130aと第三の管130cが管状の継手130b(第二の管)によって連結されて構成されている。継手130bは継手130bより上流側の第三の管130cの内側に嵌り込んでいる。また、継手130bは継手130bより下流側の第一の管130aの内側に嵌り込んでいる。なお、第一の管130aおよび第三の管130cについては少なくとも継手130bとの接続境界近傍において水平方向にインクを移送する姿勢で設置されていればよい。
【0018】
図2Bは継手130bを示す断面図(インクの移送方向と平行な断面)である。図2Aおよび図2Bに示すように継手130bの両端部は、外周面が内周面に接近していることによって先細りしている。そのため、インクに面する内周面における第三の管130cと継手130bとの接続境界に生じる段差を小さくすることができる。同様に、インクに面する内周面における第一の管130aと継手130bとの接続境界に生じる段差を小さくすることができる。そのため、接続境界近傍にインクの沈降物が滞留しにくくなる。
【0019】
図2Cは図2Aの2C−2C線における断面図である。同図に示すように継手130bの断面は、インクの移送方向と直交する断面を鉛直方向における高さが二等分となるように二分した場合の下半分(下部)の面積の方が上半分(上部)の面積よりも広い形状をしている。第一の管130aおよび第三の管130cは、継手130bより柔らかい部材からなり、継手130bとの接続境界の近傍においては継手130bの外周形状に合わせて変形する。
【0020】
図2Eは図2Aの2E−2E線における断面図であって、インクに面する内周面における第一の管130aと継手130bとの接続境界において流路13を切断した場合の断面図である。接続境界132で切断した流路の断面(図2Eの太線に囲まれた領域)は、鉛直方向における最上部から最下部までの長さが二等分となる位置で二分した場合の下半分の面積が上半分の面積よりも広い形状である。第三の管130cと継手130bとの接続境界において流路13を切断した断面の形状についても同様である。接続境界には段差が生じ、接続境界の近傍を流れるインクがその段差によって摩擦抵抗を受けるため、接続境界における鉛直方向下側に沈降物が滞留しやすい。しかし本実施形態のように接続境界において流路を切断した断面の形状が下半分の面積が上半分の面積よりも広い形状であると、接続境界から受ける抵抗の影響は上半分より下半分の方が少なくなる。したがって流路の下部においては上部よりも流速が低下しにくくなるため、接続境界付近の流路の底部に沈降物を滞留しにくくすることができる。また、接続境界以外の管の内周面からもインクは摩擦抵抗を受けるため、管の内周面近傍の流速は中央部の流速と比較すると低下しやすい。本実施形態では継手130b全体の断面形状が、上述したように下部が上部よりも広い形状であるので、内周面から受ける摩擦抵抗の影響は上部より下部の方を少なくすることができる。したがって下部においては上部と比較して流速が低下しにくくなるため、継手130b全体において底部に沈降物を滞留しにくくすることができる。
【0021】
図2Dは図2Aの2D−2D線における断面図である。第一の管130aの底部130a3と継手130bの底部130b3との接続部分131から上流側に所定距離dの範囲内に、突起部130b1が形成されている。突起部130b1は、継手130bの内周面の天井部130b2(鉛直方向の上側の内周面)から鉛直方向下向きに突起している。突起部130b1が形成されていることにより、継手130bの断面積が局所的に狭くなる。そのため、突起部130b1が設けられている箇所において流速が増し、接続境界132のうちの鉛直方向における最も下部(底部)である接続部分131に沈降物が滞留しにくくすることができる。
【0022】
印刷ヘッド10の上流側分岐流路13の一部を構成する管同士を、以上説明したような継手130bによって連結することにより、印刷ヘッド内でインクが詰まることを防止するのに効果的である。突起部が設けられ先細った形状に加工された継手130bを用いると、継手130bより柔らかい部材からなる一般的に用いられるような管同士を、接続境界付近に沈降物が滞留しにくい状態で容易に連結することができる。
【0023】
2.他の実施形態
尚、本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、突起物は管と一体に形成されたものに限らず、管を形成した後に後から突起物を内壁に接合することにより形成されていてもよい。図3Aに示すように、第三の管130cと第一の管130aとが継手130bによって連結されている構成において、第三の管130cと継手130bとの接続部分131より上流側の所定距離dの範囲内に第三の管130cの天井部に突起物130c1が設けられていてもよい。なおこの場合、第三の管130cが「第二の管」に相当し、継手130bが「第一の管」に相当すると言うこともできる。
また上記実施形態では、継手を用いて二つの管を連結する構成を例にして説明したが、継手を用いず二つの管が直接接続される場合にも、本発明の構成を適用することができる。
【0024】
なお、二つの管が接続する構成において、当該二つの管のインクの移送方向に直交する断面は真円であってもよい。その場合、二つの管のうち内側に嵌まり込む方の管の端部は図3Bまたは図3Cに示すような切り口に加工されていてもよい。図3Bおよび図3Cは第一の管130aと第一の管130aの内側に嵌まり込んで接続している第二の管130dとを示す断面図である。図3Bまたは図3Cに示すように、水平方向であってインクの移送方向と直交する方向から見た切り口130d4(図中の太線)のインクの移送方向に対する角度が、鉛直方向における上部より下部の方が大きくなるように第二の管130dの端部が加工されていてもよい。図3Bの場合は鉛直方向において二分した場合の上部と下部とで移送方向に対する角度が異なる。図3Cの場合は鉛直方向の最上部から最下部にかけて緩やかに移送方向に対する角度が変化する。なおこの場合、第一の管130aは第二の管130dよりも柔らかい部材からなるものとする。切り口がこのような形状であると、インクの移送方向と直交する流路の断面形状は真円であるが、二つの管のインクに面する接続境界の断面の形状は、図2Eに示すように鉛直方向における最上部から最下部までの長さが二等分となる位置で当該断面を二分した場合の下半分の面積が上半分の面積よりも広い形状となる。
【0025】
図3Dは図3Bの例における切り口130d4に生じうるインクに面する内周面の段差を側方から見た模式図である。切り口130d4においては微小な幅d1の段差が生じうる。切り口のうち鉛直方向における上部の段差のインクの移送方向における幅d2は、下部の段差のインクの移送方向における幅d1より長い。したがって段差により生じる抵抗は下部の方が上部よりも小さい。そのため、下部の流速は上部の流速と比較して低下しにくくなる。その結果、接続境界近傍において底部に沈降物を滞留させにくくすることができる。
【0026】
なお、第一実施形態においては継手130b全体が図2Cに示すような断面形状であるとして説明したが、少なくとも第一の管130aや第三の管130cとの接続境界近傍におけるインクの移送方向と直交する断面が図2Cのように成型されている構成であってもよい。
【符号の説明】
【0027】
1…インクジェットプリンター(画像形成装置)、10…印刷ヘッド、11…インクタンク、12…上流側主流路、13…上流側分岐流路、14…下流側分岐流路、15…下流側主流路、120・130・140・150…管、130a…第一の管、130a3…底部、130b…継手(第二の管)、130b1…突起部、130b2…天井部、130b3…底部、130c…第三の管、130c1…突起物、130d…第二の管、130d4…切り口、131…接続部分、132…接続境界、P…ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出型の画像形成装置に備えられた吐出液の流路を構成する流路構成部材であって、
第一の管と、
前記第一の管の上流側において前記第一の管と水平方向に接続している第二の管と、を備え、
前記吐出液に面する内周面における前記第一の管と前記第二の管との接続境界から上流側に所定距離の範囲内において、前記第二の管の鉛直方向における上側の内周面に前記流路の断面積を局所的に狭める突起物が設けられており、
前記接続境界において前記流路を切断した場合の断面を前記鉛直方向における最上部から最下部までの長さが二等分となる位置で二分した場合の下半分の面積は上半分の面積よりも広い、
流路構成部材。
【請求項2】
前記第一の管および前記第二の管のいずれか一方の管の内周面に他方の管の外周面が接するように嵌め込まれ、
前記他方の管の端部は、当該他方の管の外周面が当該他方の管の内周面に向かって接近していることによって先細った形状をしている、
請求項1に記載の流路構成部材。
【請求項3】
前記第二の管は、前記第二の管よりさらに上流側に設けられた第三の管と前記水平方向に接続する継手である、
請求項1または請求項2に記載の流路構成部材。
【請求項4】
前記第二の管は、前記吐出液を吐出する印刷ヘッドの上流側の流路のうち、前記吐出液の主流路から分岐し前記印刷ヘッドに接続するまでの分岐流路の一部を構成する管である、
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の流路構成部材。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の流路構成部材を備える画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−148469(P2012−148469A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8618(P2011−8618)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】