説明

海底熱水鉱床探測装置

【課題】海底におけるブラックスモーカーあるいはホワイトスモーカーの位置を測定する海底熱水鉱床探測装置を提供すること。
【解決手段】
送信部13より送信信号を送受波器11へ供給するとともに、送受波器11で受信した信号を受信部14へ供給する。送受波器11は、空孔率10%の多孔質PZT圧電体振動子で構成した。受信部14は、送信用信号と受信信号との差の周波数をとるヘテロダイン検波部を備えている。符号15は帯域通過フィルタである。符号17は、デジタルシグナルプロセッサであり、相関処理、FFTの演算処理を実行する。符号18は表示制御部であり、DSP17で求められたスモーカーのデータをモニタ19に適したビデオ信号に変換する。符号21はGPS電波受信用のアンテナであり、符号20はGPS信号から調査船1の位置を特定するための信号処理回路である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響探測技術を用いた海底熱水鉱床探測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
深海には海底2から数百℃という高温の熱水が噴き出しているところがある(水圧が高いので、100℃以上でも沸騰しない)。その様子から、黒いものはブラックスモーカー、白いものはホワイトスモーカー(以下、両者を「スモーカー4」という)といわれる。とくに海底の大山脈(海嶺、海膨という)や海溝近くに多い。高温の熱水に溶けていた金属(銅、鉛、亜鉛、金、銀など)が、0℃近い深海の海水によって急激に冷やされ、析出している様子が煙みたいに見えるのである。その析出した金属がまわりに堆積している。まさに、「熱水鉱床」ができつつある現場である。
【0003】
高温の熱水はマグマ5や海底の岩盤に含まれる金属(銅、鉛、亜鉛、金、銀など)を溶かしだし、この熱水が海底2のチムニ3からスモーカー4として噴出して冷却され鉱床(以下、「熱水鉱床」)ができる。熱水鉱床は陸上の鉱脈に比べ鉱物の含有量が高く、金は岩石1トンあたり2倍、銀は10倍、希少金属は2〜10倍多く含まれる。海底熱水鉱床は海底火山活動の盛んな海域に多く存在する。日本では伊豆・小笠原や沖縄の近海で深さ700メートルから1600メートルの海底で15箇所が確認されている。
【0004】
特許文献1には、海底より噴出する熱水その他の鉱物を海水と共に強制的に流動させて海面まで持ち上げ、固液分離することにより海底鉱物等の採取を行う技術が開示されている。
現在、海底熱水鉱床の探査は、学術調査などの既存のデータをもとに有望海域を抽出し、地形や磁気調査を実施し、探査の対象を絞っている。次に1次調査として、海底観察とサンプリングで、熱水活動域を確認し、2次調査でボーリングを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−256082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら国土面積38万平方キロメートルの12倍も及ぶ日本の排他的経済水域をボーリング調査によって網羅的に探査するのは困難である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、魚群探知や軍事目的で使用されている音響探測装置の技術を用い、海底におけるブラックスモーカーあるいはホワイトスモーカーの位置を測定する海底熱水鉱床探測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の請求項1に係る発明は、GPS衛星からの電波を受信し現在の船舶の位置を特定する手段と、船舶から海底に向かって超音波を送信し反射エコーを受信する多孔質PZT圧電体振動子を用いた送受信手段と、海底面において流速が周囲と異なる領域を抽出する手段と、該抽出した領域が時間的に海底面において位置が変化しないか判断する手段と、該抽出した領域が時間的に海底面において位置が変化しないと判断された場合には、該領域をスモーカー発生地点として前記船舶の位置と対応させて記憶する手段と、を備えたスモーカー検出による海底熱水鉱床探測装置である。
請求項2に係る発明は、スモーカーの噴出速度を測定する手段を備えたことを特徴とするスモーカー検出による海底熱水鉱床探測装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、魚群探知や軍事目的で使用されている音響探測装置の技術を用い、海底におけるブラックスモーカーあるいはホワイトスモーカーの位置を特定し熱水鉱床の海底での位置を特定する海底熱水鉱床探測装置を提供できる。また、本発明により、ブラックスモーカーやホワイトスモーカーの噴出速度を測定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】スモーカー探測を説明する図である。
【図2】本発明に係る海底熱水鉱床探測装置を説明する図である。
【図3】本発明におけるスモーカーを特定する処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図4】送受波器の姿勢を制御する装置を備えた本発明の実施形態を説明する図である。
【図5】送受波器の姿勢を制御する制御装置を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
調査船1には海底熱水鉱床探測装置が搭載されている。海底熱水鉱床探測装置は、調査船1から音響(超音波)のバースト信号ν0を海底2に向かって送信し、海底2などの対象地形から反射して戻ってくる超音波信号との間の時間差から、対象地形などの対象物までの距離を測定する装置である。
【0012】
図1に示されるように、調査船1の船底に取付けられたトランスデューサから斜め下方向(角度θ)に周波数ν0の超音波を発射し、海底2から受信したエコーの周波数がν1のとき、ν1−ν0=νdが船速度Vsに伴うドップラシフト周波数であり、νd=2V・ν0・cosθ/cで与えられる。ここで、cは海水中での音速である。したがって、受信したエコー信号に含まれるドップラシフト周波数νdを検出すれば、調査船1の船速Vsを求めることができる。反射して戻ってきたエコー信号の分析は、FFT(離散フーリエ変換DFTを高速に行う演算アルゴリズム)により行うことができる。
【0013】
一方、海底2には前述したようにチムニ3が存在し、チムニ3からスモーカー4が吐出速度Vで吐き出されている。スモーカー4は、金属などが溶け出しており、調査船1から送信された超音波はスモーカー4によって反射される。スモーカー4は、金属などが溶け出しており、調査船1から送り出された超音波を反射する性質を有する。
【0014】
スモーカー4の吐出速度Vを測定する際に船速Vsを無視するためには海底に対して垂直に超音波を送出すればよい。スモーカーが存在する場合、スモーカーの流速Vの周囲の海水の速度は一様ないし静止状態であり、スモーカーの発生は海底の同一箇所からであるので、発生位置が時間によって変化しない。したがって、海水中での所在位置が時々刻々変化する魚群、潜水艦によるドップラ周波数の変化と区別することが可能である。
図2は、本発明に係る海底熱水鉱床探測装置の一実施形態を説明する図である。なお、図2では調査船1の船速Vを無視するため、調査船1から海底2に対して垂直方向に超音波を送信した場合を例として説明する。
符号11は超音波の送受を行う送受波器であり、調査船1の船底などに装備される。符号12はトラップ回路であり、送信部13より送信信号を送受波器11へ供給するとともに、送受波器11で受信した超音波エコー信号を受信部14へ供給する。送受波器11は、例えば、空孔率10%の多孔質PZT圧電体振動子で構成されたトランスデューサである。多孔質PZT圧電体振動子は、稠密に焼成したPZTに比べて受信感度が高くなり、更にQ値が低くなる。Q値が低くなることによってより広い帯域の反射波を受信することができる。受信部14は、送信波の送信用信号と受信波の受信信号との差の周波数をとるヘテロダイン検波部(ミキサー)を備えている。
符号15は、受信部14から得られた超音波エコー信号から所定の帯域成分を通過させる帯域通過フィルタである。符号16は、帯域通過フィルタ15を通過した超音波エコー信号をアナログ信号からデジタル信号に変換するA/D変換器である。
符号17は、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)であり、相関処理、FFTの演算処理を実行する。符号18は表示制御部であり、DSP17で求められたスモーカーのデータをモニタ19に適したビデオ信号に変換する。符号21はGPS電波受信用のアンテナであり、符号20はGPS信号から調査船1の位置と特定するための信号処理回路である。
符号10は、制御部であり、受信部14に対しては、深度の設定や感度の設定を行い、送信部13に対しては、設定した感度設定に対応する所定の周期で送信パルスを供給し、そしてDSP7に対しては、相関処理の処理係数や、サンプリング期間を設定する。また、制御部10は、DSPで求められた流速がスモーカーであるかを特定するための処理(図3参照)を実行し、その結果をモニタ19に表示する。
【0015】
図3は、本発明におけるスモーカーを特定する処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA1]GPS衛星からの電波を受信し、調査船の位置を特定する。
●[ステップSA2]調査船から海底に向かって超音波を送信する。
●[ステップSA3]超音波エコーを受信する。
●[ステップSA4]海底の流速を解析する。
●[ステップSA5]周囲と異なる流速域があるか否か判断し、無い場合にはステップSA1に戻り処理を継続し、有る場合にはステップSA6へ移行する。
●[ステップSA6]周囲と異なる流速域を流速域Aとして記憶する。
●[ステップSA7]超音波を送信する。
●[ステップSA8]超音波エコーを受信する。
●[ステップSA9]海底の流速を解析する。
●[ステップSA10]周囲と異なる流速域があるか否か判断し、無い場合にはステップSA1へ戻り処理を継続し、有る場合にはステップSA11へ移行する。
●[ステップSA11]周囲と異なる流速域を流速域Bとして記憶する。
●[ステップSA12]流速域Aと流速域Bの海底面での位置は同一か否か判断し、同一でない場合にはステップSA1へ戻り処理を継続し、同一である場合にはステップSA13へ移行する。
●[ステップSA13]スモーカー発生地点として流速域A(流速域B)の位置を記憶する。
●[ステップSA14]スモーカー発生地点を表示装置に表示し、ステップSA1に戻り処理を継続する。
【0016】
上述したように、流速域Aと流速域Bとの位置が変化しないことに基づいてスモーカーであるか否かを判断していることから、水深の浅い海域やプランクトン層が浅海に存在する場合には、海底反射や海面反射、プランクトンによる反射エコー、魚群による反射エコーの影響を除外することができる。
【0017】
ところで、船体は波の影響を受けて前後左右に揺動する。このような状態では、送受波器11によって望ましい方向への送波および望ましい方向からの受波ができない。そこで、送受波器11の姿勢を制御する装置を用いることによって、波によって船体が揺動しても問題なく海底資源の探査が行えるようにする。
図4は、送受波器の姿勢を制御する装置を備えた本発明の実施形態を説明する図である。調査船1の船底には収納隔壁30が固定されている。収納隔壁30は、船体内に収納可能な構造としてもよい。収納隔壁30には、半球状の形状をなした送受波器11の固定手段である送受波器固定手段31が収納されている。送受波器11が固定された側と対向する送受波器固定手段31の中心部は、ユニバーサルジョイント36によって収納隔壁30の図示されない箇所に支持されている。
また、送受波器固定手段31には、ユニバーサルジョイント36を中心としてピストンロッド32,33,34,35が図示されないユニバーサルジョイントを介して軸支されている。ピストンロッド32,33,34,35が、図示されない駆動手段により伸縮され、送受波器固定手段31に固定された送受波器11は揺動する。これによって、送受波器11は半球内の任意の方向に送波し、任意の方向からの受波することができる。なお、送受波器11を所定の方向に傾ける手段は、図4に限定されるものではない。
【0018】
図5は、送受波器の姿勢を制御する制御装置を説明するブロック図である。ジャイロセンサ41によって、調査船1の方位角と傾斜角を検出することができる。デジタルシグナルプロセッサ17は、検出された調査船1の方位角と傾斜角に基づいて、ピストンロッド32,33,34,35を伸縮させ、所定の方向に送受波器固定手段31を傾けることができる。
【符号の説明】
【0019】
1 調査船
2 海底
3 チムニ
4 スモーカー
5 マグマ
6 海水
7 海面
10 制御部
11 送受波器
12 トラップ回路
13 送信部
14 受信部
15 帯域フィルタ
16 A/D変換器
17 デジタルシグナルプロセッサ
18 表示制御部
19 モニタ
20 GPS受信器
21 GPSアンテナ
30 収納隔壁
31 送受波器固定手段
32 ロッド
33 ロッド
34 ロッド
35 ロッド
36 ユニバーサルジョイント
41 ジャイロセンサ
43 A/D変換器
44 駆動装置
Vs 調査船の船速
V スモーカーの吐出速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS衛星からの電波を受信し現在の船舶の位置を特定する手段と、
船舶から海底に向かって超音波を送信し反射エコーを受信する多孔質PZT圧電体振動子を用いた送受信手段と、
海底面において流速が周囲と異なる領域を抽出する手段と、
該抽出した領域が時間的に海底面において位置が変化しないか判断する手段と、
該抽出した領域が時間的に海底面において位置が変化しないと判断された場合には該領域をスモーカー発生地点として前記船舶の位置と対応させて記憶する手段と、
を備えたことを特徴とするスモーカー検出による海底熱水鉱床探測装置。
【請求項2】
スモーカーの噴出速度を測定する手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のスモーカー検出による海底熱水鉱床探測装置。
【請求項3】
前記船舶の方向角と傾斜角とを検知する角度検知手段と、
前記角度検知手段により検知された方向角および傾斜角に基づいて、前記送受信手段の姿勢制御を行う姿勢制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2のいずれか一つに記載のスモーカー検出による海底熱水鉱床探測装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−13209(P2011−13209A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96971(P2010−96971)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(595096604)
【Fターム(参考)】