説明

消化管において薬品を放出するための飲み込み可能なマルチノズルの投薬デバイス

哺乳動物の胃腸管内で薬物を施与するためのカプセルおよび方法論が開示される。胃腸管は関心のある組織部位をもつ。カプセルは、薬物貯留部と;複数の圧電液滴ジェット・ノズル・ディスペンサーのような薬物施与手段と;電源と;薬物施与手段による胃腸管内への薬物の施与の量および時間期間を調節するために薬物施与手段と通信できる電子制御回路手段および/または検出手段と;たとえば前記薬物貯留部、薬物施与手段および電子制御回路手段を収容する非消化性の外側保護殻とを含んでいてもよい。薬物施与手段の前記ノズル・ディスペンサーの複数は、薬物の放出の間に前記カプセルが回転および/または並進させられて前記薬物を関心のある組織部位に均一に放出するよう、ハウジングの表面に対して接線方向に位置される。さらに、複数のノズルを使い、高速で薬物を放出することによって、胃腸管における腸による薬物吸収が容易にされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2005年1月18日に出願された「放射を放出するための電子制御されるカプセル」という名称の米国仮特許出願第60/644,540号、2005年1月18日に出願された「電子制御されるカプセル」という名称の米国仮特許出願第60/644,539号、2005年1月18日に出願された「電子制御されるカプセル」という名称の米国仮特許出願第60/644,538号、2005年1月18日に出願された「摂取されたカプセルの通過を制御するシステムおよび方法」という名称の米国仮特許出願第60/644,518号、2004年9月1日に出願された「少なくとも一つの薬物を送達するための電子制御されるピルおよびシステム」という名称の米国仮特許出願第60/606,276号、2004年8月27日に出願された「少なくとも一つの薬物を送達するための電子的にリモートに制御されるピルおよびシステム」という名称の米国仮特許出願第60/605,364号、2005年11月18日に出願された「細胞または組織と相互作用するためのシステムおよび方法」という名称の米国仮特許出願第60/738,238号、2006年6月20日に出願された「胃腸疾患を治療するための電子カプセルおよび方法」という名称の米国仮特許出願第60/805,223号、2006年6月23日に出願された「薬物送達システムおよびプロセス」という名称の米国仮特許出願第60/805,645号、2006年8月7日に出願された「身体内の細胞または組織と相互作用するためのデバイス、システムおよび方法」という名称の米国仮特許出願第60/821,622号および2006年9月25日に出願された「薬物送達装置」という名称の米国仮特許出願第60/826,838号に関係しており、以上の各文献は本開示の被譲渡者に譲渡されており、ここに明示的に参照によって本稿の一部として組み込まれる。
【0002】
本開示は、哺乳類の消化管に薬物を施与するための摂取可能な(ingestible)カプセルに向けられる。消化管は関心のある組織部位を有し、カプセルは薬物貯留部;複数の圧電液滴ジェット・ノズル・ディスペンサーを含む薬物施与手段;電源(たとえば一つまたは複数のバッテリー);前記薬物施与手段による薬物の消化管への施与の量および時間間隔を調節するために薬物施与手段と通信する電子制御回路手段;ならびに前記薬物貯留部、薬物送達手段および電子制御回路手段を収容する非消化性の外側保護シェルを有する。前記薬物施与手段の前記ノズル・ディスペンサーの複数は、薬物の放出の間にカプセルが回転または並進させられて薬物を関心のある組織部位に均一に放出するよう、前記ハウジングの表面に対して接線方向に位置される。さらに、複数ノズルを使い、薬物を高速で放出することにより、これは消化管中の腸による薬物吸収を容易にする。
【背景技術】
【0003】
薬物は一般に、一日あたり少なくとも一回服用されるべきカプセルまたは液体として投与される。人は、毎日、同じまたは異なる時刻にいくつかの薬物を摂取するまたは投与されることが要求されることがありうる。これは、その人または介護者がその日の間の種々の時刻にどの薬物を服用または投与すべきかのログを維持するまたは覚えておくことを要求する。
【0004】
人が服用するアスピリンのような薬物は一般に消化(GI)管(gastrointestinal tract)を通過し、そこで疾病または体調を治療するために吸収される。物体は典型的にはGI管を20〜40時間で通過する。いくつかの薬物が、異なる時刻に身体中に薬物の諸部分を放出するための徐放性カプセルとして利用可能である(制御薬物放出という言い方もされる)。徐放性カプセルは、消化管内の化学物質とカプセルのコーティングとの間の化学反応を利用して、溶解および薬物放出を起こす。食物、特にタンパク質および脂肪ならびにGIの化学は、胃を通じた薬物の旅程の速度に影響する。よって、徐放性カプセルとして利用可能な薬物を含めて薬物は、GI管を通る間に厳密な施与または溶解パターンに従うわけではない。
【0005】
たとえば、ある人は、体調、先に投与された薬物などのため消化管内に「通常」量より多い化学物質を有し、そのために徐放性カプセルのコーティングが通常より速く反応してしまうことがありうる。したがって、薬物は徐放性カプセルによって意図された速度より速い速度で放出される。しかしながら、別の人は消化管内に「通常」量より少ない化学物質を有し、徐放性カプセルのコーティングが通常よりゆっくり反応し、それにより薬物が意図された速度より遅い割合で放出されることがありうる。
【0006】
さらに、非徐放性の形で利用可能な伝統的な薬物については、徐放性カプセルは人または介護者がその日の間の種々の時刻にどの薬物を服用または投与すべきかのログを維持するまたは覚えておくことを要求する。たとえば、リウマチ性関節炎のためのNSAIDSのようないくつかの薬物は、消化不良のような胃腸の合併症を生じるのが少なくなるよう就寝時に服用される必要がある。抗炎症コルチコステロイド薬プレドニゾンのような他の薬物は大量に服用すると不眠症を引き起こすことがあり、典型的には朝に服用される。さらに抗ヒスタミン薬のような他の薬物は典型的には、しばしば朝起こる症状に備えるために晩に服用される。
【0007】
薬を施与し、あるいは消化(GI)管内のデータの読みを取るためのさまざまな摂取可能なカプセルまたはデバイスが開示されている。たとえば2005年7月21日に公開された米国特許出願第2005/0158246号、2005年7月7日に公開された米国特許出願第2005/0147559号、2006年5月4日に公開された米国特許出願第2006/0093663号および1994年7月7日に発行された米国特許第5,318,557号および2005年8月16日に発行された米国特許第6,929,636B1号がある。
【0008】
摂取可能なカプセルを開示する追加的な特許出願は特許文献1であり、その内容はここに参照によってその全体において組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第WO2006/025013A1号、「少なくとも一つの薬物を送達するための電子制御されたピルおよびシステム」、2006年3月9日公開、発明者K・Trovato(2004年9月1日に出願され先に参照によって本稿に組み込まれた米国特許出願第60/606,276号からの優先権を主張)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Cammas-Marions, S., T. Okano, and K. Kataoka、Functional and site specific macromolecular micelles as high potential medicament carriers、Colloids and Surfaces B: Biointerfaces 1999年、16、207-215
【非特許文献2】Lavasanifar, A., J. Sammuel, and G. S. Kwon, Poly(ethylene oxide)-block-poly(Lamino acid) micelles for medicament delivery、Advanced Medicament Delivery、2002年、54、169-190
【非特許文献3】J. F. Dijksman、"Hydroacoustics of piezoelectrically driven printheads", Flow, Turbulence and Combustion、第1巻、No.1、1999年、pp.1-30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これらのシステムおよび方法には、特にクローン病および潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患(IBD: Inflammatory Bowel Disease)のようなGI管疾病を治療するためには、まだ問題がある。本稿で開示される方法論およびシステムはそのような問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、薬物または同様の物質を身体内に、より特定的にはその消化管内に施与するための摂取可能なカプセルに向けられる。消化管は関心のある組織部位を有する。本開示の例示的な側面では、前記カプセルは好ましくは、薬物貯留部、複数の圧電液滴ジェット・ノズル・ディスペンサーを含む薬物施与手段、電源(たとえば一つまたは複数のバッテリー)、前記薬物施与手段による薬物の消化管への施与の量および時間間隔を調節するために薬物施与手段と通信する電子制御回路手段、ならびに前記薬物貯留部、前記電源、前記薬物施与手段および/または前記電子制御回路手段を収容する外側保護シェルを有する。好ましくは、前記薬物施与手段の前記ノズル・ディスペンサーの複数は、薬物の放出の間にカプセルが回転または並進させられて薬物を関心のある組織部位に均一に放出するよう、前記ハウジングの表面に対して接線方向に位置される。さらに、複数ノズルを使い、薬物を高速で放出することは、好ましくは消化管中の腸による薬物吸収を容易にする。
【0013】
具体的には、本開示のある有利な側面は、哺乳動物の消化管内で薬物を施与する摂取可能なカプセルを提供することである。消化管は関心のある組織部位を有する。本開示のある例示的な側面によれば、前記カプセルは好ましくは、薬物を蓄える薬物貯留部と、薬物貯留部から消化管内への薬物の施与を行うまたは止めるための薬物施与手段とを有する。薬物施与手段は今度は、複数の圧電液滴ジェット・ノズル・ディスペンサーを、当該薬物施与手段による薬物の消化管への施与の量および時間間隔を調節するために好ましくは前記ノズル・ディスペンサーと通信する電子制御回路手段とともに有する。前記電子制御回路手段は好ましくは、当該哺乳動物のための所定の薬物放出プロファイルに固有なデータを記憶または更新する手段と、当該カプセルの電子コンポーネントに電力を提供する電源と、前記薬物貯留部、前記電源、前記薬物施与手段および前記電子制御回路手段を収容する外側保護シェルを有する。
【0014】
本開示のもう一つの側面は、カプセル内に、消化管内の一つまたは複数の生物学的条件を感知するセンサー手段を有するカプセルを提供することである。センサー手段は電子制御回路手段と通信する。これは、前記薬物放出プロファイルに従って薬物を施与するよう、あるいは前記薬物放出プロファイルを決定もしくは修正するよう該制御回路手段を作動させるためである。追加的または代替的に、センサー手段は収縮圧力(たとえば腸が収縮して蠕動に力を与える瞬間)を検出して、前記電子制御回路手段と通信するのに好適な圧力センサーを含んでいてもよい。
【0015】
もう一つの側面は、センサー手段によって感知される生物学的条件が、pHレベル、バクテリアもしくは酵素の有無、胃腸管の解剖学的位置および血液の有無からなる群より選択されるカプセルを提供することである。
【0016】
もう一つの側面は、前記哺乳動物の体外に位置する第二の通信手段との間で信号を送信および/または受信するための無線通信手段を有するカプセルを提供することである。前記第二の通信手段から信号を受信すると、前記無線通信手段は前記電子制御回路手段と通信して、前記薬物放出プロファイルを修正または該プロファイルに従って薬物を施与するよう前記制御回路手段を作動させる。
【0017】
もう一つの側面は、哺乳動物の消化管内の疾病の治療のための薬物を投与するためのカプセルであって、前記疾病は炎症性腸疾患、セリアック病および腸癌からなる群より選択されるカプセルを提供することである。
【0018】
もう一つの側面は、哺乳動物の消化管内の疾病の治療のための薬物を投与するためのカプセルであって、前記疾病はクローン病または潰瘍性大腸炎であり、前記薬物は、アミノサリチル酸塩、コルチコステロイド、生物製剤(biologics)、抗凝固薬物、免疫修飾物質、プロバイオティクスおよび抗生物質からなる群より選択されるカプセルを提供することである。
【0019】
もう一つの側面は、ハウジングが、Pellethane〔ペレサン〕(登録商標)ポリエーテルウレタン系列の物質、Elasthane〔エラスタン〕ポリエーテルウレタン、PurSil〔パーシル〕(登録商標)およびCarboSil〔カルボシル〕(登録商標)からなる群より選択される少なくとも一つの物質から製造されるカプセルを提供することである。
【0020】
もう一つの側面は、カプセルがその軸のまわりに一回の完全な回転をなしたときを感知し、前記電子制御回路手段と通信する回転センサー手段を有するカプセルを提供することである。前記制御回路手段は好ましくは薬物の施与を止めるために前記施与手段に信号を送信する。
【0021】
もう一つの側面は、消化管内でのカプセルの経過移動時間の基準を与えるために電子制御回路手段が実時間クロックを有するカプセルを提供することである。
【0022】
もう一つの側面は、前記薬物施与手段の前記ノズル・ディスペンサーの複数が、薬物の放出の間にカプセルが回転および/または並進させられて薬物を関心のある組織部位に均一に放出するよう、前記ハウジングの表面に対して接線方向に位置されるカプセルを提供することである。
【0023】
もう一つの側面は、哺乳動物の消化管内に薬物を施与する方法であって、消化管は関心のある組織部位を有しており、当該方法は、(i)前記哺乳動物に薬物を含む摂取可能なカプセルを経口投与する段階と、(ii)所定の薬物放出プロファイルに従って消化管内において薬物を施与する段階とを有する方法を提供することである。薬物は好ましくは関心のある組織部位において実質的に施与され、カプセルは好ましくは、薬物を蓄える薬物貯留部と、薬物貯留部から消化管内への薬物の施与を行うまたは止めるための薬物施与手段とを有する。薬物施与手段は複数の圧電液滴ジェット・ノズル・ディスペンサーを有する。カプセルはまた、前記薬物施与手段による薬物の消化管への施与の量および時間間隔を調節するために前記薬物施与手段と通信する電子制御回路手段をも有する。前記電子制御回路手段は、当該哺乳動物のための所定の薬物放出プロファイルに固有なデータを記憶または更新する手段を有する。カプセルはさらに、その電子コンポーネントに電力を与える電源と、前記薬物貯留部、前記電源、前記薬物施与手段および前記電子制御回路手段を収容する外側保護シェルとを有する。
【0024】
もう一つの側面は、カプセルが消化管内での一つまたは複数の生物学的条件を感知するカプセル内のセンサー手段を有する方法を提供することである。センサー手段は好ましくは、薬物放出プロファイルに従って薬物を施与するよう、あるいは薬物放出プロファイルを決定もしくは修正するよう制御回路手段を作動させるために、前記電子制御回路手段と通信する。追加的または代替的に、センサー手段は収縮圧力(たとえば腸が収縮して蠕動に力を与える瞬間)を検出して、前記電子制御回路手段と通信するのに好適な圧力センサーを含んでいてもよい。
【0025】
もう一つの側面は、センサー手段によって感知される生物学的条件が、pHレベル、バクテリアもしくは酵素の有無、胃腸管の解剖学的位置および血液の有無からなる群より選択される方法を提供することである。
【0026】
もう一つの側面は、前記哺乳動物の体外に位置する第二の通信手段との間で信号を送信および/または受信するための無線通信手段をもつ方法を提供することである。前記第二の通信手段から信号を受信すると、前記無線通信手段は前記電子制御回路手段と通信して、前記薬物放出プロファイルを修正または該プロファイルに従って薬物を施与するよう前記制御回路手段を作動させる。
【0027】
もう一つの側面は、哺乳動物の消化管内の疾病の治療のための薬物を投与する方法であって、疾病は炎症性腸疾患、セリアック病および腸癌からなる群より選択される方法を提供することである。
【0028】
もう一つの側面は、哺乳動物の消化管内の疾病の治療のための薬物を投与する方法であって、前記疾病はクローン病または潰瘍性大腸炎であり、前記薬物は、アミノサリチル酸塩、コルチコステロイド、生物製剤(biologics)、抗凝固薬物、免疫修飾物質、プロバイオティクスおよび抗生物質からなる群より選択される方法を提供することである。
【0029】
もう一つの側面は、ハウジングが、Pellethane(登録商標)ポリエーテルウレタン系列の物質、Elasthaneポリエーテルウレタン、PurSil(登録商標)およびCarboSil(登録商標)からなる群より選択される少なくとも一つの物質から製造される方法を提供することである。
【0030】
もう一つの側面は、カプセルがその軸のまわりに一回の完全な回転をなしたときを感知し、前記電子制御回路手段と通信する回転センサー手段を利用する方法を提供することである。前記制御回路手段は薬物の施与を止めるために前記施与手段に信号を送信する。
【0031】
もう一つの側面は、消化管内でのカプセルの経過移動時間の基準を与えるために電子制御回路手段が実時間クロックを有する方法を提供することである。
【0032】
もう一つの側面は、前記薬物施与手段の前記ノズル・ディスペンサーの複数が、薬物の放出の間にカプセルが回転および/または並進させられて薬物を関心のある組織部位に均一に放出するよう、前記ハウジングの表面に対して接線方向に位置される方法を提供することである。
【0033】
本開示のこれらおよびその他の側面は、以下の例示的な実施形態を参照し、図面を参照してより詳細に説明される。

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1A】特許文献1からほぼ取られている電子制御されるカプセルの概略図である。
【図1B】本開示のある側面に基づく、薬物を施与するための、摂取可能な電子制御されるカプセルまたはカプセルの、図1Aからの概念表現を示す図である。
【図2】本開示のもう一つの側面に基づく、インクジェット・プリンタ・ポンプの基本設計の概念表現を示す図である。
【図3】本開示のもう一つの側面に基づく、薬物を施与するための摂取可能なカプセルのある側面を概念的に描く図である。
【図4】本開示のある側面に基づく、ジェット・ノズル・ディスペンサーのポンピング・チェンバ内における、時間に対する体積変化の典型的なパターンを示す図である。
【図5】本開示のある側面に基づく、薬物ジェットがカプセル・ハウジング表面の周に対して接線方向に放出されるようにジェット・ノズルが位置されている複数プリント・ヘッドを有する摂取可能なカプセルの概念表現を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
参照によりその全体において本稿に組み込まれている特許文献1によれば、消化管を通過する間にあらかじめ設定された施与タイミング・パターンに従って薬物を送達(delivering)または施与(dispensing)するための電子制御されるカプセルまたは薬物送達システムが開示される。あらかじめ設定された施与タイミング・パターンは固定されており、人の生理的プロセスおよび条件、気分、以前に投与された(administered)薬物などに対する感受性はない。電子制御されるカプセルは、当該カプセルの薬物貯留部内に蓄えられている薬物を施与するためのあらかじめ設定された施与タイミング・パターンに基づいてバルブまたはハッチの開閉を制御する制御およびタイミング回路を含む。電子制御されるカプセルは人がすべてのカプセルを実質的に同時に、たとえば午前7:00に服用することを許容する。よって、その日についてはさらなるカプセルは必要でない。一つの電子制御されるカプセルに収まらない薬は、まる一日のペイロード計画のために他の電子制御されるカプセルと調整されることができる。
【0036】
図1Aに示されるように、電子制御されるカプセル100は、薬物を施与するための施与パターンに従って放出機構を制御するプログラムされた電子回路を含む。カプセル100は、カプセル100が少なくとも消化管を通過するのに要する時間は生体適合であるよう、生体適合物質から作られる。前記生体適合物質は、カプセルの貯蔵寿命が長くなるよう、好ましくは室温で安定である。本稿および請求項での用法では、「薬物(medicament)」とは薬(medicine)、非医薬物質、造影剤、気体、流体、液体、化学物質、放射性エージェント、撮像マーカー、人の生命徴候を監視するセンサーなどを指す。例示的に描かれるところでは、電子制御されるカプセル100は、外側シェルまたはハウジング102;薬物を蓄える薬物貯留部104;薬物貯留部104に蓄えられている薬物を施与する電子制御される放出バルブまたはハッチ106;バルブ106を開閉する制御およびタイミング回路108;ならびに電源109、たとえば一つまたは複数のバッテリーを含んでいてもよい。制御およびタイミング回路108は、あらかじめ設定された施与タイミング・パターンに従って施与時間期間を通じてバルブ106を開閉する。制御およびタイミング回路108は、あらかじめ設定された施与タイミング・パターンをプログラムされたタイミング回路110と、GI管中でのカプセルの経過した移動時間についての基準を与える実時間クロックを含む開始タイマー機構112と、放出コントローラ114と、貯留部104内の薬物をバルブ106のほうに押しやるピストン型部材130に圧力を加えるための圧力機構116とを含む。開始タイマー機構112はタイミング回路110の作動を可能にする。電源109はカプセルの電子コンポーネント、たとえば制御およびタイミング回路108、センサー手段132、回転センサー手段134などに、電気機械コンポーネントのそれぞれが施与時間期間の間動作するよう電力を与える。
【0037】
シェル102は好ましくは、ペースメーカー・リード線ならびに人工心臓、心臓弁、大動脈内バルーンおよび静脈補助デバイスといった心臓補綴デバイスを含む植え込み可能デバイスを製作するのに使われる物質から製造される。そうした物質は、ダウ・ケミカル・カンパニーから入手可能なPellethane(登録商標)2363ポリエーテルウレタン系列の物質およびポリマー・テクノロジー・グループ社から入手可能なElasthaneポリエーテルウレタンを含む。他の物質としては、やはりポリマー・テクノロジー・グループ社から入手可能なPurSil(登録商標)およびCarboSil(登録商標)が含まれる。
【0038】
本開示のもう一つの側面によれば、哺乳動物の消化管内で薬物を施与するための摂取可能なカプセルであって、複数の圧電液滴ジェット・ノズル・ディスペンサーを含む薬物施与手段を有するものが開示される。前記薬物施与手段の前記ノズル・ディスペンサーは、薬物の放出の間にカプセルが回転させられて薬物をGI管内の関心のある組織部位に均一に放出するよう、前記ハウジングの表面に対して接線方向に位置される。より特定的には、本開示は、消化管内で、場所および量に関する限り制御された仕方で単数または複数の薬物を投与するための摂取可能なカプセルに関する。
【0039】
本開示の例示的な側面では、カプセルは飲み込み可能であり、直径約1cmで長さ2ないし3cmであり、たとえば前記電子制御回路、センサーおよび当該カプセル中の他の任意の電子回路に電力を与えるための一つまたは複数のバッテリーと、薬(medicine)を含む薬貯留部と、薬放出を制御するための電子回路と、一つまたは複数のマルチノズル・ミニチュア・インクジェット・プリント・ヘッドとを含んでいる。前記プリント・ヘッドを作動させることにより、薬が放出される。プリント・ヘッドは、カプセル表面の周に対する接線方向に薬を噴出するよう配設される。薬を噴出するとき、カプセルは回転および/または並進し、それにより薬を腸内部にわたって均等に拡散させる。さらに、複数のノズルを使い、薬物を高速で放出することにより、消化管内の腸による薬物吸収が容易になる。
【0040】
さらにまた、本開示のもう一つの側面によれば、カプセルに収容される薬物は、たとえばポリマー・ミセルのような一つまたは複数のミセル中に保持されうる。当業者はすぐ理解するであろうように、ミセルとは、分子の極性親水性部分が外側に延び、非極性疎水性部分が内側に延びる、両親媒性分子のコロイド集合体である。ポリオキシエチレンエーテル、アルキル硫酸アルカリ金属塩および胆汁酸がミセルを形成する化合物の若干の例示的な例である。ミセルが、物理的に医薬品をそのコアに捕捉することによって(すなわち、疎水性薬物が疎水相互作用によりミセル内部に捕捉されることができる)、あるいはミセル形成の前に薬物を疎水性ブロックに化学的に結合させることによって、医薬品送達媒体としてどのようにはたらきうるかのより詳細な議論については、非特許文献1および非特許文献2を参照されたい。
【0041】
本開示のある側面に基づく電子制御される投与カプセルの最初の概念図が図1Bに示されている。図1Bは前述の特許文献1の開示に基づく。カプセルは、精密に薬物を送達するための制御電子回路を含むシェルと、身体外との無線通信のためのリンクとを有する。電子回路および/または通信の追加は、薬物の送達を:
a)その部位において、センサー、タイミングまたは位置を使って
b)より集中された量で
c)触媒と一緒に、あるいは別の薬物と組み合わせて
d)なめらかなまたはパターンのある送達のために精密制御されて
e)ステント様バルーンを使って消化(GI)管沿いでカプセルを一時的に停止/徐行させることによってより強烈に
f)身体外から
i)薬物を途中で調整する
ii)有害な反応の場合に送達を停止する
iii)薬物送達の速度およびパターンを個々の患者に合わせて、たとえば外科的位置、GIの長さ、腎機能、肝毒性などについて補償するために、カスタマイズする
iv)特定の時間(たとえば目覚めの2時間前)に放出をトリガーする
v)外部的に集められた/報告されたデータ(たとえば夜中に目が覚める回数、花粉数など)に応答して放出する
ための無線制御を介して、
行う機能を作り出す。
【0042】
電子的な飲み込み可能なカプセルの設計を考えるとき、完全に電子的に制御可能な投与(dosing)または施与(dispensing)機構または薬物放出(release)プロファイルを提供する、哺乳動物(たとえばヒト)のGI管を通過する際の薬物の施与手段を有することが望ましい。これは、本開示のある側面に基づいて、たとえば圧電インクジェット・プリンタ技術に基づく圧電液滴ジェット・ノズル・ディスペンサーを有する施与手段を組み込むカプセルおよび方法論を利用して、達成される。インクジェット・プリンタ・ヘッドでは、単一の薬物液滴は非常に小さな体積(約3nl)をもち、1秒間に1000までの液滴が一つのノズルによって施与されることができる。これは、放出速度が1000倍のダイナミック・レンジをもつことができることを意味する。現在のところ、経口投与される薬について、薬物放出速度は化学的な調合によって制御されているが、これはケースバイケースで(各薬物ごとに)開発され、調整される必要がある。所与の調合物の実際の放出速度は、個々のGI管条件に依存して患者から患者へと変動しうる。よって、経口的に服用される薬物の放出速度を制御する普遍的な方法はない。さらに、たとえば本開示に基づいて本稿で開示されるような粘液層に侵入することによるような腸による薬の吸収を高める既知の手段や方法はない。
【0043】
本開示のある好ましい側面に基づくカプセルおよび方法論は、プログラム可能なプロファイルに従って薬物を施与するためにインクジェット・プリンタ・ポンプ(圧電コンポーネントに基づく)を利用する。最小投与量は各液滴の体積によって決まり、非常に小さく、薬物貯留部レベルにはよらないので、よく定義された薬物放出プロファイルが達成できる。さらに、薬物は、腸による薬物吸収を容易にするよう複数ノズルを使い、高速で薬物を放出することによって、空間中でこれまでに達成できたよりもより均等に分布されることができる。特定の放出プロファイルに従って薬物を施与することの利点のうちには、GI管中における薬物放出プロファイルに従って施与される薬物の時間、場所および量についての大いに改善される柔軟性および制御や、最適な治療法の有効性のために身体中で薬物の所望される生物学的利用能(一定または変動する濃度)を維持する能力が含まれる。
【0044】
生体適合物質は好ましくは室温で安定であり、よってカプセルは長い貯蔵寿命をもつ。本開示および例は、薬物または薬剤の施与において利用されるカプセルに言及するが、非医薬物質、造影剤、気体、流体、液体、化学物質、放射性エージェント、撮像マーカー、人の生命徴候を監視するセンサーなどといった他の物質が施与されることができることは理解される。
【0045】
本稿で開示されるカプセルおよび方法論を使って治療できるGI管疾患のいくつかの例は炎症性腸疾患(IBD)、セリアック病および腸癌である。IBD、特にクローン病または潰瘍性大腸炎の治療において使用できる薬物のいくつかの例は、アミノサリチル酸塩、コルチコステロイド、生物製剤(biologics)、抗凝固薬物、免疫修飾物質、プロバイオティクスおよび抗生物質である。
【0046】
本稿で開示される例示的なカプセルおよび方法論の主要な利点の一つは、薬物送達プロファイルに対する制御である。構想されるプロファイルの範囲は、素早いバーストから48時間にまでなりうる自然な身体通過の時間にわたる任意の関数の拡散までにわたる。本開示のある側面では、カプセルは、疾病部位または薬物が最もよく適用される位置ならびに最適な薬物適用を容易にする他の要因/条件を検出するオンボード・センサーを有している。
【0047】
たとえば、本開示のある側面に基づくカプセルは、その腸内の移動の間、毎時1メートルかそこらで幽門から回盲弁へとドリフトする。たとえばドリフト速度に重畳される小腸の蠕動のため、カプセルが腸に沿って進行する際にカプセルを前後に押しやる大きな速度変動がしばしば存在する。これは、カプセルから放出される薬物がしばしば有効になる前に完全に混ぜられるということを意味する。これは有益なことも、有益でないこともありうる。すなわち、腸では、強い混合が起こると、薬物は典型的には非常に大きな体積に溶解し、意図された/必要とされる点での有効濃度がしばしば低すぎる結果となる。よって、たいていの薬物適用のためには、薬物を放出するための最も効果的な時間期間は、腸の収縮の間である。というのも、収縮の間には、腸がカプセルのまわりに密接して迫り、薬物が腸の表面壁と直接接触するよう施与されうるからである。たとえば、薬物は、表面構造(たとえば絨毛)上の粘液層上に直接置かれうる。さらに、本稿で論じるような投与に好適な高速ジェット噴射システムを使って、薬物は粘液層中におよび/または粘液層を通過するよう向けられ、最終的には血液循環系に直接向けられることができる。
【0048】
本開示のある側面では、腸が収縮する瞬間に薬物および/またはその他の送達を有利に可能にし、それにより薬物またはその他を腸の壁と直接接触させるようカプセルのまわりの収縮の瞬間を検出するために、圧力トランスデューサがカプセルと動作的に関連付けられてもよい。たとえば、好適なカプセルが目標位置に位置され、圧力トランスデューサなどが腸の収縮を検出するとき、薬物(単数または複数)および/または治療(単数または複数)が放出/送達および/または実行されうる。
【0049】
本開示のもう一つの側面では、薬物または同様の物質は、可溶な軟膏中に組み込まれてもよい。該軟膏は、好ましくは該軟膏を担持するカプセルよりも容易に腸組織にくっつくよう選ばれる。たとえば、カプセルは少なくとも限られたくっつき特性をもつ表面(たとえばテフロン(登録商標))と、カプセルからその一つまたは複数の開口を介して施与または放出される軟膏を与えられてもよい。
【0050】
本開示のさらにもう一つの側面では、薬物などは、たとえば本稿で議論/開示されるようなたとえば圧電駆動の高速液滴ディスペンサーを介して施与できるよう、低粘性流体と関連付けられてもよい(たとえば溶解される)。そのような圧電デバイスは好ましくは少なくとも粘液層を通じて薬物を送達できる。施与速度をさらに上げることにより、薬物などは腸上皮組織を貫通し、直接血液循環中に持ち込まれるよう送達されうる。
【0051】
本開示のさらにもう一つの側面では、カプセルの薬物施与手段は、少なくとも以下の特徴/要素をもちうる:(i)投薬機構は圧電インクジェット技術の使用に基づく、(ii)圧電インクジェット技術は、適用されるべき薬が害されないよう、薬物または薬を腸の内側に投下するための液滴を噴出するために圧力を生成するのみである、(iii)薬品投与の信頼性を高めるためにマルチノズル・ミニチュア・プリント・ヘッドが使用される、(iv)ノズルが糞便で覆われることがありうるという事実にもかかわらず薬が腸の壁に到達することを確実にするため、投薬は、たとえば50メートル毎秒(m/s)までの高速で行われる;これは、歯茎が50m/sまでの液滴速度に安全に耐えられることを見出した歯洗浄に関わる研究に基づいている;(v)ジェット噴射の間にカプセルが回転および/または並進し、腸の内部が薬で均一に覆われるよう、ノズルは薬物を接線方向に噴出する。
【0052】
本開示のもう一つの側面によれば、施与手段およびカプセルを設計する際、我々は、たとえば長さ26mmで半径5.5mmのカプセルまたはピルを考える。カプセルは半径5.5mmの二つの球状キャップで閉じられる。寸法は外側をいう。熱可塑性物質の約1mmの厚さの壁が、カプセル内部を密閉して囲むのに十分であろう。
【0053】
囲まれる全内部容積は:
【0054】
【数1】

に等しい。
【0055】
手始めに、約1/3がペイロード(すなわち薬物物質)であるとしよう。
【0056】
これは、ペイロードが500mm3(0.5mlまたは500μl)になるということを意味する。
【0057】
バッテリーのためのスペースはたとえば100mm3である。たとえば亜鉛/アルカリ電解質電池のエネルギー容量は575Wh/lである。上に定義されたカプセルで使用されるバッテリーのエネルギー容量は57.5mWh=207Jである。同様の寸法の銀‐酸化物電池は約半分のエネルギー容量をもち、アルカリ電池は約4分の1のエネルギー容量をもつ。
【0058】
基本的に、典型的なインクジェット・プリンタ・ヘッドは、貯留部からカプセル外部に液滴ごとの流体を排出する無バルブ・ポンプ・デバイスである。ペイロードは、3nlの体積の1.66×105個の液滴として施与されることができる。本開示のある側面によれば、設計は高速液滴に基づいている。これらの液滴はプリント・ヘッドを、一連のよく定義された液滴というよりは、細長いジェットとして離れる。体積Vjet=3nlのジェットは約100μmの直径の穴を必要とし(Rjet=50μm)、長さLjet=382μmをもつ。腸の内側に堆積されるとき、そのような短いジェットはたとえば500μmの直径をもつドットに広がると想定される。そのようなドットの平均膜圧は15μmである。そのようなドットの1.66×105個をもってすれば、3dm2の面積を覆うことができる。
【0059】
短いジェットはカプセルおよびノズルを25m/sの速度で離れる。この速度では、ジェットは糞便のかけらを振り払ってノイズから離れ、腸の内側の粘液層にわずかに侵入するパワーをもつ。液滴の総エネルギーは表面エネルギーと運動エネルギー:
【0060】
【数2】

である。
【0061】
表面張力は0.03N/mに等しいとし、密度は1000kg/m3に等しいとした。表面張力の寄与は非常に小さく、無視できることを注意しておく。
【0062】
1.66×105個の液滴について、エネルギーは157mJに等しい:電池のエネルギー容量よりもかなり小さい。
【0063】
50m/sでシステムを出る液滴については、液滴当たりの運動エネルギーは4倍高くなり、必要とされる全エネルギーはそれでも1Jより小さい。
【0064】
本開示のある側面に基づくインクジェット・プリンタ・ポンプの基本設計が図2に示されている。カプセルのポンプ・セクション(カプセルと称される)は、外径11mmのステンレス鋼ハウジングでできている。そこに、ワイヤ・スパーク腐食によってチャネル・レイアウトが加工されている。このレイアウトは、長さ4mm、幅13.5mmの二つのポンプ・チェンバーからなる。ポンプ・チェンバーの高さは0.32mmに等しい。ポンプ・チェンバーは、内径100μm、長さ100μmのドリル加工されたまたは他の仕方で作られたピッチ3mmの5つの一連のノズルによって、カプセルの外側に接続される。内側には、長さ1mm、幅13.5mm、高さ0.1mmのスリットによって接続される。二つのポンプ・チェンバーの間に配設される圧電活性物質がポンプを作動させる。圧電物質を作動させると、ポンプ・チェンバーの高さを伸ばしたりつづめたりし、ノズル内の流体を加速するのに必要とされる圧力を生成する。圧電物質の隣には、薬をポンプ・チェンバーに搬送するための余地がある。
【0065】
図3は、本開示に基づくカプセルのある側面を示す。ここでは、ノズルは一つの断面内に配設されている。一つのディスク形状の圧電物質がノズルを駆動する。このセットアップでは、カプセルの周に沿って10個のノズルがあると想定している。ジェットは、図5に示されるように、ほとんど接線方向にシステムを離れる。制動(damping)スリット、ポンプ・チェンバーおよびノズルであるプリント・ヘッド構造は、MEMS技術による機械である。すべてのノズルは単一の圧電物質によって同時に駆動される。また、通気孔およびゴム袋が示されている。薬はゴム袋に入れられ、通気孔は薬内の圧力をノズルでの圧力に等しく保つことを受け持つ。そのようにして、消化管内での圧力変動に起因して自発的な漏洩が発生することはない。
【0066】
高速液滴生成器の基本的な寸法の計算は、非特許文献3の考え方をなぞる。ここで、体積Vのポンプ・チェンバーに接続された半径R1(A1=πR12)、長さL1のノズルのセットアップを考える。ポンプ・チェンバーは、断面積A2および長さL2をもつ小さな制動チャネル(damping channel)によって流体供給部に接続されている。ポンプ・チェンバーの体積は、突然、量ΔVだけ変えられる。ΔVは、ポンプ・チェンバーの体積が減らされる場合に正と考える。この型のポンプの動作のためには、ポンプが、標準的なプリント・ヘッドにおいて通例であるようなパルスごとの体積変化によるのではなく、突然の体積変化によって駆動されることが本質的である。典型的な体積変化時間曲線が図4に示される。
【0067】
ジェットがどのようにして液滴に分解されるかの詳細には立ち入らず、体積変化はジェットの体積中に、および単数または複数の液滴中に移されると想定する。ここでは上述した論文から関連のある公式を挙げておく:
【0068】
【数3】

ここで、cはポンプ・チェンバーのコンプライアンスについて補正された流体中の音速、ωHはヘルムホルツ周波数、v1はノズル中の流体柱の速度である。
【0069】
設計戦略は次のとおりである。目標は所与の液滴/ジェット体積における高い液滴速度である。
【0070】
上記公式をノズル中で流体の速度について書き直すと、
【0071】
【数4】

が得られる。
【0072】
流体の圧縮率、圧力振幅および相対体積変化は
【0073】
【数5】

で与えられる。
【0074】
音速はポンプ・チェンバーの壁のコンプライアンスについて補正する必要がある。通例、1000m/sの値が初期計算について使用される。
【0075】
すべての計算は一つのノズルについて実行されることができ、ポンプ・チェンバーの幅がノズルのピッチ、すなわち3mmに等しい。
【0076】
25m/sの最大速度および上に挙げた幾何学的データについて、ヘルムホルツ周波数は50kHzとして、Δpは7.85バールとして現れる。
【0077】
相対体積変位は7.85×10-4に等しい。ポンプの内部容積は3.82mm3である。加圧された流体に蓄えられるエネルギーは:
【0078】
【数6】

から出てくる。
【0079】
このエネルギー量は取り出すことができず、失われたと考える必要がある。1.66×105個の短いジェット当たりでも、これはいまだバッテリーのエネルギー予算内に十分収まっている。
【0080】
液滴は圧電アクチュエータに充電することによって生成される。アクチュエータ(actuator)に蓄えられるエネルギーは
【0081】
【数7】

から得られる。
【0082】
ポンプは好ましくは段階的にチャージされる必要がある。圧電物質に蓄えられたエネルギーを再利用するよう注意を払わないと、上で計算したエネルギーは失われる。アクチュエータは1.66×105個の液滴について10個のノズルを駆動するので、これは1.07Jである。どのくらいのエネルギーが電子回路で失われるかは設計の質に依存する。圧電物質は長いので、比較的低電圧(たとえば数ボルトまで)で駆動できる。カプセル中の回路はその低いバッテリー電圧を圧電物質を駆動するための電圧にアップグレードする必要がある。これはシステム内でのさらなる損失を引き起こす。
【0083】
マルチノズル・プリント・ヘッドは、たとえば、図5に描かれるようにマウントされてもよい。
【0084】
最初、液滴はノズルを高速ジェットとして離れる。ノズルから発されるジェットの出口圧力は次のように計算できる。ポンプを閉じた系で、そこから速度v、断面積Aの小さなジェットが空間中に流れ出るものと考える。出ていくジェットによって系に加えられる力は:
【0085】
【数8】

に等しい。
【0086】
これはノズル内の圧力
【0087】
【数9】

と釣り合う必要がある。
【0088】
25m/sの速度でノズルを出るジェットについては、この圧力は6.25バールに等しい。ノズルの断面積はポンプ・チェンバーの断面積よりずっと小さいので、この圧力はポンプ・チェンバー内で生成される必要はないことを注意しておく。
【0089】
以下の近似計算は、腸内のカプセルの回転位置付けに対する、接線方向にジェット噴射するプリント・ヘッドの効果を示す。
【0090】
暗黙のうちに、質量のほとんどはカプセルのハウジング内にあることが想定される。
【0091】
【数10】

ここで、mはカプセルの質量を表し、xは出ていく高速ジェットによって誘起されるノズルのところにおける接線方向の変位である。Cはすべての質量がカプセルの円筒形ハウジング内に位置しているわけではないことを考慮に入れる係数である(Cは1/4から1までの間である)。Rはデバイスの外側半径である。Fは力、Mはモーメントである。
【0092】
カプセルは腸の内容物によって、あるいは腸自身の壁によって囲まれる。カプセルが回転を始めるまさにその瞬間、カプセルはその回転運動に反対する粘性抵抗を経験する。粘性抵抗(viscous drag)は:
【0093】
【数11】

によって見積もられる。
【0094】
ここで、ηは、結腸のより固体様の内容物の小腸に含まれる流体様物質の、腸の内側の粘液層の粘性である。カプセルと腸の壁との間の流体層の厚さはhfilmによって表される。出ていくジェットによって加えられる力は短時間しか持続しない。我々の計算のためには液滴の形成ではなくジェットが出ていく必要があるので、基本周波数fHelmholtz(ヘルムホルツ周波数、たとえば50Hz)の周期時間を取る。
【0095】
カプセルに回転させるモーメントは:
【0096】
【数12】

によって与えられる。
【0097】
Nは医学的流体をジェット噴射するために使用されるノズル数、fはインストールされているプリント・ヘッドの駆動周波数である。
【0098】
カプセルの運動方程式は:
【0099】
【数13】

となる。
【0100】
この一階線形微分方程式の解は時定数および最終的な回転速度によって支配される。
【0101】
【数14】

一例として、以下の値を使った:
m=0.002kg、C=1/3、hfilm=10μm、η=0.001Pas(水)、R=5.5mm、L=26mm、ρ=1000kg/m3、Anozzle=7.85×10-9m2、v=25m/s、f=1000Hz、fHelmholtz=50kHz、N=10。
【0102】
時定数τ=7.42msecで、最終的な回転速度は2.0rad/secである。これらの数値は、ほとんどただちにカプセルはその最終速度に達し、1回転するために約3秒かかることを語ってくれる。3秒当たり、3×1000×10個の液滴が形成される。これは総ペイロードの1/5である。よってここに記載される手順では、薬適用当たり1回転は5回反復できる。ノズルは3mmのピッチでマウントされる。二つのヘッドは、ノズルが距離1.5mmで互い違いになるようマウントされる。よって、回転当たり約1.5cmが薬で覆われることができる。これはペイロード当たり、腸の内側のほぼ5ないし7.5cmである。もちろん、規定の単位面積当たりの投薬量に到達するために何回転必要とされるかは濃度が決める。
【0103】
これまでは、ノズルは接線方向に外側に向いているとしてきた。ノズルは、出ていく流体ジェットがカプセルを回転させるだけでなく、カプセルを前方に推進しもするよう、ある角度をもって穿孔されることもできる。ジェットが45°で配設されるとする。出ていくジェットによって生成される力は:
【0104】
【数15】

に等しい。
【0105】
粘性引力は:
【0106】
【数16】

である。ここで、時間微分はカプセルの軸方向変位についてである。短い立ち上げ現象(ここではこれ以上計算しない)ののち、カプセルの速度は:
【0107】
【数17】

と計算される。
【0108】
前と同じデータを使うと、軸方向速度は7.7mm/sとなる。よって、液滴吐出の3〜4秒の間(回転は遅くなる)、カプセルは23ないし30mm動く。このように、薬適用の間に腸のより大きな面積がカバーされる。
【0109】
上記解析は単に近似的なものであり、多数の現象が含まれていないことを注意しておくべきであろう。たとえば:(i)粘性が著しくより大きく、回転を遅くすることがありうる、(ii)カプセルの一部のみが壁と密接につながり、粘性抵抗を下げ、ずっと高い回転速度および軸方向速度につながる、(iii)いくつかのノズルが詰まって、駆動力を下げ、回転速度および軸方向速度を下げることがありうる、(iv)腸の蠕動もカプセルが先に進むのを助ける。
【0110】
本開示のさらにもう一つの例示的な側面によれば、カプセルは、該カプセルのその軸のまわりの回転を検出する回転センサーを組み込む。薬の投与は、たとえば、規定された回転量が達成された(たとえば完全な回転がなされた)時点で止まる。
【0111】
本開示のさらにもう一つの例示的な側面によれば、薬物はミセルによって保持される。ミセルの使用は、ミセルの高められた吸収能のためとその大きさおよび/または形のための両方から、薬物または薬物調合物の吸収を著しく助けうると信じられている。すなわち、本開示のある側面によれば、たとえば約1ないし10ナノメートルの範囲の大きさで多様な形(たとえば扁長、扁平、球状など)のうち任意のものをもつ一つまたは複数のミセルが好ましくは薬物分子をカプセル封入し、および/または劣化から保護する。調合物は、関心のある一つまたは複数の組織部位に比較的高速の微細な液滴出力を与えるよう、たとえば本稿で論じたカプセルおよび/または施与手段を介してジェット噴霧(jet spray)として提供されてもよい。効果的な調合物量が、使用される個別的な薬物および/またはミセル、その薬物のために決定されたパラメータ、治療の性質および/または厳しさ、治療される患者および投薬の経路に依存して変わることは当業者には理解されるであろう。
【0112】
本開示はその個別的な例示的な側面に関して記載されてきたが、本開示の精神および範囲から外れることなく数多くの修正、向上および/または変更が達成できることは当業者によって認識されるであろう。したがって、本開示は、請求項およびその等価物の範囲によってのみ限定されることが明白に意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物を関心のある組織部位またはその近くに施与する摂取可能なカプセルであって:
前記薬物を蓄える薬物貯留部と;
前記薬物貯留部からの前記薬物の施与を行うまたは止めるための、一つまたは複数の圧電液滴ジェット・ノズル・ディスペンサーを有する薬物施与手段と;
前記薬物の施与の量および/または時間期間を調節するために前記薬物施与手段と通信する、薬物放出プロファイルに固有なデータを記憶および/または更新する手段を有する制御手段と;
当該カプセルの一つまたは複数の電子コンポーネントに電力を提供する電源とを有する、
カプセル。
【請求項2】
一つまたは複数の生物学的条件を感知するセンサー手段をさらに有する請求項1記載のカプセルであって、前記センサー手段は前記制御手段と協働して、前記薬物放出プロファイルに従って薬物を選択的に施与し、および/またはそのような薬物放出プロファイルを決定および/もしくは修正する、カプセル。
【請求項3】
前記センサー手段によって感知される生物学的条件が、pHレベル、バクテリアもしくは酵素の有無、前記関心のある組織部位もしくはその近くの解剖学的位置および血液の有無からなる群より選択される、請求項2記載のカプセル。
【請求項4】
リモートの通信手段に信号を送信するおよび/またはリモートの通信手段から信号を受信する無線通信手段をさらに有する、請求項1記載のカプセルであって、前記リモートの通信手段から信号を受信すると、前記無線通信手段は、前記薬物放出プロファイルを修正するおよび/または前記薬物放出プロファイルに従って前記薬物を施与するよう前記電子制御回路手段と協働する、カプセル。
【請求項5】
炎症性腸疾患、セリアック病および腸癌からなる群より選択される疾病を治療するよう意図された薬物を投与するために使用される、請求項1記載のカプセル。
【請求項6】
当該カプセルがクローン病または潰瘍性大腸炎を治療するよう意図された薬物を投与するために使用され、前記薬物が、アミノサリチル酸塩、コルチコステロイド、生物製剤、抗凝固薬物、免疫修飾物質、プロバイオティクスおよび抗生物質からなる群より選択される、請求項1記載のカプセル。
【請求項7】
ペレサン・ポリエーテルウレタン系列の物質、エラスタン・ポリエーテルウレタン、パーシルおよびカルボシルからなる群より選択される少なくとも一つの物質から製造されるハウジングを有する、請求項1記載のカプセル。
【請求項8】
当該カプセルがその軸のまわりに所定の量だけ回転したときを感知し、前記制御手段と協働して前記薬物の施与を選択的に止める回転センサー手段をさらに有する、請求項1記載のカプセル。
【請求項9】
前記電子制御回路手段が、消化管内での当該カプセルの経過移動時間の基準を与えるための実時間クロックをさらに有する、請求項1記載のカプセル。
【請求項10】
前記ノズル・ディスペンサーのうち一つまたは複数が、前記薬物の放出の間に当該カプセルが回転させられて前記薬物を前記関心のある組織部位に均一に放出するよう、当該カプセルへの前記ハウジングの表面に対して接線方向に位置される、請求項1記載のカプセル。
【請求項11】
哺乳動物の消化管内に薬物を施与する方法であって、前記消化管は関心のある組織部位を有しており、当該方法は:
前記薬物を収容している摂取可能なカプセルを経口投与する段階と、
少なくとも実質的に前記関心のある組織部位において、薬物放出プロファイルに従って前記薬物を施与する段階とを有しており、
前記カプセルは、(i)前記薬物を蓄える薬物貯留部と、(ii)前記薬物貯留部からの前記薬物の施与を行うまたは止めるための、いくつかの圧電液滴ジェット・ノズル・ディスペンサーを有する薬物施与手段と、(iii)前記薬物の消化管への施与の量および時間期間を調節するための、薬物放出プロファイルに固有なデータを記憶および/または更新する手段を有する制御手段と,(iv)前記カプセルのコンポーネントに必要に応じて電力を与える電源とを有する、
方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法であって、前記カプセルが消化管内での一つまたは複数の生物学的条件を感知するセンサー手段を有し、前記センサー手段は、前記薬物放出プロファイルに従って前記薬物の施与を実施するよう、および/または前記薬物放出プロファイルを決定もしくは修正するよう前記制御手段と通信する、方法。
【請求項13】
前記センサー手段によって感知される生物学的条件が、pHレベル、バクテリアもしくは酵素の有無、胃腸管の解剖学的位置および血液の有無からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項11記載の方法であって、前記カプセルが、第二のリモートの通信手段に信号を送信するおよび/または第二のリモートの通信手段から信号を受信する無線通信手段を有しており、前記第二の通信手段から信号を受信すると、前記無線通信手段は、前記薬物放出プロファイルを修正するおよび/または前記薬物放出プロファイルに従って前記薬物を施与するよう前記制御手段と通信する、方法。
【請求項15】
炎症性腸疾患、セリアック病および腸癌からなる群より選択される疾病の治療のための薬物を投与するために用いられる、請求項11記載の方法。
【請求項16】
当該方法がクローン病または潰瘍性大腸炎の治療のための薬物を投与するために用いられ、前記薬物が、アミノサリチル酸塩、コルチコステロイド、生物製剤、抗凝固薬物、免疫修飾物質、プロバイオティクスおよび抗生物質からなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項17】
前記カプセルが、ペレサン・ポリエーテルウレタン系列の物質、エラスタン・ポリエーテルウレタン、パーシルおよびカルボシルからなる群より選択される少なくとも一つの物質から製造されるハウジングを有する、請求項11記載の方法。
【請求項18】
前記カプセルがその軸のまわりに所定の量だけ回転したときを感知し、前記薬物の施与を止めるよう前記制御手段が前記施与手段に信号を送信するよう前記制御手段と通信する回転センサー手段をさらに有する、請求項11記載の方法。
【請求項19】
前記制御手段が、前記カプセルの経過移動時間の基準を与えるための実時間クロックを含む、請求項11記載の方法。
【請求項20】
前記ノズル・ディスペンサーのうち一つまたは複数が、前記薬物の放出の間に前記カプセルが回転および/または並進させられて前記薬物を一つまたは複数の関心のある組織部位に均一に放出するよう、当該カプセルへのハウジングの表面に対して接線方向に位置される、請求項11記載の方法。
【請求項21】
薬物を蓄える貯蔵手段と;
前記薬物を施与する施与手段とを有するカプセルであって、
前記薬物が、薬物放出プロファイルに従って施与できるよう一つまたは複数のミセルによって保持されている、
カプセル。
【請求項22】
前記ミセルが一つまたは複数の関心のある組織部位における薬物の吸収を助ける、請求項21記載のカプセル。
【請求項23】
一つまたは複数の薬物を蓄える貯蔵手段と;
一つまたは複数の薬物を施与する施与手段と;
少なくとも一つの蠕動収縮を検出する検出手段とを有するカプセルであって、
一つまたは複数の薬物が、一つまたは複数の蠕動収縮に応答して施与されるよう前記カプセルにより保持されている、
カプセル。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−508053(P2010−508053A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533999(P2009−533999)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【国際出願番号】PCT/IB2007/054223
【国際公開番号】WO2008/053396
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】