説明

消化管粘膜保護剤、カベオリン遺伝子発現促進剤及び抗ストレス剤

【課題】消化管粘膜障害や消化管粘膜萎縮の予防や抑制、カベオリン遺伝子の発現促進及びストレス性疾患の予防や治療に優れて有効な、医薬品、食品、医薬部外品及び化粧品を提供する。
【解決手段】グリセロ糖脂質を有効成分として含有する、医薬品としての消化管粘膜保護剤、カベオリン遺伝子発現促進剤及び抗ストレス剤。更に、消化管粘膜保護作用、カベオリン遺伝子発現促進作用及び抗ストレス作用を生じる量のグリセロ糖脂質を含有する食品、医薬部外品及び化粧品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管粘膜保護剤、カベオリン遺伝子発現促進剤及び抗ストレス剤に関し、更に詳しくは消化管粘膜障害や消化管粘膜萎縮の予防や抑制、カベオリン遺伝子の発現促進及びストレス性疾患の予防や治療に優れて有効な、医薬品、特定保健用食品、健康補助食品、医薬部外品、化粧品等に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレス、アルコール、薬剤、炎症性疾患などは、消化管粘膜の障害を引き起こし、下痢や出血、場合によっては栄養素の吸収障害から栄養不良を引き起こす。このような消化管粘膜障害は、健常人の健康を脅かすだけでなく、癌治療に代表されるような化学療法や放射線療法による治療時の副作用となり、予後や生活の質(QOL)を左右する大きな問題となっている。また、近年増えつつあるクローン病や炎症性腸疾患では、消化管粘膜障害による重篤な下痢、またそれに伴う腹痛や栄養障害がみられ、これらの症状緩和は、患者のQOLや治療効果を向上させるために重要である。
また、消化管切除術後の経静脈輸液のみによる栄養補給では、消化管粘膜萎縮が起こり、消化管からの細菌などの侵入による感染の危険性が高まることが問題となっている。
【0003】
粘膜障害を保護する薬剤としては、これまでに制酸剤、プロスタグランジン製剤、アラントイン系製剤、アルミニウム製剤などが知られている。また、食品成分としては、グルタミン、亜鉛などのほか、牛乳、ムチンなどを含む食品などにも粘膜保護効果があるとされている。
【0004】
消化管の粘膜上皮細胞は極性を持ち、タイトジャンクションを境に管腔側と体内側で細胞膜成分が異なる。この違いは、栄養素の輸送や粘膜防御システムの機能を維持する上できわめて重要である。その特徴として重要なものに細胞膜成分の脂質組成の違いがある。管腔側の細胞膜には、ガングリオシド等のスフィンゴ脂質に代表される糖脂質群やコレステロールが多く存在することが知られている。また、これらの細胞膜脂質は、マイクロドメインを形成することが知られている。カベオリンは、これらのマイクロドメインに局在するタンパク質であり、細胞内のシグナル伝達やコレステロールなどの栄養素の輸送に関わるとされており、消化管上皮細胞においてもその役割の解明が期待されている。
【0005】
糖脂質は分子内に水溶性糖鎖と脂溶性基の両者を含む物質の総称であるが、脂溶性基にスフィンゴシンを有するか、アシルグリセロール等のグリセロール骨格を有するかにより、スフィンゴ糖脂質とグリセロ糖脂質とに大別される。スフィンゴ糖脂質の多くは動物細胞に存在し、上述したように細胞膜の構成成分として膜の認識機構に関与していると考えられている。他方、グリセロ糖脂質は主に微生物や植物中に存在している。その生理作用については、シアル酸を含むスフィンゴ糖脂質であるガングリオシドが、ヘリコバクター・ピロリの胃粘膜への接着を阻害すること(特許文献1参照)、GM1ガングリオシドがエタノールによる胃粘膜障害に対する保護作用を有していることが報告されている。グリセロ糖脂質については、リパーゼ活性阻害作用、抗アレルギー作用、大腸癌予防効果、アポトーシス誘発作用などが公知である。更に海草または陸生植物から抽出したグリセロ糖脂質が、DNA合成酵素阻害活性、癌細胞増殖抑制活性及び抗腫瘍活性を有することが公知である(特許文献2参照)。
しかしながら、グリセロ糖脂質が奏する、消化管粘膜保護作用、カベオリン遺伝子発現促進作用及び抗ストレス作用については、報告は見当たらず、未だ知られていない。
【特許文献1】特開平10−45602号公報
【特許文献2】WO2005/027937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、ストレスや飲酒などの生活習慣に伴う消化管粘膜障害の保護だけでなく、癌の化学療法や炎症性腸疾患の治療を行うために様々な粘膜保護作用を有する薬剤の開発が行われてきている。特に、近年は生活習慣病等の様々な疾患に対する予防・抑制効果を有する特定保健用食品や健康補助食品等の機能性食品が注目されている。しかしながら、食品成分としてこのような作用を有するものは未だ数少なく、また効果が科学的に証明されていないものも多い。
【0007】
従って、本発明の目的は、消化管粘膜障害や消化管粘膜萎縮の予防や抑制に有用な、消化管粘膜保護作用を有する医薬品、並びにこれらの機能を発揮する食品、医薬部外品、化粧品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題に鑑み研究を進めた結果、(a)ほうれん草より得られた糖脂質含有組成物が抗癌剤による消化管粘膜保護作用を有すること、(b)糖脂質やコレステロールからなる細胞膜マイクロドメインと相互作用をするカベオリンと呼ばれる遺伝子の発現を促進すること、などを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明によれば、以下(1)〜(21)に記載の薬剤、食品、医薬部外品及び化粧品が提供される。
(1)グリセロ糖脂質を有効成分として薬効を奏する量、含有する消化管粘膜保護剤。
(2)上記グリセロ糖脂質がモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)及びスルホキノボシルモノアシルグリセロール(SQMG)からなる群より選ばれる少なくとも一種である上記(1)に記載の消化管粘膜保護剤。
(3)前記グリセロ糖脂質が、海藻及び/又は陸生植物由来である上記(1)又は(2)に記載の消化粘膜保護剤。
(4)前記陸生植物がほうれん草である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の消化管粘膜保護剤。
(5)グリセロ糖脂質を有効成分として薬効を奏する量、含有するカベオリン遺伝子発現促進剤。
(6)上記グリセロ糖脂質がモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)及びスルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)からなる群より選ばれる少なくとも一種である上記(5)に記載のカベオリン遺伝子発現促進剤。
(7)前記グリセロ糖脂質が、海藻及び/又は陸生植物由来である上記(5)又は(6)に記載のカベオリン遺伝子発現促進剤。
(8)前記陸生植物がほうれん草である上記(5)〜(7)のいずれかに記載のカベオリン遺伝子発現促進剤。
(9)グリセロ糖脂質を有効成分として薬効を奏する量、含有する抗ストレス剤。
(10)上記グリセロ糖脂質がモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)及びスルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)からなる群より選ばれる少なくとも一種である上記(9)に記載の抗ストレス剤。
(11)前記グリセロ糖脂質が、海藻及び/又は陸生植物由来である上記(9)又は(10)に記載の抗ストレス剤。
(12)前記陸生植物がほうれん草である上記(9)〜(11)のいずれかに記載の抗ストレス剤。
(13)消化管粘膜保護作用が生じる量のグリセロ糖脂質を含有する食品。
(14)カベオリン遺伝子発現促進作用が生じる量のグリセロ糖脂質を含有する食品。
(15)抗ストレス作用が生じる量のグリセロ糖脂質を含有する食品。
(16)上記グリセロ糖脂質がモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)及びスルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)からなる群より選ばれる少なくとも一種である上記(13)〜(15)のいずれかに記載の食品。
(17)前記グリセロ糖脂質が、海藻及び/又は陸生植物由来である上記(13)〜(16)のいずれかに記載の食品。
(18)前記陸生植物がほうれん草である上記(13)〜(17)のいずれかに記載の食品。
(19)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の消化管粘膜保護剤を配合する医薬部外品又は化粧品。
(20)上記(5)〜(8)のいずれかに記載のカベオリン遺伝子発現促進剤を配合する医薬部外品又は化粧品。
(21)上記(9)〜(12)のいずれかに記載の抗ストレス剤を配合する医薬部外品又は化粧品。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る消化管粘膜保護剤は、消化管粘膜障害に対する保護作用を有するため、抗ガン剤などの薬物摂取やエタノール摂取、ストレスや飲酒などの生活習慣に伴う消化管粘膜障害など、種々の消化管粘膜障害に対する予防剤・抑制剤として有用である。また消化管粘膜萎縮の予防剤・抑制剤としても有用である。
【0011】
本発明に係るカベオリン遺伝子発現促進剤は、消化管粘膜においてカベオリンタンパクの発現を促進する。カベオリンタンパクの発現は、消化管粘膜障害や消化管粘膜萎縮からの保護作用の一端を担っていると考えられる。またカベオリンは、種々の上皮細胞、血管内皮細胞、筋肉細胞、脂肪細胞、神経細胞などに発現し、細胞内の脂質輸送、栄養素の輸送、細胞内シグナル伝達の調節、細胞増殖制御など多彩な生理機能を有するタンパク質である。従って、本発明のカベオリン遺伝子発現促進剤は、カベオリン発現調節物質として、カベオリンの生理作用などの様々な研究に用いることができる。
【0012】
また、これらのカベオリンの多彩な生物学的作用を鑑みると、消化管粘膜だけでなく、神経細胞や内皮脂肪のストレス障害をも防御できる可能性が予想させることから、様々なストレス性疾患の治療薬や予防薬のとしても有用であると考えられる。
【0013】
更に、本発明の消化管粘膜保護剤、カベオリン発現促進剤及び抗ストレス剤の有効成分として用いるグリセロ糖脂質は、天然物由来であるため、安全性が極めて高く、長期間摂取することが可能である。更に、医薬品としてだけでなく、特定保健用食品や健康食品等の食品として日常的に何時でも、何処でも、誰でも容易に摂取可能である。また、医薬部外品や化粧品の形態で使用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
グリセロ糖脂質:
本発明では、消化管粘膜保護剤、カベオリン発現促進剤及び抗ストレス剤の有効成分として、一般にグリセロ糖脂質と総称される全ての化合物、その誘導体・派生体等を用いることができる。具体的には、モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、モノガラクトシルモノアシルグリセロール(MGMG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)、スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)、スルホキシノボシルモノアシルグリセロール(SQMG)等が挙げられる。好ましくは、モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)及びスルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)から選択される少なくとも1種を用いる。尚、これらのグリセロ糖脂質は、1種単独で、又は2種以上を適宜組合せて使用することができる。
また、これらのグリセロ糖脂質は、植物、微生物又は動物から抽出・精製することもできるし、化学的に合成することもできるが、グリセロ糖脂質を多量に含有する天然材料、例えば、海藻や陸生植物から公知の方法により抽出・分離・精製し、使用することができる。
上記海藻としては、特に限定されないが、例えば、スピルナ等の藍藻類、アオノリ・アオサ・ミル等の緑藻類、ワカメ・ヒジキ・マコンブ・モズク・アカモク等の褐藻類、スサビノリ・マクサ・スギノリ・オゴノリ・テングサ等の紅藻類などを挙げることができる。
上記陸生植物としては、特に限定されないが、例えば、小松菜・ホウレン草・人参・ブロッコリー・タマネギ等の野菜類、大麦・米等の単子葉類などを挙げることができる。好ましくは、ホウレン草を用いる。
また、上述したような海藻や陸生植物からのグリセロ糖脂質を抽出・分離・精製する方法としては、特に限定されないが、例えば、WO2005/027937号に記載の方法が使用できる。この抽出方法によれば、海藻や陸生植物から簡便な操作で効率よく、しかも有用な生理作用を有するグリセロ糖脂質を、モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)及びスルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)の混合物として高純度に含有する抽出物を得ることができる。本発明において、上記抽出物をそのままグリセロ糖脂質として薬剤又は食品に含有させることもできるし、更に抽出物を分離・精製したものをグリセロ糖脂質として医薬品、食品、医薬部外品又は化粧品に含有させることもできる。
【0015】
適用疾患:
本発明の消化管粘膜保護剤は、ストレス・アルコール・薬剤・炎症性疾患などによる消化管粘膜障害、癌治療に代表されるような化学療法や放射線療法の副作用による消化管粘膜障害、消化管切除の手術後の経静脈輸液による栄養補給等で生じる消化管粘膜萎縮等、種々の消化管粘膜疾患の予防剤・抑制剤として使用することができる。例えば、消化管粘膜障害などの副作用の強い抗ガン剤による治療を行う際に、事前に本発明の消化管粘膜保護剤を服用することで薬剤による副作用を予防できる。また、消化管切除の手術後の経静脈輸液による栄養補給等で生じる消化管粘膜萎縮の場合には、本発明の消化管粘膜保護剤を手術前、或いは経静脈輸液と同時に投与することで、消化管粘膜萎縮を予防することができる。
本発明のカベオリン遺伝子発現促進剤は、消化管粘膜においてカベオリンタンパクの発現を促進する。カベオリンタンパクの発現は、上述したような消化管粘膜障害や消化管粘膜萎縮からの保護作用の一端を担っていると考えられる。また、カベオリンは、消化管のみならず、種々の上皮細胞、血管内皮細胞、筋肉細胞、脂肪細胞、神経細胞などに発現し、細胞内の脂質輸送、栄養素の輸送、細胞内シグナル伝達の調節、細胞増殖制御など多彩な生理機能を有するタンパク質である。従って、本発明のカベオリン遺伝子発現促進剤は、カベオリン発現調節物質として、カベオリン機能などの様々な研究に有用な物質として応用できるだけでなく、カベオリンの多彩な生理作用により、神経細胞や血管内皮細胞等のストレス障害をも防御し得る。なお、抗ストレス剤としては、うつ病・心身症・自律神経失調症などのストレス性神経疾患、高血圧・動脈硬化・狭心症などの循環器系疾患、糖尿病などの内分泌疾患など、種々のストレス性疾患の予防・改善に使用可能である。
【0016】
本発明の消化管粘膜保護剤、カベオリン遺伝子発現促進剤及び抗ストレス剤は、ヒト以外の動物、例えば、獣医分野の家畜、ペット動物、実験動物等、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ウマ、ウシ、サル等における上述したようなヒトの疾患に相当あるいは類似する病気に対しても使用可能である。
【0017】
投与ルート:
本発明の消化管粘膜保護剤、カベオリン遺伝子発現促進剤及び抗ストレス剤は、経口、経皮、皮内、皮下、静脈内、筋肉内等、公知のルートによる投与が可能であり、安全かつ効果的に投与できれば、これらに限定されない。
【0018】
製剤形態:
本発明の消化管粘膜保護剤、カベオリン遺伝子発現促進剤及び抗ストレス剤の製剤化あるいは形態に関し、グリセロ糖脂質、例えば植物由来のグリセロ糖脂質をそのまま用いてもよいが、通常、充填剤、結合材、増量剤、崩壊剤、分散剤、賦形剤等の公知の医薬品担体を加え、常法に従い製剤化される。
製剤の物性としては、液状、ペースト状、固形、噴霧(ガス)等を採用できる。経口剤の場合では、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、トローチ剤、チュアブル剤等の固形製剤、シロップ剤、エリキシル剤、乳剤、懸濁剤等の液剤、チューブ入りペースト剤の形態に製剤化することができる。非経口剤の場合では、注射剤、滴下剤、点滴剤、外用剤、塗布剤、座剤等の形態に製剤化することができる。
【0019】
投与量:
本発明の消化管粘膜保護剤、カベオリン遺伝子発現促進剤及び抗ストレス剤の投与量は、被投与者の年齢、体重、投与方法、対象疾患、症状等により異なるが、経口投与の場合、通常、小児あるいは成人のドーズ(mgグリセロ糖脂質/kg体重/1日)は、1〜800mg、好ましくは2〜200mg、更に好ましくは5〜100mg/kgである。
非経口投与の場合の上記ドーズは(mgグリセロ糖脂質/kg体重/1日)は、1〜400mg、好ましくは2〜100mg、更に好ましくは5〜50mg/kgである。
尚、上記の各ドーズは一日一回、又は各ドーズを数回に分けて投与することができる。
【0020】
食品:
本発明に係るグリセロ糖脂質は、植物などの天然物より得られ安全性の高いため、消化管粘膜保護作用、カベオリン遺伝子発現促進作用及び抗ストレス作用が生じる食品、例えば、特定保健用食品、機能性食品、栄養補助食品、健康食品等として提供することが可能である。このような食品の形態であれば、日常的に容易に摂取することが可能であり、非常に有用である。
【0021】
食品の種類:
本発明の消化管粘膜保護作用、カベオリン遺伝子発現促進作用及び抗ストレス作用を発揮する食品は、常用食品にグリセロ糖脂質を添加、混合、混在、共存等により含有させることにより製造することができる。添加するグリセロ糖脂質としては、上述したような植物からの抽出物をそのまま、あるいは必要に応じて更に分離・精製したものを使用することができる。グリセロ糖脂質を含有させる常用食品としては、消化管粘膜保護作用、カベオリン遺伝子発現促進作用及び抗ストレス作用を奏する限り特に限定されないが、例えば、米飯類、麺類、パン、豆腐等の豆製品、ハム・ソーセージ等の加工肉製品、カマボコ・チクワ等の水産練り製品、クッキー・チョコレート・キャンディー等の菓子類、ジュース・お茶・コーヒー等の飲料、ヨーグルト・バター等の乳製品、醤油・ソース・ドレッシング等の調味料等を挙げることができる。
【0022】
食品の形態:
本発明の消化管粘膜保護作用、カベオリン遺伝子発現促進作用及び抗ストレス作用を発揮する食品は、グリセロ糖脂質をそのまま、又は、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と混合し、サプリメントとして摂取することもできる。その形態としては、粉末剤、顆粒剤、ペレット剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、ペースト剤等が挙げられる。
【0023】
食品による摂取量:
本発明に係る食品により摂取するグリセロ糖脂質の量は、前述した治療薬の経口ドーズと同じであり、摂取者の年齢、体重、疾患、症状によって異なるが、通常、小児あるいは成人の摂取量(mgグリセロ糖脂質/kg体重/1日)は、1〜800mg、好ましくは2〜200mg、更に好ましくは5〜100mg/kgである。上記の摂取量は、1日1回、又は数回に分けて摂取することができる。
【0024】
医薬部外品、化粧品:
本発明に係るグリセロ糖脂質は、植物などの天然物より得られ安全性の高いため、上述した消化管粘膜保護剤、カベオリン遺伝子発現促進剤及び抗ストレス剤を配合させた医薬部外品や化粧品として提供することが可能である。このような医薬部外品や化粧品の形態であれば、日常的に摂取又は使用することが可能であり、非常に有用である。
【0025】
医薬部外品の形態:
本発明の消化管粘膜保護剤、カベオリン遺伝子発現促進剤及び抗ストレス剤を医薬部外品として利用する場合、グリセロ糖脂質、例えば植物由来のグリセロ糖脂質をそのまま用いてもよいが、通常賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と混合され、粉末剤、顆粒剤、ペレット剤、錠剤、ドリンク剤など、経口摂取する形態で提供される。
更に、クリーム、乳液、化粧水、ローション、ジェル、美容液、パックなどの薬用化粧品、ハンドクリーム、レッグクリーム、ボディローション、浴用剤などの薬用ボディ化粧品など非経口の形態で提供することも可能である。このような薬用化粧品や薬用ボディ化粧品には、有効成分であるグリセロ糖脂質の他に、通常薬用化粧品の製造に使用される原料、例えば界面活性剤、油分、水、保湿剤、アルコール類、増粘剤、安定剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、顔料、各種ビタミン類、各種アミノ酸類などを配合することもできる。このような薬用化粧品を製造するには、常法にしたがい、薬用化粧品の製造の任意の段階で、グリセロ糖脂質を適量添加すればよい。
【0026】
医薬部外品による摂取量:
本発明に係る医薬部外品により摂取するグリセロ糖脂質の量は、経口摂取の場合、前述した治療薬の経口ドーズと同じであり、摂取者の年齢、体重、疾患、症状によって異なるが、通常、小児あるいは成人の摂取量(mgグリセロ糖脂質/kg体重/1日)は、1〜800mg、好ましくは2〜200mg、更に好ましくは5〜100mg/kgである。上記の摂取量は、1日1回、又は数回に分けて摂取することができる。
【0027】
化粧品の形態:
本発明の消化管粘膜保護剤、カベオリン遺伝子発現促進剤及び抗ストレス剤を化粧品として利用する場合、その形態としては、クリーム、乳液、化粧水、ローション、ジェル、美容液、パックなどの基礎化粧品;メイクアップベースクリーム、パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、口紅などのメイクアップ化粧料;ハンドクリーム、レッグクリーム、ボディローション、浴用剤などのボディ用化粧品などが挙げられる。
上述したような化粧品には、有効成分であるグリセロ糖脂質の他に、通常化粧品の製造に使用される原料、例えば界面活性剤、油分、水、保湿剤、アルコール類、増粘剤、安定剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、顔料、各種ビタミン類、各種アミノ酸類などを配合することもできる。このような化粧品を製造するには、常法にしたがい、化粧品の製造の任意の段階で、グリセロ糖脂質を適量添加すればよい。
【0028】
以下、実施例を上げ、本発明の構成と作用効果を具体的に説明するが、本発明の範囲は、これ等の実施例だけに限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
「糖脂質含有組成物の抽出」
原料には市販のホウレン草を使用し、その乾燥物100gを細断した後、水溶性成分をできるだけ除去するために、60℃の温水1Lで2回洗浄した。次に、濾紙を使用して濾過後、水分を除去し、得られた固形物(残渣)に1Lのエタノールを加え、撹拌しながら60℃で還流抽出を2回行った。得られた抽出液を濾過した後、減圧下で濃縮を行い、ホウレン草のオイル状抽出物20.5gを得た。
次に、得られた抽出物を70%エタノール溶液(エタノールと水の体積比が70:30の溶液。以下同様)に溶解した後、疎水クロマトグラフィー用樹脂500g(ダイヤイオンHP−20、三菱化学社製)に注入し、その後、70%エタノールで未吸着物質を洗浄・溶出した画分I(水溶性画分、13.6g)、90%エタノールで溶出される画分II(糖脂質画分、6.5g)、クロロホルムで溶出される画分III(クロロフィル(葉緑素)を含む色素画分、1.0g)の3つに分画した。
上記画分IIの糖脂質画分の成分を薄層クロマトグラフィーにより分析したところ、糖脂質画分250mgには、MGDGが87.4mg(33.9%)、DGDGが35.0mg(14.0%)、SQDGが92.3mg(36.9%)含まれていた。すなわち、上記画分IIの糖脂質画分(以下、「糖脂質含有組成物」という。)には、少なくとも84.8%のグリセロ糖脂質が含有されていることが分かった。さらに、精製したMGDG、DGDG、SQDGについて1H−NMR及び13C−NMRを使用して構造の確認と純度の検定を行った結果、MGDG、DGDG、SQDGともに化学構造を確認でき、純度はいずれも95%以上であった。
【実施例2】
【0030】
「糖脂質含有組成物の腸管粘膜障害予防作用」
実施例1により得られた糖脂質含有組成物について、腸管粘膜障害予防作用を次のようにして調べた。試験動物としては、SD(Sprague Dawley)ラットを用い、「5−FU投与+糖脂質含有組成物投与群」、「5−FU投与群」、及び「正常群」の三群(各3匹)に分けた。
【0031】
(試験食及び5−FU投与)
「5−FU投与+糖脂質含有組成物投与群」;上記糖脂質含有組成物を添加したAIN93G飼料を経口投与した。糖脂質含有組成物の添加量は、1日当たり20mg/kgマウスとなるように調製した。4日間投与後、1日絶食させた後、腸管粘膜障害惹起物質として抗ガン剤である5−FU(5−フルオロウラシル)を200mg/kgマウス単回投与し、3日後に屠殺した。5−FU投与後、屠殺までの期間においても上記同様の糖脂質含有組成物を含む飼料を与えた。
「5−FU投与群」;飼料が糖脂質含有組成物を添加していない通常のAIN93G飼料である以外は、上記「5−FU投与+糖脂質含有組成物投与群」と同様に飼料及び5−FUの投与を行った。
「正常群」;飼料が糖脂質含有組成物を添加していない通常のAIN93G飼料であり、5−FUを投与しない以外は、上記「5−FU投与+糖脂質含有組成物投与群」と同様に飼料の投与を行った。
なお、「5−FU投与+糖脂質含有組成物投与群」、「5−FU投与群」、及び「正常群」において、試験期間中の摂餌量は全群間でほぼ同量であった。
【0032】
(組織標本の作製)
屠殺後、空腸を採取し、3%パラホルムアルデヒドにより固定した。固定した組織は、パラフィン包埋後、定法に従い、組織切片を作製した。得られた組織切片は、ヘマトキシリン・エオジン染色法により染色し、組織標本とした。
(結果)
作製した組織標本を光学顕微鏡により観察を行ったところ、図1に示すように、正常小腸に比べて、「5−FU投与群」では、著しい腸管粘膜の萎縮が見られ、また腸管絨毛の高さが低くなっており、絨毛の萎縮が起こっていることが観察された。一方、「5−FU投与+糖脂質含有組成物投与群」では、絨毛の高さが「正常群」と変わらず、腸管粘膜の萎縮が抑制されていることが観察された。
更に、得られた空腸におけるアルカリフォスファターゼ活性を測定したところ、図2に示すように、「正常群」に比べて「5−FU投与群」ではアルカリフォスファターゼ活性の低下が認められるのに対して、「5−FU投与+糖脂質含有組成物投与群」では、アルカリフォスファターゼ活性の低下が軽度であった。なお、測定結果に基づく群間の有意差検定は、FisherのPLSD法により行った。その結果、「正常群」と「5−FU投与群」との間に有意差が認められ(P<0.01)、その他の群間には有意差が認められなかった。
以上のことから、ホウレン草から抽出された糖脂質含有組成物には、腸管粘膜の萎縮や絨毛萎縮の防止に効果があることが分かった。
【実施例3】
【0033】
「糖脂質含有組成物の小腸カベオリン発現促進作用」
実施例1により得られた糖脂質含有組成物について、小腸カベオリン発現促進作用を調べた。SD(Sprague Dawley)ラットを、「5−FU投与+糖脂質含有組成物投与群」、「5−FU投与群」、及び「正常群」の三群に分け、それぞれ実施例2と同様に糖脂質含有組成物及び5−FUを投与し、屠殺した。
屠殺後、空腸粘膜層を採取し、定法に従い、TCA(トリクロロ酢酸)を用いてタンパク質を沈殿させ回収した後、20μgの空腸粘膜タンパクをSDS−PAGEで分離し、抗カベオリンポリクローナル抗体(Transduction Laboratory社製)を用いウエェスタンブロット法によりカベオリンの発現量を測定した。
図3に示すように、「正常群」や「5−FU投与群」では、腸管粘膜におけるカベオリンの発現量は低下傾向を示したが、「5−FU投与+糖脂質含有組成物投与群」は他の二群に比べてカベオリン発現量が著しく増加しているのが分かる。なお、測定結果に基づく群間の有意差検定は、FisherのPLSD法により行った。その結果、「正常群」及び「5−FU投与群」と「5−FU投与+糖脂質含有組成物投与群」との間に有意差が認められた(P<0.01)。
以上の結果から、ホウレン草から抽出された糖脂質含有組成物には、カベオリンの発現を促進させる効果があることが分かった。
【実施例4】
【0034】
「糖脂質含有組成物を含有する医薬品組成物又は食用組成物」
実施例1においてホウレン草から抽出した糖脂質含有組成物150mg、精製大豆油125mg、ミツロウ15mgおよびビタミンE10mgを窒素ガス雰囲気下で約40℃に加温し、十分に混合して均質な液状物とした。これをカプセル充填機に供給して、1粒内容量300mgのゼラチン被覆カプセルを試作した。この製剤は、医薬用組成物または食用組成物として利用できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、消化管粘膜障害や消化管粘膜萎縮の予防や抑制、カベオリン遺伝子の発現促進及びストレス性疾患の予防や治療に有効な医薬品、並びに特定保健用食品、機能性食品、健康補助食品、栄養補助剤等の食品、医薬部外品及び化粧品として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】糖脂質含有組成物による腸管粘膜障害予防効果について組織学的に解析した結果を示す写真図である。
【図2】糖脂質含有組成物による腸管粘膜障害の予防効果について小腸アルカリフォスファターゼ活性について解析した結果を示すグラフ図である。
【図3】糖脂質含有組成物により、粘膜障害時の小腸でカベオリン発現が促進されることを示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセロ糖脂質を有効成分として薬効を奏する量、含有する消化管粘膜保護剤。
【請求項2】
上記グリセロ糖脂質がモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)及びスルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の消化管粘膜保護剤。
【請求項3】
前記グリセロ糖脂質が、海藻及び/又は陸生植物由来である請求項1又は2に記載の消化粘膜保護剤。
【請求項4】
前記陸生植物がほうれん草である請求項1〜3のいずれか1項に記載の消化管粘膜保護剤。
【請求項5】
グリセロ糖脂質を有効成分として薬効を奏する量、含有するカベオリン遺伝子発現促進剤。
【請求項6】
上記グリセロ糖脂質がモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)及びスルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項5に記載のカベオリン遺伝子発現促進剤。
【請求項7】
前記グリセロ糖脂質が、海藻及び/又は陸生植物由来である請求項5又は6に記載のカベオリン遺伝子発現促進剤。
【請求項8】
前記陸生植物がほうれん草である請求項5〜7のいずれか1項に記載のカベオリン遺伝子発現促進剤。
【請求項9】
グリセロ糖脂質を有効成分として薬効を奏する量、含有する抗ストレス剤。
【請求項10】
上記グリセロ糖脂質がモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)及びスルホキノボシルモノアシルグリセロール(SQMG)からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項9に記載の抗ストレス剤。
【請求項11】
前記グリセロ糖脂質が、海藻及び/又は陸生植物由来である請求項9又は10に記載の抗ストレス剤。
【請求項12】
前記陸生植物がほうれん草である請求項9〜11のいずれか1項に記載の抗ストレス剤。
【請求項13】
消化管粘膜保護作用が生じる量のグリセロ糖脂質を含有する食品。
【請求項14】
カベオリン遺伝子発現促進作用が生じる量のグリセロ糖脂質を含有する食品。
【請求項15】
抗ストレス作用が生じる量のグリセロ糖脂質を含有する食品。
【請求項16】
上記グリセロ糖脂質がモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)及びスルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項13〜15のいずれか1項に記載の食品。
【請求項17】
前記グリセロ糖脂質が、海藻及び/又は陸生植物由来である請求項13〜16のいずれか1項に記載の食品。
【請求項18】
前記陸生植物がほうれん草である請求項13〜17のいずれか1項に記載の食品。
【請求項19】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の消化管粘膜保護剤を配合する医薬部外品又は化粧品。
【請求項20】
請求項5〜8のいずれか1項に記載のカベオリン遺伝子発現促進剤を配合する医薬部外品又は化粧品。
【請求項21】
請求項9〜12のいずれか1項に記載の抗ストレス剤を配合する医薬部外品又は化粧品。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−126383(P2007−126383A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319349(P2005−319349)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】