説明

液体供給装置及び液体供給方法

【課題】安定してキャビテーションの発生を防ぎつつ、液体をタンクの液面の高低にかかわらず連続して外部へ供給することができる液体供給装置及び液体供給方法を提供する。
【解決手段】液体が貯留されている液体原材料タンク1と、液体をタンクから移送する移送ポンプ4と、を備えた液体供給装置であって、前記液体とは別の材料を用いて加圧ガスを発生させ、液体原材料タンク1に加圧ガスを供給する加圧ガス発生供給装置19を、更に備える。移送ポンプ4として自吸式のポンプを用い、液体原材料タンク1を移送ポンプ4より低い位置に設置してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンクに貯留されている液体を外部に移送して供給する液体供給装置及び液体供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の液体供給装置として、液体が貯留されたタンクと、このタンク内の液体を液体状態で吸引して取り出すポンプとを備えたものが知られている。上記タンクには、例えば液体運搬車両であるローリーから移送された液体が貯留される。また、この液体供給装置で供給される液体として、例えば、揮発性流体がある。この揮発性流体は、消防法に定められる危険物第4類(引火性液体)に分類される有機溶剤等であり、自動車、船舶等の燃料に用いられるのみならず、製造業をはじめとした様々な産業において液体の原材料として使用されている。そして、使用拠点によっては、一時的に揮発性流体を貯留するタンクが設置されている。しかし、上記タンクとポンプとを備えた従来の液体供給装置では、ポンプの駆動によりタンクから液体を取り出す場合、ポンプの内部や吸込配管内の圧力が液体の飽和蒸気圧以下となることにより液体の沸点が下がって、液体が気化してしまう現象いわゆるキャビテーションが発生するおそれがある。
【0003】
上記ポンプがキャビテーションを起こすか否かの判断基準となるパラメータとして、吸込みヘッド(NPSH:Net Positive Suction Head、以下、「NPSH」という。)がある。このNPSHは、キャビテーションの発生のしにくさを示すものであり、ポンプ流路内の圧力と液体の飽和蒸気圧との差をヘッドに換算したものである。ポンプを備えた液体供給装置では、そのポンプに固有のキャビテーションが発生しないNPSHの最小必要値(以下「必要NPSH」という。)があり、ポンプを実際に運転している運転条件における有効なNPSH(以下「有効NPSH」という。)が必要NPSHを上回らないと、キャビテーションが発生するおそれがある。
【0004】
ここで、上記ヘッドとは、通常、Pa(パスカル)の単位で表される圧力を、水などの液体の高さで何m(メートル)に相当するかに換算して表した値であり、水の場合は水頭又は水頭圧、水以外の液体の場合は液頭又は液頭圧とも呼ばれる。タンク内の液体の液頭圧は、タンク内に貯留された液体の液面の高さ(液位)における液体が底面に及ぼす圧力となる。ヘッドは液体の密度により値が異なり、例えば、大気圧を水の高さ(水換算ヘッド)で表すと、0.101[MPa]=10.3[m]となり、大気圧をエタノールの高さ(エタノール換算ヘッド)で表すと、12.9[m]となる。
【0005】
上記有効NPSHの値は、タンク内の液面の高さによって異なる。つまり、タンク内の液面の高さによってポンプ流路内の圧力が異なり、液面の高さが高い場合(圧力が大きい場合)には有効NPSHの値が大きくなり、液面の高さが低い場合(圧力が小さい場合)には有効NPSHの値は小さくなる。タンク内の液面の高さが低くても、有効NPSHの値をキャビテーションが発生しない必要NPSHの値よりも大きくするために、従来、タンクを地上(ポンプの設置位置)よりも高い位置に設置(或いは、ポンプを地下に埋設)することが行われている。しかし、製造コストや景観などの制約上、タンクをポンプの設置位置よりも上方に設置できない場合がある。すると、タンクの設置位置によっては、タンク内に貯留された液体の液面の高さが高い場合には液体を取り出すことができるが、液面の高さが低くなるにしたがって有効NPSHの値が必要NPSHの値を下回ってキャビテーションが発生し、液体の取り出しができなくなるおそれがあり、タンクの容量を有効に利用できないこととなる。具体的に説明すると、タンク内の液面の高さが高い(満液に近い)状態であれば、有効NPSHの値が大きいので、外部への移送は問題なく行われる。一方、タンク内の液面の高さが低い(空に近い)状態で、有効NPSHの値が必要NPSHの値を下回ると、キャビテーションが発生し、タンク内の液体を外部へ移送できないおそれがある。このため、タンク内の全ての液体を最後まで移送できず、タンクの容量を有効に利用できなくなってしまう。
【0006】
特許文献1には、液化ガスを供給するために、ポンプをタンク設置位置よりも下方に設置することなく、ポンプを有効に機能させることができる液化ガスのガス供給設備が開示されている。このガス供給設備は、メインタンクと、管路を介してメインタンクに接続されたサブタンクと、サブタンク内の液化ガスを気化器側に移送するポンプと、気化器に管路を介して接続されてなる蓄ガス器と、を備えている。メインタンクに貯留された液化ガスは、管路を介してサブタンクに流入し、サブタンクからポンプにより気化器側に移送され、気化器で気化された液化ガスが蓄ガス器に封入される。サブタンクに貯留された液化ガスをポンプの駆動力によって気化器側に移送する際、蓄ガス器内に封入された高圧ガスを、管路を介してサブタンク内に流入(圧入)させることで、液頭圧が低い場合(液面の高さが低い場合)においても、有効に液体状態の液化ガスを気化器側に移送することができる設備構成となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の液化ガスのガス供給装置は、気化した液化ガスが高圧になることで成り立つ装置である。つまり、タンクに貯留された液体の液化ガスをポンプで吸い出した後、気化させて気体として外部に供給するガス供給装置であり、タンクに貯留された液体を液体状態のまま外部に供給する液体供給装置ではない。また、常温で気体の状態を維持できる液化天然ガス等に適用可能なガス供給装置であって、常温で液体の材料に適用することは困難である。このため、例えば、消防法に定められる危険物第4類(引火性液体)第1石油類に分類される、低引火点(低沸点)の揮発性流体を移送する場合に、気化器を用いて揮発性流体自身を気化させ、蓄ガス器に封入するとともに管路を介してタンクに流入させることは可能である。しかし、気化したガスはタンクに流入する過程で冷却されて大部分が液化してしまうため、タンク内に及ぼす圧力としては微圧であり、タンクの液頭圧を補うほどの圧力は確保することができない。従って、タンク内の液頭圧が確保されない場合、有効NPSHの値が必要NPSHの値を下回ってキャビテーションが発生し、連続して外部へ供給することができなくなってしまう。また、タンク内の全ての液体を最後まで移送できずに、タンクの容量を有効に利用できなくなってしまう。
【0008】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、安定してキャビテーションの発生を防ぎつつ、液体をタンクの液面の高低にかかわらず連続して外部へ供給することができる液体供給装置及び液体供給方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、液体が貯留されているタンクと、前記液体を前記タンクから移送するポンプと、を備えた液体供給装置であって、前記液体とは別の材料を用いて加圧ガスを発生させて前記タンクに該加圧ガスを供給する加圧ガス発生供給手段を、更に備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、供給対象の液体とは別の材料を用いて加圧ガスを発生させ、この加圧ガスをタンク内に供給することにより、タンクの内圧が上がって液面に圧力がかかる。この圧力により、タンクからポンプまでの流路内の圧力が上がり、ポンプの入力側の有効NPSHの値をキャビテーションが発生しない必要NPSHの値より大きく維持しておくことが可能となる。これにより、安定してキャビテーションの発生を防ぎつつ、液体をタンクの液面の高低にかかわらず連続して外部へ供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る液体供給装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る液体供給装置の概略構成を示す図である。本実施形態に係る液体供給装置は、製造工場に液体の原材料(以下、「液体原材料」という。)を供給するために使用され、液体原材料貯蔵施設に設置されるものである。
図1に示すように、本実施形態に係る液体供給装置は、原材料の液体が貯留された液体原材料タンク1と、この液体原材料タンク1と第1の管路2及び第2の管路3を介して接続された移送ポンプ4とを備えている。液体原材料タンク1は、液体原材料が貯留される容器である。また、この液体原材料タンク1は、液体原材料ローリー5から液体原材料を液体原材料タンク1に供給する第3の管路6に接続されている。この管路6は受入れポンプ7aに接続され、第4の管路8を介して液体原材料タンク1に液体原材料を供給するものである。受入ポンプ7aとしては、遠心式、軸流式、斜流式、回転式、往復式等が挙げられる。
【0013】
なお、第3の管路6の中途部には、第1の逆止弁9が取付けられており、管路6に流入した液体原材料が、原材料ローリー5方向に逆流するのを防止している。逆止弁9としては、スイング式、ウエハー式、リフト式、ボール式、フート式等が挙げられる。
【0014】
また、受入ポンプ7aには、図1中に点線で示すように、運転スイッチ7bが接続されている。運転スイッチ7bとしては、押ボタン式、セレクタ式等が挙げられ、この運転スイッチ7bにより、受入ポンプ7aの運転、停止を行うことができる。
【0015】
移送ポンプ4は、液体原材料タンク1内の液体原材料を第1の管路2を介し液体状態で吸引し、下流側に移送するものである。移送ポンプ4としては、遠心式、軸流式、斜流式、回転式、往復式等が挙げられる。この第1の管路2の中途部には、第2の逆止弁10が取付けられており、管路2に流入した液体原材料が、液体原材料タンク1方向に逆流するのを防止している。逆止弁10としては、スイング式、ウエハー式、リフト式、ボール式、フート式等が挙げられる。また、この移送ポンプ4は、上述したように、第2の管路3を介して液体原材料タンク1に接続されている。この第2の管路3は、移送ポンプ4からの送液を、液体原材料タンク1側に戻すために配管されたものである。この第2の管路3の中途部には、第1の手動弁11が取り付けられている。手動弁11としては、ゲート式、グローブ式、バタフライ式、ニードル式、ストップ式等が挙げられる。この手動弁11の開度を調整することで、第2の管路3を流れる液体原材料の流量を調整する。この流量の調整により、移送ポンプ4の温度上昇を防ぐための最小流量を確保している。
【0016】
そして、移送ポンプ4は、第5の管路12を介して製造工場に接続され、液体原材料を供給する。このとき、第5の管路12の中途部に取付けられている第2の手動弁13の開度を調整することで、第5の管路12を流れる液体原材料の流量を調整する。手動弁13としては、ゲート式、グローブ式、バタフライ式、ニードル式、ストップ式等が挙げられる。この流量の調整により、液体原材料が製造工場に流入する量を調整している。また、第5の管路12の中途部には、第3の逆止弁14が取付けられており、移送ポンプ4で送液された液体原材料が、移送ポンプ4方向に逆流するのを防止している。逆止弁14としては、スイング式、ウエハー式、リフト式、ボール式、フート式等が挙げられる。さらに、第5の管路12の中途部で、且つ第2の手動弁13の下流側に、第6の管路15が接続されており、末端に、第1の安全弁16が取付けられている。安全弁16としては、揚程式、全量式等が挙げられる。この第1の安全弁16は、吹き出し側が第7の管路17を介し、第2の管路3に接続されており、第5の管路12内の液体原材料の温度変化による体積膨張等により、配管内圧が上昇した場合、第7の管路17側に吹き出すことで、配管保護としての機能を果たしている。
【0017】
本実施形態の液体供給装置では、液体原材料タンク1に、第8の管路18を介して接続された加圧ガス発生供給手段としての加圧ガス発生供給装置19を有している。この加圧ガス発生供給装置19は、加圧ガスを発生させると共に、液体原材料タンク1に加圧ガスを供給するものである。加圧ガス発生供給装置19としては、遠心圧縮機、軸流圧縮機、往復圧縮機、ダイヤフラム式圧縮機、スクリュー圧縮機等が挙げられる。これらの圧縮機を用いて、大気中の空気を圧縮して圧縮エアーを発生させ、後述する圧力制御装置30で圧力調整を行いながら、液体原材料タンク1に供給する。
【0018】
なお、上記特許文献1のガス供給装置において、酢酸エチルを貯留するとした場合、蓄ガス器に封入した酢酸エチルの気化ガスを、液化を防ぎつつ、サブタンクの液頭圧を補うだけの圧力になるまで圧縮すると、気化ガスの温度が上昇するおそれがある。これに対して、本実施形態の液体供給装置では、液体原材料タンク1を加圧するガスは、貯留されている酢酸エチルから生成されるわけではなく、大気中の空気から生成される。このため、液体原材料タンク1の液頭圧を補うだけの圧力になるまで圧縮しても圧縮エアーの温度はさほど上昇しない。
【0019】
本実施形態に係る液体供給装置において、液体原材料タンク1は、地下等、移送ポンプ4よりも低い位置に設置されている。また、移送ポンプ4として自吸式のポンプを用いている。自吸式の移送ポンプ4としては、遠心式、容積式等が挙げられる。なお、自吸式ポンプは、初期運転時にポンプにだけ呼び水(水を満水させる)をすることで、運転が始まると、ポンプ自身の力で吸込管の空気を排出し、揚水できるポンプを指し、一度ポンプ内に呼び水を行えば、断続的に運転したとしても、その際の呼び水は不要である。これに対して、通常の遠心ポンプでは、運転の度にポンプの吸込管とポンプ内に呼び水を行う必要がある。
【0020】
また、本実施形態に係る液体供給装置では、第8の管路18の中途部及び、第9の管路23の中途部に、圧力制御装置としての圧力制御装置30が取付けられ、加圧ガス発生供給装置19から供給された加圧ガスの流量を調整し、液体原材料タンク1内の圧力を一定に保つ役割を担っている。圧力制御装置30の一例として、図1に示すように、減圧弁20と、この減圧弁20の上流側、下流側に、減圧弁20の前後の圧力を計測する、第1の圧力計21a、第2の圧力計21bと、第2の圧力計21bの液体原材料タンク1側に流量調整弁29と、第9の管路23の中途部に背圧弁24と、液体原材料タンク1に圧力計22aとを備えている。流量調整弁29と、圧力計22aとは、図示しない制御盤に接続され、液体原材料タンク1内の圧力が下降した場合、圧力計22aで計測される圧力が所要の圧力に到達するまで、流量調整弁29を開放する。これらは、所定のプログラムにより、自動的に制御されるものである。液体原材料タンク1内の圧力が上昇した場合は、背圧弁24を所要の圧力に設定しておくことにより、設定値以上の圧力になると開放され、液体原材料タンク1内の圧力が一定に保たれる。圧力制御装置30としては、液体原材料タンク1内の圧力を一定に保つことができるものであればよく、上記構成に限定されるものではない。
【0021】
液体原材料タンク1内の液位が下降した場合であっても、液頭圧を十分確保し、移送ポンプ4におけるキャビテーションの発生を防止するためには、液体原材料タンク1内を30[kPa]以上に加圧することが望ましい。しかし、液体原材料タンク1の許容圧力は70[kPa]であるため、加圧ガス発生供給装置19からの供給ガス圧力を、それ以下に減圧することが必要である。また、液体原材料タンク1内の圧力を必要以上に高くすると、内容物(液体)に、加圧している気体が溶解し易くなり、移送ポンプ4にて移送する際、液体中に溶解している気体が気泡となることに起因するキャビテーションが発生してしまうため、液体原材料タンク1内の圧力は、30〜40[kPa]であることが好ましい。
【0022】
ここで、液体原材料タンク1よりも上に移送ポンプ4を設置した場合、上記有効NPSHは次の式1で表される。
【0023】
有効NPSH=(Ps−Pv)/ρg−hs−Δh・・・式1
ここで、
Ps:吸込液面に作用する絶対圧力[Pa]、開放タンクの場合は大気圧、圧力タンクの場合は内圧
Pv:液体の飽和蒸気圧[Pa]
ρ:比重[kg/m]
g:自由落下の加速度[m/s]
hs:吸込液面からポンプ基準面までの高さ[m]
Δh:吸込配管の損失ヘッド[m]
【0024】
上記式1において、液体原材料タンク1内の液位が下降すると、吸込液面からポンプ基準面までの高さ(hs)の値が大きくなって有効NPSHの値が小さくなるが、液体原材料タンク1に加圧ガスを供給することにより吸込液面に作用する圧力(Ps)が大きくなるので、有効NPSHの値をキャビテーションが発生しない必要NPSHの値よりも大きくするように維持することができる。
【0025】
また、加圧ガス発生供給装置19は、不活性ガス発生供給装置であってもよい。これにより、製造工場に供給される液体原材料が、低引火点の揮発性流体であっても、安全に貯留、移送することができる。不活性ガスとしては、窒素、及び、ヘリウム、ネオン、アルゴンをはじめとする第18族元素等が挙げられる。製造コストや精製コストを考慮しつつ、化学反応を防ぐために物質に対して不活性なものを選択することが必要であり、液体原材料タンク1に貯留する液体が、低引火点の揮発性流体である場合、それは窒素であることが望ましい。
上記揮発性流体としては、例えば、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン(MEK:Methyl Ethyl Ketone)などがある。また、上記不活性ガス発生供給装置として、圧縮された不活性ガスとしての窒素ガスが充填された窒素ガスボンベを用いたり、液体窒素が充填された液体窒素タンクと気化器とを用いたりすることにより、窒素を発生させることができる。
【0026】
次に、本実施形態に係る液体供給装置の動作について、工程順に説明する
先ず、液体原材料タンク1に液体原材料を受け入れる(受入工程)。運転スイッチ7bをONすると、受入ポンプ7aが運転する。原材料ローリー5が第3の管路6に接続された状態で、受入ポンプ7aを運転すると、液体原材料は原材料ローリー5から受入ポンプ7aにより取り出され、第3の管路6から第4の管路8を通り、液体原材料タンク1に貯留される。液体原材料タンク1内の液体原材料の液位は、液面計22bで計測され、表示器22cにて確認できる。
【0027】
次に、液体原材料タンク1に加圧ガスを充填する(加圧工程)。減圧弁20を所要の圧力に設定し、加圧ガス発生供給装置19を運転する(継続運転)と、第8の管路18を通り、調圧された加圧ガスが液体原材料タンク1に流入する。このとき、流量調整弁29は圧力計22aで計測された値に基づき、制御された開度となっている。また、背圧弁24を、減圧弁20と同様、所要の圧力に設定することで、圧力計22aで計測される圧力が、減圧弁20及び背圧弁24で設定した圧力に到達すると、流量調整弁29が閉となり、所要の圧力で均衡する。この状態で、液体原材料タンク1に液体原材料の受入れがあった場合、空間容積減少により、本来であれば液体原材料タンク1内の圧力は上昇するが、背圧弁24が増圧分を大気に開放することで、液体原材料タンク1内部は所要の圧力に保たれる。また、同様に液体原材料の取り出しがあった場合、本来であれば空間容積が増加することにより液体原材料タンク1内の圧力は減少するが、所定のプログラムにより、流量調整弁29が開となり、加圧ガス発生供給装置19より、調圧された加圧ガスが供給され、所要の圧力に保たれる。液体原材料タンク1内の圧力は、第3の圧力計22aで計測され、表示器22cにて確認できる。
【0028】
液体原材料タンク1を所要の圧力にて加圧した状態で、移送ポンプ4を駆動させ、液体原材料タンク1から液体原材料を取り出す(取り出し工程)。移送ポンプ4が駆動すると、液体原材料タンク1に貯留された液体原材料は、液体の状態で第1の管路2を通って取り出され、この取り出された液体原材料は、上述した移送ポンプ4を保護するための最小流量分は、第2の管路3を通り、液体原材料タンク1へ、それ以外は第5の管路12を通り、製造工場へ移送される。ここで、移送ポンプ4の駆動により、液体原材料タンク1内の液体原材料の液位が下降し、内部の圧力が低下した場合であっても、圧力制御装置30により液体原材料タンク1内は所要の圧力に保たれているので、常に液面に圧力がかかり、液頭圧を十分確保することが可能となり、キャビテーションの発生を有効に防止することができる。なお、加圧ガス発生供給装置19からの加圧ガスを液体原材料タンク1に供給する工程は、移送ポンプ4の駆動とは無関係に行われているものであり、液体原材料タンク1に貯留された液体原材料の液面が上方に位置する場合であっても、液体原材料タンク1内の圧力が所要の圧力に満たない場合には、所定のプログラムにより、流量調整弁29が開となり、第8の管路18より、加圧ガスが供給される。従って、液体原材料タンク1を移送ポンプ4の設置位置よりも低い位置(例えば、地下)に設置することができる。
【0029】
次に、上記構成の液体供給装置にて、実際に液体原材料を貯蔵し製造工場へ移送した実施例及び比較例について説明する。
表1は実施例1〜5、比較例1の液体原材料タンク及び移送ポンプ等の条件を示す。また、表2は実施例1〜5、比較例1の結果を示す。
【0030】
【表1】


【表2】

【0031】
〔実施例1〕
ステンレス製で、容量50,000[L]の液体原材料タンク1を地上に設置し、移送ポンプ4には、全揚程55.0[m]、定格流量90[L/min]、ポンプ固有のNPSH3.30[m]、出力7.5[Kw]の遠心式ポンプを用い、液体原材料タンク1の内容物を、純度99.8[%]以上の酢酸エチルとし、液体原材料タンク1内を加圧ガス発生装置として、スクリューコンプレッサーを用いて加圧し、製造工場への移送テストを実施した結果、50,000[L]を100[%]として、98[%]移送することができた。
【0032】
なお、上記ポンプ固有の必要NPSHは、前記有効NPSHとは異なり、必要有効吸込みヘッド(NPSH−R:Net Positive Suction Head Required、以下、「NPSH−R」ともいう。)と呼ばれるものである。液体供給装置では、ポンプが必要とする最小必要限の吸込側ヘッド(NPSH−R)がないと、キャビテーションを起こしてしまう。このため、キャビテーションを発生させないためには、有効NPSHが必要NPSHであるNPSH−Rよりも大きくなければならない。
【0033】
〔実施例2〕
上記実施例1における液体原材料タンク1はタンク内の液温を例えば40[°C]前後で安定させることにより、内容物の温度上昇により蒸気圧が上昇し、有効NPSHが不利になるという状況がみられた。つまり、上記式1において、液温が上昇すると飽和蒸気圧(Pv)が大きくなり、有効NPSHの値が小さくなって、キャビテーションの発生において不利になる。このため、本実施例2では、液体原材料タンク1を地下に設置し、実施例1に記載の移送ポンプ4で製造工場への移送テストを実施した。その結果、タンク内の液温が例えば15[°C]前後で安定し、内容物の温度上昇により蒸気圧が上昇することなく、有効NPSHが不利になるという状況が改善され、キャビテーションが発生することなく、50,000[L]を100[%]として、99[%](液体原材料タンク1内に挿入している吸込管の末端まで)移送することができた。しかしながら、運転の度に呼び水を行う作業が必要であった。
【0034】
〔実施例3〕
上記実施例2の条件において、移送ポンプ4を遠心式から自吸式に変更し、製造工場への移送テストを実施した。その結果、キャビテーションが発生することなく、50,000[L]を100[%]として、99[%](液体原材料タンク1内に挿入している吸込管の末端まで)移送することができた。また、移送ポンプ4への呼び水は初期運転時に一度行うのみとなり、運転の度に行う作業が不要となった。また、液体原材料タンク1内の圧力は、設定値±5[kPa]となり、移送ポンプ4の移送先である製造工場において、計量精度はポンプカタログ値である±2.0[%]であった。
【0035】
〔実施例4〕
圧力制御装置として、実施例1記載の加圧ガス発生供給装置19と、液体原材料タンク1の間に減圧弁20と圧力調整弁29、液体原材料タンク1に圧力計22aと背圧弁24を設置し、圧力計22aの値により、圧力調整弁29と背圧弁24により、液体原材料タンク1内の圧力を自動制御することで、液体原材料タンク1内の圧力を一定に制御し、実施例3記載の条件にて、製造工場への移送テストを実施した。その結果、キャビテーションが発生することなく、50,000[L]を100[%]として、99[%]移送することができ、且つ、上記圧力制御によって原材料タンク1内の圧力を設定値±1[kPa]以内に収めることにより、移送ポンプ4からの移送先である製造工場において、計量精度を±1.0[%]以内にすることができた。しかし、液体原材料タンク1内の内容物である純度99.8[%]以上の酢酸エチルを、3ヶ月間保管したところ、液体原材料タンク1内の水分と反応し、酢酸とエタノールに加水分解した。ただし、製造工場における原材料としては使用可能である。
【0036】
〔実施例5〕
上記実施例4記載の条件において、加圧ガス発生供給装置19を、不活性ガスである窒素を発生し、供給する装置として、製造工場への移送テストを実施した。その結果、キャビテーションが発生することなく、50,000[L]を100[%]として、99[%]移送することができた。また、液体原材料タンク1内において、純度99.8[%]以上の酢酸エチルを12ヶ月間保管したが、物性に変化は無く、液体原材料タンク1内での長期安定保管が可能となった。
【0037】
〔比較例1〕
ステンレス製で、容量50,000[L]の液体原材料タンク1を地上に設置し、移送ポンプ4には、全揚程55.0[m]、定格流量90[L/min]、ポンプ固有のNPSH3.30[m]、出力7.5[Kw]の遠心式ポンプを用い、液体原材料タンク1の内容物を、純度99.5[%]以上の酢酸エチルとし、液体原材料タンク1内を加圧せず、製造工場への移送テストを実施した。その結果、50,000[L]を100[%]として、80[%]を移送した時点で、移送ポンプ4内でキャビテーションが発生し、移送不能となった。
【0038】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
酢酸エチルなどの液体が貯留されている液体原材料タンク1などのタンクと、液体を液体原材料タンク1から移送する移送ポンプ4と、を備えた液体供給装置であって、供給対象の液体とは別の材料を用いて圧縮エアーなどの加圧ガスを発生させ、液体原材料タンク1に加圧ガスを供給する加圧ガス発生供給装置19などの加圧ガス発生供給手段を、備える。これによれば、液体原材料タンク1に、加圧ガス発生装置19から圧縮エアーを供給し、液体原材料タンク1内の酢酸エチルの液位がタンクの底部まで下降して液頭圧が低くなった場合においても、圧縮エアーのエアー圧により液面の圧力を上昇させる。これにより、管路2内の圧力が上昇し、移送ポンプ4の入力側の有効NPSHの値を、キャビテーションが発生しない必要NPSHの値よりも大きくなるように維持しておくことが可能となる。よって、安定してキャビテーションの発生を防ぎつつ、酢酸エチルなどの液体を液体原材料タンク1の液面の高低にかかわらず連続して外部の工場へ供給することができる。また、液体原材料タンク1を移送ポンプ4よりも高い位置に配置しなくてもよいので、液体原材料タンク1の設置コストを抑制することもできる。また、液体原材料タンク1内の全ての酢酸エチルなどの供給対象の液体を最後まで移送できるので、液体原材料タンク1の容量を有効に利用することができる。
(態様B)
上記態様Aにおいて、移送ポンプ4として自吸式のポンプを用い、液体原材料タンク1を移送ポンプ4より低い位置に設置した。これによれば、液体原材料タンク1を地下に埋設することも可能となる。このように、液体原材料タンク1を地下に埋設した場合には、大気の温度に左右されることを防止し、液体原材料タンク1の内容物の温度上昇により蒸気圧が上昇し、有効NPSHが不利になる(値が小さくなる)という状況を回避することができる。また、地上に露出した状態で設置された液体原材料タンク1を目視する近隣住民の不安を解消することもできる。さらに、移送ポンプ4を自吸式とするため、液体原材料タンク1が移送ポンプ4よりも下部に設置された場合においても、酢酸エチルを吸上げながら外部に移送することができる。
(態様C)
上記態様A又はBにおいて、加圧ガス発生供給装置19と液体原材料タンク1とを接続する第8の管路18などの管路の中途部に、管路18を流れる圧縮エアーの圧力を所定の圧力に制御する圧力制御装置30を備えた。これによれば、加圧ガス発生供給装置19から供給される圧縮エアーの圧力を調整して液体原材料タンク1に供給するので、液体原材料タンク1の圧力を所定の圧力に保つことができる。なお、液体原材料タンク1内の圧力を圧力制御装置30にフィードバックしたり、第9の管路23の背圧弁24を開閉制御したりすることにより、液体原材料タンク1内の圧力を設定した圧力に保つことができる。さらに、液体原材料タンク1内の圧力を設定した所定の圧力に保つことで、移送ポンプ4によって液体が移送される移送先である製造工場での計量精度を高めることも可能となる。
(態様D)
上記態様A乃至Cのいずれかにおいて、加圧ガス発生供給装置19で発生するガスは、不活性ガスである。これによれば、製造工場に供給される液体原材料が、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトンなどの低引火点の揮発性流体であっても、不活性ガスは化学反応を起こさないため、液体原材料を安全に貯留、移送することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 液体原材料タンク
2 管路
3 管路
4 移送ポンプ
5 原材料ローリー
6 管路
7a 受入ポンプ
7b 運転スイッチ
8 管路
9 逆止弁
10 逆止弁
11 手動弁
12 管路
13 手動弁
14 逆止弁
15 管路
16 安全弁
17 管路
18 管路
19 加圧ガス発生供給装置
20 減圧弁
21a 圧力計
21b 圧力計
22a 圧力計
22b 液面計
23 管路
24 背圧弁
25 逆火防止装置
26 管路
27 安全弁
28 逆火防止装置
29 流量調節弁
30 圧力制御装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
【特許文献1】特開2007−9982号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が貯留されているタンクと、
前記液体を前記タンクから移送するポンプと、を備えた液体供給装置であって、
前記液体とは別の材料を用いて加圧ガスを発生させて前記タンクに該加圧ガスを供給する加圧ガス発生供給手段を、更に備えたことを特徴とする液体供給装置。
【請求項2】
請求項1の液体供給装置において、
前記ポンプとして自吸式のポンプを用い、
前記タンクを前記ポンプより低い位置に設置したことを特徴とする液体供給装置。
【請求項3】
請求項1又は2の液体供給装置において、
前記加圧ガス発生供給手段と前記タンクとを接続する管路の中途部に、該管路を流れる前記加圧ガスの圧力を所定の圧力に制御する圧力制御装置を備えたことを特徴とする液体供給装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの液体供給装置において、
前記加圧ガス発生供給手段で発生する加圧ガスは不活性ガスであることを特徴とする液体供給装置。
【請求項5】
タンクに貯留されている液体をポンプで移送して供給する液体供給方法であって、
前記液体とは別の材料を用いて加圧ガスを発生させるステップと、
前記加圧ガスを前記タンクに供給するステップとを有することを特徴とする液体供給方法。
【請求項6】
請求項5の液体供給方法において、
前記ポンプとして自吸式のポンプを用い、
前記ポンプよりも低い位置に設置された前記タンクから前記液体を吸い上げて移送することを特徴とする液体供給方法。
【請求項7】
請求項5又は6の液体供給方法において、
前記タンクに供給する前記加圧ガスの圧力を所定の圧力に制御するステップを、更に有することを特徴とする液体供給方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかの液体供給方法において、
前記加圧ガスは不活性ガスであることを特徴とする液体供給方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−47105(P2013−47105A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185677(P2011−185677)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】