液体収容体
【課題】 収容した液体を撹拌させる撹拌移動体を有する液体収容体において、撹拌移動体による撹拌性をさらに向上させた液体収容体を提供する。
【解決手段】 本発明に係るインクカートリッジ500は、インクを収容する液体収容部270,294と、液体収容部270,294と外部とを連通させたインク供給部160とを備え、液体収容部270,294には撹拌移動体711が収容されており、撹拌移動体711は、外形中心の位置に対して重心の位置がずれており、液体収容部270,294内で不規則に転動する。
【解決手段】 本発明に係るインクカートリッジ500は、インクを収容する液体収容部270,294と、液体収容部270,294と外部とを連通させたインク供給部160とを備え、液体収容部270,294には撹拌移動体711が収容されており、撹拌移動体711は、外形中心の位置に対して重心の位置がずれており、液体収容部270,294内で不規則に転動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に収容した液体を外部に供給する液体収容体に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置の一例として挙げられるインクジェット式記録装置は、インクを収容したインクカートリッジが装着されることにより、当該インクカートリッジからインクの供給を受けて、被印刷物にインクを吐出して印刷を行う。インクジェット式記録装置に用いられるインクの種類には、染料系と顔料系があり、顔料系インクは、溶媒中に顔料等の分散粒子を均一に分散させて混合されたものである。このような顔料系インクは、長期間にわたって印刷が行われず、インク収容室内においてインクが循環しない状態に置かれると、溶媒と分散粒子との比重差で分散粒子が沈降する性質がある。
【0003】
このような分散粒子の沈降に対して、インクの濃度を一定に維持するためにインクを撹拌するインクジェット式記録装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載されたインクジェット式記録装置は、ノズル開口からインク適を吐出するインクジェット式記録ヘッドと、該記録ヘッドを非印刷物に対して相対的に移動させるキャリッジと、前記記録ヘッドにインクを供給するインクカートリッジとを備え、前記インクカートリッジにインクよりも比重が大きな材料により形成された移動体が収容されていて、前記移動体が前記インクカートリッジ内のインクに沈澱が生じるよりも短い周期で移動されるものである。
【0004】
【特許文献1】特開平9−309212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インクカートリッジに収容された移動体の形状は、一般に滑らかな球形とされている。移動体が球形であればカートリッジ内で転動して移動し易く、その移動による排水作用でインクの撹拌を行うことができるが、その反面、自身の回転によってインクを撹拌する作用は小さい。
【0006】
本発明は、収容した液体を撹拌させる撹拌移動体を有する液体収容体において、撹拌移動体による撹拌性をさらに向上させた液体収容体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することのできる本発明に係る液体収容体は、液体を収容する液体収容部と、前記液体収容部と外部とを連通させた液体供給部とを備え、前記液体収容部には撹拌移動体が収容された液体収容体であって、前記撹拌移動体は、不規則に転動する構成をなしていることを特徴としている。
【0008】
このような構成の液体収容体によれば、撹拌移動体が不規則に転動して移動するため、周囲の液体に対して様々な方向に不規則な力を作用させることができ、単純な球形の撹拌移動体と比較して良好な撹拌作用を得ることができる。
【0009】
また、上記課題を解決することのできる本発明に係る液体収容体は、液体を収容する液体収容部と、前記液体収容部と外部とを連通させた液体供給部とを備え、前記液体収容部には撹拌移動体が収容された液体収容体であって、前記撹拌移動体は、表面に凹部または凸部の少なくとも一方が形成されていることを特徴としている。
【0010】
このような構成の液体収容体によれば、撹拌移動体が単純に転動した場合であっても、撹拌移動体の表面に形成された凹部や凸部により周囲の液体を撹拌する作用が生じるため、単純な球形の撹拌移動体と比較して良好な撹拌作用を得ることができる。
【0011】
また、本発明に係る液体収容体において、前記撹拌移動体は、自身の外形に対する形状中心の位置と重心の位置とが異なっていることが好ましい。これにより、外形が球形であっても、他の形状であっても、撹拌移動体が不規則に転動する構成とすることができる。
【0012】
また、本発明に係る液体収容体において、前記撹拌移動体は、楕円球形状をなし、長径に対する短径の比が0.9以下であることが好ましい。このような形状の撹拌移動体を用いることで、良好な撹拌作用を得るための不規則な転動を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、収容した液体を撹拌させる撹拌移動体を有する液体収容体において、撹拌移動体による撹拌性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の液体収容体は、液体噴射装置の液体噴射ヘッドに液体を供給するのに適したものである。ここで言う液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式記録装置の液体噴射ヘッド(印字ヘッド)、液晶ディスプレイのカラーフィルタを製造するカラーフィルタ製造装置の色剤噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極材(導電ペースト)噴射ヘッド、さらにはバイオチップを製造するバイオチップ製造装置の生体有機物噴射ヘッド及び精密ピペットしての試料噴射ヘッドなどが該当する。
【0015】
以下、本発明に係る液体収容体の実施の形態の例を、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態では、液体収容体の一例として、インクジェット式記録装置に対して着脱して用いられるインクカートリッジについて説明する。
図1は、本実施の形態のインクカートリッジ500の斜視図である。
図2及び図3は図1のインクカートリッジ500を斜め下方からみた背面斜視図で、図2はインクカートリッジ500のカートリッジ本体120の表面にフィルム110が貼り付けられる前の状態を示し、図3はインクカートリッジ500のカートリッジ本体120にフィルム110が貼り付けられた状態を示す。さらに、図4及び図5は、インクカートリッジ500を構成する部材を分解して示す分解斜視図である。
【0016】
図1及び図3に示した矢印Xは、インクジェット式記録装置の液体噴射ヘッド(印字ヘッド)の往復移動方向を示している。
図6は、図1のインクカートリッジ500の背面図であり、図1のインクカートリッジ500においてフィルム110が貼り付けられる前の状態を示す。図7は、図1のインクカートリッジ500の正面図であり、インクカートリッジ500の開口部122にフィルム130が貼り付けられる前の状態を示す。図8は、図1のインクカートリッジ500の正面図であり、インクカートリッジ500の開口部122にフィルム130が貼り付けられた後の状態を示す。
【0017】
図4及び図5に示すように、本実施の形態のインクカートリッジ500は、インクジェット式記録装置の液体噴射ヘッド(印字ヘッド)の往復移動方向に対向する正面に開口部122を有する有底の略筐体形状のカートリッジ本体120、この開口部122のほぼ全面を覆うフィルム130、及び、このフィルム130の外側を覆う蓋体140を備える。
【0018】
カートリッジ本体120は合成樹脂による一体成形品で、カートリッジ本体120の内部は、後述のように隔壁又はリブにより、開口部122側(即ち、印字ヘッド)の往復移動方向に対向する面)が開放した複数の凹部270a,292a,294aに複数の凹部270a,292a,294aに複数の凹部270a,292a,294aに区画されている。
これらの各凹部270a,292a,294aの開放面は、フィルム130によって気密に塞がれて、インクを収容するインク収容部270,292,294を形成する。
【0019】
更に詳述すると、フィルム130は、カートリッジ本体120よりも融点の低い透明又は半透明の樹脂製フィルムで、凹部270a,292a,294aを区画している隔壁又はリブに融着されることで、各インク収容部270,292,294を画成している。
なお、フィルム130の融着処理の前に、凹部270a,294aには、収容したインクを撹拌するための撹拌移動体711が投入される。撹拌移動体711が投入される。撹拌移動体711が投入される。
【0020】
蓋体140は、さらにフィルム130の外側を非密閉状態で被覆するようにカートリッジ本体120に固定される。
【0021】
カートリッジ本体120は、インクを収容するインク収容部111(図7参照)と、インク収容部111からインク供給部(液体供給部)160までのインク流路部と、インク収容部111を大気に連通させるインク側通路、大気弁収容部、及び大気側通路からなる大気連通部とを備え、例えばポリプロピレン(PP)により一体成形されている。
【0022】
インクカートリッジ500はさらに、インク供給制御手段150と、インク供給部160と、記憶手段170と、係合レバー180とを有する。
インク供給部160は、カートリッジ本体120の下面に配され、インクカートリッジ500が装着されるキャリッジに形成されたインク供給針が挿入されて、インク収容部111に収容されたインクをインクジェット式記録装置の記録ヘッドへ供給する。
【0023】
記憶手段170は、取付部190に加締められ、この取付部190は、カートリッジ本体120の側面の下方に加締められて取り付けられる。
また、記憶手段170は、インクカートリッジ500の種類の情報、インクカートリッジ500が保持するインクの色の情報、及び、インクの現存量等の情報を記憶し、表面に露出した複数の端子171により装置本体との間でこれらの情報を受け渡す。係合レバー180は、カートリッジ本体120における取付部190と対向する側面の上部に成形され、インクジェット式記録装置のキャリッジと係合する。取付部190の側面は、キャリッジに形成された図示しないリブにより規制されて、上記端子171とキャリッジ側の弾性接点とが確実に当接するように構成されている。
【0024】
インク供給制御手段150は、インクの消費に伴って発生するインク収容部111とインク供給部160との圧力差により、インク収容部111のインクをインク供給部160へ供給する差圧弁から構成されている。インク供給制御手段150は、弾性変形可能であって、カートリッジ本体120の凹部495に挿入される弁部材の一例である膜弁900と、凹部495を覆う弁蓋151と、膜弁900及び弁蓋151の間に配される付勢部材の一例としてのコイルバネ907とを有する。
【0025】
本発明に係る液体収容部であるインク収容部111は、図7に示したように水平方向に延びる隔壁272により、上部と下部とに大きく分割され、この隔壁272の下部には連通孔242により大気と連通可能な大気側収容部270が、また上部には大気から遮断された2つの第1インク収容部292及び第2インク収容部294からなる供給側収容部290が形成されている。
【0026】
供給側収容部290は、隔壁272の近傍(下部領域)に連絡流路(連通部)276を有する鉛直な隔壁271により、第1、及び第2インク収容部294、294の2つに分割され、また第2インク収容部294に周りを囲まれるように配された流路部296が形成されている。
流路部296は下部の連絡流路278を介して、第2インク収容部294と接続されるとともに、通路298及び通孔918を介してインク供給制御手段150に接続されている。
【0027】
隔壁271は、隔壁272との間に下連絡流路276及び上面との間に上連絡流路277を有する。上連絡流路277の流路抵抗は、下連絡流路276の流路抵抗よりも小さい。
【0028】
また、第2インク収容部294には、短尺で鉛直な隔壁288が設けられ、隔壁288と隔壁272との間が流路279となっている。供給側収容部290及び大気側収容部270は、それぞれ上液体収容部及び下液体収容部で、本発明における液体収容部の一例である。
【0029】
また、インク供給制御手段150の下流側は、インク供給制御手段150と連通する通孔910、通孔910と連通する流路321、流路321の一端に形成され、表面側に向けて形成された通孔323、及び、通孔323と一端が連通した連通部304を介して、インク供給部160と連通するよう構成されている。
【0030】
大気側収容部270と第1インク収容部292とは垂直方向に延びる連絡流路295及び大気側収容部270の底面を貫通する連通部162(図2)を介して連通されている。従って、インク供給部160からインクが消費されると、それに対応して大気側収容部270のインクが第1インク収容部292に吸い上げられ、ここから第2インク収容部294、流路部296等を介してインク供給制御手段150に流れ込むように構成されている。
【0031】
インク収容部111の大気側収容部270からインク供給制御手段150へは、連絡流路274、連通部162、連通孔163、連絡流路295、連絡流路276,278、流路部296、通路298、及び通孔918をこの順に通ってインクが流れ込む。連通部162及び連通孔163及び連絡流路295は、本発明における連絡流路の一例である。
【0032】
大気弁連通部624を境として大気と連通する側である大気側通路は、図6に示す開口212、蛇行した通路214、フィルタ収容部216、連通孔218及び連通部222、連通部222の側面に形成された通孔652b、及び押圧部材収容室652により構成されている。
【0033】
詳細には、図6に示すように、カートリッジ本体120の表側に形成された迷路状に蛇行した1本の通路214の一端は開口212として大気に開放され、他端は撥インク性と通気性の機能を備えたフィルタ215(図4、図5)が収容されたフィルタ収容部216に接続されている。
フィルタ収容部216は、カートリッジ本体120の表側から裏側に貫通する連通孔218と連通する。連通孔218は、カートリッジ本体120の裏側において連通部222、及び連通部222の側面に形成された通孔652bを介して押圧部材収容室652と接続している。通路214の途中には、凹部からなるチャンバ930が設けられている。
【0034】
一方、図7に示すように大気弁連通部624を境としたインク側通路は、大気弁室669、連通孔238、連通溝240、及び連通孔242で形成されてインク収容部111の大気側収容部270と連通する。
【0035】
カートリッジ本体120の裏側から表側に貫通する連通孔238は、連通孔238と連通する連通溝240、連通溝240と連通すると共にカートリッジ本体120の表側から裏側に貫通する連通孔242を介して大気側収容部270と連通する。
【0036】
これらの大気側収容部270、供給側収容部290、大気弁室669、及び大気側通路、インク側通路は、それぞれを区画する隔壁にインク側通路は、それぞれを区画する隔壁にインク側通路は、それぞれを区画する隔壁にフィルム130、110を熱溶着などの方法で貼着することにより大気と隔離された領域となる。
【0037】
インク供給部160は、キャリッジに設けられたインク供給針が挿入される挿入口26を有するエラストマ等から形成されたシール部材12と、シール部材12の挿入口26を塞ぐ供給弁13と、供給弁13をシール部材12に向けて付勢するコイルスプリング等からなる付勢部材14とを有する。なお、シール部材12の挿入口26には、工場出荷時において、フィルム604が貼り付けられている。
【0038】
インクカートリッジ500がインクジェット式記録装置のキャリッジに装着されると、キャリッジに設けられた凸部がフィルム480及び大気弁押圧部材654を介して大気弁650を上方に押し上げるとともに、キャリッジのインク供給針がインク供給部160の供給弁13を上方に押し上げる。
この結果、大気弁連通部624は、大気弁室669から連通孔242までの大気流路を大気と連通する。また、インク供給部160における供給弁13より上流は、インク供給針と連通する。
【0039】
連通孔242が大気と連通している状態において、インクジェット式記録装置が記録を始めると、インク供給部160からインク供給針を通して記録ヘッドへインクが供給される。インク供給部160からインクが供給されると、インク収容部111において図7に示す矢印a、通孔918の順に流れたインクが、インク供給制御手段150を経由して、図7に示す矢印b、c、d、eの順に流れて、インク供給部160に流れ込み、インク供給部160に挿入されたインク供給針にインクが供給される。
【0040】
このインクの流れにあわせて、インク収容部111においては、大気側収容部270のインクが供給側収容部290に供給される。大気側収容部270のインクの消費に伴って空気が、図7における矢印f、gの経路を順に通って、連通孔242から大気側収容部270へ流入する。インク供給部160から記録ヘッドへインクが供給されて大気側収容部270の液面が下がるが、大気側収容部270と供給側収容部290とを接続する流路は、大気側収容部270の最も下部に連通口があるので、大気側収容部270の全てのインクが供給側収容部290へ移動するまで、供給側収容部290には空気が流入しない。
【0041】
大気側収容部270のインクがすべて消費された後に、供給側収容部290の第1インク収容部292及び第2インク収容部294のインクがこの順に消費される。この間、供給側収容部290と大気側収容部270とを連通する連通部162に形成されるインクのメニスカスによる表面張力により、供給側収容部290のインクが大気側収容部270に逆流することが防止される。
【0042】
第1インク収容部292のインクが消費され始めると、第1インク収容部292に空気が流入する。これにより、第1インク収容部292の液面が下がるが、第1インク収容部292と第2インク収容部294とは、下部のみが連絡流路276により連通しているので、まず、第1インク収容部292のインクが消費される。第1インク収容部292のインクが消費されて、液面が連絡流路276に到達すると、第2インク収容部294のインクが消費されるのにあわせて、空気は第2インク収容部294にも流入する。第2のインク収容部のインクが消費される間、連絡流路276にインクのメニスカスによる表面張力が生じるため、第2インク収容部294のインクが第1インク収容部292に逆流することが防止される。
【0043】
上述したように大気側収容部270、第1インク収容部292及び第2インク収容部294のインクはこの順に消費されるが、インクの液面がいずれの収容部にあっても、インクは、インク収容部111を上下に略二分する隔壁272の近傍に配された連通部278から通路300を経由して通孔918を通ってインク供給部160へ供給される。
【0044】
図9は、図7の部分拡大斜視図である。大気側収容部270において、連通孔163が配された連絡流路274の上を区画している供給側隔壁272aは、大気側収容部270における他の隔壁272よりも装備位置が低くなっている。また、大気側収容部270は、連絡流路274の近傍において大気側収容部270の底面から鉛直上方に延伸する第1鉛直隔壁部510、及び、この第1鉛直隔壁部510に平行な第2鉛直隔壁部530を有する。
【0045】
第1鉛直隔壁部510は、下端において第1鉛直隔壁部510を貫通して大気側収容部270の底面との間で液体が流れる下連絡流路512を有する。下連絡流路512は、第1鉛直隔壁部510を切り欠いた切り欠きである。第1鉛直隔壁部510は、さらに下連絡流路512よりも上方にあって第1鉛直隔壁部510を貫通し、下連絡流路512よりも小さい流路抵抗でインクが流れる上連絡流路514を有する。
【0046】
図9に示す実施形態において、上連絡流路514は下連絡流路512よりも大きく切り欠かれた切り欠きである。これにより、上連絡流路514の流路抵抗は下連絡流路512の流路抵抗よりも小さくなっている。
さらに、上連絡流路514は、下連絡流路512との間に下壁部513を挟んで供給側隔壁272aよりも上方に配されている。第1鉛直隔壁部510は、さらに、上連絡流路514との間に上壁部515を挟んで、下連絡流路512よりも小さい流路抵抗でインクが流れる第2上連絡流路516を有する。図9に示す実施形態において、第2上連絡流路516は、隔壁272と第1鉛直隔壁部510の上端との間に生じる間隙である。
なお、第2鉛直隔壁部530は第1鉛直隔壁部510と同一の構成を有するため、説明を省略する。
【0047】
さらに、第1鉛直隔壁部510及び第2鉛直隔壁部530は、図2に示す通路214の裏面に配されている。よって、通路214に図3に示すフィルム110を貼り付ける場合に、通路214が設けられたカートリッジ本体120の側面が凹んでフィルム110が貼りにくくなる「逃げ」を防ぐことができる。
【0048】
また、図7に示すように供給側収容部290の第1インク収容部292は、上下方向について傾斜している傾斜壁部550を有する。傾斜壁部550は、上下方向に延伸している連絡流路295の上方に配される。
【0049】
本実施の形態の場合、図7に示すように、一番基端の液体収容部である大気側収容部270と、インク供給制御手段150の直前の液体収容部である第2インク収容部294のそれぞれに、収容されたインクより比重が大きい撹拌移動体711が配置されている。本実施の形態の場合、撹拌移動体711は外形が球形であり、キャリッジによるインクカートリッジ500の移動動作時に受ける慣性によって液体収容部内を転動して、それぞれの液体収容部内に貯留しているインクの撹拌を行う。
【0050】
この撹拌移動体711を構成する材質は、ナイロン、ポリアセタール(POM)、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン等のプラスチックや、ガラス、セラミックス(例えばAl2O3、ZrO2等)、ゴム、金属等を用いることができる。
【0051】
また、撹拌移動体711は外形が球形であるが、その外形形状に対する中心位置と、質量の中心(重心)の位置とが、異なっている。このように外形に対する中心と重心とを異ならせる構成としては、例えばある材質の球体表面を異なる材質でコーティングする場合、表面のコート層の厚みを部分的に変え外形形状に対する中心位置と、質量の中心(重心)の位置とを異なるようにすれば良い。また、図10にその断面図を示すように、外形に対して偏った中空部712を設けた形状としても良い。なお、中空部712を設ける代わりに、撹拌移動体711を貫通する貫通孔を形成したり、外表面から大きく凹んだ凹部を設けたりしても良い。また、外表面から大きく突出した凸部を設けても良い。
【0052】
このように、撹拌移動体711の重心が外形中心とずれた位置に存在することで、撹拌移動体711は液体収容部内で不規則に転動する。例えば、外形が球形で重心も外形中心と略一致している従来の撹拌移動体の場合には、重心の慣性に応じて規則的に転動し、その転動する方向は図11の矢印Y1に示すように略直線状となるが、本実施形態の撹拌移動体711の場合には、重心の慣性による力と外表面に作用するインクの抵抗力により例えば矢印Y2に示すように不規則に揺らぎながら転動する。これにより、本実施形態の撹拌移動体711は、周囲のインクに対して様々な方向に不規則な力を作用させることができる。そして、矢印Y1方向に示したように直線状に転動する場合と比較して、良好な撹拌作用を得ることができる。
【0053】
また、球形を基本形状とした撹拌移動体711の代わりに、図12に示すような楕円球形の撹拌移動体713を用いても良い。楕円球形の撹拌移動体713は、不規則に転動させて良好な撹拌作用を得ることを考慮すると、短径aと長径bとの差を適度に設けた方が良く、長径bに対する短径aの比a/bを0.9以下とすれば良い。さらに好ましくは、比a/bを0.8以下とすると良い。また、楕円球形の撹拌移動体713の代わりに、不規則に転動する多面体等の形状を有する撹拌移動体を用いても良い。その場合、多面体の角部分等により撹拌作用を大きくすることができる。このように、不規則に転動する外形形状を有する撹拌移動体では、重心の位置は問わないが、好ましくは、重心が外形中心に対してずれていた方が良い。
【0054】
また、良好な撹拌作用を得るための撹拌移動体の構成として、外形形状や重心の位置を問わず、表面に凹部や凸部を設けても良い。例えば、図13に示すように、表面に複数の凹部715を設けた所謂ディンプル形状を有する撹拌移動体714であっても、良好な撹拌作用を得ることができる。また、複数の凹部715の代わりに、複数の凸部を設けても良い。このような凹部や凸部を設けると、撹拌移動体715が単純に(規則的に)転動した場合であっても、撹拌移動体715の自転により周囲の液体を撹拌する作用が生じるため、従来の従来の撹拌移動体と比較して撹拌作用は大きくなる。
【0055】
なお、この撹拌移動体714は外形が球形であるが、楕円球形や多面体形状であっても良い。また、この撹拌移動体714や上述した不規則に転動する外形形状を有する撹拌移動体において、重心の位置が外形中心と一致していても従来の撹拌移動体と比較して撹拌作用は大きくなるが、外形中心と重心とがずれていた方が、不規則な転動による撹拌作用も加わって、さらに大きな撹拌作用を得ることができる。
【0056】
図7に示すように、大気側収容部270内には、第1鉛直隔壁部510と第2鉛直隔壁部530との間の区間、及び第2鉛直隔壁部530を挟んで第1鉛直隔壁部510とは逆側の区間に、それぞれ撹拌移動体711が配置されている。また、第2インク収容部294の場合は、流路279を有した隔壁288と連絡流路278との間の区間に撹拌移動体711が装備されている。
【0057】
各収容部に装備した撹拌移動体711は、連絡流路を有した隔壁側に転動した場合に、その隔壁の底部側に開口している連絡流路(例えば、連絡流路278,279、下連絡流路512,532)に接近する。その場合に、それらの連絡流路に最接近した時でも、その連絡流路の周囲の隔壁と撹拌移動体711との間に、それらの連絡流路の断面積(開口面積)よりも大きな断面積の流路が確保されるように、連絡流路の開口に対して、前記撹拌移動体711の外径を所定以上の大きさに規制している。
【0058】
以上の構成において、大気側収容部270及び供給側収容部290には顔料インクが収容されている場合の、インクの供給動作について説明する。図2及び図7に示すように、大気側収容部270のインクをなるべく使い切るべく、連通部162は、大気側収容部270の底面を貫通して配され、連通部162を通過したインクを供給側収容部290に供給する。
【0059】
通常、顔料インクの色材である顔料は、溶媒中に分散した分散粒子であるため長期間放置した場合にはこの分散粒子が沈降し、特に連通部162が配された連絡流路274付近には顔料の濃度が高くなった濃いインクが溜まりやすい。
【0060】
しかし、本実施形態においては、大気側収容部270及び第2インク収容部294に装備した撹拌移動体711が、これらの収容部内に貯留しているインクの撹拌を行って、インク中の色材の沈降自体を抑止することができるので、連絡流路274付近に顔料の濃度が高いインクが溜まる現象を防止できる。更に、本実施形態においては一つの隔壁(第1鉛直隔壁部510及び第2鉛直隔壁部530)に上下に分けて分散配置された連絡流路がインク供給時に撹拌を促進させる上下方向の流動を起こすことができ、双方の撹拌作用の相乗で、活発な撹拌が行われ、インク供給部160に供給するインクに濃度のばらつきが生じにくい。つまり、連絡流路274付近の濃いインクがそのまま連通部162から流れ出た後に、その上方にあった濃度の薄いインクが流れ出るといったことが防止でき、外部へ供給されるインクの濃さが不均一になることが防止できる。
また、前記撹拌移動体711の外径を、連絡流路の開口に対して所定以上の大きさに規制しているので、大気側収容部270及び第2インク収容部294に装備した撹拌移動体711は、連絡流路を塞ぐことがなく、インクの供給不良を招くことがない。従って、濃度のばらつきがない高品位なインク供給を維持できる。
【0061】
次に、撹拌移動体711の撹拌動作について説明する。
本実施の形態のインクカートリッジ500によれば、大気側収容部270や第2インク収容部294内に装備されている撹拌移動体711がそれぞれのインク収容部内を移動した場合に、記撹拌移動体711が隔壁530,510,288等に貫通形成された連絡流路532,512,279,278に最接近した時でも、これらの連絡流路の周囲の隔壁と撹拌移動体711との間には、連絡流路の断面積よりも大きな断面積の流路が確保される。
従って、撹拌移動体711が、これらの連絡流路532,512,278を塞いでこれらの連絡流路532,512,278におけるインクの流通を妨げることがなく、インク収容部270,294内の上下に分散する濃度差を持った液体を撹拌移動体711によって再混合して均一濃度の液体を連絡流路から安定供給することができる。そして、インクカートリッジ500がインクジェット式記録装置におけるインクカートリッジとして使用された場合であれば、記録するインク濃度に濃淡のばらつきが生じない高品位な安定した記録が可能になる。
【0062】
次に、一つの隔壁上に、上下に離間させて2つ以上の連絡流路を設けると共に、上部の連絡流路は下部の連絡流路よりも流路抵抗を小さく設定したことによる撹拌動作について説明する。
本実施の形態では、下連絡流路512、上連絡流路514、及び、第2上連絡流路516を有する第1鉛直隔壁部510を設けたので、連通孔163からインクが流れ出ることによりさらにインクが連通孔163へ引っ張られる場合に、上連絡流路514、第2上連絡流路516を通って流れる薄いインクの流量が多くなる。よって、薄いインクの流れ(図中の矢印i、j)が濃いインクの流れ(図中の矢印h)よりも大きくなり、濃いインクのみならず、薄いインクも連通孔163へ流れ込むことができる。
また、流れの大きさの差により、連絡流路274と第1鉛直隔壁部510とで区切られる空間において、上下のインクの流れができ、濃いインクと薄いインク、特に上連絡流路514付近よりもさらに上方の薄いインクも巻き込んで撹拌することができる。
【0063】
特に、上連絡流路514が連通孔163と対向する供給側隔壁272aよりも上方に配されているので、低い272aで仕切られた上方の供給側収容部290へインクを容易に供給することができると共に、連絡流路274付近に溜まりやすい濃いインクよりも上方にある薄いインクを連絡流路274へ向けて流すことができる。また、第2上連絡流路516が大気側収容部270の隔壁272との間に配されているので、大気側収容部270のインク量が多くて濃度の差が大きくなった場合でも、上方の薄い液体を連通孔163へ向けて流し、下方の濃いインクと確実に混ぜて供給側収容部290に供給することができる。
【0064】
また、下連絡流路512は、第1鉛直隔壁部510の下端に設けられているので、第1鉛直隔壁部510によりインクがせき止められることなく、大気側収容部270のインクをほぼ使い切ることができる。さらに、第1鉛直隔壁部510と平行に、下連絡流路532、534、及び、第2上連絡流路536を有する第2鉛直隔壁部530を設けたので、連絡流路274付近において、濃いインクと薄いインクを確実に混ぜることができる。
【0065】
また、連通部162を介して大気側収容部270からのインクが流れ込む連絡流路295の上方には、傾斜壁部550が設けられている。よって、大気側収容部270から供給側収容部290へのインクの流れを傾斜壁部550で受けて、流れの向きを変えることにより、第1インク収容部292に収容されているインクを撹拌し、第1インク収容部292における濃い液体と薄い液体を混ぜることができる。
また、連絡流路276を有する鉛直な隔壁271及び連通部279を有する鉛直な隔壁288のような下連絡流路が小さい壁が複数あることにより、より下方の濃いインクと確実に混ぜて供給側収容部290に供給することができる。
【0066】
なお、図7から図9に示す実施形態において、一対の第1鉛直隔壁部510及び第2鉛直隔壁部530における上連絡流路514と上連絡流路534は、互いに同じ上下位置に配されている。しかしながら、上下位置の配置はこれに限られず、上連絡流路514と上連絡流路534とは、互いに異なった上下位置に設けられていてもよい。同様に、第2上連絡流路516と第2上連絡流路536も、互いに異なった上下位置に設けられてもよい。これにより、一対の第1鉛直隔壁部510及び第2鉛直隔壁部530で挟まれた領域において薄いインクの上下方向の流れを作り、濃いインクと薄いインクを確実に撹拌することができる。
【0067】
また、図7から図9に示す実施形態において、一対の第1鉛直隔壁部510及び第2鉛直隔壁部530は鉛直に設けられているが、これに限られず、一対の壁部の両方または一方が鉛直方向に対して傾いていてもよい。
【0068】
このように、本実施形態のインクカートリッジ500は、大気側収容部270における連通部162付近において、浮上している薄いインクの流量を大きくすることにより、沈降している濃い液体と浮上している薄い液体とが混ぜられて連通部162から供給側収容部290へ供給される。よって、外部へ供給されるインクの濃さのばらつきを抑えることができる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態のインクカートリッジ500によれば、液体収容部の構成によりインクの撹拌性能が良好であるだけでなく、液体収容部内に撹拌作用の良好な撹拌移動体711を設けて液体噴射ヘッドの往復移動によってインクを積極的に撹拌することができる。
【0070】
上述の実施形態においては、液体噴射ヘッドを搭載したキャリッジに着脱可能なインクカートリッジを例にとって説明したが、メインタンクを記録装置本体に固定し、このメインタンクとキャリッジ上に搭載したサブタンクとがチューブにより接続され、更にサブタンクのインクをヘッドに供給可能に構成された装置において、サブタンクを本願発明の構成とすることも可能であり、同様の効果を奏する。
【0071】
なお、撹拌作用については以下の基準により判定をすることができる。
インクカートリッジ500を遠心分離機に入れ、1000rpmの回転速度で12時間にわたり回転させ、インクを遠心分離させる。その後、遠心分離させた各インクカートリッジ500を再びインクジェット式記録装置の液体噴射ヘッドに搭載し、グレーのグラデーションのカラーパッチで印刷を行う。遠心分離前と後で行ったグレー印刷の色差ΔEを測定する。この色差ΔEがΔE≦4のものをA判定(撹拌性が非常に良い)、4<ΔE≦8のものをB判定(撹拌性が良い)、8<ΔEのものをC判定(撹拌性が良好でない)と判定することができる。なお、色差ΔEの算出式は、一般に知られているL*a*b*色度図を参照した次式(1)を用いる。
ΔE={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2 ・・・(1)
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る液体収容体の一実施の形態であるインクカートリッジの斜め上方からの正面斜視図である。
【図2】図1に示したインクカートリッジのフィルムが貼り付けられる前の背面斜視図である。
【図3】図1に示したインクカートリッジのフィルムが貼り付けられた後の背面斜視図である。
【図4】図1に示したインクカートリッジの正面側の分解斜視図である。
【図5】図1に示したインクカートリッジの背面側の分解斜視図である。
【図6】図1に示したインクカートリッジのフィルムが貼り付けられる前の背面図である。
【図7】図1に示したインクカートリッジのフィルムが貼り付けられる前の正面図である。
【図8】図1に示したインクカートリッジのフィルムが貼り付けられた後の正面図である。
【図9】図7の要部の拡大斜視図である。
【図10】図7に示した撹拌移動体の断面図である。
【図11】図7に示した撹拌移動体の転動する様子を示す図である。
【図12】図7に示した撹拌移動体の他の例を示す正面図である。
【図13】図7に示した撹拌移動体の他の例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0073】
500:インクカートリッジ(液体収容体)、110:フィルム、111:インク収容部、120:カートリッジ本体、120a:表面、122:開口部、130:フィルム、132:フィルム、140:蓋体、150:インク供給制御手段、162:連通部、163:連通孔、214:通路、270:大気側収容部、270a:凹部、272:隔壁、272a:供給側隔壁、274:連絡流路、290:供給側収容部、292:第1インク収容部、292a:凹部、294:第2インク収容部、294a:凹部、510:第1鉛直隔壁部、512:下連絡流路、513:下壁部、514:上連絡流路、515:上壁部、516:第2上連絡流路、530:第1鉛直隔壁部、530a:表面、532:下連絡流路、533:下壁部、534:上連絡流路、535:上壁部、536:第2上連絡流路、550:傾斜壁部、624:大気弁連通部、650:大気弁、652:押圧部材収容室、654:大気弁押圧部材、656:コイルバネ、669:大気弁室、711,713,714:撹拌移動体、712:中空部、715:凹部
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に収容した液体を外部に供給する液体収容体に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置の一例として挙げられるインクジェット式記録装置は、インクを収容したインクカートリッジが装着されることにより、当該インクカートリッジからインクの供給を受けて、被印刷物にインクを吐出して印刷を行う。インクジェット式記録装置に用いられるインクの種類には、染料系と顔料系があり、顔料系インクは、溶媒中に顔料等の分散粒子を均一に分散させて混合されたものである。このような顔料系インクは、長期間にわたって印刷が行われず、インク収容室内においてインクが循環しない状態に置かれると、溶媒と分散粒子との比重差で分散粒子が沈降する性質がある。
【0003】
このような分散粒子の沈降に対して、インクの濃度を一定に維持するためにインクを撹拌するインクジェット式記録装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載されたインクジェット式記録装置は、ノズル開口からインク適を吐出するインクジェット式記録ヘッドと、該記録ヘッドを非印刷物に対して相対的に移動させるキャリッジと、前記記録ヘッドにインクを供給するインクカートリッジとを備え、前記インクカートリッジにインクよりも比重が大きな材料により形成された移動体が収容されていて、前記移動体が前記インクカートリッジ内のインクに沈澱が生じるよりも短い周期で移動されるものである。
【0004】
【特許文献1】特開平9−309212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インクカートリッジに収容された移動体の形状は、一般に滑らかな球形とされている。移動体が球形であればカートリッジ内で転動して移動し易く、その移動による排水作用でインクの撹拌を行うことができるが、その反面、自身の回転によってインクを撹拌する作用は小さい。
【0006】
本発明は、収容した液体を撹拌させる撹拌移動体を有する液体収容体において、撹拌移動体による撹拌性をさらに向上させた液体収容体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することのできる本発明に係る液体収容体は、液体を収容する液体収容部と、前記液体収容部と外部とを連通させた液体供給部とを備え、前記液体収容部には撹拌移動体が収容された液体収容体であって、前記撹拌移動体は、不規則に転動する構成をなしていることを特徴としている。
【0008】
このような構成の液体収容体によれば、撹拌移動体が不規則に転動して移動するため、周囲の液体に対して様々な方向に不規則な力を作用させることができ、単純な球形の撹拌移動体と比較して良好な撹拌作用を得ることができる。
【0009】
また、上記課題を解決することのできる本発明に係る液体収容体は、液体を収容する液体収容部と、前記液体収容部と外部とを連通させた液体供給部とを備え、前記液体収容部には撹拌移動体が収容された液体収容体であって、前記撹拌移動体は、表面に凹部または凸部の少なくとも一方が形成されていることを特徴としている。
【0010】
このような構成の液体収容体によれば、撹拌移動体が単純に転動した場合であっても、撹拌移動体の表面に形成された凹部や凸部により周囲の液体を撹拌する作用が生じるため、単純な球形の撹拌移動体と比較して良好な撹拌作用を得ることができる。
【0011】
また、本発明に係る液体収容体において、前記撹拌移動体は、自身の外形に対する形状中心の位置と重心の位置とが異なっていることが好ましい。これにより、外形が球形であっても、他の形状であっても、撹拌移動体が不規則に転動する構成とすることができる。
【0012】
また、本発明に係る液体収容体において、前記撹拌移動体は、楕円球形状をなし、長径に対する短径の比が0.9以下であることが好ましい。このような形状の撹拌移動体を用いることで、良好な撹拌作用を得るための不規則な転動を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、収容した液体を撹拌させる撹拌移動体を有する液体収容体において、撹拌移動体による撹拌性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の液体収容体は、液体噴射装置の液体噴射ヘッドに液体を供給するのに適したものである。ここで言う液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式記録装置の液体噴射ヘッド(印字ヘッド)、液晶ディスプレイのカラーフィルタを製造するカラーフィルタ製造装置の色剤噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極材(導電ペースト)噴射ヘッド、さらにはバイオチップを製造するバイオチップ製造装置の生体有機物噴射ヘッド及び精密ピペットしての試料噴射ヘッドなどが該当する。
【0015】
以下、本発明に係る液体収容体の実施の形態の例を、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態では、液体収容体の一例として、インクジェット式記録装置に対して着脱して用いられるインクカートリッジについて説明する。
図1は、本実施の形態のインクカートリッジ500の斜視図である。
図2及び図3は図1のインクカートリッジ500を斜め下方からみた背面斜視図で、図2はインクカートリッジ500のカートリッジ本体120の表面にフィルム110が貼り付けられる前の状態を示し、図3はインクカートリッジ500のカートリッジ本体120にフィルム110が貼り付けられた状態を示す。さらに、図4及び図5は、インクカートリッジ500を構成する部材を分解して示す分解斜視図である。
【0016】
図1及び図3に示した矢印Xは、インクジェット式記録装置の液体噴射ヘッド(印字ヘッド)の往復移動方向を示している。
図6は、図1のインクカートリッジ500の背面図であり、図1のインクカートリッジ500においてフィルム110が貼り付けられる前の状態を示す。図7は、図1のインクカートリッジ500の正面図であり、インクカートリッジ500の開口部122にフィルム130が貼り付けられる前の状態を示す。図8は、図1のインクカートリッジ500の正面図であり、インクカートリッジ500の開口部122にフィルム130が貼り付けられた後の状態を示す。
【0017】
図4及び図5に示すように、本実施の形態のインクカートリッジ500は、インクジェット式記録装置の液体噴射ヘッド(印字ヘッド)の往復移動方向に対向する正面に開口部122を有する有底の略筐体形状のカートリッジ本体120、この開口部122のほぼ全面を覆うフィルム130、及び、このフィルム130の外側を覆う蓋体140を備える。
【0018】
カートリッジ本体120は合成樹脂による一体成形品で、カートリッジ本体120の内部は、後述のように隔壁又はリブにより、開口部122側(即ち、印字ヘッド)の往復移動方向に対向する面)が開放した複数の凹部270a,292a,294aに複数の凹部270a,292a,294aに複数の凹部270a,292a,294aに区画されている。
これらの各凹部270a,292a,294aの開放面は、フィルム130によって気密に塞がれて、インクを収容するインク収容部270,292,294を形成する。
【0019】
更に詳述すると、フィルム130は、カートリッジ本体120よりも融点の低い透明又は半透明の樹脂製フィルムで、凹部270a,292a,294aを区画している隔壁又はリブに融着されることで、各インク収容部270,292,294を画成している。
なお、フィルム130の融着処理の前に、凹部270a,294aには、収容したインクを撹拌するための撹拌移動体711が投入される。撹拌移動体711が投入される。撹拌移動体711が投入される。
【0020】
蓋体140は、さらにフィルム130の外側を非密閉状態で被覆するようにカートリッジ本体120に固定される。
【0021】
カートリッジ本体120は、インクを収容するインク収容部111(図7参照)と、インク収容部111からインク供給部(液体供給部)160までのインク流路部と、インク収容部111を大気に連通させるインク側通路、大気弁収容部、及び大気側通路からなる大気連通部とを備え、例えばポリプロピレン(PP)により一体成形されている。
【0022】
インクカートリッジ500はさらに、インク供給制御手段150と、インク供給部160と、記憶手段170と、係合レバー180とを有する。
インク供給部160は、カートリッジ本体120の下面に配され、インクカートリッジ500が装着されるキャリッジに形成されたインク供給針が挿入されて、インク収容部111に収容されたインクをインクジェット式記録装置の記録ヘッドへ供給する。
【0023】
記憶手段170は、取付部190に加締められ、この取付部190は、カートリッジ本体120の側面の下方に加締められて取り付けられる。
また、記憶手段170は、インクカートリッジ500の種類の情報、インクカートリッジ500が保持するインクの色の情報、及び、インクの現存量等の情報を記憶し、表面に露出した複数の端子171により装置本体との間でこれらの情報を受け渡す。係合レバー180は、カートリッジ本体120における取付部190と対向する側面の上部に成形され、インクジェット式記録装置のキャリッジと係合する。取付部190の側面は、キャリッジに形成された図示しないリブにより規制されて、上記端子171とキャリッジ側の弾性接点とが確実に当接するように構成されている。
【0024】
インク供給制御手段150は、インクの消費に伴って発生するインク収容部111とインク供給部160との圧力差により、インク収容部111のインクをインク供給部160へ供給する差圧弁から構成されている。インク供給制御手段150は、弾性変形可能であって、カートリッジ本体120の凹部495に挿入される弁部材の一例である膜弁900と、凹部495を覆う弁蓋151と、膜弁900及び弁蓋151の間に配される付勢部材の一例としてのコイルバネ907とを有する。
【0025】
本発明に係る液体収容部であるインク収容部111は、図7に示したように水平方向に延びる隔壁272により、上部と下部とに大きく分割され、この隔壁272の下部には連通孔242により大気と連通可能な大気側収容部270が、また上部には大気から遮断された2つの第1インク収容部292及び第2インク収容部294からなる供給側収容部290が形成されている。
【0026】
供給側収容部290は、隔壁272の近傍(下部領域)に連絡流路(連通部)276を有する鉛直な隔壁271により、第1、及び第2インク収容部294、294の2つに分割され、また第2インク収容部294に周りを囲まれるように配された流路部296が形成されている。
流路部296は下部の連絡流路278を介して、第2インク収容部294と接続されるとともに、通路298及び通孔918を介してインク供給制御手段150に接続されている。
【0027】
隔壁271は、隔壁272との間に下連絡流路276及び上面との間に上連絡流路277を有する。上連絡流路277の流路抵抗は、下連絡流路276の流路抵抗よりも小さい。
【0028】
また、第2インク収容部294には、短尺で鉛直な隔壁288が設けられ、隔壁288と隔壁272との間が流路279となっている。供給側収容部290及び大気側収容部270は、それぞれ上液体収容部及び下液体収容部で、本発明における液体収容部の一例である。
【0029】
また、インク供給制御手段150の下流側は、インク供給制御手段150と連通する通孔910、通孔910と連通する流路321、流路321の一端に形成され、表面側に向けて形成された通孔323、及び、通孔323と一端が連通した連通部304を介して、インク供給部160と連通するよう構成されている。
【0030】
大気側収容部270と第1インク収容部292とは垂直方向に延びる連絡流路295及び大気側収容部270の底面を貫通する連通部162(図2)を介して連通されている。従って、インク供給部160からインクが消費されると、それに対応して大気側収容部270のインクが第1インク収容部292に吸い上げられ、ここから第2インク収容部294、流路部296等を介してインク供給制御手段150に流れ込むように構成されている。
【0031】
インク収容部111の大気側収容部270からインク供給制御手段150へは、連絡流路274、連通部162、連通孔163、連絡流路295、連絡流路276,278、流路部296、通路298、及び通孔918をこの順に通ってインクが流れ込む。連通部162及び連通孔163及び連絡流路295は、本発明における連絡流路の一例である。
【0032】
大気弁連通部624を境として大気と連通する側である大気側通路は、図6に示す開口212、蛇行した通路214、フィルタ収容部216、連通孔218及び連通部222、連通部222の側面に形成された通孔652b、及び押圧部材収容室652により構成されている。
【0033】
詳細には、図6に示すように、カートリッジ本体120の表側に形成された迷路状に蛇行した1本の通路214の一端は開口212として大気に開放され、他端は撥インク性と通気性の機能を備えたフィルタ215(図4、図5)が収容されたフィルタ収容部216に接続されている。
フィルタ収容部216は、カートリッジ本体120の表側から裏側に貫通する連通孔218と連通する。連通孔218は、カートリッジ本体120の裏側において連通部222、及び連通部222の側面に形成された通孔652bを介して押圧部材収容室652と接続している。通路214の途中には、凹部からなるチャンバ930が設けられている。
【0034】
一方、図7に示すように大気弁連通部624を境としたインク側通路は、大気弁室669、連通孔238、連通溝240、及び連通孔242で形成されてインク収容部111の大気側収容部270と連通する。
【0035】
カートリッジ本体120の裏側から表側に貫通する連通孔238は、連通孔238と連通する連通溝240、連通溝240と連通すると共にカートリッジ本体120の表側から裏側に貫通する連通孔242を介して大気側収容部270と連通する。
【0036】
これらの大気側収容部270、供給側収容部290、大気弁室669、及び大気側通路、インク側通路は、それぞれを区画する隔壁にインク側通路は、それぞれを区画する隔壁にインク側通路は、それぞれを区画する隔壁にフィルム130、110を熱溶着などの方法で貼着することにより大気と隔離された領域となる。
【0037】
インク供給部160は、キャリッジに設けられたインク供給針が挿入される挿入口26を有するエラストマ等から形成されたシール部材12と、シール部材12の挿入口26を塞ぐ供給弁13と、供給弁13をシール部材12に向けて付勢するコイルスプリング等からなる付勢部材14とを有する。なお、シール部材12の挿入口26には、工場出荷時において、フィルム604が貼り付けられている。
【0038】
インクカートリッジ500がインクジェット式記録装置のキャリッジに装着されると、キャリッジに設けられた凸部がフィルム480及び大気弁押圧部材654を介して大気弁650を上方に押し上げるとともに、キャリッジのインク供給針がインク供給部160の供給弁13を上方に押し上げる。
この結果、大気弁連通部624は、大気弁室669から連通孔242までの大気流路を大気と連通する。また、インク供給部160における供給弁13より上流は、インク供給針と連通する。
【0039】
連通孔242が大気と連通している状態において、インクジェット式記録装置が記録を始めると、インク供給部160からインク供給針を通して記録ヘッドへインクが供給される。インク供給部160からインクが供給されると、インク収容部111において図7に示す矢印a、通孔918の順に流れたインクが、インク供給制御手段150を経由して、図7に示す矢印b、c、d、eの順に流れて、インク供給部160に流れ込み、インク供給部160に挿入されたインク供給針にインクが供給される。
【0040】
このインクの流れにあわせて、インク収容部111においては、大気側収容部270のインクが供給側収容部290に供給される。大気側収容部270のインクの消費に伴って空気が、図7における矢印f、gの経路を順に通って、連通孔242から大気側収容部270へ流入する。インク供給部160から記録ヘッドへインクが供給されて大気側収容部270の液面が下がるが、大気側収容部270と供給側収容部290とを接続する流路は、大気側収容部270の最も下部に連通口があるので、大気側収容部270の全てのインクが供給側収容部290へ移動するまで、供給側収容部290には空気が流入しない。
【0041】
大気側収容部270のインクがすべて消費された後に、供給側収容部290の第1インク収容部292及び第2インク収容部294のインクがこの順に消費される。この間、供給側収容部290と大気側収容部270とを連通する連通部162に形成されるインクのメニスカスによる表面張力により、供給側収容部290のインクが大気側収容部270に逆流することが防止される。
【0042】
第1インク収容部292のインクが消費され始めると、第1インク収容部292に空気が流入する。これにより、第1インク収容部292の液面が下がるが、第1インク収容部292と第2インク収容部294とは、下部のみが連絡流路276により連通しているので、まず、第1インク収容部292のインクが消費される。第1インク収容部292のインクが消費されて、液面が連絡流路276に到達すると、第2インク収容部294のインクが消費されるのにあわせて、空気は第2インク収容部294にも流入する。第2のインク収容部のインクが消費される間、連絡流路276にインクのメニスカスによる表面張力が生じるため、第2インク収容部294のインクが第1インク収容部292に逆流することが防止される。
【0043】
上述したように大気側収容部270、第1インク収容部292及び第2インク収容部294のインクはこの順に消費されるが、インクの液面がいずれの収容部にあっても、インクは、インク収容部111を上下に略二分する隔壁272の近傍に配された連通部278から通路300を経由して通孔918を通ってインク供給部160へ供給される。
【0044】
図9は、図7の部分拡大斜視図である。大気側収容部270において、連通孔163が配された連絡流路274の上を区画している供給側隔壁272aは、大気側収容部270における他の隔壁272よりも装備位置が低くなっている。また、大気側収容部270は、連絡流路274の近傍において大気側収容部270の底面から鉛直上方に延伸する第1鉛直隔壁部510、及び、この第1鉛直隔壁部510に平行な第2鉛直隔壁部530を有する。
【0045】
第1鉛直隔壁部510は、下端において第1鉛直隔壁部510を貫通して大気側収容部270の底面との間で液体が流れる下連絡流路512を有する。下連絡流路512は、第1鉛直隔壁部510を切り欠いた切り欠きである。第1鉛直隔壁部510は、さらに下連絡流路512よりも上方にあって第1鉛直隔壁部510を貫通し、下連絡流路512よりも小さい流路抵抗でインクが流れる上連絡流路514を有する。
【0046】
図9に示す実施形態において、上連絡流路514は下連絡流路512よりも大きく切り欠かれた切り欠きである。これにより、上連絡流路514の流路抵抗は下連絡流路512の流路抵抗よりも小さくなっている。
さらに、上連絡流路514は、下連絡流路512との間に下壁部513を挟んで供給側隔壁272aよりも上方に配されている。第1鉛直隔壁部510は、さらに、上連絡流路514との間に上壁部515を挟んで、下連絡流路512よりも小さい流路抵抗でインクが流れる第2上連絡流路516を有する。図9に示す実施形態において、第2上連絡流路516は、隔壁272と第1鉛直隔壁部510の上端との間に生じる間隙である。
なお、第2鉛直隔壁部530は第1鉛直隔壁部510と同一の構成を有するため、説明を省略する。
【0047】
さらに、第1鉛直隔壁部510及び第2鉛直隔壁部530は、図2に示す通路214の裏面に配されている。よって、通路214に図3に示すフィルム110を貼り付ける場合に、通路214が設けられたカートリッジ本体120の側面が凹んでフィルム110が貼りにくくなる「逃げ」を防ぐことができる。
【0048】
また、図7に示すように供給側収容部290の第1インク収容部292は、上下方向について傾斜している傾斜壁部550を有する。傾斜壁部550は、上下方向に延伸している連絡流路295の上方に配される。
【0049】
本実施の形態の場合、図7に示すように、一番基端の液体収容部である大気側収容部270と、インク供給制御手段150の直前の液体収容部である第2インク収容部294のそれぞれに、収容されたインクより比重が大きい撹拌移動体711が配置されている。本実施の形態の場合、撹拌移動体711は外形が球形であり、キャリッジによるインクカートリッジ500の移動動作時に受ける慣性によって液体収容部内を転動して、それぞれの液体収容部内に貯留しているインクの撹拌を行う。
【0050】
この撹拌移動体711を構成する材質は、ナイロン、ポリアセタール(POM)、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン等のプラスチックや、ガラス、セラミックス(例えばAl2O3、ZrO2等)、ゴム、金属等を用いることができる。
【0051】
また、撹拌移動体711は外形が球形であるが、その外形形状に対する中心位置と、質量の中心(重心)の位置とが、異なっている。このように外形に対する中心と重心とを異ならせる構成としては、例えばある材質の球体表面を異なる材質でコーティングする場合、表面のコート層の厚みを部分的に変え外形形状に対する中心位置と、質量の中心(重心)の位置とを異なるようにすれば良い。また、図10にその断面図を示すように、外形に対して偏った中空部712を設けた形状としても良い。なお、中空部712を設ける代わりに、撹拌移動体711を貫通する貫通孔を形成したり、外表面から大きく凹んだ凹部を設けたりしても良い。また、外表面から大きく突出した凸部を設けても良い。
【0052】
このように、撹拌移動体711の重心が外形中心とずれた位置に存在することで、撹拌移動体711は液体収容部内で不規則に転動する。例えば、外形が球形で重心も外形中心と略一致している従来の撹拌移動体の場合には、重心の慣性に応じて規則的に転動し、その転動する方向は図11の矢印Y1に示すように略直線状となるが、本実施形態の撹拌移動体711の場合には、重心の慣性による力と外表面に作用するインクの抵抗力により例えば矢印Y2に示すように不規則に揺らぎながら転動する。これにより、本実施形態の撹拌移動体711は、周囲のインクに対して様々な方向に不規則な力を作用させることができる。そして、矢印Y1方向に示したように直線状に転動する場合と比較して、良好な撹拌作用を得ることができる。
【0053】
また、球形を基本形状とした撹拌移動体711の代わりに、図12に示すような楕円球形の撹拌移動体713を用いても良い。楕円球形の撹拌移動体713は、不規則に転動させて良好な撹拌作用を得ることを考慮すると、短径aと長径bとの差を適度に設けた方が良く、長径bに対する短径aの比a/bを0.9以下とすれば良い。さらに好ましくは、比a/bを0.8以下とすると良い。また、楕円球形の撹拌移動体713の代わりに、不規則に転動する多面体等の形状を有する撹拌移動体を用いても良い。その場合、多面体の角部分等により撹拌作用を大きくすることができる。このように、不規則に転動する外形形状を有する撹拌移動体では、重心の位置は問わないが、好ましくは、重心が外形中心に対してずれていた方が良い。
【0054】
また、良好な撹拌作用を得るための撹拌移動体の構成として、外形形状や重心の位置を問わず、表面に凹部や凸部を設けても良い。例えば、図13に示すように、表面に複数の凹部715を設けた所謂ディンプル形状を有する撹拌移動体714であっても、良好な撹拌作用を得ることができる。また、複数の凹部715の代わりに、複数の凸部を設けても良い。このような凹部や凸部を設けると、撹拌移動体715が単純に(規則的に)転動した場合であっても、撹拌移動体715の自転により周囲の液体を撹拌する作用が生じるため、従来の従来の撹拌移動体と比較して撹拌作用は大きくなる。
【0055】
なお、この撹拌移動体714は外形が球形であるが、楕円球形や多面体形状であっても良い。また、この撹拌移動体714や上述した不規則に転動する外形形状を有する撹拌移動体において、重心の位置が外形中心と一致していても従来の撹拌移動体と比較して撹拌作用は大きくなるが、外形中心と重心とがずれていた方が、不規則な転動による撹拌作用も加わって、さらに大きな撹拌作用を得ることができる。
【0056】
図7に示すように、大気側収容部270内には、第1鉛直隔壁部510と第2鉛直隔壁部530との間の区間、及び第2鉛直隔壁部530を挟んで第1鉛直隔壁部510とは逆側の区間に、それぞれ撹拌移動体711が配置されている。また、第2インク収容部294の場合は、流路279を有した隔壁288と連絡流路278との間の区間に撹拌移動体711が装備されている。
【0057】
各収容部に装備した撹拌移動体711は、連絡流路を有した隔壁側に転動した場合に、その隔壁の底部側に開口している連絡流路(例えば、連絡流路278,279、下連絡流路512,532)に接近する。その場合に、それらの連絡流路に最接近した時でも、その連絡流路の周囲の隔壁と撹拌移動体711との間に、それらの連絡流路の断面積(開口面積)よりも大きな断面積の流路が確保されるように、連絡流路の開口に対して、前記撹拌移動体711の外径を所定以上の大きさに規制している。
【0058】
以上の構成において、大気側収容部270及び供給側収容部290には顔料インクが収容されている場合の、インクの供給動作について説明する。図2及び図7に示すように、大気側収容部270のインクをなるべく使い切るべく、連通部162は、大気側収容部270の底面を貫通して配され、連通部162を通過したインクを供給側収容部290に供給する。
【0059】
通常、顔料インクの色材である顔料は、溶媒中に分散した分散粒子であるため長期間放置した場合にはこの分散粒子が沈降し、特に連通部162が配された連絡流路274付近には顔料の濃度が高くなった濃いインクが溜まりやすい。
【0060】
しかし、本実施形態においては、大気側収容部270及び第2インク収容部294に装備した撹拌移動体711が、これらの収容部内に貯留しているインクの撹拌を行って、インク中の色材の沈降自体を抑止することができるので、連絡流路274付近に顔料の濃度が高いインクが溜まる現象を防止できる。更に、本実施形態においては一つの隔壁(第1鉛直隔壁部510及び第2鉛直隔壁部530)に上下に分けて分散配置された連絡流路がインク供給時に撹拌を促進させる上下方向の流動を起こすことができ、双方の撹拌作用の相乗で、活発な撹拌が行われ、インク供給部160に供給するインクに濃度のばらつきが生じにくい。つまり、連絡流路274付近の濃いインクがそのまま連通部162から流れ出た後に、その上方にあった濃度の薄いインクが流れ出るといったことが防止でき、外部へ供給されるインクの濃さが不均一になることが防止できる。
また、前記撹拌移動体711の外径を、連絡流路の開口に対して所定以上の大きさに規制しているので、大気側収容部270及び第2インク収容部294に装備した撹拌移動体711は、連絡流路を塞ぐことがなく、インクの供給不良を招くことがない。従って、濃度のばらつきがない高品位なインク供給を維持できる。
【0061】
次に、撹拌移動体711の撹拌動作について説明する。
本実施の形態のインクカートリッジ500によれば、大気側収容部270や第2インク収容部294内に装備されている撹拌移動体711がそれぞれのインク収容部内を移動した場合に、記撹拌移動体711が隔壁530,510,288等に貫通形成された連絡流路532,512,279,278に最接近した時でも、これらの連絡流路の周囲の隔壁と撹拌移動体711との間には、連絡流路の断面積よりも大きな断面積の流路が確保される。
従って、撹拌移動体711が、これらの連絡流路532,512,278を塞いでこれらの連絡流路532,512,278におけるインクの流通を妨げることがなく、インク収容部270,294内の上下に分散する濃度差を持った液体を撹拌移動体711によって再混合して均一濃度の液体を連絡流路から安定供給することができる。そして、インクカートリッジ500がインクジェット式記録装置におけるインクカートリッジとして使用された場合であれば、記録するインク濃度に濃淡のばらつきが生じない高品位な安定した記録が可能になる。
【0062】
次に、一つの隔壁上に、上下に離間させて2つ以上の連絡流路を設けると共に、上部の連絡流路は下部の連絡流路よりも流路抵抗を小さく設定したことによる撹拌動作について説明する。
本実施の形態では、下連絡流路512、上連絡流路514、及び、第2上連絡流路516を有する第1鉛直隔壁部510を設けたので、連通孔163からインクが流れ出ることによりさらにインクが連通孔163へ引っ張られる場合に、上連絡流路514、第2上連絡流路516を通って流れる薄いインクの流量が多くなる。よって、薄いインクの流れ(図中の矢印i、j)が濃いインクの流れ(図中の矢印h)よりも大きくなり、濃いインクのみならず、薄いインクも連通孔163へ流れ込むことができる。
また、流れの大きさの差により、連絡流路274と第1鉛直隔壁部510とで区切られる空間において、上下のインクの流れができ、濃いインクと薄いインク、特に上連絡流路514付近よりもさらに上方の薄いインクも巻き込んで撹拌することができる。
【0063】
特に、上連絡流路514が連通孔163と対向する供給側隔壁272aよりも上方に配されているので、低い272aで仕切られた上方の供給側収容部290へインクを容易に供給することができると共に、連絡流路274付近に溜まりやすい濃いインクよりも上方にある薄いインクを連絡流路274へ向けて流すことができる。また、第2上連絡流路516が大気側収容部270の隔壁272との間に配されているので、大気側収容部270のインク量が多くて濃度の差が大きくなった場合でも、上方の薄い液体を連通孔163へ向けて流し、下方の濃いインクと確実に混ぜて供給側収容部290に供給することができる。
【0064】
また、下連絡流路512は、第1鉛直隔壁部510の下端に設けられているので、第1鉛直隔壁部510によりインクがせき止められることなく、大気側収容部270のインクをほぼ使い切ることができる。さらに、第1鉛直隔壁部510と平行に、下連絡流路532、534、及び、第2上連絡流路536を有する第2鉛直隔壁部530を設けたので、連絡流路274付近において、濃いインクと薄いインクを確実に混ぜることができる。
【0065】
また、連通部162を介して大気側収容部270からのインクが流れ込む連絡流路295の上方には、傾斜壁部550が設けられている。よって、大気側収容部270から供給側収容部290へのインクの流れを傾斜壁部550で受けて、流れの向きを変えることにより、第1インク収容部292に収容されているインクを撹拌し、第1インク収容部292における濃い液体と薄い液体を混ぜることができる。
また、連絡流路276を有する鉛直な隔壁271及び連通部279を有する鉛直な隔壁288のような下連絡流路が小さい壁が複数あることにより、より下方の濃いインクと確実に混ぜて供給側収容部290に供給することができる。
【0066】
なお、図7から図9に示す実施形態において、一対の第1鉛直隔壁部510及び第2鉛直隔壁部530における上連絡流路514と上連絡流路534は、互いに同じ上下位置に配されている。しかしながら、上下位置の配置はこれに限られず、上連絡流路514と上連絡流路534とは、互いに異なった上下位置に設けられていてもよい。同様に、第2上連絡流路516と第2上連絡流路536も、互いに異なった上下位置に設けられてもよい。これにより、一対の第1鉛直隔壁部510及び第2鉛直隔壁部530で挟まれた領域において薄いインクの上下方向の流れを作り、濃いインクと薄いインクを確実に撹拌することができる。
【0067】
また、図7から図9に示す実施形態において、一対の第1鉛直隔壁部510及び第2鉛直隔壁部530は鉛直に設けられているが、これに限られず、一対の壁部の両方または一方が鉛直方向に対して傾いていてもよい。
【0068】
このように、本実施形態のインクカートリッジ500は、大気側収容部270における連通部162付近において、浮上している薄いインクの流量を大きくすることにより、沈降している濃い液体と浮上している薄い液体とが混ぜられて連通部162から供給側収容部290へ供給される。よって、外部へ供給されるインクの濃さのばらつきを抑えることができる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態のインクカートリッジ500によれば、液体収容部の構成によりインクの撹拌性能が良好であるだけでなく、液体収容部内に撹拌作用の良好な撹拌移動体711を設けて液体噴射ヘッドの往復移動によってインクを積極的に撹拌することができる。
【0070】
上述の実施形態においては、液体噴射ヘッドを搭載したキャリッジに着脱可能なインクカートリッジを例にとって説明したが、メインタンクを記録装置本体に固定し、このメインタンクとキャリッジ上に搭載したサブタンクとがチューブにより接続され、更にサブタンクのインクをヘッドに供給可能に構成された装置において、サブタンクを本願発明の構成とすることも可能であり、同様の効果を奏する。
【0071】
なお、撹拌作用については以下の基準により判定をすることができる。
インクカートリッジ500を遠心分離機に入れ、1000rpmの回転速度で12時間にわたり回転させ、インクを遠心分離させる。その後、遠心分離させた各インクカートリッジ500を再びインクジェット式記録装置の液体噴射ヘッドに搭載し、グレーのグラデーションのカラーパッチで印刷を行う。遠心分離前と後で行ったグレー印刷の色差ΔEを測定する。この色差ΔEがΔE≦4のものをA判定(撹拌性が非常に良い)、4<ΔE≦8のものをB判定(撹拌性が良い)、8<ΔEのものをC判定(撹拌性が良好でない)と判定することができる。なお、色差ΔEの算出式は、一般に知られているL*a*b*色度図を参照した次式(1)を用いる。
ΔE={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2 ・・・(1)
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る液体収容体の一実施の形態であるインクカートリッジの斜め上方からの正面斜視図である。
【図2】図1に示したインクカートリッジのフィルムが貼り付けられる前の背面斜視図である。
【図3】図1に示したインクカートリッジのフィルムが貼り付けられた後の背面斜視図である。
【図4】図1に示したインクカートリッジの正面側の分解斜視図である。
【図5】図1に示したインクカートリッジの背面側の分解斜視図である。
【図6】図1に示したインクカートリッジのフィルムが貼り付けられる前の背面図である。
【図7】図1に示したインクカートリッジのフィルムが貼り付けられる前の正面図である。
【図8】図1に示したインクカートリッジのフィルムが貼り付けられた後の正面図である。
【図9】図7の要部の拡大斜視図である。
【図10】図7に示した撹拌移動体の断面図である。
【図11】図7に示した撹拌移動体の転動する様子を示す図である。
【図12】図7に示した撹拌移動体の他の例を示す正面図である。
【図13】図7に示した撹拌移動体の他の例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0073】
500:インクカートリッジ(液体収容体)、110:フィルム、111:インク収容部、120:カートリッジ本体、120a:表面、122:開口部、130:フィルム、132:フィルム、140:蓋体、150:インク供給制御手段、162:連通部、163:連通孔、214:通路、270:大気側収容部、270a:凹部、272:隔壁、272a:供給側隔壁、274:連絡流路、290:供給側収容部、292:第1インク収容部、292a:凹部、294:第2インク収容部、294a:凹部、510:第1鉛直隔壁部、512:下連絡流路、513:下壁部、514:上連絡流路、515:上壁部、516:第2上連絡流路、530:第1鉛直隔壁部、530a:表面、532:下連絡流路、533:下壁部、534:上連絡流路、535:上壁部、536:第2上連絡流路、550:傾斜壁部、624:大気弁連通部、650:大気弁、652:押圧部材収容室、654:大気弁押圧部材、656:コイルバネ、669:大気弁室、711,713,714:撹拌移動体、712:中空部、715:凹部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する液体収容部と、前記液体収容部と外部とを連通させた液体供給部とを備え、前記液体収容部には撹拌移動体が収容された液体収容体であって、
前記撹拌移動体は、不規則に転動する構成をなしていることを特徴とする液体収容体。
【請求項2】
液体を収容する液体収容部と、前記液体収容部と外部とを連通させた液体供給部とを備え、前記液体収容部には撹拌移動体が収容された液体収容体であって、
前記撹拌移動体は、表面に凹部または凸部の少なくとも一方が形成されていることを特徴とする液体収容体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液体収容体であって、
前記撹拌移動体は、自身の外形に対する形状中心の位置と重心の位置とが異なっていることを特徴とする液体収容体。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の液体収容体であって、
前記撹拌移動体は、楕円球形状をなし、長径に対する短径の比が0.9以下であることを特徴とする液体収容体。
【請求項1】
液体を収容する液体収容部と、前記液体収容部と外部とを連通させた液体供給部とを備え、前記液体収容部には撹拌移動体が収容された液体収容体であって、
前記撹拌移動体は、不規則に転動する構成をなしていることを特徴とする液体収容体。
【請求項2】
液体を収容する液体収容部と、前記液体収容部と外部とを連通させた液体供給部とを備え、前記液体収容部には撹拌移動体が収容された液体収容体であって、
前記撹拌移動体は、表面に凹部または凸部の少なくとも一方が形成されていることを特徴とする液体収容体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液体収容体であって、
前記撹拌移動体は、自身の外形に対する形状中心の位置と重心の位置とが異なっていることを特徴とする液体収容体。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の液体収容体であって、
前記撹拌移動体は、楕円球形状をなし、長径に対する短径の比が0.9以下であることを特徴とする液体収容体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−1240(P2006−1240A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182461(P2004−182461)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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