説明

液体吐出ヘッド及びその製造方法

【課題】ゴミの目詰まりを抑制可能な液体吐出ヘッドの提供。
【解決手段】表面に開口し液体を吐出する吐出口14と、吐出口14に連通する液体流路9と、を構成する流路形成部材11と、表面と反対側の裏面に開口し、裏面側から表面側に向かって狭くなる第1の斜面を有する液体室16と、第1の斜面に開口し、液体流路9と液体室16とを繋ぐ液体経路5と、液体室16の底部に設けられる第1の凹部17と、を有する基板1と、を備える液体吐出ヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出する液体吐出ヘッドの及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリント法は、熱エネルギーの作用を受けた液体が加熱による気化に伴って気泡を発生し、この気泡の成長に伴う膨張カによりインクジェット記録ヘッドの吐出口から液滴がプリント媒体に噴射される。この液滴により、文字やイメージなどの所定の画像情報がプリント媒体にプリントされる。この方法に用いられるインクジェット記録ヘッドは、一般的に以下の構成を備えている。
【0003】
1.液体を吐出するための吐出口
2.吐出口に連通する液体流路
3.吐出エネルギー発生素子によって発生する熱を蓄熱するための蓄熱層
4.蓄熱層に配されて液体を吐出口から噴射させるための熱エネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子
5.吐出エネルギー発生素子を液体から保護するパッシベイション層
また、上述の液体流路に連通し、この液体流路に液体を供給するための液体室を異方性エッチングやYAGレーザー等による先導孔と異方性エッチングとを組み合わせた方法等により形成することが開示されている。
【0004】
また、特許文献1には、液体流路と液体室とを吐出口より断面積の小さな複数の貫通孔によって液体経路を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−130742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
結晶異方性エッチングにより形成された液体室はそのまま液体流路と直結しており、一般的に、液体が流れる通路の中で一番小さな断面積を有する部分は吐出口となっている。
【0007】
近年、インクジェット記録ヘッドの吐出口径は、印字品位向上に伴って小さくなる傾向があり、インク中にゴミが混在すると吐出口で詰まる可能性が高くなる。このゴミ詰まりはインク不吐出などの印字不良の原因となる。
【0008】
ゴミ詰まりを解決する手法として、特許文献1に記載されるように、インク室とインク流路とを吐出口より断面積の小さな貫通孔でインク経路を形成し、ゴミをインク室内に留めておく技術が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示される形状では、インク室内に溜まったゴミはインクが流動する際にインク室内で自由に動くことができるため、動いたゴミがインク経路に詰まることが懸念される。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ゴミの目詰まりを抑制可能な液体吐出ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
表面に開口し液体を吐出する吐出口と、該吐出口に連通する液体流路と、を構成する流路形成部材と、
前記表面と反対側の裏面に開口し、裏面側から表面側に向かって狭くなる第1の斜面を有する液体室と、前記第1の斜面に開口し、前記液体流路と前記液体室とを繋ぐ液体経路と、前記液体室の底部に設けられる第1の凹部と、を有する基板と、
を備えることを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【0011】
また、本発明は、
表面に開口し液体を吐出する吐出口と、該吐出口に連通する液体流路と、を構成する流路形成部材と、
前記表面と反対側の裏面に開口する液体室と、前記液体室に開口し、前記液体流路と前記液体室とを繋ぐ液体経路と、を有する基板と、
を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
(a)表面側に吐出エネルギー発生素子を有するシリコン基板を用意する工程と、
(b)前記シリコン基板の裏面側から第1の結晶異方性エッチング処理を施すことにより、<100>面が底部に露出した状態に前記液体室を形成する工程と、
(c)前記<100>面にレーザーを用いて先導孔を形成した後、前記シリコン基板に第2の結晶異方性エッチング処理を施し、前記液体室の底部に第1の凹部を形成する工程と、
(d)前記液体室の<111>面に前記シリコン基板の表面まで貫通する液体経路を形成する工程と、
を有する液体吐出ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の構成によれば、ゴミの目詰まりを抑制可能な液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の構成例を示す模式的な断面図及び斜視図である。
【図2】本実施形態の製造方法を説明するための模式的な斜視工程図及び断面工程図である。
【図3】図2(C)に続いて、本実施形態の製造方法を説明するための模式的な斜視工程図及び断面工程図である。
【図4】図3(C)に続いて、本実施形態の製造方法を説明するための模式的な斜視工程図及び断面工程図である。
【図5】本実施形態の製造方法を説明するための模式的な斜視工程図及び断面工程図である。
【図6】本実施形態の製造方法を説明するための模式的な斜視工程図及び断面工程図である。
【図7】本実施形態の第1の凹部の形状を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0014】
1:シリコン基板
2:犠牲層
3:吐出エネルギー発生素子(例えばヒーター)
4:エッチングストップ層
5:液体経路(例えばインク経路)
6:シリコン酸化膜
7:密着性向上層
8:エッチングマスク層
9:液体流路(例えばインク流路)
10:流路型材
11:流路形成部材
12:先導孔
13:撥水材
14:吐出口(例えばインク吐出口)
15:保護材
16:液体室(例えばインク室)
17:第1の凹部
18:第2の凹部
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る液体吐出ヘッドは、表面に開口し液体を吐出する吐出口と、該吐出口に連通する液体流路と、を構成する流路形成部材を備える。また、前記表面と反対側の裏面に開口し、裏面側から表面側に向かって狭くなる第1の斜面を有する液体室と、第1の斜面に開口し、液体流路と液体室とを繋ぐ液体経路と、液体室の底部に設けられる第1の凹部と、を有する基板を備える。このような構成とすることにより、液体室の底部に設けられた凹部にゴミが溜まり易くなり、該凹部に沈殿したゴミがインク等の液体の流動によって動きにくくなる。したがって、本発明の構成とすることにより、ゴミの目詰まりを抑制可能な液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
また、以下の説明では、本発明の適用例としてインクジェット記録ヘッドを例に挙げて説明するが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、バイオッチップ作製や電子回路印刷用途の液体吐出ヘッド等にも適用できる。液体吐出ヘッドとしては、インクジェット記録ヘッドの他にも、例えばカラーフィルター製造用ヘッド等も挙げられる。
【0018】
(実施形態1)
図1に本実施形態のインクジェット記録ヘッドの構成を説明するための概略図を示す。図1(a)はインクジェット記録ヘッドの模式的斜視図であり、図1(b)は図1(a)のAA線における模式的断面図である。図1(c)は図1(b)の点線B部分の構成を示す模式的斜視図である。
【0019】
図1に示すインクジェット記録ヘッドは、吐出エネルギー発生素子3が所定のピッチで2列並んで形成されたシリコン基板1を有する。前記シリコン基板上1には、密着性向上層7としてポリアミド樹脂層が形成されている。また、シリコン基板1上には、流路形成部材11が形成されている。流路形成部材11は、インクを吐出するインク吐出口14と、該インク吐出口14に連通するインク流路9と、を構成する。吐出エネルギー発生素子3の上方にインク吐出口14が形成されている。なお、インク吐出口14が開口する面を表面とする。
【0020】
シリコン基板1は、インク流路9に連通するインク経路5と、裏面に開口し、インク経路5にインクを供給するインク室16と、インク室16の底部に設けられた第1の凹部17と、を有する。インク経路5はインク室16とインク流路9とに連通している。インク室16の底部にはインク室に連通する第1の凹部17が形成されている。また、インク経路5のインク室16における開口は、インク室16の底部に設けられた第1の凹部17の開口よりも裏面側に設けられている。また、インク経路5のインク流路9における開口は、吐出エネルギー発生素子3の2つの列の内側に設けられている。
【0021】
インク室16は、裏面に開口し、裏面側から表面側に向かって狭くなる第1の斜面を有する。インク室16は例えばシリコンの結晶異方性エッチングにより形成することができる。インク経路5は、インク室16の第1の斜面に開口し、インク室16からインク流路9へとインクを供給する。
【0022】
第1の凹部17は、第1の斜面の端部から表面側に向かって広がる第2の斜面と、該第2の斜面の端部から表面側に向かって狭まる第3の斜面と、を有する。図1に示すように、第1の凹部17は、ノズル列に亘って形成されている。第1の凹部17は、例えば、第1の結晶異方性エッチング処理により形成したインク室16の底部の<100>面に先導孔を設けた後、第2の結晶異方性エッチング処理を施すことにより形成することができる。本実施形態のように、インク室16と第1の凹部17との境がくびれ形状となるように形成することで、第1の凹部17でインク流動時にインクのよどみをより効果的に発生させることができ、第1の凹部17に沈殿したゴミがさらに再浮上し難くすることができる。
【0023】
また、インク室におけるインク経路の開口は、インク吐出口14の表面開口よりも断面積が小さいことが好ましい。また、インク経路は、インク吐出口よりも断面積が小さい穴で構成されていることが好ましい。
【0024】
インクジェット記録ヘッドは、インク室16からインク経路5を介してインク流路9内に充填されたインク(液体)に、吐出エネルギー発生素子3が発生する圧力を加えることによってインク吐出口14からインク液滴を吐出させる。そして、インク液滴を被記録媒体に付着させることにより記録する。
【0025】
インク室16は、シリコン基板1の裏面に設けられたシリコン酸化膜6をマスクとしてシリコンの結晶異方性エッチングによって形成することができる。
【0026】
本実施形態のインクジェット記録ヘッドは、装置に組み込まれた際に、インク吐出口14が下を向くように設置されることが好ましい。このような構成とすることにより、ゴミが第1の凹部17に重力で溜まり易くなる。
【0027】
インクジェット記録ヘッドは、例えば、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサ等の装置、更に各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。また、インクジェット記録ヘッドは、紙、糸、繊維、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックなど種々の被記録媒体に記録することができる。なお、本明細書において、「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。
【0028】
(実施形態2)
以下、本実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造方法について図を参照しながら説明する。なお、本発明はこのような実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるべき他の技術にも応用することができる。
【0029】
図2〜4は、本実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造工程例を説明するための模式的斜視図(1)及び模式的断面図(2)である。
【0030】
図2(A)に示されるシリコン基板1(例えば600〜900μm厚)上には、発熱抵抗体等の吐出エネルギー発生素子3が複数個配置されている。また、シリコン基板1の裏面はシリコン酸化膜6で全面が覆われている。
【0031】
また、シリコン基板1の上に犠牲層2が形成されている。この犠牲層2は、後工程でアルカリ性の溶液によるシリコン基板1のエッチングの際に、エッチング寸法を調整する役目を果たす。犠牲層2の幅は、例えば80〜150μmである。この犠牲層2はアルカリ溶液でエッチングされることが可能である。犠牲層2の材料としては、例えば、ポリシリコンや、エッチング速度の速いアルミ、アルミシリコン、アルミ銅、アルミシリコン銅などで形成される。
【0032】
また、シリコン基板1及び犠牲層2の上には、エッチングストップ層4が設けられている。エッチングストップ層4としては、後工程の異方性エッチング時に犠牲層2が露出した後、アルカリ溶液でのエッチングが進行しないことが必要である。エッチングストップ層4としては、例えば、酸化シリコンや窒化シリコン等を用いることができる。また、ヒーターの裏面側に位置し蓄熱層として用いられる酸化シリコンや、ヒーターの上層に位置し保護膜として機能する窒化シリコン等をエッチングストップ層として用いることが好ましい。
【0033】
また、図2(A−2)に示すように、後工程においてインク経路5を形成する位置に相当する部分(5’)の蓄熱層及びエッチングストップ層(SiN)4を除去しておくことが好ましい。これによりインク経路の形成を容易に行うことができる。
【0034】
なお、ヒーターの配線やそのヒーターを駆動する為の半導体素子、又蓄熱層は不図示である。
【0035】
次に、図2(B)に示すように、シリコン基板1の表面側、つまりエッチングストップ層4の上に、密着性向上層7を形成する。また、シリコン基板1の裏面側、つまりシリコン酸化膜6の上にエッチングマスク層8を形成する。密着性向上層7は、例えば、ポリアミド樹脂を用いてベーク処理及びパターニング処理して形成することができる。密着性向上層7は、ポジ型レジストをスピンコート等により塗布、露光、現像し、密着性向上層の材料をドライエッチング等によりパターニングすることができる。前記ポジ型レジストは剥離される。エッチングマスク層8も同様に形成できる。
【0036】
次に、図2(C)に示すように、シリコン基板1の表面側、つまりエッチングストップ層4の上にインク流路の型となる流路型材10を形成する。流路型材10の厚さは、例えば10〜25μmであり、ポジ型レジストをパターニングすることにより形成できる。
【0037】
次に、図3(A)に示すように、密着性向上層7及び流路型材10の上に流路形成部材11を形成する。流路形成部材11の厚さは、例えば20〜100μmである。流路形成部材11は、樹脂材料をスピンコート法等により配置して形成できる。また流路形成部材11の上に撥水材13をドライフィルムのラミネート等により形成することができる。インク吐出口14は、流路形成部材11を紫外線やDeepUV光等による露光、現像を行ってパターニングすることにより形成できる。インク吐出口14の直径は、例えば10〜30μmである。
【0038】
次に、図3(B)に示すように、流路型材10や流路形成部材11等が形成されているシリコン基板1の表面側及び側面側に保護材15をスピンコート等によって形成し、基板を保護する。
【0039】
次に、図3(C)に示すように、エッチング開始面となるシリコン面を露出した後、結晶異方性エッチングによりインク室16を設ける。より具体的には、まず、エッチングマスク層8をマスクとして、シリコン基板1の裏面のシリコン酸化膜6を除去する。その後、TMAHを異方性エッチング液として用い、シリコン基板1の裏面からエッチングを行ってシリコン基板1の<100>面が露出したインク室16を形成する。インク室16はシリコン基板の厚さの1/2以上をエッチングすることにより形成することができる。
【0040】
次に、図4(A)に示すように、インク室16の底部に露出した<100>面にレーザーにて先導孔12を形成する。先導孔12は未貫通穴とし、2列並列に形成できる。レーザーとしては、YAGの基本波又は第2若しくは第3高調波のレーザーを用いることができる。
【0041】
そして、TMAHを異方性エッチング液として用い、エッチング面を犠牲層2内まで到達させて、図4(B)に示すように、インク室16に連通する第1の凹部17をシリコン基板1内に形成する。
【0042】
次に、図4(C)に示すように、シリコン基板1の裏面全体にレジストをスプレーコート等により塗布する。続いて、第1の凹部17より裏面側のインク室16の第1の斜面に開口するように、インク経路5を形成する。インク経路5は、例えば高出力レーザー等を用いて流路型材10に到達するまで穴を開けることにより形成することができる。また、インク経路5は、流路型材10に近い位置までシリコン基板1に穴を開け、さらにドライエッチング等にてシリコン基板1の表面まで貫通させることにより形成することができる。インク経路5の直径は、例えば10〜50μmである。レーザーとしては、YAGの基本波又は第2若しくは第3高調波のレーザーを用いることができる。
【0043】
次に、図4(D)に示すように、シリコン基板1の裏面に設けたレジストを剥離する。続いて、エッチングマスク層8をドライエッチングで除去する。また、保護材15を除去する。そして、流路型材10をインク吐出口14から溶出させ、インク流路9を形成し、インクジェット記録ヘッドを製造する。
【0044】
以上のインクジェット記録ヘッドは、その後、ダイシングソー等により切断分離、チップ化し、吐出エネルギー発生素子3を駆動させる電気的接合を行うことができる。また、インク室にインクを供給するチップタンク部材を接続することができる。
【0045】
以下、本発明の代表的な実施例について説明する。なお、以下に示す実施例の形態以外にも、例えば図7に示すように、インク室に連通する第1の凹部17の形状を様々な形に形成してもよい。
【0046】
(実施例1)
まず、図2(A)に示すように、吐出エネルギー発生素子3(材質:TaSiN)を有する厚さ625μmのシリコン基板1を用意した。シリコン基板1には、ドライバーやロジック回路(不図示)が複数個配置され、その上の流路形成部位に蓄熱層(不図示)及びエッチングストップ層(SiN)4が形成されている。また、後工程においてインク経路5を形成する位置に相当する部分の蓄熱層及びエッチングストップ層(SiN)4は除去されている。
【0047】
次に、図2(B)に示すように、シリコン基板1の表面側と裏面側にポリアミド樹脂を用いてそれぞれ密着性向上層7とエッチングマスク層8を形成した。
【0048】
密着性向上層7及びエッチングマスク層8は、具体的には、以下の方法で形成した。まず、ポリアミド樹脂をスピンコートにて2μm厚でシリコン基板1の表面側及び裏面側に塗布し、オーブン炉にて100℃/30min+250℃/60minベークして硬化させた。続いて、シリコン基板1の表面側及び裏面側にポジ型レジスト(東京応化社製、商品名:IP5700)をスピンコートにより5μm厚で塗布した。続いて、表面側のポジ型レジストをフォトマスクを用いてi線ステッパーにて露光した。続いて、東京応化社製NMD−3(商品名)にて現像して剥き出しになったポリアミド樹脂をRIE方式にてドライエッチングし、ローム社製リムーバ1112A(商品名)によってレジストを除去し、密着性向上層7を形成した。また、シリコン基板1の裏面側にポジ型レジストIP5700(商品名)をスピンコートにより5μm厚で塗布し、フォトマスクを用いてihg線の投影露光装置にて一括露光した。続いて、東京応化社製NMD−3(商品名)にて現像して剥き出しになったポリアミド樹脂をケミカルドライエッチングにてエッチングした。そして、ローム社製リムーバ1112A(商品名)によってレジストを除去し、エッチングマスク層8を形成した。
【0049】
次に、図2(C)に示すように、シリコン基板1の表面側に流路型材10を形成した。流路型材10の形成は、まず、ポジ型の東京応化社製ODUR(商品名)をスピンコートにより14μm厚で塗布した。続いて、フォトマスクを用いてihg線の投影露光装置にて露光し、林純葉社製MP−5050(商品名)で現像し、流路パターンを有する流路型材10を形成した。
【0050】
次に、図3(A)に示すように、流路型材10及び密着性向上層7の上にインク吐出口14を有する流路形成部材11を形成した。流路形成部材の形成は、まず、流路型材10等を形成したシリコン基板1の上にネガ型の感光性樹脂をスピンコートにより25μm厚で塗布した。また、さらにネガ型感光性樹脂の上に撥水材13をスピンコートにより0.5μm厚で塗布した。続いて、撥水材13及びネガ型感光性樹脂にフォトマスクを用いてi線ステッパーにてインク吐出口を有するようなパターンに露光した。露光後、キシレン60%とメチルイソブチルケトン(MIBK)40%の混合液で現像を行い、オーブン炉で140℃/60minにて硬化させ、インク吐出口14を有する流路形成部材11を形成した。
【0051】
次に、図3(B)に示すように、東京応化社製OBC(商品名)を基板1の表面と側面が全て覆われるようにスピンコートにて40μm厚で塗布し、保護材14を形成した。
【0052】
次に、図3(C)に示すように、シリコン基板1の裏面側のエッチングマスク層8をマスクとしてシリコン酸化膜6をエッチングし、インク室16を形成するための異方性エッチングの開始面となるシリコン面を露出させた。シリコン酸化膜6のエッチングは、ダイキン工業社製BHF−U(商品名)にて15min処理して行った。
【0053】
そして、83℃に加熱温調した関東化学社製TMAH−22(商品名、水酸化テトラメチルアンモニウム)を異方性エッチング液として用いてシリコン基板をエッチングし、インク室16を形成した。インク室16の底部には<100>面を露出しており、インク室の開口表面から該<100>面までの深さは350μmであった。エッチング時間の算出は、所望の厚み(μm)÷エッチングレート(min)で行った。
【0054】
次に、図4(A)に示すように、インク室16の底部に露出する<100>面に、レーザー(THG:波長355nm)にて先導孔12を160μmの深さで2列並列に形成した。この時、並列に形成した先導孔12間の幅は犠牲層2の幅を超えない幅で形成した。ここでは、先導孔12間の幅は200μmとした。
【0055】
次に、図4(B)に示すように、83℃に加熱温調した関東化学社製TMAH−22(商品名、水酸化テトラメチルアンモニウム)を異方性エッチング液として用い、インク室16の底部に第1の凹部17を形成した。異方性エッチングは、犠牲層2が除去されるまで行った。第1の凹部17の側壁は<111>面が露出した状態である。
【0056】
次に、図4(C)に示すように、第1の凹部17の開口位置(インク室の底部)より裏面側のインク室16の<111>面に開口するように、インク経路5を形成した。インク経路5の形成は、まず、シリコン基板1のインク室16や第1の凹部17を含む裏面にスプレー塗布によりAZマテリアル社製AZ-P4620レジスト(商品名)を6μm厚で塗布した。続いて、レーザー(THG:波長355nm)の出力を上げて、第1の凹部17の開口位置より裏面側のインク室16の<111>面に、エッチングストップ層4まで到達しない深さでレーザー孔を形成した。ここでは、シリコン基板の裏面から深さ200μm位置の<111>面に、400μmの深さでレーザー孔を形成した。続いて、シリコン基板1の裏面側からRIE方式のドライエッチングを行い、レーザーで形成した孔を流路型材10まで貫通させ、インク経路5を形成した。
【0057】
次に、図4(D)に示すように、ローム社製リムーバ1112A(商品名)によってシリコン基板1の裏面にあるレジストを除去した。続いて、裏面よりエッチングマスク層8をケミカルドライエッチングにて除去した。続いて、キシレン100%で保護材15のOBCを除去した。そして、40℃に加熱温調した乳酸メチルに浸漬させ、200kHz/200W超音波をかけることで流路型材10をインク吐出口14から溶出させ、インク流路9を形成した。
【0058】
最後に、オーブン炉にて200℃/60minで流路形成部材11を硬化させた。
【0059】
以上のように、インク室16の底部に第1の凹部17を設けることで、第1の凹部17内に沈殿したゴミが再浮上し難くなり、凹部にゴミを捕集することができる。本実施例のように、インク室16と第1の凹部17との境がくびれ形状となるように形成することで、第1の凹部17でインク流動時にインクのよどみをより効果的に発生させることができ、第1の凹部17に沈殿したゴミがさらに再浮上し難くすることができる。
【0060】
くびれ形状を有する形態として、図4(D)に示した形態以外にも、図5(B)、図7(A)〜(C)に示す形態等が挙げられる。なお、図7に示した形態は、第1の凹部の底部が基板内で閉口しており、第1の凹部の全ての壁面は基板を構成するシリコンが露出しているものである。例えば図5(B)の場合、流路型材10形成と同時に犠牲層2上に型材を残すことで形成できる。また図7(C)の場合は図4(A)の先導孔12形成時に、犠牲層に到達出来ない深さにレーザー先導孔を形成することで形状を作ることが出来る。
【0061】
(実施例2)
本実施形態の一例として、流路形成部材11内に、前記第1の凹部17に通じる第2の凹部18を形成しても良い。以下、その実施例を示す。
【0062】
図2(A)及び図2(B)までの工程は、実施例1と同様に行った。
【0063】
次に、図5(A)に示すように、シリコン基板1の表面側に流路型材10の材料としてポジ型の東京応化社製ODUR(商品名)をスピンコートにより14μm厚で塗布する。フォトマスクを用いてihg線の投影露光装置にて露光し、林純葉社製MP−5050(商品名)で現像し、インク流路パターン及び第2の凹部18のパターンを有する流路型材10を形成する。第2の凹部18のパターンは犠牲層2の上側に形成することができる。
【0064】
次に、実施例1と同様にして図3(A)から図4(C)までの工程を行い、インク室16の底部に第1の凹部17及びインク経路16を形成した。
【0065】
次に、ローム社製リムーバ1112A(商品名)によってシリコン基板1裏面のレジストを除去した。続いて、裏面よりエッチングマスク層8をケミカルドライエッチングにて除去した。続いて、第1の凹部の底部に露出しているエッチングストップ層(SiN)4をケミカルドライエッチングにて除去した。続いて、キシレン100%で保護材15のOBC(商品名)を除去した。
【0066】
次に、図5(B)ni示すように、40℃に加熱温調した乳酸メチルに浸漬し200kHz/200W超音波をかけることにより流路型材10をインク吐出口14及び第1の凹部17から溶出させ、インク流路9及び第2の凹部18を形成した。
【0067】
最後に、オーブン炉にて200℃/60minで流路形成部材11を完全に硬化させた。
【0068】
本実施例のように、第1の凹部17に連通する第2の凹部18を流路形成部材内に形成することにより、さらに深い凹部を形成することができ、より多くのゴミを該凹部に溜めることができる。
【0069】
(実施例3)
本実施形態の一例として、第1の凹部17を砲弾型に形成しても良い。図6の砲弾型を形成するには図4(A)の先導孔12形成時に、犠牲層近くまでレーザー先導孔を形成することで、短時間で犠牲層にエッチングを到達させて犠牲層を除去出来る。そのため、横方向への広がりが進行する前にエッチングを終了できるため、円柱状先細り形状の、いわゆる砲弾形状の第1の凹部17の形成が可能となる。
【0070】
図2(A)から図3(C)までの工程は、実施例1と同様に行った。
【0071】
次に、インク室16の底部に露出する<100>面上に、レーザー(THG:波長355nm)にて先導孔12を260μmの深さで2列並列に形成した。ここでは、先導孔12間の幅は80μmに形成した。
【0072】
次に、図6(A)に示すように、83℃に加熱温調した関東化学社製TMAH−22(商品名、水酸化テトラメチルアンモニウム)を異方性エッチング液として用い、犠牲層2が完全に除去された状態までシリコン基板1のエッチングを行い、砲弾型の第1の凹部17を形成した。第1の凹部17は、第1の斜面の端部から表面側に向かって垂直方向の壁面を有していた。
【0073】
そして、実施例1と同様に図4(C)の工程を行うことにより、図6(B)の形態を形成した。
【0074】
本実施例における製法の効果として、第1の凹部17を形成するための異方性エッチングを実施例1及び2よりも短時間で形成することが可能であり、工数の増加を抑えることができる。図7(D)に示した形状も本実施例と同様に工数の増加を抑えて、異方性エッチングをより短い時間で形成することができる。
【0075】
以上の実施例で形成した凹部を有するインクジェット記録ヘッドを用いてインク流動試験を行った結果、凹部にインクのよどみが発生し、本実施形態のインクジェット記録ヘッドがゴミの再浮上を抑える効果を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に開口し液体を吐出する吐出口と、該吐出口に連通する液体流路と、を構成する流路形成部材と、
前記表面と反対側の裏面に開口し、裏面側から表面側に向かって狭くなる第1の斜面を有する液体室と、前記第1の斜面に開口し、前記液体流路と前記液体室とを繋ぐ液体経路と、前記液体室の底部に設けられる第1の凹部と、を有する基板と、
を備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1の凹部は、前記第1の斜面の端部から表面側に向かって広がる第2の斜面と、該第2の斜面の端部から表面側に向かって狭まる第3の斜面と、を有する請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第1の凹部は、前記第1の斜面の端部から表面側に向かって垂直方向の壁面を有する請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記液体室における前記液体経路の開口は、前記吐出口の前記表面における開口よりも断面積が小さい請求項1乃至3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記液体経路は、前記吐出口よりも断面積が小さい穴で構成されている請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記液体室は、第1の結晶異方性エッチング処理により形成されている請求項1乃至5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記第1の凹部は、前記第1の結晶異方性エッチング処理により形成された前記液体室の底部の<100>面に先導孔を設けた後、第2の結晶異方性エッチング処理を施すことにより形成されている請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第1の凹部に連通する第2の凹部が前記流路形成部材内に設けられている請求項1乃至7のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記第1の凹部の底部は、前記基板の表面側に設けられた前記第2の結晶異方性エッチング処理に対するエッチングストップ層が露出している請求項7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第1の凹部の底部は前記基板内で閉口しており、該第1の凹部の全ての壁面は前記基板を構成するシリコンが露出している請求項1乃至7のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
表面に開口し液体を吐出する吐出口と、該吐出口に連通する液体流路と、を構成する流路形成部材と、
前記表面と反対側の裏面に開口する液体室と、前記液体室に開口し、前記液体流路と前記液体室とを繋ぐ液体経路と、を有する基板と、
を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
(a)表面側に吐出エネルギー発生素子を有するシリコン基板を用意する工程と、
(b)前記シリコン基板の裏面側から第1の結晶異方性エッチング処理を施すことにより、<100>面が底部に露出した状態に前記液体室を形成する工程と、
(c)前記<100>面にレーザーを用いて先導孔を形成した後、前記シリコン基板に第2の結晶異方性エッチング処理を施し、前記液体室の底部に第1の凹部を形成する工程と、
(d)前記液体室の<111>面に前記シリコン基板の表面まで貫通する液体経路を形成する工程と、
を有する液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記第1の凹部は、前記第1の結晶異方性エッチング処理により形成された<111>面からなる第1の斜面の端部から表面側に向かって広がる第2の斜面と、該第2の斜面の端部から表面側に向かって狭まる第3の斜面と、を有する請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記第1の凹部は、前記第1の結晶異方性エッチング処理により形成された<111>面からなる第1の斜面の端部から表面側に向かって垂直方向の壁面を有する請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記液体室における前記液体経路の開口は、前記吐出口の前記表面における開口よりも断面積が小さい請求項11乃至13のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記液体経路は、前記吐出口よりも断面積が小さい穴で構成されている請求項14に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記工程(c)において、前記レーザーは、YAGの基本波又は第2若しくは第3高調波である請求項11乃至15のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記工程(d)において、前記液体経路は、YAGの基本波又は第2若しくは第3高調波のレーザーを用いて未貫通穴を形成した後、ドライエッチングすることにより形成する請求項11乃至16のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項18】
前記工程(d)において、前記液体経路は、前記シリコン基板の裏面側からRIE方式のドライエッチングにより形成する請求項11乃至16のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項19】
前記工程(a)において、前記前記シリコン基板の表面であって前記第1の凹部の表面側に相当する位置に犠牲層が形成されている請求項11乃至18のいずれかに記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項20】
前記工程(a)において、前記シリコン基板及び前記犠牲層の表面にエッチングストップ層が形成されており、
前記工程(c)において、前記エッチングストップ層が露出するまで前記第2の結晶異方性エッチング処理を行い、前記第1の凹部を形成する請求項19に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項21】
前記工程(a)と前記工程(b)の間に、前記シリコン基板の表面側に前記液体流路のパターンを有する流路型材を形成する工程と、前記流路型材の上に前記吐出口を有する前記流路形成部材を形成する工程と、を有する請求項19又は20に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項22】
前記流路型材は、前記液体流路のパターンに加え、前記犠牲層の上側にも配置されている請求項21に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項23】
前記工程(c)の後、前記第1の凹部の底部に露出する前記エッチングストップ層をドライエッチングにより除去した後に前記流路型材を除去することにより、前記第1の凹部に連通する第2の凹部を前記流路形成部材に形成する請求項22に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−121168(P2012−121168A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271739(P2010−271739)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】