説明

液体吐出ヘッド

【課題】圧電駆動部を有する液体吐出ヘッドにおいて、圧電体の端部における電流集中を防ぎ、耐久性を向上させる。
【解決手段】インクを加圧する流路12と吐出口11を有する円筒基材10の外周面に、筒状の下電極21、圧電層22、上電極24を積層した圧電駆動部20を設ける。圧電材料からなる筒状の圧電層22の両端に、圧電材料と絶縁材料を混合した混合材料からなる混合層23を形成し、この部分の抵抗を圧電層22より大きくすることで電流集中を防ぐ。圧電層22および混合層23は、ガスデポジション法を用いて成膜される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出方式の記録装置等に用いる液体吐出ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等の液体吐出方式の記録装置は、材料を直接基材に描画できるため、材料利用効率や環境への負荷において、他のデバイス形成手段と比較して非常に有利な技術である。
【0003】
液体吐出方式には、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等を用いた圧電素子と金属板、セラミックスとの積層で構成される圧力発生器に電圧を印加し、圧力を発生させて液体を吐出させる方式がある。また、電気熱変換素子を用いるものも知られている。
【0004】
前者の方式では、タンクから吐出口までの途中に直径0.1〜1mm程度の細長い円筒形の圧電体を設け、この部分を加圧ポンプとして機能させることで液滴を吐出させる方式が知られている。これは、グールド型インクジェットヘッドと呼ばれるものであり、特許文献1および特許文献2に開示されたように、円筒形状の圧電体の内面と外面に電極が形成され、駆動電圧を印加するリード線が接続されている。円筒形状の圧電体の内面電極は、この圧電素子を貫通する中空パイプと接着により固着されている。中空パイプは、円筒形状の圧電体との電気的接触を避けるため、ガラス等絶縁材料で構成され、中空パイプの一端にはインクタンク等からインクを供給するためのインクチューブが接続され、他端にはインク滴を吐出するための吐出口が形成されている。また、特許文献3に開示されているカイザー型、特許文献4に開示されている圧電セラミックスを利用したせん断モード型が広く知られている。
【0005】
これらの圧電体を用いた液体吐出ヘッドで重要な信頼性の項目として、圧電体の抵抗がある。圧電体の抵抗が低いと、電極間に電流が流れて発熱や発煙現象が生じる。この現象は、圧電体の電極間でマイグレーションが発生し、導通状態となり、電流を流すことでジュール熱が発生するためである。
【0006】
すなわち、圧電体の膜厚分布や膜密度等により圧電体の一部で抵抗が低下することにより、前述の諸現象が生じると考えられている。
【特許文献1】特開平7−317660号公報
【特許文献2】特開平8−336967号公報
【特許文献3】特公昭53−12138号公報
【特許文献4】特開昭63−247051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の液体吐出ヘッドの圧電体形成方法としてスパッタ法、スクリーン印刷法、ガスデポジション法等により基材上に圧電層を形成する方法があるが、これらの方法では圧電層の膜厚を均一化させることが困難であった。特に圧電層の膜厚を厚くした場合は、膜厚均一化が困難になり圧電層の端部において膜厚が薄くなってしまうことがあった。その結果、圧電層の端部において電流集中が起こり、圧電層が発熱や発煙現象を生じ、さらには破損してしまうことがあった。また、液体吐出ヘッドは電圧を印加し、圧電層の変位の繰り返しによりインク等液体を吐出させるが、変位の繰り返しにより電極層が破損してしまうことがあった。
【0008】
本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、電圧印加時の電流集中による圧電体の破損等を招くおそれのない液体吐出ヘッドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出するための吐出口に連通する流路に対応して、一対の電極と前記一対の電極にはさまれた圧電体とを有する圧電駆動部を備えた液体吐出ヘッドにおいて、前記圧電体が、圧電材料および絶縁材料が混合された混合材料からなる側縁部と、前記側縁部以外の、圧電材料からなる本体部と、を有することを特徴とする。
【0010】
下電極と上電極の間に挟まれる圧電体の端縁部を構成する圧電材料と絶縁材料の混合層の製造方法としては、ガスデポジション法を利用することが好ましい。混合層の形成方法としてガスデポジション法を用いる場合は、ガスデポジション法により、圧電材料を発生させるエアロゾル化室とは別のエアロゾル化室で絶縁材料をエアロゾル化させ、圧電層の端部において基材へ向けて噴射する。これによって、圧電材料と絶縁材料の混合層が容易に形成できる。さらに、下電極と上電極の間に挟まれる圧電層や圧電材料と絶縁材料の混合層の製造方法としては、オフセット印刷法や、スクリーン印刷法も適用できる。
【0011】
絶縁材料としては、圧電材料の特性向上のために行う分極処理等から高温に耐えられる材料を用いる。特に、絶縁材料として金属酸化物を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
圧電体の側縁部を、圧電材料と絶縁材料の混合材料によって形成することで、膜厚が薄くなりやすい側縁部の抵抗を大きくしておく。圧電体の膜厚が不均一で、特に端部が薄くなっていたとしても、絶縁材料を含む側縁部の抵抗が大きいために電流集中が起こらなくなる。また、圧電駆動部の端部において抵抗が増大することで、電圧印加時の変位が少なくなり、電極の破損を減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に示すように、ガラス製の円筒基材10の周囲に圧電駆動部20を有し、圧電駆動部20は、それぞれ円筒状の下電極21、圧電体の本体部を構成する圧電層22、前記圧電体の側縁部を構成する混合層23、上電極24を備えている。円筒基材10は、一端に吐出口11を有し、円筒基材10の内部空間は、インク等液体を加圧する圧力発生室である流路12を構成している。なお、流路12を形成する基材は円筒基材に限らず、いかなる形状でもよい。
【0015】
また、図2に示すように、円筒基材10の先端に、吐出口11に開口するテーパー形状部13を有する構成でもよい。
【0016】
下電極21の形成には、アーク加熱式のガスデポジション法、スパッタ法、蒸着法等いかなる成膜方法を用いてもよい。
【0017】
下電極21の構成は、最下層にTi、その上にPtを形成する場合が多いが、これらの材料に限定されることはなく、膜厚も限定されるものではない。圧電層22および混合層23は、エアロゾルを用いたガスデポジション法を用いて形成する(図3参照)。圧電層22の原料粉末には、平均一次粒径が0.1〜0.5μmのPZT粒子等の圧電材料を用いて、容器内の粉末をエアロゾル化させ上部に浮遊した粒子をノズルを通して下電極21上に噴射する。混合層23の原料粉末には、平均一次粒径が0.1〜0.2μmの絶縁材料を用い、容器内の粉末をエアロゾル化し上部に浮遊した粒子を差圧によりノズルを通して圧電層22の端部へ向けて噴射する。圧電層22の原料粉末、混合層23の原料粉末の粒径は、膜形成可能である粒径であればよく、これらに限定されるものではない。
【0018】
圧電層22および混合層23の形成方法として、ガスデポジション法が好ましいが、スクリーン印刷法やオフセット印刷法であってもよい。また、圧電材料として代表的なものとしてPZTがあり、絶縁材料としてBaTiO3 、BaTiZrO3 、SrTiO3 、SrCO3 、ZnO、BaO、Al3 、TiO2 、SiO2 等がある。このように、高温に耐えられる材料や誘電率の高い材料が好ましいが、上記の材料に限定されるものではない。
【0019】
次に、上電極24としてTi、Ptを下電極21と同様にアーク加熱式のガスデポジション法で形成する。上電極24も下電極21と同様にアーク加熱式のガスデポジション法、スパッタ法、蒸着法等いずれの成膜方法を用いてもよい。構成も下電極21と同様に、最下層にTi、その上にPtを形成する場合が多いが、これらの材料に限定されることはなく、膜厚も限定されるものではない。
【0020】
次に、ガスデポジション法について説明する。
【0021】
ガスデポジション法は、図4に示すように、粒径数nm〜数十nmの超微粒子、または数十nm〜数μmの微粒子をノズル100からワークW上に吹き付けて成膜する技術である。ガスデポジション法は、超微粒子を生成する超微粒子生成室101、または図5に示すように、既存の微粒子を供給するエアロゾル化室111を有し、膜形成室102、搬送管103等で構成される。
【0022】
超微粒子生成室101において、配管104から供給される不活性ガス雰囲気中で、アーク電極105によるアーク、または抵抗加熱、高周波誘導加熱、レーザー等で蒸発材料106を加熱し、蒸発させて不活性ガスと衝突、冷却させ、金属超微粒子を生成する。もしくは、エアロゾル化室111に不活性ガスや空気などの各種ガスを導入し、振動や撹拌等により微粒子を流動化させエアロゾル化する。
【0023】
次に、超微粒子生成室101またはエアロゾル化室111と膜形成室102の圧力差により、搬送管103を介して膜形成室102に導き、搬送管103に接続されたノズル100から噴射させることによりワークW上に直接パターンを形成する。このとき、ワークWを矢印で示すようスキャンすることで任意のパターンを描画できる。
【0024】
特に、エアロゾルを用いたガスデポジション法は、エアロゾルデポジションと呼ばれたりもしている。
【実施例1】
【0025】
図1に示すような内径600μm、外径700μmの強化ガラス製の円筒基材上に下電極、圧電体、上電極を形成した。下電極はアーク加熱式のガスデポジション法で形成した。膜構成は、最下層にTi:50nm、その上にPt:700nmを形成した。このとき、ノズルの下部に円筒基材を設置し、回転治具により回転させながら成膜した。ノズルは、300μm×15mmの開口部を持つスリット型のノズルを用いた。また、基材は無加熱で成膜した。
【0026】
成膜時の条件は以下のとおりである。
・超微粒子生成室圧力:70KPa
・膜形成室圧力:1KPa
・使用ガス:He
・ガス流量:7L/min
・基材回転速度:6rpm
・アークパワー:35A、18〜28V
・ノズル開口径:300μm×15mm
【0027】
次に、図5に示す装置を用いてエアロゾルによるガスデポジション法でPZT膜(圧電層)および混合層を形成した。PZT膜の原料粉末には、平均一次粒径が0.1〜0.5μmのPZT−LQ(商標名:堺化学製)を用いた。加熱したエアロゾル化室に原材料を投入して撹拌流動化させ、エアロゾル化し上部に浮遊した粒子を差圧により膜形成室に導きノズルから下電極上に噴射した。混合層の原料粉末には、平均一次粒径が0.1〜0.2μmのSrTiOを用いた。エアロゾル化室に原材料を投入して粉末を撹拌流動化させ、エアロゾル化し上部に浮遊した粒子を差圧により膜形成室に導きノズルから圧電層端部へ向けて噴射した。
【0028】
下電極作製と同様に、円筒基材を回転させ、電極上にPZT膜を長さ10mm、厚さ10μm、PZT膜の側面に混合層を長さ2mm、厚さ10μm形成した。
【0029】
PZT膜成膜時の条件は以下の通りである。
・エアロゾル化室圧力:40KPa
・膜形成室圧力:1KPa
・使用ガス:乾燥空気
・基材回転速度:6rpm
・ノズル開口径:300μm×10mm
【0030】
混合層成膜時の条件は以下の通りである。
・エアロゾル化室圧力:40KPa
・膜形成室圧力:1KPa
・使用ガス:乾燥空気
・基材回転速度:6rpm
・ノズル開口径:300μm×2mm
【0031】
次に、上電極を下電極と同様にアーク加熱式のガスデポジション法で形成した。上電極形成に用いたノズルは300μm×10mmで、成膜した部分の長さは、10mm、膜厚は500nmである。その他の成膜条件は下電極を形成した時と同様であるが、ノズル径が異なるため、膜形成室の圧力が若干異なっている。
【0032】
このようにして円筒基材に上下電極とPZT膜および混合層を形成し、大気雰囲気で600℃、1時間の焼成を行った。その後、下電極、上電極それぞれにリード線を取り付け、120℃大気雰囲気で100V、2時間電圧を印加し、PZT膜に分極処理した。
【0033】
こうして得られた上下電極、圧電層および混合層を備えた液体吐出ヘッドに電圧を印加して、液体吐出ヘッドの耐久性を調べた。液体吐出ヘッドに1×1010回電圧を印加してもヘッドが破壊されることがなかった。
【実施例2】
【0034】
図2に示す構成で、内径600μm、外径700μm、先端部内径30μm、先端部外径100μmの先端にテーパー形状部を有する強化ガラス製の円筒基材に下電極、圧電体、上電極を形成した。
【0035】
下電極はスパッタ法を用いた。膜構成は、最下層にTi:50nm、その上にPt:200nmを形成した。成膜範囲は、テーパー形状部の先端位置からインク供給側に15mmとし、回転治具に取り付けた15mmの開口部を有するメタルマスクを用い、円筒基材を回転させながら成膜を行った。
【0036】
次に、実施例1と同様にエアロゾルを用いたガスデポジション法でPZT膜(圧電層)および混合層を形成した。PZT膜の原料粉末には、平均一次粒径が0.1〜0.5μmのPZT−LQ(商標名:堺化学製)を用いて、容器内の粉末を撹拌流動化させ、エアロゾル化し上部に浮遊した粒子を差圧により膜形成室に導きノズルから下電極上に噴射した。混合層の原料粉末には、平均一次粒径が0.1〜0.2μmのBaTiO3 を用い、容器内の粉末を撹拌流動化させ、エアロゾル化し上部に浮遊した粒子を差圧により膜形成室に導きノズルを圧電層端部へ向けて噴射した。
【0037】
下電極作製と同様に、電極の形成された基材を回転させ、電極上にPZT膜を長さ10mm、厚さ10μm、PZT膜の側面に混合層を長さ2mm、厚さ10μm形成した。
【0038】
PZT膜成膜時の条件は以下の通りである。
・エアロゾル化室圧力:40KPa
・膜形成室圧力:1KPa
・使用ガス:乾燥空気
・基材回転速度:6rpm
・ノズル開口径:300μm×10mm
【0039】
混合層成膜時の条件は以下の通りである。
・エアロゾル化室圧力:40KPa
・膜形成室圧力:1KPa
・使用ガス:乾燥空気
・基材回転速度:6rpm
・ノズル開口径:300μm×2mm
【0040】
次に、上電極を下電極と同様にスパッタで形成した。成膜方法は、下電極と概ね同様であるが、開口部は円筒基材の長さ方向に12mmとしている。
【0041】
このようにして円筒基材に上下電極とPZT膜および混合層を形成し、大気雰囲気で600℃、1時間の焼成を行った。その後、下電極、上電極それぞれにリード線を取り付け、120℃大気雰囲気で100V、2時間電圧を印加し、PZT膜に分極処理を行った。
【0042】
こうして得られた電極と圧電層と混合層を備えた液体吐出ヘッドに電圧を印加し、液体吐出ヘッドの耐久性を調べた。液体吐出ヘッドに1×1010回電圧を印加してもヘッドが破壊されることがなかった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1による液体吐出ヘッドの主要部を示す模式断面図である。
【図2】実施例2による液体吐出ヘッドの主要部を示す模式断面図である。
【図3】ガスデポジション法による圧電層と混合層の成膜工程を説明する図である。
【図4】アーク式のガスデポジション装置を示す図である。
【図5】エアロゾル式のガスデポジション装置を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
10 円筒基材
11 吐出口
12 流路
20 圧電駆動部
21 下電極
22 圧電層
23 混合層
24 上電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための吐出口に連通する流路に対応して、一対の電極と前記一対の電極にはさまれた圧電体とを有する圧電駆動部を備えた液体吐出ヘッドにおいて、前記圧電体が、圧電材料および絶縁材料が混合された混合材料からなる側縁部と、前記側縁部以外の、圧電材料からなる本体部と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記混合材料が、圧電材料と金属酸化物からなることを特徴とする請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記混合材料が、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)と、BaTiO3 、BaTiZrO3 、SrTiO3 、SrCO3 、ZnO、BaO、Al2 3 、TiO2 、SiO2 のうちの少なくとも1つを原料とすることを特徴とする請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記側縁部が、ガスデポジション法によって形成されたことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−296817(P2007−296817A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128826(P2006−128826)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】