説明

液体吐出ヘッド

【課題】 記録素子基板の吐出口列間を、同じ構成を有する別の記録素子基板の吐出口列で補完するように、複数の記録素子基板が装着された液体吐出ヘッドにおいて、記録素子基板間の電気接点の位置のばらつきを低減できる。
【解決手段】 第1の電気接点24aの重心と吐出口列の第1の電気接点24a側の端部に設けられた吐出口30の重心との間隔と、第2の電気接点24bの重心と吐出口列の第2の電気接点24b側の端部に設けられた吐出口30の重心との間隔L2とが、異なっている。第1の素子基板21が有する複数の第1の電気接点24aと、第2の素子基板22が有する複数の第2の電気接点24bとが直線上に配され、第1の素子基板21が有する複数の第2の電気接点24bと、第2の素子基板22が有する第1の電気接点24aとが直線上に配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドとしてのインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドとも称する)において、吐出口列一列あたりの吐出口数や吐出口列の数が増加する傾向にある。
【0003】
吐出口数が多いと、より高速な記録が可能となり、また、多数色に対応した吐出口列を設けられるので、高画質な記録が可能となる。また、吐出されるインクの吐出量が異なる複数種の吐出口を設けることができ、これにより、高速かつ高画質な記録が可能となる。更に、記録ヘッドの走査方向に関して吐出口列の色の順が線対称となるように、複数色の吐出口列を配することで、双方向記録を行う際に、二つの方向で紙面上におけるインクの色の重なる順を揃えることが可能となるので、高速かつ高画質な記録が可能となる。また、特許文献1に記載のように、吐出口列の吐出口間を、別の吐出口列を形成する吐出口で補うように、複数の吐出口列を配することで、吐出口を高密度に配設でき、高画質な記録が可能となる。
【0004】
しかしながら、吐出口列一列あたりの吐出口数や記録素子基板一枚あたりの吐出口列数の増加に伴い、記録素子基板一枚あたりのサイズが大きくなることで、その製造コストの増加を招く恐れがある。この理由は以下の通りである。
【0005】
通常、記録素子基板の製造は1枚のウェハに複数の記録素子基板を形成し、それを切り出すことによって行われる。一般にウェハは略円形であるため、矩形の記録素子基板を切り出す場合、記録素子基板のサイズが大きくなるほどそのレイアウトの自由度が低減するので、ウェハ全体に対する使用領域の割合が減る。また、製造時において記録素子基板に不良が発生した場合、不良が局所的なものであっても不良品としての廃棄はチップ単位で行われるため、記録素子基板のサイズが大きいほど損失額が増える。
【0006】
したがって、製造コストの増加を防ぐためには、記録素子基板の大型化を防ぐことが求められる。
【0007】
ここで、記録素子基板の大型化を防ぐ手段としては、記録素子基板を複数に分割して記録ヘッドに装着するという手段がある。このとき、同じ構成の記録素子基板となるように複数に分割すると製造コストをより低減することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−55915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
同じ構成を有する記録素子基板を複数用いて、吐出口を高密度に配設するために、記録素子基板に設けられた吐出口列の間を、別の記録素子基板に設けられた吐出口列で補うように、複数の記録素子基板を配した場合には以下の課題が生じる。
【0010】
すなわち、同じ構成を有する記録素子基板であるため、一方の記録素子基板に対して、他方の記録素子基板をずらして配置することになるので、記録素子基板に設けられた電気接点は、複数の記録素子基板間でずれた位置に配されることになる。すると、複数の電気接点と、配線部材に設けられた複数のリードとの接合強度が、複数の電気接点間でばらつく恐れが生じ、このばらつきを低減するためには、電気接点の位置に合わせて、リードの長さを調整して設ける必要がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、記録素子基板の吐出口列間を、別の記録素子基板の吐出口列で補完するように、複数の記録素子基板が装着された液体吐出ヘッドにおいて、記録素子基板間の電気接点の位置のばらつきを低減できる液体吐出ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する吐出口が複数配設された吐出口列と、複数の前記吐出口から液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子を複数と、複数の前記エネルギー発生素子に電気的に接続される電気接点を複数と、を有する素子基板であって、複数の前記電気接点が、前記吐出口が配設された配設方向に関する前記素子基板の一端に、該一端に沿う様に直線上に配された複数の第1の電気接点と、前記配設方向に関する前記素子基板の他端に、該他端に沿う様に直線上に配された複数の第2の電気接点と、を含み、前記第1の電気接点の重心と前記吐出口列のうちの前記第1の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する間隔と、前記第2の電気接点の重心と前記吐出口列のうちの前記第2の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する間隔と、が異なる前記素子基板を複数有し、
複数の前記素子基板が第1の素子基板と第2の素子基板とを含み、前記第1の素子基板が有する複数の前記第1の電気接点と前記第2の素子基板が有する複数の前記第2の電気接点とが直線上に配され、前記第1の素子基板が有する複数の前記第2の電気接点と前記第2の素子基板が有する前記第1の電気接点とが直線上に配されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
記録素子基板の吐出口列間を、別の記録素子基板の吐出口列で補完するように、複数の記録素子基板が装着された液体吐出ヘッドにおいて、記録素子基板間の電気接点の位置のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドに装着された記録素子基板を示す図である。
【図2】本発明に係るインクジェット記録ヘッドが装着された記録装置を示す図である。
【図3】本発明に係る第1の実施形態のインクジェット記録ヘッド全体の概略構成を示す図である。
【図4】本発明に係る第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドの吐出口面を示す概略図である。
【図5】本発明に係るインクジェット記録ヘッドに装着される記録素子基板の流路の構成を示す断面図である。
【図6】本発明に係る第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドに装着される記録素子基板の構成を説明するための図である。
【図7】本発明に係る第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドに装着された記録素子基板の変形例を示す図である。
【図8】本発明に係る第2の実施形態のインクジェット記録ヘッドに装着された記録素子基板を示す図である。
【図9】本発明に係る第3の実施形態のインクジェット記録ヘッド全体の概略構成を示す図である。
【図10】本発明に係る第3の実施形態の記録素子基板の構成を説明するための図である。
【図11】本発明に係る第3の実施形態のインクジェット記録ヘッドの、記録素子基板及び配線部材の構成を示す図である。
【図12】本発明に係る記録素子基板の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
まず、図2を用いて本発明を適用可能な液体吐出ヘッドとしてのインクジェット記録ヘッド1(以下、記録ヘッド1と称する)が装着されるインクジェット記録装置100(以下、記録装置と称する)の主要な構成を説明する。
【0016】
記録ヘッド1は、インクを吐出する複数のノズルからなるノズル列を有する。この記録ヘッド1が搭載されるキャリッジ2は、シャフト12に勘合されており、記録媒体15が搬送される方向に対して直交する走査方向に走査される。キャリッジ2は、ベルト13を介してモータ14から駆動力を受けることにより走査される。キャリッジ位置センサ(不図示)によって、キャリッジエンコーダ16を検知することで、キャリッジ2の位置を検出する。
【0017】
記録動作が始まると、紙などの記録媒体15は、紙送りモータ8によって駆動される紙送りローラ6によって搬送される。紙送りモータ8に同期して回転する紙送りエンコーダ10に記されたスリットを、センサ11によって検知することで、記録媒体15の位置を検出する。
【0018】
記録ヘッド1から吐出されたインクによって記録が行われた記録媒体は、排紙ローラ3の回転に伴って記録装置100の外へ搬送される。
【0019】
吐出口からインクを吐出する記録ヘッド1の駆動と、キャリッジ2の走査と、記録媒体15の搬送の夫々のタイミングが制御されることによって、記録媒体15の所定の位置にインクが吐出される。
【0020】
図3は、記録ヘッド1全体の概略構成を示す図であり、記録ヘッド1とそれに搭載されるインクタンク17C、17M、17Yが記載されている。
【0021】
記録ヘッド1はコンタクト基板20上のコンタクトパッド18を介して、記録装置本体から駆動信号を受信する。駆動信号は、コンタクト基板20に接続された配線部材19を介して、第1の記録素子基板21(第1の素子基板)および第2の記録素子基板22(第2の素子基板)の2つの記録素子基板に供給される。第1の記録素子基板21および第2の記録素子基板22に供給された駆動信号にしたがって記録素子基板21、22内のエネルギー発生素子が駆動され、吐出口からインクが吐出される。
【0022】
ここで、インクタンク17C、17M、17Yはそれぞれシアン、マゼンタ、イエローのインクを収容し、記録ヘッド1に備えられた第1の記録素子基板21および第2の記録素子基板22にインクを供給する。
【0023】
図4は、2つの記録素子基板が装着された記録ヘッド1の吐出口面の概略構成を示す。配線部材19と、第1の記録素子基板21および第2の記録素子基板22とは、配線部材19に設けられたリード23によって電気的に接続される。
【0024】
第1の記録素子基板21には、シアンインクを吐出するシアン吐出口列C1、マゼンタインクを吐出するマゼンタ吐出口列M1、イエローインクを吐出するイエロー吐出口列Y1が、キャリッジ2が走査される方向である主走査方向に関して並列に配置されている。同様に、第2の記録素子基板22には、シアン吐出口列C2、マゼンタ吐出口列M1、イエロー吐出口列Y2が、主走査方向に関して並列に配置されている。
【0025】
ここで、第1の記録素子基板21は、図4の左方向からC1、M1、Y1の順で吐出口列が配されており、第2の記録素子基板22は、Y2、M2、C2の順で吐出口列が配置されている。すなわち、第1の記録素子基板21と第2の記録素子基板22とでは、吐出口列の色の並び順が、主走査方向に関して逆の順になっている。
【0026】
図5は、2つの記録素子基板21、22の流路の構成を示す図である。図5(a)は、吐出口30が設けられた吐出口面から見た、記録素子基板21、22を形成する吐出口部材35の部分上面図を示し、図5(b)は、図5(a)のN−N線の断面図を示す。記録素子基板21、22は、吐出口30が形成された吐出口部材35と、上面にエネルギー発生素子としてのヒータ32が設けられたシリコン基板36とを含む。
【0027】
ここで、吐出口からインクが吐出される原理を説明する。インクタンク17に連通する共通液室33から、個別流路31を介して圧力室34内に設けられた、エネルギー発生素子としてのヒータ32上にインクが供給される。ヒータ32は記録素子基板21、22に供給される駆動信号にしたがって駆動され、駆動時にはヒータ32全体が急加熱される。ヒータ32が急加熱されることで、ヒータ32とインクの界面で膜沸騰が起き、インク中が急激に加圧される。この加圧力によって、吐出口30から外気に向かって勢いよくインクが吐出される。インクが吐出された後は、一時的に圧力室34内はインクで満たされていない状態になるが、時間の経過とともに個別流路31から圧力室34にインクが供給され、再度吐出可能な状態になる。
【0028】
図6は、記録ヘッド1に装着される第1の記録素子基板21の構成を説明するための図である。第2の記録素子基板22も、第1の記録素子基板21と同じ構成であるので、以下では、第1の記録素子基板21を用いて記録素子基板の構成を説明する。
【0029】
第1の記録素子基板21に設けられた吐出口列C1、M1、Y1は、吐出口30の重心間の間隔であるピッチPで等間隔に複数配設されることで形成されている。ここで、吐出口30の重心とは、吐出口30の形状を有する図形の重心を意味する。
【0030】
記録素子基板21には、配線部材19に設けられたリード23(図4参照)が接合される電気接点24が設けられており、電気接点24を介して記録ヘッド1の外部の記録装置から送られた駆動信号に基づいて記録素子基板21のヒータ32が駆動される。電気接点24は吐出口列の吐出口30が配設される方向に関する記録素子基板21の両端部に、矩形の記録素子基板21の、それぞれの端辺に沿う様に直線上に配列されている。ここで、複数の電気接点24はそれぞれの面積が略等しく、複数の電気接点24の重心が直線上に並ぶように、複数の電気接点24が配されることが好ましい。
【0031】
ここで、電気接点24が配列される2辺のうち一方の側をSIDE_A、他方の側をSIDE_Bと定義する。SIDE_A側に設けられた電気接点24を、電気接点24a(第1の電気接点)とし、SIDE_B側に設けられた電気接点24b(第2の電気接点)とする。電気接点24aの重心と吐出口列の電気接点24a側の端部に設けられた吐出口30の重心との、吐出口30が配設される配設方向に関する間隔を間隔L1とする。電気接点24bの重心と吐出口列の電気接点24b側の端部に設けられた吐出口30の重心との、吐出口30の配設方向に関する間隔を間隔L2とする。ここで、間隔L1は間隔L2よりも短くなっている。
【0032】
また、吐出口30と電気接点24との間隔が大きいSIDE_Bの近傍には、温度検知素子としてのダイオード25が設けられている。ダイオード25は電気接点24を介して記録装置本体の検出回路に接続され、検出信号の印加(定電流の印加)に呼応して検出値(電圧値)を出力する。記録装置本体は検出値から記録ヘッド1の温度を算出し、記録ヘッド1の温度が所定温度以上の高温になった場合には記録動作を一時的に停止するなどの制御を行う。
【0033】
図1は、第1の実施形態の記録ヘッド1における、第1の記録素子基板21及び第2の記録素子基板22の配置を示す。
【0034】
記録ヘッド1には、第1の記録素子基板21及び第2の記録素子基板22の、SIDE_AとSIDE_Bとを反転させた状態で、両記録素子基板が並設するように実装されている。
【0035】
上述したように、第1の記録素子基板21及び第2の記録素子基板22は、吐出口30が配設された記録素子基板の面から見て、記録素子基板の一端側の電気接点24と吐出口30との間隔と、他端側の電気接点24と吐出口30との間隔とが、異なっている。したがって、第1の記録素子基板21の吐出口列C1、M1、Y1と第2の記録素子基板22の吐出口列C2、M2、Y2とは、対応する色の吐出口30間を互いに補完することが可能である。これにより、吐出口を高密度に配することができるため、高画質な記録が可能となる。
【0036】
また、第1の記録素子基板21と第2の記録素子基板22に設けられた電気接点24の位置を直線上に配することが可能になる。これにより、長さのばらつきが小さい、または長さが揃ったリード23を用いて、第1の記録素子基板21及び第2の記録素子基板22の電気接点24に接合させることが可能である。また、各接合部における、リード23と電気接点24との接合面積のばらつきを低減することで、各接合部間の接合強度のばらつきを低減し、接合の信頼性を向上することが可能である。
【0037】
図1では、SIDE_Aの電気接点24aと吐出口30との重心間の間隔L1と、SIDE_Bの電気接点24bと吐出口30との重心間の間隔L2との間で、L2=L1+P/2の関係が成り立っている。すなわち、第1の記録素子基板21の吐出口列と第2の記録素子基板22の吐出口列とが、半ピッチ分(P/2)ずれて配されることになるので、より望ましい。
【0038】
また、第1の記録素子基板21と第2の記録素子基板22とを、互いに反転させて記録ヘッド1に実装しているため、記録ヘッド1上では、2つのダイオード25が対角線上に配置される。これにより、第1の記録素子基板21及び第2の記録素子基板21が装着された領域において、温度の検出が可能な範囲をより広くすることができる。
【0039】
また、記録素子基板を複数枚に分割することで、サイズの大型化を抑制することができるので、製造コストを低減することが可能である。
【0040】
更に、第1の記録素子基板21と第2の記録素子基板22とは、同じ構成を有するため、製造工程において同じウェハ内から取り出された記録素子基板を用いて同じ記録ヘッド1に実装することができる。同じウェハ内の記録素子基板同士は製造条件が同じであるため形状の差が少ない。そのため、第1の記録素子基板21と第2の記録素子基板の吐出口列同士の吐出特性がそろいやすく、より良好な記録画像を得ることができる。なお、本実施形態での、同じ構成の記録素子基板とは、吐出口列の配置構成が同じであればよく、製造上の誤差については許容するものとする。
【0041】
図7は、本実施形態の変形例を示す図である。図1に示す本実施形態は、吐出口列C1、M1、Y1の間隔L1はそれぞれ等しく、吐出口列C1、M1、Y1の間隔L2はそれぞれ等しい構成である。すなわち、第1の吐出口列における間隔L1と第2の吐出口列における間隔L1とが等しく、吐出口列C1における間隔L2と吐出口列Y1における間隔L2とが等しい。一方、図7に示す変形例は、吐出口列C1、Y1の間隔L1は互いに等しいが、吐出口列M1の間隔L1は、吐出口列C1、Y1の間隔L1より大きい構成である。すなわち、第1の吐出口列における間隔L1と第2の吐出口列における間隔L1とが異なっており、第1の吐出口列における間隔L2と第2の吐出口列における間隔L2とが異なっている。このように、本実施形態は、各吐出口列における間隔L1と間隔L2が異なっていればよく、各吐出口列における間隔L1がそれぞれ等しく、各吐出口列における間隔L2がそれぞれ等しい構成のみに限定されない。
【0042】
なお、図12に示す変形例のように、インクの種類によって個別流路31の幅を設定してもよい。図12(a)〜(c)は、それぞれ、シアン、マゼンタ、イエローの流路構成を示す。インクの粘度の大きさは、イエロー>マゼンタ>シアンとなっているので、粘度の異なるインクについて圧力室34へのインクの供給速度のばらつきを低減するために、個別流路31の幅寸法をイエロー(W3)>マゼンタ(W2)>シアン(W1)としてもよい。二つの記録素子基板を互いに反転させて配置するので、吐出口列ごとに流路の幅等の構成が異なる場合も、同じ構成の記録素子基板を用いて、記録ヘッドを製造することが可能である。
【0043】
(第2の実施形態)
次に、第1の実施形態とは記録素子基板に設けられた吐出口列の構成が異なる第2の実施形態の記録ヘッドについて説明する。
【0044】
また、第2の実施形態の記録ヘッド1は、図3に示す第1の実施形態の記録ヘッド1の概略構成と同様であるが、記録ヘッド1に搭載されるインクタンクのインクの色が、第1の実施形態と異なっている。具体的には、第2の実施形態の記録ヘッド1には、インクタンク17C、17M、17Y、17Kが搭載される。インクタンク17C、17M、17Y、17Kはそれぞれシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのインクを収容し、記録ヘッド1に備えられた第1の記録素子基板21および第2の記録素子基板22にインクを供給する。
【0045】
図8は、第2の実施形態の記録ヘッド1における、第1の記録素子基板21及び第2の記録素子基板22の配置を示す。
【0046】
本実施形態も上述の実施形態と同様に、第1の記録素子基板21及び第2の記録素子基板22の、SIDE_AとSIDE_Bとを反転させた状態で、両記録素子基板が並設するように実装されている。
【0047】
本実施形態の記録素子基板の構成について説明する。第1の記録素子基板21には、シアンインクを吐出するシアン吐出口列C1、マゼンタインクを吐出するマゼンタ吐出口列M1、ブラックインクを吐出するブラック吐出口列Kが、図8の左方向から順に、主走査方向に関して並列に配置されている。また、第1の記録素子基板21に対して反転した状態である第2の記録素子基板22には、図8の左方向から順に、イエローインクを吐出するイエロー吐出口列Y、マゼンタ吐出口列M2、シアン吐出口列C2が主走査方向に関して並列に配置されている。ここで、本実施形態では、吐出口30が千鳥状に配設されることで各吐出口列が形成されている。
【0048】
ここで、シアンインクとマゼンタインクとを吐出する吐出口列C1、C2と、M1、M2は、吐出量の少ないインクを吐出するために、千鳥状に配設された吐出口列のうちの一方の吐出口列は、吐出口径の小さい吐出口を配列した小吐出口列Sとなっている。シアンインクとマゼンタインクは、写真等の画像を高精細化するための寄与度が大きいために、相対的に吐出口径の小さく、インクの吐出量の少ない小吐出口列Sを設けている。また、シアン吐出口列C1、C2とマゼンタ吐出口列M1、M2の、千鳥状に配設された他方の吐出口列は、相対的に吐出口径の大きい大吐出口列Lとなっている。イエローインク、ブラックインクをそれぞれ吐出する吐出口列Y、Kは、吐出量の多いインクを吐出するために相対的に吐出口径が大きい吐出口を配列した大吐出口列Lで形成されている。
【0049】
第1の記録素子基板21と第2の記録素子基板22とは、SIDE_AとSIDE_Bとを反転させた状態で記録ヘッド1に実装されているので、吐出口列の並び順は、二つの記録素子基板21、22で、線対称の並び順になっている。すなわち、吐出口列の並び順は、図8の左から順に、第1の記録素子基板21はL、S、L、S、L、Lで、第2の記録素子基板22はL、L、S、L、S、Lになっている。
【0050】
ここで、シアン吐出口列C1、C2及びマゼンタ吐出口列M1、M2において、SIDE_Aの電気接点24aの重心と、各吐出口列のうちの電気接点24a側の端部に設けられた大吐出口30Lの重心との、吐出口30の配設方向に関する間隔をL3とする。また、SIDE_Bの電気接点24bの重心と、各吐出口列のうちの電気接点24b側の端部に設けられた大吐出口30Lの重心との、吐出口30の配設方向に関する間隔をL4とする。間隔L3は、間隔L4よりも小さくなっている。小吐出口についても同様であり、電気接点24の重心と各吐出口列のうちの最端に設けられた小吐出口30Sの重心との間隔が、SIDE_AとSIDE_Bで異なっている。
【0051】
これにより、第1の記録素子基板21のシアン吐出口列C1及びマゼンタ吐出口列M1の大吐出口列Lの間を、第2の記録素子基板22のシアン吐出口列C2及びマゼンタ吐出口列M2の大吐出口列Lが補完するように設けられる。また、同様に、第1の記録素子基板21のシアンインク吐出口列C1及びマゼンタインク吐出口列M1の小吐出口列Sの間を、第2の記録素子基板22のシアン吐出口列C2及びマゼンタ吐出口列M2の小吐出口列Sが補完するように設けられる。
【0052】
図8では、大吐出口列Lについては、間隔L3と間隔L4との間で、L4=L3+P/2の関係が成り立っている。小吐出口列については、L3=L4+P/2の関係が成り立っている。すなわち、第1の記録素子基板21と第2の記録素子基板22とで、大吐出口列と小吐出口列とが、それぞれ半ピッチ分(P/2)ずれて配されることになるので、より望ましい。
【0053】
また、第1の実施形態と同様に、第1の記録素子基板21と第2の記録素子基板22に設けられた電気接点24の位置を直線上に配することが可能になる。
【0054】
(第3の実施形態)
続いて、上述の実施形態とは、配線部材19の構成が異なる第3の実施形態の記録ヘッドについて説明する。本実施形態は、吐出口列の構成は特に限定されないので、第1の実施形態の記録素子基板と同じ吐出口列の構成を有する記録素子基板を用いて説明する。
【0055】
図9は、第3の実施形態の記録ヘッド1全体の概略構成を示す図であり、記録ヘッド1とそれに搭載されるインクタンク17C、17M、17Yが記載されている。
【0056】
記録ヘッド1はコンタクト基板20上のコンタクトパッド18を介して、記録装置本体から駆動信号を受信する。駆動信号は、コンタクト基板20と接続された2つの配線部材19を介して、第1の記録素子基板21および第2の記録素子基板22に供給される。ここで、2つの配線部材19は、その内部に配された配線の種類、その配置の順番、記録素子基板を内部に配置するための開口が設けられた位置等、同じ構成を有するものである。
【0057】
配線部材19と記録素子基板21および22とは、リード23によって電気的に接続され、供給された駆動信号にしたがって記録素子基板21、22内のエネルギー発生素子としてのヒータが駆動され、吐出口よりインクが吐出される。
【0058】
ここで、図11に示すように、配線部材19の内部に設けられた配線26a〜26jは駆動信号の種類によって配線の幅が異なっている。すなわち、ヒータの駆動電源であるVHおよびGHの配線である26d、26e、26i、26jは印加電流量が他の配線と比較して相対的に大きいので配線幅を広げることによって配線抵抗を下げ、駆動時の電圧降下を抑制している。
【0059】
図10は、第3の実施形態における第1の記録素子基板21の内部構成を示す。上述の実施形態と同様に、第2の記録素子基板22は第1の記録素子基板21と同じ構成を有するので、第1の記録素子基板21を用いて、記録素子基板の構成について説明する。
【0060】
第1の記録素子基板21には配線部材19に設けられたリード23が接合される電気接点24が設けられている。複数の電気接点24が、吐出口の配設方向に関する第1の記録素子基板21の両端部に、直線上に配置されており、複数の電気接点24は、入力される信号の種類が異なる複数種の電気接点24を含んでいる。例えば、電気接点24を介して第1の記録素子基板21に入力される駆動信号の種類は、ヒータの駆動電源(VH)とグランド(GH)、データ信号の電源(VD)とグランド(GD)、データ信号(DT)である。
【0061】
駆動信号の種類に対応して設けられた複数種の電気接点24の並び順は、SIDE_AとSIDE_Bで逆の順番となっており、SIDE_Aの図10の左からの並び順と、SIDE_Bの図10の右からの並び順がそろっている。すなわち、電気接点24は、図10のSIDE_Aでは、左から順に、VH、VH、GH、GH、VD、GD、DTの順に配置されており、SIDE_Bでは、右から順に、VH、VH、GH、GH、VD、GD、DTの順に配置されている。
【0062】
上述の実施形態と同様に、第1の記録素子基板21と第2の記録素子基板22は同じ構成の記録素子基板であり、互いの上下(図10のSIDE_AとSIDE_B)を反転させた状態で並設され、実装される。SIDE_AとSIDE_Bとで、電気接点24の並び順が反対である記録素子基板を用いるため、記録ヘッド1に実装された状態において、第1の記録素子基板21と第2の記録素子基板22とでは、電気接点24の並び順が同じになる。
【0063】
そのため、第1の記録素子基板21および第2の記録素子基板22にそれぞれ接続される二つの配線部材19として、同じ構成を有する配線部材19を用いることが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
19 配線部材
21 第1の記録素子基板(第1の素子基板)
22 第2の記録素子基板(第2の素子基板)
23 リード
24a 第1の電気接点
24b 第2の電気接点
30 吐出口
32 ヒータ(エネルギー発生素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口が複数配設された吐出口列と、複数の前記吐出口から液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子を複数と、複数の前記エネルギー発生素子に電気的に接続される電気接点を複数と、を有する素子基板であって、
複数の前記電気接点が、前記吐出口が配設された配設方向に関する前記素子基板の一端に、該一端に沿う様に直線上に配された複数の第1の電気接点と、前記配設方向に関する前記素子基板の他端に、該他端に沿う様に直線上に配された複数の第2の電気接点と、を含み、
前記第1の電気接点の重心と前記吐出口列のうちの前記第1の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する間隔と、前記第2の電気接点の重心と前記吐出口列のうちの前記第2の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する間隔と、が異なる前記素子基板を複数有し、
複数の前記素子基板が第1の素子基板と第2の素子基板とを含み、
前記第1の素子基板が有する複数の前記第1の電気接点と前記第2の素子基板が有する複数の前記第2の電気接点とが直線上に配され、前記第1の素子基板が有する複数の前記第2の電気接点と前記第2の素子基板が有する前記第1の電気接点とが直線上に配されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
複数の前記吐出口はピッチPで配設されており、
前記第1の電気接点の重心と前記第1の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する前記間隔をL1とし、前記第2の電気接点の重心と前記第2の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する前記間隔をL2としたとき、L2=L1+P/2の関係が成り立つことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記吐出口列が、第1の吐出口列と第2の吐出口列とを含み、
前記第1の吐出口列における、前記第1の電気接点の重心と前記第1の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する前記間隔と、前記第2の吐出口列における前記第1の電気接点の重心と前記第1の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する前記間隔と、が等しく、前記第1の吐出口列における、前記第2の電気接点の重心と前記第2の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する前記間隔と、前記第2の吐出口列における、前記第2の電気接点の重心と前記第2の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する前記間隔と、が等しいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記吐出口列が、第1の吐出口列と第2の吐出口列とを含み、
前記第1の吐出口列における、前記第1の電気接点の重心と前記第1の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する前記間隔と、前記第2の吐出口列における、前記第1の電気接点の重心と前記第1の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する前記間隔と、が異なっており、前記第1の吐出口列における、前記第2の電気接点の重心と前記第2の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する前記間隔と、前記第2の吐出口列における、前記第2の電気接点の重心と前記第2の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する前記間隔と、が異なっていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
液体を吐出する吐出口が複数配設された吐出口列と、複数の前記吐出口から液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子を複数と、複数の前記エネルギー発生素子に電気的に接続される電気接点を複数と、を有する素子基板であって、
複数の前記電気接点が、前記吐出口が配設された配設方向に関する前記素子基板の一端に、該一端に沿う様に直線上に配された複数の第1の電気接点と、前記配設方向に関する前記素子基板の他端に、該他端に沿う様に直線上に配された複数の第2の電気接点と、を含み、
前記吐出口列が、前記吐出口の径が相対的に大きい大吐出口と、前記吐出口の径が相対的に小さい小吐出口とが千鳥状に配設された前記吐出口列を含み、
前記第1の電気接点の重心と前記吐出口列のうちの前記第1の電気接点側の端部に設けられた前記大吐出口の重心との、前記配設方向に関する間隔と、前記第2の電気接点の重心と、前記吐出口列のうちの前記第2の電気接点側の端部に設けられた前記大吐出口の重心との、前記配設方向に関する間隔と、が異なる前記素子基板を複数有し、
複数の前記素子基板が、第1の素子基板と第2の素子基板とを含み、
前記第1の素子基板が有する複数の前記第1の電気接点と前記第2の素子基板が有する複数の前記第2の電気接点とが直線上に配され、前記第1の素子基板が有する複数の前記第2の電気接点と前記第2の素子基板が有する前記第1の電気接点とが直線上に配されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
シアンインク及びマゼンタインクを吐出するための吐出口列は、前記大吐出口と前記小吐出口とが千鳥状に配設された前記吐出口列であり、ブラックインク及びイエローインクを吐出するための吐出口列は、前記大吐出口が千鳥状に配設された前記吐出口列であることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記素子基板には、前記第1の電気接点と、前記吐出口列の前記第1の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口との、前記配設方向に関する間、及び、前記第2の電気接点と、前記吐出口列の前記第2の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口との、前記配設方向に関する間の、いずれか一方に、温度を検知するための温度検知素子が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第1の電気接点の重心と前記第1の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する前記間隔は、前記第2の電気接点の重心と前記第2の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口の重心との、前記配設方向に関する前記間隔より小さく、
前記素子基板には、前記第2の電気接点と、前記吐出口列の前記第2の電気接点側の端部に設けられた前記吐出口との、前記配設方向に関する間に、温度を検知するための温度検知素子が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記複数の第1の電気接点及び前記複数の第2の電気接点が、入力される信号の種類が異なる複数種の前記電気接点を含み、前記複数の第1の電気接点と前記複数の第2の電気接点とで、前記複数種の電気接点の並び順が反対であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記素子基板は、前記吐出口に連通する流路を有し、
前記吐出口列が、第1の吐出口列と第2の吐出口列とを含み、
前記第1の吐出口列の前記吐出口に連通する前記流路と、前記第2の吐出口列の前記吐出口に連通する前記流路とで、前記流路の幅が異なることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−139866(P2012−139866A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293008(P2010−293008)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】