説明

液体吐出装置の製造方法

【課題】 本発明は、液体吐出装置の製造方法に関し、例えばサーマル方式によるインクジェットプリンタに適用して、十分な信頼性、生産性を確保しつつ、液室、ノズル側で十分な濡れ性を確保し、ノズルプレート表側面では十分な撥水性を確保する。
【解決手段】 本発明は、熱分解により酸素ラジカルを生成し、この酸素ラジカルによりノズルプレート15に付着した撥水材31を選択的に除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置の製造方法に関し、例えばサーマル方式によるインクジェットプリンタに適用することができる。本発明は、熱分解により酸素ラジカルを生成し、この酸素ラジカルによりノズルプレートに付着した撥水材を選択的に除去することにより、十分な信頼性、生産性を確保しつつ、液室、ノズル側で十分な濡れ性を確保し、ノズルプレート表側面では十分な撥水性を確保することができるようにする。
【背景技術】
【0002】
近年、画像処理等の分野において、ハードコピーのカラー化に対するニーズが高まってきている。このニーズに対して、従来、昇華型熱転写方式、溶融熱転写方式、インクジェット方式、電子写真方式及び熱現像銀塩方式等のカラーコピー方式が提案されている。
【0003】
これらの方式のうちインクジェット方式は、液体吐出ヘッドであるプリンタヘッドに設けられたノズルから記録液(インク)の液滴を飛翔させ、記録対象に付着してドットを形成するものであり、簡易な構成により高画質の画像を出力することができる。このインクジェット方式は、ノズルからインク液滴を飛翔させる方法の相違により、静電引力方式、連続振動発生方式(ピエゾ方式)及びサーマル方式に分類される。
【0004】
ここでピエゾ方式は、圧電素子の変形により発生する圧力波変動により、ノズルからインク液滴を飛び出させる方式である。またサーマル方式は、発熱素子の発熱により気泡を発生させ、この気泡による圧力波変動により、ノズルからインク液滴を飛び出させる方式である。また静電引力方式は、静電力によりこのような圧力波変動を発生させてインク液滴を飛び出させる方式である。このようにインク液滴を飛翔させる方法に相違はあるものの、プリンタヘッドは、基本的に、液室に保持したインクに圧力の変動を与えることにより、ノズルからインク液滴を飛び出させるものである。
【0005】
この種のプリンタヘッドは、ノズルを形成した板状部材であるノズルプレートの片面に、インクを保持するインク液室、このインク液室にインクを導くインク流路等が作成されて形成される。
【0006】
さらにこの種のプリンタヘッドは、インク液室に正圧が加わると、ノズルからインクが溢れ出し、この溢れ出したインクがノズルプレート表側面に残留する場合がある。また隣接したインク液室にも圧力変動が伝搬してメニスカスが振動することにより、インクを吐出させないノズルからもインクが溢れ出し、この溢れ出したインクがノズルプレート表側面に残留する場合がある。またノズルから飛び出したインク液滴の尾がちぎれて微小ミストとなり、この微小ミストがノズルプレート表側面に付着する場合もある。
【0007】
これらによりプリンタヘッドは、ノズルプレート表側面にインク溜まり(puddle)が発生する。このインク溜まりは、ノズルから飛び出すインク液滴に接触して表面張力によりこのインク液滴を引っ張るように作用し、これによりインク液滴の吐出方向を折り曲げてしまう。またインク溜まりは、大きくなってノズルを覆うようになると、このノズルからインク液滴を吐出できなくする。
【0008】
このため従来のプリンタは、定期的にノズルプレートの表側面を拭き取ってインク溜まりを除去するように構成されており、ノズルプレートの表側面に撥水性膜を形成する場合にあっては、このようなインク溜まりの除去を確実なものとすることができる。
【0009】
しかしながらこのような撥水性膜がインク液室側面、ノズル内側壁面に残っている場合、プリンタヘッドは、インク液室、ノズルにおけるインクの濡れ性が著しく劣化し、これによりインクの充填(リフィル)が遅くなり、インク液滴の吐出が妨げられるようになる。
【0010】
このため特許第3379119号公報には、ノズルプレートに撥水性膜を形成した後、酸素ガス雰囲気中でノズルプレートに紫外線を照射することにより、又はノズルプレートにプラズマガスを照射することにより、酸素ラジカルにより灰化処理し、これによりノズルプレートの液室側面、ノズル内側壁面から撥水性膜を選択的に除去してインク液滴を安定に吐出させる方法が開示されている。
【0011】
すなわち撥水性膜を形成する撥水材の多くは、C−F結合又はC−H結合を有する材料からなることにより、酸素ラジカルによる灰化処理によれば、酸素ラジカルにより撥水材を酸化して、二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)、水(H2O)により撥水材を除去することができる。
【0012】
これにより酸素ガス雰囲気中でノズルプレートに紫外線を照射すれば、酸素ガスよりオゾンを生成し、さらにこのオゾンから酸素原子ラジカルを生成し、この酸素原子ラジカルにより灰化処理することができる。またプラズマガスをノズルプレートに照射する場合にあっては、電子が酸素分子に衝突することによる電離励起により生成された酸素ラジカルにより灰化処理することができる。これによりこの特許第3379119号公報に開示の手法によれば、インク液室、ノズル側で十分なインク濡れ性を確保しつつ、ノズルプレート表側面では十分な撥水性を確保することができ、これによりインク液滴を安定に吐出することができる。
【0013】
しかしながら紫外線の照射による手法にあっては、紫外線源として低圧水銀ランプを用いることにより、この低圧水銀ランプを頻繁に交換することが必要になり、また大型のノズルプレートの処理には適していない欠点があり、これらにより十分な生産性を確保する上で、実用上未だ不十分な問題があった。また紫外線の照射によりノズルプレートが変質する恐れもあり、これにより信頼性の面でも、実用上未だ不十分な問題があった。
【0014】
これに対してプラズマガスの照射による方法にあっては、酸素ラジカルを発生させるプラズマ放電の過程で、酸素分子の正イオン等による荷電粒子が必然的に発生し、この荷電粒子がノズルプレートに衝突してノズルプレートを脆弱化する。なおノズルプレートをアースして処理することにより、このような荷電粒子の衝突を防止する方法も考えられるが、プラズマ放電領域と処理対象基板との間には必然的にシースと呼ぶ電位差が発生し、これにより荷電粒子の衝撃を完全には防止できない。これによりこの方法の場合にあっても、信頼性の面でも、実用上未だ不十分な問題があった。
【特許文献1】特許第3379119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、十分な信頼性、生産性を確保しつつ、液室、ノズル側で十分なインク濡れ性を確保し、ノズルプレート表側面では十分な撥水性を確保することができる液体吐出装置の製造方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
かかる課題を解決するため請求項1の発明においては、液室に保持した液体の液滴をノズルから飛び出させる液体吐出装置の製造方法に適用して、前記ノズルを形成した板状部材であるノズルプレートに撥水材を付着させる撥水加工のステップと、少なくとも前記ノズルプレートの片側面及び前記ノズルの内側壁面から、前記撥水材を選択的に除去する撥水材除去のステップと、前記ノズルプレートの前記撥水材を除去した前記片側面に、前記液室を形成する液室形成のステップとを有し、前記撥水材除去のステップは、熱分解により酸素ラジカルを生成し、前記酸素ラジカルにより前記撥水材を除去するようにする。
【0017】
請求項1の構成により、液室に保持した液体の液滴をノズルから飛び出させる液体吐出装置の製造方法に適用して、前記ノズルを形成した板状部材であるノズルプレートに撥水材を付着させる撥水加工のステップと、少なくとも前記ノズルプレートの片側面及び前記ノズルの内側壁面から、前記撥水材を選択的に除去する撥水材除去のステップと、前記ノズルプレートの前記撥水材を除去した前記片側面に、前記液室を形成する液室形成のステップとを有するようにすれば、ノズルプレートの表側面にのみ撥水材により撥水性膜を形成することができ、これにより液室、ノズル側で十分な濡れ性を確保し、ノズルプレート表側面では十分な撥水性を確保することができ、これにより十分に安定に液滴を吐出させることができる。また前記撥水材除去のステップは、熱分解により酸素ラジカルを生成し、前記酸素ラジカルにより前記撥水材を除去するようにすれば、ノズルプレートの損傷を有効に回避し、かつ高い生産性を確保しつつ、確実に液室側面、ノズル内側壁面より撥水材を選択的に除去することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、十分な信頼性、生産性を確保しつつ、液室、ノズル側で十分な濡れ性を確保し、ノズルプレート表側面では十分な撥水性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照しながら本発明の実施例を詳述する。
【実施例1】
【0020】
(1)実施例の構成
図2は、本発明に係るラインプリンタを示す斜視図である。このラインプリンタ1は、フルラインタイプのラインプリンタであり、略長方形形状によりプリンタ本体2が形成される。ラインプリンタ1は、印刷対象である用紙3を収納した用紙トレイ4をこのプリンタ本体2の正面に形成されたトレイ出入口より装着することにより、用紙3を給紙できるようになされている。
【0021】
ラインプリンタ1は、このようにトレイ出入口よりプリンタ本体2に用紙トレイ4が装着されて、ユーザーにより印刷が指示されると、このプリンタ本体2に設けられた給紙ローラの回転によりプリンタ本体2の背面側に向かって用紙トレイ4から用紙3が送り出され、プリンタ本体2の背面側に設けられた反転ローラによりこの用紙3の送り方向が正面方向に切り換えられる。ラインプリンタ1は、このようにして用紙送り方向が正面方向に切り換えられてなる用紙3が用紙トレイ4上を横切るように搬送され、ラインプリンタ1の正面側に配置された排出口よりトレイ5に排出される。
【0022】
ラインプリンタ1は、上側端面に上蓋6が設けられ、この上蓋6の内側、正面方向への用紙搬送途中に、矢印Aにより示すように、ヘッドカートリッジ8が交換可能に配置される。
【0023】
ここでヘッドカートリッジ8は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色によるフルラインタイプのプリンタヘッドであり、上側に各色のインクタンク9Y、9M、9C、9Kが設けられる。ヘッドカートリッジ8は、これらインクタンク9Y、9M、9C、9Kに係るプリンタヘッドのアッセンブリーであるヘッドアッセンブリー10と、このヘッドアッセンブリー10の用紙3側に設けられて、不使用時、ヘッドアッセンブリー10に設けられたノズル列を塞いでインクの乾燥を防止するヘッドキャップ11とにより構成される。これによりラインプリンタ1においては、このヘッドカートリッジ8に設けられたヘッドアッセンブリー10の駆動により、各色のインク液滴を用紙3に付着させて所望の画像等をカラーにより印刷する。なおこの実施例においては、ヘッドキャップ11の内側に、クリーニング機構が設けられ、所定のタイミングでこのクリーニング機構を駆動してノズルプレート15の表側面を拭き取ることにより、このノズルプレート15の表側面に発生するインク溜まりを除去するように形成されている。
【0024】
図3は、このヘッドアッセンブリー10を用紙3側より見てインク液滴Lの吐出に係る部分を拡大し、一部断面を取って示す斜視図である。ヘッドアッセンブリー10は、インク液室の隔壁13等を作成したヘッドチップ14を順次ノズルプレート15に貼り付けた後、ボンディング端子16を介してヘッドチップ14を配線して形成される。
【0025】
ここでヘッドチップ14は、複数の発熱素子17、この複数の発熱素子17を駆動する駆動回路、この駆動回路の駆動に供する電源等を入力するボンディング端子16等が形成された半導体チップであり、発熱素子17側より見て全体が長方形形状により形成され、この長方形形状の長辺の一辺に沿って所定ピッチにより発熱素子17が複数個設けられる。
【0026】
ヘッドチップ14は、この一辺側が開いてなるように、櫛の歯形状によりインク液室の隔壁13、インク流路の隔壁が形成され、この一辺側に沿ってインク流路が設けられる。ヘッドチップ14は、このインク流路を間に挟んで千鳥にノズルプレート15に順次配置され、これによりヘッドアッセンブリー10では、この隔壁13、ヘッドチップ14等によりインク流路を形成して、このインク流路からそれぞれ対応するインクタンク9Y、9M、9C、9Kのインクを各インク液室に導き得るように形成され、またこのようにしてインク液室に導かれたインクを発熱素子17の駆動により加熱して対応するノズル18からインク液滴により吐出させることができるように形成される。
【0027】
これに対してノズルプレート15は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのインクにそれぞれ対応する用紙幅によるノズル18の列が並設された板状部材であり、電鋳技術によりニッケル又はニッケル−コバルト合金により形成される。ノズルプレート15は、各ノズル18の列を間に挟んで千鳥に、各ヘッドチップ14をそれぞれボンディング端子16にワイヤボンディングする際の作業用の開口20が形成される。またノズルプレート15は、用紙3側である表側面にのみ、選択的に撥水性膜が形成される。
【0028】
すなわち図1及び図4は、ノズルプレート15の作成工程の説明に供する断面図である。ノズルプレート15は、図1(A)に示すように、所定の母型基板上に、レジストパターンによりノズルの形状が形成された後、電鋳処理により、この母型基板上にニッケル又はニッケル−コバルト合金が所望の膜厚により堆積されて形成される。これによりこの実施例では、高い精度で所望するノズル径、形状によりノズル18を形成する。
【0029】
続いて図1(B)に示すように、ノズルプレート15は、母型基板から取り外された後、枠形状のフレームに保持される。なおここでこのフレームは、ヘッドアッセンブリー10において、ノズルプレート15を保持する保持部材である。
【0030】
続いてノズルプレート15は、フッ素系シランカップリング剤、又はフッ素ポリマーにディッピングされ、これにより図1(C)に示すように、表面に撥水材が塗布される。なおこれらの材料に代えて、ベンゾシクロブテン樹脂をコーティング塗布するようにしてもよい。また続いて例えば窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で、又は真空中で、100〜300度によりベーキング処理される。これによりノズルプレート15は、表面に撥水性膜31が形成される。
【0031】
続いてノズルプレート15は、図1(D)に示すように、オゾンアッシング処理装置32によりインク液室側面、ノズル内側壁面より選択的に撥水材31が除去される。ここでオゾンアッシング処理装置32は、オゾンガスを処理室33に導入し、このオゾンガスの熱分解により酸素ラジカルを生成して灰化処理する装置である。このためオゾンアッシング処理装置32は、オゾンを発生させるオゾン発生機構35がこの処理室33の上部に設けられ、このオゾン発生機構35で発生したオゾンガスを処理室33に導入する。またオゾンアッシング処理装置32は、上面が平坦な面により形成された加熱試料台が処理室33に設けられ、この加熱試料台に設けられたノズルプレート15に向けてオゾンガスを照射するヘッドシャワー36が、この加熱試料台に対向するように設けられる。また処理室33には、ターボポンプとドライポンプとの組み合わせによる排気機構が設けられ、この排気機構により処理室33からの排気ガスを除害装置に導いて無害化する。
【0032】
ノズルプレート15は、フレームに保持された状態で、撥水材を取り残す表側面が加熱試料台の上面に密着するようにして、この処理室33に配置される。これによりノズルプレート15は、撥水性膜31を形成する表側面をこの処理室33の雰囲気に曝さないようにして、裏側面がヘッドシャワー36に対向するように、処理室33に保持される。
【0033】
この状態でノズルプレート15は、図4(A)に示すように、加熱試料台により150〜250度に加熱され、オゾン発生機構35によりオゾンガスが処理室33に導入されて照射される。なおオゾン発生機構35には、5〜10〔l/min〕により酸素ガスを供給し、例えば紫外線の照射によりオゾン濃度3〜5〔%〕によりオゾンガスを生成した。なおオゾンガスの生成方法にあっては、種々の手法を広く適用することができる。
【0034】
これによりノズルプレート15に照射されるオゾンガスは、ノズルプレート15のインク液室側面、ノズル内側壁面において、熱分解し、酸素ラジカルを生成する。なおこのオゾンガスから酸素ラジカルが生成される主な反応系は、O3→O*+O2により表される。これによりノズルプレート15は、図4(B)に示すように、この酸素ラジカルによりインク液室側面、ノズル内側壁面に付着した撥水材が二酸化炭素、水に分解されて除去される。なおこの二酸化炭素、水は、一連の処理で発生するフッ素ガス、未反応のオゾン、副生成物の酸素分子と共に排気機構により排出される。これによりノズルプレート15は、図4(C)に示すように、全面に形成された撥水材が、インク液室側面、ノズル内側壁面より選択的に除去され、インク溜まりの発生する表側面にのみ撥水性膜31が形成される。
【0035】
ノズルプレート15は、続いてオゾンアッシング処理装置32から取り出された後、図4(D)に示すように、流水洗浄処理、乾燥処理され、その後ヘッドチップ14が配置されてプリンタヘッドに加工される。
【0036】
(2)実施例の動作
以上の構成において、このプリンタ1は(図2)、印刷に供する画像データ、テキストデータ等によるヘッドカートリッジ8の駆動により、記録対象である用紙3を所定の用紙送り機構により搬送しながら、ヘッドカートリッジ8に設けられたヘッドアッセンブリー10からインク液滴が吐出され、このインク液滴が搬送中の用紙3に付着して画像、テキスト等が印刷される。
【0037】
これに対応してヘッドカートリッジ8のヘッドアッセンブリー10は(図2、図3)、インクタンク9Y、9M、9C、9Kのインクがインク流路を介して各インク液室に導かれ、発熱素子17の駆動によるインク液室に保持したインクの圧力増大により、ノズルプレート15に設けられたノズル18からインク液滴Lを吐出する。これらによりこのラインプリンタ1は、所望の画像等を印刷することができる。
【0038】
プリンタ1では、このようにしてインク液滴Lの吐出により印刷を繰り返すと、ノズル18から溢れだしたインク、インク液滴のミストによりノズルプレート15の表側面にインク溜まりが発生し、このインク溜まりにあっては、安定した印刷を妨げるようになる。
【0039】
このためこのプリンタ1では(図1及び図4)、このノズルプレート15の表側面に撥水性膜31が形成され、また所定のタイミングでヘッドキャップ11の内側に設けられたクリーニング機構によりノズルプレート15の表側面が拭き取られ、これによりこのノズルプレート15の表側面に発生するインク溜まりが除去される。これによりこのプリンタ1では、ノズルプレート15の表側面を清浄な状態に保持して、安定かつ確実に印刷することができる。
【0040】
またこの撥水性膜31にあっては、ノズルプレート15の表側面にのみ選択的に設けられ、これによりインク液室、ノズルにおけるインク濡れ性の劣化が有効に回避され、安定かつ確実に所望する画像を印刷することができる。
【0041】
しかしてこの実施例では、このノズルプレート15の表面に撥水性膜31が形成された後、熱分解により生成した酸素ラジカルを用いた灰化処理により、インク液室側面、ノズル内側壁面よりこの撥水性膜31が選択的に除去され、これによりノズルプレート15の表側面にのみ選択的に撥水性膜31が設けられる。
【0042】
この場合、ノズルプレート15にあっては、酸素ガス雰囲気で紫外線を照射する場合、プラズマガスの照射による場合のような、紫外線の照射、荷電粒子の照射を受けないことにより劣化を防止することができ、これにより十分な信頼性を確保することができる。また紫外線を照射する場合のような、紫外線源のメンテナンス等も容易とすることができ、これにより高い生産性を確保することができる。
【0043】
(3)実施例の効果
以上の構成によれば、熱分解により酸素ラジカルを生成し、この酸素ラジカルによりノズルプレートに付着した撥水材を選択的に除去することにより、十分な信頼性、生産性を確保しつつ、インク液室、ノズル側で十分なインク濡れ性を確保し、ノズルプレート表側面では十分な撥水性を確保することができ、これにより安定かつ確実に所望する画像等を印刷することができる。
【実施例2】
【0044】
なお上述の実施例においては、フッ素系シランカップリング剤等により撥水性膜を形成する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々の撥水材により撥水性膜を形成する場合に広く適用することができる。
【0045】
また上述の実施例においては、サーマル方式によるプリンタに本発明を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ノズルからインク液滴を飛び出させる方式の種々のプリンタに広く適用することができる。
【0046】
また上述の実施例においては、カラー印刷用のフルラインタイプのプリンタヘッドに本発明を適用して4本のノズル列を作成する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば白黒印刷用のフルラインタイプのプリンタヘッドに本発明を適用してノズル列を1本により作成する場合等、種々の本数によりノズル列を作成する場合に広く適用することができる。
【0047】
また上述の実施例においては、フルラインタイプのプリンタヘッドに本発明を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えばプリンタヘッドを特定方向に移動させるいわゆるシリアルタイプのプリンタヘッドに本発明を適用する場合にも広く適用することができる。
【0048】
また上述の実施例においては、本発明をプリンタに適用してインク液滴を飛び出させる場合について述べたが、本発明はこれに限らず、インク液滴に代えて液滴が各種染料の液滴、保護層形成用の液滴等である液体吐出装置、さらには液滴が試薬等であるマイクロディスペンサー、各種測定装置、各種試験装置、液滴がエッチングより部材を保護する薬剤である各種のパターン描画装置等に広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、液体吐出装置の製造方法に関し、例えばサーマル方式によるインクジェットプリンタに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例に係るプリンタに適用されるノズルプレートの作成手順を示す略線図である。
【図2】本発明の実施例に係るラインプリンタを示す斜視図である。
【図3】図2のヘッドアッセンブリーのインク液滴の吐出に係る部分を拡大して示す斜視図である。
【図4】図1の続きを示す略線図である。
【符号の説明】
【0051】
1……プリンタ、10……ヘッドアッセンブリー、11……ヘッドキャップ、14……ヘッドチップ、15……ノズルプレート、31……撥水性膜、32……オゾンアッシング処理装置、33……処理室、35……オゾン発生機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液室に保持した液体の液滴をノズルから飛び出させる液体吐出装置の製造方法において、
前記ノズルを形成した板状部材であるノズルプレートに撥水材を付着させる撥水加工のステップと、
少なくとも前記ノズルプレートの片側面及び前記ノズルの内側壁面から、前記撥水材を選択的に除去する撥水材除去のステップと、
前記ノズルプレートの前記撥水材を除去した前記片側面に、前記液室を形成する液室形成のステップとを有し、
前記撥水材除去のステップは、
熱分解により酸素ラジカルを生成し、前記酸素ラジカルにより前記撥水材を除去する
ことを特徴とする液体吐出装置の製造方法。
【請求項2】
前記撥水材が、
フッ素系シランカップリング剤、フッ素ポリマー、又はベンゾシクロブテン樹脂である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置の製造方法。
【請求項3】
前記撥水材除去のステップは、
オゾン発生装置で生成したオゾンガスの熱分解により、前記酸素ラジカルを生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−212998(P2006−212998A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29997(P2005−29997)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】