説明

液体噴射ヘッド、液体噴射装置、液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】 所望のばらつきの少ない液体噴射特性を有することが確認された液体噴射ヘッド、液体噴射装置、及びその製造工程において所望のばらつきの少ない液体吐出特性を有するか否かを簡易にかつ高精度に検査することができる製造方法を提供する。
【解決手段】 液体噴射ヘッドは、圧電素子の並設方向の両外側には、少なくとも第1電極からなる検査用パターンと、第1電極、圧電体層及び第2電極とをこの順で備えてなる検査用圧電素子とが設けられ、検査用パターンの前記第1電極のシート抵抗Rs1と検査用圧電素子の前記第1電極のシート抵抗R1とのシート抵抗比Rs1/R1と、検査用パターンの第1電極のシート抵抗Rs2と検査用圧電素子の第1電極のシート抵抗R2とのシート抵抗比Rs2/R2との差が、0.20以内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド、液体噴射装置、液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッドとしては、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させる圧電素子の撓み振動モードを使用したものがある。
【0003】
圧電素子としては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィー法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3552013号公報(第4頁、第4図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたヘッド構造では、圧電体膜をパターニングして圧電体層とする時に、第1電極がオーバーエッチングされて、第1電極が所望の厚さよりも薄くなってしまい、これにより圧電素子の変位特性が低下してしまうおそれがある。このような変位特性の低下に起因して圧電素子の並設方向において噴射特性のばらつきが生じると、ライン幅傾きが生じるという問題がある。ここで、ライン幅傾きは、一本の直線を描画した場合にその線幅のばらつきを示すものである。ライン幅傾きが大きいほど線幅のばらつきが大きく印字品質が落ち、特に、ライン幅傾きが6%を超えると、肉眼で見ても視認性が低下するので、ライン幅傾きは6%以内であることが好ましい。
【0006】
さらに、このような圧電素子の並設方向における噴射特性のばらつきがあるインクジェット式記録ヘッドについては廃棄しなければならず、歩留まりが低下してしまい、コストアップしてしまうという問題がある。
【0007】
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけでなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0008】
そこで、本発明はこのような事情に鑑み、所望の圧電素子の並設方向においてばらつきの少ない液体噴射特性を有する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置、及び製造工程において所望の圧電素子の並設方向においてばらつきの少ない液体噴射特性を有するか否かを簡易にかつ高精度に検査して所望の圧電素子の並設方向においてばらつきの少ない液体噴射特性を有する液体噴射ヘッドを製造することができる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射ヘッドは、液滴を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室を含む液体流路が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる複数の圧電素子とを備え、前記圧電素子が、第1電極と、圧電体層と、第2電極とをこの順で備えてなり、前記圧電素子の、圧電素子の並設方向の両外側には、少なくとも前記第1電極からなる検査用パターンと、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極をこの順で備えてなるシート抵抗測定用圧電素子とがそれぞれ設けられ、前記圧電素子の並設方向の一端側の前記検査用パターンの前記第1電極のシート抵抗Rs1と前記シート抵抗測定用圧電素子の前記第1電極のシート抵抗R1とのシート抵抗比Rs1/R1と、前記圧電素子の並設方向の他端側の前記検査用パターンの前記第1電極のシート抵抗Rs2と他の前記シート抵抗測定用圧電素子の前記第1電極のシート抵抗R2とのシート抵抗比Rs2/R2との差が、0.20以内であることを特徴とする。
【0010】
本発明の液体噴射ヘッドは、シート抵抗比Rs1/R1とシート抵抗比Rs2/R2との差が、0.20以内であることにより、液体噴射ヘッドにおける第1電極のシート抵抗値、即ち第2電極の膜厚が液体噴射ヘッド内においてばらつきが少ないものとなっている。従って、本発明の液体噴射ヘッドは、所望のばらつきのない変位特性、即ち液体噴射特性を備えており、これにより、ライン幅傾きを6%以内に収めることができる。
【0011】
また、前記シート抵抗測定用圧電素子の圧電体層に対する前記圧電素子の圧電体層が、その飽和分極の変動幅が5%以内であり、残留分極の変動幅が15%以内であり、かつ、抗電界強度の変動幅が15%以内であることが好ましい。この範囲であることで、圧電体層の圧電特性にもばらつきが少ないので、よりばらつきのない変位特性とすることができる。なお、これらの飽和分極、残留分極及び抗電界については、圧電素子のヒステリシス特性を示す図8に詳細に規定している。
【0012】
本発明の好適な実施形態としては、前記圧電素子及び前記シート抵抗測定用圧電素子は、無機絶縁材料からなる被覆膜に覆われ、該被覆膜には、前記圧電素子及び前記シート抵抗測定用圧電素子の第2電極の上面の主要部を露出させる開口部が設けられていることが挙げられる。被覆膜が設けられていることで、湿気等の外部環境に起因して圧電素子が破壊されることを抑制することができる。
【0013】
本発明の液体噴射装置は、前記いずれかの液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする。前記いずれかの液体噴射ヘッドを備えることで、圧電素子の並設方向においてばらつきの少ない液体噴射特性を有する液体噴射装置とすることができる。
【0014】
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、液滴を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室を含む液体流路が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる複数の圧電素子と、該圧電素子を覆うと共に該圧電素子の上面を露出させる開口部が設けられた無機絶縁材料からなる被覆膜とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板の一方面側に、第1電極、圧電体層及び第2電極を積層形成した後、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極をパターニングすることで、複数の圧電素子を形成すると共に、該圧電素子の並設方向の両外側に、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極で構成される一対のシート抵抗測定用圧電素子を形成し、かつ、少なくとも前記第1電極を含む検査用パターンを形成する形成工程と、前記被覆膜に前記第2電極の上面を露出させる開口部を形成する開口部形成工程と、前記圧電素子の第2電極のシート抵抗R及び前記シート抵抗測定用圧電素子の第2電極のシート抵抗Rsを測定する測定工程と、前記圧電素子の並設方向の一端側の前記検査用パターンの前記第1電極のシート抵抗Rs1と前記シート抵抗測定用圧電素子の前記第1電極のシート抵抗R1とのシート抵抗比Rs1/R1と、前記圧電素子の並設方向の他端側の前記検査用パターンの前記第1電極のシート抵抗Rs2と他の前記シート抵抗測定用圧電素子の前記第1電極のシート抵抗R2とのシート抵抗比Rs2/R2との差が、0.20以内であるかどうかを判定する判定工程とを備えたことを特徴とする。本発明の液体噴射ヘッドの製造方法においては、かかる判定工程を備えたことで、コストをかけずに簡易にかつ高精度に液体噴射特性が圧電素子の並設方向においてばらつきの少ない液体噴射ヘッドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図8】実施形態1に係る測定結果であるヒステリシス曲線を示すグラフである。
【図9】実施形態1に係る駆動波形の一例を示す図である。
【図10】本発明の実施例の結果を示すグラフである。
【図11】本発明の実施形態に係る記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図であり、図3(a)は、図2(a)のB−B′断面図であり、図3(b)は要部断面図である。
【0017】
図示するように、流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0018】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12が隔壁11により区画されてその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー400の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0019】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えばガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0020】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。絶縁体膜55としては、本実施形態においては、酸化ジルコニウムを用いている。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、駆動により変位が生じる圧電素子300をアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0021】
圧電体層70は、第1電極60上に形成され、電気機械変換作用を示す圧電材料からなる。圧電体層70は、ペロブスカイト構造の結晶膜である圧電体膜を積層してなるものであり、Pb、Ti及びZrを少なくとも含むものである。圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電性材料(強誘電性材料)や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適であり、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等も用いることができる。本実施形態では、圧電体層70は、チタン酸ジルコン酸鉛を用いており、(100)面に優先配向している。圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度(0.5〜5μm)に厚く形成する。
【0022】
また、図2(a)及び図3(a)に示すように、圧電素子300が並設された各列の両外側(並設された圧電素子300の並設方向における外側)には、圧電素子300と同じ膜構成、すなわち、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80からなる検査用圧電素子300A、300Bが設けられている。
【0023】
さらに、これらの検査用圧電素子300A、300Bを含めた圧電素子300が形成された領域の外側には、詳しくは詳述するが第1電極60のシート抵抗比を求めるためのシート抵抗測定用圧電素子501と検査用基準圧電素子(検査用パターン)502が形成されている。シート抵抗測定用圧電素子501は、圧電素子300と同様、第1電極60、圧電体層70、第2電極80をこの順で備えている。さらにシート抵抗測定用圧電素子501は、圧電体層70の側面と第2電極80の上面の周縁が被覆膜100により覆われ、被覆膜100には第2電極80の上面の主要部を露出するための開口部101が設けられている。
【0024】
また、検査用基準圧電素子502は、第1電極60、圧電体層70、第2電極80をこの順で備えると共に被覆膜100により覆われている。この検査用基準圧電素子502は、例えば本実施形態に示すようにファンデルポール(van der pol)構造となっており、4つの端部を四端子法(四深針法)によって測定することで、十字形状が交差する領域のみの電気抵抗値を測定することができる。即ち、検査用基準圧電素子502の交差する領域は、その四方にそれぞれ端部が設けられていることで、交差する領域の周囲はオーバーエッチングがなされていない。従って、この交差する領域においては、第1電極60の厚みは形成された時と同一となる。なお、第1電極がオーバーエッチングされないように形成することができれば、検査用基準圧電素子502の形状は限定されない。また、4つの端部にはそれぞれ被覆膜100、第2電極80及び圧電体層70を貫通する開口が設けられて、交差する領域における第1電極60のシート抵抗を四端子法により測定することができるようになっている。
【0025】
なお、これらのシート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502の第1電極60は、圧電素子300の第1電極60と同一の膜からなるが、それぞれ個別に構成されているものである。即ち、シート抵抗測定用圧電素子501の第1電極60と、検査用基準圧電素子502の第1電極60と、圧電素子の第1電極60とはそれぞれ離間して設けられている。
【0026】
これらのシート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502が形成されているのは、以下の理由による。圧電素子300の断面図である図3(b)に示すように、通常、圧電素子300では、詳細は後述するが第1電極60が圧電体層70及び第2電極80の形成時のエッチングによりオーバーエッチングされて薄くなる。この第1電極60が薄くなっていると、圧電素子300の駆動時に変位しやすくなって変位特性に大きな影響を与えてしまうので、このオーバーエッチング量が圧電素子300の並設方向において傾くと(ばらつきが生じると)、このばらつきに起因して変位特性のばらつきが生じる。このオーバーエッチング量のばらつきによる膜厚のばらつきは、圧電素子300の各列の並設方向両端で差が最も大きくなるものであり、このときの残膜率はシート抵抗を求めることで算出できる。そこで、本実施形態においては、圧電素子300の製造時におけるこのような変位特性のばらつきについて製造時に予め検査して、所望のばらつきの少ない液体吐出特性を有する液体噴射ヘッドを得るものである。このため、本実施形態においては、オーバーエッチング量を測定するために検査用基準圧電素子502と、シート抵抗測定用圧電素子501とを備える。即ち、本実施形態においては、圧電素子300が並設された並設方向の両外側に、圧電素子300と同一構成のシート抵抗測定用圧電素子501と、開口部101の設けられていない検査用基準圧電素子502とを設け、これらシート抵抗測定用圧電素子501の第1電極60のシート抵抗Rと検査用基準圧電素子502の第1電極60のシート抵抗Rsからシート抵抗比Rs/Rを算出し、これらのシート抵抗比の差から、オーバーエッチングによる変位特性のばらつきを判別する。つまり、もっともばらつきが大きい圧電素子300が並設された並設方向の両外側に設けたシート抵抗測定用圧電素子501と検査用基準圧電素子502との差が所望の範囲にあるものは、良品であると判別し、この差が所望の範囲外にあるものは不良品であると判別し、ばらつきを判別する。従って、不良品は取り除くことができるので所望のばらつきの少ない変位量の液体噴射ヘッドIを得ることができる。このように、第1電極60がオーバーエッチングされていない検査用基準圧電素子502のシート抵抗と、圧電素子が形成された時に第1電極60がオーバーエッチングされたシート抵抗測定用圧電素子501のシート抵抗とから、圧電素子300の両端側でどのくらいオーバーエッチングによる第1電極60の残膜率がばらついているかを比較することで、圧電素子300の並設方向におけるオーバーエッチングによる変位特性のばらつきを判別している。
【0027】
圧電素子300の傾きが所望のばらつきの少ない範囲、即ちライン幅傾きが6%以内になるためには、圧電素子300の並設方向における一端側の検査用基準圧電素子502Aの第1電極60のシート抵抗Rs1とシート抵抗測定用圧電素子501Aの第1電極60のシート抵抗R1とのシート抵抗比Rs1/R1と、圧電素子300の並設方向における他端側の検査用基準圧電素子502Bの第1電極60のシート抵抗Rs2とシート抵抗測定用圧電素子501Bの第1電極60のシート抵抗R2とのシート抵抗比Rs2/R2との差が、0.20以内であることが挙げられる。即ち、本実施形態では、シート抵抗比の差が0.20以内であれば、オーバーエッチングによる変位特性のばらつきが小さいものと判定し、シート抵抗比の差が0.20を超えている場合には、オーバーエッチングによる変位特性のばらつきが大きくライン幅傾きが6%以内とならないと判定し、このような所望のばらつきの少ない変位量とならないものを製造工程で除いて、ばらつきの少ないインクジェット式記録ヘッドIが製造される。
【0028】
また、本実施形態においては、上述のようにヒステリシス特性検査用圧電素子300A、300B(以下、単に検査用圧電素子300A、300Bという)を備えている。この検査用圧電素子300A、300Bは、詳しくは後述するが、検査工程において圧電素子300の圧電特性(ヒステリシス特性)を測定する際に用いられるものであり、圧電素子300を形成する際に同時に形成される。検査用圧電素子300A、300Bは、圧電素子300と同じ膜構成、製造条件で形成されるため、当該検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定すると、圧電素子300とほぼ同等の圧電特性を備えているといえる。ここで、検査用圧電素子300Aに最も近い圧電素子300と、検査用圧電素子300Bに最も近い圧電素子300とでは、製造の際などによって生じる膜厚みなどの微細な構成ばらつきによって圧電特性に違いが生じる。しかしながら、検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性の傾きよりも検査用圧電素子300Aに最も近い圧電素子300と検査用圧電素子300Bに最も近い圧電素子300間の圧電特性の傾きの方が小さいので、検査用圧電素子300A、300B間の圧電特性の傾きが所定の範囲内にあることを確認できれば、圧電素子300も圧電特性の傾きが所定の範囲内にあるといえ、ヘッドが製品として使用可能であると判断できる。本実施形態では、これらの検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定し、これらの変動幅を導出することによって液体噴射ヘッド内の圧電素子300の圧電特性傾きを得て、変動幅が所定値を超えればばらつきがあると判定し、変動幅が所定値を超えなければばらつきがないと判定する。即ち、検査用圧電素子300A、300Bを両端に設けたのは、圧電素子300は並設方向において圧電特性に傾き(ばらつき)が生じることがあるので、ばらつきが生じた場合には最もそのばらつきが大きくなる両端に検査用圧電素子300A、300Bを設け、この検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を調べることで、複数の圧電素子300の圧電特性のばらつきを得ることができるようにしている。
【0029】
この検査用圧電素子300A、300Bの測定結果から得られる本実施形態の圧電素子300の圧電特性は、飽和分極の変動幅が5%以下であり、残留分極の変動幅が15%以下であり、抗電界強度の変動幅が15%以下である。このような範囲に入るためには、例えば、検査用圧電素子300Aと300Bとの、飽和分極の差が1.2μC/cm以下であり、残留分極の差が2.5μC/cm以下であり、抗電界強度の差が7.69kV/cm以下である。
【0030】
このように、本実施形態においては、第1電極60のシート抵抗比の差が所定範囲であることで、圧電素子300の並設方向においてばらつきの少ない吐出特性を有するインクジェット式記録ヘッドIとなっているので、ライン幅傾きが6%以内となる。さらに、圧電特性(ヒステリシス特性)の変動幅も所定範囲であることで、より圧電素子300の並設方向においてばらつきの少ない吐出特性を有するインクジェット式記録ヘッドIとなっている。
【0031】
この被覆膜100上には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が設けられている。リード電極90は、被覆膜100に設けられた別の開口部101Aを介して一端部が第2電極80に接続されると共に、他端部が流路形成基板10の端部近傍まで延設され、延設された先端部は、後述する圧電素子を駆動する駆動回路と接続配線を介して接続されている。
【0032】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50及びリード電極90上には、リザーバー400の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー400を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバー400と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0033】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0034】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0035】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0036】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路200が固定されている。この駆動回路200としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路200とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線210を介して電気的に接続されている。
【0037】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、ステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバー400に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー400の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0038】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー400からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路200からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0039】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図4〜図7を参照して説明する。なお、図4〜図7は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの製造方法及び検査方法を示す圧力発生室の幅方向の断面図である。
【0040】
まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)からなる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図4(c)に示すように、絶縁体膜55上の全面に第1電極60を形成すると共に、所定形状にパターニングする。この第1電極60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。
【0041】
次に、図5(a)に示すように、第1電極60上に圧電体層70及び第2電極80を順次積層形成する。ここで、本実施形態では、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic
Decomposition)法、スパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physi
cal Vapor Deposition)法等を用いてもよい。また、第2電極80は、導電性の高い金属
、例えば、イリジウム(Ir)等を用いることができる。
【0042】
次に、図5(b)に示すように、圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングすることで、圧電素子300及び検査用圧電素子300A、300B、及びシート抵抗測定用圧電素子501、検査用基準圧電素子502(図1参照)を形成する。具体的には、圧電体層70及び第2電極80をパターニングすることで、流路形成基板用ウェハー110の各圧力発生室12が形成される領域に相対向する領域に圧電素子300を形成し、圧電素子300が並設された両側に検査用圧電素子300A、300Bを形成する。また、検査用圧電素子300A、300B近傍にはシート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502が形成される。すなわち、検査用圧電素子300A、300B、及びシート抵抗測定用圧電素子501、検査用基準圧電素子502は、圧電素子300と同時に形成される。
【0043】
また、本実施形態では、検査用圧電素子300A、300Bを、並設された両端部の圧電素子300からの距離が、互いに隣接する圧電素子300の間隔と同一になるように設けている。これは、検査用圧電素子300A、300Bを互いに隣接する圧電素子300と同じ間隔で設けることで、検査用圧電素子300A、300Bが隣接した圧電素子から受ける引っ張り、圧縮等の応力を、圧電素子300間で生じる応力と同一とすることができるからである。これと同様に、シート抵抗測定用圧電素子501、検査用基準圧電素子502についても圧電素子300間の距離と同一になるように圧電素子300から離間して形成している。
【0044】
また、検査用圧電素子300A、300B、シート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502は、本実施形態では、保護基板30が接合される領域に設けられている。これにより流路形成基板10の面積が広くなるのを防止して、インクジェット式記録ヘッドIが大型化するのを防止することができる。勿論、検査用圧電素子300A、300Bを流路形成基板10と保護基板30とが接合されない領域、例えば、圧電素子保持部32内又は保護基板30の外側に設けるようにしてもよい。これにより、流路形成基板10に保護基板30を接合した後であっても、検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定することができる。
【0045】
このように圧電素子300と共に検査用圧電素子300A、300Bを形成した後、検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定する(圧電特性測定工程)。本実施形態では、圧電素子を数億パルス駆動させる中で安定して変位条件を測定することができるように、印加電圧強度:150〜300kV/cm、印加周波数:10〜100000Hzの測定条件において、検査用圧電素子300Aの分極(P)−電界強度(E)でのヒステリシス測定を行って飽和分極、残留分極及び抗電界強度を導出した。なお、測定条件はこの範囲に限定されるものではない。検査用圧電素子300Aの測定結果であるヒステリシス曲線の一例を図8に示す。
【0046】
そして、これらの検査用圧電素子300A、300Bの測定結果の差、即ち変動幅を求め、飽和分極の変動幅が5%以下であり、残留分極の変動幅が15%以下であり、かつ抗電界強度の変動幅が15%以下であるかどうかを導出し、変動幅が所定値以下であるかどうかを検査する(圧電特性検査工程)。この場合に、変動幅を求めずにより簡易に検査するために、単に検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性の差を求め、この差が上述した変動幅に相当する所定値に含まれるかどうか検査してもよい。即ち、図9に示す三角波である駆動波形(条件:周期66Hz、印加電圧±35V、駆動波形間0.1秒)を用いて検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定し、検査用圧電素子300A、300Bの飽和分極の差が1.2μC/cm以下であり、残留分極の差が2.5μC/cm以下であり、抗電界強度の差が7.69kV/cm以下であるかどうかを検査する。そして、圧電特性がこの変動幅範囲であれば、インクの吐出特性にばらつきが少ないので、ライン幅傾きが6%であり、画質ムラが抑制されているインクジェット式記録ヘッドとすることができる。
【0047】
すなわち、本実施形態では、初めに、2つの検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性を測定して、2つの検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性の差を導出することで、これらの値に基づいて検査用圧電素子300A、300Bの並設方向の傾きが規定の傾き以下か検査して、並設方向の圧電素子300の圧電特性においてばらつきのないインクジェット式記録ヘッドかどうかを判別することができる。即ち、圧電特性に起因したインク吐出特性が均一化又は略均一化されているかを判別することができる。
【0048】
次いで、図5(c)に示すように、被覆膜100を例えばスパッタリング法により形成し、その後被覆膜100にマスクを設けてエッチングして開口部101を形成する(開口部形成工程)。なお、被覆膜100のエッチングは、例えば、イオンミリングや、反応性ドライエッチング(RIE)等のドライエッチングにより行うことができる。
【0049】
このようにして圧電素子300及びシート抵抗測定用圧電素子501上に被覆膜100及び開口101を形成すると同時に検査用基準圧電素子502上にも被覆膜100を形成する。
【0050】
次いで、これらのシート抵抗測定用圧電素子501と検査用基準圧電素子502とのシート抵抗を測定する(測定工程)。ここで、オーバーエッチングによる膜厚の変化については測定が難しいので、変位に影響するが簡易に測定することができるシート抵抗を測定することで、簡易に変位特性のばらつきがあるかどうか検査を行うことができる。なお、本実施形態においては、図示しないシート抵抗測定用圧電素子501の第1電極60に設けられた引き出し電極でシート抵抗を抵抗計(商品名:半導体パラメトリックテスタ4072A、アジレント社製)により測定した。
【0051】
次いで、これらの測定値からシート抵抗比Rs/Rを導出し、シート抵抗比の差が0.20以内かどうかを検査する(検査工程、判定工程)。即ち、振動板の変位は、圧電素子300の第1電極60の膜厚に依存するが、この第1電極60の膜厚は、上述のように圧電体層70及び第2電極80の形成時のオーバーエッチングにより減少してしまう。このオーバーエッチング後の第1電極60の膜厚のばらつきにより、変位特性がばらついてしまい、所望の均一又は略均一なインク吐出特性を得ることができない場合がある。しかしながら、上述のようにオーバーエッチングによる膜厚の変化については測定が難しいので、変位に影響するが簡易に測定することができるシート抵抗を測定し、これらの第1電極60のシート抵抗比の差を導出することで圧電体層70及び第2電極80の形成時のオーバーエッチングによりどの程度第1電極60の膜厚がばらついてしまったかを検査するのである。並設方向におけるばらつきを抑制するためには、即ちライン幅傾きが6%以内となるためには、第1電極60のシート抵抗比の差が、0.20以内であることが必要である。具体的には、検査用基準圧電素子502Aの第1電極60のシート抵抗Rs1とシート抵抗測定用圧電素子501の第1電極60のシート抵抗R1とのシート抵抗比Rs1/R1と、検査用基準圧電素子502Bの第1電極60のシート抵抗Rs2と検査用基準圧電素子502Bの第1電極60のシート抵抗R2とのシート抵抗比Rs2/R2との差が、0.20以内であることが必要である。
【0052】
本実施形態では、このようにシート抵抗測定用圧電素子501と検査用基準圧電素子502とのシート抵抗比から膜厚の変化を簡易に検査して、並設方向の圧電素子300の第1電極60の膜厚のばらつきのないインクジェット式記録ヘッドかどうかを判定することができる。その結果、インク吐出特性が均一化又は略均一化され、ライン幅傾きが6%以内となった結果視認性のよいインクジェット式記録ヘッドのみを製造することができる。さらに、圧電素子300の圧電特性(ヒステリシス特性)が均一又は略均一であるかどうかを判定していることで、よりインク吐出特性がばらつきの少ないものとなる。
【0053】
また、本発明では、流路形成基板10(流路形成基板用ウェハー110)に圧力発生室12を形成する前に、検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性の差、シート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502(圧電素子300)の第1電極60のシート抵抗比の差を導出するようにしたため、圧電素子300(検査用圧電素子300A)の成膜工程、焼成工程及びリソグラフィー法等の製造工程における不具合を直ちに検知して、圧電素子300の製造工程にフィードバックをかけることができ、圧電素子300の製造工程の不具合による不良製品の発生を減少させることができる。すなわち、圧力発生室12等を形成した後にシート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502の変位量を測定すると、圧力発生室12を形成した際の製造ばらつきが圧電特性に反映されてしまうため、測定した圧電特性に基づいて圧電素子300の製造工程の不具合か、圧力発生室12の製造工程の不具合か判別することが困難である。また、圧力発生室12を形成する前に圧電素子300の検査を行って、良否判定をすることで、その後の保護基板30を接合する工程や、圧力発生室12を形成する工程等が無駄になることがない。従って、圧電素子300の製造工程の不具合を早期に発見して、高精度な圧電素子300の検査を行うことができる。
【0054】
また、本実施形態においては検査用圧電素子300A、300Bに電圧を印加して圧電特性を測定することで、実際にインクの吐出に用いられる圧電素子300に電圧を印加して検査することがなく、圧電素子300の分極方向が一部固定される、いわゆる疲労現象が発生することがない。すなわち、実際にインクの吐出に用いる圧電素子300で圧電特性の測定を行うと、測定のために電圧を印加した圧電素子300が、電圧を印加していない圧電素子300に比べて圧電特性が劣化し、より圧電特性にばらつきが生じる可能性があるので、これを抑制しているのである。
【0055】
このように検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性(即ち、圧電素子300の圧電特性)を検査し、さらにシート抵抗測定用圧電素子501と検査用基準圧電素子502とのシート抵抗比を検査した後は、リード電極90を形成する。具体的には、図5(d)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘ってリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
【0056】
なお、本実施形態では、リード電極90を形成する前に検査用圧電素子300A、300Bの圧電特性の検査及びシート抵抗測定用圧電素子501と検査用基準圧電素子502とのシート抵抗比の検査を行うようにしたため、検査用圧電素子300Aにはリード電極90を形成していないが、これらの検査用圧電素子300A、300B、シート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502にリード電極90を形成してもよい。これにより、例えば、これらの検査用圧電素子300A、300B、シート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502を接合領域以外、すなわち圧電素子保持部32内に設けた場合には、流路形成基板用ウェハー110(流路形成基板10)に保護基板用ウェハー130(保護基板30)を接合した後で検査用圧電素子300Aの圧電特性の測定を行うことができる。勿論、検査用圧電素子300A、300B、シート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502にリード電極90を設けた場合であっても、設けていない場合であっても、圧電素子300にリード電極90を形成した後で、これらの検査用圧電素子300A、300B、シート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502の特性の測定を行うようにしてもよい。
【0057】
なお、本実施形態では、検査用圧電素子300A、300B、シート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502は、圧力発生室12が形成されない領域に設けるようにした。これにより、流路形成基板10の剛性が低下して流路形成基板10に亀裂等の破壊が発生することや、流路形成基板10と保護基板30とが熱により膨張・収縮した際の反りにより、基板に亀裂等の破壊が発生するのを抑制することができる。勿論、検査用圧電素子300A、300B、シート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502に相対向する領域に圧力発生室12を形成するようにしてもよい。ちなみに、圧力発生室12を形成した後に検査用圧電素子300A、300Bを測定する場合には、検査用圧電素子300A、300Bを流路形成基板10と保護基板30とが接着されない領域、例えば、圧電素子保持部32内や保護基板30の外側などに設ける必要がある。
【0058】
次に、図6(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合する。
【0059】
次に、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みに薄くする。次いで、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0060】
そして、図7に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12等を形成する。
【0061】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【0062】
以下、実施例を用いて測定工程及び検査工程を説明する。複数の図5(c)に示す状態の流路形成基板用ウェハー110(分割されると流路形成基板10が38枚形成される)のシート抵抗測定用圧電素子501及び検査用基準圧電素子502のシート抵抗R、Rsを測定した。その後、測定結果からシート抵抗比R/Rsを導出した。結果を図10に示す。図10は、実施例の結果を示すグラフであり、縦軸はシート抵抗比を、横軸は各流路形成基板用ウェハーを示す。例えば、図10は、各流路形成基板用ウェハー110における各流路形成基板10(1〜38)のそれぞれのシート抵抗比を示している。図10に示すように、各ウェハーのシート抵抗比R/Rsは0.20以内となっており、全てのウェハーで好ましいシート抵抗比となっていることが分かった。また、これらのうち二つの流路形成基板用ウェハー110の全ての流路形成基板10を液体噴射ヘッドIとして作製しライン幅の傾きを調べたところ、ライン幅は全て5%以内に収まった。従って、上述したように変動幅が所定の値以下であれば、ライン幅の傾きが6%以内に収まることが分かった。従って、得られたインクジェット式記録ヘッドIは全て所望の均一化されたインク噴射特性を有することが分かった。
【0063】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。本実施形態では、検査用基準圧電素子502として、圧電体層70及び第2電極80を備えたものを示したが、検査用基準圧電素子502としては、少なくとも第1電極60を備えていればよい。また、圧電体層70及び第2電極80を備えずに第1電極60を四探針法による測定を可能にするためのファンデルポール構造となるように構成してもよい。また、本実施形態では検査工程は、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、保護基板用ウェハー130を接合する前に行ったが、圧電素子300の形成後に行ってもよい。例えば、各検査用圧電素子300A、300Bにそれぞれリード電極90を設ける構成とし、チップサイズの流路形成基板10等に分割することにより本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとした後に検査工程を行ってもよい。
【0064】
また、本実施形態においては検査用圧電素子300A、300Bを形成し検査工程を行ったが、並設された圧電素子300のうち、並設方向両端の圧電素子300を用いて検査工程を行ってもよい。
【0065】
上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、結晶面方位が(100)面のシリコン単結晶基板を用いるようにしてもよく、また、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0066】
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0067】
図11に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0068】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0069】
また、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドI(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバー部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 被覆膜、 200 駆動回路、 210 接続配線、 300 圧電素子、 300A、300B 検査用圧電素子、 501 シート抵抗測定用圧電素子、 502 検査用基準圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室を含む液体流路が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる複数の圧電素子とを備え、
前記圧電素子が、第1電極と、圧電体層と、第2電極とをこの順で備えてなり、
前記圧電素子の、圧電素子の並設方向の両外側には、少なくとも前記第1電極からなる検査用パターンと、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極をこの順で備えてなるシート抵抗測定用圧電素子とがそれぞれ設けられ、
前記圧電素子の並設方向の一端側の前記検査用パターンの前記第1電極のシート抵抗Rs1と前記シート抵抗測定用圧電素子の前記第1電極のシート抵抗R1とのシート抵抗比Rs1/R1と、
前記圧電素子の並設方向の他端側の前記検査用パターンの前記第1電極のシート抵抗Rs2と他の前記シート抵抗測定用圧電素子の前記第1電極のシート抵抗R2とのシート抵抗比Rs2/R2との差が、0.20以内であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記シート抵抗測定用圧電素子の圧電体層に対する前記圧電素子の圧電体層が、その飽和分極の変動幅が5%以内であり、残留分極の変動幅が15%以内であり、かつ、抗電界強度の変動幅が15%以内であることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記圧電素子及び前記シート抵抗測定用圧電素子は、無機絶縁材料からなる被覆膜に覆われ、該被覆膜には、前記圧電素子及び前記シート抵抗測定用圧電素子の第2電極の上面の主要部を露出させる開口部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
液滴を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室を含む液体流路が形成された流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる複数の圧電素子と、該圧電素子を覆うと共に該圧電素子の上面を露出させる開口部が設けられた無機絶縁材料からなる被覆膜とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板の一方面側に、第1電極、圧電体層及び第2電極を積層形成した後、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極をパターニングすることで、複数の圧電素子を形成すると共に、該圧電素子の並設方向の両外側に、前記第1電極、前記圧電体層及び前記第2電極で構成されるシート抵抗測定用圧電素子を形成し、かつ、少なくとも前記第1電極を含む検査用パターンをそれぞれ形成する形成工程と、
前記被覆膜に前記第2電極の上面を露出させる開口部を形成する開口部形成工程と、
前記圧電素子の第2電極のシート抵抗R及び前記シート抵抗測定用圧電素子の第2電極のシート抵抗Rsを測定する測定工程と、
前記圧電素子の並設方向の一端側の前記検査用パターンの前記第1電極のシート抵抗Rs1と前記シート抵抗測定用圧電素子の前記第1電極のシート抵抗R1とのシート抵抗比Rs1/R1と、前記圧電素子の並設方向の他端側の前記検査用パターンの前記第1電極のシート抵抗Rs2と他の前記シート抵抗測定用圧電素子の前記第1電極のシート抵抗R2とのシート抵抗比Rs2/R2との差が、0.20以内であるかどうかを判定する判定工程とを備えたことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−73357(P2011−73357A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228649(P2009−228649)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】