説明

液体噴射ヘッドの乾燥防止方法および液体噴射装置

【課題】液体保持手段の液体の蒸発によるノズルの乾燥を有効に防止する液体噴射装置等を提供すること。
【解決手段】液体を吐出するノズルとノズル形成部材とを有する液体噴射ヘッド110と、前記ノズルを覆うように配置することが可能な構成となっているキャッピング手段120と、前記キャッピング手段内に配置される液体を含浸した液体保持手段123と、前記液体保持手段に液体を補充する液体補充手段168と、を有し、通算印刷時間が基準時間以上となった場合に、前記液体補充手段が、補充量算出手段178により算出された量の前記液体を前記液体保持手段に補充する構成となっている液体噴射装置100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットに対して液体を噴射する液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの乾燥防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、液体噴射装置である例えば、インクジェット式記録装置には、インクジェット式記録ヘッドが備えられている。また、このインクジェット式記録ヘッドには、記録用紙等にインクを吐出するためのノズルが多数設けられている。
ところが、前記記録用紙に前記ノズルがインクを吐出しない非印刷時(休止時)に、そのままの状態で前記ノズルを放置すると、ノズル内のインクが乾燥等して、印刷を開始したときに吐出不良等が生じるおそれがある。
【0003】
このため、非印刷時には、前記ノズルを覆うためのキャップがノズルプレートに当接等して、ノズルを覆い、ノズル内のインクの乾燥等を未然に防止する構成となっている。
このとき、ノズルを覆うキャップ内の雰囲気が、ノズル内のインクをより乾燥等させないための工夫として、キャップ内にインク吸収材が配置されている(例えば特許文献1参照)。
このようにキャップ内にインクが含浸されているインク吸収材を配置することで、キャップでノズルを覆ったときのキャップ内の雰囲気が湿潤状態に維持されるので、ノズル内のインクの乾燥等をより防止することができるようになっている。
【特許文献1】特開2001−96756号公報(図2等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インクジェット式記録装置のインクジェット式記録ヘッドが長時間、印刷動作を継続する場合は、その間、前記キャップ内は大気開放状態にあるため、キャップ内に配置されたインク吸収材に含浸されたインクが蒸発することになる。
このようなインク吸収材のインクの蒸発が多量となると、その後、前記キャップが前記ノズルを覆うように配置した場合でも、キャップ内の雰囲気が湿潤状態とならず、ノズル内のインクが乾燥等し、その後の印刷開始時に吐出不良等が生じるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、液体保持手段の液体の蒸発によるノズルの乾燥を有効に防止する液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの乾燥防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的は、本発明によれば、ターゲットに液体を吐出する液体噴射ヘッドのノズルに対しキャッピング手段を覆うように配置することで前記ノズルの乾燥を防止する液体噴射ヘッドの乾燥防止方法であって、前記液体噴射ヘッドが、前記キャッピング手段に覆われていない時間を示す非被覆時間を計測する非被覆時間計測工程と、液体補充手段が前記キャッピング手段の内部に配置された液体保持手段へ液体補充を行ってからの通算の前記非被覆時間を算出する通算非被覆時間算出工程と、定数値である基準補充量に、前記通算非被覆時間に基づいて定められた加算補充量を加算して、前記液体補充手段が前記液体保持手段に補充する液体の量を算出する補充量算出工程と、前記液体噴射ヘッドが前記ターゲットに前記液体の吐出を終了したときに、前記通算非被覆時間が基準時間以上である場合にのみ前記液体補充手段が前記液体保持手段へ液体補充を行う液体補充工程とを有する特徴とする液体噴射ヘッドの乾燥防止方法により達成される。
【0007】
前記構成によれば、液体補充工程を有しているので、非被覆時間の間にキャッピング手段内に配置された液体保持手段から蒸発した液体を補充することができる。
非被覆時間計測工程を有しているので、たとえば液体噴射ヘッドが記録用紙等のターゲットに印刷動作を行った場合のような液体噴射ヘッドがキャッピング手段に覆われていない時間が生じるたびに、非被覆時間を計測することができる。また、通算非被覆時間算出工程を有しているので、液体保持手段が前回液体補充を行ってからの通算の非被覆時間を算出することができる。
補充量算出手段は、基準補充量と通算非被覆時間に基づいて定められた加算補充量の和として液体保持手段に補充する液体の量を算出するから、液体の蒸発量に応じた適切な量の液体を液体保持手段に補充することができる。
液体補充手段は、印刷終了時において通算非被覆時間が基準時間が基準時間以上となった場合にのみ液体補充を行う。言い換えれば、たとえば印刷が終了し記録ヘッドが非被覆状態から被覆状態に戻った場合であっても、必ずしも液体の補充が必要でない場合には、液体補充手段は、液体の補充を行わない。
このため、液体噴射ヘッドがキャッピング手段に覆われていない液体保持手段から蒸発した液体を補充して、キャッピング手段の内部を湿潤状態に保つことができる。
【0008】
好ましくは、前記基準補充量は、前記通算非被覆時間が前記基準時間と等しい場合に、前記液体保持手段から蒸発すると予想される前記液体の量であることを特徴とする乾燥防止方法である。
【0009】
前記構成によれば、基準補充量は非被覆状態において液体補充手段から蒸発すると予想される液体の量に基づいて定められている。
そのため、補充する液体の量をより適切なものとすることができる。
【0010】
好ましくは、前記加算補充量は、前記通算非被覆時間と前記基準時間の差に係数を乗じた値であることを特徴とする液体噴射ヘッドの乾燥防止方法である。
【0011】
前記構成によれば、加算補充量は通算非不服時間が基準時間を超過した量に基づいて定められる。
そのため、通算非被覆時間に応じた適切な量の液体を液体補充手段に補充することができる。
【0012】
好ましくは、前記係数は、前期非被覆時間と前記液体保持手段から蒸発すると予想される前記液体の量との関係を示す蒸発量曲線の前記基準時間における接線の傾きに基づいて定められていることを特徴とする液体噴射ヘッドの乾燥防止方法である。
【0013】
前記構成によれば、加算補充量を算出するための係数は、たとえば実験により求められた蒸発量曲線の基準時間における接線の傾きに基づいて定められる。つまり、加算補充量は、基準時間以降の蒸発量曲線を直線で近似したモデルに基づいて定められる。
そのため、加算補充量を簡便な計算でかつ適切に定めることができる。
【0014】
好ましくは、前記加算補充量は、前記非被覆時間と前記液体保持手段から蒸発すると予想される前記液体の量との関係を示す蒸発量曲線を折れ線で近似したモデルに基づいて定められることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの乾燥防止方法である。
【0015】
前記構成によれば、加算補充量は蒸発量曲線を折れ線により近似したモデルに基づいて定められる。
このため、蒸発量曲線を1本の直線で近似したモデルに基づいて加算補充量を算出する場合に比べ、さらに実際の蒸発量に近い量の液体を液体保持手段に補充することができる。
【0016】
前記目的は、ターゲットに対して液体を吐出するノズルと、前記ノズルが形成されるノズル形成部材と、を有する液体噴射ヘッドと、前記ノズルを覆うように配置することが可能な構成となっているキャッピング手段と、前記キャッピング手段内に配置される液体保持手段と、前記液体保持手段に液体を補充する液体補充手段と、を有する液体噴射装置であって、前記液体噴射ヘッドが、前記キャッピング手段に覆われていない時間を示す非被覆時間を計測する非被覆時間計測手段と、前記液体補充手段が前記液体保持手段へ液体補充を行ってからの通算の前記非被覆時間を算出する通算非被覆時間算出手段と、定数値である基準補充量に、前記通算非被覆時間に基づいて定められた加算補充量を加算して、前記液体補充手段が前記液体保持手段に補充する液体の量を算出する補充量算出手段と、を有し、前記液体補充手段は、前記液体噴射ヘッドが前記ターゲットに前記液体の吐出を終了したときに、前記通算非被覆時間が前記基準時間以上である場合に前記液体保持手段へ液体補充を行うことを特徴とする液体噴射装置により達成される。
【0017】
前記構成によれば、請求項1に記載した方法を用いる場合と同様に、適切な時期に適切な量の液体を液体保持手段に補充して、キャッピング手段の内部を湿潤状態に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の好適な実施の形態を添付図面等を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の液体噴射装置の実施の形態にかかるインクジェット式記録装置(以下「記録装置」という)100を示す概略斜視図である。
図1に示すように、記録装置100は、キャリッジ101を有し、このキャリッジ101はキャリッジモータ102により駆動されるタイミングベルト103を介し、ガイド部材104に案内されてプラテン105の軸方向に往復移動されるように構成されている。
【0020】
図1のキャリッジ101のターゲットである例えば、記録用紙200に対向する側には、後述する液体噴射ヘッドである例えば、インクジェット式記録ヘッド(以下「記録ヘッド」という)110が搭載され、その上部には、記録ヘッド110に液体である例えば、インクを供給するブラックインクカートリッジ106及びカラー用インクカートリッジ107が着脱可能に装填されている。カラーインクカートリッジ107の内部は、107a、107b、107cの3個の空間に仕切られていて、それぞれシアン、マゼンタ、イエローのカラーインクが収容されている。
【0021】
また、図1に示すように、記録用紙200が配置されない非印字領域(ホームポジション)には、キャッピング手段120、吸引ポンプ130そしてワイピング部材140が配置されている。
図2は、図1のキャリッジ101がホームポジションに移動し、キャッピング手段120が記録ヘッド110に当接した状態を示す概略図である。
図2に示すように、記録ヘッド110の内部には、4本のノズル132が設けられていてインクカートリッジ106、107a、107b、107cからインクが供給される。供給されたインクは、水晶振動子134の振動によってノズル132内に生じた圧力により、ノズルプレート111に設けられたノズル開口136から噴射される。ノズル開口136から噴射されたインクは、キャップ部材122の底部に設置されているインク吸収材123に吸収される。すなわち、インクカートリッジ106および107と記録ヘッド110からなるフラッシング駆動装置168は液体補充手段の一例である。
フラッシング駆動装置168は、ROM162に格納されているプログラムのひとつであるフラッシング制御部168aにより制御されている。フラッシング制御部168aは、たとえば水晶振動子134に入力する信号波形を変動作せることによって、フラッシングのタイミングやフラッシングするインクの量を制御している。
【0022】
また、ノズルプレート111は、図1の印字領域からホームポジションへ記録ヘッド110がキャリッジ101と共に移動する際に、ワイピング部材140に当接し、このワイピング部材140によりノズルプレート111面が払拭され、クリーニングされる構成となっている。
キャッピング手段120は、図2に示すように、上面が開放され、凹状に形成されているキャップホルダ121、キャップホルダ121内に収容されるキャップ部材122を有している。
また、キャップ部材122の内底にはインクを含浸した液体保持手段の一例である、たとえばインク吸収材123が配置されている。
また、キャッピング手段120には、スライダ124と、このスライダ124を上下動させるための回動アーム125を有している。
【0023】
そして、この回動アーム125によってキャッピング手段120が移動し、図2に示すようにキャッピング手段120のキャップ部材122が、記録ヘッド110のノズルプレート111に当接すると、キャッピング手段120がノズルを覆うように配置されることになる。
【0024】
また、図2に示すように、キャッピング手段120には、大気開放口128と吸引ポンプ130が接続されている。
このため、この大気開放口128を閉状態として、吸引ポンプ130でキャッピング手段120内の雰囲気を吸引すると、この雰囲気は負圧となりインク吸収材123に含浸されているインクが吸引ポンプ130によって排出される構成となっている。
【0025】
図3は、本実施の形態の記録装置100の主なハードウエア構成等を示す概略ブロック図である。
記録装置100には、制御および演算機能を有するCPU(Central Processing Unit)161、CPUの主記憶装置または外部記憶装置としてのROM(Read Only Memory)162およびRAM(Random Access Memory)163が配置されている。また、記録装置100へ情報を入力するキーボード等の入力装置164やディスプレイ等の表示装置165も接続されている。これらの各装置は、バス160に接続されていて、CPU106との間でデータの授受を行えるように構成されている。ずなわち、記録装置100は、CPU106、ROM162、RAM163、入力装置164および表示装置165から成るコンピュータを有している。
【0026】
また、バス160には、図2の回動アーム125を駆動する回動アーム駆動装置166、吸引ポンプ130を駆動する吸引ポンプ駆動装置167、記録ヘッド110にインクを吐出させてフラッシングを行い、インク吸収材123にインクを補充する液体補充手段である例えば、フラッシング駆動装置168が接続されている。
そして、バス160には、図1のキャリッジ101を駆動するキャリッジ駆動装置169、記録用紙200を搬送する用紙搬送装置170、そして、時間を計測する計時装置172等も接続されている。
【0027】
CPU161は、バス160を介してRAM163等の他の構成要素との間でデータ及びコントロールコードの授受を行えるようになっている。CPU161は、ROM162およびRAM163に格納されているプログラムを読み込んで実行することにより、記録装置100全体を制御している。
【0028】
図4は、記録装置100の主なソフトウエア構成等を示す概略ブロック図である。
中央制御部150は、メモリ管理、タスク管理、入出力管理等の機能を有し、記録装置100の動作全体を制御するためのプログラムである。具体的には、ROM162に格納されているOSに実装されていて、CPU161により実行される。
図3の各装置を制御するためのプラグラム、フラッシング駆動装置168を制御するフラッシング制御部168a、吸引ポンプ駆動装置167を制御する吸引ポンプ駆動制御部167a、回動アーム駆動装置166を制御する回動アーム駆動制御部166a、キャリッジ駆動装置169を制御するキャリッジ駆動制御部169a、用紙搬送装置170を制御する用紙搬送制御部170a等もROM163に格納されている。これらのハードウェア制御プログラムは、たとえばデバイスドライバとして実装されている。
また、図2に示す記録ヘッド110のノズルプレート111がキャッピング手段120で覆われていない非被覆時間を計測する非被覆時間計測手段である例えば、計時装置172を制御する計時制御部172aも配置されている。
【0029】
データ記憶部152は、たとえばRAM163の記憶領域の一部分であり、中央制御部150等の各プログラムが処理を行うために必要なデータがあらかじめ格納されている。また、各プログラムが取得または算出したデータもここに格納される。
非被覆時間の一例である今回印刷時間は174は、今回の印刷開始から印刷終了までに経過した時間を示す情報である。
計時制御部172aは、計時装置172から取得した今回印刷時間174をデータ記憶部152に格納する。格納が行われる際に、今回印刷時間174が既に存在している場合には、上書きして更新される。つまり、今回印刷時間174は、直近の印刷に関する1個だけがデータ記憶部152に格納されている。この情報は、通算印刷時間算出部176が通算印刷時間175を算出するために使用される。
通算印刷時間175は、フラッシング駆動装置168(図2参照)がインク吸収材123にインクの補充を行ってからの通算の印刷時間を示す情報である。この情報は、フラッシング制御部168aが、今回の印刷動作の終了後にフラッシングを行うか否かを判断するため、また、フラッシングを行う場合には吐出するインクの量を算出するために使用される。
【0030】
基準フラッシング量180およびフラッシング量算出係数184は、フラッシング量算出部178がフラッシング量を算出するために用いるデータである。基準時間182は、フラッシング量算出部178が印刷終了後のフラッシングを行うか否かを、通算印刷時間175と比較して判断するための情報である。基準フラッシング量180、基準時間182、およびフラッシング量算出係数184はインクジェット式記録装置100の製造時にROM162にあらかじめ組み込まれている。これら3個の情報の詳細については後述する。
【0031】
通算非被覆時間算出手段の一例である通算印刷時間算出部176は、印刷動作が終了するたびに、データ記憶部152に格納されている通算印刷時間175に今回印刷時間174を加算して新たな通算印刷時間175を算出する。ただし、印刷の終了後にフラッシングが行われた場合には、通算印刷時間算出部176は、通算印刷時間175を「0」にリセットする。通算印刷時間算出部176は、算出した通算印刷時間175をデータ記憶部152に格納する。
【0032】
補充量算出手段の一例であるフラッシング量算出部178は、印刷動作の終了時において通算印刷時間175が基準時間182を上回っている場合に、データ記憶部152に格納されている通算印刷時間175、基準フラッシング量180およびフラッシング量算出係数184に基づいて、今回のフラッシング量を算出する。
図5は、キャップ部材122がノズルプレート111から離れている状態(以下キャップ開放状態という)下で、インク吸収材123から蒸発するインクの量(F)を通算印刷時間175(T)の関数として表したグラフである。単位時間当たりの蒸発量は、フラッシングが行われた直後は大きいが、通算印刷時間の増加とともに減少する。すなわち、蒸発量曲線210は、対数関数的な形状を示す。
基準時間182(t)は、たとえば蒸発量曲線の勾配が小さくなり、単位時間当たりの蒸発量を一定とみなしても実用上差し支えなくなる時間を適宜選択する。このtに相当する蒸発量Fを基準フラッシング量180とする。また、基準時間tにおける蒸発量曲線210の接線220の勾配θの正接(tanθ)を、フラッシング量算出係数184(α)とする。
このような定義の下、フラッシング量算出部178は、通算印刷時間がt(tはt以上)の場合のフラッシング量Fを、
F2=F+α(t−t)・・・(式1)
の算式で算出する。
すなわち、基準フラッシング量Fは、基準補充量の一例であり、基準時間に液体保持手段の一例であるインク吸収材123から蒸発すると予想されるインクの量である。式1の右辺第2項は、加算補充量の一例であり、通算非被覆時間の一例である通算印刷時間tと基準時間tの差に係数αを乗じた数値である。また、αは蒸発量曲線210の基準時間Fにおける接線の傾きに基づいて定められている。
【0033】
フラッシング制御部168aは、印刷の終了時において通算印刷時間175が基準時間180以上となっている場合に、図3のフラッシング駆動装置168を制御してフラッシング量算出部178が算出したフラッシング量のインクをインク吸収材123にフラッシングさせる。
【0034】
上述のように通算印刷時間が基準時間以上の場合にのみフラッシングを行うようにすることによって、印刷終了のたびにフラッシングを行う場合に比べて、フラッシングに使用するインクの総量を大幅に削減することができる。
たとえば、キャップ開放時間が図5のtである印刷を5回行ったとする。ここでtはtの5分の1の時間である。通算印刷時間はtとなる。仮に、印刷終了のたびにフラッシングを行い、また、その際のフラッシング量を蒸発量曲線210から直接求めた場合には、図5のFの5倍の量のインクをフラッシングのために消費することになる。これに対し、インクジェット式記録装置100によれば、上述のように、通算印刷時間がtの場合には、1回だけフラッシングが行われフラッシング量は図5のFである。FがFの5倍よりも小さいのは、図5から明らかである。
【0035】
次に、記録装置100の動作等について説明する。
図6は本実施の形態の記録装置100の動作等を示す概略フローチャートである。
印刷が開始されると、計時制御部172aは、今回の印刷時間を計測するための印刷タイマを0にリセットからして時間の計測を開始する(ST1)。計時制御部172aは、印刷が終了するまで時間の計測を継続する(ST2の判定がNo、ST2に戻る)。印刷が終了すると、計時制御部172aは、時間計測を終了し(ST3)、今回印刷時間174をデータ記憶部152に格納する(ST4)。以上のST1からST4の工程は、非被覆時間計測工程の一例である。
通算印刷時間算出部176は、データ記憶部152に格納されている通算印刷時間175に今回印刷時間174を加算して新たな通算印刷時間175を算出し、データ記憶部152に格納する(ST4、通算非被覆時間算出工程の一例)。
フラッシング量算出部178は、通算印刷時間175が基準時間182以上か否かを判断する(ST6)。通算印刷時間175が、基準時間182以上である場合には、式1にしたがって、今回のフラッシング量を算出する(ST6の判定がYes、ST7、補充量算出工程の一例)。フラッシング量が算出されると、フラッシング制御部168aの制御の下、フラッシング駆動装置168がフラッシングを行いインク吸収材123にインクを補充する(ST8、液体補充工程の一例)。フラッシングが終了すると、通算印刷時間算出部176は、データ記憶部152に格納されている通算印刷時間175を0にリセットする(ST9)。
印刷終了時に通算印刷時間175が基準時間182未満である場合には、ST7およびST8の工程は行わずに終了する。(ST6の判定がNo)。
【0036】
このように、記録装置100の液体噴射ヘッドの乾燥防止方法によれば、フラッシング駆動装置168は、通算印刷時間が蒸発量曲線に基づいて定められた基準時間以上となりインク吸収材123に保持されているインクの残りが少なくなったときにはじめてインクのフラッシングを行う。そのため、必ずしも必要でないインクのフラッシングを行ってインクを浪費することがない。
また、フラッシング量算出部176が算出するフラッシング量は、蒸発量曲線210に基づいて定められた基準フラッシング量180と通算印刷時間175および基準時間182における蒸発量曲線210の勾配に基づいて定められた加算フラッシング量の和となっているから、フラッシング量はインク吸収材123から蒸発したインクの量に近い値となる。そのため、必要以上の量のインクをフラッシングして浪費することがない。
さらに、フラッシング量算出部はデータ記憶部に格納されている通算印刷時間、基準フラッシング量、基準時間およびフラッシング量算出係数というたった4個の数値のみに基づいて、フラッシング量を算出する。そのため、たとえばインク蒸発量曲線全体の形状を表すデータのような、インク蒸発量を予想するための大量のデータを記憶部に格納しておく必要がなく、従来より大容量の記憶装置を必要とすることがない。
【0037】
(第2の実施の形態)
本実施の形態に係る記録装置300の構成及び動作等は、上述の第1の実施の形態の記録装置100と多くの部分が共通するので、共通する部分は同一符号等とし、以下相違点について説明する。
【0038】
記録装置300が記録装置100と異なるのは、フラッシング量算出部320によるフラッシング量の算出方法を通算印刷時間に応じて変えていることである。そのため、フラッシング量算出係数300の内容も、記録装置100とは異なっている。
図7は、記録装置300のソフトウェア構成を示す概略図である。フラッシング量情報310は、第1区間の係数310aと第2区間の係数310bを含んでいる。これら2つの係数には、対象区間の上限と下限も同時に記録されている。図8は、フラッシング量算出係数310の一例を示す概略図である。ひとつの区間につき、区間番号、区間の下限時間、区間の上限時間、その区間の算出係数の4個の数値が一組のデータとして記録されている。
【0039】
図9は、フラッシング量算出部320の動作を説明するための概略図である。この例の蒸発量曲線330は、図5の蒸発量曲線210を折れ線で近似したものとなっている。そして、通算印刷時間が基準時間t以上t未満の区間を第1区間、t以上t未満の区間を第2区間、t以上の区間を第3区間と呼ぶことにする。第3区間では、蒸発量は飽和に近づき蒸発量曲線の勾配は0に近くなるため、この例では水平な線分336で近似してある。
印刷動作の終了時において、通算印刷時間175(この段落では以下「t」と記す)が、第1の区間にある場合には、フラッシング量算出部320は、フラッシング量を
F=F+α1(t−t)・・・(式2)
で算出する。ここでα1は、蒸発量曲線330の第1区間における勾配θ1の正接である。
印刷動作の終了時において、tが、第2区間にある場合には、フラッシング量算出部320は、フラッシング量を
F=F+α1(t−t)+α2(t−t)・・・(式3)
で算出する。ここでα2は、蒸発量曲線330の第2の区間における勾配θ2の正接である。式3の右辺第1項は基準補充量の一例であり、第2項と第3項の和は、加算補充量の一例である。なお、式3を簡単にするとF=F+α2(t−t)と書くことができる。
印刷動作の終了時において、tが、第3区間にある場合には、フラッシング量算出部320は、フラッシング量をFという一定値とする。
たとえば、tが240(分)の場合はtが第2区間内にあるから、フラッシング量は、F=900+0.67×(240−180)=940(mg)となる。仮に、式2によりフラッシング量を求めるとF=800+1.83×(240−120)=1020(mg)となる。蒸発量曲線210は上に凸な曲線であるから基準時間における接線の傾きθ(図5参照)は、図9のθ1よりも大きい。そのため、第1実施形態の式1でフラッシング量を算出すると1020(mg)よりもさらに大きくなる。このことは、tが第3区間内にある場合でも同様である。すなわち、通算印刷時間が第2の区間または第3の区間にある場合には、フラッシング量が記録装置100よりもさらに少なくなる。
なお、本段落の説明および図9の中の数値は一例であり、これとは異なる数値であってもよい。また、区間の数も3とは限らず2以上であればいくつでもよい。
【0040】
次に、記録装置300の動作例について説明する。図10は、記録装置300の動作等を示す概略フローチャートである。
印刷の開始から通算印刷時間を算出してデータ記憶部152に格納するまでの動作(ST1からST5)は、図6の記録装置100の場合と同様である。
通算印刷時間175が基準時間182(t)よりも小さい場合には、記録装置100と同様に、フラッシング量の算出およびフラッシングの実行は行わずに終了する(ST6の判定がNo)。
通算印刷時間がt以上かつt未満、すなわち通算印刷時間が第1区間内である場合には、式2に従ってフラッシング量を算出する(ST11の判定がNo、ST13)。そして、記録装置100と同様に、フラッシングの実行(ST8)および通算印刷時間のリセット(ST9)を行い終了する(以下、ST8およびST9の2工程をまとめて「後処理工程」と記す。)。
通算印刷時間がt以上かつt未満の、すなわち通算印刷時間が第2区間内である場合には、式3に従ってフラッシング量を算出する(ST11の判定がYes、ST12の判定がNo、ST14)。そして、後処理工程を行い終了する。
通算印刷時間がt以上の場合、すなわち通算印刷時間が第3区間内である場合には、フラッシング量は、一定値F(図9参照)とする(ST12の判定がYes、ST15)。そして、後処理工程を行い終了する。
【0041】
このように、通算印刷時間の区分に応じてフラッシング量を算出しているから、記録装置300では、記録装置100より一層フラッシングで消費されるインクの量を削減することができる。
【0042】
本発明は、上述の実施の形態に限定されない。さらに、上述の各実施の形態は、相互に組み合わせて構成するようにしてもよい。また、本発明は、記録装置に限らず、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等の液体を吐出する液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置、精密ピペットとしての試料噴射装置等にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態のインクジェット式記録装置を示す概略図である。
【図2】図1のキャリッジがホームポジションに移動し、キャッピング手段が記録ヘッドに当接した状態を示す概略図である。
【図3】図1の記録装置の主なハードウエア構成等を示す概略ブロック図である。
【図4】図1の記録装置の主なソフトウエア構成等を示す概略ブロック図である。
【図5】フラッシング量の算定方法を説明する概略図である。
【図6】図1の記録装置の動作等を示す概略フローチャートである。
【図7】本発明の第2実施形態の記録装置の主なソフトウエア構成等を示す概略ブロック図である。
【図8】フラッシング量算出係数の一例を示す概略図である。
【図9】フラッシング量の算定方法を説明する概略図である。
【図10】本発明の第2実施形態の記録装置の動作等を示す概略フローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
100、300・・・インクジェット式記録装置、101・・・キャリッジ、102・・・キャリッジモータ、103・・・タイミングベルト、104・・・ガイド部材、105・・・プラテン、106・・・ブラックインクカートリッジ、107・・・カラー用インクカートリッジ、120・・・キャッピング手段、121・・・キャップホルダ、122・・・キャップ部材、123・・・インク吸収材、125・・・回動アーム、128・・・大気開放口、130・・・吸引ポンプ、140・・・ワイピング部材、150・・・中央制御部、160・・・バス、161・・・CPU、162・・・ROM、163・・・RAM、164・・・入力装置、165・・・表示装置、166・・・回動アーム駆動装置、166a・・・回動アーム駆動制御部、167・・・吸引ポンプ駆動装置、167a・・・吸引ポンプ駆動制御部、168・・・フラッシング駆動装置、168a・・・フラッシング制御部、169・・・キャリッジ駆動装置、169a・・・キャリッジ駆動制御部、170・・・用紙搬送装置、170a・・・用紙搬送制御部、172・・・計時装置、172a・・・計時制御部、174・・・今回印刷時間、175・・・通算印刷時間、176・・・通算印刷時間算出部、178、320・・・フラッシング量算出部、180・・・基準フラッシング量、182・・・基準時間、184、310・・・フラッシング量算出係数、200・・・記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに液体を吐出する液体噴射ヘッドのノズルに対しキャッピング手段を覆うように配置することで前記ノズルの乾燥を防止する液体噴射ヘッドの乾燥防止方法であって、
前記液体噴射ヘッドが、前記キャッピング手段に覆われていない時間を示す非被覆時間を計測する非被覆時間計測工程と、
液体補充手段が前記キャッピング手段の内部に配置された液体保持手段へ液体補充を行ってからの通算の前記非被覆時間を算出する通算非被覆時間算出工程と、
定数値である基準補充量に、前記通算非被覆時間に基づいて定められた加算補充量を加算して、前記液体補充手段が前記液体保持手段に補充する液体の量を算出する補充量算出工程と、
前記液体噴射ヘッドが前記ターゲットに前記液体の吐出を終了したときに、前記通算非被覆時間が基準時間以上である場合にのみ前記液体補充手段が前記液体保持手段へ液体補充を行う液体補充工程と
を有する特徴とする液体噴射ヘッドの乾燥防止方法。
【請求項2】
前記基準補充量は、前記通算非被覆時間が前記基準時間と等しい場合に、前記液体保持手段から蒸発すると予想される前記液体の量であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの乾燥防止方法。
【請求項3】
前記加算補充量は、前記通算非被覆時間と前記基準時間の差に係数を乗じた値であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの乾燥防止方法。
【請求項4】
前記係数は、前期非被覆時間と前記液体保持手段から蒸発すると予想される前記液体の量との関係を示す蒸発量曲線の前記基準時間における接線の傾きに基づいて定められていることを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッドの乾燥防止方法。
【請求項5】
前記加算補充量は、前記非被覆時間と前記液体保持手段から蒸発すると予想される前記液体の量との関係を示す蒸発量曲線を折れ線で近似したモデルに基づいて定められることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの乾燥防止方法。
【請求項6】
ターゲットに対して液体を吐出するノズルと、
前記ノズルが形成されるノズル形成部材と、を有する液体噴射ヘッドと、
前記ノズルを覆うように配置することが可能な構成となっているキャッピング手段と、
前記キャッピング手段内に配置される液体保持手段と、
前記液体保持手段に液体を補充する液体補充手段と、を有する液体噴射装置であって、
前記液体噴射ヘッドが、前記キャッピング手段に覆われていない時間を示す非被覆時間を計測する非被覆時間計測手段と、
前記液体補充手段が前記液体保持手段へ液体補充を行ってからの通算の前記非被覆時間を算出する通算非被覆時間算出手段と、
定数値である基準補充量に、前記通算非被覆時間に基づいて定められた加算補充量を加算して、前記液体補充手段が前記液体保持手段に補充する液体の量を算出する補充量算出手段と、を有し、
前記液体補充手段は、前記液体噴射ヘッドが前記ターゲットに前記液体の吐出を終了したときに、前記通算非被覆時間が前記基準時間以上である場合に前記液体保持手段へ液体補充を行うことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−198981(P2006−198981A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15452(P2005−15452)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】