説明

液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置

【課題】 ヘッドの反りを低減して印刷品質を向上することができると共にコストを低減した液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】 液滴を吐出するノズル開口21が並設された液体噴射ヘッド220と、該液体噴射ヘッド220に固定されるヘッドケース230とを具備し、前記ヘッドケース230の前記ノズル開口21の並設方向である基準方向の線膨張係数を前記基準方向と直交する方向の線膨張係数よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドを具備する液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置に関し、特に、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録ヘッドユニット及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式プリンタやプロッタ等のインクジェット式記録装置は、インクカートリッジやインクタンク等のインク貯留部に貯留されたインクを、インク滴として吐出可能なインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録ヘッドユニット(以下、ヘッドユニットと言う)を有する。
【0003】
ヘッドユニットは、並設されたノズル開口からなるノズル列を有するインクジェット式記録ヘッドと、インクジェット式記録ヘッドのインク供給口側に固定されるヘッドケースと、インクジェット式記録ヘッドのインク滴吐出面側を保護するカバーヘッドとを具備する。
【0004】
このようなヘッドユニットのヘッドケースは、一般的にプラスチック等の樹脂材料で形成されているため、インクジェット式記録ヘッドを構成するシリコン単結晶基板との線膨張係数の違いにより、温度変化によって反りが生じてしまうという問題がある。特に、ノズル開口の並設方向に反りが生じると、インク滴が紙などの被記録媒体に着弾する着弾位置がずれてしまい印刷品質が低下してしまうという問題がある。
【0005】
また、一般的にノズル開口の並設方向は、インクジェット式記録ヘッドの長手方向となっているため、低温環境下では、インクジェット式記録ヘッドが長手方向でノズルプレート側が凸となるように反ってしまいノズルプレートと流路形成基板となどが剥離してしまうという問題がある。
【0006】
さらに、ヘッドケースをインクジェット式記録ヘッドの材料と同じ線膨張係数を有するシリコン単結晶基板やセラミックスなどで形成することで、インクジェット式記録ヘッドの反りを防止することができるものの、このような材料は高価でありコストが増大してしまうという問題がある。
【0007】
なお、インクジェットプリンタの構成部品として、液晶ポリマーを用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、特許文献1では、長手方向の成形収縮率を小さくして高精度に構成部材を成形しているだけである。
【0009】
【特許文献1】特開平10−86168号公報(段落[0018]〜[0022]等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような事情に鑑み、ヘッドの反りを低減して印刷品質を向上することができると共にコストを低減した液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液滴を吐出するノズル開口が並設された液体噴射ヘッドと、該液体噴射ヘッドに固定されるヘッドケースとを具備し、前記ヘッドケースの前記ノズル開口の並設方向である基準方向の線膨張係数が前記基準方向と直交する方向の線膨張係数よりも小さいことを特徴とする液体噴射ヘッドユニットにある。
かかる第1の態様では、ノズル開口の並設方向の反りを低減することができ、印刷品質を向上することができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記ヘッドケースの基準方向が、前記液体噴射ヘッドの長手方向であることを特徴とする液体噴射ヘッドユニットにある。
かかる第2の態様では、液体噴射ヘッドの長手方向の反りを低減することにより、ノズル開口が設けられたノズルプレートと圧力発生室が形成された流路形成基板となどが剥離するのを確実に防止することができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記ヘッドケースが、液晶ポリマーからなることを特徴とする液体噴射ヘッドユニットにある。
かかる第3の態様では、ノズル開口の並設方向の反りを低減すると共にコストを低減することができる。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記液体噴射ヘッドが、前記ノズル開口に連通する圧力発生室が画成されたシリコン単結晶基板からなる流路形成基板を具備し、前記ヘッドケースが前記流路形成基板に固定されることを特徴とする液体噴射ヘッドユニットにある。
かかる第4の態様では、シリコン単結晶基板からなる流路形成基板の反り及び破壊を防止することができる。
【0015】
本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記ヘッドケースが、前記流路形成基板に接合されて当該流路形成基板の線膨張係数と略同一の材料で形成された保護基板を介して前記流路形成基板に固定されていることを特徴とする液体噴射ヘッドユニットにある。
かかる第5の態様では、流路形成基板及び保護基板の反りを低減して、流路形成基板と保護基板との剥離を防止することができると共に、印刷品質を向上することができる。
【0016】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、前記ヘッドケースが、前記基準方向が射出流動方向となるように成形されたものであることを特徴とする液体噴射ヘッドユニットにある。
かかる第6の態様では、所定の線膨張係数のヘッドケースを容易に形成することができる。
【0017】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる第7の態様では、印刷品質を向上した液体噴射装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドユニットを示す分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドユニットの組立斜視図であり、図3はインクジェット式記録ヘッドユニットの要部断面図である。図1に示すように、インクジェット式記録ヘッドユニット200(以下、ヘッドユニット200と言う)を構成する保持部材であるカートリッジケース210は、インク供給手段であるインクカートリッジ(図示なし)がそれぞれ装着されるカートリッジ装着部211を有する。例えば、本実施形態では、インクカートリッジは、ブラック及び3色のカラーインクが充填された別体で構成され、カートリッジケース210には、各色のインクカートリッジがそれぞれ装着される。また、カートリッジケース210の底面には、図3に示すように、一端が各カートリッジ装着部211に開口し、他端が後述するヘッドケース側に開口する複数のインク連通路212が設けられている。さらに、カートリッジ装着部211のインク連通路212の開口部分には、インクカートリッジのインク供給口に挿入されるインク供給針213が、インク内の気泡や異物を除去するためにインク連通路212内に形成されたフィルタ(図示なし)を介して固定されている。
【0019】
また、このようなカートリッジケース210の底面側には、複数の圧電素子300を有すると共に、カートリッジケース210とは反対側の端面に圧電素子300の駆動によってノズル開口21からインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッド220が固定されるヘッドケース230を有する。本実施形態では、インクカートリッジの各色のインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド220がインク色毎に対応して複数設けられ、ヘッドケース230も各インクジェット式記録ヘッド220に対応してそれぞれ独立して複数設けられている。
【0020】
ここで、カートリッジケース210に搭載される本実施形態のインクジェット式記録ヘッド220及びヘッドケース230について説明する。図4は、インクジェット式記録ヘッド及びヘッドケースの分解斜視図であり、図5は、インクジェット式記録ヘッド及びヘッドケースの断面図である。図4及び図5に示すように、インクジェット式記録ヘッド220を構成する流路形成基板10は、本実施形態では、線膨張係数が2.6[10-6/℃]のシリコン単結晶基板からなり、その一方面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁によって区画された圧力発生室12が、幅方向に並設された列が2列形成されている。また、各列の圧力発生室12の長手方向外側には、後述する保護基板30に設けられるリザーバ部31と連通し、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成する連通部13が形成されている。また、連通部13は、インク供給路14を介して各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれ連通されている。
【0021】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。すなわち、本実施形態では、1つのインクジェット式記録ヘッドにノズル開口21の並設されたノズル列21Aが2列設けられている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.01〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[10-6/℃]あるガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0022】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、弾性膜50上に、金属からなる下電極膜と、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層と、金属からなる上電極膜とを順次積層することで形成された圧電素子300が形成されている。このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する保護基板30が接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0023】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。このような保護基板30としては、ガラス、セラミック、金属、プラスチック等を挙げることができるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0024】
さらに、保護基板30上には、各圧電素子300を駆動するための駆動IC110が設けられている。この駆動IC110の各端子は、図示しないボンディングワイヤ等を介して各圧電素子300の個別電極から引き出された引き出し配線と接続されている。そして、駆動IC110の各端子には、図1に示すような、フレキシブルプリントケーブル(FPC)等の外部配線111を介して外部と接続され、外部から外部配線111を介して印刷信号等の各種信号を受け取るようになっている。
【0025】
また、このような保護基板30上には、コンプライアンス基板40が接合されている。コンプライアンス基板40のリザーバ100に対向する領域には、リザーバ100にインクを供給するためのインク導入口44が厚さ方向に貫通することで形成されている。また、コンプライアンス基板40のリザーバ100に対向する領域のインク導入口44以外の領域は、厚さ方向に薄く形成された可撓部43となっており、リザーバ100は、可撓部43により封止されている。この可撓部43により、リザーバ100内にコンプライアンスを与えている。
【0026】
このように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッド220は、ノズルプレート20、流路形成基板10、保護基板30及びコンプライアンス基板40の4つの基板で構成されている。そして、このようなインクジェット式記録ヘッド220のコンプライアンス基板40上には、インク導入口44に連通すると共にカートリッジケース210のインク連通路212に連通して、カートリッジケース210からのインクをインク導入口44に供給するインク供給連通路231が設けられたヘッドケース230が固定されている。このヘッドケース230には、可撓部43に対向する領域に凹部232が形成され、可撓部43の撓み変形が適宜行われるようになっている。また、ヘッドケース230には、保護基板30上に設けられた駆動IC110に対向する領域に厚さ方向に貫通した駆動IC保持部233が設けられており、外部配線111は、駆動IC保持部233を挿通して駆動IC110と接続されている。
【0027】
このようなヘッドケース230のノズル開口21の列方向である基準方向の線膨張係数は、基準方向と直交する方向の線膨張係数よりも小さくなっている。また、ヘッドケース230の基準方向の線膨張係数は、シリコン単結晶基板からなる流路形成基板10及び保護基板30の線膨張係数、本実施形態では、2.6[10-6/℃]に近くするのが好ましい。このようなヘッドケース230の材料としては、液晶ポリマーを用いることができる。なお、ヘッドケース230に液晶ポリマーを用いる場合には、ヘッドケース230を成形により形成する際に、射出流動方向をヘッドケース230の基準方向とすることで、ヘッドケース230の基準方向の線膨張係数を、基準方向と直交する方向の線膨張係数よりも小さくすることができる。
【0028】
ここで、代表的な液晶ポリマーの線膨張係数を下記表1に示す。なお、下記表1には、液晶ポリマーのグレードをポリプラスチックス社製の商品名で示している。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示す液晶ポリマーは、何れも本発明のヘッドケース230に用いることができる。特に、本発明のヘッドケース230には、ベクトラA150B、ベクトラA230及びベクトラB230を用いるのが好適である。
【0031】
このように、ヘッドケース230の基準方向の線膨張係数を基準方向と直交する方向の線膨張係数よりも小さくし、且つ基準方向の線膨張係数をヘッドケース230が固定されるインクジェット式記録ヘッド220の線膨張係数、すなわち、流路形成基板10及び保護基板30の線膨張係数と略同等とすることで、温度変化によりインクジェット式記録ヘッド220の基準方向であるノズル開口21の並設方向に反りが生じるのを防止することができる。これにより、インク滴の着弾位置がずれるのを防止して、印刷品質を向上することができる。また、ヘッドケース230として、液晶ポリマーを用いることで、ヘッドケース230の線膨張係数をインクジェット式記録ヘッド220を構成する流路形成基板10及び保護基板30と合わせるために、流路形成基板10及び保護基板30と同一の材料であるシリコン単結晶基板を用いる必要がなく、コストを低減することができる。
【0032】
さらに、本実施形態では、ヘッドケース230の線膨張係数の小さな基準方向がインクジェット式記録ヘッド220の長手方向と同一方向となっている。このため、ヘッドケース230はインクジェット式記録ヘッド220の長手方向の反りを防止している。このようにインクジェット式記録ヘッド220の長手方向の反りを防止することによって、流路形成基板10とノズルプレート20との接着が剥がれるのを確実に防止することもできる。なお、ヘッドケース230の基準方向と直交する方向の線膨張係数は、流路形成基板10及び保護基板30と線膨張係数が異なるが、この方向は、インクジェット式記録ヘッド220の短手方向となるため、反りの影響を最小に抑えることができる。
【0033】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッド220は、インクカートリッジからのインクをインク連通路212及びインク供給連通路231を介してインク導入口44から取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動IC110からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの圧電素子300に電圧を印加し、弾性膜50及び圧電素子300をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0034】
このようなインクジェット式記録ヘッド220を構成する各部材及びヘッドケース230には、組立時に各部材を位置決めするためのピンが挿入されるピン挿入孔234が角部の2箇所に設けられている。そして、ピン挿入孔234にピンを挿入して各部材の相対的な位置決めを行いながら部材同士を接合することで、インクジェット式記録ヘッド220及びヘッドケース230が一体的に形成される。
【0035】
なお、上述したインクジェット式記録ヘッド220は、1枚のシリコンウェハ上に多数のチップを同時に形成し、ノズルプレート20及びコンプライアンス基板40を接着して一体化し、その後、図4に示すような1つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割することによってインクジェット式記録ヘッド220となる。
【0036】
このようなインクジェット式記録ヘッド220及びヘッドケース230は、上述したカートリッジケース210にノズル列21Aの並び方向に所定の間隔で4つ固定されている。すなわち、本実施形態のヘッドユニット200には、ノズル列21Aが8列設けられていることになる。このように複数のインクジェット式記録ヘッド220を用いて並設されたノズル開口21からなるノズル列21Aの多列化を図ることで、1つのインクジェット式記録ヘッド220にノズル列21Aを多列形成するのに比べて歩留まりの低下を防止することができる。また、ノズル列21Aの多列化を図るために複数のインクジェット式記録ヘッド220を用いることで、1枚のシリコンウェハから形成できるインクジェット式記録ヘッド220の取り数を増大させることができ、シリコンウェハの無駄な領域を減少させて製造コストを低減することができる。
【0037】
また、カートリッジケース210にヘッドケース230を介して保持された4つのインクジェット式記録ヘッド220は、図1及び図2に示すように、4つのインクジェット式記録ヘッド220を覆うように箱形状を有するカバーヘッド240によって相対的に位置決めされて保持されている。カバーヘッド240は、ノズル開口21を露出する露出開口部241と、露出開口部241を画成すると共にインクジェット式記録ヘッド220のインク滴吐出面の少なくともノズル列21Aの並設されたノズル開口21の両端部側に接合される接合部242とを具備する。
【0038】
接合部242は、本実施形態では、複数のインクジェット式記録ヘッド220に亘ってインク滴吐出面の外周に沿って設けられた枠部243と、隣接するインクジェット式記録ヘッド220の間に延設されて露出開口部241を分割する梁部244とで構成されており、枠部243及び梁部244がインクジェット式記録ヘッド220のインク滴吐出面に接合されている。また、接合部242の枠部243は、インクジェット式記録ヘッド220の製造時に各部材を位置決めするピン挿入孔234を塞ぐように形成されている。また、カバーヘッド240には、インクジェット式記録ヘッド220のインク滴吐出面の側面側に、インク滴吐出面の外周縁部に亘って屈曲するように延設された側壁部245が設けられている。
【0039】
このように、カバーヘッド240は、接合部242をインクジェット式記録ヘッド220のインク滴吐出面に接着するようにしたため、インク滴吐出面とカバーヘッド240との段差を減少させることができ、インク滴吐出面のワイピングや吸引動作などを行っても、インク滴吐出面にインクが残留するのを防止することができる。また、梁部244によって隣接するインクジェット式記録ヘッド220の間が塞がれているため、隣接するインクジェット式記録ヘッド220の間にインクが侵入することがなく、圧電素子300や駆動IC110などのインクによる劣化及び破壊を防止することができる。また、インクジェット式記録ヘッド220のインク滴吐出面とカバーヘッド240との間は、接着剤によって隙間なく接着されているため、隙間に被記録媒体が入り込むのを防止してカバーヘッド240の変形及び紙ジャムを防止することができる。さらに、側壁部245が、複数のインクジェット式記録ヘッド220の外周縁部を覆うことで、インクジェット式記録ヘッド220の側面へのインクの回り込みを確実に防止することができる。また、カバーヘッド240に、インクジェット式記録ヘッド220のインク滴吐出面と接合される接合部242を設けるようにしたため、複数のインクジェット式記録ヘッド220の各ノズル列21Aをカバーヘッド240に対して高精度に位置決めして接合することができる。
【0040】
このようなカバーヘッド240としては、例えば、ステンレス鋼などの金属材料が挙げられ、金属板をプレス加工により形成してもよく、成形により形成するようにしてもよい。また、カバーヘッド240を導電性の金属材料とすることで、接地することができる。なお、カバーヘッド240とノズルプレート20との接合は、特に限定されず、例えば、熱硬化性のエポキシ系接着剤や、紫外線硬化型の接着剤による接着などが挙げられる。
【0041】
また、接合部242には、カバーヘッド240を他部材に位置決め固定するための固定孔247が設けられたフランジ部246が設けられている。このフランジ部246は、側壁部245から液滴吐出面の面方向と同一方向に突出するように屈曲して設けられている。本実施形態では、カバーヘッド240は、図2及び図3に示すように、インクジェット式記録ヘッド220及びヘッドケース230を保持した保持部材であるカートリッジケース210に固定されている。詳しくは、図2及び図3に示すように、カートリッジケース210には、インク滴吐出面側に突出して、カバーヘッド240の固定孔247に挿入される突起部215が設けられており、この突起部215をカバーヘッド240の固定孔247に挿入すると共に、突起部215の先端部を加熱してかしめることで、カートリッジケース210にカバーヘッド240が固定されている。このようなカートリッジケース210に設けられた突起部215を、フランジ部246の固定孔247よりも小径の外径とすることで、カバーヘッド240をインク滴吐出面の面方向に位置決めしてカートリッジケース210に固定することができる。
【0042】
このようなヘッドユニット200は、インクジェット式記録装置に搭載される。図6は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図6に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有するヘッドユニット200は、インク供給手段を構成するカートリッジ1A及び1Bが着脱可能に設けられ、このヘッドユニット200を搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0043】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、ヘッドユニット200を搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0044】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、複数のインクジェット式記録ヘッド220のそれぞれにヘッドケース230を固定するようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、複数のインクジェット式記録ヘッド220を一つのヘッドケースに固定するようにしてもよい。
【0045】
また、上述した実施形態1では、ヘッドケース230をインクジェット式記録ヘッド220の流路形成基板10に保護基板30を介して固定するようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、ヘッドケース230を流路形成基板10に直接固定するようにしてもよい。すなわち、本発明の流路形成基板10とヘッドケース230との固定とは、直接又は保護基板30等の他部材を介してのことを言う。何れにしても所定の線膨張係数のヘッドケース230を用いることでインクジェット式記録ヘッドの反りを低減することができる。
【0046】
さらに、上述した実施形態1では、撓み振動型のインクジェット式記録ヘッド220を例示したが、これに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型のインクジェット式記録ヘッドや発熱素子等の発熱で発生するバブルによってインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド等、種々の構造のインクジェット式記録ヘッドを有するヘッドユニットに応用することができることは言うまでもない。
【0047】
なお、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを有するヘッドユニット及びインクジェット式記録装置を一例として説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッドを有する液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施形態1に係るヘッドユニットの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係るヘッドユニットの組立斜視図である。
【図3】実施形態1に係るヘッドユニットの要部断面図である。
【図4】実施形態1に係るヘッドユニットの要部の分解斜視図である。
【図5】実施形態1に係るヘッドケース及び記録ヘッドの断面図である。
【図6】実施形態1に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【符号の説明】
【0049】
3 キャリッジ、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 100 リザーバ、 200 ヘッドユニット、 210 カートリッジケース、 220 インクジェット式記録ヘッド、 230 ヘッドケース、 240 カバーヘッド、 241 開口部、 242,252 接合部、 245 側壁部、 246 フランジ部、 247 固定孔、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズル開口が並設された液体噴射ヘッドと、該液体噴射ヘッドに固定されるヘッドケースとを具備し、前記ヘッドケースの前記ノズル開口の並設方向である基準方向の線膨張係数が前記基準方向と直交する方向の線膨張係数よりも小さいことを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項2】
請求項1において、前記ヘッドケースの基準方向が、前記液体噴射ヘッドの長手方向であることを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ヘッドケースが、液晶ポリマーからなることを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記液体噴射ヘッドが、前記ノズル開口に連通する圧力発生室が画成されたシリコン単結晶基板からなる流路形成基板を具備し、前記ヘッドケースが前記流路形成基板に固定されることを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項5】
請求項4において、前記ヘッドケースが、前記流路形成基板に接合されて当該流路形成基板の線膨張係数と略同一の材料で形成された保護基板を介して前記流路形成基板に固定されていることを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかにおいて、前記ヘッドケースが、前記基準方向が射出流動方向となるように成形されたものであることを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかの液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−231678(P2006−231678A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48892(P2005−48892)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】