説明

液体噴射装置

【課題】簡素な構造で噴射形状や噴射量を変更可能な液体噴射装置を提供する。
【解決手段】流量制御弁7によってプランジャ室22内に流れ込む気体の量を多くし、プランジャポンプ2を作動させて気体溶存量が多い液体をノズル3に圧送することにより、第1流路41の壁面で発生する微小気泡によって、壁面と液体との摩擦が低減される。よって、スワール流の渦が潰される割合が低減され、噴射角9Bのように噴射角が大きく、貫通力が弱い噴射となる。一方、流量制御弁7を閉じることによってプランジャ室22内に流れ込む気体の量を少なくし、気体溶存量が少ない液体をノズル3に圧送した場合、第1流路41の壁面と液体との摩擦が低減されず、スワール流の渦が潰れる割合が低減されないので、噴射角9Aのように噴射角が狭く、貫通力が強い噴射となる。このように液体中の気体溶存量を変化させることで、液体の噴射形状や噴射量を容易に変化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の噴射形状や噴射量を変更可能な液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体としての燃料油を直噴エンジンの燃焼室内に噴射する液体噴射装置(以下、インジェクタとも呼ぶ)として例えば特許文献1に記載されたものがある。
これは、インジェクタから噴射する燃料の噴射孔として、点火プラグ方向を向いた噴射孔と、それ以外の方向を向いた噴射孔とを備えたものであり、エンジンの運転状態に応じて噴射する燃料油の圧力を変化させることによって噴射の形状を変化させ、最適な燃焼状態を得ようとするものである。
【特許文献1】特開2005−98118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来のものにおいては、一般に、燃料油の噴射形状を変化させるために燃料油の圧力を変化させる構造は複雑なものとなり、コストアップや、信頼性の低下などにつながるといった問題があった。
【0004】
そこで本発明はこのような問題点に鑑み、簡素な構造で噴射形状や噴射量を変更可能な液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
流路内を流れる液体は、流路壁面極近傍ではその速度が0になるといわれていた。
しかし、Dreck.C.Tretheway氏の実験によって、流路の材質を液体に濡れないものにし、かつ脱気していない液体を流路を通過させた際に、流路壁面近傍の液体の速度が0ではなく、速度を持っていることが確認された。
この現象は、流路壁面が液体に濡れるものであると発生せず、また液体を脱気してしまってもこの現象は発生しない。
この現象を同氏は、流路壁面極近傍に発生するナノスケールの微小な気泡によるものだとしている。(参考文献、「Simulation of fluid slip at 3D hydrophobic microchannelwalls by the lattice Boltzmnn method」 Journal of Computational Physics 202 (2005) 181−195)
同氏の実験は微量流路内を流れる液体に対して行なわれたものであるが、本発明はこの現象を液体の噴射に応用し、液体噴射装置から噴射される液体の噴射形状や、噴射量を液体中の気体溶存量によって制御するものである。
すなわち本発明は、液体が流れる流路の壁面が液体に対して濡れない材料によって構成された液体を噴射するノズルと、液体をノズルに圧送するポンプとの間に、液体中の気体溶存量を増減可能な気体溶存量制御手段、または液体中に蒸気圧の低い液体を増減可能な低蒸気圧液体制御手段のいずれかを備えるものとした。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、液体中の気体溶存量が増加し、かつノズルにおける流路の壁面が液体に濡れない材質で構成されているので、ノズル内に液体を圧送して液体を噴射した際に、ノズルの流路の壁面の近傍には速度境界層ができる。速度境界層内では液体の流れる速度の違いから大きなせん断力が発生し、そのせん断力によって一種の減圧沸騰(キャビテーション)が起こり、ナノスケールの微小な気泡が発生する。このため、流路の壁面近傍において液体の速度が0ではなく、ある大きさを持つようになり(Slip Flowと呼ばれる状態)、ノズル内の流速や、流量、圧力損失が変化するので、噴射形状や噴射量が変化する。つまり、液体中の気体溶存量を変化させることで、液体の噴射形状や、噴射量を変化させることが可能になる。また、液体の一部を蒸気圧の低い液体に変化させても、気体溶存量を増加させた場合と同様の効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に本発明の実施の形態を実施例により説明する。
まず、第1の実施例について説明する。
図1に、第1の実施例における液体噴射装置の全体構成を示す。
液体を圧送するためのプランジャポンプ2と、液体を貯める液体タンク6、液体の噴射孔となるノズル3と、配管5a、5b、5cと、流量制御弁7とより液体噴射装置1が構成される。
プランジャポンプ2は、逆止弁4a、4b、4cを備えるポンプ筐体21と、ポンプ筐体21内に配置されてポンプ筐体21との間にプランジャ室22を形成するプランジャ20とより構成される。
プランジャ20は、ポンプ筐体21内を図1中の上下方向に往復動し、プランジャ20の往復に伴ってプランジャ室22の容積が変化する。
【0008】
ポンプ筐体21のプランジャ室22には配管5a〜5cの一端側がそれぞれ逆止弁4a〜4cを介して接続されている。
配管5aの他端側は気中に開口し、配管5bの他端側は液体タンク6に接続され、配管5cの他端側はノズル3に接続されている。
逆止弁4aは、配管5aからプランジャ室22への気体の吸入のみを許し、外部へ液体や気体が流出してしまうことを防止する。
逆止弁4bは、液体タンク6からプランジャ室22への液体の吸入のみを許し、液体が逆流することを防止する。
また逆止弁4cは、プランジャ室22からノズル3側への吐出のみを許し、液体が逆流することを防止する。
【0009】
流量制御弁7は、配管5aを通ってプランジャ室22内に流れ込む気体の量を制御するものである。
ノズル3は、液体が通る流路40を有するノズル部材32と、ノズル部材32を囲むノズル筐体31とより構成される。
ノズル部材32は、流路40を流れる液体に対して濡れない材料(たとえば、液体が水あるいはガソリンの場合にはテフロン(登録商標)など)によって構成されている。
なお図1において、ノズル部材32の流路40を、ノズル部材32を貫通する1本の孔として図示したが、実際の流路40の詳細な構造については後述する。
【0010】
プランジャ20が図1中の下方向に動くと、逆止弁4a〜4cの働きによりプランジャ室22内には配管5a、5bを通ってそれぞれ気体と液体とが流入してくる。
プランジャ20が図1中の上方向に動くと、逆止弁4a〜4cの働きによりプランジャ室22内の液体が配管5cを通ってノズル3に圧送され、ノズル3から液体が噴射される。
図1では、プランジャ20が上方向に動く際に、液体を圧送すると同時に、プランジャ室内22において液体と気体とが共存した状態で加圧され、気体が液体に溶解し、液体中の気体溶存量が増加する。
【0011】
プランジャポンプ2の作動によって気体溶存量が増加した液体をノズル3へ圧送すると、ノズル3の流路40の壁面が液体に対して濡れない物質で構成されているため、流路40の壁面近傍にナノスケールの微小気泡が発生し、流路40の壁面と液体との摩擦により引き起こされる圧力損失が減少する。
その結果、ノズル部材32に設けられた流路40を通って噴射される液体の速度と流量が増加する。
配管5aに取り付けた流量制御弁7によって、プランジャ室22内に流れ込む気体の量を制御することにより、ノズル3から噴射される液体の速度と流量を変化させることができる。
【0012】
次に、ノズル3の詳細な構造について説明する。
図2の(a)は、ノズル部材32を液体の噴射側端部から見た図であり、図2の(b)は、図2の(a)におけるA−A部断面を示す図である。
なお図2の(b)中、下側に向けて液体が噴射される。
ノズル部材32に形成された流路40は、一端側が配管5cに接続され、他端側が液体の噴射側の端部近傍まで延びる4本の第3流路43と、ノズル部材32の液体噴射側の端部に開口する第1流路41と、第3流路43と第1流路41とを接続する4本の第2流路42とより構成される。
また第1流路41と第2流路42は、第2流路42が第1流路41を軸として点対称となるように配置されている。
第2流路42は、特に図2の(a)に示すように第1流路41の軸心に対して偏心して接続されている。
なお本実施例では第2流路42を4本形成するものとしたが、必ずしも複数本形成する必要はなく、1本以上あればよい。
また、第2流路42や第3流路43を第1流路41の軸心に対して点対称に配置した例を示したが、必ずしも点対称である必要はない。
【0013】
図2に示すように、ノズル部材32の第1流路41に対して偏心して第2流路42が接続されているので、第3流路43から第2流路42を介して第1流路41に流れ込んだ液体は、一般にスワール流と呼ばれる流れを生じ、第1流路41内をらせん状の渦を巻きながら流れる(図3参照)。
このらせん状の渦は、第1流路41の壁面と液体との摩擦によって弱められる。
渦が強い場合は、噴射された液体の噴射角は大きくなり、渦が弱められるにつれて液体の噴射角は小さくなる。
【0014】
したがって、流量制御弁7によってプランジャ室22内に吸い込まれる気体の量を多くし、気体溶存量が多い液体をノズル3に圧送した場合、第1流路41の壁面で発生する微小気泡によって、壁面と液体との摩擦が低減されるので、スワール流の渦が潰される割合が低減され、図1に示す噴射角9Bのように噴射角が大きく、貫通力が弱い噴射を実現できる。
一方、流量制御弁7を閉じることによってプランジャ室22内に流れ込む気体の量を少なくし、気体溶存量が少ない液体をノズル3に圧送した場合、第1流路41の壁面と液体との摩擦が低減されず、スワール流の渦が潰れる割合が低減されないので、噴射角9Aに示すように噴射角が狭く、貫通力が強い噴射を実現できる。
なお本実施例において、プランジャポンプ2および流量制御弁7が本発明における気体溶存量制御手段を構成する。
【0015】
本実施例は以上のように構成され、ノズル部材32を液体に濡れない材料で構成し、ノズル3に供給する液体の気体溶存量を増加させることにより、流路40の壁面近傍にナノスケールの微小な気泡が発生し、流路40の壁面近傍において気泡が発生していない場合と比較して、噴射形状や噴射量が変化する。
つまり、流量制御弁7を開けてプランジャ室22内に吸い込まれる気体の量を多くして液体中の気体溶存量を多くすることにより、流路40を通って噴射される液体の速度と流量が増加するとともに、噴射角が大きく、貫通力が弱い噴射を実現することができる。
一方、流量制御弁7を閉じてプランジャ室22内に吸い込まれる気体の量を少なくして液体中の気体溶存量を少なくすることにより、流路40を通って噴射される液体の速度と流量が減少するともに、噴射角が小さく、貫通力が強い噴射を実現することができる。
また液体の噴射形状や、噴射量を変化させるために、プランジャ室22内に流れ込む気体の量を制御する流量制御弁7を備えるだけでよいので、液体噴射装置1の構造が簡素化され、製造コストなどを低減することができる。
【0016】
プランジャポンプ2による液体の圧送と同時に、液体中に気体を溶解させることにより、液体を圧送するための装置と液体中に気体を溶解させるための装置の2つの装置を備える必要がなくなり、液体噴射装置1の製造コストや工数を低減することができる。
【0017】
なお本実施例において、液体を圧送するポンプとしてプランジャポンプ2を用いるものとしたが、これに限定されることなく他の方式のポンプを用いてもよい。
また図1に示した液体噴射装置1では液体を圧送するポンプと、液体中の気体溶存量を増加させる装置を同一のものとしている(プランジャポンプ2によって、液体の圧送と液体中の気体溶存量を増加させることとを行っている)が、必ずしも同一である必要は無く、別々の装置であっても構わない。
【0018】
次に、第2の実施例について説明する。
第1の実施例ではノズルから噴射される液体の速度と流量の制御を、液体中の気体溶存量によって制御したが、第2の実施例では、主液体に対して反応する副液体を混合し、反応の結果、蒸気圧の低い液体を生成することで、ノズルから噴射される液体の速度と流量を制御する。
図4に、第2の実施例における液体噴射装置の全体構成を示す。
なお、第1の実施例と同一の構成物については同一番号を付して説明を省略する。
主液体が貯められた主液体タンク11と、副液体が貯められた副液体タンク12とが、それぞれ配管5e、5dを介してプランジャポンプ2Aに接続されている。
【0019】
副液体タンク12が接続された側の配管5dには、流量制御弁7Aが備えられ、流量制御弁7Aの開閉により副液体タンク12からプランジャ室22内へ副液体が流れ込む量を制御することができる。
配管5d、5eは、それぞれ逆止弁4d、4eを介してプランジャ室22に接続され、副液体タンク12や主液体タンク11へプランジャ室22から液体が逆流してしまうことを防ぐ。
プランジャポンプ2A、ノズル3、配管5c〜5e、流量制御弁7A、主液体タンク11、副液体タンク12とより、液体噴射装置1Aが構成される。
なお、主液体と副液体とを混合すると、蒸気圧の低い混合液体に変化するものとする。
【0020】
プランジャ20が図4中の下方向に移動すると、主液体タンク11および副液体タンク12からプランジャ室22内に主液体と副液体とが吸入される。
プランジャ室22内で主液体と副液体は混合され、混合により生成された蒸気圧の低い液体を含んだ混合液体は、プランジャによる加圧によって、液体噴射ノズルへと圧送される。
蒸気圧の低い液体を含んでいるので、ノズル部材32の流路40の壁面において第1の実施例と同様にナノスケールの微小気泡が発生しやすくなる。結果として、液体中の気体溶存量を増加させた場合(第1の実施例の場合)と同じ効果を持つことになり、ノズル3から噴射される液体の速度や流量を増加させる。
したがって、流量制御弁7Aを開閉して副液体の混合量を変化させることによって、第1の実施例と同様にノズル3から噴射される液体の噴射形状や噴射量を変化させることができる。
なお本実施例において、プランジャポンプ2Aと流量制御弁7Aとが、本発明における低蒸気圧液体制御手段を構成する。
【0021】
本実施例は以上のように構成され、副液体を混合する量を増やすことによって、ノズル3から噴射される液体は速度と流量が増加するとともに、第1の実施例と同様に噴射角9Bに示すように噴射角が広く貫通力が弱いものとなる。
一方、流量制御弁7Aを閉じることによって副液体が混合される量を減らすことによって、ノズル3から噴射される液体は速度と流量が減少するとともに、噴射角9Aに示すように噴射角が狭く貫通力が強いものとなる。
なお本実施例において、プランジャ室22内で主液体と副液体とを混合するものとしたが、プランジャ室22内に限定されることなく、プランジャポンプ2Aの上流側や、プランジャポンプ2Aとノズル3との間において混合することもできる。
また、使用するポンプはプランジャポンプに限らず、その他のポンプで液体を圧送してもよい。
【0022】
次に、第3の実施例について説明する。
第2の実施例では主液体と反応する副液体を用いて蒸気圧の低い液体を生成し、それによってノズルから噴射される液体の速度や流量を増加させたが、第3の実施例では副液体を用いず、主液体の分解反応を促進する触媒を用いることで、実施例2と同様の効果を得るものである。
図5に、第3の実施例における液体噴射装置の全体構成を示す。
なお、本実施例における液体噴射装置1Bは、第1の実施例における液体噴射装置1におけるノズル3をノズル3Aに変更し、プランジャポンプ2Bのプランジャ室22内に液体タンク6からの液体のみが流れ込むようにしたものである。
第1の実施例と同一の構成物については同一番号を付して説明を省略する。
プランジャポンプ2Bに配管5bを介して液体タンク6が接続され、プランジャポンプ2Bのプランジャ室22内に液体タンク6内の液体が流入可能となっている。
プランジャポンプ2Bによって圧送された液体は配管5cを介してノズル3Aに供給される。
【0023】
ノズル3Aは、液体が通過する流路40Aが形成されたノズル部材32Aと、ノズル部材32Aの流路40Aの壁面において液体流れの上流側(配管5c側)に担持された触媒33と、ノズル部材32Aを囲むヒータ34と、ヒータ34の外周を覆うノズル筐体31Aとより構成される。
ノズル部材32Aに形成された流路40Aは、第1の実施例におけるノズル部材32に形成された流路40と同様の構成を有する。
配管5cから供給された液体は、触媒33およびノズル部材32Aに設けられた流路40Aを通って噴射される。
触媒33は、流路40Aを通過する液体の分解反応を促進するものである。
また触媒33は、ノズル部材32Aに形成された流路40Aの内壁の前面に担持させることによって設けてもよい。
【0024】
触媒33には活性温度があり、触媒33が活性温度に達していない状態では液体は分解されない。
したがって触媒33の直近に設置したヒータ34によって、触媒33を活性温度まで加熱することによって、流路40Aを通過する液体の分解促進を行う。
触媒33によって分解促進された液体は、蒸気圧の低い液体または気体に変化し、ノズル部材32Aの流路壁面において第2の実施例と同様にナノスケールの微小気泡が発生しやすくなるため、ノズル3Aから噴射される液体の速度や流量を増加させる効果を持つことになる。
なお本実施例において、触媒33およびヒータ34が、本発明における低蒸気圧液体制御手段を構成する。
【0025】
本実施例は以上のように構成され、ヒータ34によって触媒33を加熱して液体を蒸気圧の低い液体または気体に変化させることにより、第2の実施例と同様の原理により、ノズル3Aの流路40Aを通過する液体の速度と流量を変化させることができるとともに、ノズル3Aから噴射される液体の噴射形状や噴射量を変化させることができる。
触媒33によって液体が変化する量を触媒の温度によって制御することが可能なため、液体の気体溶存量をヒータ34への通電量を変化させることによって制御することが可能となる。
【0026】
なお本実施例において、触媒33をノズル部材32Aの流路の内壁に設置するものとしたが、必ずしもそこに設置する必要はなく、プランジャポンプ2Bとノズル3Aの間のどこかにあれば良いので、例えばプランジャポンプ2Bとノズル3Aをつなぐ配管5cの壁面に設置してもよい。
【0027】
第1〜第3の実施例において説明した液体噴射装置1、1A、1Bは、火花点火式直噴エンジンの燃焼室内に燃料油を噴射するインジェクタとして用いることができる。
図6に、火花点火式直噴エンジンの全体構成を示す。
火花点火式直噴エンジン50は、燃焼室13に燃料油を噴射する液体噴射装置1、1Aまたは1Bからなるインジェクタ10と、燃焼室13に空気を送り込む吸気弁14と、燃焼室13内のガスを排出する排気弁15と、燃焼室13内のガスに火花点火を行う点火プラグ16と、燃焼室13内の爆発力によって移動するピストン17を備える。
またピストン17の燃焼室13側の面には、キャビティ18が設けられている。
【0028】
火花点火式直噴エンジン50はさらに、図示しないエアフローメータ、スロットル開度センサ、クランク角センサ、冷却水温度センサなどを備え、これらのセンサ類から入力される信号から火花点火式直噴エンジン50の運転状態を判断するコントロールユニット(C/U)19を備える。
コントロールユニット19は、各種のセンサ類から出力された信号を受け、火花点火式直噴エンジン50の運転状態を判断し、それに適した燃料油の噴射量や、噴射角をインジェクタ10へと出力する。
【0029】
火花点火式直噴エンジン50では、エンジンの出力が小さくてよい場合は、ピストン17による圧縮工程中にインジェクタ10から燃料油を噴射し、キャビティ18に噴射燃料を当てる。
キャビティ18に当たった燃料油は、そのくぼみに沿って移動し、結果として、点火プラグ16の周辺に燃料油が集中することになる。
その後、点火プラグ16に電圧をかけて、火花を飛ばし、燃料油が発火して、ピストン17を押し下げる。このような、燃焼を成層燃焼と呼ぶ。
一方で、エンジンの出力を大きくしたい場合は、吸気工程中に燃料を噴射する。
噴射された燃料油は、吸気される空気と均質に混合され、圧縮工程の後に、点火プラグ16によって引火される。このような燃焼を均質燃焼と呼ぶ。
【0030】
成層燃焼に適した燃料油の噴射は、噴射角が狭く、貫通力のある噴射である。
コントロールユニット19によって、火花点火式直噴エンジン50の運転状態が成層燃焼であると判断された場合は、第1〜第3の実施例に記載の方法によって、液体(燃料油)中の気体溶存量を増加させない、あるいは蒸気圧の低い液体を生成しないようにする。
その結果、インジェクタ10から噴射される燃料油の噴射角は狭く、貫通力が強いものとなり、成層燃焼に適した噴射が実現される。
【0031】
一方で、均質燃焼に適した燃料油の噴射は、噴射角が広く、貫通力の弱い噴射である。
コントロールユニット19によって、火花点火式直噴エンジン50の運転状態が、均質燃焼であると判断された場合は、第1〜第3の実施例に記載の方法によって、液体(燃料油)中の気体溶存量を増加させる、あるいは蒸気圧の低い液体を生成する。
その結果、インジェクタ10から噴射される燃料油の噴射角は広く、貫通力が弱くなり、吸気される空気と混合しやすい均質燃焼に適した噴射が実現される。
【0032】
また、火花点火式直噴エンジン50が十分に暖かくない運転状態の時、例えば冷間スタート時は、貫通力が弱く、吸入される空気と混合しやすい燃料油の噴射が要求される。
したがって、例えば冷却水温度センサからの信号によりコントロールユニット19が火花点火式直噴エンジン50の運転状態が冷間スタート時であると判断した場合は、第1〜第3の実施例に記載の方法によって、燃料油中の気体溶存量を増加させる、あるいは蒸気圧の低い液体を生成することにより、噴射角の広い燃料油の噴射を実現することができる。
なおここでは、第1〜第3の実施例における液体噴射装置1、1A、1Bを火花点火式直噴エンジン50のインジェクタ10として用いた例を示したが、例えば冷間スタートの問題などはポート噴射式の他の内燃機関でも同様の問題が起こるため、インジェクタ10を他の内燃機関に適用してもよい。
【0033】
なお液体噴射装置1、1A、1Bから噴射する液体はこれに限られるものではなく、例えばインクジェットプリンタのインクヘッド、放水器や農薬散布器に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1の実施例における液体噴射装置を示す図である。
【図2】ノズルの詳細な構造を示す図である。
【図3】液体の流れを示す図である。
【図4】第2の実施例における液体噴射装置を示す図である。
【図5】第3の実施例における液体噴射装置を示す図である。
【図6】液体噴射装置を火花点火式直噴エンジンに適用した例を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1、1A、1B 液体噴射装置
2、2A、2B プランジャポンプ
3、3A ノズル
4a〜4e 逆止弁
5a〜5e 配管
6 液体タンク
7、7A 流量制御弁
10 インジェクタ
11 主液体タンク
12 副液体タンク
13 燃焼室
16 点火プラグ
17 ピストン
18 キャビティ
19 コントロールユニット
20 プランジャ
21 ポンプ筐体
22 プランジャ室
31、31A ノズル筐体
32、32A ノズル部材
33 触媒
34 ヒータ
40、40A 流路
41 第1流路
42 第2流路
43 第3流路
50 火花点火式直噴エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルと、前記液体を前記ノズルに圧送するポンプとを備えた液体噴射装置において、
前記液体中の気体溶存量を増減させる気体溶存量制御手段、または前記液体中に蒸気圧の低い液体を増減させる低蒸気圧液体制御手段のいずれかを備え、
前記ノズルは、該ノズルにおける前記液体が流れる流路の壁面が前記液体に対して濡れない材料によって構成されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記気体溶存量制御手段は、気体と前記液体とが混在した状態で加圧するものであることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記ポンプによって吸入される気体の流量を制御する流量制御弁を備え、
前記気体溶存量制御手段は、前記流量制御弁によって流量が制御された気体を前記ポンプ内において前記液体とともに加圧するものであることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記低蒸気圧液体制御手段は、前記液体の一部を蒸気圧の低い液体に変化させるものであることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記低蒸気圧液体制御手段は、前記液体と反応する副液体を混合することによって蒸気圧の低い液体を生成することを特徴とする請求項4に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記低蒸気圧液体制御手段は、前記液体を蒸気圧の低い液体に変化させる触媒を備えることを特徴とする請求項4に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記触媒は、前記ノズルにおいて前記液体が流れる流路の壁面に備えられていることを特徴とする請求項6に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記触媒の近傍に、該触媒を加熱するヒータを備えたことを特徴とする請求項6または7のいずれかに記載の液体噴射装置。
【請求項9】
前記ノズルにおいて前記液体が流れる流路は、少なくとも、最も液体噴射側となる第1流路と、該第1流路に液体を供給する第2流路とより構成され、
前記第2流路は、前記第1流路の軸心に対して偏心して接続されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の液体噴射装置。
【請求項10】
燃焼室内に供給された液体燃料の燃焼によって運動エネルギーを発生させる内燃機関において、
前記燃焼室に前記液体燃料を供給する前記請求項1から9のいずれか1つに記載の液体噴射装置と、
前記液体噴射装置の気体溶存量制御手段、または低蒸気圧液体制御手段の制御を行い、前記燃焼室内の燃焼状態に応じて前記液体中の気体溶存量を増減させ、または前記液体中に蒸気圧の低い液体を増減させるコントロールユニットとを備えることを特徴とする内燃機関。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−247418(P2007−247418A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67898(P2006−67898)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】