説明

液体洗浄剤組成物の製造方法

【課題】アミラーゼと多糖類系増粘剤を含有する、粘度安定性の高い液体洗浄剤組成物を得るための製造方法を提供する。
【解決手段】(a)多糖類系増粘剤、(b)アミラーゼを含有する液体洗浄剤組成物を製造する際に、(b)を45〜100℃の温度範囲で20分以上保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体洗浄剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に洗浄剤は、浴室、台所、床等の処理対象の異なる汚れを除去するため、それぞれに適した組成のものが用いられている。例えば、レンジ、オーブン、レンジまわりの壁や床、換気扇といった台所まわりに用いられる台所まわり用洗浄剤としては、熱、日光、空気中の酸素等の作用により変質した油汚れ(有機系汚れの一種)を除去するため、界面活性剤、溶剤及びアルカリ剤等を含む洗浄剤が用いられている。また、浴槽、浴室の壁及び床といった浴室に用いられる浴室用洗浄剤としては、金属石鹸、特に脂肪酸のカルシウム塩の汚れ(無機系汚れの一種)を除去するため、界面活性剤、溶剤、キレート剤等を含む洗浄剤が用いられている。
【0003】
また、かかる洗浄剤に増粘剤を添加する方法もよく知られている。例えば、特許文献1には、アミン化合物、水酸化カリウム及び炭酸カリウムから選ばれる1種以上のアルカリ剤と、ポリアクリル酸系増粘剤及び水を含有する増粘された液体洗浄剤組成物が開示されている。特許文献1には、増粘させることの利点として、自動食器洗浄機の洗剤自動投入口を有する洗浄機における予洗い工程での洗剤の流出抑制が挙げられている。適度に増粘された処方は、上述の利点以外にも多くの効果を与えることができる。例えば、高い洗浄力を想起させる視覚的効果のみならず、洗浄剤を計量する際や、容器の蓋を開けた状態で容器を倒した際にこぼしたりする懸念が少ないといった利点を有している。さらに、液体洗浄剤組成物のデンプンに対する洗浄効果を得るために、アミラーゼを配合する方法も一般的に知られている。特に多糖類との併用に関しては特許文献2に記載があり、アミラーゼ酵素とノニオン系多糖エーテルとの組合せにおいて、特にペルカーボネートの存在下、かつ高負荷洗浄条件下で起こりうるアミラーゼの洗浄性能の限界レベルを改善できるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−163292号公報
【特許文献2】特表平11−500163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、アミラーゼおよび多糖類系増粘剤を含有する液体洗浄剤組成物における欠点として、増粘剤として用いる多糖類の配合によって本来与えられるべき商品価値である高い粘度が時間経過により次第に低下していくという課題があった。粘度が低下すると、洗浄対象物への付着性が低下することや、自動食器洗浄機で用いる際に設計された適切な粘度特性を満たさなくなることなどから、洗浄力の低下を招くことがある。特許文献2にはアミラーゼ及び多糖類系増粘剤を含有する液体洗浄剤の記載があるが、その粘度安定性については全く触れられていない。
【0006】
本発明の課題は、アミラーゼと多糖類系増粘剤を含有する液体洗浄剤組成物において、粘度安定性の高い組成物を得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(a)多糖類系増粘剤〔以下、(a)成分という〕、(b)アミラーゼ〔以下、(b)成分という〕を含有する液体洗浄剤組成物の製造方法であって、
(b)成分を、45〜100℃の温度範囲で20分以上保持する工程(以下、熱処理工程という)を有する、液体洗浄剤組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法を用いることで、経時的な粘度変化が少なく粘度安定性の高い液体洗浄剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る液体洗浄剤組成物は、(a)成分として多糖類系増粘剤を含有する。多糖類系増粘剤は特に限定されないが、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム等の非イオン性多糖類、キサンタンガム、カラギーナン、ジェランガム等のアニオン性多糖類が挙げられる。(a)成分としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラギーナン、及びジェランガムから選ばれる1種以上の多糖類系増粘剤が好ましく、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、及びカラギーナンから選ばれる1種以上の多糖類系増粘剤がより好ましく、ヒドロキシエチルセルロースが更に好ましい。(a)成分の組成物中における含有量は、粘度特性の観点から0.05〜5質量%であることが好ましく、0.1〜2質量%であることがより好ましく、0.2〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0010】
本発明に係る液体洗浄剤組成物は、(b)成分としてアミラーゼを含有する。アミラーゼとしては、バチルス ズブチリス マーバーグ(Bacillus subtilis Marburg)、バチルス ズブチリス ナットウ(Bacillus subtilis natto)、バチルス アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス セレウス(Bacillus cereus)、バチルス マセランス(Bacillus macerans)、シュードモナス シュツッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、クレブシェラ アエリゲネス(Klebusiella aerogenes)などの細菌、ストレプトマイセス グリセウス(Streptomyces griseus)等の放線菌、アスペルギウス オリザエ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)などのカビ類、イネ科及びマメ科植物の種子、ヒト及びブタなどの動物の消化腺など多くの生物から得られているものを使用することができる。
【0011】
本発明に用いるアミラーゼは、前記微生物又は、それらの変異株、あるいはこれらの酵素若しくはその変異体をコードするDNA配列を有する組換えベクターで形質転換された宿主細胞等を、同化性の炭素源、窒素源その他の必須栄養素を含む培地に接種し、常法に従い培養し、一般の酵素の採取及び精製方法に準じて得ることができる。このようにして得られる酵素液はそのまま用いることもできるが、さらに公知の方法により精製、結晶化、粉末製剤化又は液体製剤化したものを用いることができる。
【0012】
本発明に用いるアミラーゼはα−アミラーゼが好ましく、使用できる市販の酵素としては、商標名ラピダーゼ(ギスト ブロカーズ製)、商標名ターマミル、デュラミルおよびステインザイム(ノボザイムズジャパン(株)製)、商標名プラスターSTおよびプラスターOxAm(ジェネンコア・インターナショナル製)等を挙げることができ、配合適性の観点から液体状(製剤形態が液体であるもの)のものを用いることが好ましい。
【0013】
(b)成分の組成物中における含有量は、洗浄性及びコストの観点から、組成物中における酵素タンパク質濃度として、0.0005〜0.2質量%であることが好ましく、0.001〜0.1質量%であることがより好ましく、0.002〜0.05質量%であることがさらに好ましい。(b)成分は、通常、酵素製剤として用いられ、酵素製剤中の酵素タンパク質の定量は、例えば、バイオラッド社製のDCプロテインアッセイキットを用い、標準アッセイ法に従って行うことができる。その際、標準蛋白質としてはウシ血清アルブミンを用いることができる。組成物中の酵素タンパク質量は、上記方法で求めた酵素製剤中のタンパク質量と組成物中への酵素製剤の配合濃度から計算により算出することができる。
【0014】
本発明に係る液体洗浄剤組成物は、必要により、洗浄性の観点から、(c)成分としてアルカリ金属の水酸化物及びアルカノールアミンから選ばれる1種以上のアルカリ剤を含有することが好ましい。アルカリ剤として好ましいものは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びモノエタノールアミンであり、より好ましくはモノエタノールアミンである。(c)成分の組成物中における配合量は洗浄性能と経済性の観点から、好ましくは0.2〜20質量%であり、より好ましくは0.5〜15質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。
【0015】
本発明に係る液体洗浄剤組成物には、必要により、(d)成分としてキレート剤を配合することで茶渋や水垢汚れなどの洗浄性能を高めることができる。(d)成分は、原料として完全中和塩もしくは部分中和塩として、粉末・粒・顆粒・フレーク・溶液などの原料形態で配合することが可能である。さらには、未中和の酸型のキレート剤原料と(b)成分とを別々に配合して溶液中で完全中和もしくは部分中和塩の形態として存在させる方法を選択しても良い。塩は、アルカリ金属塩、アルカノールアミン塩等が挙げられる。
【0016】
(d)成分のうち、低分子キレート剤としては、分子量が1000未満であり、好ましくは40〜400、より好ましくは90〜360、さらに好ましくは100〜300の水溶性有機酸、特に分子中に2つ以上、好ましくは2〜6個のカルボン酸基を有する多価カルボン酸が好ましい。具体的な低分子キレート剤は、ギ酸、酢酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、マレイン酸、及びフマル酸から選ばれるカルボン酸、エチレンジアミン4酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、メチルグリシン2酢酸、グルタミン酸2酢酸、セリン2酢酸、及びアスパラギン酸2酢酸から選ばれるアミノカルボン酸、ヒドロキシエタンジスルホン酸、及びアミノトリメチレンホスホン酸から選ばれるホスホン酸が好適であり、クエン酸、メチルグリシン2酢酸、エチレンジアミン4酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、ヒドロキシエタンジホスホン酸がより好ましく、クエン酸がさらに好ましい。
【0017】
(d)成分のうち、高分子キレート剤としては、分子量(重合体の場合は重量平均分子量)が1000以上であり、カルボン酸基を有するモノマー構成単位を有する高分子化合物が好ましい。具体的な高分子キレート剤は、重合に用いる単量体として、アクリル酸又はその塩、メタクリル酸又はその塩、クロトン酸又はその塩、α−ヒドロキシアクリル酸又はその塩、マレイン酸又はその塩、無水マレイン酸の1種以上を挙げることができる。好ましくはアクリル酸又はその塩、マレイン酸又はその塩、及び無水マレイン酸から選ばれる1種以上である。高分子キレート剤の単量体として、上記単量体と重合可能な他の単量体を共重合させても良い。他の単量体として具体的なものを例示すると、アクリル酸(又はメタクリル酸)アルキル(アルキル基の炭素数1〜5)、アクリル酸(又はメタクリル酸)2−ヒドロキシエチル、アクリル酸(又はメタクリル酸)N,N−ジメチルアミノアルキル(アルキル基の炭素数1〜5)、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、n−ブチレン、イソブチレン、ジイソブチレン、n−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ブテン、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アリルアミン、N,N−ジアリルアミン、N,N−ジアリル−N−アルキル(アルキル基の炭素数1〜5)アミン、エチレンオキシド、及びプロピレンオキシドから選ばれる1種以上を挙げることができる。好ましくはイソブチレン又はジイソブチレンである。
【0018】
高分子キレート剤としては、アクリル酸系重合体の塩を用いることが好ましい。このうち、アクリル酸単位の構成モル比率は、全モノマー単位に対して50モル%以上のものが好ましい。共重合体の場合は、アクリル酸以外のモノマーとしてマレイン酸、無水マレイン酸、イソブチレン、及びジイソブチレンから選ばれる1種以上の単量体を共重合することが好ましく、マレイン酸、及び無水マレイン酸から選ばれる1種以上の単量体を共重合することがより好ましい。高分子キレート剤の重量平均分子量は、好ましくは1000〜500万、より好ましくは1000〜50万、さらに好ましくは1000〜10万、さらにより好ましくは1万〜10万である。重量平均分子量は、アセトニトリルと水の混合溶媒(リン酸緩衝液)を展開溶媒とし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーでポリエチレングリコールを標準物質として求めたものである。
【0019】
(d)成分の組成物中における含有量は2〜15質量%が好ましく、洗浄性能と溶液安定性の観点からより好ましくは3〜12質量%、さらに好ましくは5〜10質量%である。
【0020】
本発明に係る液体洗浄剤組成物は、必要により、アミラーゼの保存安定性の観点から、(e)成分として水溶性溶剤を含有することができる。また、(e)成分は、液体洗浄剤組成物の外観安定性の観点から、後述する増粘工程の後に添加することが好ましい。ここで(e)成分は、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、及びグリコール系溶剤から選ばれる1種以上が好ましい。グリコール系溶剤とは、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、アルキル基の炭素数が3〜8のアルキルモノグリセリルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル(あるいはベンジルエーテル)等が挙げられる。(e)成分として好ましいものは、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールブチルエーテル、ポリオキシエチレン(平均付加モル数3)フェニルエーテルであり、より好ましくはグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールであり、さらに好ましくはグリセリン、プロピレングリコールである。(e)成分の組成物中における含有量は、アミラーゼの保存安定性、液体洗浄剤組成物の粘度安定性及びコストの観点から、20〜50質量%、更に25〜40質量%が好ましい。
【0021】
本発明に係る液体洗浄剤組成物は、水を含有する。水は組成物の残部である。水の組成物中における含有量は、低温における配合成分の析出抑制の観点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。また、アミラーゼの保存安定性の観点から、80質量%以下が好ましく、水の含有量を考慮して(e)成分の含有量を調整することが好ましい。
【0022】
本発明では、上記(a)成分及び(b)成分を含有する洗浄剤組成物を製造するにあたり、(b)成分を45〜100℃の温度範囲で20分以上保持する工程(以下、熱処理工程という)を行う。すなわち、(b)成分は、製造工程の何れかで、45〜100℃の温度範囲で20分以上保持する熱処理を受けることになる。
【0023】
本発明は、理由は定かではないが、アミラーゼと多糖類系増粘剤とを含有する液体洗浄剤組成物を製造する際に、アミラーゼを、45〜100℃の温度範囲で20分以上熱処理することで、最終的な液体洗浄剤組成物の粘度安定性が飛躍的に向上することを見出したものである。熱処理工程における温度が45℃以上であれば、粘度安定性の高い液体洗浄剤組成物が得られる。また、該温度が100℃以下であれば、アミラーゼの変質を抑制するのに十分に低温であり、なおかつ設備面及び運用面でのコストが低減でき経済的に好ましい。
【0024】
(b)成分であるアミラーゼは、液体洗浄剤組成物の製造工程のいずれで45〜100℃の温度範囲で20分以上熱処理されてもよく、他の原料と混合される前、他の原料と混合された後、のいずれの段階で熱処理工程が行われてもよい。つまり、アミラーゼを単独で熱処理する、アミラーゼと他の原料との混合物であって最終組成となっていないものを熱処理する、アミラーゼと他の原料との混合物であって最終組成となっているものを熱処理する、のような態様を採用できる。(b)成分を、他の原料(液体洗浄剤組成物の他の構成成分)と混合する前に熱処理工程を行うことは、他の原料が熱処理による影響を受けない観点から好ましい。
【0025】
熱処理工程では、(b)成分は、該(b)成分を含む固体混合物ないし液体混合物として用いることができ、(b)成分を含む液体混合物を用いることが好ましい。(b)成分を含む液体混合物は、(b)成分と液体(好ましくは水)とを含有するものであり、固体が存在していても良い。従って、溶液、分散液(懸濁液、乳化液)の何れでも良い。
【0026】
具体的には、
(1)(b)成分を熱処理工程に供した後、他の原料と混合する
(2)(a)成分と(b)成分とを含有する液体混合物(製造中間体)、又は(a)成分と(b)成分と(c)成分とを含有する液体混合物(製造中間体)を熱処理工程に供する
(3)最終組成物の組成になっている液体混合物を熱処理工程に供する
の1つ以上を行う。このような製造方法により、液体洗浄剤組成物の粘度安定性を向上させることができる。上記(1)では、(b)成分を含有する液体酵素製剤のような(b)成分を含有する液体混合物を用いることができ、これは、通常、(b)成分を含有し、(a)成分を含有しない液体混合物である。
【0027】
液体洗浄剤組成物の粘度安定性の観点及び運用上のコスト負荷(設定温度と保持時間との関数となる所要時間)低減との観点から、熱処理工程の温度範囲は、好ましくは50〜90℃であり、より好ましくは55〜80℃であり、さらに好ましくは55〜75℃であり、熱処理工程の時間範囲としては、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上、さらに好ましくは90分以上であり、好ましくは100時間以下、より好ましくは80時間以下、さらに好ましくは60時間以下である。
【0028】
本発明の液体洗浄剤組成物の製造方法の好ましい製造手順について説明する。この製造手順の何れかにおいて、(b)成分の熱処理工程が行われる。製造手順としては、まず水に(a)成分を添加、溶解させ、増粘させる(以下、増粘工程という)。この際、溶解方法としては、長時間攪拌する、低温分散液を昇温する、高温分散液を降温する、分散液にアルカリ剤等の(a)成分の溶解を促進し得る添加剤を加える、等の方法が考えられるが、本発明では、分散液にアルカリ剤等の(a)成分の溶解を促進し得る添加剤を加える方法が経済的に好ましく、該添加剤としては、(c)成分や(d)成分などを用いることができる。増粘工程における該添加剤の添加量は、最終組成物中の含有量の全量でもよく、一部でもよい。
【0029】
なお増粘工程における水は、カルシウムやマグネシウム等の硬度成分イオンを含有してもしなくても良い。硬度成分イオンを含有する場合には、その組成物中の含有量が最終的に1質量%以下となることが、溶液安定性の観点から好ましい。増粘工程における水は、組成物に必要な量の全量を配合しても良いし、一部を配合しても良い。
【0030】
増粘工程終了後の粘度は、B型粘度計、ローターNo.4、30rpm、測定時間1分、液温20℃の測定条件で1000〜40000mPa・sであることが好ましい。
【0031】
増粘工程を経れば、配合途中で系の粘度低下が生じても構わないが、組成物の配合途中における混合条件の簡略化や混合機器への負荷抑制の観点から、増粘工程後の粘度変化が小さいことが好ましく、配合終了までの配合中間体の粘度が増粘工程後の粘度を基準として1/10倍〜10倍の範囲内に収まること、および最終配合品の粘度が、B型粘度計、ローターNo.4、30rpm、測定時間1分、液温20℃の測定条件で1000mPa・s以上であることが好ましい。
【0032】
増粘された混合物(溶液等)に(b)成分を配合し、必要により、(c)〜(e)成分、さらに界面活性剤、(b)成分以外の酵素、殺菌剤、色素、香料、酸化防止剤、防腐剤、水溶性カルシウム塩等の成分を配合することで、最終的な液体洗浄剤組成物が得られる。
【0033】
界面活性剤の種類は特に限定されるものではないが、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及び陰イオン性界面活性剤から選ばれる1種以上が好ましい。非イオン性界面活性剤として好ましいものはポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルグリコシド、アルキルアミンオキサイドである。両性界面活性剤として好ましいものはアルキルアミドプロピルカルボキシベタイン、アルキルアミドプロピルスルホベタインである。陰イオン性界面活性剤として好ましいものは脂肪酸又はその塩、アルケニルコハク酸又はその塩である。界面活性剤の組成物中の含有量は、洗浄性能及び溶液安定性の観点から、0.1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%である。
【0034】
(b)成分以外の酵素を配合する場合、酵素の種類は特に限定されるものではないが、リパーゼ、及びプロテアーゼから選ばれる1種以上であることが好ましい。酵素の組成物中の含有量は、洗浄性能及び経済性の観点から0.01〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量である。
【0035】
殺菌剤は、例えば塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、グルコン酸クロルヘキシジン等のビグアナイド系殺菌剤等が挙げられる
【0036】
酸化防止剤は、例えば亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸(ナトリウム)、エリソルビン酸(ナトリウム)、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。
【0037】
防腐剤は、例えば安息香酸及びその塩、ソルビン酸及びその塩、デヒドロ酢酸及びその塩、プロピオン酸及びその塩、パラベン類、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール、トリクロロカルバニリド、メチル(又はメチルクロロ)イソチアゾリノン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、ε−ポリリジン、ジフェニル、チアベンダゾール、イマザリル等が挙げられる。
【0038】
水溶性カルシウム塩は、アルカリ剤を含有する中性〜弱アルカリ性洗剤溶液中での酵素失活を抑制するための成分であり、塩化カルシウムが好ましい。
【0039】
(b)成分の熱処理工程の方法としては、水と(a)成分とを混合し、次いで(b)成分を混合して得られた液体混合物に対して実施する方法が挙げられる。この方法では、熱処理の時間は好ましくは60分以上、さらに好ましくは90分以上であり、好ましくは12時間以下、より好ましくは6時間以下、さらに好ましくは4時間以下である。
【0040】
また、(b)成分の熱処理工程の方法としては、前述の通り、液体酵素製剤(原料段階)に対して実施する方法が、(b)成分以外の成分が熱処理による影響を受けない観点からが好ましい。この場合の熱処理の時間は、好ましくは4時間以上、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは12時間以上であり、好ましくは100時間以下、より好ましくは80時間以下、さらに好ましくは60時間以下である。
【0041】
また、(b)成分の熱処理工程の温度及び時間は、(b)成分の活性が低下しないような条件となるようにして決め得る。熱処理工程を行う装置としては、工業的には、蒸気を熱源に利用して加熱する機構を備えた装置等が挙げられる。
【0042】
本発明により製造された液体洗浄剤組成物の25℃でのpHは、高い洗浄力を得るために好ましくはpH8以上であり、より好ましくはpH9以上、また好ましくはpH14以下であり、より好ましくはpH13以下である。pHは、(株)堀場製作所製pHメータD−52S、pH電極6367−10Dを用いて測定したものである。
【0043】
本発明により製造された液体洗浄剤組成物の粘度(B型粘度計、ローターNo.4、30rpm、測定時間1分、液温20℃)は、1000〜40000mPa・s、更に2000〜20000mPa・sが好ましい。この粘度は、製造直後、更には、全ての処理を終えて1時間後の液体洗浄剤組成物の粘度であってよい。また、35℃で30日保存(密閉容器に充填して保存)した後の液体洗浄剤組成物の粘度も、この範囲に入ることが好ましい。更に好ましくは、以下の式で定義される粘度変化率(%)が、−30%〜30%、更に−20%〜20%、更に−10%〜10%の範囲にあることである。こうした粘度値や粘度変化率を有することは、設計された洗浄性能を十分に発現させる観点からも好ましい。
粘度変化率(%)=(A−B)/A×100
A:全ての処理を終えて1時間後の液体洗浄剤組成物の粘度(mPa・s)
B:全ての処理を終えた後、密閉容器に充填して35℃で30日保存した後の液体洗浄剤組成物の粘度(mPa・s)
ここで、粘度測定条件は、B型粘度計、ローターNo.4、30rpm、測定時間1分、液温20℃とする。
【0044】
本発明により製造された液体洗浄剤組成物は、容器に充填した容器入り洗浄剤として用いることができる。
【0045】
本発明により製造された液体洗浄剤組成物は、各種洗浄用途に適用することができるが、特に硬質表面用の洗浄剤組成物として好ましい。ここで「硬質表面」とは、平面的であるか又は立体的であるかを問わず、一定の形状を保持しているものを意味するものであり、洗浄処理ができるものであれば、硬さの程度は限定されるものではない。この硬質表面としては、プラスチック、ゴム、金属、タイル、レンガ、コンクリート、セメント、ガラス、木等からなる床、階段、壁等の固定物のほか、それらからなる各種器械、器具、道具、家具、食器等の人が接触するもの全般を挙げることができる。
【0046】
よって、本発明により製造された液体洗浄剤組成物は、台所まわり用洗浄剤、浴室用洗浄剤、床用洗浄剤、食器用洗浄剤、自動食器洗浄機用洗浄剤、全自動洗濯機洗濯槽の洗浄剤、排水パイプの洗浄剤、台所や洗面所の小物の洗浄剤等として適用することができるが、特に好ましくは台所まわり用洗浄剤や自動食器洗浄機用洗浄剤として適用できる。
【実施例】
【0047】
実施例1及び比較例1
表1に示す最終組成の液体洗浄剤組成物を、表2に概略を示した製造手順に基づいて製造した。製造手順の詳細を以下に記載する。まずイオン交換水を500mlビーカーに加える。次に、ステンレスシャフトに取り付けた3枚羽根プロペラ(直径約45mm)をビーカー底より3cmの位置に設置し、100〜200r/mで撹拌する。その後、撹拌しながらヒドロキシエチルセルロースを加え、均一分散するまで数分間撹拌する。続いてモノエタノールアミンを添加するが、このとき徐々に増粘してくるので、撹拌回転数を500〜700r/mに上昇させて5分間撹拌保持する。最後にα−アミラーゼを加え、5分間撹拌保持して配合を終了する。α−アミラーゼの熱処理条件を表3の通りとした。各液体洗浄剤組成物の粘度安定性および米飯汚れに対する洗浄力を下記評価方法により評価した。結果を表3に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
1) HECダイセル SE−850(ダイセル化学工業株式会社)
2) ステインザイムプラス12L(ノボザイムズジャパン株式会社)
3) 株式会社日本触媒製
【0050】
【表2】

【0051】
*1 実施例1−1における各成分を添加してから1時間後の混合物の粘度(B型粘度計、ローターNo.4、30rpm、測定時間1分、液温20℃)
【0052】
<粘度安定性の評価>
全ての処理を終えて1時間後の液体洗浄剤組成物の粘度測定値をA(mPa・s)とし、全ての処理を終えた後、35℃で30日保存(密閉容器に充填して保存)した後の液体洗浄剤組成物の粘度測定値をB(mPa・s)とする。得られたA、Bから、以下の式で定義される粘度変化率(%)を算出した。粘度変化率が「0」に近いほど、粘度安定性に優れることを意味する。粘度測定条件は、B型粘度計、ローターNo.4、30rpm、測定時間1分、液温20℃とした。
粘度変化率(%)=(A−B)/A×100
【0053】
<米飯汚れ洗浄力の評価>
標準水量で炊飯した日本産コシヒカリ0.5gを陶器製白色茶碗(直径12cm、高さ5cm)の内面に薄く均一に塗付し、一昼夜室温乾燥させる。三洋電機株式会社製自動食器洗い機(機種DW−SA1)を用い、上記白色茶碗3個を一定の位置に設置してから洗剤自動投入口に各液体洗浄剤組成物(35℃で30日間保存したもの)を入れて蓋を閉じ、標準コースで運転した。この洗浄機は、運転開始後に約4分間の予洗い工程が行われてから排水され、その後新たに注水されて洗剤自動投入口が開き、通常の洗浄工程となる形式のものである。洗浄終了後の白色茶碗内面全体に10%ヨウ素水溶液を噴霧し、5分後にイオン交換水ですすぐ。白色茶碗内面の写真を撮影し、紫色に着色していない部分の面積割合(%)を米飯洗浄力として評価した。面積割合(%)が大きいほど、米飯汚れ洗浄力に優れることを意味する。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例2及び比較例2
表4に示す最終組成の液体洗浄剤組成物を、表5に概略を示した製造手順に基づいて製造した。製造手順の詳細を以下に記載する。まずイオン交換水を500mlビーカーに加える。次に、ステンレスシャフトに取り付けた3枚羽根プロペラ(直径約45mm)をビーカー底より3cmの位置に設置し、100〜200r/mで撹拌する。その後、撹拌しながら塩化カルシウム2水和物、ヒドロキシエチルセルロースを加え、均一分散するまで数分間撹拌する。続いてモノエタノールアミンを添加するが、このとき徐々に増粘してくるので、撹拌回転数を500〜700r/mに上昇させて5分間撹拌保持する。続いてアクリル酸/マレイン酸コポリマーのNa塩、グリセリン、プロピレングリコール、クエン酸(無水)、カプリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを撹拌を続けながら順次加えた後、5分間撹拌保持する。最後にα−アミラーゼ、亜硫酸ナトリウムを撹拌を続けながら順次加え、5分間撹拌保持して配合を終了する。その際、α−アミラーゼの熱処理条件を表6の通りとした。各液体洗浄剤組成物の粘度安定性及び米飯汚れ洗浄力を実施例1と同様に評価した。結果を表6に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
1) HECダイセル SE−850(ダイセル化学工業株式会社)
2) デュラミル300L タイプDX(ノボザイムズジャパン株式会社)
3) 株式会社日本触媒製
4) ポイズ520(花王株式会社)
5) 扶桑化学工業株式会社製
6) 旭硝子株式会社製
7) 86%グリセリンV(花王株式会社)
8) ルナック10−98(E)(花王株式会社)
9) ソフタノール33(花王株式会社、エチレンオキサイド平均付加モル数3.3、アルキル基の炭素数12〜13)
10) 神洲化学株式会社製
11) 株式会社トクヤマ製
【0058】
【表5】

【0059】
*1 実施例2−1における各成分を添加してから1時間後の混合物の粘度(B型粘度計、ローターNo.4、30rpm、測定時間1分、液温20℃)
【0060】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)多糖類系増粘剤〔以下、(a)成分という〕、(b)アミラーゼ〔以下、(b)成分という〕を含有する液体洗浄剤組成物の製造方法であって、
(b)成分を、45〜100℃の温度範囲で20分以上保持する工程(以下、熱処理工程という)を有する、液体洗浄剤組成物の製造方法。
【請求項2】
さらに、(c)アルカリ金属の水酸化物及びアルカノールアミンから選ばれる1種以上のアルカリ剤〔以下、(c)成分という〕を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
熱処理工程で、(b)成分を、50〜90℃の温度範囲で30分以上保持する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
(a)成分が、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラギーナン、及びジェランガムから選ばれる1種以上の多糖類系増粘剤である、請求項1〜3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
液体洗浄剤組成物の粘度(B型粘度計、ローターNo.4、30rpm、測定時間1分、液温20℃)が1000〜40000mPa・sである、請求項1〜4の何れかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−79972(P2011−79972A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233616(P2009−233616)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】