説明

液晶プロジェクタ用基板、およびこれを用いた液晶プロジェクタ用液晶パネル、液晶プロジェクタ

【課題】R(赤)、G(緑)、B(青)の各波長の光の透過率に優れ、その変動が抑制されると共に、生産性に優れる液晶プロジェクタ用基板を提供すること。
【解決手段】基板本体2と、前記基板本体2上に積層された積層膜3とを有する液晶プロジェクタ用基板1であって、前記積層膜3が前記基板本体2側から順に高屈折率膜3(H)と低屈折率膜3(L)とが交互に3層ずつ計6層積層されたものであり、かつ前記積層膜3の膜厚が155nm以上250nm以下であるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶プロジェクタ用基板、およびこれを用いた液晶プロジェクタ用液晶パネル、液晶プロジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像情報をスクリーン等の被投影物に投影するために液晶プロジェクタが用いられている。このような液晶プロジェクタは空間変調素子としての液晶パネルを有し、この液晶パネルに光源からの光を照射することにより変調し、投影レンズによって外部の被投影物に投影する。
【0003】
液晶パネルは、一対の基板間に液晶が配置されたものであり、一方の基板に電圧を印加することにより液晶を配向する表示電極が形成され、他方の基板(対向基板)に共通電極としてのITO(Indium Tin Oxide)膜が全面に形成されている。
【0004】
対向基板としては、例えば基板本体としてガラス基板等が用いられ、この基板本体上にいわゆるブラックマトリクスと呼ばれる遮光性部材が形成され、さらに遮光性部材を覆うようにして略全面にITO膜が形成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−338991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、このような液晶プロジェクタについて、明るさを向上させ、プロジェクタとしての性能を向上させると共に、消費電力を低減し、環境に配慮したものとするために、液晶パネル、特に対向基板の透過率を向上させることが求められている。
【0007】
しかしながら、このような対向基板については、特定波長の光の透過率に優れるだけではプロジェクタとしての使用に適さず、R(赤)、G(緑)、B(青)の各波長の光の透過率に優れることが求められる。また、各波長の光の透過率に優れるとしても、それらの透過率に大きな差がある場合にはプロジェクタとしての使用に適さず、透過率の変動も少ないことが求められる。さらに、量産性の観点から、製造工程の過度な増加がないことも求められる。
【0008】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、R、G、Bの各波長の光の透過率に優れ、その変動が少ないと共に、生産性に優れる液晶プロジェクタ用基板を提供することを目的としている。また、本発明は、このような液晶プロジェクタ用基板を用いた液晶プロジェクタ用液晶パネルおよび液晶プロジェクタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液晶プロジェクタ用基板は、基板本体と、前記基板本体上に積層された積層膜とを有するものであって、前記積層膜が前記基板本体側から順に高屈折率膜と低屈折率膜とが交互に3層ずつ計6層積層されたものであり、かつ前記積層膜の膜厚が155nm以上250nm以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の液晶プロジェクタ用基板においては、前記積層膜における前記基板本体側から2層目となる屈折率膜の膜厚が15nm以上75nm以下であり、かつ前記基板本体側から5層目となる屈折率膜の膜厚が25nm以上135nm以下であることが好ましい。
【0011】
前記高屈折率膜は、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコニウム、および酸化ハフニウムの中から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましく、また前記低屈折率膜は、酸化シリコン、およびフッ化マグネシウムの中から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。
【0012】
また、前記積層膜における前記基板本体側から1層目となる屈折率膜の膜厚は5nm以上25nm以下であり、かつ前記基板本体側から6層目となる屈折率膜の膜厚は40nm以上55nm以下であることが好ましい。
【0013】
さらに、前記積層膜における前記基板本体側から3層目となる屈折率膜の膜厚は5nm以上45nm以下であり、かつ前記基板本体側から4層目となる屈折率膜の膜厚は5nm以上35nm以下であることが好ましい。
【0014】
前記積層膜における前記基板本体側から6層目となる屈折率膜の前記基板本体側とは反対側の表面は、表面粗さが0.5nm以下であることが好ましい。
【0015】
前記積層膜における前記基板本体側から2層目となる屈折率膜と5層目となる屈折率膜との計2層の膜厚の合計は60nm以上165nm以下であることが好ましい。
【0016】
前記積層膜における前記基板本体側から奇数層目となる計3層の高屈折率膜の膜厚の合計は60nm以上155nm以下であることが好ましく、前記積層膜における前記基板本体側から偶数層目となる計3層の低屈折率膜の膜厚の合計は80nm以上155nm以下であることが好ましい。
【0017】
前記積層膜の基板本体側とは反対側の表面にはITO膜が設けられていることが好ましく、前記ITO膜の膜厚は10nm以上30nm以下であることが好ましい。このようなITO膜が設けられたものについては、波長が450nm、550nm、および650nmの光の透過率が各々においてすべて92%以上であることが好ましく、波長が400nm以上700nm以下の範囲の光の透過率の最大値と最小値との差で表される変動値が4%以下であることが好ましい。前記基板本体は、例えば石英基板であることが好ましい。
【0018】
本発明の液晶プロジェクタ用液晶パネルは、対向して配置される一対の基板と、前記一対の基板間に配置される液晶とを有する液晶プロジェクタ用液晶パネルであって、前記基板の一方が上記した本発明の液晶プロジェクタ用基板であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の液晶プロジェクタは、被投影物に投影するための画像情報を形成する液晶パネルを有する液晶プロジェクタであって、前記液晶パネルが上記した本発明の液晶プロジェクタ用液晶パネルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、R、G、Bの各波長の光の透過率に優れ、その変動が少ないと共に、生産性に優れ、液晶プロジェクタの液晶パネルに好適に用いられる液晶プロジェクタ用基板を提供することができる。
【0021】
また、本発明によれば、このような液晶プロジェクタ用基板を有し、R、G、Bの各波長の光の透過率に優れ、その変動が少ないと共に、生産性に優れ、液晶プロジェクタに好適に用いられる液晶プロジェクタ用液晶パネルを提供することができる。
【0022】
さらに、本発明によれば、このような液晶プロジェクタ用液晶パネルを有し、明るさが向上され、プロジェクタとしての性能が向上されると共に、消費電力が低減され、環境に配慮した液晶プロジェクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の液晶プロジェクタ用基板の一例を示す断面図。
【図2】ITO膜、遮光性部材を有する本発明の液晶プロジェクタ用基板の一例を示す断面図。
【図3】ITO膜、遮光性部材を有する本発明の液晶プロジェクタ用基板の他の例を示す断面図。
【図4】本発明の液晶プロジェクタ用液晶パネルの一例を示す断面図。
【図5】実施例1および比較例1の液晶プロジェクタ用基板の透過率を示すグラフ。
【図6】比較例2、3の液晶プロジェクタ用基板の透過率を示すグラフ。
【図7】実施例2、3の液晶プロジェクタ用基板の透過率を示すグラフ。
【図8】実施例4、5の液晶プロジェクタ用基板の透過率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について図面を参照して説明する。
【0025】
図1は、本発明の液晶プロジェクタ用基板の一例を示す断面図である。
本発明の液晶プロジェクタ用基板1は、後述するように液晶プロジェクタ用液晶パネル(以下、単に液晶パネルという)において液晶を介して配置される一対の基板のうち、電圧を印加することにより液晶を配向する表示電極が形成される基板(主基板)に対向するようにして配置される基板(対向基板)となるものである。
【0026】
本発明の液晶プロジェクタ用基板1は、基板本体2と、この基板本体2の一方の主面に積層される積層膜3とを有している。積層膜3は、基板本体2側から順に高屈折率膜31、低屈折率膜32、高屈折率膜33、低屈折率膜34、高屈折率膜35、および低屈折率膜36が積層されたものであり、高屈折率膜と低屈折率膜とが交互に3層ずつ計6層積層されたものである。また、積層膜3の膜厚、すなわち3層の高屈折率膜と3層の低屈折率膜との計6層の合計した膜厚が155nm以上250nm以下となるものである。
【0027】
なお、図1中、括弧内の文字「H」は高屈折率膜であることを意味し、また文字「L」は低屈折率膜であることを意味する。以下では、3層の高屈折率膜を特に区別しない場合には高屈折率膜3(H)と呼び、同様に3層の低屈折率膜を特に区別しない場合には 低屈折率膜3(L)と呼んで説明する。また、例えば、液晶プロジェクタ用として十分機能を発揮できるような透過率を維持できるような場合であれば、上記高屈折率膜および低屈折率膜以外の膜、例えば基板と積層膜3との間に下地膜などを設けたり、または積層膜3の上に保護膜などを設けてもよい。
【0028】
このような液晶プロジェクタ用基板1は、積層膜3の基板本体2側とは反対側(図中、上側)の主面に図示しないITO(Indium Tin Oxide)膜が形成され、このITO膜が形成された主面側が内側となるようにして、上記した液晶パネルにおける主基板と対向するように配置して用いられる。
【0029】
このような液晶プロジェクタ用基板1においては、基板本体2に積層膜3として高屈折率膜3(H)と低屈折率膜3(L)とを交互に3層ずつ計6層積層すると共に、その膜厚を155nm以上250nm以下とすることで、上記したようにITO膜が形成された場合において、R、G、Bの各波長の光の透過率に優れ、その変動が少ないと共に、生産性に優れ、液晶プロジェクタにおける液晶パネルに好適に用いられるものとすることができる。
【0030】
すなわち、従来のように基板本体2にITO膜を直接形成した場合、例えば基板本体2が石英基板である場合、石英基板の屈折率(波長550nmでの屈折率、以下同様)が約1.46であり、またITO膜の屈折率が約2.1であることから、これらの屈折率の違いにより必ずしも十分な透過率が得られない。また、R、G、Bのいずれかの波長の光の透過率を向上させることができたとしても、必ずしも各波長の光の透過率を十分なものとすることができず、その変動も少なくすることができない。
【0031】
上記したように、基板本体2に特定の積層構造および膜厚の積層膜3を形成することで、基板本体2とITO膜との屈折率の違いを緩和して透過率に優れたものとすることができ、特にR、G、Bの各波長の光の透過率に優れ、その変動も少なく、バランスに優れたものとすることができる。また、このような積層構造および膜厚の積層膜3であれば、従来の液晶プロジェクタ用基板と比較して必ずしも大きな製造工程の追加がないことから、生産性についても十分なものとすることができる。
【0032】
ここで、積層膜3の層数が6層未満である場合、R、G、Bの各波長の光の透過率が十分なものとならず、その変動も少なくならないおそれがある。積層膜3の層数は6層もあればR、G、Bの各波長の光の透過率を十分なものとすることができ、またその変動も十分に少なくすることができ、これを超えるとかえって製造工程が増加し、生産性が低下するおそれがある。
【0033】
また、積層膜3の膜厚が155nm未満である場合、積層膜3の層数が6層であっても、必ずしもR、G、Bの各波長の光の透過率を十分なものとすることができず、その変動も十分に少なくすることができない。積層膜3の膜厚は250nmもあればR、G、Bの各波長の光の透過率を十分なものとすることができ、その変動も十分に少なくすることができ、これを超えるとかえって製造時間が増加し、生産性が低下するおそれがある。このような特性と生産性との観点から、積層膜3の膜厚は225nm以上245nm以下、特に230nm以上240nm以下であることが好ましい。
【0034】
本発明の液晶プロジェクタ用基板1では、このような構成とすることにより、例えば基板本体2が厚さ0.5mm以上2.5mm以上の石英基板であって、積層膜3に膜厚が10nm以上30nm以下のITO膜が形成された場合に、波長が450nm、550nm、および650nmの光の透過率を92%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは94%以上とすることができる。
【0035】
また、本発明の液晶プロジェクタ用基板1では、同条件のものにおいて、波長が400nm以上700nm以下の範囲の光の透過率の最大値と最小値との差で表される変動値を4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下とすることができる。変動値は、例えば波長が400nm以上700nm以下の範囲の光の透過率の最大値が95%、最小値が93%である場合、95%−93%=2%のようにして求めることができる。
【0036】
液晶プロジェクタ用基板1における基板本体2としては、上記した石英基板が好適に用いられるが、透光性材料からなるものであれば必ずしもこのようなものに限定されるものではなく、例えば結晶化ガラスが挙げられる。また、基板本体2の厚さについても必ずしも限定されるものではなく、一般的に液晶プロジェクタ用基板の厚さとして採用されるものと同様の厚さとすることができる。高透過率であること、および低熱膨張であるという理由で石英基板が好ましい。
【0037】
高屈折率膜3(H)としては、例えば屈折率(波長550nmでの屈折率、以下同様)が1.9以上となるものであり、好ましくは1.9以上2.5以下となるものであり、具体的には酸化タンタル(屈折率:2.0〜2.2)、酸化チタン(屈折率:2.2〜2.5)、酸化ジルコニウム(屈折率:1.9〜2.0)、および酸化ハフニウム(屈折率:1.95〜2.15)等の高屈折率材料の中から選ばれる少なくとも1種からなるものが挙げられる。これらの中でも、上記したITO膜を形成する際の熱処理による劣化を抑制する観点から、耐熱性に優れる酸化タンタルからなるものが好ましい。
【0038】
なお、3層ある高屈折率膜3(H)は、それぞれ同じ高屈折率材料からなるものであってもよいし、異なる高屈折率材料からなるものであってもよい。また、3層ある高屈折率膜3(H)は、それぞれ単層膜であってもよいし、多層膜であってもよい。高屈折率膜3(H)が多層膜である場合、この多層膜を構成する各層は上記した高屈折率材料からなるものとすることができる。
【0039】
一方、低屈折率膜3(L)としては、例えば屈折率が1.5以下となるものであり、好ましくは1.2以上1.5以下となるものであり、具体的には酸化シリコン(屈折率:1.44〜1.48)、およびフッ化マグネシウム(屈折率:1.35〜1.41)等の低屈折率材料の中から選ばれる少なくとも1種からなるものが挙げられる。
【0040】
なお、3層ある低屈折率膜3(L)は、高屈折率膜3(H)と同様、それぞれ同じ低屈折率材料からなるものであってもよいし、異なる低屈折率材料からなるものであってもよい。また、3層ある高屈折率膜3(H)は、それぞれ単層膜であってもよいし、多層膜であってもよい。低屈折率膜3(L)が多層膜である場合、この多層膜を構成する各層は上記した低屈折率材料からなるものとすることができる。
【0041】
積層膜3における基板本体2側から2層目となる低屈折率膜32の膜厚は、15nm以上75nm以下であることが好ましい。また、5層目となる高屈折率膜35の膜厚は、25nm以上135nm以下であることが好ましい。高屈折率膜3(H)と低屈折率膜3(L)とが交互に3層ずつ計6層積層された積層膜3については、基板本体2側から1〜3層目となる高屈折率膜31、低屈折率膜32、および高屈折率膜33と、4〜6層目となる低屈折率膜34、高屈折率膜35、および低屈折率膜36とに大きく分けられる。
【0042】
そして、特に1〜3層目の中間層となる2層目の低屈折率膜32の膜厚や、4〜6層目の中間層となる5層目の高屈折率膜35の膜厚を上記範囲内とすることで、R、G、Bの各波長の光の透過率を有効かつ効果的に向上させることができると共に、その変動も有効かつ効果的に抑制することができる。
【0043】
2層目となる低屈折率膜32の膜厚は、より好ましくは30nm以上75nm以下、さらに好ましくは50nm以上60nm以下である。また、5層目となる高屈折率膜35の膜厚は、より好ましくは50nm以上70nm以下、さらに好ましくは60nm以上70nm以下である。
【0044】
2層目となる低屈折率膜32と5層目となる高屈折率膜35とは、それらの合計した膜厚が60nm以上165nm以下となっていることが好ましい。2層の合計した膜厚がこのような範囲を外れると、R、G、Bの各波長の光の透過率が十分なものとならず、その変動も十分に少なくならないおそれがある。この2層の膜厚は、より好ましくは70nm以上130nm以下、さらに好ましくは115nm以上125nm以下である。
【0045】
1層目となる高屈折率膜31の膜厚は、5nm以上25nm以下であることが好ましい。また、6層目となる低屈折率膜36の膜厚は、40nm以上55nm以下であることが好ましい。1層目となる高屈折率膜31や6層目となる低屈折率膜36の膜厚をこのようなものとすることで、R、G、Bの各波長の光の透過率に優れ、その変動も少ないものとしやすくなる。1層目となる高屈折率膜31の膜厚は5nm以上15nm以下であることがより好ましい。また、6層目となる低屈折率膜36の膜厚は45nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0046】
また、6層目となる低屈折率膜36の基板本体2側とは反対側(図中、上側)の表面については、上記したITO膜を積層した場合のこれらの界面における透過率の低下を抑制する観点から、表面粗さを0.5nm以下とすることが好ましい。なお、ここでの表面粗さは、JISB0601に準拠して測定されるものである。
【0047】
3層目となる高屈折率膜33の膜厚は、5nm以上45nm以下であることが好ましい。また、4層目となる低屈折率膜34の膜厚は、5nm以上35nm以下であることが好ましい。3層目となる高屈折率膜33や4層目となる低屈折率膜34の膜厚をこのようなものとすることで、R、G、Bの各波長の光の透過率に優れ、その変動も少ないものとしやすくなる。3層目となる高屈折率膜33の膜厚は、より好ましくは20nm以上45nm以下であり、さらに好ましくは35nm以上45nm以下である。また、4層目となる高屈折率膜33の膜厚は、より好ましくは10nm以上30nm以下であり、さらに好ましくは15nm以上25nm以下である。
【0048】
さらに、奇数層目、すなわち高屈折率膜3(H)である高屈折率膜31、高屈折率膜33、および高屈折率膜35の3層の合計した膜厚は、60nm以上155nm以下であることが好ましい。また、偶数層目、すなわち低屈折率膜3(L)である低屈折率膜32、低屈折率膜34、および低屈折率膜36の3層の合計した膜厚は、80nm以上155nm以下であることが好ましい。奇数層目や偶数層目の膜厚の合計をこのようなものとすることで、R、G、Bの各波長の光の透過率に優れ、その変動も少ないものとしやすくなる。奇数層目の3層の合計した膜厚は、より好ましくは100nm以上120nm以下であり、さらに好ましくは110nm以上120nm以下である。また、4層目となる高屈折率膜33の膜厚は、より好ましくは100nm以上125nm以下であり、さらに好ましくは115nm以上125nm以下である。なお、上記膜厚は、すべての膜を等価として評価することによって最適化することが可能である。
【0049】
液晶プロジェクタ用基板1の最も代表的な形態としては、基板本体2が厚さ1mm以上1.5mm以上の石英基板であり、高屈折率膜3(H)(高屈折率膜31、高屈折率膜33、および高屈折率膜35)が酸化タンタル膜からなり、低屈折率膜3(L)(低屈折率膜32、低屈折率膜34、および低屈折率膜36)が酸化シリコンからなり、高屈折率膜31の膜厚が10nm、低屈折率膜32の膜厚が56nm、高屈折率膜33の膜厚が40nm、低屈折率膜34の膜厚が17nm、高屈折率膜35の膜厚が64nm、低屈折率膜36の膜厚が48nmのものである。
【0050】
このようなものによれば、例えば膜厚が10nm以上30nm以下、特に、15nm以上25nm以下のITO膜が形成された場合に、波長が450nm、550nm、および650nmの光の透過率を94%以上とすることができると共に、波長が400nm以上700nm以下の範囲の光の透過率の変動値を2%以下とすることができる。また、高屈折率膜3(H)を酸化タンタル膜とすることにより、耐熱性に優れたものとし、ITO膜を形成する際の高屈折率膜3(H)の損傷を抑制し、生産性に優れたものとすることができる。さらに、それぞれの膜厚が過度に薄すぎず、また厚すぎないために、膜形成の際の制御が容易であり、これによりさらに生産性に優れたものとすることができる。
【0051】
本発明の液晶プロジェクタ用基板1については、図1に示したように基板本体2に積層膜3のみが形成されたものであってもよいし、例えば図2に示すように積層膜3の基板本体2側とは反対側(図中、上側)にいわゆるブラックマトリクスと呼ばれる遮光性部材4が形成され、さらにこの遮光性部材4を覆うようにして略全面に上記したようなITO膜5が形成されていてもよい。また、例えば図3に示すように、積層膜3は基板本体2の遮光性部材4が形成されていない部分のみに形成されていてもよい。生産性の点で、図2の構成が好ましい。
【0052】
このような液晶プロジェクタ用基板1は、基板本体2上に公知のスパッタリング法により高屈折率膜3(H)と低屈折率膜3(L)とを交互に3層ずつ計6層積層することにより製造することができる。スパッタリング法としては、例えば、DC(直流)スパッタリング方式、AC(交流)スパッタリング方式、高周波スパッタリング方式、マグネトロンスパッタリング方式が挙げられ、これらの中でもプロセスが安定し、大面積への成膜が容易であること、および膜厚制御の観点から、DCマグネトロンスパッタリング法、ACマグネトロンスパッタリング法が好ましい。
【0053】
また、スパッタリング法以外に真空蒸着法も使用でき、真空蒸着法としては、イオンプレーティング法、イオンアシスト法などがある。一般的にプロセスが安定し、大面積への成膜が容易であること、および膜厚制御精度の安定性から、DCマグネトロンスパッタリング法、ACマグネトロンスパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンアシスト法が好ましい。
【0054】
高屈折率膜3(H)としての酸化タンタル層、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウムについては、例えばターゲットとしてこれらの金属酸化物を構成する金属元素からなるものを用い、スパッタガスとして酸素を含有するガスを用い、反応性スパッタリング法により容易に形成することができる。また、低屈折率膜3(L)としての酸化シリコン層については、例えばターゲットとして炭化ケイ素を用い、スパッタガスとして酸素を含有するガスを用い、反応性スパッタリング法により容易に形成することができる。なお、ターゲットには、Al、Si、Zn等公知のドーパントが本発明の趣旨に反しない限度においてドープされていてもよい。
【0055】
図4は、本発明の液晶パネルを示す断面図である。液晶パネル11は、主基板12と、この主基板12に対向して配置される対向基板である本発明の液晶プロジェクタ用基板1と、これら主基板12と液晶プロジェクタ用基板1との間に封入される液晶13とを有する。主基板12には、電圧を印加することにより液晶13を配向する表示電極12aが形成されている。また、液晶プロジェクタ用基板1は、遮光性部材4やITO膜5が形成された主面側が内側(液晶13側)となるようにして配置される。主基板12や液晶プロジェクタ用基板1の外側には、例えば液晶パネル11を空気中の粉塵等から保護するための防塵ガラス14、15が配置されていてもよい。
【0056】
このような液晶パネル11は、液晶プロジェクタの内部に配置されて使用される。液晶パネル11には主基板12側から図示しない光源からの光が入射し、この入射した光は液晶パネル11によって変調されて液晶プロジェクタ用基板1側から出射され、図示しない投影レンズによって外部に配置された被投影物に投影される。このような液晶パネル11、液晶プロジェクタについては、液晶プロジェクタ用基板1がR、G、Bの各波長の光の透過率に優れ、その変動も抑制されたものであるために、明るさが向上し、プロジェクタとしての性能に優れると共に、消費電力も低減され、環境に配慮したものとなる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明について実施例を参照して具体的に説明する。
【0058】
(実施例1)
基板本体としての厚さ1.2mmの石英基板上に、以下に示すような方法により高屈折率膜としての酸化タンタル膜と、低屈折率膜としての酸化シリコン膜とを交互に3層ずつ計6層積層して積層膜を形成した。なお、積層膜における基板本体側から1層目〜6層目となる各屈折率膜の膜厚は表1に示す通りとした。その後、この積層膜の基板本体側とは反対側の表面に以下に示すような方法により膜厚が20nmのITO膜を形成し、液晶プロジェクタ用基板を製造した。
【0059】
(酸化タンタル膜の形成)
真空槽内にスパッタターゲットとしてのTaターゲットをカソード上に設置し、真空槽を2.0×10−3Pa以下となるまで排気した後、スパッタガスとして酸素ガス60sccmとアルゴンガス140sccmとを導入した。このときの圧力は3.0×10−1Paであった。この状態で、DCパルス電源を用いて反応性スパッタを行うことにより、真空槽内に設置した被処理体としての石英基板あるいは順次積層膜が形成されたものに酸化タンタル膜を形成した。
【0060】
(酸化シリコン膜の形成)
真空槽内にスパッタターゲットとしてのSiターゲットをカソード上に設置し、真空槽を2.0×10−3Pa以下となるまで排気した後、スパッタガスとしてアルゴンガス210sccmと酸素ガス190sccmとを導入した。このときの圧力は3.4×10−1Paとなった。この状態で、AC電源を用いて反応性スパッタを行うことにより、真空槽内に設置した被処理体としての石英基板に順次積層膜が形成されたものに酸化シリコン膜を形成した。
【0061】
(ITO膜の形成)
スパッタリング法により形成した。
【0062】
(比較例1)
実施例1と同様な石英基板上に、高屈折率膜と低屈折率膜とからなる積層膜を形成せずに、膜厚が20nmのITO膜を直接形成して液晶プロジェクタ用基板を製造した。
【0063】
(比較例2)
実施例1と同様にして石英基板上に高屈折率膜(酸化タンタル膜)と低屈折率膜(酸化シリコン膜)とを交互に2層ずつ計4層積層して積層膜を形成した後、膜厚が20nmのITO膜を形成して液晶プロジェクタ用基板を製造した。なお、積層膜における基板本体側から1層目〜4層目となる各屈折率膜の膜厚は表1に示す通りとした。
【0064】
(比較例3)
実施例1と同様にして石英基板上に高屈折率膜(酸化タンタル膜)と低屈折率膜(酸化シリコン膜)とを交互に積層し、3層の高屈折率膜と2層の低屈折率膜とからなる計5層の積層膜を形成した後、膜厚が20nmのITO膜を形成して液晶プロジェクタ用基板を製造した。なお、積層膜における基板本体側から1層目〜5層目となる各屈折率膜の膜厚は表1に示す通りとした。
【0065】
【表1】

【0066】
次に、実施例1、および比較例1〜3の液晶プロジェクタ用基板について、透過率の評価を行った。なお、透過率の評価は、日立U4000形自記分光光度計にて行った。実施例1、比較例1の液晶プロジェクタ用基板の結果を図5に、また比較例2、3の液晶プロジェクタ用基板の結果を図6に示す。なお、図6には、比較のために実施例1の液晶プロジェクタ用基板の結果を合わせて示す。
【0067】
図5から明らかなように、高屈折率膜と低屈折率膜とからなる所定の膜厚の積層膜を形成しなかった比較例1の液晶プロジェクタ用基板については透過率が最高でも90%程度であるのに対し、実施例1の液晶プロジェクタ用基板については波長が450nm、550nm、および650nmのいずれの光の透過率についても93%以上となることが認められ、また波長が400nm以上700nm以下の範囲の光の透過率の変動値も4%以下となることが認められる。
【0068】
また、図6から明らかなように、積層膜の層数が4層である比較例2の液晶プロジェクタ用基板については、透過率が比較的高いものの、若干の透過率の変動があり、積層膜の層数が5層である比較例3の液晶プロジェクタ用基板については、透過率が低く、その変動も大きくなることが認められる。
【0069】
(実施例2、3)
積層膜の各屈折率膜の膜厚を表2に示すようなものとした以外は実施例1と同様にして実施例2、3の液晶プロジェクタ用基板を製造した。なお、実施例2の液晶プロジェクタ用基板は主として積層膜における2層目の屈折率膜を20nmとし、他の屈折率膜の膜厚を調整したものであり、実施例3の液晶プロジェクタ用基板は主として積層膜における2層目の屈折率膜を70nmとし、他の屈折率膜の膜厚を調整したものである。このような実施例2、3の液晶プロジェクタ用基板について、実施例1と同様にして透過率の評価を行った。結果を図7に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
図7から明らかなように、積層膜における2層目の屈折率膜を20nm、70nmとした実施例2、3の液晶プロジェクタ用基板については、実施例1の液晶プロジェクタ用基板に比べて透過率が若干低下する部分があり、また透過率の変動も若干大きくなるものの、波長が450nm、550nm、および650nmのいずれの光の透過率についても92%以上となり、また波長が400nm以上700nm以下の範囲の光の透過率の変動値も4%以下となり、依然として十分な特性を有していることが認められる。
【0072】
(実施例4、5)
積層膜の各屈折率膜の膜厚を表3に示すようなものとした以外は実施例1と同様にして実施例4、5の液晶プロジェクタ用基板を製造した。なお、実施例4の液晶プロジェクタ用基板は主として積層膜における5層目の屈折率膜を30nmとし、他の屈折率膜の膜厚を調整したものであり、実施例5の液晶プロジェクタ用基板は主として積層膜における5層目の屈折率膜を130nmとし、他の屈折率膜の膜厚を調整したものである。このような実施例4、5の液晶プロジェクタ用基板について、実施例1と同様にして透過率の評価を行った。結果を図8に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
図8から明らかなように、積層膜における5層目の屈折率膜を30nm、130nmとした実施例4、5の液晶プロジェクタ用基板についても、実施例1の液晶プロジェクタ用基板に比べて透過率が一部を除いて全体的に低下するものの、波長が450nm、550nm、および650nmのいずれの光の透過率についても92%以上となり、また波長が400nm以上700nm以下の範囲の光の透過率の変動値も4%以下となり、依然として十分な特性を有していることが認められる。
【符号の説明】
【0075】
1…液晶プロジェクタ用基板、2…基板本体、3…積層膜、3(H)…高屈折率膜、3(L)…低屈折率膜、4…遮光性部材、5…ITO膜、11…液晶パネル、12…主基板、13…液晶、14,15…防塵ガラス、31…高屈折率膜、32…低屈折率膜、33…高屈折率膜、34…低屈折率膜、35…高屈折率膜、36…低屈折率膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板本体と、前記基板本体上に積層された積層膜とを有する液晶プロジェクタ用基板であって、
前記積層膜が前記基板本体側から順に高屈折率膜と低屈折率膜とが交互に3層ずつ計6層積層されたものであり、かつ前記積層膜の膜厚が155nm以上250nm以下であることを特徴とする液晶プロジェクタ用基板。
【請求項2】
前記積層膜における前記基板本体側から2層目となる屈折率膜の膜厚が15nm以上75nm以下であり、かつ前記基板本体側から5層目となる屈折率膜の膜厚が25nm以上135nm以下であることを特徴とする請求項1記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項3】
前記高屈折率膜は、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ジルコニウム、および酸化ハフニウムの中から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1または2記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項4】
前記低屈折率膜は、酸化シリコン、およびフッ化マグネシウムの中から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項5】
前記積層膜における前記基板本体側から1層目となる屈折率膜の膜厚が5nm以上25nm以下であり、かつ前記基板本体側から6層目となる屈折率膜の膜厚が40nm以上55nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項6】
前記積層膜における前記基板本体側から3層目となる屈折率膜の膜厚が5nm以上45nm以下であり、かつ前記基板本体側から4層目となる屈折率膜の膜厚が5nm以上35nm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項7】
前記積層膜における前記基板本体側から6層目となる屈折率膜の前記基板本体側とは反対側の表面の表面粗さが0.5nm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項8】
前記積層膜における前記基板本体側から2層目となる屈折率膜と5層目となる屈折率膜との計2層の膜厚の合計が60nm以上165nm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項9】
前記積層膜における前記基板本体側から奇数層目となる計3層の高屈折率膜の膜厚の合計が60nm以上155nm以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項10】
前記積層膜における前記基板本体側から偶数層目となる計3層の低屈折率膜の膜厚の合計が80nm以上155nm以下であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項11】
前記積層膜の基板本体側とは反対側の表面にITO膜が設けられていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項12】
前記ITO膜の膜厚が10nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項11記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項13】
波長が450nm、550nm、および650nmの光の透過率が92%以上であることを特徴とする請求項11または12記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項14】
波長が400nm以上700nm以下の範囲の光の透過率の最大値と最小値との差で表される変動値が4%以下であることを特徴とする請求項11乃至13のいずれか1項記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項15】
前記基板本体が石英基板であることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項記載の液晶プロジェクタ用基板。
【請求項16】
対向して配置される一対の基板と、前記一対の基板間に配置される液晶とを有する液晶プロジェクタ用液晶パネルであって、
前記基板の一方が請求項1乃至15のいずれか1項記載の液晶プロジェクタ用基板であることを特徴とする液晶プロジェクタ用液晶パネル。
【請求項17】
被投影物に投影するための画像情報を形成する液晶パネルを有する液晶プロジェクタであって、
前記液晶パネルが請求項16記載の液晶プロジェクタ用液晶パネルであることを特徴とする液晶プロジェクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−266605(P2010−266605A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116735(P2009−116735)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【特許番号】特許第4499180号(P4499180)
【特許公報発行日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000231475)日本真空光学株式会社 (9)
【Fターム(参考)】