説明

液晶分散組成物およびその製造方法

【課題】 両親媒性物質(a)グリセリン脂肪酸モノエステルおよび(b)アルキル部に分岐鎖を有するPOEアルキル活性剤を組み合わせて、安定性に優れた特定組成を有する液晶分散組成物を提供すること。さらにこの液晶分散組成物物を化粧品、医薬部外品、医薬品等の有効成分のキャリアとして利用すること。
【解決手段】 両親媒性物質からなる逆立方両連続液晶相が分散剤を用いて水性溶媒中に微粒子状に分散した組成物であって、両親媒性物質が(a)グリセリン脂肪酸モノエステルおよび(b)アルキル部に分岐鎖を有するPOEアルキル活性剤の組み合わせからなる液晶分散組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶分散組成物、特にその温度安定性及び分散安定性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品、医薬品には様々な製剤が用いられている。例えば化粧品分野において、クリームや乳液はエマルション、化粧水や美容液は可溶化系またはマイクロエマルション、ファンデーションやメイクアップは分散系である。これらは使用性や効果の観点から、液状、ゾル、ゲル、ペースト、固形といった種々の形状の製品へと仕上げられる。このような製剤化技術において、両親媒性物質の会合体の利用が鍵となっている。両親媒性物質として合成の界面活性剤や天然の脂質、高分子、非炭化水素系化合物など多種多様な素材が用いられ選択の幅が広くなっている。ただし個々の両親媒性物質特性の背景にある一般性を統一的に捉えることは容易ではない。
【0003】
分子内に親水基と親油基を併せ持つ両親媒性分子の特徴は、油/水界面または気/液界面への吸着および配向である。このとき両媒質間の界面エネルギーを著しく低下させるものは界面活性剤として広く用いられている。また両親媒の分子は水中において、親水基同士、疎水基同士を互いに向け合い、ミセルや液晶などの分子集合体を形成することを特徴とする。両親媒性分子の濃度が高いとき、あるいは親水性と親油性のバランスが良好である場合、会合体は有限会合数のミセルから無限会合体の液晶へと変化する。
両親媒性物質が形成する液晶の構造には円筒状の会合体が六方晶系を構成しているヘキサゴナル(hexagonal)、両親媒性物質の二分子膜と水とが交互に配列したラメラ(lamella)、アルキル基を外側に向けた逆ヘキサゴナル(reverse hexagonal)、閉鎖集合体であるミセルが水(あるいは油)連続相中で立方晶を形成するキュービック(discontinuous cubic)液晶や脂質二重層が三次元的に連なった曲面を作る両連続のキュービック(bicontinuous cubic)液晶の存在が確認されている。
【0004】
逆立方両連続液晶相を形成する両親媒性物質の条件は非常に限られており、知られている物質は非常に少ない。HLBや臨界充填パラメーターなどの数値が会合構造を推定するときに利用されているが、完璧に予測することは難しい。なぜなら分子構造が変わらなくても温度や濃度の変化により会合体の構造が変わることや、溶媒の極性が変わり会合体の構造が変化する現象まで説明できないためである。
【0005】
また、逆立方両連続液晶相のような両親媒性物質の作る会合体は温度変化により、逆立方両連続液晶相から逆ヘキサゴナル相、L3相、ラメラ相などに相転移を起こした場合、内部に保持されている生理活性物質が遊離するなど構造中の粒子の損失を招き、期待されるカプセルの機能の喪失をもたらす。従って、限られた成分によって形成される逆立方両連続液晶相を使って、実用上安定なカプセル組成物を調製することは困難であった。
【0006】
従来、薬物を内包するカプセル化技術としてリポソームなどが知られている(例えば特許文献1参照)。リポソームは、レシチンやホスファチジルイノシトールのようなリン脂質によって作られるラメラ液晶が小胞体を形成して分散されたものであり、その膜内及び内水相に薬剤等を内包し得るカプセル技術である。しかしながら、コロイド化学的に不安定な場合が多く、リポソーム粒子同士の凝集や融合、粒子径の増大などが起こり、安定性に問題があった。また、リポソームは小胞体内部が水性相であるため水溶性成分は内包できるが、油溶性成分を内包することは困難であった。
【0007】
薬物担体として立方液晶相または逆転六方液晶相を含有する組成物がある(例えば特許文献2参照)。しかしながら、この系の組成物は分散系ではなく、バルク状態の液晶を利用している。バルクの液晶は、化粧水など低粘度化粧料への配合することが困難であり、薬物担体として利用する上で、応用範囲が制限される。
【0008】
また、立方晶系または六方晶系の液晶相、またはL3液晶相の形状の非層状内相、および液晶またはL3層状外相から成る粒子分散物がある(例えば、特許文献3参照)。そのような構造は、モノオレインおよび水またはモノオレイン、ホスファチジルコリンおよび水を一緒にして均一な液晶相を形成し、次にこれを、溶媒および一般的に界面活性剤、例えば両親媒性ブロックポリマーの存在中で壊して粒子分散物を形成することにより得られる。
しかしながら、モノオレインの融点は35℃付近であり、この分散物は低温で結晶が出現してしまい不安定となる。このような結晶化現象は、カプセル内包物の徐放を妨げてしまう。
【0009】
また、フィタントリオールに基づく立方晶ゲル粒子の水性安定分散物も存在する(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、フィタントリオールについては“Langmuir 2003,19,9562-9565”に記載されている相図より明らかなように、40℃付近で逆ヘキサゴナル相へ相転移をするため、高温における安定性が十分ではない。このような相転移現象は構造中の粒子の損失を招き、期待されるカプセルの機能の喪失をもたらす。
【0010】
【特許文献1】特開平4−208216号公報
【特許文献2】特公平5−34332号公報
【特許文献3】特表平7−502197号
【特許文献4】特開平8−40823号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記従来技術において、液晶を含む分散組成物が様々に生理活性物質を内包するカプセル化技術への応用が試みられてきたが、良好な安定性を有しながら期待されるカプセル機能を保持することが難しく、いずれも実用化の際には問題点が存在していた。
本発明は前記従来技術の課題に鑑み行われたものであり、温度安定性及び分散安定性に優れた液晶分散組成物、特に化粧品、医薬部外品、医薬品等の有効成分のキャリアであるキューボソームのカプセル組成物として使用する液晶分散組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために本発明者らが鋭意検討を進めた結果、特定の2種の両親媒性物質を組み合わせたときに得られる逆立方両連続液晶相が、分散剤を用いて水性溶媒中に微粒子状に安定に存在することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明にかかる液晶分散組成物は、両親媒性物質の(a)グリセリン脂肪酸モノエステルおよび(b)アルキル部に分岐鎖を有するPOEアルキル活性剤を組み合わせることで形成される逆立方両連続液晶相が分散剤を用いて水性溶媒中に微粒子状に分散していることを特徴とする。
【0013】
本発明にかかる液晶分散組成物において、逆立方両連続液晶相を形成する両親媒性物質の少なくとも1つが、モノイソステアリン酸グリセリンおよび/またはモノオレイン酸グリセリンであることを特徴とする((a)成分)。
さらに、両親媒性物質の少なくとも1つが、POEモノイソステアリン酸グリセリンおよび/またはPOEイソステアリルエーテルであることを特徴とする((b)成分)。
【0014】
また、前記両親媒性物質の少なくとも1つに選択され得るPOEモノイソステアリン酸グリセリンのポリオキシエチレン部のモル数が5以上25以下であることを特徴とする。
前記両親媒性物質の少なくとも1つに選択され得るPOEイソステアリルエーテルのポリオキシエチレン部のモル数が10以上25以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明にかかる液晶分散組成物において、逆立方両連続液晶相を形成する両親媒性物質(a)成分と(b)成分の割合が9:1〜1:9であり、さらに両親媒性物質(a)成分と(b)成分の合計量の占める割合が、液晶分散組成物全量に対して0.1〜10質量%であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる液晶分散組成物において、組成物中に分散した微粒子の平均粒子径が0.02〜0.5μmであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる液晶分散組成物において、組成物の透明度が5以上であることを特徴とする。
【0018】
本発明中の逆立方両連続液晶の分散に用いられる分散剤は、陰イオン性界面活性剤であることを特徴とする。
【0019】
本発明にかかる液晶分散組成物において、液晶相の微粒子が生理活性物質を内包することを特徴とする。すなわち、化粧品、医薬部外品、医薬品等の有効成分のキャリアであるキューボソームのカプセル組成物としての機能を有することである。
【0020】
本発明にかかる液晶分散組成物は、両親媒性物質として(a)グリセリン脂肪酸モノエステルおよび(b)アルキル部に分岐鎖を有するPOEアルキル活性剤を組み合わせることから調製される、生理活性物質を内包した逆立方両連続液晶相を高圧乳化機にて粉砕し、分散剤を用いて水溶液中に液晶相を分散させて製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、液晶分散組成物は温度安定性及び分散安定性に優れた組成物となり、これを使用して温度及び分散に対する安定性に優れた化粧料を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明にかかる液晶分散組成物は、両親媒性物質が形成する逆立方両連続液晶相が分散剤を用いて水性溶媒中に微粒子状に分散した組成物であって、両親媒性物質が(a)グリセリン脂肪酸モノエステルおよび(b)アルキル部に分岐鎖を有するPOEアルキル活性剤の組み合わせであることを特徴とする。
【0023】
本発明により水性溶媒中に分散される逆立方両連続液晶相を形成するグリセリン脂肪酸モノエステルは特に限定されない。グリセリン脂肪酸モノエステルを構成する脂肪酸としては、炭素数8〜24の飽和又は不飽和の脂肪酸が好ましい。また、直鎖状又は分岐状いずれでも構わない。脂肪酸の具体例としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、2−パルミトイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレイン酸、アラキドン酸、イソステアリン酸、1,2−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。炭素数12〜20脂肪酸が特に好ましく、中でもオレイン酸、イソステアリン酸が好ましい。また、グリセリン脂肪酸モノエステルは水酸基が残っているものが好ましく、特にモノグリセリンエステルが好ましい。本発明において好ましいグリセリン脂肪酸モノエステルは、炭素数12〜20の脂肪酸グリセリンであり、特にモノオレイン酸グリセリン、モノエライジン酸グリセリン、モノイソステアリン酸グリセリンがHLBや臨界充填パラメーターから推測して好ましいと考えられる。グリセリン脂肪酸エステルは、1種または2種以上が任意に選択されて配合される。
【0024】
本発明において、水性溶媒中に分散されるアルキル部に分岐鎖を有するPOEアルキル活性剤は特に限定されない。構造中に分岐鎖を有すると、それに相応する炭素数からなる分岐鎖を有しない物質よりも一般に融点が低くなる。従って、分岐鎖を有する物質を含む両親媒性物質が形成する液晶組成物は、特に低温における安定性が向上したものとなることが期待できる。アルキル部に分岐鎖を有するPOEアルキル活性剤としては、POEイソステアリルエステルが望ましい。さらにPOEイソステアリルエステルは水酸基が残っているものが好ましく、特にPOEモノイソステアリン酸グリセリンが好ましい。POE基をモル数5以上25以下であると逆立方両連続液晶相がやや親水化され、分散安定性が向上するため特に好ましい。
【0025】
また、アルキル部に分岐鎖を有するPOEアルキル活性剤としては、POEイソステアリルエーテルが好ましい。POE基はモル数10以上25以下であると逆立方両連続液晶相がやや親水化され、分散安定性が向上するため特に好ましい。
【0026】
さらに、本発明にかかる液晶分散組成物において両親媒性物質(a)成分であるグリセリン脂肪酸エステルと(b)成分であるPOEアルキル活性剤の割合は9:1〜1:9であることが好ましい。(a)成分または(b)成分のいずれかのみを使用した場合、安定性が低下してしまう。両者を各々の性質を発揮できるような前記の配合比で組み合わせることで、本発明にかかる液晶分散組成物を調製することができる。
【0027】
本発明の組成物中での両親媒性物質の占める割合は、液晶分散組成物全量に対して0.1〜10質量%が好ましい。0.01質量%未満では使用時に有効な効果が得られず、10質量%を超えると凝集や合一が起こりやすくなり、安定な分散物が得られない。
【0028】
本発明において、逆立方両連続液晶相とは立方体状液晶相の形を有する、光学的に等方性を示す透明ゲルを意味する。光学的に等方性であることは、偏光板2枚を直行させた間にサンプルを置いて光が透過しないことで確認できる。この立方体状相は近接しているかつ熱力学的に安定な三次元網状構造を形成する別個の親水性領域及び親油性領域が、2つの極が存在するような状態に構成されている。親水性領域と親油性領域の配列に応じて、立方晶液晶相は正常型と逆転型が存在し、本発明で使用される立方液晶相は、その種々の形式の立方体状相を有するゲルに分類されるものを意味する。この構造はX線小角散乱測定及び偏光板による光学的等方性の確認などの手法(Jonas Gustafsson . Langmuir (1997), 13, 6964-6971)や、凍結レプリカ法による電子顕微鏡観察を行うことで同定できる。
【0029】
本発明にかかる逆立方両連続液晶相の微粒子の平均粒子径は0.02〜0.5μmが好ましい。0.5μmを超えると、凝集や合一などが起こり、粒子の安定性が低下する場合がある。微粒子の粒子径は動的光散乱、レーザー回折などを用いて測定され、例えば大塚電子製動的光散乱光度計で測定することができる。
【0030】
本発明の液晶分散組成物の透明度は5以上が好ましく、5未満では凝集や合一が起こり分散安定性が悪くなる。本発明における透明度とは、Machbeth coloreye-7000Aを用いて測定し、光を純水に透過させたときの透明度を100とし、この透過光がないときの透明度を0としたときの透過光の強度を示す値である。
【0031】
本発明中の液晶の分散に用いられる分散体は、微粒子の界面に吸着し、界面張力を低下させることで粒子を安定化させている。分散体の種類は特に限定されないが、好ましくは陰イオン性界面活性剤である。分散剤が陰イオン性の場合は、静電的反発力によって粒子同士の反発が強まり、本組成物の安定性が向上する。
【0032】
本発明に用いる陰イオン界面活性剤としては、例えば、セッケン用素地、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等の脂肪酸セッケン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸K等の高級アルキル硫酸エステル塩;POEラウリル硫酸トリエタノールアミン、POEラウリル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸エステル塩;ラウロイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシン酸;N−ミリストイル−N−メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸メチルタウリッドナトリウム、ラウリルメチルタウリッドナトリウム等の高級脂肪酸アミドスルホン酸塩;POEオレイルエーテルリン酸ナトリウム、POEステアリルエーテルリン酸等のリン酸エステル塩;ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、モノラウロイルモノエタノールアミドPOEスルホコハク酸ナトリウム、ラウリルポリプロピレングリコールスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩、リニアドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リニアドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、リニアドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N−ステアロイルグルタミン酸ジナトリウム、N−ミリストイル−L−グルタミン酸モノナトリウム等のN−アシルグルタミン酸塩;硬化ヤシ油脂肪酸グリセリン硫酸ナトリウム等の高級脂肪酸エステル硫酸エステル塩;ロート油等の硫酸化油;POEアルキルエーテルカルボン酸、POEアルキルエーテルカルボン酸塩、POEアルキルアリルエーテルカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、二級アルコール硫酸エステル塩、高級脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、ラウロイルモノエタノールアミドコハク酸ナトリウム、N−パルミトイルアスパラギン酸ジトリエタノールアミン、カゼインナトリウム等が挙げられる。好ましくはPOEラウリル硫酸トリエタノールアミン、POEオレイルエーテルリン酸ナトリウム、POEアルキルエーテルカルボン酸、POEアルキルエーテルカルボン酸塩、POEアルキルアリルエーテルカルボン酸塩であり、さらに好ましくはPOEアルキルエーテル酢酸塩、POEアルキルエーテルリン酸塩、POEアルキルエーテル硫酸塩である。
【0033】
本発明の組成物には生理活性物質を配合することができる。前記生理活性物質として、例えば、化粧料、医薬部外品、医薬品に利用される、水溶性薬剤、油溶性薬剤等がある。
【0034】
水溶性薬剤としては、例えば、ハイドロキノン配糖体及び誘導体、アスコルビン酸及びその誘導体、トラネキサム酸およびその誘導体、サリチル酸誘導体、パントテン酸誘導体等がある。
【0035】
また、本発明は、前記生理活性物質が油溶性薬剤であることを特徴とする組成物を提供するものである。リポソーム等従来の液晶分散組成物を利用したカプセルは、配合しようとする生理活性物質が油溶性薬剤の場合には安定して配合出来ないという欠点があった。本発明にかかる液晶分散組成物は、親水性および親油性の両チャネルが存在する逆立方両連続液晶を利用することにより、油溶性薬剤も安定に内包することが可能となり、まさに上記従来の欠点を解決した発明である。
【0036】
油溶性薬剤としては、例えば、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、リボフラビン酪酸エステル、ジカプリル酸ピリドキシン、ジパルミチン酸ピリドキシン、ジラウリン酸ピリドキシン、ジパルミチン酸アスコビル、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、トコフェロール類、酢酸トコフェロール、メナジオン、ニコチン酸ベンジル、トリクロロカルバニリド、トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル、グリチルレチン酸ステアリル、γ−オリザノール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0037】
本発明の液晶分散組成物は、特殊な製造方法によらずに通常の高圧乳化機にて逆立方両連続液晶相を破砕して微粒子化するという簡便な方法にて得られるという利点を有する。
高圧乳化機は、100〜1000bar の高圧下で液体をノズルから噴射させることによって乳化を行うものであり、パス回転数による粒子径コントロールが容易であることから本発明組成物を調製する手段とするのに有効である。具体的には、マイクロフルダイザー、ナノマイザー、マントンゴウリン(いずれも商標名)等の市販品を挙げることができる。これらの市販されている高圧乳化機の中でも、ナノマイザーは連結溝を有するノズルから高圧下で油性成分と水性成分とを衝突させて微細な乳化粒子を得る装置であり、本発明にかかる乳化組成物を調製する際の乳化手段として特に好ましい乳化機である。
【0038】
本発明の液晶分散組成物を化粧料、医薬部外品、医薬品のキャリアとして利用する場合には、目的に応じて、任意の配合成分をさらに配合して常法によって、製造される。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお本発明はこれに限定されるものではない。実施例の配合量は特に規定がない限り、すべて組成物全量に対する質量%である。以下の組成物は化粧料用基剤である。
液晶分散組成物の調製法および確認法
本発明に用いられる液晶分散組成物の調製法および液晶の確認法について詳述する。
【0040】
(調製例)モノイソステアリン酸グリセリンおよびPOE(10)イソステアリルエーテルを水と混合した後、ディスパー(特殊機化製)で約1分間前処理し、高圧乳化機(500kg/cm)で5パス処理した。調製した液晶分散物が逆立方両連続液晶相であることはX線小角散乱測定及び偏光版による光学的異方性の確認などの手法によって同定することができる(Jonas Gustafsson Langmuir 1997,13,6964-6971)。
【0041】
温度変化に対する安定性の評価法
−5〜40℃において、1ヶ月後に外観の変化を観察することにより、分散体の安定性を目視により評価した。
(判定基準)
◎ : 全く分離物が認められず、透明度も変化しない。
○ : ほとんど分離物が認められず、透明度も変化しない
△ : 透明度が少し低下し、若干分離物が認められる。
× : 分離物が認められ、透明度も低下する。
【0042】
分散安定性の評価法
室温で1ヶ月後に外観の変化を観察することにより、分散体の安定性を目視により評価した。
(判定基準)
◎ : 全く凝集物が認められず、透明度も変化しない。
○ : ほとんど凝集物が認められず、透明度も変化しない。
△ : 透明度が少し低下し、若干凝集物が認められる。
× : 凝集物が認められ、透明度も低下する。
【0043】
使用感の評価法
(判定基準)
専門パネル10名により使用感の評価を行った。
○ : 10人中5人以上が良いと評価した場合
△ : 10人中3〜4人が良いと評価した場合
× : 10人中0〜2人が良いと評価した場合
【0044】
次に、前記調製法により得られた試験例1−1の乳化組成物と、異なる両親媒性物質を用いて同様の調製法により得られる乳化組成物の試験例1−2〜1−6の組成と、その評価を表1に示す。
(試験例1−1)

(試験例1−2)

(試験例1−3)

(試験例1−4)

(試験例1−5)

(試験例1−6)

【表1】

【0045】
前記表1に示す結果から明らかなように、試験例1−1で示されるモノイソステアリン酸グリセリンとPOEイソステアリルエーテルの組み合わせの両親媒性物質が形成する会合状態は逆立方両連続液晶相であり、安定性が優れた液晶分散組成物が得られた。一方、試験例1−2のように、モノオレイン酸グリセリンとPOEオレイルエーテルの両親媒性物質が形成する会合状態も逆立方両連続液晶相となり、試験例1−1に比べ若干劣るものの、ある程度の安定性を保持した。
薬物担体として従来利用されている両親媒性物質を含む組成物である試験例1−3及び1−4は会合状態が逆立方両連続液晶であるが、温度変化により容易に相転移が起こってしまい、安定性が劣るものであった。相転移は構造中の粒子の損失を招き、カプセル機能としての利用は期待できない。
リン脂質を利用した試験例1−5はラメラ液晶の小胞体を形成し、内水相に薬剤を内包し得るカプセルとして期待できるものの安定性が劣るものであった。また逆ヘキサゴナル液晶相を含む組成物である試験例1−6は、安定性に関しては良好な結果を示したが、疎水性の高い会合体であるため、非常に油っぽく使用感が劣るものであった。
そこで、本発明者らは、上記検討の中で安定性が認められた試験例1−1の液晶分散組成物に着目し、逆立方両連続液晶を形成し、相転移の起こりにくい安定性に優れた液晶分散組成物を得るために、両親媒性物質の検討を進めた。
【0046】
【表2】

※フィタントリオール(商品名):テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン(成分名)
【0047】
上記表2に示すように、二種の両親媒性物質を種々に組み合わせた結果の一例を示す。
一種の両親媒性物質をPOE(10)イソステアリルエーテルに固定し、もう一種の両親媒性物質をHLBの値が比較的小さいものに変えたところ(試験例2−1及び2−2)、前記試験例1−1と同様の両親媒性物質の組み合わせである試験例2−5と比較して安定性が低下した。
また、一種の両親媒性物質をモノイソステアリン酸グリセリンに固定し、もう一種の両親媒性物質をPOE(20)モノイソステアリン酸ソルビタン(試験例2−3)に変更したところ、高温における安定性が低下した。POE(5)モノイソステアリン酸グリセリンに変えた試験例2−4は同等の安定性を維持することができた。
以上の結果より、安定性に優れた液晶分散組成物を与える逆立方両連続液晶相を形成させる両親媒性物質の組み合わせは、かなり限定されることが理解される。
引き続き本発明者らは、使用する両親媒性物質の検討を進めた。
【0048】
【表3】

【0049】
前記表3に示すように、一種の両親媒性物質をグリセリン脂肪酸モノエステル、もう一種をポリオキシエチレン構造を有するアルキル活性剤とし、各々について安定性との相関を検討した。
その結果、不飽和脂肪酸のモノグリセリドに変えた試験例3−1は飽和脂肪酸グリセリドと同等の安定性を維持するこができた。
また、一種の両親媒性物質であるPOE(5)モノイソステアリン酸グリセリンを分岐鎖を含まないものに変えた試験例3−2では低温における安定性が低下した。
さらに、良好な安定性を与える2種の両親媒性物質において、各々一方のみを用いた場合(試験例3−3、3−4)、安定性を維持することが出来なかった。
以上の結果からも、限られた2種の両親媒性物質の組み合わせが、望む安定性を有した液晶分散組成物を与えることが理解される。
次に本発明者らは、ポリオキシエチレン構造を有する一種の両親媒性物質に関し、ポリオキシエチレン構造の鎖長の検討を行った。
【0050】
【表4】

【0051】
前記表4に示すように、一種の両親媒性物質をモノオレイン酸グリセリンに固定し、POEモノイソステアリン酸グリセリンの鎖長を変えて安定性を試験した。
その結果、鎖長が3である試験例4−1は高温における温度安定性が若干低下した。さらに鎖長を長くし、鎖長が5になると、試験例4−2の結果に示されるように、温度安定性、分散安定性が共に良好になった。鎖長25まではこのような優れた乳化組成物が得られたが(試験例4−3、4−4)、鎖長を30にすると(試験例4−5)、温度変化により相転移が起こり、温度安定性が若干低下した。
続いて、POEイソステアリルエーテルにおけるポリオキシエチレン構造の鎖長の検討を進めた。
【0052】
【表5】

【0053】
前記表5に示すように、一種の両親媒性物質をモノイソステアリン酸グリセリンに固定しPOEイソステアリルエーテルの鎖長を変えて安定性を試験した。その結果、鎖長が5である試験例5−1及び、鎖長が8である試験例5−2は高温における温度安定性が若干低下した。さらに鎖長を長くし、鎖長が10になると、試験例5−3の結果に示されるように、温度安定性、分散安定性が共に良好になった。鎖長25まではこのような優れた乳化組成物が得られたが(試験例5−4、5−5)、鎖長を30にすると(試験例5−6)温度変化により相転移が起こり、安定性が若干低下した。
以上の表4及び表5の結果より、ポリオキシエチレン構造を有する両親媒性物質のポリオキシエチレン鎖長において、安定性を特に良好に維持するのに適切な値は、POEモノイソステアリン酸グリセリンに関しては5以上25以下であり、POEイソステアリルエーテルに関しては10以上25以下であると判断できる。
次に安定性に優れた液晶分散組成物を得るために使用する、二種の両親媒性物質の配合比に関して検討を行った。
【0054】
【表6】

【0055】
前記表6に示すように、使用するニ種の両親媒性物質をモノイソステアリン酸グリセリンとPOE(5)モノイソステアリン酸グリセリンに固定し、それらの配合比及び配合量を変えて安定性を検討した。
その結果、(a)と(b)の配合比が1:10(試験例6−1)である時、分散安定性が若干低下し、10:1(試験例6−4)である時、低温安定性及び分散安定性が若干低下した。一方、前記範囲の間をとるような試験例6−2及び6−3においては優れた温度安定性、分散安定性を示した。従って、両親媒性物質(a)と(b)のいずれか一方の配合比が極端に大きくならないような配合比が好ましいことが理解され、両親媒性物質(a)と(b)=9:1〜1:9であるときに、安定性に優れた組成物が得られると判断できる。
また両親媒性物質(a)と(b)の合計配合量は、全組成分量に対し、10質量%を超えると(試験例6−5)分散安定性が低下することが分かった。合計配合量が0.1質量%であるときは(試験例6−6)逆立方両連続液晶相を形成し好ましい液晶分散組成物が得られたが、配合量がそれよりも少なくなると、液晶を形成する上で有効な効果が期待できない。従って、両親媒性物質の占める割合は液晶分散組成物全量に対し0.1〜10質量%であることが好ましいと判断できる。
次に、好ましい組み合わせの両親媒性物質が形成する逆立方両連続液晶を、良好な状態で水溶液中に分散させるための条件検討を行った。
【0056】
【表7】

【0057】
前記表7に示すように、分散剤がポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレングリコール(40)、POE(60)硬化ヒマシ油である試験例7−1、7−2では安定性が良好ではないが、試験例7−4、及び7−5のように陰イオン界面活性剤を分散剤として用いると、分散安定性が良好であった。また陰イオン活性剤の中でもラウリル硫酸ナトリウムを用いると分散性が強く粒子径が小さくなりすぎてしまい、カプセルとしての機能を十分に果たせなくなる可能性がある。POEラウリルエーテル酢酸ナトリウムを用いた場合に最も安定であり、且つ適切な粒子径となった。
また、分散剤を使用しない場合には、安定性は低下してしまう(試験例7−3)。
以上の結果から、液晶分散組成物調製の際に、分散剤として陰イオン界面活性剤を使用すると、より分散安定性が優れた組成物が得られることが理解できる。
次に、逆立方両連続液晶相を高圧乳化機にて処理するときに、処理時間により変化する粒子径と安定性との相関について検討を行った。
【0058】
本発明における平均粒子径の測定は動的光散乱法により測定されたものであり、具体的にはZETASIZER Nano ZS(シスメックス製)により測定した。
【表8】

【0059】
前記表8に示すように、高圧乳化機による処理時間が比較的短かった試験例8−3は分散した微粒子の平均粒子径が0.8μmであり、分散安定性が劣る液晶分散組成物となる。これは粒子径が比較的大きいため、粒子同士の凝集、合一が起こるためである。従って、試験例8−1、および8−2のように平均粒子径が0.02〜0.5μmであると分散安定性に優れた液晶分散組成物が得られると理解できる。
さらに本発明者らは、逆立方両連続液晶相を高圧乳化機にて処理するときに、処理時間により変化する透明度と安定性との相関について検討を行った。
【0060】
【表9】

【0061】
前記表9に示すように、高圧乳化機の処理時間を長くすることにより透明度が増し、試験例9−2、9−3では分散安定性が優れたものとなった。
一方、処理時間が短かった試験例9−1では透明度が2であり、粒子の凝集が観察され分散安定性は低下した。
従って、分散安定性に優れた液晶分散組成物を得るためには、透明度が5以上となるように、高圧乳化機の処理時間を調整する必要があることが理解できる。
以上のように、温度安定性及び分散安定性に優れた液晶分散組物を与える条件を見出した本発明者らは、その組成物中に生理活性物質を内包させた化粧水の調製を実施した。
【0062】
薬剤配合化粧水の調製方法
両親媒性物質及び油溶性薬剤を混合した後、水性成分(水溶性薬剤、保湿剤、防腐剤、緩衝剤、イオン交換水など)を混合し、ディスパー(特殊機化製)で前処理した後、高圧乳化機(500kg/cm)により処理することで調製した。
【0063】
【表10】

【0064】
前記表10に示すように、本発明にかかる液晶分散組成物を利用した薬剤配合化粧水が、温度安定性及び分散安定性に優れた化粧料であることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の液晶分散組成物は安定性および使用感が良好な分散体の組成物であり、特に化粧品、医薬部外品、医薬品の有効成分のキャリアとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両親媒性物質が形成する逆立方両連続液晶相が分散剤を用いて水性溶媒中に微粒子状に分散した組成物であって、両親媒性物質が(a)グリセリン脂肪酸モノエステルと(b)アルキル部に分岐鎖を有するPOEアルキル活性剤の組み合わせであることを特徴とする、液晶分散組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、両親媒性物質(a)がモノイソステアリン酸グリセリンおよび/またはモノオレイン酸グリセリンであることを特徴とする液晶分散組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物において、両親媒性物質(b)がPOEモノイソステアリン酸グリセリンおよび/またはPOEイソステアリルエーテルであることを特徴とする液晶分散組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の組成物において、両親媒性物質(b)がPOEモノイソステアリン酸グリセリンであって、EO鎖長が5以上25以下であることを特徴とする液晶分散組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の組成物において、両親媒性物質(b)がPOEイソステアリルエーテルであって、EO鎖長が10以上25以下であることを特徴とする液晶分散組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の組成物において、両親媒性物質(a)成分と(b)成分の割合が9:1〜1:9であることを特徴とする液晶分散組成物。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の組成物において、組成物中における両親媒性物質の占める割合が0.1〜10質量%であることを特徴とする液晶分散組成物。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の組成物において、組成物中に分散した微粒子の平均粒子径が0.02〜0.5μmであることを特徴とする液晶分散組成物。
【請求項9】
請求項1〜8いずれかに記載の組成物において、組成物の透明度が5以上であることを特徴とする液晶分散組成物。
【請求項10】
請求項1〜9いずれかに記載の組成物において、分散剤が陰イオン性界面活性剤であることを特徴とする液晶分散組成物。
【請求項11】
請求項1〜10いずれかに記載の組成物において、液晶相の微粒子が生理活性物質を内包していることを特徴とする液晶分散組成物。
【請求項12】
両親媒性物質として(a)グリセリン脂肪酸モノエステルおよび(b)アルキル部に分岐鎖を有するPOEアルキル活性剤を組み合わせることから調製される逆立方両連続液晶相において、生理活性物質が内包された該液晶相を高圧乳化機にて破砕し、分散剤を用いて水溶液中に液晶相を分散させたことを特徴とする液晶分散組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−45762(P2007−45762A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232555(P2005−232555)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】