説明

液晶形成用乳化剤およびこれを含有する液晶形成乳化組成物並びに化粧料

【課題】角質細胞間脂質に類似の液晶構造を形成し、皮膚に塗布されている間も液晶構造を安定に保持して、高いスキンケア効果を発揮するとともに製剤化が容易な、より好ましくはポリオキシエチレン系界面活性剤を含有しない新規液晶形成用乳化剤、それを含有する液晶形成乳化組成物および化粧料を提供することを課題とした。
【解決手段】ステロール、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびレシチンを必須成分として含有する新規液晶形成用乳化剤を含有した液晶形成組成物および化粧料は、皮膚に塗布した後も長時間にわたり角質細胞間脂質と類似の液晶構造を形成し、エマルション粒子界面膜に多量の水分を保持することで、優れたスキンケア効果や皮膚状態改善効果を示すことを見出し、課題を解決することが出来た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶形成用乳化剤およびそれを含有する液晶形成乳化組成物並びに化粧料に関し、さらには、液晶構造が皮膚上で安定に保たれスキンケア効果に優れた化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
肌を過乾燥などの過酷な外部環境から保護し、かつ、荒れ肌や乾燥肌などを予防あるいは改善し、さらには、加齢による皮膚の老化を防止する目的で、各種の油性原料を界面活性剤により乳化し、加えてグルセリン、ヒアルロン酸あるいはアミノ酸などの保湿剤や、ビタミンEなどの皮膚栄養剤を配合した化粧料が広く使用されてきた。
【0003】
これらの化粧料は、油および水を含む乳化層が皮膚上に塗布されることで、外部の刺激から皮膚を保護し、皮膚内部からの水分の蒸散を防ぐとともに、肌に一定量の水分を与えることで、荒れ肌や乾燥肌の改善に寄与している。
【0004】
ただし、これら従来技術による化粧料は、以下の点で不十分である。
(1)従来の化粧料は、主に、油が界面活性剤により乳化ミセルを形成し、連続相である水相に分散した水中油型(以下O/W型)構造であるので、これらを皮膚に塗布した場合、連続相である水は、短時間で蒸発飛散してしまい、十分な保湿効果を肌に及ぼすことができない。
(2)水分の蒸発飛散にともない乳化物が破壊されるため、含有する保湿剤や皮膚栄養剤を十分に皮膚内部へ浸透させることができず、望むべき効果を発揮させることができない。
(3)O/W型の従来の化粧料に使用される乳化剤は、親水性が高く、得られる乳化物は、水に溶解しやすい(耐水性が悪い)。したがって、これら高親水性の乳化剤で調製された化粧料を皮膚に塗布した場合、汗などで流れやすく、効果の持続性に乏しい。
(4)一方、化粧料には、連続相である油相に水が分散した油中水型(以下W/O型)構造も見られるが、これは、肌に塗布した感触がオイリーであり、使用感に問題がある。
【0005】
近年これらの問題を解決する目的で、皮膚に対して親和性が大きく保湿効果や荒れ肌改善効果に優れた、角質細胞間脂質と類似の液晶構造をもつ液晶型の化粧料が提案されている。具体的には、天然あるいは合成のセラミドに高級脂肪酸、高級アルコール、糖脂質、コレステロールなどの両親媒性物質を組み合わせて、角質細胞間脂質に近い液晶構造を形成させる技術が開示されている(特許文献1)。
【0006】
この技術は、セラミドが層状の液晶構造(ラメラ液晶構造)を形成し、内部に水分を結合水として保持することで、角質細胞の接着や水分保持に寄与する特性を利用している(非特許文献1、2)。
【0007】
ただし、この技術には、以下に示す問題点があり、満足すべき結果が得られていない。
(1)セラミドは、天然品および合成品も含めて結晶化しやすく、かつ、一般に化粧料に使用されている油性原料や溶剤に溶けにくい。したがって、製剤化が困難であり、しかも、経時的に製剤中で結晶化し、品質を損なうなどの問題を生じる。
(2)セラミド自体には乳化力がなく、また、乳化物中で結晶として析出することが懸念され、これを解決するために、種々の親水性界面活性剤を使用する必要があり、それらの皮膚刺激性が懸念される。
(3)さらに、非常に高価である。
【0008】
その他に液晶組成物を化粧料に配合する特許として、親水性界面活性剤、ステロールおよびα−グリセリルアルキルエーテルが形成する発色性液晶組成物の技術が開示されている(特許文献2〜5参照)。しかしこれらは、発色することが特長であり、スキンケア効果については疑問である。
【0009】
また、一般に液晶構造を利用してスキンケア効果を高める技術においては、製剤が皮膚に塗布・適用されている間、その液晶構造を安定に保持していることが必要である。液晶構造をもつ化粧料は、エマルション粒子界面膜に多量の水分を保持する。エマルション粒子界面膜に保持されたエマルションは外相の水分よりも蒸散しにくいため、荒れ肌や乾燥肌の改善に寄与するが、皮膚上で液晶構造が消失すると、継続的な保湿効果の発現などの液晶化粧料に期待される機能が失われる。
【0010】
適用中に皮膚上で液晶構造を安定に保つ技術としては、ステロール、ポリオキシエチレンステロール、レシチンを必須成分として含有する液晶形成用乳化剤及びそれを用いた化粧料が開示されている(引用文献6参照)。しかしながら、この液晶形成用乳化剤を用いることで上記課題は解決するものの、この近年のポリオキシエチレン系界面活性剤に対する副生物の安全性の懸念や活性成分の失活等の問題から、ポリオキシエチレン系界面活性剤を用いない化粧料が望まれている。
【0011】
なお、ポリオキシエチレン系界面活性剤を用いない液晶形成に関する特許として、セラミド、スフィンゴリン脂質、スフィンゴ糖脂質、スフィンゴシン、グリセロリン脂質及びグリセロ糖脂質等の液晶を形成しやすい成分からなる液晶小滴の周囲に、ポリグリセリン脂肪酸エステル(界面活性剤)を配向して、多価アルコールを含む水性単体に液晶小滴が分散した形態であることを特徴とする皮膚外用製剤が開示されているが(引用文献7参照)、この製剤は液晶小滴の分散物であることから、油性成分を更に配合するためには、界面活性剤を添加するなど別の手段を用いる必要があるが、そのような手段を用いると液晶構造を保つことが困難になる。
【0012】
以上の通り、セラミドなどの高価でかつ製剤化のしにくい成分やポリオキシエチレン系界面活性剤を用いることなく、皮膚に塗布されている間も角質細胞間脂質に類似の液晶構造を保持することができる化粧料を簡便に製造することができ、かつ油性成分を配合して良好な乳化性能を併せ持つ液晶形成用乳化剤は全く知られてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平06−345633号
【特許文献2】特許2929318号
【特許文献3】特許3133399号
【特許文献4】特許2949451号
【特許文献5】特許2964272号
【特許文献6】特開2008−115162号
【特許文献7】特開2004−331594号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】The journal of investigative dermatology,vol.96(6),845−851(1991)
【非特許文献2】International journal of cosmetic science,19,143−156(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者等は上述の事情に鑑み鋭意研究した結果、驚くべきことに、POE系界面活性剤を利用に代えて、極めて疎油性の高いポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた本発明の液晶形成乳化剤を用いた乳化組成物は、単純にその液晶構造が非常に強固になるばかりでなく、温度変化に対する安定性が高く、液晶を形成する領域が飛躍的に広がることから、本液晶形成乳化剤を利用すれば、液晶構造に悪影響を及ぼすような成分が存在したり、一般的に液晶形成しにくい組成であっても安定な化粧料が得られることからバラエティー豊かな化粧料を提供できることを見出した。
【0016】
本発明は、皮膚に塗布されている間も角質細胞間脂質に類似の液晶構造を保持して、高いスキンケア効果を発揮するとともに、別途界面活性剤を加えず容易に製剤化が可能な、より好ましくは、ポリオキシエチレン系界面活性剤を含有しない液晶形成用乳化剤、それを含有する液晶形成乳化組成物および化粧料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本課題に対し、新規な化粧料を見出すために鋭意研究を行った結果、ステロール、ポリグリセリン脂肪酸エステルおよびレシチンを必須成分として含有する乳化剤を含有した組成物および化粧料は、皮膚上で角質細胞間脂質と類似の安定に液晶構造を形成し、エマルション粒子界面膜に多量の水分を保持することで、上記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、ポリオキシエチレン系乳化剤を用いることなく、皮膚に塗布されている間も角質細胞間脂質に類似の液晶構造を保持することができる化粧料を簡便に製造することができ、かつ乳化性能を併せ持つ液晶形成用乳化剤を提供することができる。更に、本発明の液晶形成乳化組成物または化粧料は、皮膚に塗布した後も液晶構造が安定に保たれ、エマルション粒子界面膜に多量の水分を保持することから、継続的な保湿効果が発現し、優れたスキンケア効果や皮膚状態改善効果を示した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に使用される(A)成分のステロールは、コレステロール、コレスタノール、ラノステロール、デヒドロコレステロールなどの動物性ステロール、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、エルゴステロールなどの植物性ステロール、ミコステロール、チモステロールなどの微生物由来のステロール類などが挙げられる。これらは、そのままでも、安定化のために水素添加などの化学処理を施されていてもよい。また、これらの1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で特に好ましいのは、コレステロール、コレスタノール、フィトステロール、フィトスタノールである。
【0020】
本発明に使用される(B)成分のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、炭素数12〜22の脂肪酸のエステルでHLBが9以上であるものが好ましい。具体的には、モノラウリン酸ヘキサグリセリル、モノラウリン酸デカグリセリル、モノミリスチン酸ヘキサグリセリル、モノミリスチン酸デカグリセリル、モノステアリン酸ヘキサグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリル、モノオレイン酸デカグリセリル、モノリノール酸デカグリセリルなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で特に好ましいのは、モノラウリン酸デカグリセリル、モノミリスチン酸デカグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリルである。
【0021】
本発明に使用される(C)成分としては、大豆レシチン、卵黄レシチン、水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチンなどのレシチン類、これらのレシチン類を酵素処理によりモノアシル体としたリゾレシチンおよびまたは水素添加リゾレシチン、ヒドロキシル化したヒドロキシレシチンなどを挙げることができる。また、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリンなどのレシチン中のリン脂質分画物もそれぞれ単品およびまたは混合して使用できる。これらの中で特に好ましいのは、大豆レシチン、水素添加大豆レシチンである。
【0022】
本発明において、(A)〜(C)成分の比率(質量比)は、(A)/(B)=70/30〜5/95が好ましく、より好ましくは、(A)/(B)=65/35〜15/85、さらに好ましくは、(A)/(B)=40/60〜20/80である。
【0023】
また、(A)成分と(B)成分の合計と(C)成分の比率(質量比)は、[(A)+(B)]/(C)=65/35〜97/3が好ましく、より好ましくは、[(A)+(B)]/(C)=78/22〜93/7、さらに好ましくは、[(A)+(B)]/(C)=80/20〜90/10である。この範囲において、液晶形成乳化組成物および化粧料がより安定に調製できる。
【0024】
本発明の液晶形成乳化剤は、(A)〜(C)成分のみで構成されても良く、あるいは油性原料を併用することもできる。(A)〜(C)成分の含有量は液晶形成乳化組成物全量または化粧料全量に対し、0.1〜30質量%を含有することが好ましい。より好ましくは、0.3〜20質量%、さらに好ましくは、0.5〜10質量%である。この範囲であれば液晶形成用乳化剤/スクワラン/水の系において、好ましいラメラ液晶やヘキサゴナル液晶が形成される。
【0025】
本発明の液晶形成用乳化剤が(A)〜(C)成分と油性原料とを併用する場合、両者の好ましい混合比率(質量比)は、油性原料/[(A)〜(C)成分の合計量]=10/0.1〜0.1/10、より好ましくは、10/0.3〜0.3/10、さらに好ましくは、10/0.5〜0.5/10である。
【0026】
油性原料は、一般に化粧品に使用される油性原料なら何れも好適に使用できる。具体的には、スクワラン、流動パラフィンなどの炭化水素類、オリーブ油、マカデミアンナッツ油、ホホバ油などの植物油、牛脂などの動物油、トリイソオクタン酸グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ミリスチン酸イソプロピル、イソオクタン酸セチル、パルミチン酸イソオクチルなどのエステル類、ジメチルシリコーン、フェニルメチルシリコーン、シクロメチコンなどのシリコーン類などが挙げられる。
【0027】
本発明の液晶形成用乳化剤は、(A)〜(C)成分や油性原料を予め融解混合して均一な混合物とし、それを攪拌しながら室温まで冷却することで固体状あるいはペースト状の組成物として得ることができる。また、使用時の操作性を考慮し、フレークまたはペレット状に加工しても良い。また、(A)〜(C)成分や油性原料の配合比率を調節して化粧料等の乳化状態や剤形を調製しようとするならば、化粧料等にそれぞれ単独で配合することもできる。
【0028】
本発明の液晶形成用乳化剤をフレークまたはペレット状に加工するのであれば、前記本発明の効果を損なわない範囲において、高級アルコール、アルキルグリセリルエーテル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステルなどが用いられる。
【0029】
本発明の液晶形成用乳化剤を含有する液晶形成乳化組成物および化粧料における液晶構造の有無は、液晶組成物を偏光顕微鏡で観察することで確認することができる。液晶組成物は、偏光顕微鏡での観察で、ラメラ液晶に独特の形状であるマルターゼクロス像が確認できる。また、樹脂泡埋超薄切法や凍結切片法による透過型電子顕微鏡(TEM)で液晶構造を確認することができる。
【0030】
本発明の液晶形成用乳化剤を含有する液晶形成乳化組成物および化粧料は、そのエマルション粒子界面膜中に多量の水分を保持していることが特徴であるが、その水分の存在は、水溶性蛍光物質であるカルセインを配合させて調製した液晶形成乳化組成物をゲルろ過クロマトグラフィで分離し、カルセイン溶解相を蛍光顕微鏡で観察することで確認できる。
【0031】
本発明の液晶形成乳化組成物および化粧料には、前記本発明の効果を損なわない範囲において、一般に化粧品に使用される界面活性剤、高級アルコール、アルキルグリセリルエーテル、脂肪酸、油性原料、活性成分、保湿成分、抗菌成分、粘度調整剤、色素、香料などを併用することができる。
【0032】
これらを例示すると、界面活性剤としては、POEソルビタンモノオレート、POEソルビタンモノステアレートなどのPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POEソルビットモノラウレート、POEソルビットモノオレートなどのPOEソルビット脂肪酸エステル類、POEグリセリンモノステアレート、POEグリセリンモノイソステアレート、POEグリセリントリイソステアレートなどのPOEグリセリン脂肪酸エステル類、POEモノオレート、POEモノイソステアレートなどのPOE脂肪酸エステル類、POEラウリルエーテル、POEオレイルエーテル、POEイソステアリルエーテル、POEステアリルエーテルなどのPOEアルキルエーテル類、POE・POPセチルエーテル、POE・POPデシルテトラデシルエーテルなどのPOE・POPアルキルエーテル類、ショ糖脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステルなどのノニオン界面活性剤、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウムなどの脂肪酸セッケン類、ラウリル硫酸ナトリウム、POEラウリル硫酸ナトリウムなどの硫酸エステル類、ラウロイルサルコシンナトリウム、ココイル−N−メチルタウリンナトリウム、ラウリルグルタミン酸ナトリウムなどのアシル化アミノ酸塩類、モノラウリルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩などのアニオン界面活性剤、第4級アンモニウム塩などのカチオン界面活性剤などであるが、本発明の課題より、酸化エチレン系界面活性剤は配合しないことがより望ましい。
【0033】
高級アルコールとしては、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、セトステアリルアルコールなど。
【0034】
アルキルグリセリルエーテルとしては、バチルアルコール、キミルアルコール、セラキラルコール及びそれらの脂肪酸エステルなど。
【0035】
脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、イソステアリン酸など。
【0036】
油性原料としては、上述したものなど。
【0037】
活性成分としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、テトライソパルミチン酸アスコルビル、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、エラグ酸、ルシノールなどの美白剤、アミノ酸などのNMF成分、水溶性コラーゲン、エラスチン、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、セラミドなどの肌荒れ防止剤、レチノール、ビタミンA酸などの抗老化剤や各種ビタミン類やその誘導体など。
【0038】
保湿成分としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0039】
本発明の液晶形成乳化組成物および化粧料を調製する際は、パドルミキサー、ホモミキサーなどの通常の乳化装置が使用できる。調製法は、予め、油性原料と(A)〜(C)成分を、50〜120℃で融解混合しておき、ホモミキサーなどで攪拌下、50〜80℃の温水を投入する方法、または、予め、油性原料と(A)〜(C)成分を、50〜120℃で融解混合しておいたものを、ホモミキサーなどで攪拌下、50〜80℃の温水中に投入する方法などが挙げられる。
【0040】
本発明の液晶形成乳化組成物および化粧料は、保湿クリーム、エモリエントクリーム、マッサージクリーム、保湿美容液、保湿ローション、エモリエント乳液などのスキンケア化粧料、または、軟膏などの皮膚治療薬などに好適に使用できる。
【0041】
ところで、POE系界面活性剤を利用に代えて、極めて疎油性の高いポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた本発明の液晶形成乳化剤を用いた乳化組成物は、単純にその液晶構造が非常に強固であるばかりだけでなく、温度変化に対する安定性が高く、液晶を形成する領域が飛躍的に広がる。このことは、液晶形成乳化剤を含有する化粧料を調製するにあたり、他に追加してもよい成分の自由度が高まることを意味する。 すなわち、POE系界面活性剤に代えて、極めて疎油性の高いポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた本発明の液晶形成乳化剤は、液晶形成能が高くかつ、その液晶形成領域が広いことから、本液晶形成乳化剤を利用すれば、液晶構造に悪影響を及ぼすような成分が存在したり、一般的に液晶形成しにくい組成であっても安定な化粧料が得られることからバラエティー豊かな化粧料を提供できる。
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
(1)液晶形成用乳化剤の調製
下記表1に示す液晶形成用乳化剤を調製した。すなわち、ヒーターおよび温度調節器の付いたステンレス製混合容器中で、表1に記載の成分を75〜80℃で攪拌しながら混合、溶解後、常温まで冷却し液晶形成用乳化剤を得た。
【0044】
(2)液晶形成乳化組成物の調製
下記表1に示す液晶形成用乳化剤を用いて、下記表2に示す液晶形成乳化組成物を調製した。すなわち、減圧装置とヒーターおよび温度調節器の付いた10リッターかき取り攪拌付きステンレス製ホモミキサー中で、水以外の成分を85〜90℃で混合、溶解し、減圧下(30mmHg以下)、攪拌しながら(攪拌速度5000rpm)、これに同温度の水を徐々に添加した。さらに、同条件で30分間攪拌し、室温まで冷却し液晶形成乳化組成物を得た。液晶形成乳化組成物の調製スケールは、5Kgとした。
【0045】
(3)液晶構造の確認
液晶形成乳化組成物をスライドガラス上に薄く延ばした試料を、ホットステージ付き偏光顕微鏡を用いて、25℃と皮膚温度付近の32℃で観察を行った(倍率200倍)。試料のマルターゼクロス像を観察し、マルターゼクロス像を確認できるものを◎、わずかに確認できるものを○、できないものを×とした。
【0046】
(4)液晶形成乳化組成物のエマルション粒子界面膜の水分の確認
液晶形成乳化組成物を調製し、エマルション粒子界面膜の水分の存在を確認した。エマルション粒子界面膜の水分の確認は、表2に示した精製水と水溶性蛍光物質であるカルセインを1%置き換えて調製し、ゲルろ過クロマトグラフィで分離した後、蛍光顕微鏡(倍率200倍)で観察し、粒子界面膜にカルセインの溶解している蛍光色が観察されていたものを○、できないものを×とした。
【0047】
(5)皮膚上での液晶構造の確認
液晶形成乳化組成物を、30歳男性の前腕部内側に塗布して(20μg/cm)、室温で6時間放置した後、スライドガラス上に転写し試料とした。それを(3)の方法により偏光顕微鏡観察を行い(25℃)、液晶構造の有無を確認した。液晶構造が確認できるものを◎、わずかに確認できるものを○、できないものを×とした。
【0048】
その結果、表1〜3に示すように、(4)のエマルション粒子界面膜の水分の確認試験において、本発明の液晶形成乳化組成物は、いずれも粒子界面膜にカルセインの溶解している蛍光色が観察されたことから、エマルション粒子界面膜中の水分の存在が示唆された。また、(3)及び(5)の液晶構造の確認試験において、マルターゼクロス像が観察されたことから、本発明の液晶形成乳化組成物はいずれも皮膚に塗布した後も光学異方性をもつ液晶構造が安定に保たれていることが示された。特に上記(A)〜(C)成分の比率(質量比)が好ましい範囲にある液晶形成用乳化剤(No.1〜4)を用いた本発明品の乳化組成物(No.9〜16)は、32℃の皮膚温度付近において、より温度安定性に優れる非常に強固な液晶構造が形成され、かつ、皮膚に塗布して6時間後も液晶構造がより安定に保たれていた。
【表1】

【表2】

【表3】

【実施例2】
【0049】
表2に示す本発明品14、16、18、20の液晶形成乳化組成物と表3に示す比較品(乳化組成物)6、8を用いて、保湿試験を行った。方法は、22℃ 相対湿度45%に調整した恒温・恒湿室で15分間待機したボランティア男女6名(26−42歳)の前腕部内側に、本発明品と比較品をそれぞれ2.5mg/cm塗布した。塗布後、同条件で30、60分経過後の塗布部位の皮膚コンダクタンスを、SKICON 200により測定することで保湿効果を評価した。
【0050】
その結果、表4に示すように、本発明品の塗布により30、60分経過後の皮膚コンダクタンス(平均値)は、比較品に対して有意に上昇させることがわかった。したがって、本発明品の保湿効果が確認された。
【表4】

【実施例3】
【0051】
表2に示す本発明品16の液晶形成乳化組成物と表3に示す比較品(乳化組成物)8を用いて、角質水分蒸散量(TEWL)の測定試験を行った。男性ボランティア(26―51歳)12名を用いて、本発明品16および比較品8の長期連用(4週)によるTEWL低下効果を評価した。試料の塗布部位は大腿部内側とし、塗布回数は2回/日とした。塗布開始前および塗布開始2、4週間経過後の塗布部位のTEWLをキュートメーターにより測定した。なお、測定は、22℃、相対湿度45%に調整した恒温・恒湿室で行った。
【0052】
その結果、表5に示すように、2週間および4週間の連用において、本発明品12を塗布した部位のTEWL(平均値)が、比較品8に対し有意に減少している結果が得られ、本発明品の皮膚改善効果が確認された。
【表5】

【実施例4】
【0053】
モイストクリーム
A フィトステロール 1.0質量%
モノラウリン酸デカグリセリル 2.0
水素添加大豆レシチン 0.7
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル 5.0
スクワラン 4.0
トリエチルヘキサノイン 3.0
セチルアルコール 6.0
シクロペンタシロキサン 4.0
ジメチコン(6mm/s) 2.0
B カーボポール980(2%水溶液) 10.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
グリセリン 3.0
L−ヒドロキシプロリン 0.1
EDTA−2Na 0.05
防腐剤 適量
精製水 残部
C アルギニン 0.2
精製水 3.0
D ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液) 2.0
精製水 2.0
(調製方法)
A、Bをそれぞれ80℃まで加温し、均一にする。80℃でBをホモミキサーで撹拌しながらAを徐々に添加して乳化する。その後、パドルで撹拌しながら冷却し、50℃でC、Dを添加し、35℃で調製を終了する。
【実施例5】
【0054】
モイストエッセンス
A 大豆ステロール 0.5質量%
モノミリスチン酸デカグリセリル 0.7
モノステアリン酸デカグリセリル 0.3
水素添加大豆レシチン 0.3
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル 2.0
スクワラン 1.0
トリエチルヘキサノイン 0.5
エチルヘキサン酸セチル 0.5
セチルアルコール 2.0
シクロペンタシロキサン 1.0
ジメチコン(6mm/s) 0.5
B カーボポール981(2%水溶液) 10.0
クインスシード 0.1
1,3−ブチレングリコール 3.0
ペンチレングリコール 1.5
グリセリン 1.0
EDTA−2Na 0.05
防腐剤 適量
精製水 残部
C アルギニン 0.2
精製水 3.0
D ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液) 2.0
精製水 2.0
(調製方法)
A、Bをそれぞれ80℃まで加温し、均一にする。80℃でBをホモミキサーで撹拌しながらAを徐々に添加して乳化する。その後、パドルで撹拌しながら冷却し、50℃でC、Dを添加し、35℃で調製を終了する。
【実施例6】
【0055】
モイスチャー美白クリーム
A フィトステロール 1.0質量%
モノミリスチン酸ヘキサグリセリル 2.0
水素添加大豆レシチン 0.5
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル 3.0
スクワラン 3.0
テトラヘキシルデカン酸アスコルビル 3.0
トリエチルヘキサノイン 1.0
エチルヘキサン酸セチル 1.0
セチルアルコール 3.0
ベヘニルアルコール 3.5
マイクロクリスタリンワックス 0.3
シクロペンタシロキサン 3.0
ジメチコン(6mm/s) 1.0
B カーボポール980(2%水溶液) 12.0
キサンタンガム(2%水溶液) 3.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
グリセリン 1.0
PEG−30 0.3
EDTA−2Na 0.05
防腐剤 適量
精製水 残部
C アルギニン 0.2
精製水 3.0
D ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液) 2.0
精製水 2.0
(調製方法)
A、Bをそれぞれ80℃まで加温し、均一にする。80℃でBをホモミキサーで撹拌しながらAを徐々に添加して乳化する。その後、パドルで撹拌しながら冷却し、50℃でC、D添加し、35℃で調製を終了する。
【実施例7】
【0056】
アンチエイジングクリーム(ライトタイプ)
A 本発明品2の液晶形成用乳化剤 5.0質量%
セテアリルアルコール 2.5
マイクロクリスタリンワックス 0.3
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル 5.0
メドウフォーム油 3.0
スクワラン 3.0
トリエチルヘキサノイン 2.0
マカデミアナッツ油 1.0
水添レチノールとトリ(カプリル酸/カプリン酸)
グリセリル)の混合物 1.0
シクロペンタシロキサン 3.0
ジメチコン(6mm/s) 2.0
B カーボポール980(2%水溶液) 12.0
キサンタンガム(2%水溶液) 3.0
グリセリン 4.0
1,3−ブチレングリコール 3.0
ペンチレングリコール 2.0
EDTA−2Na 0.05
防腐剤 適量
精製水 残部
C アルギニン 0.2
精製水 3.0
D ヒアルロン酸ナトリウム(1%水溶液) 2.0
精製水 2.0
(調製方法)
A、Bをそれぞれ80℃まで加温し、均一にする。80℃でBをホモミキサーで撹拌しながらAを徐々に添加して乳化する。その後、パドルで撹拌しながら冷却し、50℃でC、Dを添加し、35℃で調製を終了する。
【0057】
実施例4〜7の化粧料は実施例1の液晶の確認方法を用いて測定したところ液晶を形成していることが確認され、また実施例3の試験を行うことによってスキンケア効果を有することを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)〜(C)を必須成分として含有する液晶形成用乳化剤。
(A)ステロール
(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル
(C)レシチン
【請求項2】
(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルが、炭素数12〜22の脂肪酸のエステルでHLBが9以上であることを特徴とする請求項1に記載の液晶形成用乳化剤。
【請求項3】
上記(A)〜(C)成分の比率(質量比)が、
(A)/(B)=70/30〜5/95
かつ
[(A)+(B)]/(C)=65/35〜97/3
である請求項1又は2のいずれかに記載の液晶形成用乳化剤。
【請求項4】
上記(A)〜(C)成分の比率(質量比)が、
(A)/(B)=40/60〜20/80
かつ
[(A)+(B)]/(C)=80/20〜90/10
である請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶形成用乳化剤。
【請求項5】
ポリオキシエチレン型界面活性剤を含まないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶形成用乳化剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶形成乳化剤を含有する液晶形成乳化組成物であって、上記(A)〜(C)成分の合計量を0.1〜30質量%含有する液晶形成乳化組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶形成用乳化剤を含有する化粧料。
【請求項8】
ポリオキシエチレン型界面活性剤を含まないことを特徴とする請求項7に記載の化粧料。

【公開番号】特開2010−280587(P2010−280587A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133634(P2009−133634)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000226437)日光ケミカルズ株式会社 (60)
【出願人】(000228729)日本サーファクタント工業株式会社 (44)
【出願人】(301068114)株式会社コスモステクニカルセンター (57)
【Fターム(参考)】