説明

液晶素子、液晶表示装置

【課題】2つの配向状態間の遷移を利用する新規な液晶素子の視角特性を向上させること。
【解決手段】液晶素子は、対向配置された第1基板及び第2基板、第1基板又は第2基板に設けられたプリズムアレイ、第1基板に設けられた第1配向膜、第2基板に設けられた第2配向膜、第1基板と第2基板の間に設けられた液晶層、第1基板の外側に配置された第1偏光板、第2基板の外側に配置された第2偏光板、第1基板及び第2基板に設けられた電圧印加手段を含む。第1基板及び第2基板は、液晶層の液晶分子を第1方向へ捻れさせるように各配向膜への配向処理の方向を配置される。液晶層は、液晶分子を第1方向とは逆の第2方向に捻れさせる性質のカイラル材を含有する。電圧印加手段は、少なくとも、第1基板に設けられた第1電極と第2基板に設けられた第2電極を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子及び液晶表示装置における電気光学特性の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第2510150号公報(特許文献1)には、対向配置された一対の基板のそれぞれに施された配向処理の方向の組み合わせで規制される旋回方向とは逆の旋回方向に液晶分子を捻れ配向させることにより、電気光学特性を向上させた液晶表示装置が開示されている(先行例1)。また、特開2007−293278号公報(特許文献2)には、対向配置された一対の基板のそれぞれに施された配向処理の方向の組み合わせで規制される旋回方向(第1旋回方向)とは逆の旋回方向(第2旋回方向)に捻れるカイラル剤を添加しながらも、液晶分子を上述の第1旋回方向にねじれ配向させることによって液晶層内の歪みを増加させ、それによりしきい値電圧を低下させて低電圧駆動を可能とする液晶素子が開示されている(先行例2)。
【0003】
ところで、上記した先行例1の液晶表示装置は、逆ねじれの配向状態が不安定であり、液晶層に対して比較的高い電圧を印加することにより逆ねじれの配向状態を得ることは可能であるものの、時間経過とともに順ねじれの配向状態に遷移してしまうという不都合がある。また、先行例2の液晶素子は、上記したようにしきい値電圧を低下させるメリットがあるが、電圧をオフにするとすぐに(例えば数秒程度)順ねじれの配向状態に遷移してしまい、逆にしきい値電圧を高くしてしまうという不都合がある。また、先行例1、2の何れにおいても、順ねじれと逆ねじれの2つの配向状態を表示等の用途として積極的に利用することについては想定されていかなった。すなわち、双安定性を積極利用するために必要な構成、駆動方法等の技術思想についての開示、示唆はともに全く存在しなかった。
【0004】
これに対して、特開2010−186045号公報(特許文献3)には、初期状態ではスプレイツイスト配向であるが縦電界を1回印加するとリバースツイスト配向で安定するリバースTN(Reverse Twisted Nematic)型の液晶素子に関する技術が開示されている(先行例3)。しかしながら、先行例3の液晶素子は、良好なコントラストを得られる範囲が狭いという点で未だ改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2510150号公報
【特許文献2】特開2007−293278号公報
【特許文献3】特開2010−186045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明に係る具体的態様は、2つの配向状態間の遷移を利用する新規な液晶素子における視角特性を向上し得る技術を提供することを目的の1つとする。
また、本発明に係る具体的態様は、新規な液晶素子を用いた低消費電力駆動が可能な液晶表示装置を提供することを他の目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一態様の液晶素子は、(a)対向配置された第1基板及び第2基板と、(b)前記第1基板又は前記第2基板の少なくとも一方に設けられたプリズムアレイと、(c)前記第1基板に設けられ、配向処理が施された第1配向膜と、(d)前記第2基板に設けられ、配向処理が施された第2配向膜と、(e)前記第1基板と前記第2基板の間に設けられた液晶層と、(f)前記第1基板の外側に配置された第1偏光板と、(g)前記第2基板の外側に配置された第2偏光板と、(h)前記第1基板及び前記第2基板に設けられた電圧印加手段を含み、(i)前記第1基板及び前記第2基板は、前記液晶層の液晶分子を第1方向へ捻れさせるように前記配向処理の方向を配置され、(j)前記液晶層は、前記液晶分子を前記第1方向とは逆の第2方向に捻れさせる性質のカイラル材を含有し、(k)前記電圧印加手段は、少なくとも、前記第1基板に設けられた第1電極と前記第2基板に設けられた第2電極を有する、液晶素子である。
【0008】
上記の構成によれば、プリズムアレイの形状効果により液晶分子の配向状態が比較的高い所望のプレチルト角で安定に保持されるので、コントラストの高い双安定表示を簡便に実現できる。また、液晶層とプリズムアレイとの界面における屈折作用により、最大コントラストの得られる範囲を広げ、かつその方向を用途に応じて最適な方向に設定することができる。従って、2つの配向状態間の遷移を利用する新規な液晶素子における視角特性を向上し得る。
【0009】
上記液晶素子において、前記電圧印加手段は、例えば前記第2基板の前記第2電極の上側に絶縁層を介して設けられた櫛歯状の第3電極及び第4電極を有する。
【0010】
それにより、2つの配向状態(スプレイツイスト状態とリバースツイスト状態)の遷移を効率的に行わせることが可能となる。
【0011】
上記液晶素子において、前記電圧印加手段は、前記第1基板の前記プリズムアレイの上側に設けられた櫛歯状の第3電極及び第4電極を有することも好ましい。
【0012】
かかる構成によっても、2つの配向状態の遷移を効率的に行わせることが可能となる。また、第1基板上の第1電極と第3電極および第4電極の間の絶縁状態を確保する機能をプリズムアレイによって兼用できるので、構成の簡素化および製造工程の短縮を図ることができる。
【0013】
上記液晶素子においては、前記配向処理の方向により決まる前記液晶層の液晶分子のツイスト角が略90°であることが好ましい。この場合に、第1偏光板と第2偏光板とは、各々の透過軸を略直交または略並行に配置されることが好ましい。
【0014】
それにより、良好なノーマリーホワイト状態またはノーマリーブラック状態を実現できる。
【0015】
本発明に係る一態様の液晶表示装置は、複数の画素部を備え、当該複数の画素部のそれぞれが上記した本発明に係る液晶素子を用いて構成された、液晶表示装置である。
【0016】
上記の構成によれば、視角特性に優れた液晶表示装置が得られる。また、液晶素子の双安定性(メモリー性)を利用することにより表示書き換え時以外には基本的に電力を必要しないので低消費電力な液晶表示装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】リバースTN型液晶素子の動作を概略的に示す模式図である。
【図2】第1実施形態のリバースTN型液晶素子の構成例を示す断面図である。
【図3】液晶素子に内蔵されるプリズムアレイの模式的な斜視図である。
【図4】実施例の液晶素子におけるコントラスト比の視角依存性を示す図である。
【図5】比較例の液晶素子におけるコントラスト比の視角依存性を示す図である。
【図6】リバースTN型液晶素子の他の構成例を示す断面図である。
【図7】第2実施形態のリバースTN型液晶素子の構成例を示す断面図である。
【図8】液晶層に対して各電極を用いて与えることが可能な電界について説明する模式図である。
【図9】リバースTN型液晶素子の他の構成例を示す断面図である。
【図10】液晶表示装置の構成例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
(リバースTN型液晶素子の基本構造)
図1は、リバースTN型液晶素子の動作を概略的に示す模式図である。リバースTN型液晶素子は、基本的な構成として、対向配置された上側基板1および下側基板2と、それらの間に設けられた液晶層3を備える。上側基板1と下側基板2のそれぞれの表面にはラビング処理などの配向処理が施される。これらの配向処理の方向(図中に矢印で示す)が90°前後の角度で互いに交差するようにして上側基板1と下側基板2とが相対的に配置される。液晶層3は、ネマチック液晶材料を上側基板1と下側基板2の間の注入することによって形成される。この液晶層3には、液晶分子をその方位角方向において特定の方向(図1の例では右旋回方向)にねじれさせる作用を生じるカイラル材が添加された液晶材料が用いられる。上側基板1と下側基板2の相互間隔(セル厚)をd、カイラル材のカイラルピッチをpとすると、これらの比d/pの値は、例えば0.4程度に設定される。このようなリバースTN型液晶素子は、カイラル材の作用により、初期状態においては液晶層3がスプレイ配向しながら捻れるスプレイツイスト状態となる。このスプレイツイスト状態の液晶層3に飽和電圧を超える電圧を印加すると、液晶分子が左旋回方向に捻れるリバースツイスト状態(ユニフォームツイスト状態)に遷移する。このようなリバースツイスト状態の液晶層3にあってはバルク中の液晶分子が傾いているため、液晶素子の駆動電圧を低減する効果が現れる。
【0020】
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態のリバースTN型液晶素子の構成例を示す断面図である。なお、図2においては便宜上、一部構成を除いてハッチング記載を省略する(後述する図面においても同様)。図2に示す本実施形態のリバースTN型液晶素子5は、第1基板51、第1電極52、プリズムアレイ53、第1配向膜54、第2基板55、第2電極56、第2配向膜57、液晶層60、第1偏光板61、第2偏光板62を含んで構成される。
【0021】
第1基板51および第2基板55は、相互に対向配置されており、それぞれ例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。第1基板51と第2基板55との相互間には、例えば多数のスペーサー(粒状体)が分散して配置されており(図示せず)、それらのスペーサーによって第1基板51と第2基板55との相互間隔が保たれる。なお、特段の図示を省略するが、いずれかの基板上に薄膜トランジスタ等のスイッチング素子が形成されていてもよい。
【0022】
第1電極52は、第1基板51の一面側に設けられている。同様に、第2電極56は、第2基板55の一面側に設けられている。第1電極52および第2電極56、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を用いて構成される。例えば本実施形態では、第1電極52、第2電極56ともに、基板一面に形成されている。なお、第1電極52、第2電極56は、適宜パターニングされていてもよい。
【0023】
プリズムアレイ53は、複数の微少な傾斜状の突起形状(プリズム)を一方向に配列して構成されている。プリズムアレイ53の模式的な斜視図を図3に示す。図示のように各プリズムの断面形状は直角三角形(例えば頂角75°、底角が15°と90°)である。また、各プリズムの配置ピッチPは例えば8μm程度、高さtは例えば2μm程度である。図3に示すように、プリズムアレイ53は、上面から見るとスリット形状に形成されている。このプリズムアレイ53は、例えば耐熱性および密着性に優れた樹脂材料を成形することにより得られる。プリズムアレイ53の成形方法の詳細については後述する。
【0024】
第1配向膜54は、第1基板51の一面側に、第1電極52およびプリズムアレイ53を覆うようにして設けられている。また、第2配向膜57は、第2基板55の一面側に、第2電極56を覆うようにして設けられている。本実施形態においては、第1配向膜54および第2配向膜57として、液晶層60の液晶分子の初期状態(電圧無印加時)における配向状態を水平配向状態に規制するもの(水平配向膜)が用いられている。これらの第1配向膜54、第2配向膜57に対しては、所定の表面処理(ラビング処理、光配向処理等)が施されている。第1配向膜54と第2配向膜57は、各々の配向処理の方向のなす角度が例えば90°前後に設定される。
【0025】
液晶層60は、第1基板51の一面と第2基板55の一面の相互間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが正(Δε>0)のネマチック液晶材料を用いて液晶層60が構成されている。液晶層60に図示された楕円は、液晶層60内の液晶分子を模式的に示したものである。電圧無印加時における液晶分子は、第1基板51および第2基板55の各基板面に対して所定のプレチルト角を有してほぼ水平に配向する。
【0026】
第1偏光板61は、第1基板51の外側に配置されている。第2偏光板62は、第2基板55の外側に配置されている。本実施形態ではこの第2偏光板62側から利用者によって視認される。これらの第1偏光板61と第2偏光板62は、例えば互いの透過軸を略直交させて配置される(クロスニコル配置)。
【0027】
次に、リバースTN型液晶素子5の製造方法の一例について詳述する。
【0028】
まず、第1基板51および第2基板55として用いるためのガラス基板を用意する。これらのガラス基板としては、予めITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電材料からなる導電膜を有するものがより好ましい。例えば、厚さが1500ÅのITO膜を有し、板厚が0.7mm、ガラス材質が無アルカリガラスである一対のガラス基板を用意する。第1基板51、第2基板55のそれぞれについて、ITO膜を適宜パターニングすることにより、第1電極52、第2電極56を形成する。
【0029】
次に、第1基板51の第1電極52上にプリズムアレイ53を形成する。ここでは、断面が三角形状であり、そのピッチPが8μm、高さtが約2μm、頂角75°、底角が15°と90°であり、上面から見るとスリット形状を有する金型を用いてプリズムアレイ53を形成する。
【0030】
具体的には、第1基板51上に光硬化性樹脂材料を滴下し、その上に金型を置き、かつ第1基板51の裏面側を厚手の石英基板等で補強した状態でプレスを行う。プレス後にある程度の時間(例えば1分間以上)だけ放置し、光硬化性樹脂材料を十分に広げた後、第1基板51側から光を照射することで光硬化性樹脂材料を硬化させる。光の照射量は光硬化性樹脂材料が硬化するのに十分な値を適宜に設定する。ここで、一般にプリズム用材料は耐熱性が低く、プリズムアレイ53上に第1配向膜54を形成する際の熱処理(例えば180℃以上)により特性が劣化してしまう場合が多い。これに対して、本実施形態では、熱処理前後での透過率特性の低下がほとんど生じない光硬化性(例えば紫外線硬化性)のアクリル系樹脂材料を用いる。本実施形態で用いる光硬化性樹脂材料の屈折率は例えば1.51程度である。
【0031】
第1基板51上に透明樹脂膜からなるプリズムアレイ53が形成されると、次にこのプリズムアレイ53が形成された第1基板51を洗浄機により洗浄する。洗浄は、例えば、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、紫外線(UV)照射、赤外線(IR)乾燥の順に行うことができるがこれに限定されない。高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0032】
次いで、プリズムアレイ53が形成された第1基板51に第1配向膜54を形成する。同様に、第2基板55に第2配向膜57を形成する。ここでは例えば、配向膜表面において液晶分子に対して1〜2°のプレチルト角を発生する配向材(ポリイミド)を用いて配向膜を形成する。フレキソ印刷法、インクジェット法、スピンコート法、スリットコート法、スリット法とスピンコート法の組みあわせ等の適宜の方法で配向材を第1基板51上、第2基板55上にそれぞれ適当な膜厚(例えば500〜800Å程度)で塗布し、熱処理(例えば180℃で1.5時間の焼成)を行う。
【0033】
次いで、熱処理によって得られた第1配向膜54、第2配向膜57のそれぞれに対して配向処理を行う。ここでは、例えばラビング処理を行い、その条件である押し込み量を0.8mmとする(ストロングラビング条件)。この配向処理は、第1基板51と第2基板55とを重ね合わせたときに各基板上の液晶分子の配向方向が略90°捻れるように行う。また、配向処理は、第1配向膜54への配向処理の方向がプリズムアレイ53の各プリズムの延在方向に対して45°となるようにする。
【0034】
次いで、一方の基板(例えば第1基板51)上に、ギャップコントロール剤を適量(例えば2〜5wt%)含んだメインシール剤を形成する。メインシール剤の形成は、例えばスクリーン印刷やディスペンサーによる。また、ギャップコントロール剤の径は、プリズムアレイ53のベース層とプリズムの高さを含め、液晶層60の厚さが4〜6μm程度となるように材料を選ぶことができる。本実施形態では、ギャップコントロール剤としてその径8μmのプラスチックボールを用いる。また、他方の基板(例えば第2基板55)上にはギャップコントロール剤を散布する。例えば本実施形態では、6〜8μmのプラスチックボールを乾式のギャップ散布機によって散布する。
【0035】
次いで、第1基板51と第2基板55とを重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させる。ここでは、例えば150℃で3時間の熱処理を行う。その後、第1基板51と第2基板55の間隙に液晶材料を充填することにより液晶層60を形成する。液晶材料の充填は、例えば真空注入法によって行う。本実施形態では、誘電率異方性△εが正、屈折率異方性Δnが0.15であり、かつカイラル材を適量添加したことによりカイラルピッチを40μmとした液晶材料を用いる。このような液晶材料の注入後、その注入口にエンドシール剤を塗布し封止する。そして、封止後に適宜熱処理(例えば120℃で1時間)を行うことにより、液晶層60の液晶分子の配向状態を整える。
【0036】
次いで、第1基板51の外側に第1偏光板61を貼り合わせ、第2基板55の外側に第2偏光板62を貼り合わせる。これら第1偏光板61と第2偏光板62は、互いの透過軸を略直交配置(クロスニコル配置)とされる。以上のようにして本実施形態のリバースTN型液晶素子5が得られる。このリバースTN型液晶素子5に対して、第1電極52および第2電極56を用いて電圧(例えば交流5〜15V)を印加することにより、液晶層60をリバースツイスト状態に遷移させることができる。リバースツイスト状態としたリバースTN型液晶素子5は、比較的に黒い状態(透過率の低い状態)である。
【0037】
図4は、上記した条件に沿って作製された実施例のリバースTN型液晶素子におけるコントラスト比の視角依存性を示す図である。また、図5は、比較例のリバースTN型液晶素子におけるコントラスト比の視角依存性を示す図である。比較例のリバースTN型液晶素子は、上記実施例の液晶素子からプリズムアレイを省いた構成とした。プリズムアレイを用いず高プレチルト角を実現するため、通常は垂直配向膜として用いられる配向膜材料に対し側鎖密度を低くしたポリイミド配向膜材料を用いた。以下の配向処理条件と合わせ、本比較例では23°〜35°のプレチルト角を得た。比較例のポリイミド配向膜の成膜は、配向膜材料をフレキソ印刷、インクジェット印刷、スピンコートなどで塗布し、クリーンオーブンで160℃、1時間の焼成により行った。成膜後の配向膜の膜厚は500〜800Åとした。焼成後の配向膜はラビング処理により一軸配向処理を行った。ラビング時のラビング布押し込み量は0.8mmとした。プリズムアレイおよび配向膜以外は実施例の液晶素子と同一条件とした。なお、図4、図5のそれぞれにおいて外縁に沿って記載された0°〜330°の数値は基板面内における方向を表し、270°−90°方向が液晶素子の左右方向に相当し、0°−180°方向が液晶素子の上下方向に相当する。また、縦軸に沿って記載された0°〜70°の数値は基板法線方向からの傾き角(極角)を表す。さらに、各図中の「CR」とはコントラスト比を示しており、例えば「CR:25」と付された領域内部はコントラスト比25以上を示す領域である。また、コントラスト比については、実施例、比較例の各リバースTN型液晶素子をスプレイツイスト状態にして視角透過率特性を測定し、その後液晶層に電圧を印加してリバースツイスト状態に遷移させた状態で視角透過率特性を測定し、それぞれにより得られた透過率の比を算出することにより求めた。
【0038】
図4に示すように実施例のリバースTN型液晶素子は、図5に示す比較例のリバースTN型液晶素子よりも最大コントラストの位置が正面方向になっていることが分かる。また、全体的にコントラスト比が高く(コントラスト比25以上)、コントラスト比が5以上の領域「CR:5」もより広いことが分かる。これらの結果は、プリズムアレイ53により第1基板51側の界面の液晶分子の配向状態が比較的高い所望のプレチルト角で安定に保持され、かつプリズムアレイ53と液晶層60との界面における屈折率差に起因して光の進路が曲げられることにより最大コントラスト比の得られる方向が制御されたためであると考えられる。
【0039】
図6は、第1実施形態におけるリバースTN型液晶素子の他の構成例を示す断面図である。図6に示すリバースTN型液晶素子5aは、第1基板51、第1電極52a、プリズムアレイ53a、第1配向膜54a、第2基板55、第2電極56、第2配向膜57、液晶層60、第1偏光板61、第2偏光板62を含んで構成される。上述した図2に示したリバースTN型液晶素子5では第1電極52の上側にプリズムアレイ53が配置されていたが、図6に示す例のリバースTN型液晶素子5aはプリズムアレイ53a上に第1電極52aを配置した点が構造上の相違である。上記したような高い耐熱性を有する樹脂材料を用いて形成されたプリズムアレイ53a上であれば、本例のようにプリズムアレイ53aの上側にITO等の透明導電材料からなる第1電極52aを設けることもできる。なお、図示を省略するがプリズムアレイ53aと第1電極52aとの間に両者の密着性をより向上させるための酸化珪素(SiO)膜が設けられていることも好ましい。図6に例示するリバースTN型液晶素子5aにおいては、第1基板51上の第1電極52aと液晶層60との間にプリズムアレイ53aが存在することなく、第1電極52aから直接的に液晶層60へ電圧を印加できることから駆動電圧をより低下させることが可能になる。なお、図2に示したリバースTN型液晶素子5、図6に示したリバースTN型液晶素子5aのいずれについても、第1電極、第2電極の一方または双方がストライプ状(短冊状)などの形状にパターニングされていてもよい。
【0040】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態のリバースTN型液晶素子の構成例を示す断面図である。図7に示す本実施形態のリバースTN型液晶素子5bは、第1基板51、第1電極52、プリズムアレイ53、第1配向膜54、第2基板55、第2電極56、第2配向膜57、第3電極58、第4電極59、液晶層60、第1偏光板61、第2偏光板62および絶縁膜63を含んで構成される。なお、第1実施形態のリバースTN型液晶素子5と共通する部材については同一符号を付しており、それらについては詳細な説明を省略する。
【0041】
絶縁膜(絶縁層)63は、第2基板55上に第2電極56を覆うようにして設けられている。この絶縁膜63は、例えば酸化珪素膜、窒化珪素膜、酸化窒化珪素膜あるいはこれらの積層膜などの無機絶縁膜、または有機絶縁膜(例えばアクリル系有機絶縁膜)である。
【0042】
第3電極58および第4電極59は、それぞれ、第2基板55の絶縁膜63の上側に設けられている。本実施形態における第3電極58および第4電極59は、それぞれ複数の電極枝を有する櫛歯状電極であり、互いの電極枝が交互に並ぶようにして配置されている(後述の図8参照)。第3電極58および第4電極59は、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。第3電極58、第4電極59のそれぞれの電極枝は、例えば30μm幅であり、電極間隔を20μmに設定して配置される。
【0043】
第2配向膜57bは、第3電極58および第4電極59を覆うようにして設けられている。第2配向膜57bとしては、液晶層60の液晶分子の初期状態(電圧無印加時)における配向状態を水平配向状態に規制するもの(水平配向膜)が用いられている。また、第2配向膜57bには所定の表面処理(ラビング処理、光配向処理等)が施されている。
【0044】
図8は、液晶層に対して各電極を用いて与えることが可能な電界について説明するための模式図である。図8(A)は、第1電極〜第4電極の配置を模式的に示した平面図である。図8(B)〜図8(D)は、第1電極〜第4電極の配置を模式的に示した断面図である。図8(B)に示すように、第1電極52と第2電極56は互いに対向配置されており、図8(A)に示すように第1電極52と第2電極56の重畳する領域内に第3電極58と第4電極59が配置されている。また、図8(A)に示すように、第3電極58の複数の電極枝と第4電極59の複数の電極枝とは1つずつ交互に繰り返すように配置されている。
【0045】
図8(B)に示すように、第1電極52と第2電極56の間に電圧を印加することにより両電極間に電界を発生させることができる。この場合の電界は、図示のように第1基板51および第2基板55の厚さ方向(セル厚方向)に沿った電界となる。この電界を以後「縦電界」と称する場合もある。
【0046】
また、図8(C)に示すように、第3電極58と第4電極59の間に電圧を印加することにより両電極間に電界を発生させることができる。この場合の電界は、図示のように第1基板51および第2基板55の各一面にほぼ平行な方向の電界となる。この電界を以後「横電界」と称する場合もある。以後、このような電界を用いるモードを「IPSモード」と称する場合もある。
【0047】
また、図8(D)に示すように、絶縁膜63を挟んで対向配置された第2電極56と第3電極58および第4電極59との間に電圧を印加することにより両電極間に電界を発生させることができる。この場合の電界は、図示のように第1基板51および第2基板55の各一面にほぼ平行な方向に沿った電界となる。この電界を以後「横電界」と称する場合もある。以後、このような電界を用いるモードを「FFSモード」と称する場合もある。
【0048】
液晶素子は、初期状態において液晶層60の液晶分子がスプレイツイスト状態に配向する。これに対して、上記したように第1電極52と第2電極56を用いて縦電界を発生させると、液晶層60の配向状態がリバースツイスト状態へ遷移する。その後、第3電極58と第4電極59を用いて横電界を発生させると(IPSモード)、液晶層60の配向状態がスプレイツイスト状態へ遷移する。また、第2電極56、第3電極58、第4電極59を用いて横電界を発生させた場合(FFSモード)でも同様に、液晶層60の配向状態がリバースツイスト状態からスプレイツイスト状態へ遷移する。IPSモードとの比較では、FFSモードのほうが液晶層60の配向状態をより均一に遷移させることができる。これは、第3電極58、第4電極59の各電極上にも横電界が印加されるためである。したがって、開口率(透過率、コントラスト比)の面からはFFSモードがより適しているといえる。
【0049】
配向状態のスイッチングが可能となった理由は以下のように考察される。スプレイツイスト状態では液晶層60の層厚方向の略中央における液晶分子が横に寝ているが、縦電界によってリバースツイスト状態になり、当該略中央における液晶分子が垂直方向に傾く。この後、IPSモードあるいはFFSモードの横電界によって、リバースツイスト状態における液晶層60の層厚方向の略中央における液晶分子に横電界がかかり、スプレイツイスト状態における液晶層60の当該略中央における液晶分子があるべきダイレクタ方向に向いたため、再び初期状態であるスプレイツイスト状態へ遷移する。以上により、縦電界と横電界を活用してスプレイツイスト状態とリバースツイスト状態を切り替えられるようになったものと考えられる。
【0050】
次に、液晶素子の製造方法の一例について詳細に説明する。
【0051】
上記した第1実施形態と同様にして、第1電極52を有する第1基板51、第2電極56を有する第2基板55を形成し、その後、第1基板52上にプリズムアレイ53を形成する。
【0052】
次いで、第2基板55の第2電極56上に絶縁膜63を形成する。その際、取り出し電極部分には絶縁膜63が形成されないよう工夫する必要がある。その方法としては、あらかじめ取り出し電極部分にレジストを形成しておいて絶縁膜63の形成後にリフトオフする方法や、メタルマスクなどにより取り出し電極部分を隠した状態でスパッタ法などにより絶縁膜63を形成する方法などが挙げられる。また、絶縁膜63としては、有機絶縁膜、あるいは酸化珪素膜や窒化珪素膜等の無機絶縁膜及びそれらの組み合わせ等が挙げられる。ここでは、アクリル系有機絶縁膜と酸化珪素膜(SiO膜)の積層膜を絶縁膜63として用いる。
【0053】
取り出し電極部分(端子部分)には耐熱性のフィルム(ポリイミドテープ)を貼り、その状態で有機絶縁膜の材料液をスピンコートする。例えば、2000rpmにて30秒間スピンさせる条件で、膜厚1μmを得る。これをクリーンオーブンにて焼成する(例えば、220℃、1時間)。耐熱性のフィルムを貼ったままでSiO膜をスパッタ法(交流放電)により成膜する。例えば、80℃に基板加熱し、1000Å形成する。ここで耐熱性のフィルムを剥がすと、有機絶縁膜、SiO膜ともきれいに剥がすことができる。その後、クリーンオーブンにて焼成する(例えば、220℃、1時間)。これは、SiO膜の絶縁性と透明性を上げるためである。SiO膜を形成する必要性は必ずしも無いが形成によりその上に形成するITO膜の密着性及びパターニング性が向上するため、形成することが望ましい。また、絶縁性も向上する。一方、有機絶縁膜を形成せずにSiO膜のみで絶縁性をとる方法が考えられるが、その場合にはSiO膜は多孔質になりやすいため膜厚を4000〜8000Å程度確保することが望ましい。また、SiNxとの積層膜にしてもよい。なお、無機絶縁膜の形成方法としてスパッタ法を述べたが、真空蒸着法、イオンビーム法、CVD法(化学気相堆積法)などの形成方法を用いてもよい。
【0054】
次いで、絶縁膜63上に第3電極58および第4電極59を形成する。具体的には、まず絶縁膜63上にITO膜をスパッタ法(交流放電)にて形成する。これを、例えば100℃に基板加熱し、約1200Å程度のITO膜を全面に形成する。このITO膜を一般的なフォトリソグラフィ技術によってパターニングする。このときのフォトマスクとしては、上記した図8に示したような櫛歯状電極に対応する遮光部分を有するものを用いる。ここでは、櫛歯状の電極枝の幅を30μm、電極間隔20μmとする。なお、上記の取り出し電極部分にもパターンが無いとエッチングにより下側のITO膜も除去されるので、取り出し電極部分にもパターンが形成されているフォトマスクを用いる。
【0055】
上記のようにして作製した第1基板51および第2基板55を洗浄する。具体的には、まず水洗(ブラシ洗浄もしくはスプレー洗浄、純水洗浄)をし、水切り後にUV洗浄をし、最後にIR乾燥を行う。
【0056】
次いで、上記した第1実施形態と同様にして、第1基板51、第2基板55のそれぞれに第1配向膜53、第2配向膜57を形成し、各配向膜に配向処理を施す。
【0057】
次いで、第1基板51と第2基板55を貼り合わせる。第1基板51上にはあらかじめスペーサー材を散布し、さらにシール材を印刷する。その後、第1偏光板61、第2偏光板62を取り付ける。
【0058】
以上により、本実施形態の液晶素子5bが完成する。本実施形態の液晶素子5bは、第1実施形態の液晶素子と同様に優れた視角特性を有する。また、第1電極、第2電極に加え、第3電極および第4電極を備えることにより、スプレイツイスト状態とリバースツイスト状態の間の遷移をより良好に行うことができる。
【0059】
図9は、第2実施形態におけるリバースTN型液晶素子の他の構成例を示す断面図である。図9に示すリバースTN型液晶素子5cは、第1基板51、第1電極52、プリズムアレイ53c、第1配向膜54、第2基板55、第2電極56、第2配向膜57、第3電極58c、第4電極59c、液晶層60、第1偏光板61、第2偏光板62を含んで構成される。上述した図7に示したリバースTN型液晶素子5bでは第2基板55側に第3電極58および第4電極59が配置されていたが、図9に示す例のリバースTN型液晶素子5cはプリズムアレイ53c上に第3電極58cおよび第4電極59cが配置されている点が構造上の相違である。上記したような高い耐熱性を有する樹脂材料を用いて形成されたプリズムアレイ53c上であれば、本例のようにプリズムアレイ53cの上側にITO等の透明導電材料からなる第3電極58cおよび第4電極59cを設けることもできる。この構造では、上記した図7に示したリバースTN型液晶素子5bにおける絶縁膜63の機能をプリズムアレイ53cによって代替することができる。それにより絶縁膜63が不要となるので、製造工程を短縮することが可能となる。
【0060】
(第3実施形態)
次に、上記した第2実施形態の液晶素子の有するメモリー性を利用した低消費電力駆動が可能な液晶表示装置の構成例について説明する。
【0061】
図10は、液晶表示装置の構成例を模式的に示す図である。図10に示す液晶表示装置は、複数の画素部74をマトリクス状に配列して構成される単純マトリクス型の液晶表示装置であり、各画素部74として上記した液晶素子5bまたは液晶素子5cが用いられている。具体的には、液晶表示装置は、X方向に延びるm本の制御線B1〜Bmと、これらの制御線B1〜Bmに対して制御信号を与えるドライバー71と、各々が制御線B1〜Bmと交差してY方向に延びるn本の制御線A1〜Anと、これらの制御線A1〜Anに対して制御信号を与えるドライバー72と、各々が制御線B1〜Bmと交差してY方向に延びるn本の制御線C1〜CnおよびD1〜Dnと、これらの制御線C1〜CnおよびD1〜Dnに対して制御信号を与えるドライバー73と、制御線B1〜Bmと制御線A1〜Anとの各交点に設けられた画素部74と、を含んで構成されている。
【0062】
各制御線B1〜Bm、A1〜An、C1〜CnおよびD1〜Dnは、例えば、ストライプ状に形成されたITO等の透明導電膜からなる。制御線B1〜BmとA1〜Anとが交差する部分が上記した第1電極52および第2電極56として機能する。また、制御線C1〜Cnについては、各画素部74に相当する領域に設けられ第3電極58(または58c)としての櫛歯状の電極枝(図5においては図示省略)と接続されている。同様に、制御線D1〜Dnについては、各画素部74に相当する領域に設けられ第4電極59(または59c)としての櫛歯状の電極枝と接続されている。
【0063】
図10に示す構成の液晶表示装置の駆動法としては種々の方法が考えられる。例えば、制御線B1、B2、B3・・・とライン毎に表示書き換えを行う方法(線順次駆動法)について説明する。この場合には、相対的に明るい表示としたい画素部74には縦電界を印加し、相対的に暗い表示としたい画素部74には横電界を印加すればよい。
【0064】
例えば、制御線B1には配向状態の遷移が生じない程度の矩形波電圧(例えば5V程度で150Hz)を印加し、制御線A1〜An、C1〜CnおよびD1〜Dnにはそれと同期し、もしくは半周期ずれた閾値電圧程度の矩形波電圧(例えば5V程度で150Hz)を印加する。
【0065】
詳細には、制御線A1〜Anのうち、明るい表示としたい画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加した矩形波電圧と半周期ずれた矩形波電圧を印加する。このとき制御線C1〜CnおよびD1〜Dnには電圧を印加しない。それにより、画素部74の液晶素子には実効的に10V程度の電圧(縦電界)が印加される状態となる。この電圧が飽和電圧以上であるとすれば、液晶層60に配向状態の遷移を生じさせて画素部74の光透過率を変化させることができる。一方、制御線A1〜Anのうち、表示を変化させる必要がない画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加される矩形波電圧と同期した矩形波電圧を印加する。このときも制御線C1〜CnおよびD1〜Dnには電圧を印加しない。それにより、画素部74では実効的に電圧が印加されていない状態となる。したがって、液晶層60には配向状態の遷移が生じず、光透過率が変化しない。
【0066】
また、制御線C1〜CnおよびD1〜Dnのうち、明るい表示としたい画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加した矩形波電圧と半周期ずれた矩形波電圧を印加する。このとき制御線A1〜Anには電圧を印加しない。それにより、画素部74の液晶素子には実効的に10V程度の電圧(横電界)が印加される状態となる。この電圧が飽和電圧以上であるとすれば、液晶層60に配向状態の遷移を生じさせて画素部74の光透過率を変化させることができる。一方、制御線C1〜CnおよびD1〜Dnのうち、表示を変化させる必要がない画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加される矩形波電圧と同期した矩形波電圧を印加する。このときも制御線A1〜Anには電圧を印加しない。それにより、画素部74では実効的に電圧が印加されていない状態となる。したがって、液晶層60には配向状態の遷移が生じず、光透過率が変化しない。
【0067】
以上のような駆動を制御線B2、B3・・・と順次に実行していくことによりドットマトリクス表示が可能となる。このような駆動により書き換えられた表示状態は半永久的に保持することが可能である。この表示を書き換えるには再び制御線B1から上記の制御を実行すればよい。なお、ここではいわゆる単純マトリクス型の液晶表示装置について本発明を適用した例を示したが、薄膜トランジスタ等を用いたアクティブマトリクス型の液晶表示装置について本発明を適用することも可能である。アクティブマトリクス型の液晶表示装置の場合には制御線B1等のライン毎に書き換える必要がなくなるので書き換え時間を短縮できる。また、しきい値に対して2倍以上の電圧の印加も可能になるので更に高速に書き換えが可能になる。ただし、片側の基板に横電界用と縦電界用の電極があるため、1画素あたり2つの薄膜トランジスタ等が必要になる。
【0068】
以上のように各実施形態並びに実施例によれば、プリズムアレイの形状効果により液晶分子の配向状態が比較的高い所望のプレチルト角で安定に保持されるので、コントラストの高い双安定表示を簡便に実現できる。また、液晶層とプリズムアレイとの界面における屈折作用により、最大コントラストの得られる範囲を広げ、かつその方向を用途に応じて最適な方向に設定することができる。従って、2つの配向状態間の遷移を利用する新規な液晶素子における視角特性を向上し得る。
【0069】
また、一般的な配向膜を用いることができるので配向状態の長期安定性が期待でき、液晶素子の信頼性を高めることができる。
【0070】
また、メモリー性を利用した駆動方法(線順次書き換え法等)の適用が可能になるため、TFT等のスイッチング素子を用いることなく単純マトリクス表示により大容量のドットマトリクス表示が可能である。従って低コストで大容量表示が可能になる。
【0071】
また、このような双安定性リバースTN型の液晶素子の製造工程は、基本的には一般的なTN型液晶素子の製造工程と共通しているため、コストアップの要因は少なく、一般的なTN型液晶素子と同様に安価に製造が可能である。
【0072】
なお、本発明は上述した内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した各実施形態では液晶層のツイスト角を90°程度としていたが、ツイスト角はこれに限定されるものではない。この場合には、白表示での明るさをより確保するためには液晶層内のリターデーション値を調整するとよい。また、第1偏光板と第2偏光板の各透過軸のなす角度を90°程度としたノーマリーホワイト状態の液晶素子について例示していたが、ノーマリーブラック状態の液晶素子としても構わない。ただし、良好な黒表示を得られ、より高いコントラストを得られるという点ではノーマリーホワイト状態のほうがより好ましい。また、上記した各実施形態ではいずれか一方の基板にのみプリズムアレイを設けていたが、双方の基板にプリズムアレイを設けてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1:上側基板
2:下側基板
3:液晶層
5、5a、5b、5c:液晶素子
51:第1基板
52、52a:第1電極
53、53a、53c:プリズムアレイ
54、54a:第1配向膜
55:第2基板
56:第2電極
57:第2配向膜
58、58c:第3電極
59、59c:第4電極
60:液晶層
61:第1偏光板
62:第2偏光板
63:絶縁膜
71、72、73:ドライバー
74:画素部
A1〜An、B1〜Bm、C1〜Cn、D1〜Dn:制御線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された第1基板及び第2基板と、
前記第1基板又は前記第2基板の少なくとも一方に設けられたプリズムアレイと、
前記第1基板に設けられ、配向処理が施された第1配向膜と、
前記第2基板に設けられ、配向処理が施された第2配向膜と、
前記第1基板と前記第2基板の間に設けられた液晶層と、
前記第1基板の外側に配置された第1偏光板と、
前記第2基板の外側に配置された第2偏光板と、
前記第1基板及び前記第2基板に設けられた電圧印加手段、
を含み、
前記第1基板及び前記第2基板は、前記液晶層の液晶分子を第1方向へ捻れさせるように前記配向処理の方向を配置され、
前記液晶層は、前記液晶分子を前記第1方向とは逆の第2方向に捻れさせる性質のカイラル材を含有し、
前記電圧印加手段は、少なくとも、前記第1基板に設けられた第1電極と前記第2基板に設けられた第2電極を有する、
液晶素子。
【請求項2】
前記電圧印加手段は、前記第2基板の前記第2電極の上側に絶縁層を介して設けられた櫛歯状の第3電極及び第4電極を有する、請求項1に記載の液晶素子。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、前記第1基板の前記プリズムアレイの上側に設けられた櫛歯状の第3電極及び第4電極を有する、請求項1に記載の液晶素子。
【請求項4】
前記配向処理の方向により決まる前記液晶層の液晶分子のツイスト角が略90°である、請求項1〜3の何れか1項に記載の液晶素子。
【請求項5】
複数の画素部を備え、当該複数の画素部の各々が請求項1〜4の何れか1項に記載の液晶素子を用いて構成された、液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−194402(P2012−194402A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58593(P2011−58593)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】