説明

液晶表示装置

【課題】弾性定数等のパラメータを切りつめることなく、液晶の応答速度の改善を図ることのできる液晶表示装置を得る。
【解決手段】表示電極10および対向電極20からなる1組の電極を基板上に設け、表示電極および対向電極の間に横電界を発生させるIPS構造を有する液晶表示装置において、基板上の1組の電極の上に、絶縁層を介して新たな1組の電極を積層することを繰り返すことにより、1組の電極を3段以上積層し(100、200、300)、かつ、それぞれの段により発生する横電界方向を異ならせることにより液晶の配向を2π周期でねじる電極構造を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶の応答速度を改善する液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、電界によって1方向に液晶分子をねじっている状態から、液晶の電圧をOFFにして液晶分子を元の状態に戻すときは、液晶の弾性を使っており、その応答速度を決めるパラメータは、弾性、粘性、セルギャップである。これらのパラメータにより応答改善を図るためには、材料の物理定数と製造工程での努力による狭ギャップに頼って開発努力をしていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。
上述のような応答速度を決めるパラメータに関して、材料の物理定数と製造工程の開発努力により応答速度の改善を図るには自ずと限界があり、飛躍的に応答改善を図ることが困難であった。
【0004】
さらに、IPSモードによる液晶表示装置に関しては、次のような問題がある。
IPSモード液晶は、液晶分子が基板に平行な面内でねじれる。そのために、液晶の正面からみたリターデション変化が少なく、視野角が広い。そのため、最近のテレビの主流の技術になっている。
【0005】
しかしながら、古くから使われてきているTNモード液晶と比べても、応答速度が遅く、特に、電界を取り去ったときに液晶分子を元の状態に戻す速度に相当するOFFの応答速度が遅い。これは、TNのときに効果がある弾性定数に比べると、IPSのときの弾性定数K22の効果が小さいためである。
【0006】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、弾性定数等のパラメータを切りつめることなく、液晶の応答速度の改善を図ることのできる液晶表示装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液晶表示装置は、表示電極および対向電極からなる1組の電極を基板上に設け、前記表示電極および前記対向電極の間に横電界を発生させるIPS構造を有する液晶表示装置において、基板上の前記1組の電極の上に、絶縁層を介して新たな1組の電極を積層することを繰り返すことにより、1組の電極を3段以上積層し、かつ、それぞれの段により発生する横電界方向を異ならせることにより液晶の配向を2π周期でねじる電極構造を備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、絶縁層の上下にくし型電極を配置した積層構造を有し、それぞれの積層段により発生する横電界方向を異ならせることにより液晶の配向を2π周期でねじる電極構造を実現することにより、弾性定数等のパラメータを切りつめることなく、液晶の応答速度の改善を図ることのできる液晶表示装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の液晶表示装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0010】
実施の形態1.
IPSモード液晶のOFFの応答速度は、次のように解釈される。液晶の応答速度を説明する前に、ゴムの応答速度について、まず始めに説明する。図1は、ゴムを引っ張ったときの元に戻る応答速度を説明するための概念図であり、横軸がゴムの距離、縦軸がゴムの引っ張り方向を示している。そして、この図1の関係を、液晶のねじれが元に戻る応答速度に対応させると、横軸がねじれ角θ、縦軸が液晶セル厚さdに相当する。
【0011】
図1に示すように、x軸の0とdとの間に張られたゴムは、引っ張らないときには、x軸と同一線上にある。また、指で矢印方向に引っ張ると、点線のようにゴムが伸びる。さらに、その状態からゴムを解き放つと、元の位置に戻る。このようなゴムの応答速度は、ゴムの弾性とdで決まる。
【0012】
次に、IPS液晶の場合の応答速度について説明する。
図2は、IPS液晶の一般的な上面図および断面図を示したものである。図2のIPS液晶は、表示電極10、対向電極20、液晶30、TFT40、ゲート電極50、および絶縁層60を備えている。そして、このようなIPS液晶は、表示電極10と対向電極20との間に発生する横電界の作用により、基板に平行な面内で液晶分子をねじっている。
【0013】
このようなIPS液晶においても、先の図1に示したゴムの場合と同様に、電界によってセルのギャップ方向中央部を電極に垂直な方向に引っ張り、電界をOFFすると、液晶の弾性で元に戻ると考えることができる。また、空気中では関係がないが、液晶中では粘性が高いと応答速度が遅くなる。つまり、OFFの応答速度は、ギャップdの二乗に比例し、粘性γ1に比例し、弾性定数K22に反比例する。
【0014】
従って、IPSの開発の歴史は、応答速度改善の歴史といっても過言ではなく、従来技術で述べたように、粘性とセルギャップを小さくすることにより応答速度の改善を図ってきた。これに対して、本願発明では、セル構造を変えることによって応答速度を改善することを技術的特徴としている。
【0015】
図3は、本発明の実施の形態1における液晶表示装置の応答速度の改善を説明するための概念図である。先に示した図1では、ゴムの1箇所を上方向に引っ張った場合を示したが、図3では、ゴムの上と下の2箇所を引っ張り、戻す場合に相当している。
【0016】
図1に示した状態でのOFFの応答速度(すなわち、電界をOFFにしたときに、液晶の弾性で元に戻る応答速度)τ1は、下式(1)で表される。
【0017】
【数1】

【0018】
上式(1)において、K22は液晶のツイストに関する弾性定数、dはセルギャップ、γ1は回転粘度である。そして、このOFFの応答速度τ1は、セルギャップdの二乗に比例し、回転粘度γ1に比例し、さらに、弾性定数K22に反比例する。また、上式(1)にはπが含まれているが、このπは定数であるため、変えることはできないものとして、従来は考えられていた。
【0019】
これに対して、図3に示した状態でのOFFの応答速度τ2は、下式(2)で表される。
【0020】
【数2】

【0021】
すなわち、πは、セルギャップdの中において、セル配向方向のツイストの変動の位相に相当するものと考えることができ、上式(2)に示したように、この場合のOFFの応答速度τ2は、2πを含む式として表される。
【0022】
さらに、図4は、本発明の実施の形態1における液晶表示装置の応答速度の改善を説明するための別の概念図である。先に示した図1では、ゴムの1箇所を上方向に引っ張った場合を示し、図3では、ゴムの上と下の2箇所を引っ張り、戻す場合を示したが、図4では、ゴムの上と下の4箇所を引っ張り、戻す場合に相当している。
【0023】
図4に示した状態でのOFFの応答速度τ3は、下式(3)で表され、この場合には、OFFの応答速度τ3は、4πを含む式として表されることとなる。
【0024】
【数3】

【0025】
したがって、図3あるいは図4に示したような液晶の配向を有する電極構造を実現できれば、OFFの応答速度をτ1からτ2あるいはτ3に改善することができる。結果的には、τ2はτ1の4倍、τ3は、τ1の16倍の応答速度となる。そこで、このような電極構造について、次に説明する。
【0026】
図5は、本発明の実施の形態1における応答速度を改善するための液晶表示装置の電極構造を示す図であり、図5(a)は上面図、図5(b)は断面図をそれぞれ示している。ポリマなどの絶縁層60を積層し、その上下に図5に示すようにして、第1の電極100、第2の電極200、第3の電極300をくし型に配置する。
【0027】
この図5における第1の電極100、第2の電極200、第3の電極300のそれぞれは、先の図2に示した構造と同様に、1本おきに表示電極と対向電極が交互に配置された1組の電極構成を有している。さらに、第1の電極100、第2に電極200、第3の電極300のそれぞれについて、先の図2に示したような横電界が発生するとともに、図5に示したように電極の方向をそれぞれ異ならせることにより、それぞれの電極により発生する横電界の方向を異ならせることができる。
【0028】
この結果、図3におけるA点、B点、C点に対応して、それぞれ第1の電極100、第2の電極200、第3の電極300により発生する横電界を作用させることができ、液晶の応答速度を改善できることとなる。
【0029】
以上のように、実施の形態1によれば、絶縁層の上下にくし型電極を配置するようにセル構造を工夫することにより、電界によって液晶の配向を2π周期でねじる配向をする液晶ディスプレイを実現できる。この結果、弾性、粘性、セルギャップ等のパラメータを切り詰めることなく、セル構造の工夫により、液晶の応答速度を従来の4倍以上改善することができ、例えば、テレビの動画の画質を向上させることが可能となる。
【0030】
なお、図5においては、4倍の応答速度を実現する図3に対応するセル構造を示したが、16倍の応答速度を実現する図4に対応するセル構造、あるいはそれ以上の応答速度を実現するセル構造も、絶縁層の上下にくし型電極を配置した構成を積層することにより実現可能である。
【0031】
また、図1、3、4で示した液晶のねじれ角θは、原理的に、0°<θ<90°、または、−90°<θ<0°の範囲で規定される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ゴムを引っ張ったときの元に戻る応答速度を説明するための概念図である。
【図2】IPS液晶の一般的な上面図および断面図を示したものである。
【図3】本発明の実施の形態1における液晶表示装置の応答速度の改善を説明するための概念図である。
【図4】本発明の実施の形態1における液晶表示装置の応答速度の改善を説明するための別の概念図である。
【図5】本発明の実施の形態1における応答速度を改善するための液晶表示装置の電極構造を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
10 表示電極、20 対向電極、30 液晶、40 TFT、50 ゲート電極、60 絶縁層、100 第1の電極、200 第2の電極、300 第3の電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示電極および対向電極からなる1組の電極を基板上に設け、前記表示電極および前記対向電極の間に横電界を発生させるIPS構造を有する液晶表示装置において、
前記基板上の前記1組の電極の上に、絶縁層を介して新たな1組の電極を積層することを繰り返すことにより、1組の電極を3段以上積層し、かつ、それぞれの段により発生する横電界方向を異ならせることにより液晶の配向を2π周期でねじる電極構造を備えることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液晶表示装置において、
前記液晶のねじれ角θは、
0°<θ<90°、または、−90°<θ<0°
であることを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−164847(P2008−164847A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353300(P2006−353300)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(501426046)エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド (732)
【Fターム(参考)】