説明

液晶装置の製造方法

【課題】液晶装置における焼き付き等の表示不良を防止する。
【解決手段】液晶装置の製造方法は、素子基板(10)と、該素子基板と対向配置される対向基板(20)とを備える液晶装置(100)の製造方法である。該製造方法は、対向基板上に、ITOを含んでなる対向電極(21)を形成する対向電極形成工程と、素子基板上に、ITOを含んでなる画素電極(9a)を形成する画素電極形成工程とを備える。画素電極形成工程では、画素電極形成工程における酸素流量と対向電極形成工程における酸素流量との差分が、素子基板の開口率に応じて変更される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置の製造方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の方法により製造される液晶装置では、例えば焼き付き等の表示不良を防止することが図られる。例えば特許文献1には、TFT(Thin Film Transistor)基板及び対向基板に、画素電極及び対向電極を夫々形成した後に、TFT基板及び対向基板を還元性雰囲気下で加熱しながら、画素電極及び対向電極の上に無機配向膜を夫々形成する方法が開示されている。
【0003】
或いは特許文献2には、TFT基板及び対向基板に、画素電極及び対向電極を夫々形成した後に、TFT基板及び対向基板を、塩素系ガス雰囲気下で加熱しながら、画素電極及び対向電極に対して脱水酸基処理を行い、画素電極及び対向電極上の水酸基を除去する方法が開示されている。或いは特許文献3には、TFT基板及び対向基板に電極を夫々形成した後に、TFT基板及び対向基板のいずれか一方に形成された電極にプラズマ処理を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−203712号公報
【特許文献2】特開2008−209692号公報
【特許文献3】特開2008−185669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の背景技術によれば、電極形成後に、例えば加熱処理、脱水酸基処理、プラズマ処理等の表面処理を行わなければならず、製造工程が比較的複雑になる可能性があるという技術的問題点がある。
【0006】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、比較的簡便な方法により、焼き付き等の表示不良を防止することができる液晶装置の製造方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液晶装置の製造方法は、上記課題を解決するために、素子基板と、前記素子基板と対向配置される対向基板とを備える液晶装置の製造方法であって、前記対向基板上に、ITOを含んでなる対向電極を形成する対向電極形成工程と、前記素子基板上に、ITOを含んでなる画素電極を形成する画素電極形成工程とを備え、前記画素電極形成工程では、前記画素電極形成工程における酸素流量と前記対向電極形成工程における酸素流量との差分が、前記素子基板の開口率に応じて変更される。
【0008】
本発明の液晶装置の製造方法によれば、当該製造方法は、素子基板と、該素子基板と対向配置される対向基板とを備える液晶装置の製造方法である。対向電極形成工程において、対向基板上に、ITO(Indium Tin Oxide)を含んでなる対向電極が形成される。画素電極形成工程において、素子基板上に、ITOを含んでなる画素電極が形成される。
【0009】
本発明では特に、画素電極形成工程において、該画素電極形成工程における酸素流量と対向電極形成工程における酸素流量との差分(即ち、画素電極形成工程における酸素流量−対向電極形成工程における酸素流量)が、素子基板の開口率に応じて変更される。具体的には例えば、前記差分は、素子基板の開口率が大きくなるほど、大きくなるように変更される。
【0010】
尚、画素電極形成工程における酸素流量、及び対向電極形成工程における酸素流量の各々は、例えば2sccm(standard cc/min)等である所定値以下であり、極力小さいことが望ましい。ここで、本発明に係る「所定値」は、例えば、当該製造方法により製造された液晶装置に光が照射された際に、液晶光劣化が生じないような値として設定すればよい。
【0011】
本願発明者の研究によれば、以下の事項が判明している。即ち、画素電極形成時における酸素流量と対向電極形成時における酸素流量との差分と、最適なVcomの変動量との間には、負の相関関係がある。一方、酸素流量を任意の値に固定した場合、素子基板の開口率と、最適なVcomの変動量との間には、正の相関関係がある。従って、素子基板の開口率と、最適なVcomが変動しない前記差分との間には正の相関関係がある。このため、素子基板の開口率に応じて前記差分を設定すれば、最適なVcomの変動を抑制することができる。
【0012】
上述の如く、本発明では、画素電極形成工程において、該画素電極形成工程における酸素流量と対向電極形成工程における酸素流量との差分が、素子基板の開口率に応じて変更される。このため、最適なVcomの変動を抑制することができる。この結果、最適なVcomの変動に起因する、例えばフリッカ、焼き付き等の発生を防止することができる。加えて、画素電極及び対向電極が形成された後に、該画素電極及び対向電極に対して後処理を必要としないので、実用上非常に有利である。
【0013】
以上の結果、本発明の液晶装置の製造方法によれば、比較的簡便な方法により、焼き付き等の表示不良を防止することができる。
【0014】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る液晶装置を、TFTアレイ基板上に形成された各構成要素と共に対向基板の側から見た平面図である。
【図2】図1のH−H´線断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る液晶装置の製造方法の一部の工程を示す工程断面図である。
【図4】ΔO流量と最適Vcomの変動量との関係の一例を示す実験値である。
【図5】TFTアレイ基板の開口率と最適Vcomの変動率との関係の一例を示す実験値である。
【図6】TFTアレイ基板の開口率と、最適Vcomが変動しないΔO流量との関係の一例を示す実験値である。
【図7】外部直流電圧と最適Vcomの変動量との関係の一例を示す実験値である。
【図8】酸素流量と傾きとの関係の一例を示す実験値である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る液晶装置の製造方法の実施形態を、図面に基づいて説明する。尚、以下の図では、各層・各部材を図面上で確認可能な程度の大きさとするために、該各層・各部材毎に縮尺を異ならしめている。
【0017】
<液晶装置>
先ず、本発明に係る液晶装置の製造方法により製造された液晶装置の実施形態を、図1及び図2を参照して説明する。また、本実施形態では、液晶装置として、駆動回路内蔵型のアクティブマトリックス駆動方式の液晶装置を例に挙げる。
【0018】
本実施形態に係る液晶装置の全体構成について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る液晶装置を、TFTアレイ基板上に形成された各構成要素と共に対向基板の側から見た平面図であり、図2は、図1のH−H´線断面図である。
【0019】
図1及び図2において、本実施形態に係る液晶装置100では、TFTアレイ基板10及び対向基板20が対向配置されている。本発明に係る「素子基板」の一例としてのTFTアレイ基板10は、例えば、石英基板、ガラス基板、シリコン基板等の基板からなり、対向基板20は、例えば、石英基板、ガラス基板等の基板からなる。TFTアレイ基板10と対向基板20との間に液晶層50が封入されており、TFTアレイ基板10と対向基板20とは画像表示領域10aの周囲に位置するシール領域に設けられたシール材52により相互に接着されている。
【0020】
シール材52は、両基板を貼り合わせるための、例えば紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂、又は紫外線・熱併用型硬化樹脂等からなり、製造プロセスにおいてTFTアレイ基板10上に塗布された後、紫外線照射、加熱等により硬化させられたものである。シール材52中には、TFTアレイ基板10と対向基板20との間隔(即ち、ギャップ)を所定値とするためのグラスファイバ或いはガラスビーズ等のギャップ材が散布されている。尚、ギャップ材を、シール材52に混入されるものに加えて若しくは代えて、画像表示領域10a又は画像表示領域10aの周辺に位置する周辺領域に、配置するようにしてもよい。
【0021】
図1において、シール材52が配置されたシール領域の内側に並行して、画像表示領域10aを規定する遮光性の額縁遮光膜53が、対向基板20側に設けられている。但し、このような額縁遮光膜53の一部又は全部は、TFTアレイ基板10側に内蔵遮光膜として設けられてもよい。
【0022】
周辺領域のうち、シール材52が配置されたシール領域の外側に位置する領域には、データ線駆動回路101及び外部回路接続端子102がTFTアレイ基板10の一辺に沿って設けられている。この一辺に沿ったシール領域よりも内側にサンプリング回路7が額縁遮光膜53に覆われるようにして設けられている。走査線駆動回路104は、この一辺に隣接する2辺に沿ったシール領域の内側の額縁領域に、額縁遮光膜53に覆われるようにして設けられている。
【0023】
TFTアレイ基板10上には、対向基板20の4つのコーナー部に対向する領域に、両基板間を上下導通材107で接続するための上下導通端子106が配置されている。これらにより、TFTアレイ基板10と対向基板20との間で電気的な導通をとることができる。更に、外部回路接続端子102と、データ線駆動回路101、走査線駆動回路104、上下導通端子106等とを電気的に接続するための引回配線90が形成されている。
【0024】
図2において、TFTアレイ基板10上には、駆動素子である画素スイッチング用のトランジスタや走査線、データ線等の配線が作り込まれた積層構造が形成される。この積層構造の詳細な構成については図2では図示を省略してあるが、この積層構造の上に、ITOを含んでなる画素電極9aが、画素毎に所定のパターンで島状に形成されている。
【0025】
画素電極9aは、後述する対向電極21に対向するように、TFTアレイ基板10上の画像表示領域10aに形成されている。TFTアレイ基板10における液晶層50の面する側の表面、即ち画素電極9a上には、配向膜16が画素電極9aを覆うように形成されている。
【0026】
対向基板20におけるTFTアレイ基板10との対向面上に、遮光膜23が形成されている。遮光膜23は、例えば対向基板20における対向面上に平面的に見て、格子状に形成されている。対向基板20において、遮光膜23によって非開口領域が規定され、遮光膜23によって区切られた領域が、例えばプロジェクタ用のランプや直視用のバックライトから出射された光を透過させる開口領域となる。尚、遮光膜23をストライプ状に形成し、該遮光膜23と、TFTアレイ基板10側に設けられたデータ線等の各種構成要素とによって、非開口領域を規定するようにしてもよい。
【0027】
遮光膜23上に、ITOを含んでなる対向電極21が複数の画素電極9aと対向して形成されている。遮光膜23上に、画像表示領域10aにおいてカラー表示を行うために、開口領域及び非開口領域の一部を含む領域に、図2には図示しないカラーフィルタが形成されるようにしてもよい。対向基板20の対向面上における、対向電極21上には、配向膜22が形成されている。
【0028】
尚、図1及び図2に示したTFTアレイ基板10上には、これらのデータ線駆動回路101、走査線駆動回路104、サンプリング回路7等に加えて、複数のデータ線に所定電圧レベルのプリチャージ信号を画像信号に先行して各々供給するプリチャージ回路、製造途中や出荷時の当該液晶装置の品質、欠陥等を検査するための検査回路等を形成してもよい。
【0029】
<液晶装置用基板の製造方法>
次に、本発明に係る液晶装置の実施形態を、図3乃至図8を参照して説明する。図3は、本実施形態に係る液晶装置の製造方法の一部の工程を示す工程断面図である。
【0030】
対向電極形成工程において、対向基板20上に、ITOを含んでなる対向電極21が形成される(図3(a)参照)。画素電極形成工程において、例えば、駆動素子である画素スイッチング用のトランジスタや走査線、データ線等の配線が作り込まれた積層構造(図示せず)が形成されたTFTアレイ基板10上に、ITOを含んでなる複数の画素電極9aが、対向電極21に対向するように形成される(図3(b)参照)。
【0031】
ここで、本実施形態では、画素電極9aが形成される際(即ち、TFTアレイ基板10上にITO膜が形成される際)における酸素流量と、対向電極21が形成される際(即ち、対向基板20上にITO膜が形成される際)における酸素流量との差分が、TFTアレイ基板10の開口率に応じて変更される。加えて、画素電極9aが形成される際における酸素流量、及び対向電極21が形成される際における酸素流量を、2sccm以下で極力小さくなるように設定している。
【0032】
本願発明者の研究によれば、以下の事項が判明している。即ち、(i)図4に示すように、TFTアレイ基板10のITO成膜時における酸素流量と、対向基板20のITO成膜時における酸素流量との差分であるΔO流量(即ち、TFTアレイ基板10のITO成膜時における酸素流量−対向基板20のITO成膜時における酸素流量)と、最適Vcomの変動量との間には、負の相関関係がある。尚、図4は、ΔO流量と最適Vcomの変動量との関係の一例を示す実験値である。
【0033】
(ii)図5に示すように、酸素流量を固定した場合、TFTアレイ基板10の開口率と最適Vcomの変動量との間には、正の相関関係がある。尚、図5は、TFTアレイ基板の開口率と最適Vcomの変動率との関係の一例を示す実験値である。
【0034】
(iii)上記(i)及び(ii)より、TFTアレイ基板10の開口率と、最適Vcomが変動しないΔO流量と、の間には正の相関関係がある(図6参照)。従って、図6に示すような関係に基づいて、TFTアレイ基板10の開口率に応じて、TFTアレイ基板10上にITO膜が形成される際の酸素流量を設定することによって、最適Vcomの変動を抑制することができる。尚、図6は、TFTアレイ基板の開口率と、最適Vcomが変動しないΔO流量との関係の一例を示す実験値である。
【0035】
(iv)図7に示すように、液晶装置に外部から直流(DC)電圧が印加されると、最適Vcomの変動が生じる。尚、図7は、外部直流電圧と最適Vcomの変動量との関係の一例を示す実験値である。
【0036】
(v)図7に示したような関係における直線の傾きと、TFTアレイ基板10又は対向基板20のITO成膜時における酸素流量と、の間には正の相関関係がある(図8参照)。例えばノイズ等の意図しない外部直流電圧が液晶装置に印加された場合であっても最適Vcomが変動しないことが実践上望ましい(即ち、図7中の直線の傾きが小さいことが望ましい)。従って、TFTアレイ基板10及び対向基板20各々のITO成膜時における酸素流量は極力小さいことが望ましい。尚、図8は、酸素流量と傾きとの関係の一例を示す実験値である。
【0037】
(vi)酸素流量が2sccmを超えた場合、液晶装置に光が照射された際に、光と液晶との化学的相互作用による液晶光劣化が促進されるため、酸素流量は2sccm以下であることが要求される。
【0038】
(vii)上記(v)及び(vi)より、TFTアレイ基板10及び対向基板20各々のITO成膜時における酸素流量を、2sccm以下で極力小さくすることによって、液晶の光劣化を防止し、例えばノイズ等の外部直流電圧に起因する影響を抑制することができる。
【0039】
本実施形態では、上述の如く、画素電極9aが形成される際における酸素流量と、対向電極21が形成される際における酸素流量との差分が、TFTアレイ基板10の開口率に応じて変更される。更に、画素電極9aが形成される際における酸素流量、及び対向電極21が形成される際における酸素流量を、2sccm以下で極力小さくなるように設定している。
【0040】
このため、本実施形態に係る製造方法により製造された液晶装置100は、最適Vcomの変動を抑制することができる。この結果、最適Vcomの変動に起因する、例えばフリッカ、焼き付き等の発生を防止することができる。加えて、画素電極9a及び対向電極21が形成された後に、画素電極9a及び対向電極21に対して、例えば加熱処理、脱水酸基処理、プラズマ処理等の後処理を必要としないので、実用上非常に有利である。
【0041】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う液晶装置の製造方法もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0042】
9a…画素電極、10…TFTアレイ基板、20…対向基板、21…対向電極、100…液晶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子基板と、前記素子基板と対向配置される対向基板とを備える液晶装置の製造方法であって、
前記対向基板上に、ITOを含んでなる対向電極を形成する対向電極形成工程と、
前記素子基板上に、ITOを含んでなる画素電極を形成する画素電極形成工程と
を備え、
前記画素電極形成工程では、前記画素電極形成工程における酸素流量と前記対向電極形成工程における酸素流量との差分が、前記素子基板の開口率に応じて変更される
ことを特徴とする液晶装置の製造方法。
【請求項2】
前記差分は、前記開口率が大きくなるほど、大きくなるように変更されることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項3】
前記対向電極形成工程における酸素流量、及び前記画素電極形成工程における酸素流量は、共に所定値以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−158531(P2011−158531A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17926(P2010−17926)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】