説明

液晶装置の製造方法

【課題】通電による焼き付き現象を低減可能な無機配向膜を備えた液晶装置の製造方法を
提供すること。
【解決手段】本適用例の液晶装置の製造方法は、一対の基板のうち少なくとも一方の基板
の液晶層に面する側の表面に少なくとも酸素を含む雰囲気中で紫外線を照射する前処理工
程(ステップS2、ステップS12)と、紫外線が照射された表面に無機配向膜を形成す
る無機配向膜形成工程(ステップS3、ステップS13)と、を備え、無機配向膜形成工
程の前には、上記前処理工程以外の表面処理工程を行わない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶装置は、一般的に一対の基板と、一対の基板間に封入された液晶層とを有し、液晶
層に面する一対の基板の表面には、液晶分子を所定の方位角方向に配列させると共に、基
板面に対してプレチルト角を与える配向膜が形成されている。
このような配向膜の材料としては、有機材料と無機材料の両方が用いられており、有機
材料の代表的な例としてはポリイミドが挙げられ、無機材料の代表的な例としては酸化シ
リコンが挙げられる。前者は、例えば基板上に形成された有機配向膜を所定の方向に擦る
(ラビング処理)ことによって配向制御を行う。後者は、例えば無機材料を基板上に斜方
蒸着することで配向制御を行っている。
【0003】
上記有機配向膜を対象としたラビング処理では、綿やレーヨンなどのラビング部材で膜
面を擦るので有機配向膜自体が削れたり、ラビング部材が磨耗したりして異物が発生し、
それがラビング処理された膜面に付着して配向不良の原因となるため、ラビング処理後に
上記異物を取り除く洗浄を行うことが提案されている。
例えば、特許文献1では、ラビング処理が施された基板を溶液中に浸漬してから、枚葉
式の洗浄を行っている。溶液としては、純水、非イオン系界面活性剤、弱アルカリ性水溶
液、弱酸性水溶液、有機溶媒が挙げられている。
【0004】
また、当然ながら清浄な状態の基板面に配向膜を形成しないと、ピンホールなどの膜ム
ラが生じ、これまた配向不良の要因となるので、配向膜を形成する前の基板の洗浄方法も
提案されている。
例えば、特許文献2,3,4では、基板を水(純水)で超音波洗浄やシャワー洗浄した
後に、紫外線を照射して、水に溶解可能あるいは分散可能な異物だけでなく、紫外線照射
に伴って発生したオゾンによって水に溶けにくい有機物を化学的に分解して取り除く方法
が提案されている。
【0005】
一方で無機配向膜に対する表面処理としては、高級アルコールで処理する方法(特許文
献5)、無機配向膜と反応固着する有機化合物溶液からなる洗浄液で洗浄する方法(特許
文献6)などが提案されている。
さらには、洗浄液中に設けられた一対の電極間に電圧を印加して電界を発生させ、該一
対の電極間に無機配向膜が形成された基板を浸漬して、イオン性不純物を除去する方法(
特許文献7)や、形成された無機配向膜面にオゾン水を供給して有機物などの異物を除去
すると共に、オゾン水の強酸化作用により無機配向膜面に存在するSi原子を一様に酸化
させる方法(特許文献8)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−160855号公報
【特許文献2】特開平3−254874号公報
【特許文献3】特開2002−196337号公報
【特許文献4】特開2003−75795号公報
【特許文献5】特開2000−47211号公報
【特許文献6】特開2008−83222号公報
【特許文献7】特開2007−187862号公報
【特許文献8】特開2008−224923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1〜特許文献8に示すように、配向膜の形成前に基板を清浄化する処理あ
るいは形成後の配向膜に施される処理は液晶装置の製造において重要な工程であり、実際
の場面では汚染物に対応して様々な洗浄あるいは表面処理が組み合わされて用いられるた
め、製造工程が複雑になるという課題がある。
とりわけ、無機配向膜の場合、酸化シリコンなどの無機材料は基板表面に対して所定の
方向に成長するように成膜されるので、特許文献6に記載されているとおり配向膜の構造
は多孔質であることが知られている。そうすると、無機配向膜が形成される前の基板表面
におけるイオン性不純物を適正に取り除いておかないと、一対の基板間に封入された液晶
層に対して、時間の経過と共にイオン性不純物が拡散し、基板表面において蓄電層が形成
され易くなり、通電により所謂焼き付き現象を引き起こすという課題がある。
言い換えれば、無機配向膜の形成に関する基板の適正な表面処理方法を見出す必要があ
るという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]本適用例の液晶装置の製造方法は、一対の基板と、前記一対の基板に挟持
された液晶層とを有する液晶装置の製造方法であって、前記一対の基板のうち少なくとも
一方の基板の前記液晶層に面する側の表面に少なくとも酸素を含む雰囲気中で紫外線を照
射する前処理工程と、前記紫外線が照射された前記表面に無機配向膜を形成する無機配向
膜形成工程と、を備え、前記無機配向膜形成工程の前には、前記前処理工程以外の表面処
理工程を行わないことを特徴とする。
【0010】
この方法によれば、前処理工程において、無機配向膜形成前の基板に紫外線を照射する
ことにより、紫外線照射により発生したオゾンによって基板表面に付着した有機物質から
なる異物を分解除去するだけでなく、イオン性不純物をも取り除いて、基板表面を清浄化
することができる。清浄化された基板表面に無機配向膜を形成するので、ピンホールなど
の欠陥による初期的な配向不良が低減されると共に、イオン性不純物に起因する焼き付き
現象を低減することができる。すなわち、高い信頼性と表示品質とを兼ね備えた液晶装置
を製造できる。
【0011】
[適用例2]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記一方の基板上に導電膜を
形成する導電膜形成工程を備え、前記前処理工程は、前記導電膜が形成された前記一方の
基板の表面に紫外線を照射するとしてもよい。
この方法によれば、紫外線の照射により、導電膜の形成に伴って付着した異物やイオン
性不純物を除去して、少なくとも一方の基板における無機配向膜形成面の清浄化を実現で
きる。
【0012】
[適用例3]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記前処理工程の前に前記一
対の基板のうち少なくとも一方の基板を純水洗浄する純水洗浄工程を備えるとしてもよい

この方法によれば、前処理工程の前段階における一対の基板のうち少なくとも一方の基
板を純水洗浄によってある程度の異物やイオン性不純物を除去してから、紫外線を照射す
るので、少なくとも一方の基板における高い清浄度が得られる。
【0013】
[適用例4]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記一方の基板には、スイッ
チング素子が形成されていないことが望ましい。
この方法によれば、紫外線照射に伴うスイッチング素子の不具合を低減して、高い歩留
まりで液晶装置を製造することができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例の液晶装置の製造方法において、前記無機配向膜形成工程は、
酸化シリコンを斜方蒸着することにより前記無機配向膜を形成し、前記無機配向膜が形成
された前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板をイソプロピルアルコールを用いて洗
浄する後処理工程をさらに備えることが望ましい。
この方法によれば、無機配向膜面におけるシラノール基(−Si−OH)とイソプロピ
ルアルコールのイソプロピル基(−C37)とを反応させて、無機配向膜の表面に反応層
が形成される。この反応層により無機配向膜の表面での液晶分子との反応活性を抑制或い
は阻止することができるので、液晶層における液晶分子の安定的な配向状態を実現できる

【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は液晶装置の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のH−H’線で切った概略断面図。
【図2】(a)は画素の構成を示す概略平面図、(b)は(a)のA−A’線で切った概略断面図。
【図3】液晶装置における液晶分子の配向状態を示す概略断面図。
【図4】液晶装置の製造方法を示すフローチャート。
【図5】マザー基板を示す概略平面図。
【図6】蒸着装置の構造を示す概略断面図。
【図7】基板表面における異物の付着状態やイオン性不純物の残存状態を表面分析した結果を示すグラフ。
【図8】液晶装置の通電による焼き付きの評価結果を示すグラフ。
【図9】液晶装置の通電時間と最適COM電位のシフト量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、使用する図
面は、説明する部分が認識可能な状態となるように、適宜拡大または縮小して表示してい
る。
【0017】
本実施形態では、薄膜トランジスター(Thin Film Transistor;TFT)を画素のス
イッチング素子として備えたアクティブマトリクス型の液晶装置を例に挙げて説明する。
この液晶装置は、例えば投射型表示装置(液晶プロジェクター)の光変調素子(液晶ライ
トバルブ)として好適に用いることができるものである。
【0018】
<液晶装置>
本実施形態の液晶装置について、図1〜図3を参照して説明する。図1(a)は液晶装
置の構成を示す概略平面図、同図(b)は同図(a)のH−H’線で切った概略断面図、
図2(a)は画素の構成を示す概略平面図、同図(b)は同図(a)のA−A’線で切っ
た概略断面図、図3は液晶装置における液晶分子の配向状態を示す概略断面図である。
【0019】
図1(a)および(b)に示すように、本実施形態の液晶装置100は、一対の基板と
しての素子基板10および対向基板20と、これら一対の基板によって挟持された液晶層
50とを有する。
素子基板10は対向基板20よりも一回り大きく、両基板は、額縁状に配置されたシー
ル材40を介して接合され、その隙間に例えば負の誘電異方性を有する液晶が封入されて
液晶層50を構成している。シール材40は、例えば熱硬化性または紫外線硬化性のエポ
キシ樹脂などの接着剤が採用されている。シール材40には、一対の基板の間隔を一定に
保持するためのスペーサー(図示省略)が混入されている。
【0020】
額縁状に配置されたシール材40の内側には、同じく額縁状に見切り部21が設けられ
ている。見切り部21は、例えばボロンがドープされた酸化シリコンの絶縁膜からなり遮
光性を有している。見切り部21の内側が複数の画素Pを有する表示領域Eとなっている

【0021】
素子基板10の1辺部に沿ったシール材40との間にデータ線駆動回路101が設けら
れている。また、該1辺部に沿ったシール材40の内側にサンプリング回路103が設け
られている。さらに、該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺部に沿ったシール材40
の内側に走査線駆動回路102が設けられている。該1辺部と対向する他の1辺部のシー
ル材40の内側には、2つの走査線駆動回路102を繋ぐ複数の配線105が設けられて
いる。これらデータ線駆動回路101、走査線駆動回路102に繋がる配線は、該1辺部
に沿って配列した複数の外部接続端子104に接続されている。
以降、該1辺部に沿った方向をX方向とし、該1辺部と直交し互いに対向する他の2辺
部に沿った方向をY方向として説明する。
【0022】
図1(b)に示すように、素子基板10の液晶層50側の表面には、画素Pごとに設け
られた光透過性を有する画素電極15およびスイッチング素子としての薄膜トランジスタ
ー30と、信号配線と、これらを覆う配向膜18とが形成されている。
【0023】
対向基板20の液晶層50側の表面には、見切り部21と、これを覆うように成膜され
た平坦化層22と、平坦化層22を覆うように設けられた共通電極23と、共通電極23
を覆う配向膜24とが設けられている。
【0024】
見切り部21は、図1(a)に示すように平面的にデータ線駆動回路101や走査線駆
動回路102、サンプリング回路103と重なる位置において額縁状に設けられている。
これにより対向基板20側から入射する光を遮蔽して、これらの駆動回路を含む周辺回路
の光による誤動作を防止する役目を果たしている。また、不必要な迷光が表示領域Eに入
射しないように遮蔽して、表示領域Eの表示における高いコントラストを確保している。
【0025】
配向膜18および配向膜24は、無機材料からなる無機配向膜であって、無機材料とし
てのSiOx(酸化シリコン)を斜方蒸着して得られたものである。このような配向膜1
8,24により挟まれた液晶層50における液晶分子の配向状態については後述する。
【0026】
対向基板20に設けられた共通電極23は、図1(a)に示すように対向基板20の四
隅に設けられた上下導通部106により素子基板10側の配線に電気的に接続している。
【0027】
図2(a)に示すように、液晶装置100の画素Pは、互いに交差(直交)する走査線
3aとデータ線6aとにより区画された領域に略四角形の画素電極15を有している。画
素電極15は、例えばITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜からなり光透過性
を有している。
【0028】
TFT30は、走査線3aとデータ線6aとの交差点近傍における走査線3a上に設け
られている。該走査線3a上に沿って半導体層30aが設けられ、半導体層30aのソー
ス側と重なるように、データ線6aと一体的に形成されたソース電極30sが設けられて
いる。また、半導体層30aのドレイン側と重なるようにドレイン電極30dが設けられ
ている。
【0029】
ドレイン電極30dは画素電極15側に延出され、延出された部分がコンタクトホール
15aを介して画素電極15と電気的に接続されている。
【0030】
容量線3bは、走査線3aと平行して設けられており、走査線3aとデータ線6aとに
より区画された領域内において、容量線3bと平面的に重なる領域にドレイン電極30d
の延出部30eが設けられている。
【0031】
より具体的には、図2(b)に示すように、まず素子基板10上にアルミニウムなどの
低抵抗配線材料からなる走査線3aと、これに平行する容量線3bとが形成される。走査
線3aと容量線3bとを覆って例えばシリコンの酸化物からなるゲート絶縁膜11が形成
される。続いて、ゲート絶縁膜11上において走査線3aと重なる位置に半導体層30a
が島状に形成される。半導体層30aのソース領域と重なるようにソース電極30sが形
成され、同じく半導体層30aのドレイン領域に重なるようにドレイン電極30dが形成
される。ソース電極30s、ドレイン電極30dは低抵抗配線材料を成膜してパターニン
グすることにより得られるものであり、データ線6aはソース電極30sやドレイン電極
30dを形成する工程で一緒にパターニング形成されている。また、同様にしてドレイン
電極30dに繋がる延出部30eも容量線3bと重なる位置に形成される。
ゲート絶縁膜11を介して対向配置された容量線3bと延出部30eとによって保持容
量16が構成されている。
これらのTFT30および保持容量16を覆うように例えばシリコンの酸化物や窒化物
からなる層間絶縁膜12が形成され、層間絶縁膜12のドレイン電極30dと平面的に重
なる位置にコンタクトホール15aが形成される。層間絶縁膜12を覆うように透明導電
膜を成膜してパターニングすることにより、コンタクトホール15aを介してドレイン電
極30dと電気的に接続された画素電極15が形成される。
【0032】
そして、画素電極15を覆うように配向膜18が形成されている。配向膜18は、前述
したように無機材料としてのSiOx(酸化シリコン)を斜方蒸着して形成されたもので
ある。斜方蒸着の平面的な蒸着方向は、図2(a)において矢印で示した方向であり、走
査線3aの延在方向に対してθaの角度を有し、画素Pの右上から左下に向かっている。
この場合、蒸着方向の角度θaはおよそ45度である。また、紙面に垂直な方向つまり画
素電極15の表面に対して垂直な方向における蒸着方向の角度もおよそ45度となってい
る(図3参照)。
【0033】
このような斜方蒸着によれば、図2(b)に示すように、無機材料としてのSiOx
結晶が基板面に対して斜め方向に成長した柱状体(カラム)18cが形成される。配向膜
18は、このような柱状体(カラム)18cが基板面に林立した集合体からなる。
図2(a)および(b)では、素子基板10側の構成について説明したが、対向基板2
0における配向膜24についても同様に斜方蒸着を用いて共通電極23を覆うように形成
され、その平面的な蒸着方向は、素子基板10における角度θaの蒸着方向に対して18
0度逆向きとなっている。
【0034】
図3は液晶装置における無機配向膜の形成状態と液晶分子の配向状態とを示す概略断面
図である。詳しくは、図2(a)における斜方蒸着の蒸着方向に沿って切ったときの断面
図である。
【0035】
図3に示すように、液晶層50に面した基板面に対する配向膜18,24における蒸着
方向の角度θbはおよそ45度である。また、基板面に対するカラムの成長方向の角度θ
cはおよそ70度となっている。以降、角度θcをカラム角度θcと呼ぶ。
【0036】
このような配向膜18,24の表面において略垂直配向する液晶分子LCのプレチルト
角θpはおよそ85度である。また、基板面の法線方向から見た液晶分子LCのプレチル
トの方向すなわち方位角方向は、配向膜18,24における斜方蒸着の平面的な蒸着方向
と同じである。
【0037】
液晶装置100は、液晶パネル110の光の入射側と射出側とにそれぞれ配置された偏
光素子41,42を有している。偏光素子41,42は、互いの吸収軸または透過軸が直
交するように液晶パネル110に対して配置されている。より具体的には、一方の吸収軸
または透過軸が走査線3aと平行し、他方の吸収軸または透過軸がデータ線6aとに平行
するように配置されている(図2(a)参照)。
すなわち、偏光素子41,42の透過軸または吸収軸に対して液晶分子LCのプレチル
トの方位角方向が45度で交差しており、画素電極15と共通電極23との間に駆動電圧
を印加して液晶層50を駆動すると、液晶分子LCがプレチルトの方位角方向に倒れるこ
とにより、高い透過率が得られる光学的な配置となっている。
【0038】
また、液晶装置100は、配向膜18,24が形成される前の素子基板10や対向基板
20の表面を清浄化する前処理と、配向膜18,24が形成された後の配向膜面を表面処
理する後処理とが施されている。これにより、通電による焼き付き現象の低減を図ると共
に、液晶層50における液晶分子LCの安定的な配向状態を実現している。詳しい、前処
理と後処理の内容は、次の液晶装置100の製造方法において説明する。
【0039】
<液晶装置の製造方法>
次に、本実施形態の液晶装置100の製造方法について、図4〜図6を参照して説明す
る。図4は液晶装置の製造方法を示すフローチャート、図5はマザー基板を示す概略平面
図、図6は蒸着装置の構造を示す概略断面図である。
【0040】
図4に示すように、本実施形態の液晶装置100の製造方法は、素子基板10の製造に
関連するステップS1〜ステップS4と、対向基板20の製造に関連するステップS11
〜ステップS14と、できあがった素子基板10と対向基板20とを用いて両基板を貼り
合わせるステップS21と、貼り合わされた素子基板10と対向基板20との隙間に液晶
を注入して封止するステップS22と、を備えている。
【0041】
なお、本実施形態の液晶装置100の製造方法は、図5に示すように、ウェハ状のマザ
ー基板10Wを用いて行われる。マザー基板10Wは、オリフラを基準として素子基板1
0の長手方向(X方向)と短手方向(Y方向)とにマトリクス状に複数の素子基板10が
面付けされた状態で素子基板10側の加工が行われる。マザー基板10Wの個々の素子基
板10に対して個片の対向基板20が1つずつ貼り合わされる。
【0042】
対向基板20は、個片の状態で加工を施してもよいし、素子基板10と同様にマザー基
板に面付けされた状態で加工を施し、マザー基板10Wの素子基板10に貼り合せる前に
個片化してもよい。
【0043】
まず、素子基板10側から説明すると、ステップS1の素子基板側薄膜形成工程では、
画素Pを構成するところの走査線3a、容量線3b、データ線6a、TFT30、画素電
極15などの構造物(薄膜)を素子基板10上に形成する。これらの構造物の製造方法は
、公知の製造方法を用いることができ、例えば、TFT30における半導体層30aは、
減圧CVD法などを用いて非結晶質シリコン膜を形成し、これを高温で熱処理することに
より結晶化させて得られた多結晶質シリコン膜をパターニングすることにより形成するこ
とができる。そして、ステップS2へ進む。
【0044】
ステップS2の前処理工程では、まず、純水で素子基板10を洗浄して、乾燥させる。
純水洗浄の方法としては、40℃〜60℃程度に加温された純水中に素子基板10を浸漬
して超音波を印加する方法、素子基板10の表面に純水を加圧して噴き付ける方法、ある
いはこれらの方法を組み合わせた方法を採用してもよい。
そして、次のステップS3において無機配向膜が形成される側の表面に大気中で紫外線
を照射する。紫外線の照射条件は、例えば以下の通りである。
光源;低圧水銀灯、波長;185nm(10%)+254nm(90%)
照度;25mW/cm2〜30mW/cm2、照射時間;5分
紫外線の照射により大気中の酸素が励起されオゾンが発生する。発生したオゾンにより
有機物からなる異物はオゾンと反応して、炭酸ガスや水蒸気となり排出される。また、有
機物の除去に伴って、表面に残存するイオン性不純物も取り除くことができる。なお、紫
外線の照射によりスイッチング素子としてのTFT30の電気特性変化が懸念される場合
は、紫外線の照射を取り止めてもよい。そして、ステップS3へ進む。
【0045】
ステップS3の無機配向膜形成工程では、酸化シリコンを斜方蒸着することにより、素
子基板10の表面において画素電極15を覆う無機配向膜としての配向膜18を形成する
(図2および図3参照)。
【0046】
ここで斜方蒸着の方法について、図6を参照して説明する。配向膜18は、図6に示す
蒸着装置300にて成膜される。すなわち、マザー基板10Wを蒸着室308の上部に垂
設されている基板配設部307に所定の角度θb(図3参照、およそ45度)でセットし
た後、真空ポンプ310を作動させて、蒸着室308内を減圧する。一方、蒸着室308
の底部に配設されている蒸着源302を加熱装置(図示せず)にて加熱し、この蒸着源3
02から酸化シリコンの蒸気を発生させる。蒸着源302で発生した酸化シリコンの蒸気
流は、蒸気流通部303に設けられた開口部303aを介して放出され、マザー基板10
Wの表面に酸化シリコンが斜方蒸着される。すると、マザー基板10Wの面上に、酸化シ
リコンの柱状体18cがマザー基板10Wの面に対してカラム角度θc(図3参照、およ
そ70度)をなして配列されながら堆積されて、配向膜18が形成される。尚、この配向
膜18の膜厚はおよそ750nmに設定する。又、配向膜18は、上述した斜方蒸着法に
限らず、異方性スパッタリング法などによって形成してもよい。そして、ステップS4へ
進む。
【0047】
ステップS4の後処理工程では、配向膜18が形成されたマザー基板10Wをイソプロ
ピルアルコールで洗浄する。具体的な洗浄方法としては、イソプロピルアルコールに浸漬
する方法、イソプロピルアルコールを配向膜18に噴き付ける方法などが挙げられる。配
向膜面に付着したイソプロピルアルコールをむらなく除去する仕上げ方法としては、イソ
プロピルアルコールの蒸気浴に洗浄したマザー基板10Wを晒す方法が挙げられる。
【0048】
次に、対向基板20側について説明する。ステップS11の対向基板側薄膜形成工程で
は、対向基板20の液晶層50に面する側の表面に、見切り部21、平坦化層22、共通
電極23を順に形成する。これらの構造物(薄膜)を形成する方法は、公知の製造方法を
用いることができる。例えば、見切り部21は、前述したように、酸化シリコン膜にボロ
ンがドープされて遮光性が付与されたものであり、プラズマCVDなどの方法を用いて成
膜した後に額縁状にパターニングする方法が挙げられる。見切り部21の膜厚はおよそ3
00nmである。平坦化層22は、例えば酸化シリコンなどの無機絶縁材料を用いて見切
り部21を覆うように形成する。平坦化層22の厚みはおよそ1000nmである。共通
電極23は、平坦化層22上にITOなどの透明導電膜を蒸着法やスパッタ法で成膜する
。共通電極23の厚みはおよそ100nm〜150nmである。そして、ステップS12
へ進む。
【0049】
ステップS12の前処理工程では、素子基板10のステップS2と同様にして、まず共
通電極23が形成された対向基板20に純水洗浄を施す。続いて、共通電極23が形成さ
れた表面に紫外線を照射する。紫外線の照射条件は、素子基板10のステップS2と同じ
である。対向基板20にはスイッチング素子としてのTFT30は設けられていないので
、紫外線照射により対向基板20に設けられた見切り部21や共通電極23が変質するこ
とはないので、安心して紫外線を照射することができる。
なお、マザー基板10W(素子基板10)に対してステップS11の対向基板側薄膜形
成工程は複雑ではないので、前処理工程の前までに対向基板20に異物などが付着して汚
染される可能性が低い。それゆえに、前処理工程では、前処理工程前の対向基板20の清
浄度を考慮して、純水洗浄を省くことも可能である。そして、ステップS13へ進む。
【0050】
ステップS13の無機配向膜形成工程では、図6に示された蒸着装置300を用い、個
片の対向基板20または対向基板20が面付けされたマザー基板を蒸着室308の上部に
垂設されている基板配設部307に所定の角度θb(およそ45度)でセットし、共通電
極23上に酸化シリコンを斜方蒸着する。酸化シリコンの柱状体が基板面に対してカラム
角度θc(およそ70度)をなして配列されながら堆積されて、配向膜24が形成される
。尚、この配向膜24の膜厚も素子基板10の配向膜18と同様におよそ750nmに設
定する。また、上述した斜方蒸着法に限らず、異方性スパッタリング法などによって配向
膜24を形成してもよい。そして、ステップS14へ進む。
【0051】
ステップS14の後処理工程では、素子基板10のステップS4と同様に、配向膜24
が形成された対向基板20をイソプロピルアルコールで洗浄し、同じく蒸気浴を用いて仕
上げ処理を行う。
【0052】
ステップS21の貼り合わせ工程では、このようにして後処理(ステップS4、ステッ
プS14)が行われたマザー基板10Wと対向基板20とを所定の位置に対向配置してシ
ール材40を介して接合する。前述したようにシール材40には予めスペーサーが混入さ
れているので、接合後の素子基板10と対向基板20との隙間を一定に保つことができる
。そして、ステップS22へ進む。
【0053】
ステップS22の液晶注入・封止工程では、貼り合わさたマザー基板10Wと対向基板
20とをチャンバー内に配置して減圧する。そして、シール材40に設けられた注入口付
近に所定量の液晶を滴下し、チャンバー内を大気圧に戻すことにより、滴下された液晶が
注入口から内部に侵入して充填される。液晶が充填された後に、注入口を例えば紫外線硬
化型の封止剤を用いて封着する。
【0054】
このような液晶装置100の製造方法によれば、前処理工程(ステップS2、ステップ
S12)において、素子基板10および対向基板20に対して一旦純水洗浄を施すので、
表面に付着した視認可能な異物や水溶性のイオン性不純物が除去される。続いて、大気中
で紫外線が照射され発生したオゾンによって有機物からなる異物が分解除去されると共に
、純水洗浄後に残存するイオン性不純物がさらに取り除かれる。
したがって、素子基板10および対向基板20の無機配向膜形成面が清浄化され、斜方
蒸着によりむらなく配向膜18,24を形成することができる。また、イオン性不純物が
除去されることにより、通電による焼き付き現象が改善される。
【0055】
また、後処理工程(ステップS4、ステップS14)において、無機配向膜が形成され
たマザー基板10Wおよび対向基板20をイソプロピルアルコールで洗浄処理する。これ
により、無機配向膜面におけるシラノール基(−Si−OH)とイソプロピルアルコール
のイソプロピル基(−C37)とを反応させて、無機配向膜の表面に反応層が形成される
。この反応層により無機配向膜の表面での液晶分子LCとの反応活性を抑制或いは阻止す
ることができるので、液晶層50における液晶分子LCの安定的な配向状態が得られる。
【0056】
なお、前処理工程(ステップS2、ステップS12)で紫外線を照射した後に、無機配
向膜形成工程(ステップS3、ステップS13)に至る間に、他の表面処理は一切実施さ
れていない。また、基板表面の清浄度を保った状態で次の無機配向膜形成工程に入るよう
にするため、紫外線を照射してから48時間以内に無機配向膜の形成が行われている。
【0057】
図7は、基板表面における異物の付着状態やイオン性不純物の残存状態を表面分析した
結果を示すグラフである。なお、表面分析方法としてTOF−SIMS(飛行時間型二次
イオン質量分析)法を用い、無機配向膜を形成する前の対向基板20側の表面を分析した
。また、図7は代表的な異物として炭素数が7の炭化水素酸(C77+)とシアノ基(C
-)の相対的な量を示し、代表的なイオン性不純物として塩素イオン(Cl-)の相対的
な量を示している。これらは、純水洗浄や紫外線照射(UV処理)の表面処理効果を説明
する上で特徴的な変化を示すものを選択して表している。
【0058】
図7に示すように、未洗浄な基板表面には、塩素イオンよりも炭化水素酸やシアノ基が
多く存在しているのが分かる。これに対して、純水洗浄を基板に施すと、水溶性の有機物
である炭化水素酸やシアノ基が減少する一方で塩素イオンが逆に増えているのが分かる。
純水洗浄によって一般的に金属イオンは減少するが、洗浄環境下において存在率が他の金
属イオンに比べて高い塩素イオンを除去することがいかに難しいかが分かる。これに対し
て、さらに紫外線照射(UV処理)を施すと塩素イオンが減少したことが分かる。
紫外線照射(UV処理)後の炭化水素酸やシアノ基の相対的な量が純水洗浄後に対して
変動しているのは、複数の試験サンプルの表面分析結果を平均した値を用いているため、
分析方法におけるばらつきが反映されていると考えられる。
なお、純水洗浄を施さず、紫外線照射(UV処理)のみを実施した場合にも、炭化水素
酸やシアノ基、塩素イオンの量が減少することが判明している。
【0059】
図8は、液晶装置の通電による焼き付きの評価結果を示すグラフである。本実施形態に
おける液晶装置100の焼き付き評価方法は、例えば、ノーマリーブラックモードの液晶
装置100の表示領域Eにおける表示をオン状態つまり全白表示として通電を行う。この
通電時間を横軸とし、通電後の全白表示の透過率を初期の透過率と比較してその変化率を
縦軸とする。
図8に示すように、前処理工程で純水洗浄だけを施した場合(△)は、通電によって明
るさ(透過率)の変化率が4%程度に上昇している。つまり、明るさの変化を目視で十分
認識できる状態(焼き付き状態)となっている。これに対して、さらに紫外線照射(UV
処理)を施した場合(□)は、通電時間が30分、60分、120分、180分のいずれ
でも明るさ(透過率)の変化率が小さくなっており、最大でも2%程度となっている。つ
まり、明るさの変化が視認し難い状態となっている。
【0060】
図8の結果を裏付ける技術的事項として、最適な白表示を行わせるために共通電極23
に与えられる共通電位(COM電位)の変化が挙げられる。図9は液晶装置の通電時間と
最適COM電位のシフト量との関係を示すグラフである。
図9に示すように、最適COM電位シフト量(V)は、通電時間が10分に至るまでに
増大してゆき、それ以降の通電時間、20分、30分、40分ではほぼ横ばい状態となっ
ている。前処理工程で純水洗浄だけを施した場合(△)に比べて、さらに紫外線照射(U
V処理)を施した場合(□)は、シフト量(V)の値が小さくなっている。
無機配向膜を形成する前の基板表面が清浄化されることにより、イオン性不純物の液晶
層50への拡散が低減され、通電時に配向膜面近傍で蓄電層ができ難くなるので、COM
電位のシフト量が小さくなる。つまり、焼き付き現象が低減されたと言える。
【0061】
上記実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0062】
(変形例1)液晶装置100における画素Pの構成は、これに限定されない。例えば、
画素電極15を光反射性を有するAl(アルミニウム)やその合金などを用いて形成し、
画素電極15の表面状態が変化しないように、透明な保護膜で覆った後に、保護膜上に無
機配向膜を設ける構成としてもよい。これによれば、焼き付き現象が低減された反射型の
液晶装置100を提供することができる。
【0063】
(変形例2)液晶装置100の製造方法における後処理工程(ステップS4、ステップ
S14)は必須ではない。すなわち、後処理工程を省いてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10…一対の基板のうちの素子基板、18,24…無機配向膜としての配向膜、20…
一対の基板のうちの対向基板、30…スイッチング素子としての薄膜トランジスター(T
FT)、50…液晶層、100…液晶装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板と、前記一対の基板に挟持された液晶層とを有する液晶装置の製造方法であ
って、
前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板の前記液晶層に面する側の表面に少なくと
も酸素を含む雰囲気中で紫外線を照射する前処理工程と、
前記紫外線が照射された前記表面に無機配向膜を形成する無機配向膜形成工程と、を備
え、
前記無機配向膜形成工程の前には、前記前処理工程以外の表面処理工程を行わないこと
を特徴とする液晶装置の製造方法。
【請求項2】
前記一方の基板上に導電膜を形成する導電膜形成工程を備え、
前記前処理工程は、前記導電膜が形成された前記一方の基板の表面に紫外線を照射する
ことを特徴とする請求項1に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項3】
前記前処理工程の前に前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板を純水洗浄する純水
洗浄工程を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項4】
前記一方の基板には、スイッチング素子が形成されていないことを特徴とする請求項2
または3に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項5】
前記無機配向膜形成工程は、酸化シリコンを斜方蒸着することにより前記無機配向膜を
形成し、
前記無機配向膜が形成された前記一対の基板のうち少なくとも一方の基板をイソプロピ
ルアルコールを用いて洗浄する後処理工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の液晶装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−221115(P2011−221115A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87581(P2010−87581)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】