説明

液晶配向剤とそれを用いた液晶配向膜及び液晶表示素子

【課題】本発明の目的は、大きなプレチルト角が得られる液晶配向剤を提供すること、及び、電圧保持率と残像特性に優れた液晶配向膜及び液晶表示素子を提供すること。
【解決手段】ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸を脱水閉環したポリイミド化合物のうちの少なくとも一方と、溶媒とを含有する液晶配向剤であって、該ポリアミック酸が、一般式(1)で表されるジアミノベンゼン化合物を20〜80モル%含有するジアミン成分と、カルボン酸二無水物とを反応させて得られることを特徴とする液晶配向剤と、該液晶配向剤を用いて作製した液晶配向膜及び液晶表示素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸を脱水閉環したポリイミド化合物と、有機溶媒とを含有する液晶配向剤とそれを用いて作製した液晶配向膜及び液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、液晶の電気化学的変化を利用した表示素子であり、装置的に小型軽量であり、消費電力が小さい等の特性が注目され、近年、各種ディスプレイ用の表示素子として目覚しい発展を遂げている。中でも正の誘電異方性を有するネマチック液晶を用い、相対向する一対の電極基板のそれぞれの界面で液晶分子を基板に対し平行に配列させ、かつ、液晶分子の配向方向が互いに直交するように両基板を組み合わせた、ツイステッドネマティック型(TN型)方式の電界効果型液晶表示素子がある。
【0003】
一方で負の誘電異方性を有するネマチック液晶を基板に対して垂直に配向させ、基板上に形成された電極によって電圧を印加し、電圧を印加した際の液晶層の複屈折変化を利用した垂直型(VA型)方式は、従来のTN型の液晶表示に比べ、高いコントラストを示すことが知られている。
【0004】
液晶配向膜の基本要求条件はプレチルト角の制御である。VA型の液晶表示素子では88〜90°の高いプレチルト角が要求されている。一般に高いプレチルト角を得るための手段として、側鎖型のポリイミド化合物を用いる方法がある。側鎖構造はジアミノベンゼン化合物あるいはテトラカルボン酸二無水物に導入し、大部分の場合は側鎖基を導入するのが容易なジアミノベンゼン化合物を使用する。一般に側鎖に直鎖アルコキシ基、アルキルエステル基又はフッ化アルキル基を有する脂肪族系側鎖型ジアミンを単量体として使用したポリイミド液晶配向膜が知られている。しかし、このようなポリイミド液晶配向膜は、側鎖の長さと分布度が調節されていなく、プレチルト角が3〜25°程度の低い値であった。
【0005】
特許文献1には、下記一般式(A)で表されるジアミノベンゼン化合物が開示されている。該ジアミノベンゼン化合物から得られるポリイミドの配向膜は、ジアミノベンゼン部とアルキル基、シクロへキシル基、フェニル基からなる側鎖部とがエーテル結合する。そのため、該ポリイミドの配向膜は、側鎖部の可動範囲は広いが、プレチルト角が不十分である欠点がある。
【0006】
【化1】

(式(A)中、Rは、−O−及び−CHO−から選ばれる2価の有機基であり、Rは炭素が1以上8以下の直鎖状アルキル基を表す。)
【0007】
特許文献2には、下記一般式(B)で表されるジアミノベンゼン化合物が開示されている。Pが−CONH−を選択した場合、得られる液晶配向膜のプレチルト角が小さいため、電圧保持率と残像特性に劣る欠点がある。
【0008】
【化2】

(式(B)中、Pは単結合又は−O−、−COO−、−CONH−より選ばれる2価の有機基であり、Qは芳香環、脂肪族環、複素環及びそれらの置換体より選ばれる環状置換基を表し、Rは脂肪族環であり、Rは炭素数が1以上22以下の直鎖状アルキル基を表す。)
【0009】
以上より、プレチルト角が大きく、電圧保持率と残像特性に優れた液晶配向膜及び液晶表示素子が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2006/070819号公報
【特許文献2】特開平09−278724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、大きなプレチルト角が得られる液晶配向剤を提供すること、及び、電圧保持率と残像特性に優れた液晶配向膜及び液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討をした結果、一般式(1)で表されるジアミノベンゼン化合物を用いて作製した液晶配向剤と、該液晶配向剤を用いて作製した液晶配向膜及び液晶表示素子が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0014】
第一の発明は、ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸を脱水閉環したポリイミド化合物のうちの少なくとも一方と、溶媒とを含有する液晶配向剤であって、該ポリアミック酸が、一般式(1)で表されるジアミノベンゼン化合物を20〜80モル%含有するジアミン成分と、カルボン酸二無水物とを反応させて得られることを特徴とする液晶配向剤である。
【0015】
【化3】

(式(1)中、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、フェニル基を示す。)
【0016】
第二の発明は、液晶配向剤中のポリアミック酸及び/又はポリアミック酸を脱水閉環したポリイミド化合物の合計濃度が2〜10質量%であることを特徴とする第一の発明に記載の液晶配向剤である。
【0017】
第三の発明は、ジアミン成分が、p−フェニレンジアミン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,5−ナフタレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、及び3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニルからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミノベンゼン化合物を含有する第一又は第二の発明に記載の液晶配向剤である。
【0018】
第四の発明は、溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン又はγ−ブチロラクトンを少なくとも含有する第一から第三の発明のいずれかに記載の液晶配向剤である。
【0019】
第五の発明は、第一から第四の発明のいずれかに記載の液晶配向剤を用いて形成した液晶配向膜である。
【0020】
第六の発明は、第五の発明に記載の液晶配向膜を具備することを特徴とする液晶表示素子である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、一般式(1)で表されるジアミノベンゼン化合物を用いて作製した液晶配向剤を用いることで、電圧保持率と残像特性に優れた液晶配向膜及び液晶表示素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の液晶配向剤について説明する。
【0023】
本発明の液晶配向剤は、ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸を脱水閉環したポリイミド化合物のうちの少なくとも一方と、溶媒とを含有する液晶配向剤であって、該ポリアミック酸が、一般式(1)で表されるジアミノベンゼン化合物を20〜80モル%含有するジアミン成分と、カルボン酸二無水物とを反応させて得られるものである。
【0024】
本発明に用いるジアミノベンゼン化合物は、下記一般式(1)で表すことができる。
【0025】
【化4】

【0026】
上記一般式中、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン原子、フェニル基を示す。
【0027】
炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖又は分岐していてもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0028】
置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基は、直鎖又は分岐していてもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0029】
炭素数1〜8のアルコキシ基は、直鎖又は分岐していてもよく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、2−メトキシエトキシ基等が挙げられる。
【0030】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0031】
一般式(1)で表されるジアミノベンゼン化合物として、具体的には、以下に示す化合物(1)〜(7)等が挙げられる。
【0032】
【化5】

【0033】
プレチルト角とは、液晶配向膜に電圧が印加されない電圧無印加の状態(オフ状態)において、配向膜表面と配向膜近傍の液晶分子の長軸方向とがなす角度である。
【0034】
学会誌(Yakugaku Zasshi,2001,Vol.121,Page 117−129)には、アミド結合部の水素に置換基を置換することで、シス型を優先的に取ると記載されている。
一般式(1)で表されるジアミノベンゼン化合物は下記反応式に示す通り、主にシス型をとるので、該ジアミノベンゼン化合物を用いて作製した液晶配向剤を用いて作製した液晶配向膜におけるジアミノベンゼン化合物を用いて作製した液晶配向膜のプレチルト角は、トランス型の場合20〜30°であるが、シス型にすることで88〜90°である。
【0035】
【化6】

【0036】
上記反応式より、ジアミノベンゼン化合物のアミド結合が、−NHCO−であれば、トランス型を優位に取るが、−NRCO−にすることで、シス型を優位に取ることがわかる。
そのため、本発明に用いるジアミノベンゼン化合物は、シス型を優先的に取るので、結晶性が下がり、溶解度が向上し、液晶配向膜を作製するときに均一に製膜できる特性を有する。
また、得られる液晶配向膜のプレチルト角を大きくすることができるため、得られた液晶表示素子の電圧保持率と残像特性に優れる液晶表示素子を作製することができる。
【0037】
本発明に用いるジアミン成分は、一般式(1)で表されるジアミノベンゼン化合物以外のジアミノベンゼン化合物を含有させて用いるものである。
前記ジアミノベンゼン化合物としては、一般的にポリイミド化合物の合成に使用される一級ジアミンであればよく、具体的には、p−フェニレンジアミン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,5−ナフタレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、及び3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニルからなる群より選ばれる少なくとも1種等が挙げられる。
【0038】
一般式(1)で表されるジアミノベンゼン化合物の合成方法は、下記反応式で示す通りである。
下記化合物(I)のアミド結合のHをハロゲン化アルキル(R−I)、水素化ナトリウムを用いてアルキル化した後、公知の方法にてニトロ基をアミノ基に還元し、一般式(1)で表されるジアミノベンゼン化合物を得ることができる。
【0039】
【化7】

【0040】
<ポリアミック酸>
本発明に用いるポリアミック酸はカルボン酸二無水物と一般式(1)で表されるジアミノベンゼン化合物を反応させて得ることができるが、この方法は限定されない。一般的には、有機溶媒中で混合することにより反応させてポリアミック酸とすることができ、このポリアミック酸を脱水閉環することでポリイミド化合物とすることができる。
【0041】
本発明のポリアミック酸を得るために使用されるカルボン酸二無水物とは、具体的には、ピロメリット酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸等が挙げられ、これらの中でも、ピロメリット酸が特に好ましく挙げられる。
【0042】
ポリアミック酸を製造するときのジアミノベンゼン化合物とカルボン酸二無水物の仕込みのモル比は1:1が好ましく挙げられる。
【0043】
ジアミノベンゼン化合物とカルボン酸二無水物とを有機溶媒中で反応させる際の温度は、0〜150℃、好ましくは5〜100℃である。温度が高い方が反応は早く終了するが、高温すぎるとイミド化重合体の分子量が低下する欠点がある。反応時間は、2〜24時間が好ましく、3〜10時間がより好ましく挙げられる。
また、反応は任意の濃度で行うことができるが、濃度が高すぎると反応液の粘度が高くなりすぎて、撹拌が困難となるので、1〜50質量%が好ましく、3〜30質量%がより好ましく挙げられる。
【0044】
上記反応に用いられる溶媒は、生成したポリアミック酸が溶解するものであればよく、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の極性溶媒が挙げられる。
また、有機溶媒中の水分は重合反応を阻害し、さらには生成したポリアミック酸を加水分解させる原因となるので、有機溶媒は脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
【0045】
<ポリイミド化合物>
本発明のポリイミド化合物とは、上記ポリアミック酸を脱水閉環することにより得ることができる。ここでいうポリイミド化合物とは、上記ポリアミック酸を部分的にイミド化した部分イミド化合物及び100%イミド化した完全イミド化合物を包含するものである。
【0046】
脱水閉環イミド化する方法は、100〜400℃で加熱脱水するか、又はポリアミック酸の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法がある。
上記脱水剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造1モルに対して0.01〜20モルとすることが好ましい。
また、脱水閉環触媒としては、ピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の三級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとするのが好ましい。脱水閉環反応の反応時間は、好ましくは0〜180℃、より好ましくは10〜150℃であり、反応時間は2〜8時間、より好ましくは3〜6時間である。
【0047】
このようにして得られたポリイミド化合物の溶液は、添加した触媒が溶液内に残存しているので、本発明の液晶配向剤に用いるためには、このポリイミド化合物の溶液を撹拌している貧溶媒に投入し、沈殿回収することが好ましい。ポリイミド化合物の沈殿回収に用いる貧溶媒としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、ベンゼン等が挙げられる。
このポリイミド化合物をさらに良溶媒に溶解させ、再沈殿する操作を2〜10回繰り返して、精製することができる。
【0048】
本発明の液晶配向剤がVA型の液晶素子に用いられる場合は、優れた液晶の垂直配向性を発現することができる。
プレチルト角を大きくすることで、高い電圧保持率と優れた残像特性が得られる液晶配向膜及びそれを備えた液晶表示素子を得ることができる。
【0049】
本発明の液晶配向剤におけるポリアミック酸及び/又はポリアミック酸を脱水閉環したポリイミド化合物の合計濃度は、2〜10質量%が好ましく、3〜7質量%がより好ましく挙げられる。2質量%未満の場合、均一で欠陥のない液晶配向膜を得ることが困難であり、10質量%超の場合、適切な膜厚の液晶配向膜を作製することが困難となる。
【0050】
液晶配向剤に用いる有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、ブチルセロソルブ、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群より選ばれる一種を含有する有機溶媒が好ましく挙げられ、N−メチル−2−ピロリドン又はγ−ブチロラクトンがより好ましく挙げられる。
【0051】
<ポリイミド化合物のイミド化率>
本発明に用いられるポリイミド化合物のイミド化率は、好ましくは10〜99%で、あり、好ましくは20〜99%であり、特に好ましくは45〜99%である。ここで、イミド化率とは、ポリイミド化合物におけるポリアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計数に対する、イミド環構造の数の割合を百分率で表した数値である。このとき、イミド環の一部がイソイミド環であるこのイミド環構造に含まれるものとする。かかるイミド化率は、イミド化重合体を、好ましくは十分に乾燥した後、適当な重水素溶媒に溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でNMRを測定することで求めることができる。
【0052】
本発明の液晶配向膜及び液晶表示素子について説明する。
【0053】
本発明の液晶配向膜は、上記液晶配向剤を透明基板に塗布し、有機溶媒を蒸発させることにより、透明基板上にポリイミド化合物が配向している液晶配向膜を形成させることができる。液晶表示素子は、透明基板上に液晶配向膜を具備するものである。
本発明の液晶配向剤から形成された液晶配向膜及び液晶表示素子は、プレチルト角が大きいため、高い電圧保持率及び優れた残像特性が得られる特徴を有する。
【0054】
液晶表示素子は以下の方法によって製造することができる。
まず、一対の基板上に本発明の液晶配向膜を塗布し、溶媒を除去して塗膜を形成する。ここで、製造されるべき液晶表示素子の表示モードがTN型、STN型、VA型等の垂直電界方式である場合には、片面にパターニングされた透明導電膜が設けられている透明基板の2枚を一対の透明基板として用いる。
透明基板としては、フロートガラス、ソーダガラス等のガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。
透明基板の一面に設けられる透明導電性膜としては、酸化スズからなるNESA膜、酸化インジウム−酸化スズからなるITO膜等を用いることができる。また、これらのパターニングされた透明導電膜を得るには、パターンのない透明導電膜を形成した後にフォト・エッチング法によりパターンを形成する方法等が挙げられる。
透明基板上への塗布は、ロールコーター法、スピンコート法、印刷法、インクジェット法等が挙げられる。基板との密着性を向上させるために、シランカップリング剤やチタン化合物等を予め塗布しておいてもよい。
【0055】
塗布後は予備過熱を行うのが好ましく挙げられる。予備加熱の温度は30〜200℃であり、より好ましくは40〜150℃である。予備加熱の時間は0.5〜10分であり、より好ましくは0.5〜5分である。その後、溶媒を除去するために焼結を行う。焼結の温度は120〜350℃が好ましく、また、焼結の時間は3〜180分が好ましく挙げられる。必要に応じ、液晶配向膜表面をレーヨンやコットン布等でラビング処理することもできる。
【0056】
上記ラッピング処理とは、ナイロン、レーヨン、コットン等の繊維からなる布を巻きつけたロールで一定方向に擦る方法により行うことができる。これにより、液晶分子の配向膜が塗布に付与されて液晶配向膜となる。さらに、ラッピング処理後の液晶配向膜に対し、紫外線を照射することで液晶配向膜のプレチルト角を変化させる処理を用いることができる。
【0057】
液晶配向膜の膜厚は、50〜3000Åが好ましく、100〜1000Åがより好ましく挙げられる。50Å未満の場合、液晶表示素子の信頼性が低下し、3000Å超の場合、消費電力が大きくなる欠点がある。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明は本実施例によりなんら限定されない。実施例中の「%」は「質量%」を示す。
【0059】
(実施例1)
化合物(2)4.9部、ピロメリット酸二無水物8.7部、p−フェニレンジアミン2.9部をNMP91.6部中で、室温3時間撹拌し反応させて、ポリアミック酸溶液108.1部を調整した。
このポリアミック酸溶液25部にNMP20部とブチルセルソルブ30部を添加して、固形分濃度5%のポリアミック酸溶液である液晶配向剤を得た。
【0060】
(液晶配向ムラ特性の評価)
得られた液晶配向剤を、ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面に、スピンコート法により塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱乾燥後、200℃のホットプレート上で10分間加熱乾燥して、平均膜厚60nmの液晶配向膜を形成した。この操作を繰り返し、透明電極面に液晶配向膜を有する透明基板を2枚製造した。
得られた液晶配向膜面上に液滴落下による衝撃を与えた透明基板を含む2枚の基板を用いた他は、同様にして液晶セルを製造した。
該液晶セルにつき、室温にて交流6.0V、30Hzの短形波を印字しながらクロスニコル下で観察したときに、超純水の滴下痕が液滴ムラとして視認された場合を○、視認された場合×とした。
【0061】
(プレチルト角の評価)
この液晶配向剤を透明電極付きガラス基板に2000rpmでスピンコートし、温度210℃で60分焼成することにより膜厚500Åの液晶配向膜を備えた液晶表示素子を得た。この塗膜付きのガラス基板上に6μmのスペーサーを散布した後、もう一枚の塗膜付きガラス基板を張り合わせて空セルとし、これに負の誘電率の違方性を持つネマチック液晶(メルク社製MLC−6608)を注入して液晶セルを作製した。この液晶セルを偏光顕微鏡で観察したところ欠陥のない均一な垂直配向をしていることを確認した。
また、He−Neレーザー光を用いて結晶回転法によりプレチルト角を測定したところ88°であった。
【0062】
(電圧保持率の評価)
液晶表示素子に対し、60℃において5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、1670ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から1670秒後の電圧保持率を60℃の雰囲気下で測定した。電圧保持率の測定は、VHR−1(東陽テクニカ社製)を使用した。電圧保持率は97.5%以上が望ましい値である。
【0063】
(残像特性の評価)
液晶セルに対し、40〜50℃の環境下で、バックライト光を照射しつつ、一方の電極に6.0V、もう一方の電極に0.5Vの直流電圧を、同時に168時間印加した。ストレス開放後、2つの電極に直流電圧0.1〜5.0Vを0.1V刻みに印加し、それぞれの電圧で2つの電極の輝度差が小さい残像特性を評価した。輝度差が認められない場合を○、輝度差が大きい場合を×とした。
【0064】
(実施例2)
実施例1に記載の化合物(2)を化合物(5)に代えた以外は、実施例1と同様にして液晶配向剤を作製し、特性を評価した。
【0065】
(実施例3)
実施例1に記載の化合物(2)を化合物(3)に代えた以外は、実施例1と同様にして液晶配向剤を作製し、特性を評価した。
【0066】
(実施例4)
実施例1に記載の化合物(2)を化合物(4)に代えた以外は、実施例1と同様にして液晶配向剤を作製し、特性を評価した。
【0067】
(比較例1)
実施例1に記載の化合物(2)を下記化合物(a)に代えた以外は、実施例1と同様にして液晶配向剤を作製し、特性を評価した。
【0068】
(比較例2)
実施例1に記載の化合物(2)を下記化合物(b)に代えた以外は、実施例1と同様にして液晶配向剤を作製し、特性を評価した。
【0069】
【化8】

【0070】
【表1】

【0071】
表1より、比較例1、2より実施例1〜4の方が、プレチルト角が大きく、電圧保持率及び残像特性に優れていることがわかる。また、液晶配向ムラもなく、均一に液晶配向膜を作製することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の液晶配向剤とそれを用いた液晶配向膜は、電圧保持率と残像特性に優れているため、液晶表示素子だけではなく、様々な用途として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸を脱水閉環したポリイミド化合物のうちの少なくとも一方と、溶媒とを含有する液晶配向剤であって、該ポリアミック酸が、一般式(1)で表されるジアミノベンゼン化合物を20〜80モル%含有するジアミン成分と、カルボン酸二無水物とを反応させて得られることを特徴とする液晶配向剤。
【化1】

(式(1)中、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキル基、Rは置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、フェニル基を示す。)
【請求項2】
液晶配向剤中のポリアミック酸及び/又はポリアミック酸を脱水閉環したポリイミド化合物の合計濃度が2〜10質量%であることを特徴とする請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
ジアミン成分が、p−フェニレンジアミン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,5−ナフタレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、及び3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニルからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミノベンゼン化合物を含有する請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン又はγ−ブチロラクトンを少なくとも含有する請求項1から3のいずれかに記載の液晶配向剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の液晶配向剤を用いて形成した液晶配向膜。
【請求項6】
請求項5に記載の液晶配向膜を具備することを特徴とする液晶表示素子。

【公開番号】特開2012−78686(P2012−78686A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225470(P2010−225470)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】