説明

液滴吐出装置

【課題】吐出性能回復に係る液体消費量を抑制する。
【解決手段】プリンタのコントローラは、連続記録時において、記録完了枚数が所定数に達すると、メニスカス吸収を行うよう、吸収部材50及びこれを移動させる移動機構を制御する。メニスカス吸収時において、吸収部材50は上面をヘッドの吐出面10xに接触させつつ移動する。ヘッド10の吐出面10xにおける吐出口14aを含む部分には、凹部10yが形成されている。コントローラは、吸収部材50が吐出口14aに対向する吸収位置に配置されているときに、吐出口14aからインク滴が吐出されない程度のエネルギーが圧力室内のインクに付与され、吐出口14aに形成されたメニスカス14mが、吐出口14aから凹部10yの深さより大きな突出量だけ突出して、吸収部材50の上面50xに接触するように、アクチュエータユニットを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク滴等の液滴を吐出する液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置の一例であるインクジェット式記録装置において、記録品質を維持するため、吐出フラッシング(通常フラッシング)や不吐出フラッシング(メニスカスを微振動させる動作)等の吐出性能回復動作を行うことにより、ヘッド内のインクの増粘を解消又は抑制する技術が知られている(特許文献1参照)。吐出フラッシングは、ヘッドをキャップ、搬送ベルト、用紙等に対向させた状態で、吐出口からインク滴を強制的に吐出させる動作をいう。不吐出フラッシングは、吐出口からインク滴を吐出させることなく、吐出口に形成されたメニスカスを微振動させる動作をいう。
【0003】
【特許文献1】特開平11−300966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
不吐出フラッシングを行うことで、メニスカスの微振動により吐出口内の増粘インクが拡散され、インク粘度を一時的には低減できるものの、ヘッド内に蓄積された増粘インクは排出されない。そのため、吐出不良防止の観点から、不吐出フラッシングのみでなく、吐出フラッシングを行い、増粘インクをヘッド内から排出する必要がある。しかし、吐出フラッシングは、インク消費量の増加を招き、不経済であるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、吐出性能回復に係る液体消費量を抑制することが可能な液滴吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の観点によると、液滴を吐出する吐出口を先端に有する液体流路、前記吐出口から吐出された液滴が着弾する記録媒体に対向する吐出面、及び、前記液体流路内の液体にエネルギーを付与するアクチュエータを含む液滴吐出ヘッドと、前記吐出面との対向時に前記吐出口に対向する液体吸収性の対向部を有する吸収部材と、前記液滴吐出ヘッド及び前記吸収部材が、前記吐出口と前記対向部とが対向する吸収位置に配置されるように、前記液滴吐出ヘッド及び前記吸収部材を相対的に移動させる移動機構と、前記液滴吐出ヘッド及び前記吸収部材が前記吸収位置に配置されるよう前記移動機構を制御し、且つ、前記液滴吐出ヘッド及び前記吸収部材が前記吸収位置に配置されているときに、前記吐出口から液滴が吐出されない程度のエネルギーが前記液体流路内の液体に付与され、前記吐出口に形成されたメニスカスが少なくとも前記対向部に接触するように、前記アクチュエータを制御する制御手段とを備えたことを特徴とする液滴吐出装置が提供される。
【0007】
上記観点によれば、制御手段の制御により、メニスカス先端にある比較的少量の増粘液が、対向部内に移動して、ヘッドの液体流路から排出される。このように、液滴を吐出させなくとも、増粘液をヘッド内から排出することができるため、吐出フラッシングの回数を低減可能である。即ち、上記観点によれば、吐出性能回復に係る液体消費量を抑制することができる。
【0008】
前記吸収位置において、前記吐出口と前記対向部とが、間隙を介して離隔しつつ、対向してよい。吸収位置において吐出口と対向部との間に間隙が形成されない場合、液滴吐出ヘッドと吸収部材との相対移動中に、液体を吸収した対向部が吐出面に接触する。このとき、吸収された液体が吐出面に付着したり、別の吐出口に移動したりすることが心配される。しかし、間隙の存在により、吐出口周縁、当該周縁に形成された撥水膜等の保護、さらには吐出口周辺への液体の付着や別の吐出口への移動の防止が実現される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、制御手段の制御により、メニスカス先端にある比較的少量の増粘液が、対向部内に吸収され、ヘッドの液体流路から排出される。このように、液滴を吐出させなくとも、増粘液をヘッド内から排出することができるため、吐出フラッシングの回数を低減可能である。即ち、本発明によれば、吐出性能回復に係る液体消費量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る液滴吐出装置の第1実施形態としてのインクジェット式プリンタの内部構造を示す概略側面図である。
【図2】図1のプリンタのインクジェットヘッドに含まれる流路ユニットを示す平面図である。
【図3】図2の一点鎖線で囲まれた領域IIIを示す拡大図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿った部分断面図である。
【図5】図4の一点鎖線で囲まれた領域Vを示す部分拡大断面図である。
【図6】(a)は、1のヘッド及びこれに対して設けられた吸収部材を示す、図1の白抜矢印VIA方向から見た側面図である。(b)は、図6(a)の白抜矢印VIB方向から見た側面図である。
【図7】図1のプリンタにおける記録に係る制御を示すフローチャートである。
【図8】メニスカス吸収時の状況を示す、図5に対応する部分拡大断面図である。
【図9】本発明に係る液滴吐出装置の第2実施形態としてのインクジェット式プリンタにおける、4つのヘッドのそれぞれに対して設けられた吸収部材を示す部分平面図である。
【図10】図9のX−X線に沿った部分断面図である。
【図11】図9の吸収部材が吸収位置に配置された状態を示す、図1に対応する側面図である。
【図12】メニスカス吸収時における、図10の一点鎖線で囲まれた領域XIIを示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
先ず、図1を参照し、本発明に係る液滴吐出装置の第1実施形態としてのライン式インクジェットプリンタ1の全体構成について説明する。
【0013】
プリンタ1は、直方体形状の筐体1aを有する。筐体1aの天板上部には、排紙部31が設けられている。筐体1aの内部空間は、上から順に空間A,B,Cに区分できる。空間A及びBは、排紙部31に連なる用紙搬送経路が形成された空間である。空間Aでは、用紙Pの搬送と用紙Pへの画像形成が行われる。空間Bでは、給紙に係る動作が行われる。空間Cには、インク供給源としてのインクカートリッジ39が収容されている。
【0014】
空間Aには、4つのインクジェットヘッド10、用紙Pを搬送する搬送ユニット21、ヘッド10に対するメンテナンスユニット60(図6参照)、用紙Pをガイドするガイドユニット等が配置されている。空間Aの上部には、これらの機構を含めたプリンタ1各部の動作を制御してプリンタ1全体の動作を司るコントローラ1pが配置されている。
【0015】
コントローラ1pは、外部供給された画像データに基づいて、用紙Pに画像を形成する。画像形成に際して、コントローラ1pは、画像形成に係わる準備動作、用紙Pの供給・搬送・排紙動作、搬送に同期したインク吐出動作、吐出特性の回復・維持動作等の制御を行う。
【0016】
コントローラ1pは、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)に加えて、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory:不揮発性RAMを含む)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit )、I/F(Interface)、I/O(Input/Output Port)等を有する。ROMには、CPUが実行するプログラム、各種固定データ等が記憶されている。RAMには、プログラム実行時に必要なデータ(例えば画像データ)が一時的に記憶される。ASICでは、画像データの書き換え、並び替え等(信号処理や画像処理)が行われる。I/Fは、上位装置とのデータ送受信を行う。I/Oは、各種センサの検出信号の入力/出力を行う。コントローラ1pの各機能部は、これらハードウェア構成とROM内のプログラムとの協働により構築されている。
【0017】
各ヘッド10は、主走査方向に長尺な略直方体形状を有するラインヘッドである。4つのヘッド10は、副走査方向に所定ピッチで並び、ヘッドフレーム3を介して筐体1aに支持されている。ヘッド10は、流路ユニット12、8つのアクチュエータユニット17(図2参照)、及びリザーバユニット11を含む。画像形成に際して、4つのヘッド10の下面(吐出面10x)からはそれぞれマゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインク滴が吐出される。ヘッド10のより具体的な構成については後に詳述する。
【0018】
メンテナンスユニット60は、ヘッド10毎に設置され、吸収部材50とこれを移動する移動機構を含む。吸収部材50は、インク吸収性のスポンジ等からなる矩形状シート部材である。吸収部材50は、副走査方向を長手方向にして移動機構に支持され、主走査方向に往復移動される。
【0019】
搬送ユニット21は、図1に示すように、ベルトローラ6,7及び両ローラ6,7間に巻回された無端状の搬送ベルト8に加え、搬送ベルト8の外側に配置されたニップローラ4及び剥離プレート5、搬送ベルト8の内側に配置された直方体形状のプラテン19等を有する。
【0020】
ベルトローラ7は、駆動ローラであって、搬送モータ(図示せず)の駆動により回転し、図1中時計回りに回転する。ベルトローラ7の回転に伴い、搬送ベルト8が図1中の太矢印方向に走行する。ベルトローラ6は、従動ローラであって、搬送ベルト8が走行するのに伴って、図1中時計回りに回転する。ニップローラ4は、ベルトローラ6に対向配置され、上流側ガイド部(後述)から供給された用紙Pを搬送ベルト8の外周面8aに押さえつける。
【0021】
外周面8aには、弱粘着性のシリニコン層が形成されている。剥離プレート5は、ベルトローラ7に対向配置され、用紙Pを外周面8aから剥離して下流側ガイド部(後述)へと導く。プラテン19は、4つのヘッド10に対向配置され、搬送ベルト8の上側ループを内側から支える。これにより、外周面8aとヘッド10の吐出面2aとの間に、画像形成に適した所定の間隙が形成される。
【0022】
ガイドユニットは、搬送ユニット21を挟んで配置された、上流側ガイド部及び下流側ガイド部を含む。上流側ガイド部は、2つのガイド27a,27b及び一対の送りローラ26を有する。当該ガイド部は、給紙ユニット1b(後述)と搬送ユニット21とを繋ぐ。下流側ガイド部は、2つのガイド29a,29b及び二対の送りローラ28を有する。当該ガイド部は、搬送ユニット21と排紙部31とを繋ぐ。
【0023】
空間Bには、給紙ユニット1bが筐体1aに対して着脱可能に配置されている。給紙ユニット1bは、給紙トレイ23及び給紙ローラ25を有する。給紙トレイ23は、上方に開口する箱であり、複数種類のサイズの用紙Pを収納可能である。給紙ローラ25は、給紙トレイ23内で最も上方にある用紙Pを送り出し、上流側ガイド部に供給する。
【0024】
空間Cには、インクユニット1cが筐体1aに対して着脱可能に配置されている。インクユニット1cは、カートリッジトレイ35、及び、トレイ35内に並んで収納された4つのカートリッジ39を有する。インクユニット1cが筐体1aに装着されると、インクカートリッジ39はトレイ35内で副走査方向に並ぶ。各カートリッジ39内のインクは、チューブ(図示せず)を介して、対応するヘッド10に供給される。
【0025】
上述したように、空間A及びBに、給紙ユニット1bから搬送ユニット21を介して排紙部31に至る用紙搬送経路が形成されている。給紙トレイ23から送り出された用紙Pは、各ヘッド10の真下を副走査方向に通過する際、順に吐出面2aからインク滴が吐出されて、用紙P上にカラー画像が形成される。さらに用紙Pは、剥離プレート5により剥離され、上方に搬送されて開口30から排紙部31に排出される。
【0026】
ここで、副走査方向とは、搬送ユニット21による用紙Pの搬送方向と平行な方向であり、主走査方向とは、水平面に平行且つ副走査方向に直交する方向である。
【0027】
次に、図2〜図5を参照し、ヘッド10の構成について説明する。
【0028】
ヘッド10は、流路ユニット12を下にして、この上にアクチュエータユニット17、リザーバユニット11、制御基板(図示せず)が順に配置されている。アクチュエータユニット17は、ドライバICが実装されたフレキシブノレプリント基板(FPC)40を介して制御基板と電気的に接続されている。流路ユニット12及びリザーバユニット11の積層体内部には、供給されたインクを吐出面10xの吐出口14aに導くインク流路が形成されている。
【0029】
制御基板は、上位装置から入力される画像データに基づいて、ドライバICを制御する制御信号を生成する。ドライバICは、制御信号に基づいて、アクチュエータユニット17を駆動する駆動信号を生成する。図2に示すように、FPC40は、平型柔軟基板であって、アクチュエータユニット17毎に設けられている。なお、図2では、一部のアクチュエータユニット17に対するFPC40の接続状態が示されている。実際は、アクチュエータユニット21毎に1つのFPC40が接合されている。また、FPC40の下側にあって点線で示すべきアクチュエータユニット17を、他のアクチュエータユニット17と同様に実線で示している。
【0030】
リザーバユニット11は、樹脂部材と複数の金属プレートの上流側積層体である。積層体内部には、インクを一時的に貯留するリザーバを含む上流側流路が形成されている。上流側流路は、一端がインクカートリッジ39に接続するチューブに連通し、他端が流路ユニット12の上面12xに形成された開口12yに連通している。リザーバユニット11の下面は、上面12x上において、アクチュエータユニット17が配置されていない部分で接着されている。接着領域は、図2に示すように、開口12yを含む二点差線で囲まれた領域である。このとき、リザーバユニット11の下面は、凹凸面であって、凹部が若干の隙間を介してFPC40(アクチュエータユニット17)と対向している。
【0031】
流路ユニット12は、図4に示すように、9枚の金属プレート12a〜12iの下流側積層体である。流路ユニット12の上面12xには、上流側流路に連通する開口12y及び圧力室16の開口が形成されている。流路ユニット12の内部には、開口12yから吐出口14aに至る下流側流路が形成されている。下流側流路は、開口12yを一端とするマニホールド流路13、マニホールド流路13から分岐した副マニホールド流路13a、副マニホールド流路13aの出口から圧力室16を経て吐出口14aに至る複数の個別インク流路14から構成されている。図4に示すように、副マニホーノレド流路13aと圧力室16の間には、流路抵抗調整用の絞りであるアパーチャ15が配置されている。
【0032】
特に、金属プレート12iには、個別インク流路14の端部である逆円錐台形状の貫通孔14bが形成されている。金属プレート12iの下面は、凹部12i1が貫通孔14bに対応して形成されている。この下面は、貫通孔14bを除く略全面が、厚み一定の撥水膜12jで覆われている。そのため、撥水膜面が作る凹部10yの深さは、撥水膜がない状態での凹部12i1の深さに等しい。なお、撥水膜面が吐出面10xであり、貫通孔14bに続く撥水膜面の開口が吐出口14aである。吐出口14aは、凹部10yの中央にそれぞれ位置する。
【0033】
8つのアクチュエータユニット17は、台形の平面形状を有し、流路ユニット12の上面12x上で2列の千鳥状に配置されている。アクチュエータユニット17は、厚み方向に積層された複数の圧電層を含む。上方のいくつかの圧電層は、上下に電極で挟まれている。電極で挟まれた圧電層の活性部は、d31、d33、d15から選ばれる少なくとも1つの振動モードで変位する。本実施の形態では、最上層の圧電層だけが活性部を有し、d31の振動モードで変位する。下の圧電層は、振動板である。最上層の圧電層は、上面に多数の個別電極が圧力室16と対向して形成され、下の圧電層は、上面全体に亘って共通電極が形成されている。個別電極には、駆動信号がドライバICから選択的に供給される。各活性部は、他の活性部から独立して変位可能で、アクチュエータユニット17には、圧力室16と同数の個別のアクチュエータが作り込まれていると言える。アクチュエータユニット17(下の圧電層)の下面は、圧力室16の開口を射止しており、アクチュエータが駆動されて圧力室16内のインクに圧力が与えられる。
【0034】
次に、図6を参照し、メンテナンスユニット60について説明する。メンテナンスユニット60は、インクを吸収する吸収部材50、これを移動する移動機構及びヘッドフレーム3を鉛直方向に上下移動する上下動機構(図示せず)から構成される。このうち、吸収部材50及び移動機構は、ヘッド10毎に設けられている。
【0035】
移動機構は、図6(a)に示すように、移動ローラ65,66及び両ローラ65,66間に巻回された無端状移動ベルト64に加え、移動ベルト64に接続されたスライダー62、スライダー62を摺動可能に支持するバー61、スライダー62に固定された支持部63等を有している。
【0036】
移動ローラ65は、駆動ローラであって、移動モータ(図示せず)によって図中時計回り、反時計回りの両方に回転する。例えば、移動ローラ65が時計回りに回転すると、移動ベルト64は太矢印に沿って走行する。移動ローラ66は、従動ローラであって、移動ベルト64の走行に伴い、図中時計回りに回転する。
【0037】
スライダー62は、バー61が貫挿される中空部と、中空部を画定し且つバー61の外周面を覆う環状部とを有する。環状部内面がバー61の外周面に摺動する。スライダー62は、移動ベルト64の下側ループに固定され、移動ローラ65の回転に合わせて往復移動する。これにより、スライダー62は、バー61の略両端間を移動する。バー61は、円柱状の金属部材である。図6(b)に示すように、ヘッド10の斜め上方において、バー61は、主走査方向を長手方向として筐体1aに固定されている。バー61は、主走査方向の両側でヘッド10より長い。支持部63は、L字状の外形形状を有し、スライダー62の下側外周面に固定されている。支持部63は、鉛直下方に延在する鉛直部と、鉛直部の下端から副走査方向に延在する水平部とを有する。鉛直部は、ヘッド10の一側面に沿って配置されている。水平部は、ヘッド10の吐出面10xと対向し、先端がヘッド10の他側面の外側に位置する。
【0038】
吸収部材50は、吐出面10xの幅と同じ長さを有し、少なくとも吐出面10xにおける全ての吐出口14aと副走査方向に対向可能である。吸収部材50は、支持部63の水平部に支持されている。本実施形態では、水平部が吸収部材50を貫通している。
【0039】
上下動機構は、ヘッド10が固定されたヘッドフレーム3を鉛直方向に移動させる。上下動機構は、ヘッドフレーム3を記録位置、吸収位置及び待避位置に移動させる。記録位置は画像形成時の位置であり、吸収位置はメニスカス吸収時の位置であり、待避位置はキャッピング時の位置である。鉛直方向に関して、吐出面10xと搬送ベルト8の外周面8aとの各位置における間隔は、この順に(記録位置、吸収位置及び待避位置の順に)大きくなる。また、メンテナンス時において、吸収位置では吸収部材50がヘッド10の吐出面10xに摺動して移動し、待避位置ではキャップ(図示せず)が吐出面10xを覆う。なお、ヘッド10か記録位置にあるとき、図6(a)に点線で示すように、吸収部材50は往復移動範囲の両端(待機位置)のいずれか一方にある。この位置において、吸収部材50はヘッド10と鉛直方向に重ならず、ヘッド10を自由に上下動できる。吸収部材50は、待機位置でヘッド10の側面と水平方向に対向する。ここで、メニスカス吸収とは、吐出に至らないメニスカス振動中において、吐出口14から突出したメニスカスの部分、特にその先端を、吸収部材50によって吸い取ることである。
【0040】
次いで、図7を参照し、プリンタ1における記録に係る制御について説明する。以下に述べる動作は、4つのヘッド10において略同時に行われるよう、コントローラ1pの制御により実行される。
【0041】
プリンタ1の電源OFF時や、プリンタ1が所定期間記録指令を受信していない休止期間には、ヘッド10の吐出面10xがキャップ(図示せず)により覆われ、ヘッド10内のインクの増粘や吐出口14a近傍でのインクの固化が抑制されている。このとき、ヘッドフレーム3は図1及び図6に示すよりも上方の待機位置にあり、搬送ベルト8の外周面8aとヘッド10の吐出面10xとの間にキャップが配置されている。プリンタ1の電源が投入されると、コントローラ1pは以下の動作を行う。
【0042】
先ず、コントローラ1pは、PC等の外部装置から記録指令を受信したか否かを判断する(S1)。記録指令を受信していない場合(S1:NO)、コントローラ1pは当該処理を繰り返す。
【0043】
記録指令を受信した場合(S1:YES)、コントローラ1pは、キャップ移動機構の駆動により、キャップを若干下降させ、吐出面10xから離隔する(S2:アンキャップ)。そしてこの状態で、吐出フラッシングを行う(S3)。具体的には、S3において、コントローラ1pは、吐出口14aからインク滴が吐出される程度のエネルギーが圧力室16内のインクに付与されるように、アクチュエータユニット17を制御し、全吐出口14aからインク滴を所定数だけ吐出させる。
【0044】
S3の後、コントローラ1pは、キャップ移動機構の駆動により、キャップを主走査方向に移動させ、鉛直方向に関して吐出面10xと対向しない位置へと退避させる(S4)。その後コントローラ1pは、ヘッドフレーム3を下降させ、図1及び図6に示すように搬送ベルト8の外周面8aと吐出面10xとが記録に適した所定距離離隔した位置(記録位置)に配置する(S5)。
【0045】
S5の後、コントローラ1pは、不吐出フラッシングを行う(S6)。具体的には、コントローラ1pは、アクチュエータユニット17を制御して、全吐出口14aにおいてメニスカスの振動を起こす。このとき、アクチュエータユニット17によって、吐出口14aからインクが吐出されない程度のエネルギーが、圧力室16内のインクに付与される。
【0046】
S6の後、コントローラ1pは、1枚目の用紙Pに対する記録制御を行う(S7)。即ち、コントローラ1pは、給紙モータ、搬送モータ、送りローラ、アクチュエータユニット17等を制御して、一連の記録動作(給紙、搬送、記録及び排紙)を行う。このとき、給紙トレイ23から用紙Pが搬送ユニット21へと送り出され、ヘッド10の各吐出面10xの前面を通過する際には、画像データに基づいて用紙P上に画像が形成される。用紙Pは、その後、排紙部31に排出される。この記録動作は、記録指令で指示された数だけ繰り返されることになる。
【0047】
S7の後、コントローラ1pは、S1で受信した記録指令で指示された全ての記録(全記録)が完了したか否かを判断する(S8)。
【0048】
コントローラ1pは、全記録が完了した場合(S8:YES)、処理を終了する。処理の終了に際して、コントローラ1Pは、給紙、搬送及び排紙動作を停止する。さらに、所定時間が経過しても次の記録指令がない場合、コントローラ1Pは、上下動機構及びキャップ移動機構を制御して、待避位置に移動された吐出面14aをキャップで覆う。全記録が未だ完了していない場合(S8:NO)、コントローラ1pは、記録指令に基づいて記録が完了した用紙Pの枚数(記録完了用紙数)が、例えば100*n(nは自然数)であるか否かを判断する(S9)。
【0049】
コントローラ1pは、記録完了用紙数が100*nでない場合(S9:NO)、メニスカス吸収(S10)を行うことなく、処理をS6に戻す。記録完了用紙数が100*nである場合(S9:YES)、コントローラ1pは、メニスカス吸収を行う(S10)。
【0050】
S10において、コントローラ1pは、メンテナンスユニット60の上下動機構を制御して、ヘッド10を記録位置から吸収位置に上昇する。ヘッド10の上昇完了後、コントローラ1Pは、移動モータを制御して待機位置のスライダー63を移動させる。このとき、吸収部材50は、例えば図6(a)において往復移動範囲の右端(一方の待機位置)から左端(他方の待機位置)に向かって、主走査方向に移動する。この間、吸収部材50は、吐出面10xを摺動する。
【0051】
コントローラ1pは、上記のように移動モータを制御して吸収部材50を一定の速度で移動させる。図8に示すように、吸収部材50が吐出口14aに対向する位置にあるときに、コントローラ1pは、アクチュエータユニット17を制御し、吐出口14aからインク滴が吐出されない程度のエネルギーが圧力室16内のインクに付与される。これにより、吐出口14aに形成されたメニスカス14mが、吐出口14aから凹部10yの深さより大きな突出量だけ突出して、吸収部材50の上面50xに接触する。突出したメニスカス14mの先端が、吸収部材50に吸収される。1の吐出口14aについて、複数回のメニスカス14mの突出動作(振動)を繰り返すことで、最も増粘が進むメニスカス14mを作るインクが除去される。
【0052】
上記のようなアクチュエータユニット17の制御は、吸収部材50の移動に合わせてヘッド10の8つのアクチュエータユニット17が吸収部材50の待機位置に近い方から順次駆動するようにしてもよいし、8つのアクチュエータユニット17が同時に駆動するようにしてもよい。或いは、1のアクチュエータユニット17を吸収部材50の幅(主走査方向の長さ)に対応する複数ブロックに分割し、ブロック毎に駆動するようにしてもよい。
【0053】
コントローラ1pは、吸収部材50が往復移動範囲の左端(図6(a)参照)に達したところで、スライダー62の移動を止め、上下動機構を制御してヘッド10を記録位置に戻す。その後、コントローラ1pは、処理をS6に戻す。次のメニスカス吸収(S10)まで、当該停止した位置がスライダー62及び吸収部材50の待機位置となり、次のメニスカス吸収時には、当該停止した位置を始点として移動を開始する。この移動方向は、先の移動方向と反対である。
【0054】
メニスカス吸収(S10)により吸収部材50に吸収されたインクは、S10の後でS6に戻る前、数回のS10の後でS6に戻る前等に、別の吸収部材を吸収部材50に接触させることにより、吸収部材50から除去されてよい。これにより、吸収部材50のインク吸収性能が回復する。
【0055】
以上に述べたように、本実施形態に係るプリンタ1によれば、コントローラ1pの制御により、メニスカス吸収(図7のS10:吐出口14aと吸収部材50の上面50xとを対向させた状態でメニスカス14mを上面50xに接触させる動作)を行うことで、メニスカス14m先端にある比較的少量の増粘インクが、吸収部材50内に吸収され、ヘッド10のインク流路から排出される。このように、インク滴を吐出させなくとも、増粘インクをヘッド10内から排出することができるため、吐出フラッシングの回数を低減可能である。即ち、本実施形態によれば、吐出性能回復に係る液体消費量を抑制することができる。
【0056】
メニスカス吸収中は、吐出口14aと吸収部材50の上面50xとが、凹部10yによる間隙を介して離隔しつつ、対向する。メニスカス吸収中に、吐出口14aと上面50xとの間に間隙が形成されない場合、毛細管現象により吐出口14aから吸収部材50内に多くのインクが吸収され易い。これに対し、本実施形態の場合、吐出口14aと上面50xとの間に凹部10yによる間隙が形成されるため、毛細管現象による問題を軽減し、インク消費量をより確実に抑制することができる。また、凹部10yによる間隙の存在により、吐出口14a周縁、当該周縁(凹部12i1内)に形成された撥水膜12jの保護、さらには吐出口14a周辺へのインクの付着防止が実現される。上記インクの付着防止効果は、ヘッド10と吸収部材50とを相対移動させつつメニスカス吸収を行う場合に、特に有効である。
【0057】
メニスカス吸収中は、吸収部材50の上面50xと吐出面10xとが接触し、吐出口14aと上面50xとが凹部10yによる間隙を介して離隔しつつ対向する。この場合、吐出口14aと上面50xとを間隙を介して離隔しつつ対向させるための構成として、別の構成(例えば、上面50xを、吐出面10xと接触させず、一定の間隔をなして吐出面10xから離隔させる構成)を採用する場合に比べ、構成の簡略化が実現され、プリンタ1のコンパクト化に有効である。
【0058】
吐出面10xの吐出口14aを含む部分に形成された凹部10yによって、吐出口14aと上面50xとの間隙が構成されている。そしてコントローラ1pは、メニスカス吸収(図7のS10)において、吐出口14aに形成されたメニスカス14mが吐出口14aから凹部10yの深さより大きな突出量だけ突出するように、アクチュエータユニット17を制御する。このように、凹部10y及びこれに基づく制御によって、インク消費量の抑制、吐出口14a周辺へのインクの付着防止、吐出口周縁等の保護を、より実効的に実現することができる。
【0059】
コントローラ1pは、図7に示すように、所定数(本実施形態では100枚)を超える数の用紙Pに対する連続記録時において、例えば、100枚の用紙Pに対する記録が完了した後、次の用紙Pに対する記録を行う前に、メニスカス吸収(S10)を行う。このとき、コントローラ1pは、移動機構を制御して吸収部材50を移動させる。そしてコントローラ1pは、ヘッド10が吸収位置に配置されているときに、吐出口14aからインク滴が吐出されない程度のエネルギーが圧力室16内のインクに付与され、吐出口14aに形成されたメニスカス14mが少なくとも上面50xに接触するように、アクチュエータユニット17を制御する。このようにして、メニスカス吸収中に、メニスカス14m先端の吸収によって吐出性能を効果的に回復させることで、記録品質を維持することができる。また、連続記録中に吐出フラッシングを行う場合、搬送ベルト8や用紙P上にインク滴を吐出することとなり、搬送ベルト8の汚れや用紙Pの消費が問題になるが、本実施形態によれば、この問題を軽減することができる。
【0060】
コントローラ1pは、連続記録時において、所定数(本実施形態では100枚)の用紙Pに対する記録が完了する毎に、メニスカス吸収(S10)を行う。このように、多数の用紙Pに対する連続記録時において、所定数の用紙Pに対する記録が完了する毎にメニスカス14mの吸収を行うことで、記録品質をより確実に維持することができる。
【0061】
コントローラ1pは、プリンタ1の電源の投入後に記録(S7)を行う前、及び、所定期間休止後に記録(S7)を行う前に、吐出口14aからインク滴が吐出される程度のエネルギーが圧力室16内のインクに付与されるように、アクチュエータユニット17を制御する(図7のS3:吐出フラッシング)。これにより、記録品質をより確実に維持することができる。
【0062】
吸収部材50は、図2及び図6(a)に示すように、吐出面10xの主走査方向長さよりも短い幅を有し、副走査方向において上面50xがヘッド10に形成された全ての吐出口14aに対向するよう、形成されている。コントローラ1pは、ヘッド10を吸収位置に固定した状態で吸収部材50を移動させ、ヘッド10及び吸収部材50が主走査方向に相対的に移動するようよう、移動機構を制御しつつ、メニスカス吸収に係るアクチュエータユニット17の制御を行う。このような構成により、吸収部材50の小型化が実現される。
【0063】
次いで、図9〜図12を参照し、本発明に係る液滴吐出装置の第2実施形態としてのインクジェット式プリンタについて説明する。本実施形態のプリンタは、吸収部材、これを移動させる移動機構、及びヘッドの構成が第1実施形態と異なり、これら以外は第1実施形態と同じである。以下、第1実施形態と同じ構成要素については同じ符号を付して説明を省略する。
【0064】
本実施形態のヘッド110は、図5及び図12から分かるように、プレート112iに吐出口114a毎に形成された貫通孔の形状、及び、流路ユニット112の最下層のプレート112iの下面に凹部12i1が形成されていない(即ち、吐出面110xにおける各吐出口114aを含む部分に凹部10yが形成されていない)点について、第1実施形態のヘッド10と異なる。プレート112iの吐出口114a毎に形成された貫通孔は、第1実施形態と同様の円錐台状の貫通孔14bの下底に円柱状の貫通孔14cが接続された形状を有する。撥水膜112jは、プレート112iの下面の貫通孔14cを除く部分に、当該下面に沿って水平に形成されている。本実施形態において、吐出面110xは、撥水膜112jの下面であって、プレート112iの下面に対向する水平面である。吐出口114aは、撥水膜112jの下面における貫通孔14cの開口に対向する部分である。
【0065】
本実施形態のプリンタにおいて、メンテナンスユニット160は、ヘッド110毎に設置され、吸収部材150とこれを移動する移動機構を含む。吸収部材150は、主走査方向を長手方向にして移動機構に支持され、主走査方向に往復移動される。4つのヘッド110それぞれに対して設けられた4つの吸収部材150、及び、当該4つの吸収部材150を共に移動させる移動機構を有する。
【0066】
各吸収部材150は、図9に示すように、平面視において吐出面110xと略同じ形状及びサイズを有する。吸収部材150は、図10に示すように、樹脂等の剛材料からなる支持体151、及び、吐出口114a毎に設けられた吸収体152を含む。
【0067】
支持体151は、図9に示す吸収部材150の外形を画定する、平面視において吐出面110xと略同じ形状及びサイズの矩形プレートである。支持体151の上面151xには、図9では図示を省略しているが、図10に示すように、吐出口114aと同じ配置態様で、止まり穴151yが形成されている。止まり穴151yは、吐出口114aよりも大きな直径の円柱状の空間を有し、メニスカス吸収時に上面151xと吐出面110xとが対向して全体的に接触したときに、それぞれ対応する吐出口114aの中心と軸が略一致するよう形成されている(図12参照)。
【0068】
吸収体152は、インク吸収性を有するスポンジ等の材料からなる、止まり穴151yと略同じ直径の円柱状の部材であり、各止まり穴151yに収容されている。吸収体152の高さは止まり穴151yの深さよりも小さい。また、吸収体152の底面は止まり穴151yの底部に接触している。そのため、止まり穴151yの上部は、吸収部材150の上面を底面とする円柱状凹部150yとなっている。凹部150yの深さは、止まり穴151yの深さと吸収部材150の高さの差に相当する。
【0069】
メンテナンスユニット160は、4つの吸収部材150に加えて、移動プレート161、及び移動ユニット(図示せず)を含む。4つの吸収部材150は、図9に示すように、移動フレート161上に副走査方向に並び、ヘッド110と同じ間隔で支持されている。移動ユニットは、移動プレート161を主走査方向及び鉛直方向に移動する。メニスカス吸収に際して、移動プレート161が移動されて、吸収部材150はヘッド110と平面視で一致し、吐出口114aと凹部150yとがそれぞれ対向することになる。
【0070】
本実施形態のプリンタにおける記録に係る制御は、第1実施形態と同様である。即ち、コントローラ1pは、図7に示す各処理を行う。
【0071】
吸収部材150、移動プレート161等は、メニスカス吸収(図7のS10)が行われるとき以外は、図9に示す待機位置にある。待機位置において、移動プレート161上の4つの吸収部材150はそれぞれ、副走査方向に関して対応するヘッド110と一致し、主走査方向に関して対応するヘッド110から離隔し、且つ、鉛直方向に関して支持体151の上面151xが吐出面110xよりも若干下方に位置するよう、配置されている。
【0072】
S10において、コントローラ1pは、先ず、図11に示すように、搬送ユニット21を黒塗矢印に沿って下降させる。これにより、吐出面110xと外周面8aとの間に、移動プレート161等を挿入可能な間隙が形成される。その後、移動機構を駆動し、待機位置にある移動プレート161を、図9に黒塗矢印で示すように、主走査方向に沿ってヘッド110下側へと移動させる。各吸収部材150の支持体151の上面151xと吐出面110xとが若干の間隙を介して鉛直方向に全体的に対向したところで、移動プレート161を停止する。その後、さらに移動機構を駆動し、上面151xと吐出面110xとが全体的に接触するように、移動プレート161を上昇させる。これにより、各吸収部材150は、待機位置(凹部150yと吐出口114aとが対向しない位置(図9参照))から、吸収位置へと移動し、全ての吐出口114aが凹部150yと対向する。
【0073】
コントローラ1pは、吸収部材150を上記吸収位置に静止させたまま、全てのヘッド110の全吐出口114aについて、メニスカスの振動を起こす。コントローラ1pは、アクチュエータユニット17を制御して、図12に示すように、吐出口114aからインク滴を吐出させないが、メニスカスを吐出口114aから凹部150yの深さより若干大きく突出させる。このとき、メニスカスの先端は、吸収体152の表面(凹部150yの底面)に達して吸収される。
【0074】
その後、コントローラ1pは、移動プレート161を若干下降させ、上面151xと吐出面110xとを離隔させた後、移動プレート161を主走査方向に移動させ、吸収部材150及び移動機構の移動プレート161等を待機位置に戻す。さらにコントローラ1pは、搬送ユニット21を上昇させ、記録時の位置に戻した後、処理をS6に戻す。
【0075】
メニスカス吸収(S10)により吸収体152に吸収されたインクは、例えば、止まり穴151yに連通する通路を介して、吸収体152内から排出されてよい。これにより、吸収体152のインク吸収性能が回復する。
【0076】
以上に述べたように、本実施形態に係るプリンタによると、第1実施形態に係るプリンタ1と同様の効果に加え、以下の効果が得られる。
【0077】
即ち、吸収部材150は、図9に示すように、吐出面110xと略同じ平面サイズを有し、吸収位置において多数の吸収体152がヘッド110に形成された全吐出口114aのそれぞれに対向するよう、形成されている。コントローラ1pは、吸収位置において吸収体152が全ての吐出口114aのそれぞれと対向した状態で、ヘッド110及び吸収部材150を共に固定し、ヘッド110及び吸収部材150が相対的に静止するよう、移動機構を制御しつつ、メニスカス吸収に係るアクチュエータユニット17の制御を行う。このような構成により、各ヘッド110に形成された全ての吐出口114aについてメニスカス吸収を同時に行うことができるため、メニスカス吸収に係るアクチュエータユニット17の制御が容易である。
【0078】
さらに、吸収部材150が吸収位置において吐出面110xに接触する上面151xを有する場合に、上面151xと吐出面110xとを接触させた状態でヘッド110及び吸収部材150を相対的に移動させつつメニスカス吸収を行うと、吐出面110x及び上面151x間の摩擦によって吐出面110xや上面151xが損傷し得る。また、吸収部材150の上面に凹部150yが形成されていない(即ち、吸収体152の上面が支持体151の上面151xと同じ高さにある)場合、吸収体152に保持されたインクが吐出面110xに付着し得る。これに対し、本実施形態のように、メニスカス吸収の際にヘッド110及び吸収部材150を相対的に静止させれば、上記問題を軽減することができる。
【0079】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0080】
凹部は、吐出面における吐出口を含む部分及び吸収部材の一方ではなく、これらの両方に形成されてもよい。凹部は、第1実施形態の凹部10yのような円錐台状や、第2実施形態の凹部150yのような円柱状に限定されず、様々な形状であってよい。また、凹部は、1の吐出口毎に設けられることに限定されず、2以上の吐出口に対して設けられてもよい。
【0081】
上述の実施形態では、凹部10y;150yによって、吸収位置における吐出口と対向部との間隙が構成されているが、これに限定されない。例えば、吸収部材における対向部が設けられた面を、吐出面と接触させず、一定の間隔をなして吐出面から離隔させることで、当該間隙を形成してよい。
【0082】
吸収部材は、吸収位置において吐出面に接触する接触面を含まなくてもよい。吸収部材が接触面を含まない場合、例えば、上記と同様、吸収部材における対向部が設けられた面を一定の間隔をなして吐出面から離隔させた状態で、メニスカス吸収を行ってよい。
【0083】
吸収位置において、吐出口と対向部とが、所定の間隙を介して離隔しつつ、対向することに限定されない。即ち、吸収位置において、対向部が吐出口に接触してよい。
【0084】
第1実施形態では、吸収部材50全体がインク吸収性を有するが、吐出口と対向する上面50x近傍のみをインク吸収性を有する部材で構成してよい。例えば、第1実施形態の吸収部材は、上面50xを構成する薄いシート状のインク吸収性を有する部材とこれを支持する板とを含んでよい。また、第1実施形態の吸収部材は、シート状に限定されず、円柱状等、様々な形状であってよい。例えば、吸収部材が、副走査方向に沿った回転中心を有する円柱状であって、メニスカス吸収時に、吸収部材の周面を吐出面10xに接触させた状態で吸収部材を回転させながら主走査方向に移動させてよい。ここで、円柱状の吸収部材は、剛な軸部材と、当該軸部材の周面に設けられたシート状のインク吸収性を有する部材とを含んでよい。
【0085】
移動機構は、ヘッド及び吸収部材の少なくとも一方を移動させればよい。例えば、上述の実施形態ではメニスカス吸収の際に吸収部材を移動させるが、吸収部材を定位置に維持しつつヘッドを移動させてもよいし、吸収部材及びヘッドの両方を移動させてもよい。
【0086】
第1実施形態では、メニスカス吸収(図7のS10)の際、吸収部材50を一定の速度で移動させるが、これに限定されず、吸収部材50の速度を変化させたり、吸収部材50を間欠的に移動させたりしてもよい。間欠的移動とは、例えば、吸収部材50をある吸収位置に移動させた後に一旦停止させてメニスカス吸収を行い、その後吸収部材50を次の吸収位置(隣接する吸収位置)へと移動させた後に一旦停止させてメニスカス吸収を行うことをいう。
【0087】
第1実施形態の吸収部材を吐出面と同じ平面サイズとし、第2実施形態のようにメニスカス吸収時に吸収部材の全体を吐出面に接触した状態で吸収部材及びヘッドを相対的に静止させてもよい。
【0088】
第2実施形態の吸収部材を吐出面よりも小さな平面サイズとし、第1実施形態のように吸収部材及びヘッドを相対移動させつつメニスカス吸収を行ってもよい。この場合、吸収部材及びヘッドを、一定速度で相対移動さてもよいし、間欠的に相対移動させてもよい。
【0089】
第2実施形態においては、メニスカス吸収(図7のS10)の際、搬送ユニット21を下降させるが、吸収部材150及び移動プレート161等が記録時における吐出面10xと外周面8aとの間に両者との間隙を形成しつつ挿入可能なサイズであれば、搬送ユニット21を下降させなくてもよい。
【0090】
第2実施形態においては、メニスカス吸収(図7のS10)の際、吸収部材150は、先ず、支持体151の上面151xと吐出面10xとが接触しないように両者間の間隙を維持しつつ、主走査方向に移動し、上面151xと吐出面10xとが全体的に対向する位置に至った後、上面151xと吐出面10xとが全体的に接触するように上方に移動するが、これに限定されない。例えば、吸収部材150は、主走査方向の移動の前に上面151xが吐出面10xと同じ高さにあり、上面151xと吐出面10xとを接触させながら主走査方向に移動し、上面151xと吐出面10xとが全体的に接触した状態で静止し、メニスカス吸収が行われてよい。
【0091】
第1実施形態では、メニスカス吸収(図7のS10)の後にスライダー62及び吸収部材50を待機位置に戻す作業を行わず、待機位置がメニスカス吸収毎にヘッド10の主走査方向一端近傍と他端近傍とで入れ替わるようにしているが、これに限定されない。即ち、待機位置を定位置とし、メニスカス吸収の後にスライダー62及び吸収部材50を待機位置に戻してよい。
【0092】
所定数は100に限定されず、2以上の任意の整数であってよい。
【0093】
メニスカス吸収(S10)を行うタイミングは、上述の実施形態では、所定数の記録媒体に対する記録が完了した後で次の記録媒体に対する記録を行う前や、所定数の記録媒体に対する記録が完了する毎に限定されず、任意である。
【0094】
不吐出フラッシングは、1枚の用紙Pに対する記録毎ではなく、複数枚の用紙Pに対する記録毎に行ってもよい。不吐出フラッシングや吐出フラッシング(図7のS3)を省略してもよい。また、本発明は、連続記録中に吐出フラッシング(例えばキャップ、搬送ベルト、記録媒体等に向けて、液滴を強制的に吐出させる動作)を行うことを禁止するものではない。連続記録中に吐出フラッシングを行うとしても、メニスカス吸収(図7のS10)を行う限りは、吐出フラッシングの回数が低減され、吐出性能回復に係る液体消費量を抑制することができる。
【0095】
コントローラ1pは、S6の不吐出フラッシング後に、S7の用紙Pの搬送を開始しているが、不吐出フラッシングは吐出による記録開始直前に所定時間行えばよく、用紙Pに搬送開始後であって、用紙Pが吐出面10xの記録領域に達する前に行えばよい、これにより、単位時間当たりの記録枚数が大きくなる。
【0096】
コントローラ1pは、連続記録中において、記録媒体を所定数記録する毎にメニスカス先端の対向部による吸収を行っているが、このとき、対向部による吸収動作を開始するまでの所定期問内に、一度も吐出動作を行わなかった吐出口に対してのみメニスカス先端の吸収動作を行うように、アクチュエータを制御してもよい。これにより、無駄な液体の消費をさらに低減できる。
【0097】
また、上述の実施形態では、吸収部材50に吸収されたインクを別の吸収部材を吸収して、吸収部材50の吸収能力を回復するが、支持部63を中空部材で構成し、中空の一端部を水平部に開口し、支持された吸収部材50を内側から吸引して吸収能力の回復を図ってもよい。このとき、中空の他端は、鉛直部の上端部に開口し、例えば、チューブを介してポンプで吸引される。
【0098】
さらに、上述の実施形態では、メニスカス吸収時に、ヘッド10を吸収位置に一旦上昇させるが、吐出面10xと搬送ベルト8の上面8aとの間の間隔よりも吸収部材が薄い場合、この上昇動作は不要である。このとき、吸収部材は、吐出面10xのうち吐出口14を避けた領域、例えば、吐出面10xの長手方向両端部の一方を待機位置とすればよい。この構成によれば、ヘッドの上下動に関する時間を省けるので、印刷のスループットが向上する。
【0099】
第2実施形態では、1つの吐出口114aに対して1つの凹部150yが設けられているが、これに限定されない。吸収部材が作る凹部は、吐出面10xにおける吐出口114aの分布形態に対応したサイズと形状を有してよい。例えば、第2実施形態では、複数の吐出口114aは、アクチュエータユニット17の外形形状に対応して、平面視で略台形形状の分布領域を形成している。そこで、凹部もこれと相似の平面形状であってもよい。
【0100】
吸収部材の対向部に吸収されたインクは、上述した以外の様々な方法によって、排出・除去されてよい。
【0101】
本発明に係る液滴吐出装置は、ライン式・シリアル式のいずれにも適用可能であり、また、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機等にも適用可能である。さらに、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、インク滴以外の液滴を吐出してもよい。記録媒体は、用紙P以外の様々なものであってよい。
【符号の説明】
【0102】
1 インクジェット式プリンタ(液滴吐出装置)
1p コントローラ(制御手段)
10 インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)
10x 吐出面
10y;150y 凹部(間隙)
14 個別インク流路(液体流路)
14a;114a 吐出口
14m;114m メニスカス
17 アクチュエータユニット(アクチュエータ)
50;150 吸収部材
50x 上面(接触面,対向部)
60;160 メンテナンスユニット(移動機構)
151 支持体
151x 上面(接触面)
152 吸収体(対向部)
161 移動プレート
P 用紙(記録媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する吐出口を先端に有する液体流路、前記吐出口から吐出された液滴が着弾する記録媒体に対向する吐出面、及び、前記液体流路内の液体にエネルギーを付与するアクチュエータを含む液滴吐出ヘッドと、
前記吐出面との対向時に前記吐出口に対向する液体吸収性の対向部を有する吸収部材と、
前記液滴吐出ヘッド及び前記吸収部材が、前記吐出口と前記対向部とが対向する吸収位置に配置されるように、前記液滴吐出ヘッド及び前記吸収部材を相対的に移動させる移動機構と、
前記液滴吐出ヘッド及び前記吸収部材が前記吸収位置に配置されるよう前記移動機構を制御し、且つ、前記液滴吐出ヘッド及び前記吸収部材が前記吸収位置に配置されているときに、前記吐出口から液滴が吐出されない程度のエネルギーが前記液体流路内の液体に付与され、前記吐出口に形成されたメニスカスが少なくとも前記対向部に接触するように、前記アクチュエータを制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記吸収位置において、前記吐出口と前記対向部とが、所定の間隙を介して離隔しつつ、対向することを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記吸収部材が、前記吸収位置において前記吐出面に接触する接触面を含み、
前記吸収位置において、前記接触面と前記吐出面とが接触し、前記吐出口と前記対向部とが前記間隙を介して離隔しつつ対向することを特徴とする請求項2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記吐出面の前記吐出口を含む部分及び前記吸収部材の少なくとも一方に形成された凹部によって、前記間隙が構成され、
前記制御手段が、前記吐出口に形成されたメニスカスが前記吐出口から前記凹部の深さより大きな突出量だけ突出するように、前記アクチュエータを制御することを特徴とする請求項2又は3に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記制御手段は、所定数を超える数の記録媒体に対する連続記録時において、前記所定数の記録媒体に対する記録が完了した後、次の記録媒体に対する記録を行う前に、前記液滴吐出ヘッド及び前記吸収部材が前記吸収位置に配置されるよう前記移動機構を制御し、且つ、前記液滴吐出ヘッド及び前記吸収部材が前記吸収位置に配置されているときに、前記吐出口から液滴が吐出されない程度のエネルギーが前記液体流路内の液体に付与され、前記吐出口に形成されたメニスカスが少なくとも前記対向部に接触するように、前記アクチュエータを制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記連続記録時において、前記所定数の記録媒体に対する記録が完了する毎に、前記制御を行うことを特徴とする請求項5に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記制御手段は、装置電源の投入後に記録を行う前と所定期間休止後に記録を行う前との少なくとも一方において、前記吐出口から液滴が吐出される程度のエネルギーが前記液体流路内の液体に付与されるように、前記アクチュエータを制御することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記吸収部材は、前記吸収位置において前記対向部が前記液滴吐出ヘッドに形成された複数の前記吐出口の一部に対向するよう、形成されており、
前記制御手段は、前記液滴吐出ヘッド及び前記吸収部材が前記吐出面に平行な方向に相対的に移動するよう前記移動機構を制御しつつ、前記アクチュエータの前記制御を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記吸収部材は、前記吸収位置において前記対向部が前記液滴吐出ヘッドに形成された複数の前記吐出口の全てに対向するよう、形成されており、
前記制御手段は、前記吸収位置において前記対向部が前記全ての吐出口に対向した状態で前記液滴吐出ヘッド及び前記吸収部材が相対的に静止するよう前記移動機構を制御しつつ、前記アクチュエータの前記制御を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−156705(P2011−156705A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18891(P2010−18891)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】