説明

液滴射出装置

【課題】カバー部材の可撓性を周知の限界以下に低下させ、それにより印刷方向におけるノズル密度を増大しそしてプリントヘッドの印刷速度をも速めることを可能にする液滴射出装置の提供。
【解決手段】各流体チェンバーがチェンバー壁間隔で互いに分離された相対する一対のチェンバー壁によって画成されそしてそれからの液滴射出のためのノズルと流体連絡している複数の流体チェンバーからなる列;および該複数のチェンバー壁の端へ接合しそれにより該チェンバーの1つの側面をシールするカバー部材をもち、該カバー部材の厚さ対該チェンバー壁間隔の比が1以下対1である液滴射出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴射出装置用のコンポーネントに関し、そしてさらに特に液滴射出装置用のカバー部材に関する。本発明は、ドロップ・オン・デマンドインクジェット印刷の領域に特に応用される。
【背景技術】
【0002】
インクジェットのプリントヘッドの周知の構成は、ピエゾ電気作動要素を用いて、流体射出チェンバー中に圧力波を生じさせそしてそれを操作する。信頼できる操作および十分な小滴の射出速度のために、最低の圧力は、典型的な例では1バールであるが、チェンバー中に発生させねばならない。このような圧力を生じさせるために、チェンバーは、適切な硬さ(stiffness)(または可撓性のなさ)を示さねばならないことは理解されるだろう。流体射出チェンバーの可撓性は、それゆえ、チェンバーのデザインにおいて重要な基準であり、そして流体射出チェンバーの可撓性を最低に保つために数多くの技術が従来提案されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1は、可撓性が低い接着結合を提供する結合技術を記述している。特許文献2は、正確なノズル形成を可能にしつつ、硬さを改善するための複合構造を有するノズル板を提案している。
【0004】
周知のピエゾ電気アクチュエーター構造では、細長いチャンネルの列は、ピエゾ電気材料のブロックの表面に並んで形成される。カバー板は、次に表面に取り付けられ、チャンネルを囲み、そして流体射出用のオリフィスが形成されているノズル板も取り付けられる。ノズル板は、カバー板に重ねられ、オリフィスはノズル板を経て形成され、カバー板を経て下のチャンネルにつながる。この構造は、ノズルがチャンネルの側面に形成されるので、「サイド・シューター」として知られている。いわゆる「エンド・シューター」構造でチャンネルの末端にノズル板を取り付けることも知られている。
【0005】
特許文献3および4は、特に好ましいプリントヘッドの構成を記述しており、チェンバー壁の相対する側面上の電極間の電場の適用が、ピエゾ電気壁をせん断モードで変形させ、そしてチャンネル中のインクに圧力をかける。このような構成では、変位は、典型的な例では、50ナノメートルのオーダーのものであり、そしてチャンネルの可撓性に基づくチャンネルのディメンジョンの対応する変化が、適用した圧力の急速な損失を招き、そしてそれに対応して性能が低下することが理解されるだろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ヨーロッパ特許0712355
【特許文献2】WO02/98666
【特許文献3】ヨーロッパ特許A0277703
【特許文献4】ヨーロッパ特許A0278590
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、驚くべきことに、或る構成では、チェンバーの可撓性は許容され、かえって利益になることすらあるということを見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の局面では、本発明は、各流体チェンバーがチェンバー壁間隔で互いに分離された相対する一対のチェンバー壁によって画成されそしてそれからの小滴射出のためのノズルと流体連絡している複数の流体チェンバーからなる列;および該複数のチェンバー壁の端へ接合しそれにより該チェンバーの1つの側面をシールするカバー部材をもち、該カバー部材の厚さ対該チェンバー壁間隔の比が1以下対1である小滴付着装置を提供する。
【0009】
好ましくは、カバー部材は100×10N/m以下のヤング率を有する。
【0010】
この構成は、可撓性のカバー部材を提供し、そのため、チャンネルの硬さを最大にするという共通の目的をともにする従来の教示とは、まさに反することになる。
【0011】
好ましくは、ノズルは該カバー部材中に形成される。この構成は、ノズルが、カバー板の開口を経ることよりもチャンネルに直接連絡する利点をもたらす。これは、次にチェンバーからノズルへの流体流に対する抵抗を減らすことになり、その低下した抵抗性は、増加したチャンネルの可撓性により生ずる性能のどんな損失も相殺することが分かった。
【0012】
本発明の第2の局面は、各流体チェンバーがチェンバー壁間隔で互いに分離された相対する一対のチェンバー壁によって画成されそしてそれからの小滴射出のためのノズルと流体連絡している複数の流体チェンバーからなる列;および該複数のチェンバー壁の端へ接合しそれにより該チェンバーの1つの側面をシールするカバー部材をもち、該カバー部材の厚さ対該チェンバー壁間隔の比が1以下対5であり、且つ該カバー部材が100×10N/m以下のヤング率を有する小滴付着装置を提供する。
【0013】
「サイド・シューター」および「エンド・シューター」の両者のプリントヘッドについて行われた実験は、150μmより薄いカバーの厚さが射出の性質に顕著に影響することなく利用できるという驚くべき発見を導く。周知のアクチュエーターは、典型的な例では、従来技術で教示された必要な硬さを確保するために、約900μmの厚さを使用する。
【0014】
そのため、本発明の第3の局面は、各流体チェンバーがチェンバー壁間隔で互いに分離された相対する一対のチェンバー壁によって画成されそしてそれからの小滴射出のためのノズルと流体連絡している複数の流体チェンバーからなる列;および該複数のチェンバー壁の端へ接合しそれにより該チェンバーの1つの側面をシールするカバー部材をもち、その場合カバーの厚さが150μmより薄い小滴付着装置を提供する。
【0015】
好ましくは、カバーの厚さは、100μmより薄く、さらに好ましくは75μmより薄く、より好ましくは50μmより薄く、なお好ましくは25μmより薄い。
【0016】
好ましくは、カバーの厚さは、6μmより厚く、さらに好ましくは8μmより厚く、より好ましくは10μmより厚い。
【0017】
それゆえ、本発明の第4の局面は、少なくとも1つの流体チェンバー;および該少なくとも1つの流体チェンバーと境を接し少なくとも1つのノズルを有する可撓性のカバー部材をもち;該チェンバーは、該チェンバーから該ノズルを経て流体の射出を行わせるように電気作動作用によって体積の変化を行い、且つカバー部材の厚さは、流体の射出に必要な最低の作動電圧を生ずる値かまたはそれに近い値である小滴付着装置を提供する。
【0018】
カバー部材は、好ましくは、流体の射出に必要な最低の作動信号電圧を生ずるのより厚いが75μm以下、さらに好ましくはそれより厚いが50μm以下そしてより好ましくはそれより厚いが25μm以下の厚さを有する。
【0019】
本発明の教示に従って最低の作動電圧を達成することにより、ピエゾ電気材料の寿命そしてプリントヘッドのそれは、製造プロセスにおける簡単な変化により延長できる。事実、使用される可撓性の材料は、それら自体製造プロセスを単純化できる。
【0020】
或る態様では、カバー部材の最低の厚さは、使用される材料に密接に関係し、そして厚さはその材料により達成可能である。或る態様では、カバー材料は、好ましくは流体の射出に必要な最低の作動信号電圧を生ずるのより下であるが50μm以上、さらに好ましくはそれより下であるが20μm以上、そしてなお好ましくはそれより下であるが10μm以上の厚さを有する。
【0021】
チェンバーは、好ましくは、作動作用により体積の変化を行うピエゾ電気要素から構成され、そして作動要素はカバー部材と異なることが好ましいが、カバー部材は作動要素として構成できる。
【0022】
本発明のさらなる利点は、流体がチャンネルを通って連続的に流れる態様にカバー板を排除することにより、チャンネルを通る流れはノズル入口に隣接して直接通過し、ノズル中の屑または泡の随伴の可能性は低くなる。さらに、比較的薄い部材により形成されるノズルにより、ノズルの所定の直径では、入口から出口へのノズルの長さは短くなる。泡がノズルの出口で消滅するとき、これらはチャンネルを通る流れによって取り除かれそうである。
【0023】
金属カバー部材または金属複合カバー部材が使用される態様では、10μmより薄いそしてさらに5μmより薄い厚さでも考えられる。
【0024】
好ましくは、カバー部材は、該チェンバーの末端を越えて延在して、構成の単純化の点で顕著な利点をもたらす上下続きの構成のような流体マニホールド域と境を接する。
【0025】
この方法で、同じコンポーネントは、作動時にチャンネルにおける圧力を維持するように働くが、また可撓性のためにマニホールド域で減衰器として有利に働くことができる。このような減衰は、従って、残存する音波が最も顕著なチェンバーに直接隣接してもたらさられる。チェンバーからさらに離れて、カバー部材のスパンがより長く構成されるとき、それに応じて、より大きな減衰が達成できる。これは、例えばインク供給において発生する圧力パルスを減衰させるように有利に働くことができる。
【0026】
本発明のさらなる局面は、各流体チェンバーがそれからの小滴射出のためのノズルと流体連絡している複数の流体チェンバーからなる列;および該チェンバーと境を接するように配置された可撓性のカバー部材を持ち、該可撓性のカバー部材は、該チェンバーから離れて延在し、さらに流体マニホールド域と境を接して構成されている小滴付着装置を提供する。
【0027】
本発明の態様は、異なる材料から形成されるカバー部材を用いる。本発明の利点は、高い硬さが要求されないので、比較的低いヤング率を有する材料が使用できることである。ポリマーまたはプラスチック材料は、製造を単純にするのに有利である。ノズルは、レーザー切断によりまたはフォトリトグラフィーにより比較的容易にこれらの材料で形成できる。特に好ましい材料は、ポリイミドおよびSU−8フォトレジストである。SU−8は、それが溶液で加工可能であり、そして厚さがわずか数ミクロンの層を形成できるスピンコーティングが可能なため、有利である。PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)は、また、熱および化学的劣化に対するそれらの高い抵抗性および優れた機械的性質のために、使用できる。
【0028】
従って、本発明のさらなる局面は、小滴付着装置用のコンポーネントを製造する方法を提供し、その方法は、その上に複数のチェンバー壁を形成した可撓性の基材を用意し;
該可撓性の基材上に電導性トラックを形成して該チェンバー壁上に形成された電極への電導性接続をもたらす。
【0029】
この態様において、可撓性の基材は可撓性の回路ボードであり、そしてその上に形成された電導性のトラックは、チェンバー壁を駆動回路へ接続するのに有利に使用される。
【0030】
本発明のさらなる局面は、小滴射出のためのノズルと流体連絡している少なくとも1つの流体チェンバー;および該少なくとも1つのチェンバーと境を接する可撓性のカバー部材を持ち;該チェンバーが該ノズルを経て該チェンバーから流体の射出を起こさせるように作動作用によって体積の変化を行い、且つカバー部材がポリマーからすべて形成される小滴付着装置を提供する。
【0031】
好ましくは、カバー部材は、厚さが100μmより薄く、より好ましくは50μmより薄く、そしてなお好ましくは20μmより薄い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来技術の「エンド・シューター」構造を示す。
【図2】従来技術の「エンド・シューター」構造を示す。
【図3】従来技術の「サイド・シューター」構造を示す。
【図4】従来技術の「サイド・シューター」構造を示す。
【図5】本発明の態様を示す。
【図6】本発明の態様を示す。
【図7a】本発明の局面によるアクチュエーターのカバーの厚さによる作動電圧の変化を示す。
【図7b】本発明の局面によるアクチュエーターのカバーの厚さによる作動電圧の変化を示す。
【図8】本発明の局面によるアクチュエーターのカバーの厚さによる作動電圧の変化を示す。
【図9】本発明の態様を示す。
【図10a】本発明の態様の衝撃応答特性を示す。
【図10b】本発明の態様の衝撃応答特性を示す。
【図11】本発明の局面によるアクチュエーターのカバーの厚さおよびヤング率による作動電圧における変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、図面に従って例示により以下に説明される。
【0034】
図1は、せん断モードで操作されるピエゾ電気壁アクチュエーターを組み入れた周知のジェットプリントヘッドを分解斜視図として示す。それは、接続トラック14を示す部分のみが画かれた回路ボード12の上に設けられたピエゾ電気材料の基材10からなる。複数の細長いチャンネル29が基材中に形成される。組み立て中に基材10へ結合されたカバー16は、その組み立てられた位置に示される。ノズル板18は、また、その中に形成された複数のノズル(図示せず)を有するプリントヘッド基材に隣接して示される。これは、典型的な例として、低エネルギー表面コーティング20によりその外側の表面上が被覆されるポリマーシートである。
【0035】
図1に画かれたカバー部材16は、基材10へ熱的に適合する材料から形成される。これに対する1つの解決策は、カバーが基材へ結合するとき、界面の結合層中に誘導される応力が最低になるように、基材について使用されるそれに類似のピエゾ電気セラミックを用いることである。窓32は、チェンバー29中への液体インクの供給のための供給マニホールドを提供するカバー中に形成される。窓からチャンネルの前方の端へのカバーの前方の部分は、チャンネル壁の頂部へ結合したとき、活性チャンネルの長さを決定し、それは射出されるインクの小滴の体積を支配する。
【0036】
WO95/04658は、図1および2のプリントヘッドの構築方法を開示し、そしてアクチュエーター壁がカバー16へ確保されている場合、それらが回転およびせん断から実質的に阻止されるように、基材およびカバーを接続する結合が好ましくは低い可撓性で形成されることを述べている。カバーが、それらの移動を阻止できるほど、それ自体実質的に硬くなければならないことを理解するだろう。
【0037】
図2は、組み立て後の図1の構成をチャンネルに平行して取り去った断面を示す。それぞれのチャンネルは、均一に共平面の頂部表面を有する相対するアクチュエーター壁22により分離されているインクチャンネル20を提供する比較的深い前方の部分、並びに接続トラックのための配置23を提供する比較的浅い後方の部分から構成される。前方および後方の部分は、チャンネルの「ランナウト(runout)」部分により接続され、その半径はチャンネルを形成するのに使用されるカッティングディスクの半径により決定される。ノズル板18は、それが接着剤結合層によりプリントヘッド本体へ取り付けられた後で、そしてUVエキシマーレーザー切断によるノズル板中のノズル30の形成の次に、この図で示される。図1および2の構成は、ノズルがチャンネルの末端に配置されるため、「エンド・シューター」構成と通常よばれる。
【0038】
操作では、チャンネル壁はせん断モードで変形し、そしてマニホールド27に隣接して音波を発生する。これらの波は、チャンネルの長さ方向に沿ってノズル30へ移動し、そこでそれらは流体の小滴の射出を起こす。
【0039】
このような「エンド・シューター」の構成により、いくつかの同じアクチュエーター構成を積み重ねてノズルの多数の平行な列を得るのが望ましい。本発明の教示によれば、カバー部材の可撓性は、カバー部材16の厚さを減らすことにより、周知の限界以下に低下できる。これは、アクチュエーターが、より密に積み重ねられて、それにより印刷方向におけるノズル密度を増大しそしてプリントヘッドの印刷速度も速めることを可能にする。
【0040】
図3および4は、WO03/022585から引用した。図3は、「サイド・シューター」としてよばれる別の従来技術のプリントヘッド構造を画いている。列方向に細長いピエゾ電気部材28中に形成されるチャンネルの列は、開口29を有するカバー部材26により閉じられている。ノズル板は、開口29と連絡しているノズル30を有するカバー部材へ取り付けられている。この構成では、両端のチャンネルを有することが知られており、インクはマニホールド域32から供給されそしてチャンネル28に沿ってその中間に配置されたノズル30から射出される。このやり方では、流体はチャンネルの側面から射出される。連続する流れは、入口マニホールド32と2つの出口マニホールド34(この図では、ただ1つのみを見ることができる)との間に形成される。
【0041】
チャンネルは、典型的な例では、ピエゾ電気セラミックのブロックでそして特にPZTでダイアモンド含浸丸鋸を使用して挽いて作られる。PZTは、チャンネルの延長方向に垂直でチャンネルと境を接している壁の表面に平行に配置される。電極は、適切な方法により壁の何れの側面にも形成され、そして電気コネクターによってドライバーチップ(図示せず)へ接続する。壁の相対する側面上の電極間に場が生ずると、壁はせん断モードで変形して、チャンネル中のインクへ圧力をかける。この圧力の変化は、チャンネル中に圧力音波を生じさせ、そして小滴の射出を生ずるのはこれらの圧力波であり、いわゆるアコースティックファイアリングである。
【0042】
図4は、図3の原理に基づいて操作されるプリントヘッドの切開斜視図である。ノズル板24は、カバー部材26へ結合され、後者は、射出チャンネルが形成される細長いピエゾ電気材料28の上表面へさらに結合される。カバー部材は、ノズル30(図4では図示せず)と接続する直定規状開口29および射出チャンネルを有する。インクは、基材36中に形成されるマニホールド32および34からチャンネルを通って流れる。マニホールド32は、たとえ印刷中でも、2つのピエゾ電気部材28のチャンネルを通る流体の入口として働き、そしてマニホールド34は流体の出口として働く。ただ1つの入口および2つの出口を有する2つの列のチャンネルが記述されてきたが、チャンネルの列を通る連続的な流体の流れを可能にする多くの別の構造も可能であり、例えばただ1つの列のチャンネルも利用可能である。
【0043】
WO03/022585に述べられたように、カバー部材は、ノズルの閉塞の原因であるが、ノズルへ構造上の安定性をもたらす。この明細書は、また、分離にノズル板を使用する試みは、可撓性のない作動作用においてチェンバー内に圧力を維持するのに不十分な硬さを生じ勝ちであると教示している。
【0044】
図5は、本発明の局面による構成を示す。基体502には、ピエゾ電気チャンネル504の2つの列が設けられている。基体中の開口506は、マニホールド域508を出入するインクの通路を提供する。チャンネルおよびマニホールド域は、カバー部材510により頂部で閉じられている。カバー部材は、比較的薄いことが分かり、そしてポリイミドから作られる。ノズル512は、カバー板中に形成され、そしてチャンネル504と直接連絡する。音波を形成する作動方法は、上述した通りである。走査の方向がカバー部材の平面に平行であるとき、プリントヘッドの走査により生ずる加速は、有利なことに可撓性のカバー部材を変形しようとするものではない。
【0045】
図6は、図5の構成をチャンネルに沿って取り去った図である。基材602は、チャンネルの間隔に比べて比較的厚いが、カバー部材610の厚さがチャンネルの間隔より薄いことが分かる。作動すると、壁要素614は、点線で示されるように山形に変形する。この作動方法は、ヨーロッパ特許0277703に詳述されており、本明細書では詳述しないが、ただし壁の頂部および底部が相対して変形するので、カバー部材へ適用される得られる応力が低下することに注目したい。
【0046】
図7は、図5および6に画かれたようなアクチュエーターに関する操作電圧対カバーの厚さのグラフを示す。図7aは、厚さ100μmのポリイミドカバー部材を最初有するアクチュエーターに関する結果をプロットし、それは、1サブ小滴あたり4plを伝達する6m/秒での操作について従来の技術に従って最適化されたとき、22.6Vの駆動電圧を要する。この開始点から、カバーの厚さは変化し、そして必要な電圧は再最適化されてその厚さで6m/秒の射出速度を維持する。図7bは、Ni/Fe合金であるAlloy 42から製造されたカバー部材に関する同様なグラフを示す。
【0047】
値は、異なるカバー材料について変化するが、グラフの形は同じであることが両方のグラフから分かり、信頼できる射出を達成する必要な操作電圧は、対応する最適な厚さの値で最低を示す。
【0048】
グラフの形は、能率に関するカバー部材の厚さの2つの逆の作用により決定される。第1の作用は、カバーの厚さの低下が、ノズルを通る流れに対する抵抗を低くし、射出の能率を高めることである。第2のものは、カバーの厚さの低下が、チャンネルの可撓性を低下させ、射出の能率を低下させる。これらの2つの作用の組み合わせは、作動電圧の点で最適な厚さをもたらす。この厚さより顕著に低い値で、低いチャンネルの可撓性が支配し、そして能率が急速に低下する。この厚さより大きな値で、ノズルの抵抗は、次第に顕著になり、そして能率は再び低下する。
【0049】
図8は、図5および6に画かれたようなアクチュエーターに関する最適化操作電圧対カバーの厚さのグラフである。図8は、たとえ他のアクチュエーターのパラメーターが最適化されて所定のカバーの厚さについて最低の操作電圧をもたらすときでも、十分に規定されていないが、グラフは、また最適なカバーの厚さT*で最低の電圧を示す。
【0050】
それゆえ、厚さの値の好ましい範囲が存在する。グラフの非対称性のために、最適な厚さの10%以内または20%薄い厚さでも有利であり、一方最適な厚さより25%以内またはたとえ50%厚い厚さでも好ましい範囲内にある。
【0051】
図9は、エンド・シューターの構成の本発明の態様を示す。ここでは、PZTの本体710は、チャンネル720と形成される。可撓性のカバー部材722は、チャンネルの頂部を閉じ、そしてノズル板724は、アセンブリの末端へ結合する。開口726は、マニホールド域728へインクを供給するための本体に設けられている。この構成は、それゆえ、図2に示される従来のエンド・シューターの構造の逆のバージョンと考えることができ、可撓性の部材722は有効に基材を形成し、その基材の上にチャンネルおよびマニホールド構造が設けられる。駆動エレクトロニックス730は、可撓性部材722の上に設けられ、それは可撓性の回路ボードであって、トラックに沿ってチャンネル電極へ電気的な接続をする。
【0052】
図10は、エンド・シューターのアクチュエーターに関するシミュレーションされた応答曲線を示す。図10aは、厚いピエゾ電気カバー部材を用いる衝撃応答曲線を示し、一方図10bは、50μmの厚さを有するポリマーカバーによる同様な衝撃応答を示す。
【0053】
ポリマーカバーに関するより長いサンプル期間へのシフトが存在しそして電圧において上方へのシフトが存在するが、曲線の形は実質的に同じであり、特に約0.3μsの通常の操作域に近い点でそうである。
【0054】
組み立てられたプリントヘッドにおいて、チャンネルの長さは、チャンネルに沿って移動する音波について採られる時間を決定し、そして連続する射出間の時間すなわちプリントヘッドの操作頻度を制限する。望ましい頻度でプリントヘッドを駆動するために、チャンネルの長さは、それゆえ、固定した範囲に維持されねばならない。チャンネルの幅は、ノズルの間隔、従ってプリントヘッドにより達成可能な鮮明度に密接に関連する。そのため、チャンネルの長さおよび幅は、それらが操作および製造パラメーターにより決定されることから、一定とされる。
【0055】
従って、カバー部材の可撓性は、実際には、カバー部材の厚さおよびヤング率によって決定される。
【0056】
図11は、図5および6に画かれたアクチュエーターに関するカバーの厚さおよびヤング率に対する最適な操作電圧のグラフを示す。ヤング率に関する5つのデータのシリーズは、それぞれポリイミド(4.8GPa)、アルミニウム(70GPa)、PZT(110GPa)およびニッケル(230GPa)に相当し、それらはカバー板の構造に通常使用されるすべての材料である。図11は、ヤング率が変えられたときでも、最低の作動電圧を達成するカバーの厚さは、10−15ミクロンの間でほぼ一定に維持されることを示す。周知のプリントヘッドアクチュエーターでは、カバーの厚さは900ミクロンであり、従って5−150ミクロンの間のどんな厚さでも、作動電圧を最低にするのに顕著な改善を示す。
【0057】
カバー部材用の好適な材料としてポリイミドおよびSU−8について本明細書では述べられてきたが、当業者は、薄いフィルムを形成できる多くのポリマー、金属および合金が使用できることを理解すべきである。可撓性の回路ボード材料は、特に電気トラックが製造工程中に形成される場合、有利に使用できる。
【0058】
(付記1)
各流体チェンバーがチェンバー壁間隔で互いに分離された相対する一対のチェンバー壁によって画成されそしてそれからの液滴射出のためのノズルと流体連絡している複数の流体チェンバーからなる列;および
該複数のチェンバー壁の端へ接合しそれにより該チェンバーの1つの側面をシールするカバー部材をもち、該カバー部材の厚さ対該チェンバー壁間隔の比が1以下対1であることを特徴とする液滴射出装置。
【0059】
(付記2)
各流体チェンバーがチェンバー壁間隔で互いに分離された相対する一対のチェンバー壁によって画成されそしてそれからの液滴射出のためのノズルと流体連絡している複数の流体チェンバーからなる列;および
該複数のチェンバー壁の端へ接合しそれにより該チェンバーの1つの側面をシールするカバー部材をもち、該カバー部材の厚さ対該チェンバー壁間隔の比が1以下対5であり、且つ該カバー部材が100×10N/m以下のヤング率を有することを特徴とする液滴射出装置。
【0060】
(付記3)
各流体チェンバーがチェンバー壁間隔で互いに分離された相対する一対のチェンバー壁によって画成されそしてそれからの液滴射出のためのノズルと流体連絡している複数の流体チェンバーからなる列;および
該複数のチェンバー壁の端へ接合しそれにより該チェンバーの1つの側面をシールするカバー部材をもち、その場合カバーの厚さが150μmより薄いことを特徴とする液滴射出装置。
【0061】
(付記4)
該ノズルが該カバー部材中に形成される付記1−3の何れか1つの装置。
【0062】
(付記5)
該カバー部材が、該チェンバーから離れて延在して流体マニホールド域と境を接している付記1−4の何れか1つの装置。
【0063】
(付記6)
該カバー部材がポリマーから形成される付記1−5の何れか1つの装置。
【0064】
(付記7)
該カバー部材がポリイミドから形成される付記1−6の何れか1つの装置。
【0065】
(付記8)
該カバー部材が合金から形成される付記1−5の何れか1つの装置。
【0066】
(付記9)
該カバー部材が100μm以下の厚さを有する付記1−8の何れか1つの装置。
【0067】
(付記10)
該カバー部材が50μm以下の厚さを有する付記1−9の何れか1つの装置。
【0068】
(付記11)
該カバー部材が複合構造のものである付記1−10の何れか1つの装置。
【0069】
(付記12)
該ノズルがレーザー切断により該カバー部材中に形成される付記1−11の何れか1つの装置。
【0070】
(付記13)
該ノズルがフォトリトグラフ方法により該カバー部材中に形成される付記1−12の何れか1つの装置。
【0071】
(付記14)
少なくとも1つの流体チェンバー;および
該少なくとも1つの流体チェンバーと境を接し少なくとも1つのノズルを有する可撓性のカバー部材をもち;
該チェンバーは、該チェンバーから該ノズルを経て流体の射出を行わせるように電気作動作用によって体積の変化を行い、且つカバー部材の厚さは、流体の射出に必要な最低の作動電圧を生ずる値かまたはそれに近い値であることを特徴とする液滴射出装置。
【0072】
(付記15)
カバー部材が、50μm以下であるが、流体の射出に必要な最低の作動信号電圧を生ずる厚さよりも大きい厚さを有する付記14の装置。
【0073】
(付記16)
カバー部材が、流体の射出に必要な最低の作動信号電圧を生ずる厚さのプラスまたはマイナス10%以内の厚さを有する付記15または16の装置。
【0074】
(付記17)
チェンバーが、作動作用によって体積の変化を行うピエゾ電気要素から構成される付記1−16の何れか1つの装置。
【0075】
(付記18)
ピエゾ電気要素がカバー部材とは異なる付記17の装置。
【0076】
(付記19)
各流体チェンバーがそれからの液滴射出のためのノズルと流体連絡している複数の流体チェンバーからなる列;および
該チェンバーと境を接するように配置された可撓性のカバー部材を持ち、該可撓性のカバー部材は、該チェンバーから離れて延在し、さらに流体マニホールド域と境を接して構成されていることを特徴とする液滴射出装置。
【0077】
(付記20)
その上に複数のチェンバー壁を形成した可撓性の基材を用意し;
該可撓性の基材上に電導性トラックを形成して該チェンバー壁上に形成された電極への電導性接続をもたらすことを特徴とする液滴射出装置のためのコンポーネントを製造する方法。
【0078】
(付記21)
該基材の厚さ対チェンバー壁の厚さの比が1以下対1の比である付記20の方法。
【0079】
(付記22)
液滴射出のためのノズルと流体連絡している少なくとも1つの流体チェンバー;および
該少なくとも1つのチェンバーと境を接する可撓性のカバー部材を持ち;
該チェンバーが該ノズルを経て該チェンバーから流体の射出を起こさせるように作動作用によって体積の変化を行い、且つカバー部材がポリマーからすべて形成されることを特徴とする液滴射出装置。
【0080】
(付記23)
該ノズルが該カバー部材中に形成される付記22の装置。
【0081】
(付記24)
該カバー部材が100μm以下の厚さを有する付記22または23の装置。
【符号の説明】
【0082】
10 基材
12 回路ボード
14 接続トラック
16 カバー
18 ノズル板
20 コーティング
22 アクチュエーター壁
23 配置
24 ノズル板
26 カバー部材
27 マニホールド
28 ピエゾ電気部材
29 チャンネル(開口)
30 ノズル
32 マニホールド
34 マニホールド
36 基材
502 基体
504 ピエゾ電気チャンネルの列
506 開口
508 マニホールド域
510 カバー部材
512 ノズル
610 カバー部材
614 壁要素
710 PZTの本体
720 チャンネル
722 カバー部材(可撓性部材)
724 ノズル板
726 開口
728 マニホールド域
730 駆動エレクトロニックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピエゾ電気材料から形成され、相対して配置された一対のチェンバー壁によって画成され、チェンバー壁間隔で互いに分離された複数の細長い流体チェンバーからなる列と、液滴用ノズルとの流体連絡において電場の適用を受けて変形する前記相対するチェンバー壁と、
カバー部材が厚さを有し、前記ノズルが前記カバー部材に形成され、該複数のチェンバー壁の延出方向に並行な面に接合されて該チェンバーの1つの側面をシールするカバー部材と、を備え、
該カバー厚さは、該チェンバー壁間隔よりも薄く、
該カバー部材は、100×10N/m以下のヤング率を有する、ことを特徴とする液滴射出装置。
【請求項2】
該カバー部材が、該チェンバーから離れるように延出して流体マニホールド域と境を接している請求項1の装置。
【請求項3】
該チェンバーに流体入口と流体出口とが設けられ、使用中に流体が該チェンバーの長さ方向に沿って流れ得る、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
該装置の使用中に該チェンバーを通る流体の一定流をもたらす手段をさらに備える、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
該チェンバーの前記流体入口と連絡する入口マニフォールドと、該チェンバーの流体出口と連絡する相対する出口マニフォールドと、をさらに備える、請求項3または4に記載の装置。
【請求項6】
該カバー部材が該チェンバーから離れるように延出して該入口マニフォールドと境を接し、かつ、該チェンバーから離れるように延出して該出口マニフォールドと境を接する、ことを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
該カバー部材が複合構造を有し、ポリマーから形成された部分と、金属または合金から形成された部分とを備える、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
該カバー部材がポリマーから形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項9】
該カバー部材がポリイミドから形成されている、ことを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
該カバー部材がポリエーテルエーテルケトンから形成されている、ことを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項11】
該カバー部材がフォトレジスト材料を備える、ことを特徴とする請求項1−6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
該フォトレジスト材料がSU−8である、ことを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
該作動チェンバーがすべりモードで変形する、ことを特徴とする請求項1−12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
該カバー部材の厚さは、該チェンバー壁間隔の5分の1以下である、ことを特徴とする請求項1−13のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−49274(P2013−49274A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−220823(P2012−220823)
【出願日】平成24年10月2日(2012.10.2)
【分割の表示】特願2009−503646(P2009−503646)の分割
【原出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(301055608)ザール テクノロジー リミテッド (31)
【Fターム(参考)】