液状原料の分散装置
【課題】きわめて簡単な構造で液状原料を均一分散化(凝集粒子の解砕)が可能な新規な構造の分散装置を提供すること。
【解決手段】液状原料にせん断応力を発生させて液状原料中の微粒子化して均一分散化させる分散装置。円柱状空間26を備えた処理容器28と、円柱状空間26に嵌合される円柱状部材30とを備える。円柱状部材30は処理容器28で高速回転する。また、処理容器28は一端側に原料入口28aを他端側に製品出口28bを備えた密閉構造である。処理容器28と円柱状部材30との間にはせん断流発生隙間を形成する。原料入口28a及び製品出口28bにそれぞれ原料供給手段及び製品排出手段を接続する。
【解決手段】液状原料にせん断応力を発生させて液状原料中の微粒子化して均一分散化させる分散装置。円柱状空間26を備えた処理容器28と、円柱状空間26に嵌合される円柱状部材30とを備える。円柱状部材30は処理容器28で高速回転する。また、処理容器28は一端側に原料入口28aを他端側に製品出口28bを備えた密閉構造である。処理容器28と円柱状部材30との間にはせん断流発生隙間を形成する。原料入口28a及び製品出口28bにそれぞれ原料供給手段及び製品排出手段を接続する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な構成の液状原料の分散装置及び分散方法に関し、さらに詳しくは、固液混合系の液状原料に垂直回転力を付与して渦流的乃至せん断流的な移動をさせることにより液状原料を均一分散系(微細分散系)とするのに好適な液状原料の分散装置に係る発明である。ここでは、液状原料として固液混合系(サスペンション)を例にとり説明するが、液液混合系(O/Wエマルション、W/Oエマルション)に対しても本発明の分散装置は適用可能と期待される。
【0002】
本発明の液状原料の分散装置及び分散方法は、特に、塗料、セラミックス、ハイブリッド材料等の液中分散の形態で製品供給する場合等に好適である。
【背景技術】
【0003】
昨今のナノ粒子(1μm未満)の溶解性・反応性、製品化した場合の物性のユニーク性(電磁気的・光学的・機械的特性)から、この液中分散技術に対する要望は増大しつつある。これらの性質は、粒子径の微細化に伴う比表面積の増加に起因するとされている。
【0004】
ナノ粒子は、工業的利用を考えると、粒子は乾粉として貯蔵・輸送され、製品(塗料、セラミックス、ハイブリッド材料)の製造の段階で液中分散される場合が多い。そして、ナノ粒子の性質を最大限発揮させるためには、ナノ粒子が分散媒中に可及的にナノ粒子に近い状態で分散していることが望ましい。しかし、ナノ粒子はその比表面積の大きさから、表面活性サイトを多く有し、凝集力が強固である。特に一度乾燥状態を経たナノ粒子を再分散させることは困難である。ナノ粒子の特性を活かした製品を作るためには、乾燥状態を経た凝集ナノ粒子(以下「凝集粒子」という。)を可及的に一次粒子に近い状態で液中に均一分散させる技術が必要である。
【0005】
凝集粒子を、分散させて可及的にナノ粒子化(一次粒子化)させる研究は従来から行われており、それらは物理的なアプローチと化学的なアプローチに大別できる。ここで、一次粒子とは、粒子が単分子又は分子が数個集合したものをいう。物理的な方法とは、粒子の凝集力を上回るエネルギーを物理的に凝集体に与え、凝集体を解砕・分散させる方法である。例えば、超音波振動や媒体流動を利用する方法が挙げられる。また、化学的な方法とは、化学的な処理によって粒子の分散性を向上させる方法である。例えば、粒子の化学的表面改質などが挙げられる。これら二つの物理的・化学的アプローチはこれまで独立して検討されてきたが、乾粉ナノ粒子を一次粒子に近い状態に再分散させるまでには至っていない。物理的な分散法では、分散させた直後から再凝集が始まるという問題があり、化学的分散法では凝集体深部を化学的に処理するのが難しいという問題がある。
【0006】
そして、物理的な分散方法に使用する分散装置として、例えば、媒体(メディア:ビーズ)に垂直回転力を付与して渦流的移動をさせる、すなわち、せん断流を発生させることにより、液状原料中の固体粒子(媒質)を微細・分散化(粉砕混合)する媒体攪拌ミルがある。
【0007】
上記タイプの攪拌ミルとして、例えば、本願出願人の一人が提案した媒体攪拌ミルがある(特許文献1)。
【0008】
しかし、当該構成の媒体攪拌ミルは、液状原料(スラリー:固液混合系)輸送のための動力が、相対的に大きなものが要求される。スラリーの輸送のための動力に加えて、ビーズを、遠心力による外周側への移動力に抗して外側から内側に、さらには、外環状隙間における遠心力による浮上り力に抗して外側で上方から下方へビーズの強制循環をさせる必要があるためである。
【0009】
そこで、本願出願人の一人は、液状原料を低動力で均一分散化可能な新規な分散装置および分散方法を提供することを目的として、鋭意開発に努力をした結果、メディア(ビーズ)を使用しなくても、ある程度の凝集粒子の解砕(分散)が可能であることを見出して、下記構成の液状原料の分散装置を提案した(特許文献2)。
【0010】
「液状原料に、粉砕媒体(メディア)レスの状態で、垂直回転力を付与して渦流(せん断流)的移動をさせることにより液状原料を均一分散系とする分散装置であって、
縦形の環状処理室を構成する環状処理容器と、前記環状処理室内に垂直回転可能に下端に底部隙間を有して配設され、内・外環状隙間を形成する反転有底筒形(反転椀形)の攪拌部材とを備え、攪拌部材は、周壁に連通孔を備え、環状処理容器は、原料供給口を備えるとともに製品排出口を備えている、ことを特徴とする。」
しかし、上記構成の分散装置は、構造が複雑で、攪拌部材の内外周面に内・外環状隙間を分散効率を上げようとして所定以上に小さく(例えば、0.1mm以下)しようとすると、安定して隙間を形成することが困難であった。
【0011】
なお、本発明の特許性に影響を与えるものではないが、ナノサイズのエマルション調製に際して、従来の超高圧ホモジナイザーに代わり得る分散化技術として、薄膜旋回高速攪拌方式の技術が紹介されている(非特許文献1)。その一部を下記に要約乃至引用する。
【0012】
「容器内に保持する処理液体、または底部より注入される処理液体はタービンによって旋回運動し、遠心力によって内壁面に沿って立ち上がる。平衡速度に達すると、容器の内壁全面に沿った薄膜が形成される。例えば、内径80mmの容器で旋回速度(周速度)が50m/sの場合、高速旋回により厚さ(膜厚)20mm程度の中空円柱状の旋回薄膜が形成される。そして、旋回薄膜内の流速はタービンよりほんのわずか遅い速度で追随しており、速度低下はわずかである。ほぼ50m/sの速度(遠心力6700G)でタービンを離れ、速度0m/sの容器内壁面の近くほんの数μmのところで一挙に0m/sまで低下する。6700Gもの遠心力を受けながら50m/sもの急激な速度差が発生することにより、強烈な「ずり応力(超Heavy Friction)」が容器内壁面で、360°まったく同じメカニズム・レベルで発生する。液滴は一瞬に薄く引き延ばされ、引きちぎられ、凝集体は、遠心力で壁面に押えつけられながらも、旋回流によって壁面を転がっていくことにより解砕される。これが薄膜旋回高速攪拌方式による乳化・分散のメカニズムである。この強烈なずり応力により、従来の高速回転型攪拌機では到達し得なかったサブミクロンへの微粒子化を可能とした。」
【特許文献1】特開2000−126635号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2005−319403号公報(特許請求の範囲等)
【非特許文献1】渋谷治男「ナノサイズまでの乳化粒子設計を可能にした新しい攪拌技術」、化学装置、化学調査会、2006年4月、P.55〜56
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記にかんがみて、きわめて簡単な構造で液状原料を均一分散化(凝集粒子の解砕)が可能な新規な構造の分散装置を提供することを目的とする。
【0014】
本発明の他の目的は、上記分散装置を使用して安定化した解砕凝集粒子の分散液を得ることを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために、本発明者らが先に提案した特許文献2に記載のビーズレス分散装置において連通孔を廃した断面蛇行のせん断流発生隙間を有する分散装置(以下「倒立カップ/円柱複合型」という:図1参照)と、円筒容器内に円柱を嵌合させて断面U字形のせん断流発生隙間を有する分散装置(以下「単純円柱型」という:図2参照。)とで、隙間を1mmとして、高速回転(周速:40m/s、1579rpm)させた。その結果、分散能(微粒子化能)は、「単純円柱型」が「倒立カップ/円柱複合型」に優るとも劣らないとの知見を得た(図6参照)。
【0016】
上記知見に基づき、上記第一の目的を達成できる、下記構成の液状原料の分散装置に想到した。
【0017】
液状原料にせん断応力を発生させて液状原料中の凝集粒子を解砕(微粒子化)して均一分散化させる分散装置であって、
円柱状空間を備えた処理容器と、該円柱状空間に嵌合される円柱状部材とを備えるとともに、前記処理容器と前記円柱状部材とを相対回転させる回転駆動手段を備え、
前記処理容器は一端側に原料入口を他端側に製品出口を備え、
前記処理容器と円柱状部材との間には前記原料入口及び前記製品出口と連通するせん断流発生隙間が形成され、
該せん断流発生隙間は、前記原料入口側に位置する円板状隙間と、前記製品出口側に位置する円筒状隙間とを備え、
前記原料入口及び前記製品出口にそれぞれ原料供給手段及び製品排出手段が接続されることを特徴とする。
【0018】
上記構成の液状原料の分散装置は、メディア(ビーズ)を使用しなくても、攪拌部材(タービン)の外周に連通穴に相当する凹凸孔がなくても、円柱体外周面と円柱空間内壁面との間が極めて近接(例えば、1mm以下)していることにより、分散粒子の微細化が可能である。
【0019】
さらに、下記方法により、本発明の第2の目的(安定分散液の調製)が達成できる。
【0020】
上記分散装置における前記せん断流発生隙間を凝集粉体を含有する液状原料を通過させて実質的な密閉空間内で解砕(微粒子化)して分散処理を行うに際して、前記液状原料に表面改質剤を添加しながら行うことを特徴する。すなわち、せん断場で表面改質することにより、解砕凝集粒子の再凝集が阻止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の望ましい一実施形態に基づいて、詳細に説明する。
【0022】
ここでは、固液分散液(粒子凝集体含有液:スラリー)における、凝集粒子(ナノ粒子凝集体)を解砕(微粒子化:物理的分散)すると同時に、解砕後の凝集粒子(解砕凝集粒子)の表面改質(化学的表面改質)をして、解砕凝集粒子が再凝集しない安定した分散液を調製する場合を例に採り説明する。
【0023】
図3に本発明の方法に適用する分散装置システム図を示す。
【0024】
基本的には、本発明の分散装置(容器/回転体組体)12と、貯留タンク14とから構成され、貯留タンク14と、分散装置12の容器/回転体組体16との間には供給配管18と戻り配管20とが接続され、さらに、供給配管18は供給ポンプ(スラリーポンプ、ギアポンプ等)22を備え、分散装置12と貯留タンク14との間を分散液(スラリー)を循環可能とされている。さらに、処理容器28の底部には、原料供給側に表面改質剤を供給可能に改質剤注入器24が接続されている(図2参照)。また、処理容器28の原料供給口28aは、逆止手段(逆止弁)を介して、原料供給配管18が接続可能とされている。なお、前記供給ポンプを廃して又は廃さずに戻り配管に吸引ポンプを備えた構成としてもよい。
【0025】
そして、分散装置12は、下記構成を備えている(図2参照)。
【0026】
円柱状空間26を備えた処理容器28と、該円柱状空間26に嵌合される円柱状部材30とを備えるとともに、処理容器28と円柱状部材30とを相対回転させる回転駆動手段32を備えている。ここで、円柱状とは、テーパ状も含む。ここで、テーパ角度(傾斜角度)は、通常15°、より普通には10°以内とする。通常、テーパは、原料入口から製品出口に向かって広がるものとするが、逆であってもよい。
【0027】
処理容器28は一端側に原料入口28aを他端側に製品出口28bを備え、処理容器28と円柱状部材30との間には原料入口28a及び製品出口28bと連通するせん断流発生隙間34が形成され、せん断流発生隙間34は、原料入口28a側に位置する円板状又はコニカル状隙間(以下「底部側隙間」という。)(図例では円板状)34aと、製品出口28b側に位置する円筒状隙間(以下「周面側隙間」という。)34bとを備えたものである。
【0028】
ここで各底部側・周面側隙間の間隙(寸法)は、2000μm以下(望ましくは1200μm以下)とする。下限は安定した隙間を形成可能で、且つ、液状原料を供給可能で円柱状部材を形成可能であるなら、可及的に狭い方が、せん断応力の増大により分散能の向上が期待できる(通常下限は100〜200μm)。ただし、後述の試験例で示す如く、1200〜400 μmの範囲では、分散能(微粒子化能)に顕著な差が出ない。このため、製造・運転上の安定性の見地からは、1000μm 前後であってもよい。
【0029】
上記間隙寸法は、円柱状空間26および円柱状部材30の断面を同心の真円とした場合のものである。円柱状空間26及び円柱状部材30の断面の一方又は双方を、両者が相対回転可能な範囲で真円に近い正多角形とすることも可能である。さらには、円柱状空間26の内周壁及び円柱状部材30の外周壁の一方又は双方に凹凸(窪み:ディンプル)を全面的又は部分的に形成してもよい。
【0030】
本実施形態では、処理容器28は、縦置きで、処理容器28に原料を底部側から供給し、製品を天井側から排出するものである。原料供給・製品排出は、上下逆も可能であり、さらには、分散装置を横置きも可能である。なお、原料入口28aは、図例では、底部側隙間34aの中心部に位置しているが、円板径の約1/10以内の偏心位置に形成してもよい。その場合は、渦流(せん断流)がより効率的に発生することが期待できる。
【0031】
また、回転駆動手段32は、液封メカニカルシール33を介して、円柱状部材30がモータ(電動機)36でプーリ伝動38により高速回転駆動されるようになっている。処理容器28を回転させることも可能であり、処理容器28と円柱状部材30の双方を逆回転させることも可能である。上記メカニカルシール33は、グランドシール等の他のシール手段に代替でき、プーリ伝動も、歯車、チェーン伝動、タイミングベルト伝動等の他の伝動手段に代替できる。
【0032】
さらに、分散装置を横置きとして、円柱状部材を両端軸支構造としてもよい。両端軸支構造とすることにより、高速回転時の円柱状部材の振れ回りを確実に阻止でき、円筒状隙間をより狭小なものとすることが可能となる。
【0033】
また、円柱状部材は、断面真円でなく、隙間正多角形の底部側をテーパ(コニカル)嵌合としてもよい。テーパ嵌合した場合は、底部側隙間量の調節が可能となる。
【0034】
なお、図示しないが、処理容器には温調手段(冷却手段)を付設する。せん断摩擦による温度が上昇して、分散質である粒子(特に解砕後の一次粒子)が、処理容器の内壁面に付着するおそれがあるためである。通常、ジャケットによる水冷却とするが、空冷等であってもよい。
【0035】
そして、必然的ではないが、液状原料の分散粒子が高硬度の場合、処理容器の前記攪拌部材の処理原料と接触する面が耐摩耗性高分子材料又は耐摩耗性金属(例えば、ジルコニア)等でライニングしてもよい。特に、処理容器の底部側が、円柱状部材の遠心力及び重力を受けて摩耗が促進され易いためライニングを施しておくことが望ましい(特許文献2参照)。
【0036】
次に、上記実施形態の使用態様について、説明をする。
【0037】
ここでは、液状原料として凝集粒子を含有する固液分散液を例に採り説明するが、液液分散液にも本発明の方法は適用できる。その場合は、表面改質剤は使用しない。
【0038】
先ず、貯留タンク14に液状原料を、表面改質剤(液状又は粉末状)を注入器24に、それぞれ投入しておく。そして、供給配管18のポンプ22及び分散装置12のモータ36を駆動させるとともに、表面改質剤を処理容器内へ注入する。通常、連続的に注入するが間欠的であってもよい。
【0039】
ここで、表面改質剤としては、液状原料を構成する分散媒及び分散質(凝集粒子)により異なる。例えば、分散媒が水で分散質が無機化合物である場合、シランカップリング剤とする。
【0040】
ここで、円柱状部材30の回転数(周速)は、通常、10〜50 m/s、望ましくは20〜45m/sとする。分散処理時間は、例えば、円柱状部材30の周速40 m/sの場合、通常、3〜20分、望ましくは4〜12分、さらに望ましくは、4〜6分とする。これらの数値は、液状原料の種類及び処理容器28の大きさによっても若干変動する。また、ポンプ22の分散液輸送量は、分散装置の処理能により異なるが、例えば処理容器容量(処理容器のみの)20L(dm3 )の場合、400〜800L(dm3 )/minとする。
【0041】
このとき、液状原料中の凝集粒子は図4に示す如く、発生するせん断流によりせん断応力を受けて解砕され解砕凝集粒子となり、さらに、該解砕凝集粒子の表面に凝集防止改質剤(表面改質剤)が付着する。この結果、解砕された一次粒子が再凝集せず、良好な均一分散状態が維持される。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の作用・効果を確認するために行った実施例及び比較例についての試験例について説明をする。
<ナノ粒子分散条件の検討>
(1)化学的表面改質を組み合わせることを視野に入れ、凝集ナノ粒子(以下、「凝集粒子」という。)を物理的に分散させるための装置について検討を行い、最適操作条件の決定を試みた。
【0043】
液中微粒子の分散装置は、プロペラ翼などを用いて粒子懸濁液を攪拌し、翼近傍の媒体流動の速度勾配や翼への粒子衝突などを利用する「攪拌型」、高速回転する攪拌翼と固定環の間隙に発生する高せん断場を利用する「高速回転せん断型」、硬球間の衝突を利用する「ミル型」、噴出による圧力差を利用する「高圧噴出型」、超音波振動を利用する「超音波型」に大別される。攪拌型では翼近傍の凝集体だけが分散され、均一な分散は期待できない。また、ミル型はミクロンレベルの分散が限界である。高圧噴出型、超音波型はサブミクロンレベルの分散に有効であるが、高圧噴出型は装置の構造上表面改質反応の適用が難しい。超音波型は長時間の超音波照射により再凝集が起こる可能性があり、改質反応の反応時間を確保することが難しい。一方、高速回転せん断型は比較的均一に分散が行われ、さらに閉鎖循環系と組み合わせることで表面改質の反応時間を任意に設定できる。
【0044】
したがって、高速回転せん断型分散装置を採用した。
【0045】
本検討では、凝集粒子に表面改質を行わないので、分散直後から再凝集が始まる。特に粒子と分散媒の濡れ性が乏しい場合は、粒子分散性の評価を行う前に凝集が起こり、実際の分散性能を正しく評価できない可能性がある。そこで、粒子と分散媒の濡れ性が比較的良好な炭酸カルシウム/水系スラリーを使用することで、分散性評価に必要な測定時間を確保した。分散性能には、せん断流の速度勾配の大きさが影響すると考えられる。
【0046】
高速回転体(円柱状部材又は倒立カップ)の形状、回転体・容器間距離、回転体回転速度、分散処理時間を変化させ、下記方法の粒度分布測定により分散性能を評価し、最適条件の決定を試みた。さらに分散処理後の粒子を下記方法のSEMにより観察し、粒子の破壊(解砕)の有無を確認した。
【0047】
1)粒度分布測定
レーザー回折・散乱法を応用した「Microtrac MT3000」(日機装株式会社製)を用いて行った。サンプリングから測定までは5分間とした。
【0048】
レーザー回折・散乱法による粒度分布測定は、レーザー光をスラリー中の粒子に照射し、散乱光量とパターンを検出し、演算処理によって粒度分布を測定する方法である。凝集体は一つの粒子として処理されるため、実際には凝集体の粒度分布が測定される。
【0049】
2)SEM観察
原料粒子のSEM試料は、試料台に塗布したカーボンペースト上に原料粉を付着させ、オスミウムコーティングを施して調製した。分散処理後のSEM試料は、試料台にカーボンペーストを塗布した後、スラリーを滴下、乾燥後、オスミウムコーティングを施して調製した。それぞれの試料を走査型電子顕微鏡(SCANNING MICROSCOPY )「JSM-7000F」 (日本電子株式会社製)にて観察した。
【0050】
走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscope:SEM)は、集束電子線を試料表面上に走査し、各走査点から放出される電子を検出、増幅し、走査と同期させて拡大像を映し出す装置である。
【0051】
(2)実験は下記の如く行った
1)試料調製
蒸留水に炭酸カルシウム(「ナノキューブ60」:一次粒子径:60 nm、日鉄鉱業株式会社製商品名)を加え、30分間静かに攪拌し、固体濃度 4.5 mass%の炭酸カルシウムスラリーを調製した。これをスラリー(液状原料:分散液)Aとした。次に、スラリーAに分散剤として炭酸カルシウム重量に対し1 mass%のヘキサメタリン酸ナトリウム(関東化学株式会社)を添加し、これをスラリー(液状原料:分散液)Bとした。
【0052】
2)粒子分散処理
高速回転せん断型分散装置では、高速回転体と回転体を覆う容器の間隙にせん断流が発生する。凝集体がせん断流中に置かれたとき、凝集体はせん断流内の速度勾配により、部位によって異なる流体抵抗を受け、破壊されると考えられる。
【0053】
検討に供した高速回転せん断型分散装置の処理容器は実施例1・2・3(図2)及び比較例(図1)である。比較例は、環状空間26Aを備えた処理容器に逆カップ型回転体30Aを被せたものである。各処理容器は、図示の寸法仕様のものを使用した。図2における隙間Gは、実施例1:1mm(1000μm)、実施例2:0.5mm(500μm)、実施例3:0.25mm(250μm)とした。
【0054】
そして、上記実施例1・2・3及び比較例の分散装置を、図3に示す分散処理装置システムに組み込んで実験を行った。
【0055】
なお、メカニカルシールのシール液として水を使用し、窒素加圧した。分散液(スラリー)の過熱を防ぐため、貯留タンクと処理容器は冷却水で冷却した。
【0056】
3)シミュレーション
実施例1(単純円柱タイプ:隙間1mm)の分散装置について、有限要素法による容器水平断面の水流のシミュレーションの結果の一例を図4に示す。シミュレーションソフトとしてはANSYS(アンシス株式会社)を用いた。
【0057】
シミュレーション条件は要素数2323、接点数2714、水温を27 ℃、粘度を855 μPa・s 、回転体の周速を40 m/s、各種寸法を実測値に設定した。図中の矢印は水流の速度ベクトルである。シミュレーションの結果、円柱状部材(回転体)30の外壁面と処理容器28の内壁面との間隙にせん断流が発生することが確かめられた。
【0058】
(3)評価実験は下記項目について行った。
【0059】
1)分散性能に対する回転体の形状の影響評価:
実施例1(単純円柱タイプ)と比較例(倒立カップ/円柱複合タイプ)の各処理容器を用いて行った。
【0060】
スラリーA 2000 ml をタンクに投入し、循環ポンプ(吐出量500 ml/min)を10分間運転した後、回転体周速40 m/s (回転体外側面)で5分間運転した。
【0061】
2)分散性能に対する回転体・容器間距離の影響評価:
実施例1・2・3の各処理容器を用いて行った。スラリーB 2000 ml をタンクに投入し、循環ポンプ(吐出量500 ml/min)を10分間運転した後、回転体周速40 m/sで15分間運転した。
【0062】
3)分散性能に対する周速の影響評価:
実施例1・2・3の各処理容器を用いて行った。スラリーB 2000 mlをタンクに投入し、循環ポンプ(吐出量500 ml/min)を10分間運転した後、回転体周速を21, 27, 34, 40 m/sに設定して、分散時間を5分間とした。
【0063】
4)分散性能に対する分散時間の影響評価:
実施例1・2・3の各処理容器を用いて行った。スラリーB 2000 mlをタンクに投入し、循環ポンプ(吐出量500 ml/min)を10分間運転した後、回転体周速を40 m/sとして、分散時間を 5, 10, 15分間に設定した。
【0064】
(4)測定実験結果と考察
原料粒子の粒度分布測定結果を図5に示す。体積平均粒子径は21.4 μmを示し、凝集体を形成していることが分かった。
【0065】
1)回転体形状の影響
分散処理を終えた後の、比較例の倒立カップ内壁に粒子ケーキの形成が見られた。一方、回転体を覆う容器内壁には粒子ケーキの形成は見られなかった。同様に、実施例1の処理容器内壁にもケーキ形成は見られなかった。このことから、高速回転せん断型分散機において、回転体内側のせん断流、つまり内側が停止・外側が回転することによって発生するせん断流は粒子分散に不適であることがわかった。この原因としては、外側が回転するせん断流では、遠心分離機と同様の作用が働くためであると考えられる。
【0066】
比較例及び実施例1の各分散装置を用いて分散処理を行ったスラリーAの粒度分布測定結果を図6に示す。両者はほぼ同じ粒度分布を示した。回転体外側については両者の形状は全く同じであることから、分散性能は回転体外側の領域での粒子分散作用が分散性能にとって支配的であると考えられる。
【0067】
なお、比較のために、原料粒子についても、粒度分布測定を行った。その結果を、図5に示す。明らかに、せん断分散処理後の図6に示すスラリーの粒度分布が小径側へ移行していることが分かる。
【0068】
2)回転体・容器距離の影響
実施例1・2の処理容器で分散処理を行ったスラリーBの粒度分布測定結果を図7に示す。回転体・容器間距離が小さくなると、より小さく分散された凝集粒子が現れる。これは回転体周速が同じ場合、回転体・容器間距離が小さい方がよりせん断流の速度勾配が大きくなり、より大きな力が凝集粒子に加わるためであると考えられる。さらに両者の距離を小さくすることで、より分散性能が高まることが期待される。
【0069】
3)回転体周速の影響
実施例1・2・3の分散処理装置を用いてスラリー(液状原料)Bを0〜 40 m/sの周速で分散処理した結果を図8(A)・(B)・(C)に示す。回転体周速の増加に伴い平均粒子径は減少した。これは粗大粒子が分散されたためであり、最小粒子径は周速が25m/s以上では、周速が増加しても変化がほとんどない。凝集体が小さくなると部位による流体抵抗の差が小さくなるため、分散が困難になると考えられる。
【0070】
なお、「D10」は累積体積(小径側からの;以下同じ。)10 %における、「D50」は累積体積50 %における、「D90」は累積体積90 %とにおける各粒子径を示す。以下の図面においても同様である。
【0071】
4)分散処理時間の影響
実施例1・2・3の処理容器を用いてスラリーBを様々な分散時間で分散処理した結果を図9(A)・(B)・(C)に示す。隙間が1mm及び0.5mmの実施例1・2では分散時間が5分以上では、分散時間を長くしても、粗大粒子が僅かに減少するのみで、平均粒子径は余り変化しない。スラリー循環ポンプの液送量とスラリー量の関係から、分散時間5分間では大部分のスラリーは系内を一巡しただけである。このことから高速回転せん断型分散装置では、高せん断場を一回通過しただけで凝集粒子が解砕され均一分散化されていると考えられる(連続処理化が可能となる。)。また、隙間が0.25mmの実施例3では、分散時間15分頃まで分散性能が維持される。その理由は、他のより大きな間隙のものに比して、より小さい凝集体にまで解砕でき、この凝集体解砕に時間がかかるためである。
【0072】
なお、各試料についてSEM観察をした結果、分散粒子前では10μm以上の凝集粒子が多く観察されたのに対し、分散処理後では、10μm以上の凝集粒子がほとんど観察されなかった。なお、分散処理後においては、粒子は薄く拡がった集合体を形成していた。これは、一度サブミクロンレベルに分散された凝集体が、SEM試料作製上の乾燥過程で再凝集した結果と推察される。さらに、SEM高倍率(50000倍)での観察によると、一次粒子の形状は変わっておらず粒子の破壊は起こっていないことが確認された。
【0073】
(5)まとめ
高速回転せん断型の分散装置の回転体/容器組体(実施例1・2・3及び比較例)において、回転体外側で発生するせん断流が粒子分散に寄与していることが分かった。回転体・容器間距離を小さくする、もしくは回転体の周速を増し、せん断流により大きな速度勾配を与えることで分散効果が高くなることが分かった。また、高速回転せん断型分散装置では、せん断場を通過した粒子が漏れなく一様に分散されていることが分かった。SEM観察から、せん断流により一次粒子の破壊は起きていないことが確認された。
【0074】
以上の結果から、分散処理装置の回転体/容器組体には単純円柱タイプを用い、回転体周速を40 m/s 、分散時間を5 分間以上乃至15分間以上に設定することで液状原料(スラリー)中粒子の分散効果は最大となることが示された。
<高せん断場中シリカナノ粒子表面改質>
(1)高速せん断型分散装置(以下、「分散装置」)による物理的分散と、表面改質による化学的分散を組み合わせた新規粒子分散技術(以下、せん断場表面改質法)の検討を行った。
【0075】
分散機を使用して炭酸カルシウムナノ粒子を一次粒子に分散させることは出来なかったが、凝集体はせん断力により凝集構造に歪みや変形を生じ、凝集体内での粒子の位置交換が起こり、凝集体表面粒子が刻々交換されると考えられる。従って、高せん断場において表面改質を行うことで、一次粒子表面に均一に表面改質が出来ると期待される。
【0076】
分散技術の効果を示すため、濡れ性の乏しい系を選択した。濡れ性に乏しく、かつ応用展開が多い系としてシリカ/有機溶媒系が挙げられる。シリカナノ粒子を有機溶媒へ分散させることで耐擦過性塗膜、高硬度・高強度ハイブリッド材料などへの応用が期待されている。シリカ粒子の有機溶媒中への分散は、シランカップリング剤を用いた表面改質によって試みられている。シランカップリング剤はケイ素の有機化合物であり、無機、有機材料と各々化学反応する異なる二つ以上の官能基を持つ。図10に示すように、シランカップリング剤中のシリカ表面と化学結合する部位は、加水分解反応によりシラノール基となり無機表面に水素結合的に吸着、脱水縮合反応し化学結合を形成する。このため、無機材料と有機材料間の濡れ性が改善される。シランカップリング剤の種類は豊富で、シランカップリングを適切に選択することで粒子表面に種々の機能性官能基を導入することも可能である。イソシアネート基は反応性の高さと反応後の安定性から、塗料や接着剤の基材において利用されている。シリカ表面にイソシアネート基を導入することで、これらの製品中でシリカは基材と強固に結合することができる。以上のことから、本実験では表面改質試薬として3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランを使用した
本検討を行うに際して、せん断場表面改質法の有効性を示すため、オートクレーブにより表面改質を行った後、分散機を用いて分散させた試料(以下、オートクレーブ法)との比較も行った。
【0077】
オートクレーブ法は有機溶媒の超臨界状態において反応させる方法である。超臨界溶媒中では系内の極性が下がり粘性が低くなることから改質剤が凝集体深部に到達しやすいと考えられる。オートクレーブの概略図を11に示す。
【0078】
そして、前記と同様、粒度分布測定及びSEMによる分散性能評価を行うとともに、下記FT-IRを用いた表面改質反応の確認、下記TG/DTAを用いた粒子表面改質基密度の定量評価も行った。
【0079】
1)FT-IR法
FT-IR(「FT-IR6200」日本分光株式会社製)を用いて、表面改質反応の確認を行った。
【0080】
分子はそれぞれ固有の振動をしており、分子に赤外線を照射すると分子固有の振動の振動エネルギーに対応した赤外線が吸収され、分子構造に応じた固有のスペクトルが得られる。FT-IRはこの原理を利用して分子構造を解析するものである。
【0081】
シリカ/ヘキサンスラリーを加圧ろ過、洗浄し乾燥後、ミクロ錠剤成形器でペレット状の測定試料を作製した。
【0082】
2)TG/DTA法
TG/DTA (「Thermo Plus 2 TG8120」株式会社リガク製) にて、加熱による重量減少量を測定した。測定は昇温20 ℃/minの設定で 測定温度範囲30 ℃から500 ℃、酸素雰囲気中で行った。示差熱・熱重量同時測定装置は、温度を変化させながら試料の重量変化と発熱・吸熱量を測定する装置である。
【0083】
図12に示すようにDTA曲線から重量減少範囲を決定し、その範囲内での重量減少率を求めた。得られた結果と以下の式を利用して、粒子表面の改質基密度:dMを求めた。
【0084】
【数1】
但し、ΔWDは改質粒子の重量減少率、ΔWOH:未改質粒子の重量減少率、NA:アボガドロ数(/mol)、 Mw:脱離部の分子量(g/mol) ( = 84)、SN2(m2/g):比表面積である。
【0085】
(2)実験は下記の如く行った。
【0086】
1)試料調製
シリカナノ粒子として「AerosilOX50」 (日本アエロジル株式会社製商品名) を使用した。一次粒子径は40 nm、比表面積は50 m2/g である。溶媒としてn-ヘキサン(関東化学株式会社) (本文中以下、ヘキサン)を使用した。表面改質剤として3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を使用した。
【0087】
固体濃度1 mass% のシリカ/ヘキサンスラリーを1000 ml 調製した。次に下記式に基づき、改質剤溶液を調製した。
【0088】
【数2】
但し、cM:改質剤量(ml)、W:粒子重量(g) (= 6.6)、SN2:非表面積(m2/g)、dOH:粒子表面水酸基密度(/nm2)(= 2.8)、Mw:改質剤分子量 (= 247.4)、NA:アボガドロ数(/mol)、ρ:改質剤密度(g/cm3)(= 1.00)である。
【0089】
そして、dOHに対し、1倍(等量)、2倍、5倍、10倍量の改質剤を用意し、それぞれにヘキサンを加え総量を30 mlに統一した。以下、本文中では、dOHに対し等量の改質剤を使用した試料を1xと表記し、2倍、5倍、10倍をそれぞれ、2x、5x、10xと表記する。
【0090】
2)試料分散処理
実施例2の分散装置を図3の分散処理システム装置に組み込んでせん断分散処理を行った。なお、メカニカルシールのシール液は分散媒に合わせ、ヘキサンに交換した。調製したシリカ/ヘキサンスラリーを窒素充填したスラリータンクに投入した。スラリー循環ポンプ(液送量:1000 ml/min)を作動させ、10分間放置した。回転体を作動させ、10分間せん断分散を行った。回転体の周速は40 m/sに設定した。次に改質剤注入装置を作動し1 ml/minで改質剤溶液を分散容器中へ注入した。回転体を作動したまま注入開始から150分間反応させた。スラリーは高せん断場による摩擦熱で加熱され、反応容器出口での温度はヘキサンの沸点68.7℃であった。
【0091】
3)オートクレーブ法(対照試料調製)
固体濃度82 mass%のシリカ/ヘキサンスラリー200 mlを調製した。スラリーに改質剤を加え、せん断場法と同様にdOHに対し等量、2倍、5倍、10倍の改質剤を添加して各試料を調製した。
【0092】
そして、各試料をオートクレーブを用いて、235 ℃, 30 kgf/cm2の条件で1時間反応を行った。反応終了後、溶媒を排出し、乾燥状態の試料を得た。さらに、得られた試料をヘキサン1000 mlとともに実施例2の分散装置に投入し、分散処理を行った。スラリー循環ポンプ(液送量:1000 ml/min)を作動させ10分間放置した後、回転体を作動させ10分間せん断分散を行った。回転体の周速は40 m/sに設定した。
(3)下記項目の評価の試験を行ったので、その結果及び考察について述べる。
【0093】
1)改質粒子表面の定性評価
(i)FT-IR測定:
図13にせん断場表面改質法を用いて表面改質した粒子のFT-IR測定結果を示す。未処理のシリカ粒子は3750 cm-1にO−H伸縮振動に由来するピークを示し、水酸基を持つことが確認された。一方、せん断場表面改質法の試料は3750 cm-1のO−H伸縮振動が消失し、2840 〜 3000 cm-1にC−H伸縮振動に、2285 cm-1にN=C=O伸縮振動に由来するピークを示した。この結果から表面改質によって、イソシアネートプロピル基が粒子表面に導入されたと考えられる。3400 cm-1に見られるピークは、イソシアネート基が空気中の水分と反応しカルバミン酸を生成、さらにカルバミン酸から二酸化炭素が脱離して生じたアミンに由来していると考えられる。
【0094】
図14にオートクレーブ法を用いて表面改質をした粒子のFT-IR測定結果を示す。せん断場法と同様に、3750 cm-1のO−H伸縮振動が消失し、2840 〜 3000 cm-1にC−H伸縮振動に、2285 cm-1にN=C=O伸縮振動に由来するピークを示した。この結果から表面改質によって、イソシアネートプロピル基が粒子表面に導入されたと考えられる。
【0095】
(ii)表面改質基密度(dM)の定量:
せん断場表面改質法における改質剤の使用量に対する表面改質基密度(dM)を図15に示す。表面改質剤の使用量が増えるに従って、dM が増加した。また、5xから10xにかけては、改質剤の増加量に対しdM の増加が緩やかであるが、これは未反応の表面水酸基数が減少したことと、改質基同士の立体障害により反応の進行が阻害されたためと考えられる。また、反応時間の増加に伴いdM が増加することが分かった。
【0096】
図16にオートクレーブ法における改質剤の使用量と表面改質基密度の関係を示す。改質剤使用量が2xから10xにかけては、改質剤量の増加に対して表面改質基密度の増加が緩やかであった。せん断場法と同様に、未反応の表面水酸基数が減少したことと、改質基同士の立体障害によると考えられる。
【0097】
2)凝集径測定
未改質シリカ粒子のヘキサン中の粒度分布測定結果を図17に示す。また、せん断場法により表面改質を施した粒子の代表例として、改質剤量5倍、反応時間150分間の粒子のヘキサン中での粒度分布測定結果を図18に示す。表面改質によって粒度分布は小径側へシフトし分布幅が狭くなった。このことからせん断場表面改質法により粒子の分散性が向上することが分かった。
【0098】
図19に表面改質基密度(dM )と平均粒子径の関係を示す。未改質の粒子においては10分間のせん断処理により凝集体の平均粒子径は60μm程度から25μmm程度に減少し、凝集体が分散されていることが分かった。
【0099】
さらにせん断場法による表面改質を施すことで平均粒子径は10 〜 20μmに減少し、分散能が向上していることが分かった。平均粒子径はdM の0.9 〜 2.4 /nm2の増加に対して緩やかに減少した。これはシリカ表面の水酸基の性質のためと考えられる。シリカ表面の水酸基は分子内で既に水素結合を形成した水素結合水酸基と、分子内で独立したフリー水酸基に分けられる。フリー水酸基は粒子間に水素結合を形成するため、粒子間の凝集の原因となる。水素結合型よりも化学反応が優先して起こりやすいことと、シリカ表面のフリー水酸基密度(dOHfree)が1.3 /nm2 程度であることから、dM 0.9 /nm2の試料は約70 %のフリー水酸基が表面改質反応で消費されていると考えられる。つまりdM 0.9 /nm2の試料において凝集の原因となるフリー水酸基の影響は既に少なくなっているため、さらにdM が増加しても粒子径の減少量が少なかったと考えられる。
【0100】
オートクレーブ法による改質粒子はdM 0.75 /nm2において未改質粒子より大きな凝集径を示し、dM 2.0 /nm2以上では未改質粒子よりも小さな凝集粒子径を示した。また、全ての試料がせん断場法を用いた試料よりも大きな凝集粒子径を示した。この結果から、せん断場表面改質法はオートクレーブ法よりも粒子分散に有効であることが示された。オートクレーブ法による改質粒子が、せん断場法による改質粒子と同等のdMを持つにもかかわらず、分散性に劣るのは、溶媒除去時の乾燥過程が原因であると考えられる。乾燥過程で、未反応水酸基の影響で凝集体の形成が起こり、分散性が低下したと考えられる。特にdM 0.75 /nm2の試料では未反応のフリー水酸基の影響で、強固な凝集体が形成されたため未改質粒子よりも分散性が低下したと考えられる。
【0101】
3)SEM観察
未改質粒子のSEMで観察したところ、10〜80 μmの凝集体が多く観察され、粒度分布測定結果と一致している。せん断場表面改質後の粒子は、粒子が薄く拡がった集合体を形成していた。一度分散された凝集体が、SEM試料作成上の乾燥過程で凝集した結果であると推察される。また、せん断場表面改質後の粒子を高倍率(50000倍)で観察したが、一次粒子の形状は変わっておらず粒子の破壊は起こっていないことが確認された。
【0102】
(4)まとめ
物理分散のみ、オートクレーブによる表面改質よりも高い分散効果が得られた。このことから、せん断場表面改質法の有効性を示すことができた。せん断場表面改質法は今後、分散装置と表面改質のそれぞれの詳細な検討及び、両者の組み合わせ方の検討を行うことで、さらなる発展が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の検討段階における分散装置の処理容器のモデル分解斜視図(A)及びモデル断面図(B)である。
【図2】本発明の分散装置の一形態を示す処理容器のモデル分解斜視図(A)及びモデル断面図(B)である。
【図3】本発明の分散装置を組み込む一例の分散装置システム図である。
【図4】単純円柱タイプのせん断流発生隙間(周面側)におけるシミュレーション図である。
【図5】原料粒子の粒度分布測定結果を示すグラフ図である。
【図6】実施例1及び比較例の各分散装置で分散処理を行ったスラリーの粒度分布測定結果を示すグラフ図である。
【図7】実施例1・2の各分散装置で分散処理を行ったスラリーの粒度分布測定結果を示すグラフ図である。
【図8】実施例1・2・3の各分散装置で回転体周速を変えて分散処理を行った場合の粒子径の変化を示すグラフ図である。
【図9】実施例1・2・3の各分散装置で分散時間回転体周速を変えて分散処理を行った場合の粒子径の変化を示すグラフ図である。
【図10】シランカップリング剤と無機表面の反応機構を示すモデル図である。
【図11】オートクレーブ法を示す概略斜視図である。
【図12】TG/DTAに使用するDTA曲線である。
【図13】せん断場改質法により表面改質を行った粒子のIRスペクトル図である。
【図14】オートクレーブ法により表面改質を行った粒子のIRスペクトル図である。
【図15】せん断場改質法における表面改質剤使用量に対する表面改質密度の測定結果を示すグラフ図である。
【図16】オートクレーブ法における表面改質剤使用量に対する表面改質密度の測定結果を示すグラフ図である。
【図17】ヘキサン中の未改質粒子の粒度分布測定結果を示すグラフ図である。
【図18】ヘキサン中せん断場表面改質粒分布測定結果を示すグラフ図である。
【図19】表面改質基濃度に対する平均粒子径の関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0104】
12 分散装置
14 貯留タンク
18 供給配管
20 戻り配管
24 改質剤注入器
26 円柱状空間
28 処理容器
28a 原料入口
28b 製品出口
30 円柱状部材
32 回転駆動手段
34 せん断流発生隙間
34a 底部側隙間
34b 周面側隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な構成の液状原料の分散装置及び分散方法に関し、さらに詳しくは、固液混合系の液状原料に垂直回転力を付与して渦流的乃至せん断流的な移動をさせることにより液状原料を均一分散系(微細分散系)とするのに好適な液状原料の分散装置に係る発明である。ここでは、液状原料として固液混合系(サスペンション)を例にとり説明するが、液液混合系(O/Wエマルション、W/Oエマルション)に対しても本発明の分散装置は適用可能と期待される。
【0002】
本発明の液状原料の分散装置及び分散方法は、特に、塗料、セラミックス、ハイブリッド材料等の液中分散の形態で製品供給する場合等に好適である。
【背景技術】
【0003】
昨今のナノ粒子(1μm未満)の溶解性・反応性、製品化した場合の物性のユニーク性(電磁気的・光学的・機械的特性)から、この液中分散技術に対する要望は増大しつつある。これらの性質は、粒子径の微細化に伴う比表面積の増加に起因するとされている。
【0004】
ナノ粒子は、工業的利用を考えると、粒子は乾粉として貯蔵・輸送され、製品(塗料、セラミックス、ハイブリッド材料)の製造の段階で液中分散される場合が多い。そして、ナノ粒子の性質を最大限発揮させるためには、ナノ粒子が分散媒中に可及的にナノ粒子に近い状態で分散していることが望ましい。しかし、ナノ粒子はその比表面積の大きさから、表面活性サイトを多く有し、凝集力が強固である。特に一度乾燥状態を経たナノ粒子を再分散させることは困難である。ナノ粒子の特性を活かした製品を作るためには、乾燥状態を経た凝集ナノ粒子(以下「凝集粒子」という。)を可及的に一次粒子に近い状態で液中に均一分散させる技術が必要である。
【0005】
凝集粒子を、分散させて可及的にナノ粒子化(一次粒子化)させる研究は従来から行われており、それらは物理的なアプローチと化学的なアプローチに大別できる。ここで、一次粒子とは、粒子が単分子又は分子が数個集合したものをいう。物理的な方法とは、粒子の凝集力を上回るエネルギーを物理的に凝集体に与え、凝集体を解砕・分散させる方法である。例えば、超音波振動や媒体流動を利用する方法が挙げられる。また、化学的な方法とは、化学的な処理によって粒子の分散性を向上させる方法である。例えば、粒子の化学的表面改質などが挙げられる。これら二つの物理的・化学的アプローチはこれまで独立して検討されてきたが、乾粉ナノ粒子を一次粒子に近い状態に再分散させるまでには至っていない。物理的な分散法では、分散させた直後から再凝集が始まるという問題があり、化学的分散法では凝集体深部を化学的に処理するのが難しいという問題がある。
【0006】
そして、物理的な分散方法に使用する分散装置として、例えば、媒体(メディア:ビーズ)に垂直回転力を付与して渦流的移動をさせる、すなわち、せん断流を発生させることにより、液状原料中の固体粒子(媒質)を微細・分散化(粉砕混合)する媒体攪拌ミルがある。
【0007】
上記タイプの攪拌ミルとして、例えば、本願出願人の一人が提案した媒体攪拌ミルがある(特許文献1)。
【0008】
しかし、当該構成の媒体攪拌ミルは、液状原料(スラリー:固液混合系)輸送のための動力が、相対的に大きなものが要求される。スラリーの輸送のための動力に加えて、ビーズを、遠心力による外周側への移動力に抗して外側から内側に、さらには、外環状隙間における遠心力による浮上り力に抗して外側で上方から下方へビーズの強制循環をさせる必要があるためである。
【0009】
そこで、本願出願人の一人は、液状原料を低動力で均一分散化可能な新規な分散装置および分散方法を提供することを目的として、鋭意開発に努力をした結果、メディア(ビーズ)を使用しなくても、ある程度の凝集粒子の解砕(分散)が可能であることを見出して、下記構成の液状原料の分散装置を提案した(特許文献2)。
【0010】
「液状原料に、粉砕媒体(メディア)レスの状態で、垂直回転力を付与して渦流(せん断流)的移動をさせることにより液状原料を均一分散系とする分散装置であって、
縦形の環状処理室を構成する環状処理容器と、前記環状処理室内に垂直回転可能に下端に底部隙間を有して配設され、内・外環状隙間を形成する反転有底筒形(反転椀形)の攪拌部材とを備え、攪拌部材は、周壁に連通孔を備え、環状処理容器は、原料供給口を備えるとともに製品排出口を備えている、ことを特徴とする。」
しかし、上記構成の分散装置は、構造が複雑で、攪拌部材の内外周面に内・外環状隙間を分散効率を上げようとして所定以上に小さく(例えば、0.1mm以下)しようとすると、安定して隙間を形成することが困難であった。
【0011】
なお、本発明の特許性に影響を与えるものではないが、ナノサイズのエマルション調製に際して、従来の超高圧ホモジナイザーに代わり得る分散化技術として、薄膜旋回高速攪拌方式の技術が紹介されている(非特許文献1)。その一部を下記に要約乃至引用する。
【0012】
「容器内に保持する処理液体、または底部より注入される処理液体はタービンによって旋回運動し、遠心力によって内壁面に沿って立ち上がる。平衡速度に達すると、容器の内壁全面に沿った薄膜が形成される。例えば、内径80mmの容器で旋回速度(周速度)が50m/sの場合、高速旋回により厚さ(膜厚)20mm程度の中空円柱状の旋回薄膜が形成される。そして、旋回薄膜内の流速はタービンよりほんのわずか遅い速度で追随しており、速度低下はわずかである。ほぼ50m/sの速度(遠心力6700G)でタービンを離れ、速度0m/sの容器内壁面の近くほんの数μmのところで一挙に0m/sまで低下する。6700Gもの遠心力を受けながら50m/sもの急激な速度差が発生することにより、強烈な「ずり応力(超Heavy Friction)」が容器内壁面で、360°まったく同じメカニズム・レベルで発生する。液滴は一瞬に薄く引き延ばされ、引きちぎられ、凝集体は、遠心力で壁面に押えつけられながらも、旋回流によって壁面を転がっていくことにより解砕される。これが薄膜旋回高速攪拌方式による乳化・分散のメカニズムである。この強烈なずり応力により、従来の高速回転型攪拌機では到達し得なかったサブミクロンへの微粒子化を可能とした。」
【特許文献1】特開2000−126635号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2005−319403号公報(特許請求の範囲等)
【非特許文献1】渋谷治男「ナノサイズまでの乳化粒子設計を可能にした新しい攪拌技術」、化学装置、化学調査会、2006年4月、P.55〜56
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記にかんがみて、きわめて簡単な構造で液状原料を均一分散化(凝集粒子の解砕)が可能な新規な構造の分散装置を提供することを目的とする。
【0014】
本発明の他の目的は、上記分散装置を使用して安定化した解砕凝集粒子の分散液を得ることを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために、本発明者らが先に提案した特許文献2に記載のビーズレス分散装置において連通孔を廃した断面蛇行のせん断流発生隙間を有する分散装置(以下「倒立カップ/円柱複合型」という:図1参照)と、円筒容器内に円柱を嵌合させて断面U字形のせん断流発生隙間を有する分散装置(以下「単純円柱型」という:図2参照。)とで、隙間を1mmとして、高速回転(周速:40m/s、1579rpm)させた。その結果、分散能(微粒子化能)は、「単純円柱型」が「倒立カップ/円柱複合型」に優るとも劣らないとの知見を得た(図6参照)。
【0016】
上記知見に基づき、上記第一の目的を達成できる、下記構成の液状原料の分散装置に想到した。
【0017】
液状原料にせん断応力を発生させて液状原料中の凝集粒子を解砕(微粒子化)して均一分散化させる分散装置であって、
円柱状空間を備えた処理容器と、該円柱状空間に嵌合される円柱状部材とを備えるとともに、前記処理容器と前記円柱状部材とを相対回転させる回転駆動手段を備え、
前記処理容器は一端側に原料入口を他端側に製品出口を備え、
前記処理容器と円柱状部材との間には前記原料入口及び前記製品出口と連通するせん断流発生隙間が形成され、
該せん断流発生隙間は、前記原料入口側に位置する円板状隙間と、前記製品出口側に位置する円筒状隙間とを備え、
前記原料入口及び前記製品出口にそれぞれ原料供給手段及び製品排出手段が接続されることを特徴とする。
【0018】
上記構成の液状原料の分散装置は、メディア(ビーズ)を使用しなくても、攪拌部材(タービン)の外周に連通穴に相当する凹凸孔がなくても、円柱体外周面と円柱空間内壁面との間が極めて近接(例えば、1mm以下)していることにより、分散粒子の微細化が可能である。
【0019】
さらに、下記方法により、本発明の第2の目的(安定分散液の調製)が達成できる。
【0020】
上記分散装置における前記せん断流発生隙間を凝集粉体を含有する液状原料を通過させて実質的な密閉空間内で解砕(微粒子化)して分散処理を行うに際して、前記液状原料に表面改質剤を添加しながら行うことを特徴する。すなわち、せん断場で表面改質することにより、解砕凝集粒子の再凝集が阻止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明の望ましい一実施形態に基づいて、詳細に説明する。
【0022】
ここでは、固液分散液(粒子凝集体含有液:スラリー)における、凝集粒子(ナノ粒子凝集体)を解砕(微粒子化:物理的分散)すると同時に、解砕後の凝集粒子(解砕凝集粒子)の表面改質(化学的表面改質)をして、解砕凝集粒子が再凝集しない安定した分散液を調製する場合を例に採り説明する。
【0023】
図3に本発明の方法に適用する分散装置システム図を示す。
【0024】
基本的には、本発明の分散装置(容器/回転体組体)12と、貯留タンク14とから構成され、貯留タンク14と、分散装置12の容器/回転体組体16との間には供給配管18と戻り配管20とが接続され、さらに、供給配管18は供給ポンプ(スラリーポンプ、ギアポンプ等)22を備え、分散装置12と貯留タンク14との間を分散液(スラリー)を循環可能とされている。さらに、処理容器28の底部には、原料供給側に表面改質剤を供給可能に改質剤注入器24が接続されている(図2参照)。また、処理容器28の原料供給口28aは、逆止手段(逆止弁)を介して、原料供給配管18が接続可能とされている。なお、前記供給ポンプを廃して又は廃さずに戻り配管に吸引ポンプを備えた構成としてもよい。
【0025】
そして、分散装置12は、下記構成を備えている(図2参照)。
【0026】
円柱状空間26を備えた処理容器28と、該円柱状空間26に嵌合される円柱状部材30とを備えるとともに、処理容器28と円柱状部材30とを相対回転させる回転駆動手段32を備えている。ここで、円柱状とは、テーパ状も含む。ここで、テーパ角度(傾斜角度)は、通常15°、より普通には10°以内とする。通常、テーパは、原料入口から製品出口に向かって広がるものとするが、逆であってもよい。
【0027】
処理容器28は一端側に原料入口28aを他端側に製品出口28bを備え、処理容器28と円柱状部材30との間には原料入口28a及び製品出口28bと連通するせん断流発生隙間34が形成され、せん断流発生隙間34は、原料入口28a側に位置する円板状又はコニカル状隙間(以下「底部側隙間」という。)(図例では円板状)34aと、製品出口28b側に位置する円筒状隙間(以下「周面側隙間」という。)34bとを備えたものである。
【0028】
ここで各底部側・周面側隙間の間隙(寸法)は、2000μm以下(望ましくは1200μm以下)とする。下限は安定した隙間を形成可能で、且つ、液状原料を供給可能で円柱状部材を形成可能であるなら、可及的に狭い方が、せん断応力の増大により分散能の向上が期待できる(通常下限は100〜200μm)。ただし、後述の試験例で示す如く、1200〜400 μmの範囲では、分散能(微粒子化能)に顕著な差が出ない。このため、製造・運転上の安定性の見地からは、1000μm 前後であってもよい。
【0029】
上記間隙寸法は、円柱状空間26および円柱状部材30の断面を同心の真円とした場合のものである。円柱状空間26及び円柱状部材30の断面の一方又は双方を、両者が相対回転可能な範囲で真円に近い正多角形とすることも可能である。さらには、円柱状空間26の内周壁及び円柱状部材30の外周壁の一方又は双方に凹凸(窪み:ディンプル)を全面的又は部分的に形成してもよい。
【0030】
本実施形態では、処理容器28は、縦置きで、処理容器28に原料を底部側から供給し、製品を天井側から排出するものである。原料供給・製品排出は、上下逆も可能であり、さらには、分散装置を横置きも可能である。なお、原料入口28aは、図例では、底部側隙間34aの中心部に位置しているが、円板径の約1/10以内の偏心位置に形成してもよい。その場合は、渦流(せん断流)がより効率的に発生することが期待できる。
【0031】
また、回転駆動手段32は、液封メカニカルシール33を介して、円柱状部材30がモータ(電動機)36でプーリ伝動38により高速回転駆動されるようになっている。処理容器28を回転させることも可能であり、処理容器28と円柱状部材30の双方を逆回転させることも可能である。上記メカニカルシール33は、グランドシール等の他のシール手段に代替でき、プーリ伝動も、歯車、チェーン伝動、タイミングベルト伝動等の他の伝動手段に代替できる。
【0032】
さらに、分散装置を横置きとして、円柱状部材を両端軸支構造としてもよい。両端軸支構造とすることにより、高速回転時の円柱状部材の振れ回りを確実に阻止でき、円筒状隙間をより狭小なものとすることが可能となる。
【0033】
また、円柱状部材は、断面真円でなく、隙間正多角形の底部側をテーパ(コニカル)嵌合としてもよい。テーパ嵌合した場合は、底部側隙間量の調節が可能となる。
【0034】
なお、図示しないが、処理容器には温調手段(冷却手段)を付設する。せん断摩擦による温度が上昇して、分散質である粒子(特に解砕後の一次粒子)が、処理容器の内壁面に付着するおそれがあるためである。通常、ジャケットによる水冷却とするが、空冷等であってもよい。
【0035】
そして、必然的ではないが、液状原料の分散粒子が高硬度の場合、処理容器の前記攪拌部材の処理原料と接触する面が耐摩耗性高分子材料又は耐摩耗性金属(例えば、ジルコニア)等でライニングしてもよい。特に、処理容器の底部側が、円柱状部材の遠心力及び重力を受けて摩耗が促進され易いためライニングを施しておくことが望ましい(特許文献2参照)。
【0036】
次に、上記実施形態の使用態様について、説明をする。
【0037】
ここでは、液状原料として凝集粒子を含有する固液分散液を例に採り説明するが、液液分散液にも本発明の方法は適用できる。その場合は、表面改質剤は使用しない。
【0038】
先ず、貯留タンク14に液状原料を、表面改質剤(液状又は粉末状)を注入器24に、それぞれ投入しておく。そして、供給配管18のポンプ22及び分散装置12のモータ36を駆動させるとともに、表面改質剤を処理容器内へ注入する。通常、連続的に注入するが間欠的であってもよい。
【0039】
ここで、表面改質剤としては、液状原料を構成する分散媒及び分散質(凝集粒子)により異なる。例えば、分散媒が水で分散質が無機化合物である場合、シランカップリング剤とする。
【0040】
ここで、円柱状部材30の回転数(周速)は、通常、10〜50 m/s、望ましくは20〜45m/sとする。分散処理時間は、例えば、円柱状部材30の周速40 m/sの場合、通常、3〜20分、望ましくは4〜12分、さらに望ましくは、4〜6分とする。これらの数値は、液状原料の種類及び処理容器28の大きさによっても若干変動する。また、ポンプ22の分散液輸送量は、分散装置の処理能により異なるが、例えば処理容器容量(処理容器のみの)20L(dm3 )の場合、400〜800L(dm3 )/minとする。
【0041】
このとき、液状原料中の凝集粒子は図4に示す如く、発生するせん断流によりせん断応力を受けて解砕され解砕凝集粒子となり、さらに、該解砕凝集粒子の表面に凝集防止改質剤(表面改質剤)が付着する。この結果、解砕された一次粒子が再凝集せず、良好な均一分散状態が維持される。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の作用・効果を確認するために行った実施例及び比較例についての試験例について説明をする。
<ナノ粒子分散条件の検討>
(1)化学的表面改質を組み合わせることを視野に入れ、凝集ナノ粒子(以下、「凝集粒子」という。)を物理的に分散させるための装置について検討を行い、最適操作条件の決定を試みた。
【0043】
液中微粒子の分散装置は、プロペラ翼などを用いて粒子懸濁液を攪拌し、翼近傍の媒体流動の速度勾配や翼への粒子衝突などを利用する「攪拌型」、高速回転する攪拌翼と固定環の間隙に発生する高せん断場を利用する「高速回転せん断型」、硬球間の衝突を利用する「ミル型」、噴出による圧力差を利用する「高圧噴出型」、超音波振動を利用する「超音波型」に大別される。攪拌型では翼近傍の凝集体だけが分散され、均一な分散は期待できない。また、ミル型はミクロンレベルの分散が限界である。高圧噴出型、超音波型はサブミクロンレベルの分散に有効であるが、高圧噴出型は装置の構造上表面改質反応の適用が難しい。超音波型は長時間の超音波照射により再凝集が起こる可能性があり、改質反応の反応時間を確保することが難しい。一方、高速回転せん断型は比較的均一に分散が行われ、さらに閉鎖循環系と組み合わせることで表面改質の反応時間を任意に設定できる。
【0044】
したがって、高速回転せん断型分散装置を採用した。
【0045】
本検討では、凝集粒子に表面改質を行わないので、分散直後から再凝集が始まる。特に粒子と分散媒の濡れ性が乏しい場合は、粒子分散性の評価を行う前に凝集が起こり、実際の分散性能を正しく評価できない可能性がある。そこで、粒子と分散媒の濡れ性が比較的良好な炭酸カルシウム/水系スラリーを使用することで、分散性評価に必要な測定時間を確保した。分散性能には、せん断流の速度勾配の大きさが影響すると考えられる。
【0046】
高速回転体(円柱状部材又は倒立カップ)の形状、回転体・容器間距離、回転体回転速度、分散処理時間を変化させ、下記方法の粒度分布測定により分散性能を評価し、最適条件の決定を試みた。さらに分散処理後の粒子を下記方法のSEMにより観察し、粒子の破壊(解砕)の有無を確認した。
【0047】
1)粒度分布測定
レーザー回折・散乱法を応用した「Microtrac MT3000」(日機装株式会社製)を用いて行った。サンプリングから測定までは5分間とした。
【0048】
レーザー回折・散乱法による粒度分布測定は、レーザー光をスラリー中の粒子に照射し、散乱光量とパターンを検出し、演算処理によって粒度分布を測定する方法である。凝集体は一つの粒子として処理されるため、実際には凝集体の粒度分布が測定される。
【0049】
2)SEM観察
原料粒子のSEM試料は、試料台に塗布したカーボンペースト上に原料粉を付着させ、オスミウムコーティングを施して調製した。分散処理後のSEM試料は、試料台にカーボンペーストを塗布した後、スラリーを滴下、乾燥後、オスミウムコーティングを施して調製した。それぞれの試料を走査型電子顕微鏡(SCANNING MICROSCOPY )「JSM-7000F」 (日本電子株式会社製)にて観察した。
【0050】
走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscope:SEM)は、集束電子線を試料表面上に走査し、各走査点から放出される電子を検出、増幅し、走査と同期させて拡大像を映し出す装置である。
【0051】
(2)実験は下記の如く行った
1)試料調製
蒸留水に炭酸カルシウム(「ナノキューブ60」:一次粒子径:60 nm、日鉄鉱業株式会社製商品名)を加え、30分間静かに攪拌し、固体濃度 4.5 mass%の炭酸カルシウムスラリーを調製した。これをスラリー(液状原料:分散液)Aとした。次に、スラリーAに分散剤として炭酸カルシウム重量に対し1 mass%のヘキサメタリン酸ナトリウム(関東化学株式会社)を添加し、これをスラリー(液状原料:分散液)Bとした。
【0052】
2)粒子分散処理
高速回転せん断型分散装置では、高速回転体と回転体を覆う容器の間隙にせん断流が発生する。凝集体がせん断流中に置かれたとき、凝集体はせん断流内の速度勾配により、部位によって異なる流体抵抗を受け、破壊されると考えられる。
【0053】
検討に供した高速回転せん断型分散装置の処理容器は実施例1・2・3(図2)及び比較例(図1)である。比較例は、環状空間26Aを備えた処理容器に逆カップ型回転体30Aを被せたものである。各処理容器は、図示の寸法仕様のものを使用した。図2における隙間Gは、実施例1:1mm(1000μm)、実施例2:0.5mm(500μm)、実施例3:0.25mm(250μm)とした。
【0054】
そして、上記実施例1・2・3及び比較例の分散装置を、図3に示す分散処理装置システムに組み込んで実験を行った。
【0055】
なお、メカニカルシールのシール液として水を使用し、窒素加圧した。分散液(スラリー)の過熱を防ぐため、貯留タンクと処理容器は冷却水で冷却した。
【0056】
3)シミュレーション
実施例1(単純円柱タイプ:隙間1mm)の分散装置について、有限要素法による容器水平断面の水流のシミュレーションの結果の一例を図4に示す。シミュレーションソフトとしてはANSYS(アンシス株式会社)を用いた。
【0057】
シミュレーション条件は要素数2323、接点数2714、水温を27 ℃、粘度を855 μPa・s 、回転体の周速を40 m/s、各種寸法を実測値に設定した。図中の矢印は水流の速度ベクトルである。シミュレーションの結果、円柱状部材(回転体)30の外壁面と処理容器28の内壁面との間隙にせん断流が発生することが確かめられた。
【0058】
(3)評価実験は下記項目について行った。
【0059】
1)分散性能に対する回転体の形状の影響評価:
実施例1(単純円柱タイプ)と比較例(倒立カップ/円柱複合タイプ)の各処理容器を用いて行った。
【0060】
スラリーA 2000 ml をタンクに投入し、循環ポンプ(吐出量500 ml/min)を10分間運転した後、回転体周速40 m/s (回転体外側面)で5分間運転した。
【0061】
2)分散性能に対する回転体・容器間距離の影響評価:
実施例1・2・3の各処理容器を用いて行った。スラリーB 2000 ml をタンクに投入し、循環ポンプ(吐出量500 ml/min)を10分間運転した後、回転体周速40 m/sで15分間運転した。
【0062】
3)分散性能に対する周速の影響評価:
実施例1・2・3の各処理容器を用いて行った。スラリーB 2000 mlをタンクに投入し、循環ポンプ(吐出量500 ml/min)を10分間運転した後、回転体周速を21, 27, 34, 40 m/sに設定して、分散時間を5分間とした。
【0063】
4)分散性能に対する分散時間の影響評価:
実施例1・2・3の各処理容器を用いて行った。スラリーB 2000 mlをタンクに投入し、循環ポンプ(吐出量500 ml/min)を10分間運転した後、回転体周速を40 m/sとして、分散時間を 5, 10, 15分間に設定した。
【0064】
(4)測定実験結果と考察
原料粒子の粒度分布測定結果を図5に示す。体積平均粒子径は21.4 μmを示し、凝集体を形成していることが分かった。
【0065】
1)回転体形状の影響
分散処理を終えた後の、比較例の倒立カップ内壁に粒子ケーキの形成が見られた。一方、回転体を覆う容器内壁には粒子ケーキの形成は見られなかった。同様に、実施例1の処理容器内壁にもケーキ形成は見られなかった。このことから、高速回転せん断型分散機において、回転体内側のせん断流、つまり内側が停止・外側が回転することによって発生するせん断流は粒子分散に不適であることがわかった。この原因としては、外側が回転するせん断流では、遠心分離機と同様の作用が働くためであると考えられる。
【0066】
比較例及び実施例1の各分散装置を用いて分散処理を行ったスラリーAの粒度分布測定結果を図6に示す。両者はほぼ同じ粒度分布を示した。回転体外側については両者の形状は全く同じであることから、分散性能は回転体外側の領域での粒子分散作用が分散性能にとって支配的であると考えられる。
【0067】
なお、比較のために、原料粒子についても、粒度分布測定を行った。その結果を、図5に示す。明らかに、せん断分散処理後の図6に示すスラリーの粒度分布が小径側へ移行していることが分かる。
【0068】
2)回転体・容器距離の影響
実施例1・2の処理容器で分散処理を行ったスラリーBの粒度分布測定結果を図7に示す。回転体・容器間距離が小さくなると、より小さく分散された凝集粒子が現れる。これは回転体周速が同じ場合、回転体・容器間距離が小さい方がよりせん断流の速度勾配が大きくなり、より大きな力が凝集粒子に加わるためであると考えられる。さらに両者の距離を小さくすることで、より分散性能が高まることが期待される。
【0069】
3)回転体周速の影響
実施例1・2・3の分散処理装置を用いてスラリー(液状原料)Bを0〜 40 m/sの周速で分散処理した結果を図8(A)・(B)・(C)に示す。回転体周速の増加に伴い平均粒子径は減少した。これは粗大粒子が分散されたためであり、最小粒子径は周速が25m/s以上では、周速が増加しても変化がほとんどない。凝集体が小さくなると部位による流体抵抗の差が小さくなるため、分散が困難になると考えられる。
【0070】
なお、「D10」は累積体積(小径側からの;以下同じ。)10 %における、「D50」は累積体積50 %における、「D90」は累積体積90 %とにおける各粒子径を示す。以下の図面においても同様である。
【0071】
4)分散処理時間の影響
実施例1・2・3の処理容器を用いてスラリーBを様々な分散時間で分散処理した結果を図9(A)・(B)・(C)に示す。隙間が1mm及び0.5mmの実施例1・2では分散時間が5分以上では、分散時間を長くしても、粗大粒子が僅かに減少するのみで、平均粒子径は余り変化しない。スラリー循環ポンプの液送量とスラリー量の関係から、分散時間5分間では大部分のスラリーは系内を一巡しただけである。このことから高速回転せん断型分散装置では、高せん断場を一回通過しただけで凝集粒子が解砕され均一分散化されていると考えられる(連続処理化が可能となる。)。また、隙間が0.25mmの実施例3では、分散時間15分頃まで分散性能が維持される。その理由は、他のより大きな間隙のものに比して、より小さい凝集体にまで解砕でき、この凝集体解砕に時間がかかるためである。
【0072】
なお、各試料についてSEM観察をした結果、分散粒子前では10μm以上の凝集粒子が多く観察されたのに対し、分散処理後では、10μm以上の凝集粒子がほとんど観察されなかった。なお、分散処理後においては、粒子は薄く拡がった集合体を形成していた。これは、一度サブミクロンレベルに分散された凝集体が、SEM試料作製上の乾燥過程で再凝集した結果と推察される。さらに、SEM高倍率(50000倍)での観察によると、一次粒子の形状は変わっておらず粒子の破壊は起こっていないことが確認された。
【0073】
(5)まとめ
高速回転せん断型の分散装置の回転体/容器組体(実施例1・2・3及び比較例)において、回転体外側で発生するせん断流が粒子分散に寄与していることが分かった。回転体・容器間距離を小さくする、もしくは回転体の周速を増し、せん断流により大きな速度勾配を与えることで分散効果が高くなることが分かった。また、高速回転せん断型分散装置では、せん断場を通過した粒子が漏れなく一様に分散されていることが分かった。SEM観察から、せん断流により一次粒子の破壊は起きていないことが確認された。
【0074】
以上の結果から、分散処理装置の回転体/容器組体には単純円柱タイプを用い、回転体周速を40 m/s 、分散時間を5 分間以上乃至15分間以上に設定することで液状原料(スラリー)中粒子の分散効果は最大となることが示された。
<高せん断場中シリカナノ粒子表面改質>
(1)高速せん断型分散装置(以下、「分散装置」)による物理的分散と、表面改質による化学的分散を組み合わせた新規粒子分散技術(以下、せん断場表面改質法)の検討を行った。
【0075】
分散機を使用して炭酸カルシウムナノ粒子を一次粒子に分散させることは出来なかったが、凝集体はせん断力により凝集構造に歪みや変形を生じ、凝集体内での粒子の位置交換が起こり、凝集体表面粒子が刻々交換されると考えられる。従って、高せん断場において表面改質を行うことで、一次粒子表面に均一に表面改質が出来ると期待される。
【0076】
分散技術の効果を示すため、濡れ性の乏しい系を選択した。濡れ性に乏しく、かつ応用展開が多い系としてシリカ/有機溶媒系が挙げられる。シリカナノ粒子を有機溶媒へ分散させることで耐擦過性塗膜、高硬度・高強度ハイブリッド材料などへの応用が期待されている。シリカ粒子の有機溶媒中への分散は、シランカップリング剤を用いた表面改質によって試みられている。シランカップリング剤はケイ素の有機化合物であり、無機、有機材料と各々化学反応する異なる二つ以上の官能基を持つ。図10に示すように、シランカップリング剤中のシリカ表面と化学結合する部位は、加水分解反応によりシラノール基となり無機表面に水素結合的に吸着、脱水縮合反応し化学結合を形成する。このため、無機材料と有機材料間の濡れ性が改善される。シランカップリング剤の種類は豊富で、シランカップリングを適切に選択することで粒子表面に種々の機能性官能基を導入することも可能である。イソシアネート基は反応性の高さと反応後の安定性から、塗料や接着剤の基材において利用されている。シリカ表面にイソシアネート基を導入することで、これらの製品中でシリカは基材と強固に結合することができる。以上のことから、本実験では表面改質試薬として3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランを使用した
本検討を行うに際して、せん断場表面改質法の有効性を示すため、オートクレーブにより表面改質を行った後、分散機を用いて分散させた試料(以下、オートクレーブ法)との比較も行った。
【0077】
オートクレーブ法は有機溶媒の超臨界状態において反応させる方法である。超臨界溶媒中では系内の極性が下がり粘性が低くなることから改質剤が凝集体深部に到達しやすいと考えられる。オートクレーブの概略図を11に示す。
【0078】
そして、前記と同様、粒度分布測定及びSEMによる分散性能評価を行うとともに、下記FT-IRを用いた表面改質反応の確認、下記TG/DTAを用いた粒子表面改質基密度の定量評価も行った。
【0079】
1)FT-IR法
FT-IR(「FT-IR6200」日本分光株式会社製)を用いて、表面改質反応の確認を行った。
【0080】
分子はそれぞれ固有の振動をしており、分子に赤外線を照射すると分子固有の振動の振動エネルギーに対応した赤外線が吸収され、分子構造に応じた固有のスペクトルが得られる。FT-IRはこの原理を利用して分子構造を解析するものである。
【0081】
シリカ/ヘキサンスラリーを加圧ろ過、洗浄し乾燥後、ミクロ錠剤成形器でペレット状の測定試料を作製した。
【0082】
2)TG/DTA法
TG/DTA (「Thermo Plus 2 TG8120」株式会社リガク製) にて、加熱による重量減少量を測定した。測定は昇温20 ℃/minの設定で 測定温度範囲30 ℃から500 ℃、酸素雰囲気中で行った。示差熱・熱重量同時測定装置は、温度を変化させながら試料の重量変化と発熱・吸熱量を測定する装置である。
【0083】
図12に示すようにDTA曲線から重量減少範囲を決定し、その範囲内での重量減少率を求めた。得られた結果と以下の式を利用して、粒子表面の改質基密度:dMを求めた。
【0084】
【数1】
但し、ΔWDは改質粒子の重量減少率、ΔWOH:未改質粒子の重量減少率、NA:アボガドロ数(/mol)、 Mw:脱離部の分子量(g/mol) ( = 84)、SN2(m2/g):比表面積である。
【0085】
(2)実験は下記の如く行った。
【0086】
1)試料調製
シリカナノ粒子として「AerosilOX50」 (日本アエロジル株式会社製商品名) を使用した。一次粒子径は40 nm、比表面積は50 m2/g である。溶媒としてn-ヘキサン(関東化学株式会社) (本文中以下、ヘキサン)を使用した。表面改質剤として3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を使用した。
【0087】
固体濃度1 mass% のシリカ/ヘキサンスラリーを1000 ml 調製した。次に下記式に基づき、改質剤溶液を調製した。
【0088】
【数2】
但し、cM:改質剤量(ml)、W:粒子重量(g) (= 6.6)、SN2:非表面積(m2/g)、dOH:粒子表面水酸基密度(/nm2)(= 2.8)、Mw:改質剤分子量 (= 247.4)、NA:アボガドロ数(/mol)、ρ:改質剤密度(g/cm3)(= 1.00)である。
【0089】
そして、dOHに対し、1倍(等量)、2倍、5倍、10倍量の改質剤を用意し、それぞれにヘキサンを加え総量を30 mlに統一した。以下、本文中では、dOHに対し等量の改質剤を使用した試料を1xと表記し、2倍、5倍、10倍をそれぞれ、2x、5x、10xと表記する。
【0090】
2)試料分散処理
実施例2の分散装置を図3の分散処理システム装置に組み込んでせん断分散処理を行った。なお、メカニカルシールのシール液は分散媒に合わせ、ヘキサンに交換した。調製したシリカ/ヘキサンスラリーを窒素充填したスラリータンクに投入した。スラリー循環ポンプ(液送量:1000 ml/min)を作動させ、10分間放置した。回転体を作動させ、10分間せん断分散を行った。回転体の周速は40 m/sに設定した。次に改質剤注入装置を作動し1 ml/minで改質剤溶液を分散容器中へ注入した。回転体を作動したまま注入開始から150分間反応させた。スラリーは高せん断場による摩擦熱で加熱され、反応容器出口での温度はヘキサンの沸点68.7℃であった。
【0091】
3)オートクレーブ法(対照試料調製)
固体濃度82 mass%のシリカ/ヘキサンスラリー200 mlを調製した。スラリーに改質剤を加え、せん断場法と同様にdOHに対し等量、2倍、5倍、10倍の改質剤を添加して各試料を調製した。
【0092】
そして、各試料をオートクレーブを用いて、235 ℃, 30 kgf/cm2の条件で1時間反応を行った。反応終了後、溶媒を排出し、乾燥状態の試料を得た。さらに、得られた試料をヘキサン1000 mlとともに実施例2の分散装置に投入し、分散処理を行った。スラリー循環ポンプ(液送量:1000 ml/min)を作動させ10分間放置した後、回転体を作動させ10分間せん断分散を行った。回転体の周速は40 m/sに設定した。
(3)下記項目の評価の試験を行ったので、その結果及び考察について述べる。
【0093】
1)改質粒子表面の定性評価
(i)FT-IR測定:
図13にせん断場表面改質法を用いて表面改質した粒子のFT-IR測定結果を示す。未処理のシリカ粒子は3750 cm-1にO−H伸縮振動に由来するピークを示し、水酸基を持つことが確認された。一方、せん断場表面改質法の試料は3750 cm-1のO−H伸縮振動が消失し、2840 〜 3000 cm-1にC−H伸縮振動に、2285 cm-1にN=C=O伸縮振動に由来するピークを示した。この結果から表面改質によって、イソシアネートプロピル基が粒子表面に導入されたと考えられる。3400 cm-1に見られるピークは、イソシアネート基が空気中の水分と反応しカルバミン酸を生成、さらにカルバミン酸から二酸化炭素が脱離して生じたアミンに由来していると考えられる。
【0094】
図14にオートクレーブ法を用いて表面改質をした粒子のFT-IR測定結果を示す。せん断場法と同様に、3750 cm-1のO−H伸縮振動が消失し、2840 〜 3000 cm-1にC−H伸縮振動に、2285 cm-1にN=C=O伸縮振動に由来するピークを示した。この結果から表面改質によって、イソシアネートプロピル基が粒子表面に導入されたと考えられる。
【0095】
(ii)表面改質基密度(dM)の定量:
せん断場表面改質法における改質剤の使用量に対する表面改質基密度(dM)を図15に示す。表面改質剤の使用量が増えるに従って、dM が増加した。また、5xから10xにかけては、改質剤の増加量に対しdM の増加が緩やかであるが、これは未反応の表面水酸基数が減少したことと、改質基同士の立体障害により反応の進行が阻害されたためと考えられる。また、反応時間の増加に伴いdM が増加することが分かった。
【0096】
図16にオートクレーブ法における改質剤の使用量と表面改質基密度の関係を示す。改質剤使用量が2xから10xにかけては、改質剤量の増加に対して表面改質基密度の増加が緩やかであった。せん断場法と同様に、未反応の表面水酸基数が減少したことと、改質基同士の立体障害によると考えられる。
【0097】
2)凝集径測定
未改質シリカ粒子のヘキサン中の粒度分布測定結果を図17に示す。また、せん断場法により表面改質を施した粒子の代表例として、改質剤量5倍、反応時間150分間の粒子のヘキサン中での粒度分布測定結果を図18に示す。表面改質によって粒度分布は小径側へシフトし分布幅が狭くなった。このことからせん断場表面改質法により粒子の分散性が向上することが分かった。
【0098】
図19に表面改質基密度(dM )と平均粒子径の関係を示す。未改質の粒子においては10分間のせん断処理により凝集体の平均粒子径は60μm程度から25μmm程度に減少し、凝集体が分散されていることが分かった。
【0099】
さらにせん断場法による表面改質を施すことで平均粒子径は10 〜 20μmに減少し、分散能が向上していることが分かった。平均粒子径はdM の0.9 〜 2.4 /nm2の増加に対して緩やかに減少した。これはシリカ表面の水酸基の性質のためと考えられる。シリカ表面の水酸基は分子内で既に水素結合を形成した水素結合水酸基と、分子内で独立したフリー水酸基に分けられる。フリー水酸基は粒子間に水素結合を形成するため、粒子間の凝集の原因となる。水素結合型よりも化学反応が優先して起こりやすいことと、シリカ表面のフリー水酸基密度(dOHfree)が1.3 /nm2 程度であることから、dM 0.9 /nm2の試料は約70 %のフリー水酸基が表面改質反応で消費されていると考えられる。つまりdM 0.9 /nm2の試料において凝集の原因となるフリー水酸基の影響は既に少なくなっているため、さらにdM が増加しても粒子径の減少量が少なかったと考えられる。
【0100】
オートクレーブ法による改質粒子はdM 0.75 /nm2において未改質粒子より大きな凝集径を示し、dM 2.0 /nm2以上では未改質粒子よりも小さな凝集粒子径を示した。また、全ての試料がせん断場法を用いた試料よりも大きな凝集粒子径を示した。この結果から、せん断場表面改質法はオートクレーブ法よりも粒子分散に有効であることが示された。オートクレーブ法による改質粒子が、せん断場法による改質粒子と同等のdMを持つにもかかわらず、分散性に劣るのは、溶媒除去時の乾燥過程が原因であると考えられる。乾燥過程で、未反応水酸基の影響で凝集体の形成が起こり、分散性が低下したと考えられる。特にdM 0.75 /nm2の試料では未反応のフリー水酸基の影響で、強固な凝集体が形成されたため未改質粒子よりも分散性が低下したと考えられる。
【0101】
3)SEM観察
未改質粒子のSEMで観察したところ、10〜80 μmの凝集体が多く観察され、粒度分布測定結果と一致している。せん断場表面改質後の粒子は、粒子が薄く拡がった集合体を形成していた。一度分散された凝集体が、SEM試料作成上の乾燥過程で凝集した結果であると推察される。また、せん断場表面改質後の粒子を高倍率(50000倍)で観察したが、一次粒子の形状は変わっておらず粒子の破壊は起こっていないことが確認された。
【0102】
(4)まとめ
物理分散のみ、オートクレーブによる表面改質よりも高い分散効果が得られた。このことから、せん断場表面改質法の有効性を示すことができた。せん断場表面改質法は今後、分散装置と表面改質のそれぞれの詳細な検討及び、両者の組み合わせ方の検討を行うことで、さらなる発展が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の検討段階における分散装置の処理容器のモデル分解斜視図(A)及びモデル断面図(B)である。
【図2】本発明の分散装置の一形態を示す処理容器のモデル分解斜視図(A)及びモデル断面図(B)である。
【図3】本発明の分散装置を組み込む一例の分散装置システム図である。
【図4】単純円柱タイプのせん断流発生隙間(周面側)におけるシミュレーション図である。
【図5】原料粒子の粒度分布測定結果を示すグラフ図である。
【図6】実施例1及び比較例の各分散装置で分散処理を行ったスラリーの粒度分布測定結果を示すグラフ図である。
【図7】実施例1・2の各分散装置で分散処理を行ったスラリーの粒度分布測定結果を示すグラフ図である。
【図8】実施例1・2・3の各分散装置で回転体周速を変えて分散処理を行った場合の粒子径の変化を示すグラフ図である。
【図9】実施例1・2・3の各分散装置で分散時間回転体周速を変えて分散処理を行った場合の粒子径の変化を示すグラフ図である。
【図10】シランカップリング剤と無機表面の反応機構を示すモデル図である。
【図11】オートクレーブ法を示す概略斜視図である。
【図12】TG/DTAに使用するDTA曲線である。
【図13】せん断場改質法により表面改質を行った粒子のIRスペクトル図である。
【図14】オートクレーブ法により表面改質を行った粒子のIRスペクトル図である。
【図15】せん断場改質法における表面改質剤使用量に対する表面改質密度の測定結果を示すグラフ図である。
【図16】オートクレーブ法における表面改質剤使用量に対する表面改質密度の測定結果を示すグラフ図である。
【図17】ヘキサン中の未改質粒子の粒度分布測定結果を示すグラフ図である。
【図18】ヘキサン中せん断場表面改質粒分布測定結果を示すグラフ図である。
【図19】表面改質基濃度に対する平均粒子径の関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0104】
12 分散装置
14 貯留タンク
18 供給配管
20 戻り配管
24 改質剤注入器
26 円柱状空間
28 処理容器
28a 原料入口
28b 製品出口
30 円柱状部材
32 回転駆動手段
34 せん断流発生隙間
34a 底部側隙間
34b 周面側隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状原料にせん断応力を発生させて液状原料中の凝集粒子を解砕(微粒子化)して均一分散化させる分散装置であって、
円柱状(テーパ状を含む。:以下同じ)空間を備えた処理容器と、該円柱状空間に嵌合される円柱状部材とを備えるとともに、前記処理容器と前記円柱状部材とを相対回転させる回転駆動手段を備え、
前記処理容器は一端側に原料入口を他端側に製品出口を備え、
前記処理容器と円柱状部材との間には前記原料入口及び前記製品出口と連通するせん断流発生隙間が形成され、
該せん断流発生隙間は、前記原料入口側に位置する円板状又は断面テーパ状隙間と、前記製品出口側に位置する円筒状隙間とを備え、
前記原料入口及び前記製品出口にそれぞれ原料供給手段及び製品排出手段が接続されることを特徴とする液状原料の分散装置。
【請求項2】
前記原料入口が前記円板状隙間の中心部乃至円板径の約1/10以内の偏心位置に形成されていることを特徴とする請求項1記載の液状原料の分散装置。
【請求項3】
前記円板状隙間及び円筒状隙間の間隙が、2000μm以下の範囲で選択されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の液状原料の分散装置。
【請求項4】
さらに、前記原料供給口には逆止手段を介して、原料輸送動力源と直接的又は間接的に接続された原料供給配管が接続可能とされていることを特徴とする請求項3記載の液状原料の分散装置。
【請求項5】
前記処理容器が前記円柱空間を形成する外周壁に放熱乃至冷却手段を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一記載の液状原料の分散装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一記載の分散装置における前記せん断流発生隙間を凝集粉体を含有する液状原料を通過させて実質的な密閉空間内で分散(微粒化)処理を行うに際して、前記液状原料に表面改質剤を添加しながら行うことを特徴する液状原料の分散方法。
【請求項1】
液状原料にせん断応力を発生させて液状原料中の凝集粒子を解砕(微粒子化)して均一分散化させる分散装置であって、
円柱状(テーパ状を含む。:以下同じ)空間を備えた処理容器と、該円柱状空間に嵌合される円柱状部材とを備えるとともに、前記処理容器と前記円柱状部材とを相対回転させる回転駆動手段を備え、
前記処理容器は一端側に原料入口を他端側に製品出口を備え、
前記処理容器と円柱状部材との間には前記原料入口及び前記製品出口と連通するせん断流発生隙間が形成され、
該せん断流発生隙間は、前記原料入口側に位置する円板状又は断面テーパ状隙間と、前記製品出口側に位置する円筒状隙間とを備え、
前記原料入口及び前記製品出口にそれぞれ原料供給手段及び製品排出手段が接続されることを特徴とする液状原料の分散装置。
【請求項2】
前記原料入口が前記円板状隙間の中心部乃至円板径の約1/10以内の偏心位置に形成されていることを特徴とする請求項1記載の液状原料の分散装置。
【請求項3】
前記円板状隙間及び円筒状隙間の間隙が、2000μm以下の範囲で選択されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の液状原料の分散装置。
【請求項4】
さらに、前記原料供給口には逆止手段を介して、原料輸送動力源と直接的又は間接的に接続された原料供給配管が接続可能とされていることを特徴とする請求項3記載の液状原料の分散装置。
【請求項5】
前記処理容器が前記円柱空間を形成する外周壁に放熱乃至冷却手段を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一記載の液状原料の分散装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一記載の分散装置における前記せん断流発生隙間を凝集粉体を含有する液状原料を通過させて実質的な密閉空間内で分散(微粒化)処理を行うに際して、前記液状原料に表面改質剤を添加しながら行うことを特徴する液状原料の分散方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−238005(P2008−238005A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79875(P2007−79875)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(390008084)中央化工機株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(390008084)中央化工機株式会社 (16)
【Fターム(参考)】
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