説明

液状経腸栄養剤

【課題】 滅菌および長期保存において、沈殿や乳化破壊、色調変化が起きず溶液が安定に保持された液状の滅菌経腸栄養剤を提供する。
【解決手段】アミノ酸類および/またはペプチドからなる窒素源、脂溶性ビタミンを含む油脂およびビタミンCとB1を含む水溶性ビタミン類よりなる乳化液(第1液)と、糖質、ミネラル類およびビタミンCとB1を除く水溶性ビタミン類よりなる水溶液(第2液)との2液に構成し、これらが滅菌されているキット形態の液状経腸栄養剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドやアミノ酸を主窒素源とする滅菌された液状経腸栄養剤において、沈殿や乳化破壊、並びに保存中のビタミン類の劣化や色調変化が少ないキット形態の経腸栄養剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドやアミノ酸を窒素源としたものに油脂を添加した経腸栄養剤が術後の栄養改善に利用されている。しかし、近年、たん白質はアミノ酸まで完全に分解されてから消化管粘膜で吸収されるよりは、むしろジペプチドおよびトリペプチドのまま吸収されることが多く、しかもより速やかで、かつ、より均質な組成のアミノ酸吸収が行われることが明らかになり、たん白質を窒素源とする経腸栄養剤が注目をあび、消化態栄養剤として市販されている。また、アミノ酸を主体とする成分栄養剤とよばれる経腸栄養剤は、精製されたアミノ酸結晶を配合し、そのアミノ酸組成を自由に設計することが可能であることから、クローン病を始めとする炎症性腸疾患患者を中心として使用されている。
【0003】
一方、上述の経腸栄養剤において、滅菌された液状の製剤は、現状においてはその品質劣化が十分に防止できない。すなわち、上述の経腸栄養剤を液状にして滅菌処理する際に、また製剤を保存する際に、油脂部分との乳化性が失われ、また糖質と窒素源の存在によりメイラード反応(アミノカルボニル反応)を起して褐変化するという問題や、更にはビタミン類が劣化するという品質上重大な問題がみられる。
【0004】
これらの問題を解決するために、2液から構成された液状滅菌経腸栄養剤が開示され上市されている(例えば、特許文献1参照)。これには、アミノ酸類もしくは低分子ペプチド或いはその両者からなる窒素源、ミネラル類及びビタミンCよりなる水溶液と、糖質、油脂、ビタミンA及びビタミンB1よりなる乳化液との2液から構成される液状滅菌経腸栄養剤が開示されている。さらに、油脂にビタミンAとビタミンB1とを加えた乳化液との3液から構成される液状滅菌経腸栄養剤も例示されている。
【0005】
一方、上述のキット製剤においても、ペプチド、すなわちたん白質加水分解物の種類や、配合したミネラル類の量や種類によっては、結晶析出や沈殿などが生じ、経腸栄養剤として通常使用するチューブ投与において詰まりを生ずるなど不都合な状況が認められた。特に、窒素源としてジペプチドおよびトリペプチドなどの低分子ペプチドを主として含有する卵白加水分解物を用いた場合、従来技術で製剤を調製すると沈殿が発生するという不都合が生じる。これはカルシウムなどのミネラル類とペプチドとが結合して黒色の沈殿を生じ、これがチューブ投与において詰まりを生ずることが原因であった。
【0006】
カルシウム源として炭酸カルシウムのような不溶性の物質を使用した場合に保存中に沈殿が発生するといった問題を解決するために、カルシウム粒子が乳化剤にコーティングされている炭酸カルシウム複合体を使用することによって、保存時の沈殿を防止する技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
この方法では、カルシウム粒子を乳化剤にコーティングした炭酸カルシウム複合体の製造がやや煩雑であり、より簡単な方法で保存時の沈殿を防止する技術の確立が望まれる。
また、カルシウムの種類によっては、pHなどが起因し白色の沈殿を発生させる場合もあり、従来の技術では満足できる効果は得られていない。
特許文献1 特許第2640230号公報
特許文献2 特許第3236373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題点を鑑みて、ペプチドの沈殿防止、並びにカルシウムなどミネラル類の沈殿防止が可能なキット形態の新たな液状の滅菌経腸栄養剤を提供することを目的とする。また、糖質と窒素源の存在による褐変化や油脂とミネラル類の共存や乳化破壊による変色の発生防止が可能な新たな液状の滅菌経腸栄養剤を提供することを課題とする。さらに詳しくは、術前術後の栄養補給や消化管障害、各種疾患により栄養成分を経口摂取できない患者に対する栄養補給を行う経腸栄養剤において、滅菌および長期保存の際に、沈殿や乳化破壊、色調変化が起きず溶液が安定に保持された液状の滅菌経腸栄養剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは検討を重ねた結果、栄養成分が次の構成をとることによりペプチドやミネラル類の沈殿防止が可能な、また、褐変化や乳化破壊による変色の発生防止が可能な新たな液状の滅菌経腸栄養剤を提供できることを見出した。
(1)アミノ酸類および/またはペプチドからなる窒素源、脂溶性ビタミンを含む油脂およびビタミンCとB1を含む水溶性ビタミン類よりなる乳化液(第1液)と、糖質、ミネラル類およびビタミンCとB1を除く水溶性ビタミン類よりなる水溶液(第2液)との2液から構成され、これらが滅菌されている、沈殿と色調変化の少ないキット形態の液状経腸栄養剤。
(2)アミノ酸類および/またはペプチドからなる窒素源、脂溶性ビタミンを含む油脂およびビタミンCとB1を含む水溶性ビタミン類よりなる乳化液(第1液)と、糖質、カルシウムを除くミネラル類およびビタミンCとB1を除く水溶性ビタミン類よりなる水溶液(第2液)、およびカルシウム溶液(第3液)との3液から構成され、これらが滅菌されている沈殿と色調変化の少ないキット形態の液状経腸栄養剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、従来の液状滅菌経腸栄養剤において欠点であった窒素源やミネラル類の種類や配合量の変化による色調変化や沈殿物の顕著な生成が防止でき、滅菌後および保存中においてビタミン類や性状の安定な製剤が提供し得る。
本発明の滅菌経腸栄養剤は、滅菌および長期保存において、沈殿や乳化破壊、色調変化が起きず溶液を安定に保持することができるという格別の効果を有する。
そして、本発明の構成をとることにより、結晶析出や沈殿などを生じず、術前術後の栄養補給や消化管障害、各種疾患により栄養成分を経口摂取できない患者に対する経管投与においてチューブに詰まりを生ずるなどの問題がなく、患者の苦痛を緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の経腸栄養剤組成成分の分別および構成は次のようにして行なった。まず、既存の技術では経腸栄養剤の組成成分の共存により問題が発生することを確認し、これに対する分別組み合わせを検討した。その中で明らかにした既存技術の主な問題は次の通りである。
(1)窒素源であるアミノ酸およびペプチドと、ミネラル類、特にカルシウムや銅、鉄は、両者の共存下で沈殿を起こす。特に、ジおよびトリペプチドなどの低分子ペプチドを主体とする卵白加水分解物では顕著に沈殿物が発生する。
(2)窒素源と糖質は、両者の共存下でメイラード反応を起して褐変現象を起こす。
(3)ビタミン類のうち、ビタミンCは、酸素の存在下で分解を起こすが、酸素がない状態においても、糖質と、銅や鉄などの金属類との共存下で滅菌して保存すると劣化を来たす。
(4)ビタミンAとビタミンB1は、アミノ酸およびペプチドの窒素源と、糖質と、銅や鉄などの金属類との共存下で滅菌して保存すると劣化を来たす。
(5)油脂とミネラル類、特にカルシウムや鉄、銅が共存すると、乳化が困難となり、クリーム浮上や沈殿、変色が発生する。
【0011】
上述したような各成分の共存による安定性の劣化を考慮して、その組み合わせを鋭意研究し、試験による確認をした結果、以下の発明を達成した。即ち、上記窒素源を含む溶液と、糖質を含む溶液に分別し、窒素源を含む溶液には脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)を含む油脂を加えて乳化し、水溶性ビタミン類(ビタミンCとB1を含む)を添加する。一方、糖質を含む溶液にはミネラル類と水溶性ビタミン類(ビタミンCとB1を除く)を添加して、それぞれ2液を調製するか、又は、カルシウム溶液を別にしてそれぞれ3液を調製してもよい。
【0012】
本発明の経腸栄養剤は次の構成を有することを特徴とする。
(1) 窒素源であるアミノ酸およびペプチドと、ミネラル類、特にカルシウムや銅、鉄とが分別されている。
(2)窒素源と糖質とが分別されている。
(3)ビタミンCと糖質とが分別されている。また、ビタミンCと金属類とが分別されている。
(4)ビタミンAと糖質とが分別されている。また、ビタミンAと銅や鉄などの金属類とが分別されている。
(5)ビタミンB1と糖質とが分別されている。また、ビタミンB1と銅や鉄などの金属類とが分別されている。
(6)油脂とミネラル類、特にカルシウムや鉄、銅とが分別されている。
このような構成をとることにより、本発明の滅菌経腸栄養剤は、滅菌および長期保存において、既存技術による栄養剤に見られた沈殿や乳化破壊、色調変化が起きず、溶液を安定に保持することができるという格別の効果を有する。上記した本発明の分別方法のうち、(1) 窒素源であるアミノ酸およびペプチドと、ミネラル類とが分別されていること、(3)ビタミンCと金属類とが分別されていること、(4)ビタミンAと銅や鉄などの金属類とが分別されていることについては、少なくともキット形態の経腸栄養剤における既存技術である前掲特許文献1および2では見られない。また、窒素源であるアミノ酸およびペプチドと油脂を乳化して一つの液とすることも、少なくとも前掲特許文献1および2では見られない。
【0013】
本発明においては上述の分別組み合わせにより、ビタミンA、B1、Cの保存中の劣化は抑えられるが、抗酸化剤であるエリソルビン酸またはそのナトリウム塩などの塩類を、第1液、もしくは第1液と第2液に配合することにより、さらに保存安定性が改善されるので、配合することが好ましい。
【0014】
また、本発明に用いる第1液の乳化剤としては、ペプチドやアミノ酸が乳化力の低下を起す場合があることから、有機酸モノグリセリド、酵素分解レシチン、ポリグリセン脂肪酸エステル、およびショ糖脂肪酸エステルの中から、少なくとも2種類を選択することが望ましい。その場合、有機酸モノグリセリドには、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリドが例示されるが、この場合ジアセチル酒石酸モノグリセリドが乳化安定性に優れており好ましい。また、酵素分解レシチンは、特に指定はなく、大豆もしくは卵黄由来の酵素分解レシチンが使用できるが、その分解率は70%以上の水に分散が可能なものが好ましい。さらに、ポリグリンセリン脂肪酸エステルも特に指定はないが、デカグリセリンモノステアリン酸エステルやデカグリセリンモノオレイン酸エステルなど水に分散が可能なものが好ましい。同様にショ糖脂肪酸エステルも特に指定はないが、ショ糖モノステアリン酸エステルやショ糖モノパルミチン酸エステルなど水に分散が可能なものが好ましい。
【0015】
製剤のpHは乳化の安定性、沈殿生成の度合い、色調変化に関与することから調整することが好ましい。例えば、第1液の乳液においては、pHが5.5〜7.5に調整されていることが好ましく、pH5.5を下回るとクリーム分離や沈殿が生成し、pH7.5を上回ると著しい色調変化が起こり易いので好ましくない。一方、第2液のpHは5〜6.5に調節されていることが好ましく、pH5を下回ると沈殿が生成し、pH6.5を上回ると沈殿および著しい色調変化が起こり易いので好ましくない。
【0016】
本発明に用いる窒素源としてのペプチドおよび/またはアミノ酸は、消化吸収がよく栄養価の高いものであれば特に限定されるものではないが、ジおよびトリペプチドなど低分子ペプチドを主体とするたん白質加水分解物がよい。例えば、乳たん白、大豆たん白、魚肉たん白、鶏卵たん白、ゼラチンなどのたん白質をプロテアーゼや酸により加水分解して得られる低分子ペプチドが例示でき、特に卵白ペプチドは栄養価が優れているので好ましい。
【0017】
本発明に用いる糖質としては、特に限定されず、デンプン、デキストリン、マルトデキストリン、ショ糖、グルコースなどを用いることができる。
本発明に用いる油脂としては、特に限定されず、大豆油、コーン油、パーム油、サフラワー油、魚油などの天然油脂の他、炭素数6〜12程度の中鎖脂肪酸トリグリセリドを使用することができる。
本発明に用いるビタミン類、ミネラル類としては、従来から用いられている各種の微量栄養成分や微量金属などを使用することができる。
【0018】
本発明の液状経腸栄養剤の製造方法は、特に限定されず、例えば第1液は窒素源溶液に油脂と乳化剤を添加し、必要に応じてpH調整を行ってホモジナイザーで乳化するなどの常法により製造できる。また、第2液においても、糖質液にミネラル類、ビタミンCとB1を除く水溶性ビタミン類を添加溶解するなどの常法により製造することができる。
【0019】
上述のようにして分別して調製した各液は、滅菌時およびその後の長期保存下で品質が安定しているので、滅菌液状の状態で保存しておき、投与時に混合することにより、良好な品質の経腸栄養剤を患者に投与することができる。
【0020】
経腸栄養剤は内径約1mmの管を通して消化管に投与される場合があるので、従来の技術で調製した栄養剤では沈殿物が生成することがあり、それにより管の詰まりが発生する恐れがある。この場合には管の交換が必要となって患者に大きな苦痛を与えるようになる。しかし、本発明品では、従来の経腸栄養剤で認められる沈殿物による管の詰まりによる問題が起こる恐れはなく、安全に使用可能となる。
【0021】
本発明に係る経腸栄養剤を構成する上記の分別された複数液の調製に当たっては、それらの液を投与時に混合して一液の栄養剤にした場合の固形分組成が、窒素源として8〜30重量%、油脂2〜25重量%および糖質40〜70重量%となるように配合量を調整することが好ましい。
なお、本発明の液状経腸栄養剤の投与形態は特に限定されず、経腸、経口などにより投与できる。
【0022】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明すると共に、比較例を示して本発明の効果をより明確に示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
表1に示す割合の栄養成分を、本発明に示した組み合わせにより分別して2種類の液(第1液と第2液)を調製した。
【0024】
【表1】

【0025】
また、分別した2種類の液(第1液と第2液)の調製は以下のとおり行った。
(1)第1液の調製
70℃の温湯に適量のポリグリセリン脂肪酸エステル(J-0381:理研ビタミン)を溶解後、油脂を添加して均質機にて50MPaで2回繰返し均質化を行って、別途低分子の卵白加水分解物を溶解した液と混合して、再均質化(50MPaで2回繰返し)を行った。次いで、ビタミンCおよびB1、B6を添加し、さらにエリソルビン酸を添加して、クエン酸ナトリウムと炭酸ナトリウムでpHを6.7に調整し50Lに定容後、窒素気流中でアルミパウチに200mlずつ充填した。
(2)第2液の調製
表1に記載の配合量のデキストリン、ミネラル、水溶性ビタミン類を水に溶解し50Lに定容後、窒素気流中でアルミパウチに200mlずつ充填した。
上述のようにして得られた第1液並びに第2液を121℃の温度で15分間レトルト殺菌を行い、滅菌後、およびさらに40℃の温度で3ヶ月間保存した後の各ビタミンの残存量、第1液の乳化状態、各液の色調変化や沈殿物の有無などを調べた。
【0026】
[比較例1]
比較例として、特許文献1(特許第2640230号)に記載の方法に従って調製した液状経腸栄養剤を調製した。
比較例として分別した2種類の液(A液とB液)の調製方法は次のとおりである。
(1)比較例A液の調製
表1記載の配合量のデキストリン、油脂、ビタミンAおよびその他の脂溶性ビタミンを水35Lと混合し、均質機にて500kg/cm2で3回繰返し均質化を行って、窒素気流中でアルミパウチ200mLに充填した。
(2)比較例B液の調製
表1記載の配合量の卵白加水分解物、ミネラル、ビタミンC、およびその他の水溶性ビタミンを水30Lに溶解し、窒素気流中でアルミパウチ200mLに充填した。
上述のようにして得られた比較例A液並びにB液を121℃の温度で15分間レトルト殺菌を行い、滅菌後およびさらに40℃の温度で3ヶ月間保存した後の各ビタミンの残存量、A液の乳化状態、各液の色調変化や沈殿物の有無などを調べて、実施例1と比較した。
結果は表2に示すとおりである。
【0027】
【表2】

【0028】
表2にみられるとおり、経腸栄養剤の組成成分を、本発明に従って第1液と第2液に分別して、2液としてレトルト滅菌して保存した場合には、水溶性ビタミンおよび脂溶性ビタミンの劣化が少なく、油脂の乳化性が良好であり、さらに保存中には色調変化や沈殿物などの不溶物の生成も認められなかった。一方、比較例1においては、水溶性ビタミンおよび脂溶性ビタミンの劣化が少なく、油脂の乳化性も良好であったものの、保存中に黒色への色調変化や沈殿物などの不溶物の生成が顕著に認められた。
【実施例2】
【0029】
実施例1の配合において、卵白加水分解物に代えて大豆たん白加水分解物を同量用いるほかは、実施例1に記載したと同様の手順で第1液と第2液を調製し、同様にレトルト滅菌を行い、滅菌後、および更に40℃の温度に3ヶ月保存した後の各ビタミンの残存量、第1液の乳化状態、各液の色調変化や沈殿物の有無などを調べた。また、比較例2として、同じ原材料を用いて、実施例1中の比較例1に記載したと同様の手順で栄養剤を調製し、同様に各ビタミンの残存量、乳液の乳化状態、各液の色調変化や沈殿物の有無などを調べた。
結果は表3に示すとおりである。
【0030】
【表3】

【0031】
表3にみられるとおり、窒素源として大豆たん白加水分解物を用いた場合も、本発明に従って第1液と第2液に分別して、2液としてレトルト殺菌して保存してもビタミン類の劣化が少なく、油脂の乳化性も良好であり、かつ各液の色調変化や沈殿の生成も認められない。これに対して、比較例2の栄養剤では、ビタミン類の劣化や乳化破壊、色調変化などは認められないものの、顕著な沈殿物の生成が認められた。
【実施例3】
【0032】
実施例1の配合において、使用する乳化剤に、さらに酵素分解レシチンとショ糖脂肪酸エステルを追加するほかは、実施例1に記載したと同様の手順で第1液と第2液を調製し、同様にレトルト滅菌を行い、滅菌後、および更に40℃の温度に3ヶ月保存した後の第1液の乳化状態、各液の色調変化や沈殿物有無などを調べた。その結果、ビタミン類の劣化が少なく、油脂の乳化性も良好であり、かつ各液の色調変化や沈殿の生成も認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸類および/またはペプチドからなる窒素源、脂溶性ビタミンを含む油脂およびビタミンCとB1を含む水溶性ビタミン類よりなる乳化液(第1液)と、糖質、ミネラル類およびビタミンCとB1を除く水溶性ビタミン類よりなる水溶液(第2液)との2液から構成され、これらが滅菌されている、沈殿と色調変化の少ないキット形態の液状経腸栄養剤。
【請求項2】
アミノ酸類および/またはペプチドからなる窒素源、脂溶性ビタミンを含む油脂およびビタミンCとB1を含む水溶性ビタミン類よりなる乳化液(第1液)と、糖質、カルシウムを除くミネラル類およびビタミンCとB1を除く水溶性ビタミン類よりなる水溶液(第2液)、およびカルシウム溶液(第3液)との3液から構成され、これらが滅菌されている、沈殿と色調変化の少ないキット形態の液状経腸栄養剤。
【請求項3】
エリソルビン酸もしくはその塩類を第1液、もしくは第1液と第2液に配合することを特徴とする請求項1または2に記載の、沈殿と色調変化の少ないキット形態の液状経腸栄養剤。
【請求項4】
第1液の乳化液に使用する乳化剤として、有機酸モノグリセリド、酵素分解レシチン、ポリグリンセリン脂肪酸エステル、およびショ糖脂肪酸エステルの中から、少なくとも2種類を選択することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の沈殿と色調変化の少ないキット形態の液状経腸栄養剤。
【請求項5】
第1液のpHが5.5〜7.5に、第2液のpHが5〜6.5に調整されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の、沈殿と色調変化の少ないキット形態の液状経腸栄養剤。
【請求項6】
窒素源として卵白加水分解物を配合することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の、沈殿と色調変化の少ないキット形態の液状経腸栄養剤。

【公開番号】特開2008−44914(P2008−44914A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224157(P2006−224157)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(502138359)イーエヌ大塚製薬株式会社 (56)
【Fターム(参考)】