説明

液肥の製造装置及び製造方法

【課題】 槽全体のエネルギー利用効率が高くて、運転に際し外部から槽内に供給すべきエネルギー量が少なくて済み、かつ設備管理や運転管理が簡単で、経済的にし尿等を良質な液肥に変えることができる液肥の製造装置等を提供する。
【解決手段】 高濃度有機物含有排水31を酸化発酵槽60,70,80における生物処理により液肥化する液肥製造装置1であって、酸化発酵槽60,70,80は、排水を環境から断熱する断熱壁65,75,85と、排水が貯留された内部水面下に駆動用原動機63,73,83が設置されて排水に酸素を供給する水中エアレータ64,74,84と、排水が貯留された内部水面下に駆動用原動機61,71,81が設置されて排水を攪拌する水中攪拌機62,72,82とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般家庭や畜産農家から排出されるし尿、浄化槽汚泥、生ゴミ、蒸留酒廃液、畜尿等を利用して、エネルギー効率よく経済的かつ衛生的に、良質な有機液体肥料として再利用するための液肥製造装置または液肥製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭から排出される有機物排水は都市部では主として下水処理、農村部では農村集落排水処理として処理されている。また、畜産農家の家畜糞尿のうち、固形物は堆肥に、畜尿は排水処理されている。排水処理は、水中の微生物により有機物のおよそ半分は水、炭酸ガス及び窒素ガスに、残りの半分は微生物の個体増殖に使われる。個体の増殖分がいわゆる余剰汚泥となって焼却や埋立て処分が必要となり、その経費が排水処理費の50〜70%を占めて大きな費用を強いられている。また、排水中には窒素や燐成分が多く含まれることから高度な処理が必要で、処理費用はさらに大きくなる。
【0003】
近年、リサイクルの観点から、し尿や浄化槽余剰汚泥を液肥に有効利用する試みや技術が提案され、また、自治体の液肥製造設備としてすでに多くの実績がある。例えば、し尿や浄化槽余剰汚泥を液肥に有効利用する技術が各種開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
ところで、生物反応で効率よく液肥化するためには、中〜高温下の曝気による好気発酵が必要なため、槽内に発酵に必要なエアを吹き込みながら槽内の温度を40〜80℃程度、好ましくは45〜65℃程度に維持する必要がある。槽内では生物反応による発熱が生じるものの、それだけでは温度を維持するには不十分なため、ブロアを用いて槽内に大量の加熱エアーを吹き込んで加熱と攪拌とをおこなったり、被処理液のCOD濃度を高くするとともに加熱したり、熱交換機を用いたりして、槽内を加熱する付加装置が設けられているのが通常である(特許文献3〜5参照)。
【0005】
しかし、ブロアで加熱エアーを吹き込む場合は、比較的大量のエアが必要で槽内からエアが排出される際の熱損失が大きいうえに、泡が大量に発生して消泡剤が必要となる。また、CODの濃度を高める場合は、被処理液の粘性が高くなって処理が難しくなるうえ、微生物の必要酸素濃度が高く、かつ酸素溶解効率が低くなって多量の空気が必要となり、排出エアによるエネルギー損失が大きくなる。また、生物反応の発熱も不十分なため、さらに加熱手段も必要となる。熱交換機を用いる場合は、装置費用が高くつく上にエネルギー効率が低く、設備管理の観点からも廃水処理に用いるには問題がある。つまり、いずれもエネルギー多消費型で、エネルギーの利用効率が低く、運転管理や設備管理に費用と手間がかかるものであった。
【特許文献1】特公昭62−42668号公報
【特許文献2】特許第3425181号公報
【特許文献3】特開昭60−231482号公報
【特許文献4】特開2001−276871号公報
【特許文献5】特開平9−10791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、槽全体のエネルギー利用効率が高くて、運転に際し外部から槽内に供給すべきエネルギー量が少なくて済み、かつ設備管理や運転管理が簡単で、経済的にし尿等の高濃度有機物含有排水を良質な液肥に変えることができる液肥の製造装置等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の第1は、高濃度有機物含有排水を酸化発酵槽における生物処理により液肥化する液肥製造装置であって、前記酸化発酵槽は、前記高濃度物含有排水を環境から断熱する断熱壁と、前記高濃度物含有排水が貯留された前記酸化発酵槽の内部水面下に駆動用原動機が設置されて前記高濃度有機物含有排水に酸素を供給する水中エアレータと、前記高濃度物含有排水が貯留された前記酸化発酵槽の内部水面下に駆動用原動機が設置されて前記高濃度有機物含有排水を攪拌する水中攪拌機とを備えたことを特徴とする液肥製造装置である。
【0008】
ここで、前記水中エアレータの駆動用原動機から発する駆動熱と、前記水中攪拌機の駆動用原動機から発する駆動熱と、前記生物処理に伴う酸化発酵熱とが、前記生物処理の熱源であることは好ましい。また、前記水中エアレータの駆動用原動機から発する駆動熱と、前記水中攪拌機の駆動用原動機から発する駆動熱と、前記生物処理に伴う酸化発酵熱とだけが、前記生物処理の熱源であることは好ましい。また、前記断熱壁は、厚みが15cm以上1m以下のコンクリート壁であることは好ましい。また、前記水中エアレータの吐出空気量が、前記高濃度有機物含有排水1m3あたりに、0.3〜2Nm3/hrであることは好ましい。
【0009】
また、さらに、前記高濃度有機物含有排水を貯留する待ち受け槽と、前記水中エアレータの排気を前記待ち受け槽に吹き込む排気熱還流ラインとを備えたことは好ましい。また、前記高濃度有機物含有排水の前記生物処理前のBODが、7000ppm以上25000ppm以下であることは好ましい。また、前記高濃度有機物排水は、し尿、浄化槽汚泥、畜尿、排水余剰汚泥、蒸留酒廃液、生ゴミスラリーの少なくともいずれかを原料とすることは好ましい。また、前記酸化発酵槽は2以上の槽からなり、前記高濃度有機物含有排水が、前記2以上の槽に順次供給されることは好ましい。また、前記酸化発酵槽は2以上の槽からなり、前記高濃度有機物含有排水が、前記2以上の槽のいずれか1槽に供給され、その後、他の槽に順次移送されることは好ましい。
【0010】
発明の第2は、高濃度有機物含有排水を生物処理により液肥化する液肥製造方法であって、前記高濃度物含有排水を環境から断熱された酸化発酵槽に供給し、前記高濃度物含有排水が貯留された内部水面下に駆動用原動機が設置された水中エアレータから前記高濃度有機物含有排水に酸素を供給し、かつ前記高濃度物含有排水が貯留された内部水面下に駆動用原動機が設置された水中攪拌機で前記高濃度有機物含有排水を攪拌しつつ、前記生物処理に伴う酸化発酵熱と前記水中エアレータの駆動熱と前記攪拌機の駆動熱とを熱源として前記酸化発酵槽を中高温に維持しながら、前記液肥化が行われることを特徴とする液肥製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液肥製造装置は、酸化発酵槽中の高濃度有機物含有排水が環境からほぼ断熱されているので、無駄な放熱が生じにくく、槽内の酸化反応等で発生した熱が有効利用されて槽内温度を生物処理に適切な温度に維持しやすい。その際、生物処理に必要な酸素(空気)の供給や攪拌のための原動機を水中に設置しているので、その駆動熱が温度維持のために有効利用される。そのため、運転に際し外部から槽内に供給すべきエネルギー量が少なくて済み、追加の加熱設備が不要なため設備管理や運転管理が簡単で、経済的にし尿等を良質な液肥に変えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態例を図面も引用しながら説明する。まず、液肥の原料は、大きく分けて3種類挙げられる。その1は、人のし尿、家庭等の浄化槽から取り出された残存汚泥、農村や漁村集落等の集合浄化槽の残存汚泥等の人のし尿(以下、し尿類という)であり、その2は、畜産に伴い発生する家畜の尿類(以下、畜尿類という)であり、その3は、学校、病院、ホテル、レストラン、コンビニエンスストア等から排出される食品系の生ゴミ(以下、生ゴミ類という)である。これらをリサイクルして液肥を製造する。し尿類や畜尿類はプラスチック類や金属類等の発酵に利用できない夾雑物が混ざっていることがあるので、それらを除去したあと、液肥の原料とする。また、生ゴミ類は、同様にプラスチック類等の固形物を除去し、微生物が利用しやすいよう細かく粉砕してスラリー化し、液肥の原料とする。
【0013】
図1は、これらの好ましい前処理も含めた液肥製造装置の概略構成例を示した模式図である。生ゴミ類10は、破砕分別機11で夾雑物12を除去されて生ゴミ13だけとなり、続いて粉砕機14で粉砕されて生ゴミスラリー15となって、待ち受け槽30にいったん貯留される。また、し尿類・畜尿類20は、固形物分離装置21で固形物22を除去されて、やはり待ち受け槽30にいったん貯留される。
【0014】
待ち受け槽30に貯留された高濃度有機物含有排水のBOD(Biochemical Oxygen Demand)は、7000ppm以上25000ppm以下であることが好ましい。7000ppm以上で酸化発酵槽の温度を維持するために十分な酸化発酵熱を得やすく、25000ppm以下であれば、酸化発酵槽における発泡量が比較的少ない範囲に留まりやすく、液肥製造運転に支障が生じにくい。また、この範囲内であれば、酸化発酵における発熱と放熱のバランスが良好で、生物処理に好適な中高温を維持しやすい。より好ましくは7000ppm以上20000ppm以下である。
【0015】
原料の主体となるし尿類のBODは12000ppm〜16000ppm程度あるが、これに浄化槽汚泥が加わると高濃度有機物含有排水のBODが不足する場合がある。しかし、同時に畜尿類が利用できる場合は、一般に畜尿類のBODが高いため、畜尿類を混合することでBODを適切な範囲に調整できる。畜尿類が存在せずに浄化槽汚泥が多い場合はBODが不足しがちになるが、生ゴミ類または蒸留酒廃液が存在する場合には、生ゴミ類を粉砕して適宜水を加えてスラリー化し、この生ゴミスラリーを加えるか、または蒸留酒廃液を加えることで高濃度有機物含有排水のBODを調整することができる。
【0016】
なお、待ち受け槽での貯留中には、高濃度有機物含有排水中の有機物を低分子化して、粘性を低下すると共に微生物処理を受けやすくするために、リパーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、グルカナターゼ等の分解酵素を含有する酵素製剤を投入することは好ましい。特に、セルラーゼや細胞壁を溶解するグルカナターゼを投入することは好ましい。酵素製剤は、高濃度有機物含有排水に対して0.01〜0.1重量%程度の範囲内で添加すればよい。
【0017】
待ち受け槽30に一次貯留された高濃度有機物含有排水31は、順次、酸化発酵槽に移送され、酸化発酵槽における生物処理により液肥化される。なお、待ち受け槽30から酸化発酵槽に移送する際には、高濃度有機物含有排水に残存している、主にトイレットペーパー由来のパルプ類等の固形物を分離するようにしてもよい(図示していない)。分離された固形物は、ファイバープレスで脱水して堆肥化すればよい。
【0018】
酸化発酵槽における酸化発酵には、通常、中高温条件下でもおよそ1カ月間を必要とするが、し尿類等は毎日発生する。このタイムラグを吸収するために、酸化発酵槽を2槽以上用意することが好ましい。酸化発酵槽を複数用意することで、酸化発酵槽のメンテナンスも容易となるし、待ち受け槽の大きさも小さくできる。
【0019】
複数の酸化発酵槽を用いる場合は、順次タイムシフトして高濃度有機物含有排水を各槽に供給し、それぞれで1カ月間の酸化発酵を行うバッチ形式で運転しても良いし、待ち受け槽からいずれか1槽だけに供給し、その後、他の槽に順次移送して、各槽では1カ月の1/槽数だけの日数ずつの酸化発酵を行う半連続形式で運転しても良い。
【0020】
図1の例では、3槽の酸化発酵槽60、70、80が用意されており、それぞれで1ヶ月間の酸化発酵を行うバッチ形式の例が示されている。待ち受け槽30から取り出された高濃度有機物含有排水31は、切替弁40でどの酸化発酵槽に供給されるかが切り替えられ、図1では、切替弁40から送液ライン41を経由して、第1の酸化発酵槽60に供給される場合が示されている。第2の酸化発酵槽70に供給する場合は、切替弁40から送液ライン42を経由し、第3の酸化発酵槽80に供給する場合は、切替弁40から送液ライン43を経由して、高濃度有機物含有排水を移送する。また、図2は、やはり3槽の酸化発酵槽120、130、140を用いた半連続式の例であり、3槽の合計の生物処理時間がおよそ1カ月となるように、具体的には、各槽で高濃度有機物含有排水を約10日間ずつ貯留してから、送液ライン125、135を用いて次の槽に移送する半連続形式とすることで、3槽合計で約1カ月の酸化発酵期間となるようにしている。
【0021】
酸化発酵槽は、高濃度物含有排水を周辺環境から断熱するための断熱壁で覆っている。断熱壁で覆うことにより、生物処理に伴い酸化発酵槽内部で発生する酸化発酵熱やその他の熱を酸化発酵槽内にできるだけ閉じこめ、槽内温度を生物処理に好適な中高温に維持することが容易になる。断熱壁は、比較的に熱伝導性が低い材料で作製し、酸化発酵槽外部への放熱を可能な限り低減する。断熱壁は、酸化発酵槽とするFRPのごときプラスチック製容器や金属製容器の周辺を発砲プラスチックやグラスウールのごとき断熱材で覆うようにしても良いが、槽の耐震強度や建設費用の観点も合わせると、比較的厚いコンクリート壁とするのが好ましい。
【0022】
コンクリート壁の厚みは15cm以上1m以下とするのが好ましい。15cm以上で必要な強度や断熱の効果が得られはじめ、1m以下で建設コストが建設可能な範囲に留まる。より好ましくは15cm以上60cm以下である。さらに、酸化発酵槽をコンクリート製とした場合には、槽の重量を分散すると共に周辺環境への放熱を低減するために、酸化発酵槽を地中に建設するのが好ましい。具体的には、酸化反応槽は、全面スラブのコンクリート製とし、かつ地下埋設方式とするのが好ましい。
【0023】
図1の例では、3槽の酸化発酵槽60、70、80は、いずれも厚いコンクリート壁65、75、85で覆われており、高濃度物含有排水の供給、液肥の排出、空気の吸引と排出のライン以外は密閉されて、周辺環境から断熱されているのがわかる。なお、図1では、液肥の取り出しラインは、酸化発酵槽80に関する取り出しライン90だけが記載され、他の酸化発酵槽からの取り出しラインは省略されている。また、いずれの酸化発酵槽とも、地面50と各槽の上面とが一致するように、各槽が地中に埋設されていることがわかる。図2の例に関しても同様である。
【0024】
酸化発酵槽1槽の大きさは、処理すべき高濃度有機物含有排水の量と槽数とから適宜定めればよいが、槽の水深は3m以上6m以下となるようにするのが好ましい。この範囲で、後述の水中エアレータから供給される空気の泡が水中に留まれる時間が適切な範囲となり、空気中に含まれる酸素の水中への溶解効率が高くなる。より好ましくは3.5m以上5m以下である。また、酸化発酵槽は、槽内の高濃度有機物含有排水の水面から天井までの距離を0.5m以上1.5m以下とするのが好ましい。この高さがあれば、酸化発酵に伴って発生する泡を消滅せしめるための破泡プロペラを天井から下ろした場合に、効率よく泡を消滅させることができる。より好ましくは0.7m以上1m以下である。なお、破泡プロペラは、直径17cmで2枚羽の場合、1000〜3600回転/分程度で回転させるのが好ましい。図1、図2では、破泡プロペラは省略されている。
【0025】
次に、酸化発酵槽内部には、高濃度有機物含有排水に酸素(空気)を供給する水中エアレータを備える。ちなみに水中エアレータとは、水中でプロペラを回転させて低圧領域を作り出すことにより水中に空気を吸引し、プロペラの回転に合わせて吸引した空気を排水に混合して水中に放出する装置を言う。また、水中エアレータを駆動する原動機も、高濃度物含有排水が貯留されて生じる水面下に設置する。これにより、水中エアレータを駆動する際に原動機で生じる発熱を高濃度有機物含有排水の加熱に有効利用し、生物処理に必要な中高温にするための熱源の一つとする。これにより、加熱のために外部から供給すべきエネルギー量を低減することが可能になる。
【0026】
図1の例では、酸化発酵槽60、70、80の内部の中央底部に、それぞれ水中エアレータ64、74、84が設けられており、各水中エアレータの駆動用原動機63、73、83も水中に設けられていることがわかる。また、図2の例でも同様である。
【0027】
また、水中エアレータの吐出空気量は、高濃度有機物含有排水1m3あたりに、0.3Nm3/hr以上で2Nm3/hr以下という比較的小さい値に設定するのが好ましい。0.3Nm3/hr以上とすることで、酸化発酵に必要な酸素が供給され、2Nm3/hr以下とすることで、槽内に取り込まれた空気が槽外に排気される際の熱損失が小さい範囲に留まり、かつ泡の発生も小さい範囲に留まる。より好ましくは、0.8〜1.5Nm3/hrである
【0028】
ちなみに、空気の供給にブロアと散気管とを利用する場合と比較すると、ブロアは水中への浸漬が不可能で、原動機の排熱を排水の加熱に利用できない。また、上記と比較して、ブロアを用いる場合は、空気に攪拌機能も持たせるために、およそ10倍程度の空気を槽内に送り込むのが普通であるから、空気の排気の際に大量の潜熱が槽外に持ち去られ、他の加熱装置を用いない限り中高温が維持できない。
【0029】
水中エアレータは、駆動電圧を例えば200Vとした場合に、その駆動電流値が、高濃度有機物含有排水100m3あたりに25〜35Aとなるものを使用するのが好ましい。この駆動電流値は、上記の吐出空気量と対比すると低効率となる、すなわち使用電気量の割に吐出空気量が小さい値となる電流値である。これは、水中エアレータの駆動用原動機で生じる発熱を比較的大きくして、つまり水中エアレータの効率を意図的に下げて、原動機の発熱を高濃度有機物含有排水の加熱に用いるためである。これにより比較的簡単な設備で、特別な加熱装置を用いることなく、容易に生物処理に必要な中高温を維持しやすくなる。水中エアレータの効率を下げるには、プロペラ形状を、空気の吸引や排出が低効率となる形状に変更するのが簡単で好ましい。このようにすることで、酸化発酵温度としての40〜80℃を、より好ましくは45〜65℃を維持しやすくなる。なお、酸化発酵槽を複数とする場合は、水中エアレータは各槽に備える。
【0030】
次に、酸化発酵槽内部には、高濃度有機物含有排水を攪拌するための水中攪拌機を備える。上記のように、排気による熱損失を低減するために水中エアレータの吐出空気量を低く抑えていることから、空気による槽内の流れだけでは攪拌が不十分であり、高濃度有機物含有排水に残存しているシルトや微細粒子有機物の沈降を妨げて臭気や濁りの発生を防止する必要性から、別途、水中攪拌機が必要となる。その際、攪拌機を駆動する原動機も水中に設置し、この原動機で発生する駆動熱も高濃度物含有排水の加熱に利用する。これにより、水中エアレータで発生する駆動熱と生物処理で生じる酸化発酵熱とを合わせて利用することで、その他の加熱手段を用いなくとも、生物処理に好適な中高温を維持しやすくなる。
【0031】
図1の例では、各酸化発酵槽の左側面の水面下に、プロペラ62、72、82を備えた攪拌機が設置されていることがわかる。その際、攪拌機の駆動用原動機61、71、81も水面下に設置されており、原動機で生じる駆動熱が直ちに高濃度有機物含有排水に伝導するようになっていることがわかる。図2の例に関しても同様である。
【0032】
つまり、水中エアレータの駆動用原動機から発する駆動熱と、水中攪拌機の駆動用原動機から発する駆動熱と、生物処理に伴う酸化発酵熱とを、生物処理の熱源として用いることで、エネルギー効率のよい液肥製造装置とすることができた。さらに他の熱源となる加熱装置を用いてもよいが、好ましくは、水中エアレータの駆動用原動機から発する駆動熱と、水中攪拌機の駆動用原動機から発する駆動熱と、生物処理に伴う酸化発酵熱とだけが、生物処理の熱源となるようにするのがよい。
【0033】
次に、上記したように、水中エアレータにより空気が槽内に吸引されるから、吸引された空気と同じ体積の排気が槽内から排出される。この排気は、元の空気より酸素の割合が減っているが、槽内の温度により加熱されており、排気が有する熱量は熱損失となる。そのため、槽から排出される排気を、ターボファン等の加圧送風機を用いて上記の待ち受け槽に吹き込む排気熱還流ラインを設けて、待ち受け槽に貯留された高濃度有機物含有排水を予熱することが、装置全体の熱損失を低減するために好ましい。
【0034】
図1の例では、それぞれの酸化発酵槽から排出された排気は、図示されていないターボファンを備えた排気環流ライン100、101を通って待ち受け槽30の高濃度有機物含有排水に吹き込まれており、酸化発酵前の高濃度有機物含有排水を予熱するようになっている。なお、図1では排気環流ラインは2本設けられているが、省エネルギーの観点からは1本にまとめた方が好ましい。また、図2でも同様に排気還流ラインが設けられているが、図面では省略されている。
【0035】
以上説明したように、高濃度物含有排水を、周辺環境から断熱された酸化発酵槽に供給し、高濃度物含有排水が貯留された内部水面下に駆動用原動機が設置された水中エアレータから高濃度有機物含有排水に酸素を供給し、かつ高濃度物含有排水が貯留された内部水面下に駆動用原動機が設置された水中攪拌機で高濃度有機物含有排水を攪拌しつつ、生物処理に伴う酸化発酵熱と水中エアレータの駆動熱と前記攪拌機の駆動熱とを熱源として酸化発酵槽を中高温に維持しながら、液肥化が行うことにより、槽全体のエネルギー利用効率が高くて、運転に際し外部から槽内に供給すべきエネルギー量が少なくて済み、かつ設備管理や運転管理が簡単で、経済的にし尿等を良質な液肥に変えることができる。
【0036】
図3は、図1に示したのと同様の液肥製造装置を用いて、液肥を製造した際の酸化発酵槽内の典型的な温度推移の例を示した図である。横軸は、高濃度有機物含有排水を酸化発酵槽に投入した日からの酸化発酵の経過日数であり、縦軸は、その際の酸化発酵槽内の温度を示している。酸化発酵槽への投入時には13℃程度と低温であった高濃度有機物含有排水は、酸化発酵槽に投入されて生物処理が開始されると同時に急激な温度上昇を生じ、投入から10日目には、ピーク温度の約60℃に達している。それ以降は徐々に温度が下がり初め、酸化発酵がほぼ完了したと考えられる投入から30日後には、約55℃まで低下している。
【0037】
投入から10日目までの急激な温度上昇は、水中エアレータと水中攪拌機の駆動熱を合計した発生熱量に加え、活発な生物処理に伴う酸化発酵熱が大量に発生したことによりもたらされたと考えられる。一方、投入から10日目以降の緩やかな温度低下は、微生物の食料となるBODが減少して酸化発酵熱の発生が低下し、そのため、酸化発酵槽からの放熱がやや優って少しずつ温度が低下したと考えられる。このように、他の加熱装置等を用いなくとも、生物処理に好適な中高温を維持することができ、効率的に良質な液肥を得ることが可能になる。
【0038】
このようにして得られる液肥の典型的な組成は、窒素が1500〜4500mg/L、リンが200〜1800mg/L、カリウムが500〜2000mg/Lとなり、低有機物で大腸菌群や寄生虫等を含まず、アンモニア臭の他は臭気がほぼ感じられない良質な液肥である。以下、実施例をもって本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0039】
図1に示したものと同様の液肥製造設備を用い、また、原料として家庭からのし尿/浄化槽汚泥=70/30の割合のし尿類を、12.5m3/日となる量を用意した(原料収集は週5日行った)。このし尿類のBODは11000ppmであった。し尿類はバキューム車で搬入し、バキューム車のホースを液肥製造設備の投入口に直結して投入するようにした。投入口は、固形物分離装置に配管でつながっている。固形物分離装置では、丸孔型で、平均の孔直径が6mmの金属製の分離スクリーンプレートを用いて、し尿類に含まれる夾雑物を除去した。除去された夾雑物は紙さプレスで脱水し、焼却施設に廻した。
【0040】
夾雑物が除去されたし尿類は、待ち受け槽にいったん貯留した。ここで、リパーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ等を含有する酵素製剤(旭化成クリーン化学(株)製、製品名:浄化クリーン)を、し尿類に対して0.03重量%となるように適宜添加した。このまま常温で24時間貯留して酵素製剤を作用させるようにした。
【0041】
続いて待ち受け槽からポンプでし尿類をくみ上げ、目の幅が1.5mmのドラムスクリーンを用いて、トイレットペーパーが主体の紙さや繊維類等の固形物を除去した。除去された固形物は、ファイバープレスで脱水して堆肥化した。
【0042】
固形物を除去されたし尿類は、酸化発酵槽に1槽ごとに所定深さの満杯となるように、日をおって順番に投入した。酸化発酵槽は、100m3の槽が4槽(合計400m3)からなり、各槽はコンクリートで作られた全面スラブ方式である(コンクリート厚みは30cm)。各槽は、放熱防止と冬季外気温の影響を少なくするため、上部スラブ面は地表にあるが、槽の底部は地下5mに達する深さまで地中に埋設されている。各槽は、それぞれ同一の大きさと形状であり、水深は4m、水面上に1mの空間が設けてある。水面上の空間には、酸化発酵に伴う泡が発生するので、その泡切りのためのプロペラ送風機が設置してある。プロペラの直径は17cmで、2枚羽である。プロペラ送風機の回転数は3000回転に設定した。
【0043】
また、各酸化発酵槽の底部には、水中エアレータが設置されている。水中エアレータのプロペラには、駆動装置であるモータの運転時の電流値が30アンペアの場合に、高濃度有機物含有排水1m3あたりに1.2Nm3/hrの空気量となるように、低効率化させる変型を加えている。4槽のそれぞれに同一仕様の水中エアレータを設置した。さらに、各槽の上流側側面に、1.5kwのモータを使った水中攪拌機が設置されている。
【0044】
この状態で3ヶ月間にわたって液肥製造運転を行った。運転時に酸化発酵槽で発生した泡は制御可能な程度に留まり、安定して運転することが可能であった。また、酸化発酵槽の温度は、図3に示した結果と同様の良好な経時変化を示し、得られた液肥は、全窒素が3200ppm、リンが1600ppm、カリウムが1400ppm、BODがおよそ550ppmで、濁りが少なくて大腸菌群や寄生虫等が残存せず、アンモニア臭はするものの他の臭気はほとんど感じられない良質なものであった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】液肥製造装置の前処理も含めた概略構成例を示した模式図である。
【図2】液肥製造装置の他の概略構成例を示した模式図である。
【図3】酸化発酵槽における温度の典型的な経時変化を示した図である。
【符号の説明】
【0046】
1、2 液肥製造装置
10 生ゴミ類
11 破砕分別機
12 夾雑物
13 生ゴミ
14 粉砕機
15 生ゴミスラリー
20 し尿類・畜尿類
21 固形物分離装置
22 固形物
30、110 待ち受け槽
31、111 高濃度有機物含有排水
40 切替弁
41、42、43 送液ライン
50 地表
60、70、80、120、130、140 酸化発酵槽
61、71、81、121、131、141 水中攪拌機の原動機
62、72、82、122、132、142 水中攪拌機のプロペラ
63、73、83 水中エアレータの原動機
64、74、84、123、133、143 水中エアレータ
65、75、85、124、134、144 コンクリート壁
90 取り出しライン
91、150 液肥
100、101 排気還流ライン
125、135、145 送液ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度有機物含有排水を酸化発酵槽における生物処理により液肥化する液肥製造装置であって、前記酸化発酵槽は、前記高濃度物含有排水を環境から断熱する断熱壁と、前記高濃度物含有排水が貯留された前記酸化発酵槽の内部水面下に駆動用原動機が設置されて前記高濃度有機物含有排水に酸素を供給する水中エアレータと、前記高濃度物含有排水が貯留された前記酸化発酵槽の内部水面下に駆動用原動機が設置されて前記高濃度有機物含有排水を攪拌する水中攪拌機とを備えたことを特徴とする液肥製造装置。
【請求項2】
前記水中エアレータの駆動用原動機から発する駆動熱と、前記水中攪拌機の駆動用原動機から発する駆動熱と、前記生物処理に伴う酸化発酵熱とが、前記生物処理の熱源であることを特徴とする請求項1に記載の液肥製造装置。
【請求項3】
前記水中エアレータの駆動用原動機から発する駆動熱と、前記水中攪拌機の駆動用原動機から発する駆動熱と、前記生物処理に伴う酸化発酵熱とだけが、前記生物処理の熱源であることを特徴とする請求項1に記載の液肥製造装置。
【請求項4】
前記断熱壁は、厚みが15cm以上1m以下のコンクリート壁であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液肥製造装置。
【請求項5】
前記水中エアレータの吐出空気量が、前記高濃度有機物含有排水1m3あたりに、0.3〜2Nm3/hrであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液肥製造装置。
【請求項6】
さらに、前記高濃度有機物含有排水を貯留する待ち受け槽と、前記水中エアレータの排気を前記待ち受け槽に吹き込む排気熱還流ラインとを備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液肥製造装置。
【請求項7】
前記高濃度有機物含有排水の前記生物処理前のBODが、7000ppm以上25000ppm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の液肥製造装置。
【請求項8】
前記高濃度有機物排水は、し尿、浄化槽汚泥、畜尿、排水余剰汚泥、蒸留酒廃液、生ゴミスラリーの少なくともいずれかを原料とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の液肥製造装置。
【請求項9】
前記酸化発酵槽は2以上の槽からなり、前記高濃度有機物含有排水が、前記2以上の槽に順次供給されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の液肥製造装置。
【請求項10】
前記酸化発酵槽は2以上の槽からなり、前記高濃度有機物含有排水が、前記2以上の槽のいずれか1槽に供給され、その後、他の槽に順次移送されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の液肥製造装置。
【請求項11】
高濃度有機物含有排水を生物処理により液肥化する液肥製造方法であって、前記高濃度物含有排水を環境から断熱された酸化発酵槽に供給し、前記高濃度物含有排水が貯留された内部水面下に駆動用原動機が設置された水中エアレータから前記高濃度有機物含有排水に酸素を供給し、かつ前記高濃度物含有排水が貯留された内部水面下に駆動用原動機が設置された水中攪拌機で前記高濃度有機物含有排水を攪拌しつつ、前記生物処理に伴う酸化発酵熱と前記水中エアレータの駆動熱と前記攪拌機の駆動熱とを熱源として前記酸化発酵槽を中高温に維持しながら、前記液肥化が行われることを特徴とする液肥製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−19141(P2008−19141A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193784(P2006−193784)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(592008859)旭化成クリーン化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】