説明

淡水化システム

【課題】 塩分を含む原水の量に対する生成する淡水の量、すなわち、回収率の向上を図ることができる淡水化システムを提供する。
【解決手段】 淡水化システムは、前処理装置と、加圧手段と、逆浸透膜モジュールと、電気透析装置100と、混合ラインとを備える。加圧手段は、前処理装置で不純物が除去された原水を加圧して送出する。逆浸透膜モジュールは、加圧手段から与えられる加圧された原水を、淡水と塩分濃度が高い濃縮水とに分離する。電気透析装置100は、逆浸透膜モジュールで分離された濃縮水が与えられ、濃縮水を、高圧のまま、塩分濃度が低い希釈水と塩分濃度が高い濃縮水とに分離する。混合ラインは、電気透析装置100で分離された希釈水を、逆浸透膜モジュールに与えられる前の前処理装置で不純物が除去された原水に混合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、淡水化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海水やかん水等の塩分(塩類)を含む水を淡水化する方法として、蒸発法、電気透析法や逆浸透法等の方法がある。また、これら複数の方法を組合せて利用することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−95821号公報
【特許文献2】特許第2887105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、逆浸透法は、電気透析法よりも少ないエネルギで淡水化ができるが、回収率(海水原水量に対する生成する淡水量の割合)が約45%と低く、その分、逆浸透処理前の前処理工程等のプラントが大型化し、イニシャルコストが高くなり、また、海水を逆浸透圧(約6.5MPa)に昇圧する動力費がかさみランニングコストが高くなってしまう。
【0005】
この発明は以上の点に鑑みなされたもので、その目的は、塩分を含む原水の量に対する生成する淡水の量、すなわち、回収率の向上を図ることができる淡水化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係る淡水化システムは、
塩分を含む原水に凝集剤を添加して凝集させて原水中の不純物を濾過する前処理装置と、
前記前処理装置で不純物が除去された原水を加圧して送出する加圧手段と、
前記加圧手段から与えられる加圧された原水を、淡水と塩分濃度が高い濃縮水とに分離する逆浸透膜モジュールと、
前記逆浸透膜モジュールで分離された前記濃縮水が与えられ、前記濃縮水を、高圧のまま、塩分濃度が低い希釈水と塩分濃度が高い濃縮水とに分離する電気透析装置と、
前記電気透析装置で分離された希釈水を、前記逆浸透膜モジュールに与えられる前の前記前処理装置で不純物が除去された原水に混合させる混合ラインと、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、一実施形態に係る淡水化システムを説明する図である。
【図2】図2は、図1に示した前処理装置を説明する図である。
【図3】図3は、図1に示した淡水化装置を説明する図である。
【図4】図4は、図3に示した電気透析装置を説明する図である。
【図5】図5は、図3に示した電気透析装置の変形例を説明する断面図である。
【図6】図6は、図5の線A−Aに沿った上記電気透析装置の変形例を説明する他の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら一実施形態に係る淡水化システムについて詳細に説明する。この実施形態において、淡水化システムは、海水やかん水等の塩分を含む水を原水として淡水化するシステムであり、以下では海水を原水とした例で説明するが、塩分を含む水であれば海水でなくても同様である。
【0009】
図1に示すように、淡水化システム1は、送水ポンプ10によって原水(海水)が送水される前処理装置20と、前処理装置20で処理された原水が導入され、脱塩した淡水と塩分の濃度が高い濃縮水とに分離する淡水化装置30とを備えている。
【0010】
[前処理装置]
前処理装置20は、淡水化の処理対象である原水を前処理する装置である。
図2に示すように、前処理装置20は、送水ポンプ10によって送水されて原水ラインL1を流れる原水に、消毒剤供給ラインL21を介して次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系消毒剤を供給する消毒剤供給装置21と、pH調剤供給ラインL22を介して硫酸等のpH調整剤を供給するpH調整剤供給装置22と、凝集剤供給ラインL23を介して凝集剤を供給する凝集剤供給装置23と、凝集剤が供給された原水を濾過する濾過装置24と、濾過水ラインL2を介して濾過装置24から排出される濾過水を淡水化装置30に送る前に、脱塩素剤供給ラインL25を介して、重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の脱塩素剤を供給して濾過水中の残留塩素を分解する脱塩素剤供給装置25とを有している。
【0011】
前処理装置20では、消毒剤供給装置21にて、消毒剤供給ラインL21を介して原水に次亜塩素酸ナトリウム等の消毒剤を混合して有効塩素の酸化作用によって原水中の貝類や微生物等の繁殖を防止し、機器の閉塞や故障、ラインの閉塞、バイオファウリングによる淡水化システム1の処理効率の低下を防止することができる。
【0012】
pH調整剤供給装置22は、原水中のスケール成分が、濾過膜や、淡水化装置30の逆浸透膜で濃縮されて、析出する事による膜閉塞、劣化を防止するために、pH調剤供給ラインL22を介して、硫酸等のpH調整剤を供給して、原水のpH(海水pH8乃至9)をpH6乃至7に調整する。
【0013】
凝集剤供給装置23は、凝集剤供給ラインL23を介して原水ラインL1を流れる原水に凝集剤を供給する。この凝集剤は、原水中の濁質等の不純物をフロックにするものであり、例えば、塩化第2鉄等の第2鉄塩である。第2鉄塩、特に塩化第二鉄FeC13・6H2O は、凝集pHを低くできることから、逆浸透膜による海水淡水化施設の前処理装置に凝集剤として使われている。
【0014】
濾過装置24は、原水ラインL1を介して流入する原水を濾過する。例えば、濾過装置24は、MF膜モジュールを多段に配列した膜分離装置である。MF膜としては、例えば中空糸膜を挙げることができる。この濾過装置24は、流入される原水中の固形物質を濾過して分離する。濾過装置24で固形物質が除去された原水は、濾過水として脱塩素剤供給装置25により、残留する消毒剤(有効塩素)を除去してから濾過水ラインL2を介して淡水化装置30に流出される。また、濾過装置24では、所定のタイミング(例えば、30分毎)で逆洗水を逆流させて原水から除去された固形物を含む排水を排水ラインL24から排出する。
【0015】
脱塩素剤供給装置25は、淡水化装置30の内部に構成されている第1逆浸透膜モジュール32に供給する濾過水に重亜硫酸ナトリウム(SBS)等の脱塩素剤を供給して濾過水中の残留塩素を分解する事により、ポリアミド系の逆浸透膜(PA膜)を使用した第1逆浸透膜モジュール32の塩素の酸化作用による膜の劣化を防止することができる。また、脱塩素剤の殺菌作用を利用することで、残留塩素が分解された濾過水にて淡水化装置30で貝類や微生物等が繁殖を防止し、機器の閉塞や故障、ラインの閉塞、バイオファウリングによる淡水化装置30の処理効率の低下を防止することができる。
【0016】
[淡水化装置]
淡水化装置30は、塩分を含む原水を淡水化する装置である。
図3に示すように、淡水化装置30は、濾過水ラインL2から流入する原水を脱塩する第1逆浸透膜モジュール32と、第1逆浸透膜モジュール32から排出される濃縮水(第1濃縮水)が圧力を保ったまま流入され、圧力を下げる事無しに電気透析法で脱塩された希釈水と濃縮水を排出する電気透析装置100と、第1逆浸透膜モジュール32から排出時の圧力を保って電気透析装置100から排出される濃縮水の圧力エネルギを回収して前処理濾過水(濾過水ラインL2を流れる水)に圧力を加えるための動力回収装置33と、動力回収装置33で減圧された濃縮水の流量を調整する流量調整弁34と、第1逆浸透膜モジュール32で脱塩された逆浸透膜透過水のpHを9乃至10に調整するためにpH調整剤(苛性ソーダ)を供給するpH調整剤供給装置38と、pH調整された透過水が流入する第2逆浸透膜モジュール37と、第2逆浸透膜モジュールにてホウ素を除去した淡水の硬度を調整するカルシウム等の硬度調整剤、およびpH調整剤と次亜塩素酸ナトリウム等の消毒剤を供給する調整剤供給装置39とを有している。
【0017】
濾過水ラインL2には加圧手段としての高圧ポンプ31が設置されている。この高圧ポンプ31は、高圧ポンプであって、前処理装置20から送水され、pHが6乃至7に調整され、脱塩素剤が混合された濾過水に第1逆浸透膜モジュール32に必要な圧力(例えば、3乃至7MPa程度)を与え、水圧を調整した濾過水を第1逆浸透膜モジュール32に送出する。具体的には、原水の塩分濃度が3.5%で、電気透析装置100による第1逆浸透膜モジュール32か排出される濃縮水に対する脱塩率が55%の場合、約6.5MPa必要になる。
【0018】
ここで、濾過水ラインL2を介して前処理装置20から流入した濾過水の一部は高圧ポンプ31を介して第1逆浸透膜モジュール32に送られ、残りは、動力回収装置33に送られる。例えば、高圧ポンプ31は、淡水化装置30に流入した原水の4乃至9割程度(例えば、原水の塩分濃度が3.5%で、電気透析装置100による濃縮水に対する脱塩率が55%の場合、9割)を第1逆浸透膜モジュール32に送る。
【0019】
第1逆浸透膜モジュール32は、ポリアミド系の逆浸透膜(PA膜)を使用し、濾過水ラインL2を介して流入する濾過水を、濃縮水と脱塩された逆浸透膜透過水とに分離する。第1逆浸透膜モジュール32は、海水中の塩分のほとんどが脱塩された透過水を第1逆浸透膜透過水ラインL32を介して、pHを9乃至10に調整してから第2逆浸透膜モジュール37に供給する。第2逆浸透膜モジュール37では、透過水中のホウ素が除去され淡水として流出する。
【0020】
また、第1逆浸透膜モジュール32は、第1逆浸透膜モジュール32の運転圧力エネルギをほぼ維持した状態の濃縮水を第1濃縮水ラインL33を介して、電気透析装置100に流出させる。
【0021】
電気透析装置100は、第1濃縮水ラインL33より流入する濃縮水を(図4を使って後で説明する)、電気透析槽101の希釈室113と濃縮室114に供給して、電気透析にて濃縮水を希釈水とさらに濃縮された濃縮水とに分離する。その時、希釈水量と濃縮水量が8:1乃至9:1(本実施形態では、9:1)になるように流量調整弁34を調整する。分離された濃縮水は、圧力をほぼ維持したまま動力回収装置33に流入される。一方、同様に第1逆浸透膜モジュール32から排出される濃縮水の圧力をほぼ維持した希釈水は、混合ラインとしての希釈水ラインL34を介して第1逆浸透膜モジュール32に流入させる濾過水ラインL2を流れる濾過水に合流される。その際、電気透析装置100を通過時の圧力ヘッドの分だけ、希釈水ラインL34の途中に設置した循環ポンプ40にて加圧してから濾過水ラインL2を流れる濾過水に合流させる。
【0022】
通常、原水の塩分濃度が3.5%の場合、逆浸透法では、逆浸透膜の耐圧が6.5乃至7MPaのため、逆浸透膜モジュールの圧力をそれ以下にする必要がある。その場合、原水(海水)量に対する透過水量の回収率は、45%程度となり、濃縮水の塩分濃度が3.5%×100/45の7.8%程度になる。次に電気透析装置100による脱塩率55%とした場合、希釈水の塩分濃度は、7.8%×45/100=3.5%となり、原水(海水)と塩分濃度がほぼ同等の希釈水を、圧力を下げること無く、濾過水ラインL2を流れる濾過水に合流させる。この結果、電気透析槽101における希釈水量と濃縮水量の割合を9:1で運転した場合、濃縮水量の9割を第1逆浸透膜モジュール32の原水として戻す事ができ、淡水化プラント全体の回収率(生成淡水量/原水量)が向上する。
【0023】
動力回収装置33は、第1濃縮水ラインL35にて流入する濃縮水から、第1逆浸透膜モジュール32に与えられた圧力エネルギを回収し、濾過水ラインL2を介して第1逆浸透膜モジュール32に送る濾過水に回収したエネルギを与える。具体的には、動力回収装置33は、第1逆浸透膜モジュール32の運転圧力エネルギをほぼ維持した状態の濃縮水を第1逆浸透膜モジュール32から流入する。
【0024】
動力回収装置33は、流入する濃縮水からエネルギを回収する。また、動力回収装置33は、回収したエネルギを濾過水に加えて、ラインL36を介して、第1逆浸透膜モジュール32の濃縮水の圧力をほぼ同等の希釈水と合流させてから第1逆浸透膜モジュール32に流入させる濾過水に合流させる。
【0025】
ここで、動力回収装置33が濃縮水から得られた圧力エネルギは、第1逆浸透膜モジュール32で必要な圧力の一部(例えば、8乃至10割)である。したがって、ラインL36には、加圧手段としての昇圧ポンプ35を設置し、動力回収装置33から送られる濾過水に第1逆浸透膜モジュール32で必要な圧力エネルギを加え、濾過水ラインL2を流れる濾過水に合流させる。
【0026】
一方、動力回収装置33は、濾過水を加圧することによって、減圧(例えば、数百kPa程度)された濃縮水を濃縮水ラインL37から排出する。なお、濃縮水量は、流量調整弁34で調整される。また、排出された濃縮水は、排水に必要な処理(例えば、海水との混合による希薄化)を施した後には放水することができる。
【0027】
例えば、動力回収装置33には、多段タービン水車方式等のタービン式やピストン式等の方法で圧力エネルギから動力を回収する装置を利用することが可能である。この動力回収装置33の性能に応じて濃縮水から回収して濾過水に与えることのできる圧力が異なる。
【0028】
次に、第2逆浸透膜モジュール37は、第1逆浸透膜モジュール32(PA膜)の後段に配置されており、第1逆浸透膜モジュール32から流出する透過水が第1逆浸透膜透過水ラインL32を介して第2逆浸透膜モジュール37に流入する。第1逆浸透膜透過水ラインL32には昇圧ポンプ36が配置されており、この昇圧ポンプ36によって第1逆浸透膜モジュール32の透過水に圧力を加えて第2逆浸透膜モジュール37で必要な水圧(例えば、1〜3Pa)に調整する。また、逆浸透膜透過水ラインL32にはpH調整剤ラインL38が接続されており、苛性ソーダ等のpH調整剤を第1逆浸透膜透過水に混合されてpH値が9以上に調整される。
【0029】
第2逆浸透膜モジュール37は、アセチレンセルロース系の逆浸透膜(CA膜)であって、第1逆浸透膜透過水ラインL32を介して流入する透過水を、濃縮水と淡水とに分離し、分離された濃縮水を第2濃縮水ラインL40を介して濾過水ラインL2に循環させる。また、第2逆浸透膜モジュール37を透過した淡水は、調整剤供給装置39によって供給される調整剤によって硬度とpH値が飲料水の基準に調整された後に淡水ラインL3を介して淡水化システム1から流出する。
【0030】
第2逆浸透膜モジュール37に送水される透過水は、苛性ソーダ水の混合によってpH値9以上にされている為、原水中にホウ酸として溶解しているホウ素は、ホウ酸イオンに解離され、膜分離することができる。このように、透過水中のホウ素をホウ酸イオンにして第2逆浸透膜モジュール37で分離することで、淡水化システムの処理水として得られる淡水中の残留ホウ素濃度を低減することができる。
【0031】
淡水ラインL3には、調整剤ラインL39が接続されており、調整剤供給装置39から、この調整剤ラインL39を介して淡水の硬度とpH値を調整する調整剤を淡水に供給し、淡水を飲料水の基準値に調整する。硬度とpH値が調整された淡水は、淡水ラインL3を介して淡水化システム1から流出される。調整剤供給装置39は、硬度及びpH値の調整のため、例えば、石灰等のカルシウムを調整剤として淡水に供給する。
【0032】
第2逆浸透膜モジュール37を透過して得られる淡水は、逆浸透の前に苛性ソーダを混合して第1逆浸透膜モジュール32の透過水をアルカリ性にしているため、淡水化装置30で得られる淡水は、腐食性が高いとともに水質基準を満たさない。また、第2逆浸透膜モジュール37で得られる淡水は、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの硬度成分の含有量が少ない。したがって、ランゲリア指数を改善し、飲料水として味を改善するとともに、管材からの成分溶出を防止するために、淡水に調整剤を混合して淡水の硬度やpH値を調整する。
【0033】
また、国によっては(例えば、日本)、淡水をユーザに配水する前に、殺菌作用を持続させるため、次亜塩素酸ナトリウム等の消毒剤を添加して淡水中の残塩濃度を保つ必要がある。(例えば0.1mg/L以上)その場合、調整剤供給装置39より淡水に次亜塩素酸ナトリウムを供給する。
【0034】
[電気透析装置]
電気透析装置100は、隔膜型の電気透析装置である。
図4に示すように、電気透析装置100は、陰極109が設置される陰極室110と、陽極111が設置される陽極室112と、陰極室110と陽極室112との間に交互に設けられる複数の希釈室113及び濃縮室114と、陰極室110と希釈室113、希釈室113と濃縮室114又は希釈室113と陽極室112の間を隔てるために交互に設けられる複数の陰イオン交換膜115及び陽イオン交換膜116とを有している。また、陽極、陰極側とも、最初に接するのは、陽イオン交換膜116として、それぞれの内側に陰イオン交換膜、さらに内側に陽イオン交換膜の順番でイオン交換膜が配置されている。
【0035】
陰極室110及び陽極室112は、濃縮室114及び希釈室113の両側を挟んでいる。電気透析装置100は電気透析槽101を有している。陽イオン交換膜116及び陰イオン交換膜115は、電気透析槽101内を、濃縮室114、希釈室113、陰極室110及び陽極室112、に隔てる。
【0036】
各希釈室113及び濃縮室114には第1濃縮水ラインL33が接続されており、第1逆浸透膜モジュール32から排出される濃縮水が希釈室113と濃縮室114に流入する。希釈室113及び濃縮室114が流入する原水には、ナトリウムイオン(Na)、塩化物イオン(Cl)、水素イオン(H)、硫酸イオン(SO2−)等を含んでいる。
【0037】
陰極109と陽極111との間に電圧をかけると、希釈室113内の原水中のナトリウムイオン等の陽イオンは、陽イオン交換膜116を透過して濃縮室114又は陰極室110に移動する。一方、希釈室113内の原水中の塩化物イオン等の陰イオンは、陰イオン交換膜115を透過して濃縮室114又は陽極室112に移動する。
【0038】
陰極室110には、陰極液供給ラインL101が接続されており、この陰極液供給ラインL101を介してpH値が2乃至3に調整した3%硫酸ナトリウム水溶液等の電極液を循環ポンプ107を使って電極液タンク106から流入させる。陰極室110では、希釈室113からナトリウムイオンが移動すると、ナトリウムイオンの濃度が上がり、0.01乃至1規定の苛性ソーダ水が生成される。具体的には、電気透析により陰極室110内の原水(海水)に含まれるナトリウムイオンが濃縮され、陰極109の表面で水が電気分解して生成する水酸化物イオンからなる苛性ソーダとなる。また、陰極室110では苛性ソーダ水の生成の際に水素が発生(副生成)する。
【0039】
陰極室110には、陰極液排出ラインL102が、陰極室の上部の陰極液出口125(排出口)に接続されている。陽極室112には、陽極液排出ラインL106が、陽極室の上部の陽極液出口124(排出口)に接続されている。
【0040】
ここで、濃縮室114、希釈室113、陰極室110及び陽極室112は、陰極室及び陽極室に与えられる電極液中の溶存ガスが浮き上がる方向に垂直な方向に隣合っている。陰極液出口125及び陽極液出口124は、陰極室110及び陽極室112の、それぞれ電極液中の溶存ガスが浮き上がる側に位置している。
【0041】
陰極室110で生成された苛性ソーダと水素、硫酸ナトリウムは、陰極液排出ラインL102を介して気液分離タンク102に供給される。気液分離タンク102では、水素と苛性ソーダを含む電極液とに気液分離して、気体の水素は、圧力調整弁104にて減圧されてから水素ラインL104を介して排出される。一方、苛性ソーダよりアルカリ性の電極液は、陽極室112から排出された陽極液と合流して電極液タンク106で混合される。
【0042】
陽極室112には、陽極液供給ラインL105が接続されており、この陽極液供給ラインL105を介してpH値が2乃至3に調整した3%硫酸ナトリウム水溶液などの電極液が、循環ポンプ108を使って電極液タンク106から流入される。陽極室112では、陽極室112中のナトリウムイオンが濃縮室114に移動すると、陽極111で水が電気分解されて酸素が発生する。また、水素イオンが生成し、酸性水となってpHが低下する。
【0043】
陽極室112で生成された酸性水と水素、残っている硫酸ナトリウムは、陽極液排出ラインL106を介して気液分離タンク103に供給される。気液分離タンク106では、酸素と酸性水を含む電極液とに気液分離して、気体の酸素は、圧力調整弁105にて減圧されてから酸素ラインL108を介して排出される。一方、酸性水より酸性の電極液は、陰極室110から排出された陰極液と合流して電極液タンク106で混合される。
【0044】
電極液タンク106では、陰極室110で生成した苛性ソーダと陽極室112で酸性水が混合されて中和される。結果、電極液の硫酸ナトリウムの量、pHが元に戻り、陽極室112と陰極室110に送られる事になる。従って、陽極室112と陰極室110から排出されるそれぞれの電極液を気液分離してから、電極液は、硫酸ナトリウム水溶液にして、陽極室と陰極室から排出されるそれぞれの電極液を気液分離してから、液体部分(脱気された電極液)を減圧することなく混合することにより、電極液は、新たに薬品を添加することなく循環させる事ができる。
【0045】
この実施形態において、電極液タンク106、及び循環ポンプ107、108は、電極液供給手段として機能し、それぞれ陰極室110及び陽極室112から排出される電極液を、減圧することなく混合し、再度、陰極室及び陽極室に与えることができる。
【0046】
より詳しくは、電極液タンク106、及び循環ポンプ107、108は、気液分離タンク102、103で脱気された電極液を、減圧することなく混合することができる。
【0047】
また、陽極室112、陰極室110、希釈室113及び濃縮室114の圧力が、第1逆浸透膜モジュール32から排出される濃縮水と同等の圧力になる様に圧力を調整する。特に第1逆浸透膜モジュール32で分離された濃縮水を分けて、電気透析槽101の希釈室113と濃縮室114とに供給する事により、また、陽極液と陰極液を減圧・再加圧が不要な循環式混合式にする事により各室の圧力を一定に保つことができる。
【0048】
結果、各室間で圧力差が無くなり、イオン交換膜が破損するのを防止できる。また、イオン交換膜が破損しないようにするイオン交換膜の支持セパレータを薄くでき、結果、電気透析時の効率を向上できる。また、気液分離タンクを設ける事により陽極液、陰極液の混合前に酸素と水素を分離除去(脱気)しておく事により爆発する危険がなく電極液を混合できる。
【0049】
この実施形態において、循環ポンプ107、108は、圧力調整手段として機能し、濃縮室114及び希釈室113に与える濃縮水の圧力と、陰極室110及び陽極室112に与える電極液の圧力と、が同じになるように調整することができる。
【0050】
また、複数の陽イオン交換膜116と陰イオン交換膜115の対の両側を陽イオン交換膜116としている。すなわち、陰極室110及び陽極室112は、それぞれ陽イオン交換膜116で隔てられている。特に、陽極側を陰イオン交換膜115ではなく陽イオン交換膜116にする事により、両電極液の混合循環が可能にでき、上記の両電極液の混合循環にする事による効果を得ることができる。
【0051】
電気透析槽101のイオン交換膜対が縦になる様に、希釈室113、濃縮室114、電極室(110、112)を配置している。すなわち、陰極室110及び陽極室112に与えられる電極液中の溶存ガスが浮き上がる方向に垂直な方向に、濃縮室114、希釈室113、陰極室110及び陽極室112は隣合っている。
【0052】
そして、電極室の上方(電極液中の溶存ガスが浮き上がる側)から電極液を排出する事により電極室に水素や酸素の気体が開滞留する事無く、さらに気液分離タンク102、103で分離する事ができる。結果、電極表面、イオン交換膜を表面に気泡がたまる事なく、効率良く電気透析を行う事が出来る。
【0053】
また、陰極室110で生成されて水素ラインL104から排出する水素と、陽極室112で生成されて酸素ラインL108から排出される酸素は、燃料電池等の発電装置(図示せず)で利用可能であり、淡水化システム1に必要な電力を発電する燃料として利用することができる。
【0054】
以上のように構成された一実施形態に係る淡水化システムによれば、淡水化システム1は、前処理装置20と、加圧手段としての高圧ポンプ31又は昇圧ポンプ35と、第1逆浸透膜モジュール32と、電気透析装置100と、混合ラインとしての希釈水ラインL34と、を備えている。
【0055】
淡水化システム1は、逆浸透法と電気透析法を組合せて使用するものである。逆浸透法により、淡水と、濃縮水とに分離することができる。電気透析法により、逆浸透法により分離された濃縮水から脱塩した希釈水を生成することができる。電気透析法により生成した希釈水は、海水原水に戻され、再度、逆浸透法で淡水化する事ができる。
【0056】
上記のことから、塩分を含む原水の量に対する生成する淡水の量、すなわち、回収率の向上を図ることができる淡水化システム1を得ることができる。
【0057】
[変形例]
次に、上記実施形態に係る電気透析装置100の変形例について説明する。この変形例において、上記実施形態と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。電気透析装置100の変形例を図5及び図6に示す。
【0058】
図5及び図6に示すように、電気透析装置100を図4のイオン交換膜の平行配置型からスパイラル型に変更した構造である。陰極室110及び陽極室112は、一方が容器126(電気透析槽)の中心側に位置し、他方が容器126の外周側に位置している。ここでは、陽極室112が容器126の中心側に位置し、陰極室110が容器126の外周側に位置している。複数の陽イオン交換膜116及び陰イオン交換膜115は、筒状に形成されている。
【0059】
また、第1逆浸透膜モジュール32から排出される濃縮水は、RO濃縮水入口120より全てのスパイラル構造の内周から外周の平行に流れるように流入させて反対側の濃縮水出口121から排出される。また、RO濃縮水入口120では、希釈室113の外周側のみに第1逆浸透膜モジュール32から排出される濃縮水を流入させてスパイラル状に内周側に向かうように流して、脱塩する。脱塩された希釈水は、スパイラル構造の内周側の希釈室113から排出される。
【0060】
言い換えると、濃縮室114及び希釈室113は、第1逆浸透膜モジュール32で分離された濃縮水のイオン移動を行いつつ、容器126の外周側から中心側に向かった濃縮水の流れを形成する。
【0061】
このような構造にする事により、以下の効果を得ることができる。
【0062】
(1)電流が放射状に均一にながれるため、イオン移動にムラが無くなり脱塩効率が向上する。
【0063】
(2)円筒状にする事により、モジュール化ができ、モジュール交換が容易でメンテナンスしやすくなる。また、耐圧構造、かつ、小型が容易であり、平板型のように大型化して、逆浸透圧力にするための大規模な圧力容器にする必要はない。
【0064】
なお、この発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
本発明は、上記淡水化システムに限らず、各種の淡水化システムに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…淡水化システム、20…前処理装置、30…淡水化装置、31…高圧ポンプ、32…第1逆浸透膜モジュール、34…流量調整弁、35…昇圧ポンプ、36…昇圧ポンプ、40…循環ポンプ、100…電気透析装置、101…電気透析槽、102,103…気液分離タンク、106…電極液タンク、107,108…循環ポンプ、109…陰極、110…陰極室、111…陽極、112…陽極室、113…希釈室、114…濃縮室、115…陰イオン交換膜、116…陽イオン交換膜、124…陽極液出口、125…陰極液出口、126…容器、L1…原水ライン、L33…濃縮水ライン、L34…希釈水ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分を含む原水に凝集剤を添加して凝集させて原水中の不純物を濾過する前処理装置と、
前記前処理装置で不純物が除去された原水を加圧して送出する加圧手段と、
前記加圧手段から与えられる加圧された原水を、淡水と塩分濃度が高い濃縮水とに分離する逆浸透膜モジュールと、
前記逆浸透膜モジュールで分離された前記濃縮水が与えられ、前記濃縮水を、高圧のまま、塩分濃度が低い希釈水と塩分濃度が高い濃縮水とに分離する電気透析装置と、
前記電気透析装置で分離された希釈水を、前記逆浸透膜モジュールに与えられる前の前記前処理装置で不純物が除去された原水に混合させる混合ラインと、を備える淡水化システム。
【請求項2】
電気透析装置は、
電気透析槽と、
前記電気透析槽内を、前記逆浸透膜モジュールで分離された前記濃縮水が与えられる濃縮室及び希釈室、並びに前記濃縮室及び希釈室の両側を挟み電極液が与えられる陰極室及び陽極室、に隔てる複数の陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜と、
前記濃縮室及び希釈室に与える前記濃縮水の圧力と、前記陰極室及び陽極室に与える前記電極液の圧力と、が同じになるように調整する圧力調整手段と、を有する請求項1に記載の淡水化システム。
【請求項3】
前記逆浸透膜モジュールで分離された前記濃縮水を分けて、前記濃縮室及び希釈室に与える濃縮水ラインをさらに備える請求項2に記載の淡水化システム。
【請求項4】
それぞれ前記陰極室及び陽極室から排出される前記電極液を、減圧することなく混合し、再度、前記陰極室及び陽極室に与える電極液供給手段をさらに備える請求項2又は3に記載の淡水化システム。
【請求項5】
前記陰極室から排出される前記電極液を気液分離する第1の気液分離タンクと、
前記陽極室から排出される前記電極液を気液分離する第2の気液分離タンクと、をさらに備え、
前記電極液供給手段は、それぞれ前記第1の気液分離タンク及び第2の気液分離タンクで脱気された前記電極液を、減圧することなく混合する請求項4に記載の淡水化システム。
【請求項6】
前記電極液は、硫酸ナトリウム水溶液である請求項4又は5に記載の淡水化システム。
【請求項7】
前記陰極室及び陽極室は、それぞれ前記陽イオン交換膜で隔てられている請求項4又は5に記載の淡水化システム。
【請求項8】
前記濃縮室、希釈室、陰極室及び陽極室は、前記陰極室及び陽極室に与えられる前記電極液中の溶存ガスが浮き上がる方向に垂直な方向に隣合い、
前記陰極室及び陽極室は、それぞれ前記電極液中の溶存ガスが浮き上がる側に、前記電極液の排出口を有している請求項5乃至7の何れか1項に記載の淡水化システム。
【請求項9】
前記陰極室及び陽極室は、一方が前記電気透析槽の中心側に位置し、他方が前記電気透析槽の外周側に位置し、
前記複数の陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜は、筒状に形成されている請求項2乃至8の何れか1項に記載の淡水化システム。
【請求項10】
前記濃縮室及び希釈室は、前記逆浸透膜モジュールで分離された前記濃縮水のイオン移動を行いつつ、前記電気透析槽の前記外周側から前記中心側に向かった前記濃縮水の流れを形成する請求項9に記載の淡水化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−63372(P2013−63372A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202381(P2011−202381)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】