説明

深溝玉軸受

【課題】潤滑油の給排出性を損なうことがなく、油潤滑の環境下において、高速回転で使用可能な深溝玉軸受を提供する。
【解決手段】深溝玉軸受10は、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、これら外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動自在に設けられた複数の玉13と、外輪11の内周面と内輪12の外周面との間に設けられて複数の玉13を転動可能に保持する合成樹脂製の保持器20と、外輪11の内周面の軸方向両端部に設けられた溝11bに固定された金属製のシールド板14と、を備える。シールド板14の内周部14bと内輪12の外周面との間には、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部15が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油潤滑の環境下において、高速回転で使用される深溝玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
高速回転で使用される転がり軸受として、特許文献1及び特許文献2の転がり軸受が知られている。特許文献1には、合成樹脂製保持器のポケットの側面を平行に形成した外輪案内形式のアンギュラ玉軸受が開示されおり、図5に示すように、このアンギュラ玉軸受100は、保持器101の円筒ポケット内に玉102を転動可能に保持するとともに、グリース等の潤滑剤の密封のため、外輪103の両端にシールド板104を設け、シールド板104と内輪105との間にラビリンスシールを形成している。
【0003】
また、特許文献2には、合成樹脂製保持器のポケットの側面を玉に沿って円環状に形成した冠型保持器を備えた玉案内形式の深溝玉軸受が開示されおり、図6に示すように、この深溝玉軸受200は、保持器201の球面ポケット内に玉202を転動可能に保持するとともに、潤滑性能を向上させるため外輪203の片側のみにシールド板204を設け、シールド板204と内輪205との間に僅かな隙間を形成している。
【特許文献1】特開平9−210072号公報
【特許文献2】特開2007−177858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のアンギュラ玉軸受100においては、軸受内部をシールド板104でシールするため、軸受内部に潤滑油が滞留する。このため、軸受内部が高温となり、潤滑油の粘度低下、劣化が発生し、油膜を形成しにくくなることで、保持器101と玉102に摩耗や焼付きが発生するおそれがある。また、アンギュラ玉軸受は深溝玉軸受より許容回転数は高いものの、高価で取り扱いが容易ではないという課題があった。
【0005】
一方、特許文献2に記載の深溝玉軸受200においては、玉案内の冠型保持器201を使用するため、高速回転によりポケットが摩耗しやすく、それにより円環部を捩れ軸として変形する可能性があった。また、潤滑油の供給側と反対側にシールド板204を設けシールしているため、軸受内部の潤滑油は、シール板204と内輪205との僅かな隙間からしか排出されない。そのため、軸受内部に潤滑油が滞留し、軸受内部が高温となり、潤滑油の粘度低下、劣化が発生し、油膜を形成しにくくなることで、保持器201と玉202に摩耗や焼付きが発生するおそれがある。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、潤滑油の給排出性を損なうことがなく、油潤滑の環境下において、高速回転で使用可能な深溝玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪の間を周方向に転動可能な複数の玉と、前記玉をポケット内に収容した樹脂製の保持器と、を備えた、油潤滑で使用される深溝玉軸受であって、
前記保持器は、前記ポケットの側面が半径方向に平行に形成された外輪案内形式の保持器であって、
前記外輪の両側面には、半径方向内側に延びるシールド板が設けられ、
前記シールド板と前記内輪の外周面との間には、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部を有することを特徴とする深溝玉軸受。
(2) 前記シールド板の内径寸法が、前記保持器の内径以上、前記玉のピッチ円直径以下であることを特徴とする(1)に記載の深溝玉軸受。
【0008】
本発明の深溝玉軸受は、合成樹脂製の保持器を円筒ポケットにして外輪案内形式としつつ、内輪との間に開口部を有したシールド板を外輪両側面に設ける構成を採用する。これにより、保持器の摩耗、振動や回転トルクの増大を防ぐことができる。さらに、軸受に供給された潤滑油は、遠心力により外径側に飛ばされ、外輪の両側面に設置したシールド板にて塞ぎ止められることにより、保持器外径案内面と外輪との摺動部を油浴状態にすることができ摺動部の潤滑性を向上することができる。さらに、シールド板と内輪との間には、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部を有しており、潤滑油の給排出性を損なうことがないため、軸受の昇温を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る深溝玉軸受の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。
図1に示すように、深溝玉軸受10は、内周面11aに外輪軌道面11bを有する外輪11と、外周面12aに内輪軌道面12bを有する内輪12と、これら外輪軌道面11bと内輪軌道面12bとの間に転動自在に設けられた複数の玉13と、外輪11の内周面11aと内輪12の外周面12aとの間に設けられて複数の玉13を転動可能に保持する合成樹脂製の保持器20と、外輪11の内周面11aの軸方向両端部に設けられた溝11cに固定された金属製のシールド板14と、を備える。
【0011】
保持器20は、円環部21と、円環部21の円周方向に等しい間隔をあけて複数箇所から軸方向一方側へ突出する複数の柱部22と、各柱部22の両側先端からさらに軸方向一方側へ突出する爪部22a、22bと、を備える。円周方向に隣り合う柱部22、22の対向面は半径方向に平行に形成され、これら対向面と対向面間の円環部21の軸方向側面は、協働して円筒ポケットを形成し、玉13を回動自在に保持する。なお、保持器20の円環部21及び柱部22には軽量化のため、軸方向に沿って一部を空洞にした肉抜き部24が設けられている。
【0012】
保持器20は、樹脂によって形成され、その材料として、ポリアミド46やポリアミド66などのポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェレンサルサイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)などが例示される。また、上記樹脂に、例えば、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維状充填材を10〜50wt%程度適宜添加することによって、保持器5の剛性および寸法精度を向上させることができる。
【0013】
シールド板14は、例えば、SPCC等の金属板材をプレス加工して、略円環状に形成したものであり、その外周部14aは、外輪11の内周面11aの軸方向端部に設けられた溝11cに圧入・固定され、その内周部14bは、内輪12の外周面12aと隙間を空けて配置されている。尚、シールド板14は、金属製の芯材をゴム、合成樹脂等の弾性材で被覆して全体円環状に形成してもよい。
【0014】
ここで、シールド板14の内径Dsは、保持器20の内径Drと同一であって、玉13のピッチ円直径Dpcdより小径に設定され、シールド板14の内周部14bと内輪12の外周面12aとの間には、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部15が確保される。
【0015】
図1に示すように、深溝玉軸受10は、保持器20の円環部21の外周面が玉13とシールド板14の間に位置する外輪11の内周面11aのいずれか一方(本実施形態においては、図中左側)と摺動するように組み付けられる。このように組み付けられた深溝玉軸受10は、軸方向いずれか一方を潤滑油の供給側、他方を排出側に配置され、例えば、ハウジングに外輪11が内嵌され、回転軸に内輪12が外嵌されて、自動車の変速機等の装置に組み込まれ、内輪12と外輪11との相対回転を自在とする。この際、各玉13は、自転しつつ、内輪12の周囲を公転する。また、保持器20は各玉13の公転速度と同じ速度で、内輪12の周囲を回転する。る。このとき、ハウジングと回転軸との間の空間は、潤滑油を供給・排出するための供給路及び排出路として作用する。
【0016】
そして、潤滑油が、潤滑油タンク(図示せず)から供給路を介して深溝玉軸受10の側方から供給されると、潤滑油は、シールド板14の内周部14bと内輪12の外周面12aとの開口部15から深溝玉軸受10の内部に流入し、深溝玉軸受10の回転に伴って潤滑油が保持器20の爪部22a、22bや玉13によって攪拌される。
【0017】
このとき、深溝玉軸受10に供給された潤滑油は、遠心力により外径側に飛ばされ、外輪11の両側面に設置したシールド板14にて塞ぎ止められ、深溝玉軸受10の内部は油浴状態となる。
【0018】
潤滑油は、外輪11、内輪12、玉13、及び保持器20の摺動面を潤滑した後、供給側の開口部15とは反対側の開口部15から排出路に排出される。
【0019】
このように構成された深溝玉軸受10は、保持器20のポケットを円筒ポケットとし、かつ外輪案内形式の合成樹脂保持器とすることで、保持器の摩耗、振動や回転トルクの増大を防止することができる。
【0020】
また、シールド板14の内周部14bと内輪12の外周面12aとの間には、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部15を有しており、潤滑油の給排出性を損なうことがないため、潤滑油が滞留し続けることがなく、深溝玉軸受10の昇温を抑制することができる。
【0021】
さらに、シールド板14を外輪11の両側面に設け、シールド板14の内径Dsを保持器の内径Drと同一とすることで、保持器20と玉13、及び保持器20と外輪11の摺動部には常に潤滑油が存在するため、摺動部の潤滑性が向上し、摩耗抑制や摩擦力低減の効果がある。
【0022】
(第2実施形態)
図2は本発明の第2実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。
図2に示すように、深溝玉軸受30は、保持器20’の柱部外径Dpを摺動部である円環部21’の外径Daより小径にするとともに、シールド14’の内径を保持器20’の内径Drより大径で玉のピッチ円直径Dpcdと同一にする以外は、第1実施形態の深溝玉軸受10と同様に構成される。なお、図中、第1実施形態と同一の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0023】
このように構成された深溝玉軸受30は、第1実施形態と同様に、保持器20’のポケットを円筒ポケットとし、かつ外輪案内の合成樹脂保持器とすることで、保持器の摩耗、振動や回転トルクの増大を防止することができる。
【0024】
また、保持器20’の柱部22’の外径Dpを摺動部である保持器20の円環部21’の外径Daより小径にすることで、保持器20が外輪11で案内される機能を損なうことなく、保持器20’の軽量化を図ることができる。
【0025】
また、第1実施形態と同様に、シールド板14’と内輪12との間には、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部15を有しており、潤滑油の給排出性を損なうことがないため、潤滑油が滞留し続けることがなく、深溝玉軸受30の昇温を抑制することができる。
【0026】
第1実施形態では、シールド板14’の内径Dsを保持器20’の内径Drと同一としたが、本実施形態のように、シールド板14の内径Dsを玉のピッチ円直径Dpcdと同一としても、保持器20’と玉13、及び、保持器20’と外輪11の摺動部には常に潤滑油が存在するため、摺動部の潤滑性が向上し、摩耗抑制や摩擦力低減の効果がある。
【0027】
(第3実施形態)
図3は本発明の第3実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。
第3実施形態の深溝玉軸受40は、第1実施形態のいわゆる片持ちタイプの保持器20から両持ちタイプの保持器に変えた以外は、第1実施形態の深溝玉軸受10と同様に構成される。なお、図中、第1実施形態と同一の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0028】
深溝玉軸受40は、図3に示すように、外輪11の両側面に設けられたシールド板14間に玉13を保持した保持器50が設けられ、保持器50の円環部51a、51bの外周面が玉13とシールド板14の間に位置する外輪11の両側の内周面11aと摺動するように組み付けられる。
【0029】
保持器50は、軸方向両側の円環部51a,51bと、円環部51a,51b同士を連接する円周方向に等しい間隔をあけて設けられた複数の柱部52と、を備える。円周方向に隣り合う柱部52,52の対向面は半径方向に平行に形成され、これらの対向面と対向面間の円環部51a,51bの軸方向側面は、協働して円筒ポケットを形成し、玉13を回動自在に保持する。また、保持器50は2つの要素50a、50bを組み合わせた組み合わせ型の保持器であり、各要素50a、50bは、それぞれ円環部51a,51bと、柱部52a、52bを有し、これらの要素は、接着、スナップフィット、ボルトとネジ、溶着など方法により係合され一体化されている。
【0030】
このように構成された深溝玉軸受40の保持器50は、第1、第2実施形態の保持器20、20’と比べて、高速回転時に円環部を捩れ軸として捩れ変形する可能性がなく、保持器の耐変形性を向上させることができる。
【0031】
また、第1実施形態と同様に、シールド板14と内輪12との間には、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部15を有しており、潤滑油の給排出性を損なうことがないため、潤滑油が滞留し続けることがなく、深溝玉軸受10の昇温を抑制することができる。
【0032】
さらに、第3実施形態の深溝玉軸受40は、第1実施形態と同様にシールド板14を外輪の両側面に設け、シールド板14の内径Dsを保持器の内径Drと同一とすることで、保持器40と玉13、及び保持器40と外輪11の摺動部には常に潤滑油が存在するため、摺動部の潤滑性が向上し、摩耗抑制や摩擦力低減の効果がある。
【実施例】
【0033】
次に、本発明に係る深溝玉軸受の実施例について説明する。
【0034】
[外輪温度比較試験]
まず、第2実施形態の深溝玉軸受30に用いた保持器20’と同一形状の保持器を用いて、シールド板の内径との外輪温度との関係を求めた。試験は以下の条件で、シールド板の内径を表1及び図4に示すように変更して行った。
〈仕様〉
軸受名番:単列深溝玉軸受6011
玉のピッチ円直径:72.5mm
シールド板:SPCCをプレス成形加工し、外輪端部に加締めて装着した(図4(c)についてはシールド板なし)。
シールド板内径:表1及び図4(a)〜(e)に記載のように変更した。
保持器材料:ポリアミド46(ガラス繊維を25%充填)
【0035】
〈試験条件〉
潤滑方法:VG24の鉱油を強制潤滑給油
油量:0.1L/min
給油温度:100℃
回転数:20000rpm
荷重:3400N
【0036】
なお、外輪温度を図4(a)の計測位置A(他の実施例及び比較例についても同様)において計測した。試験結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から明らかなように、シールド板内径を玉のPCDと同一にした実施例1及びシールド内径を保持器の内径と同一にした実施例2においては、最も発熱が低減し外輪温度が低い値を示した。
【0039】
一方、シールド板を備えていない比較例1及びシールド板内径を玉のPCDより大径にすると、保持器のポケットと玉の摺動部に潤滑油が常には存在しないため、摺動部からの発熱により、外輪温度は若干上昇した。
さらに、シールド板内径を保持器内径より小径にすると、外部と軸受空間を連通する開口部の開口面積が減少し、高温の潤滑油が軸受内部に滞留し、外輪温度が上昇した。
【0040】
実施例1及び実施例2から明らかなように、シールド板内径Dsを、保持器内径Dr以上、玉のピッチ円直径Dpcd以下とすれば、保持器のポケットと玉、及び、保持器と外輪の摺動部の潤滑性を向上させることができる。
【0041】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態である深溝玉軸受の要部縦断面図である。
【図4】外輪温度比較試験におけるシールド板の内径寸法を示す断面図である。
【図5】特許文献1のアンギュラ玉軸受の断面図である。
【図6】特許文献2の深溝玉軸受の断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10、30、40 転がり軸受
11 外輪
12 内輪
13 玉
15 開口部
20、20’、50 保持器
14、14’ シールド板
Ds シールド内径
Dr 保持器内径
Dpcd 玉のピッチ円直径
Da 保持器環状部外径
Dp 保持器柱部外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪の間を周方向に転動可能な複数の玉と、前記玉をポケット内に収容した樹脂製の保持器と、を備えた、油潤滑で使用される深溝玉軸受であって、
前記保持器は、前記ポケットの側面が半径方向に平行に形成された外輪案内形式の保持器であって、
前記外輪の両側面には、半径方向内側に延びるシールド板が設けられ、
前記シールド板と前記内輪の外周面との間には、潤滑油の供給口又は排出口となる開口部を有することを特徴とする深溝玉軸受。
【請求項2】
前記シールド板の内径寸法が、前記保持器の内径以上、前記玉のピッチ円直径以下であることを特徴とする請求項1に記載の深溝玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−275719(P2009−275719A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124675(P2008−124675)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】