説明

減振構造

【課題】システムの簡素化、省スペース化、低コスト化を実現でき、木造建物と地面との間、例えば土台と基礎との間に容易に設置できる減振構造を提供する。
【解決手段】基礎側部材11と、基礎側部材11の上面13に下面15が対面する建物側部材17と、基礎側部材11の上面13と建物側部材17の下面15とに設けられて建物19の荷重を建物側部材17を介して支持する積層滑り板21と、上面13の下側凹部23と下面15の上側凹部25を対向させて形成される収容部27と、軟質材料からなり下部29及び上部31を収容部27に嵌入させる粘性減衰部材33と、設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物へ作用する地震エネルギーを低減させる減振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地震時の建物の揺れを防止する免震装置に、例えば特許文献1に開示されるものがある。この免震装置は、ベタ基礎コンクリートの上面に、複数の連動する転がり免震装置を配置して構成される。ベタ基礎コンクリートの上面に、免震装置載設台を設け、免震装置載設台の上部に下部円錐面受皿を設け、円筒体の上部に設けた上部プレートを、土台の下面に複数の緊結ボルトで緊結している。円筒体の下部に上部受皿を設け、下部円錐面受皿と、上部受皿の対向する間に帯輪で保持された球体を配置し、球体の転動に合わせて、帯輪の外側に設けた複数の帯輪支持部材が円形外枠と上部円形外枠との間の隙間を摺動し、地震動のエネルギーを上部構造物に伝わるのを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−24792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の免震装置は、大型化することで、大きな揺れに対して、大きく移動する構造が多く、揺れを低減させるために、装置(構造)が大型化してしまう。特に、上記した球体等の転動に合わせて、上下部材の間の隙間を摺動させる装置では、水平面上の任意方向に移動領域を確保する必要がある。一般的な免震システムでは、装置が大型化しやすく、高価となるため、木造の戸建住宅に採用することは困難であった。
【0005】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、システムの簡素化、低コスト化を実現でき、木造などの建物の基礎と土台の間に容易に設置できる減振構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
次に、上記の課題を解決するための手段を、実施の形態に対応する図面を参照して説明する。
本発明の請求項1記載の減振構造は、基礎側部材11と、
該基礎側部材11の上面13に下面15が対面する建物側部材17と、
前記基礎側部材11の上面13と前記建物側部材17の下面15とに設けられて建物19の荷重を前記建物側部材17を介して支持する積層滑り板21と、
前記上面13の下側凹部23と前記下面15の上側凹部25を対向させて形成される収容部27と、
軟質材料からなり下部29及び上部31を前記収容部27に嵌入させる粘性減衰部材33と、
を具備することを特徴とする。
【0007】
この減振構造では、基礎側部材11と建物側部材17との間の積層滑り板21が低摩擦材よりなり、これら基礎側部材11と建物側部材17との間で滑りが発生することとなり、地震力や地震による揺れを起因とする加速度を低減させることとなる。また、建物側部材17の上側凹部25と基礎側部材11の下側凹部23とにわたって、粘性減衰部材33が嵌入しており、地震により地盤と一体に基礎側部材11が移動すると、粘性減衰部材33が剪断方向に変形となるとともに、その変形の過剰な変形が抑止されて、そして、積層滑り板21との低摩擦によって地盤側の揺れが建物側に伝わることを低減させる。
【0008】
請求項2記載の減振構造は、請求項1記載の減振構造35であって、
前記粘性減衰部材33の中心部に挿入され下端部37が前記下側凹部23に達するとともに、上端部39が前記上側凹部25に達する剛性を有する芯材41と、を具備することを特徴とする。
【0009】
この減振構造では、粘性減衰部材33の中心部に挿入された芯材41の上端部39と下端部37が、上側凹部25と下側凹部23に達しているので、粘性減衰部材33の過剰な剪断変形が芯材41によって阻止され、粘性減衰部材33の破断が防止される。また、この粘性減衰部材33が嵌入配置される層自体の過剰な変形の抑制となり、さらに、積層配置されている上層、すなわち基礎側部材11から建物側部材17への地震エネルギーの伝達が行われる。
【0010】
請求項3記載の減振構造は、請求項1又は2記載の減振構造35であって、
前記基礎側部材11の上面13と前記建物側部材17の下面15との間に、少なくとも一層の中間板材43が設けられ、
前記基礎側部材11と前記中間板材43の間、前記中間板材43と前記建物側部材17の間、及び前記中間板材43が二層以上のときは該中間板材同士の間に、前記積層滑り板21と、前記収容部27と、前記粘性減衰部材33が設けられることを特徴とする。
【0011】
この減振構造では、粘性減衰部材33と積層滑り板21から構成される地震エネルギー低減部が多層構造となることにより、同一方向の変位に対し、その変形量を多く確保できることとなるので、より大きな地震エネルギーの低減効果が得られる。
【0012】
請求項4記載の減振構造は、請求項1又は2又は3記載の減振構造35であって、
前記建物側部材17に下端が固定される一対の柱45の間に、少なくとも一つの前記収容部27及び前記粘性減衰部材33、前記積層滑り板21が設けられることを特徴とする。
【0013】
この減振構造では、一対の柱45の間毎に、必ず少なくとも一つの粘性減衰部材33と積層滑り板21が配置されることとなり、建物の構造における各柱を基準に減振構造をレイアウトでき、建物建築時の設計を容易なものとするとともに、施工時における配置位置の確認等も容易となり、建物側への地震エネルギーの低減効果を確実に具備させることが可能となる。
【0014】
請求項5記載の減振構造は、請求項1又は2又は3記載の減振構造35であって、
前記建物側部材17に下端縁が位置する耐力壁の下方に、少なくとも一つの前記収容部27及び前記粘性減衰部材33、前記積層滑り板21が設けられることを特徴とする。
【0015】
この減振構造では、建物を構成する耐力壁が配設される毎に、必ず一つの粘性減衰部材33と積層滑り板21が配置されることとなり、この耐力壁を基準に減振構造をレイアウトでき、建物建築時の設計を容易なものとするとともに、施工時における配置位置の確認等も容易となり、建物側への地震エネルギーの低減効果を確実に具備させることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る請求項1記載の減振構造によれば、基礎側部材と建物側部材との間の積層滑り板が低摩擦材よりなり、これら基礎側部材と建物側部材との間で滑りが発生することとなって、地震力等による加速度を低減させることとなる。また、建物側部材の上側凹部と基礎側部材の下側凹部とに、粘性減衰部材が嵌入しており、地震により地盤と一体に基礎側部材が移動すると、粘性減衰部材が剪断方向に変形となるとともに、その変形の過剰な変形が抑止されて、建物側部材への揺れの伝わりを低減することになる。そして、粘性減衰部材の変形と積層滑り板の低摩擦とによって地盤側の揺れが建物側に伝わることが低減される。本発明の減振構造は、建物構造として筋交い等を設けて地震に耐える耐震構造や、建物構造にダンパーなどを付加し地震力の増幅を低減する制振構造や、建物と地盤とを絶縁状態に構成する免震構造などとは異なるもので、地震などの揺れで発生する加速度の伝達を建物側に対して低減させるものである。これら滑りと、粘りの機能部(地震エネルギー低減部)がコンパクトに構成できることで、多数配置が可能となり、また、可動範囲を小さくして、省スペース化を実現でき、建物の基礎と土台の間に容易に設置することができるようになる。
【0017】
請求項2記載の減振構造によれば、滑りと、粘りの機能部に加え、規制の機能部である芯材を備えるので、粘性減衰部材が必要以上に変形してしまうことを阻止できる。すなわち、この減振構造では、粘性減衰部材の中心部に挿入された芯材の上端部と下端部が、上側凹部と下側凹部に達しているので、粘性減衰部材の過剰な剪断変形が芯材によって阻止され、粘性減衰部材の破断が防止される。また、この粘性減衰部材が嵌入配置される層自体の過剰な変形の抑制となり、さらに、積層配置されている上層、すなわち基礎側部材から建物側部材への地震エネルギーの伝達が行われる。
【0018】
請求項3記載の減振構造によれば、粘性減衰部材と積層滑り板から構成される地震エネルギー低減部が多層構造となることにより、同一方向の変位に対し、その変形量を多く確保できることとなるので、より大きな地震エネルギーの低減効果が得られる。
【0019】
請求項4記載の減振構造によれば、建物を構成する一対の柱の間毎に、少なくとも一つの粘性減衰部材と積層滑り板が配置されることとなり、建物の構造における各柱を基準に減振構造をレイアウトでき、建物建築時の設計を容易なものとするとともに、施工時における配置位置の確認等も容易となり、建物側への地震エネルギーの低減効果を確実に具備させることが可能となる。
【0020】
請求項5記載の減振構造によれば、建物を構成する耐力壁が配設される毎に、少なくとも一つの粘性減衰部材と積層滑り板が配置されることとなり、この耐力壁を基準に減振構造をレイアウトでき、建物建築時の設計を容易なものとするとともに、施工時における配置位置の確認等も容易となり、建物側への地震エネルギーの低減効果を確実に具備させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る減振構造の側断面図である。
【図2】図1に示した減振構造の分解図である。
【図3】図1の減振構造が複数配置された建物土台部分の平面図である。
【図4】図1に示した減振構造の動作状況を表した側断面図である。
【図5】中間板材を省略した他の実施の形態の側断面図である。
【図6】図5に示した減振構造の分解図である。
【図7】中間板材を多層に構成した減振構造の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る減振構造の側断面図、図2は図1に示した減振構造の分解図、図3は図1の減振構造が複数配置された木造建物土台部分の平面図である。
本発明の減振構造35は、一般住宅等の木造建物19の基礎47と、木造建物19の下縁との間に配置構成される。本実施の形態では、減振構造35を構成する基礎側部材11、建物側部材17、中間板材43が略層状となり、基礎側部材11が基礎47に埋設されたアンカーボルト49とナット51によって固定され、一方、建物19側は、減振構造35を構成する建物側部材17と建物19を構成する土台53とが兼用した一体構成とされている。本実施の形態による減振構造35では、基礎側部材11の上面13と建物側部材17の下面15との間に、一層の中間板材43が設けられている。なお、本発明に係る減振構造は、後述するように、中間板材43を省略することもできる。また、中間板材43は、後述するように、複数層設けられても良い。
【0023】
基礎側部材11の上面13と、中間板材43との間、及び中間板材43と建物側部材17の下面15との間には、積層滑り板21が設けられる。積層滑り板21は、例えば短冊状に形成した複数の低摩擦薄板である滑り板21aを積層してなる。滑り板21aは、硬質な樹脂板、例えば、アクリルや、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの樹脂板、石材、木材、ステンレス、鋼材などよりなり、さらにこれら材料に潤滑剤を塗布し構成するものなどとされる。なお鋼材としては、SS材やSPHC、亜鉛めっき鋼板など、鉄を含む素材が好ましい。積層滑り板21は、建物19の荷重を支えて、水平方向へ滑ることが可能に配設される。この積層滑り板21は、土台53の長手方向(図1の左右方向)に間隔を有して複数箇所に設けられる。
【0024】
隣接する積層滑り板21同士の間には、粘性減衰部材33が設けられている。粘性減衰部材33は、ゴムや樹脂素材、ナイロンや麻等の繊維を束ねたものなどを素材とする粘性弾性材料からなる。本実施の形態では、粘性減衰部材33が略角柱状に形成される。この他、粘性減衰部材33は、円柱形や六角柱、八角柱等であってもよい。基礎側部材11の上面13には下側凹部23が形成され、中間板材43の下面には上側凹部25が形成される。これら下側凹部23と上側凹部25とは、粘性減衰部材33を収容するための収容部27を構成する。粘性減衰部材33は、下部29を下側凹部23に挿入し、上部31を上側凹部25に挿入して、収容部27に嵌入される。
【0025】
本実施の形態のように、中間板材43が設けられる場合には、基礎側部材11と中間板材43の間、中間板材43と建物側部材17の間のそれぞれに、積層滑り板21と、収容部27と、粘性減衰部材33が設けられることとなる。
【0026】
なお、収容部27としての中間板材43に形成される上側凹部25と下側凹部23は、図1に示すように、貫通穴としてもよく、また、貫通穴とせずに、中間板材43の上下面に独立に形成してもよい。
【0027】
粘性減衰部材33の中心部には剛性を有する芯材41が抜け落ちないように嵌入され、芯材41は下端部37が下側凹部23に達するとともに、上端部39が上側凹部25に達している。芯材41の素材には、例えば金属、硬質樹脂、硬質ゴム、木材などを用いることができる。芯材41は、粘性減衰部材33の変形過多、移動過多を規制する。また、芯材41があることで、上下層がスライドしすぎることなく、ある程度で止まる。また、粘性減衰部材33の復元力を維持して位置復帰にもなる。
【0028】
減振構造35は、例えば図3に示すように、建物側部材17に下端が固定される一対の柱45の間に、少なくとも一つの収容部27及び粘性減衰部材33と、これを挟む一対の積層滑り板21が配設されるよう構成される。一つの粘性減衰部材33と、これを挟む一対の積層滑り板21は、地震エネルギー低減部55を構成する。地震エネルギー低減部55は、揺れに対する滑りと、粘りの機能部となる。なお、この地震エネルギー低減部55としては、一対の柱45間に配置する構成や、均等配置に限定されることなく、地震エネルギー低減部55が設置される建物の形状や建物の部分的な荷重、総重量、想定する地震力などによって、適宜位置を変えて配置されるものである。本実施の形態では、一例として、一対の柱45の間に、必ず一つの粘性減衰部材33と、これを挟む一対の積層滑り板21から構成される地震エネルギー低減部55を配置したものである。この図3に示す構成によれば、例えば一つの粘性減衰部材33と、一つの積層滑り板21とが配置される構成のように、建物荷重が粘性減衰部材33に片寄って加わることがない。この結果、地震エネルギー低減部55に、粘性減衰部材33を中心とした左右均一な地震エネルギーを入力させることができ、減震効果を十分に引き出すことができるようになされている。
【0029】
なお、地震エネルギー低減部55の配置位置は、上記したような一対の柱45の間とする例では建物の構造に因るものであるとして述べたが、例えば、その建物の設計時に基準として用いられる寸法単位、所謂モジュールにて表すこととしてもよく、例えば、尺モジュールであれば、910mm以内に少なくとも1つ配置することとし、また、メーターモジュールであれば、1000mm以内に少なくとも1つの配置として構成する。その場合に、地震エネルギー低減部55の配置位置は、柱45と柱45との間に限らず、柱45の直下とする位置も可能である。
【0030】
また、粘性減衰部材33と積層滑り板21とで構成される地震エネルギー低減部55の配置位置としては、上記柱との位置関係で設定される以外に、例えば建物構造体として構成される耐力壁の配置位置を基準とし、すなわちこの耐力壁の配設される箇所の直下に地震エネルギー低減部55を配置することとしてもよい。この場合、柱を必須としない建物構造である木造枠組壁構法、所謂2×4(ツーバーフォー)工法であっても対応が可能であり、建物側である土台などの建物側部材と、地面側である基礎などの基礎側部材との間に配置構成することで同様の効果を得られる。
【0031】
次に、上記構成を有する減振構造35の作用を説明する。
図4は図1に示した減振構造の動作時の状況を表した側断面図である。
この減振構造35では、基礎側部材11と中間板材43の間、及び中間板材43と建物側部材17の間に形成された収容部27に、粘性減衰部材33が嵌入されている。したがって、地震エネルギー低減部55は二層に配置されている。地震により地盤と一体に基礎側部材11が移動すると、建物側部材17が積層滑り板21を摺接させながら移動する。摺接する積層滑り板21は摩擦が少なく、伝達を小さくすることとなり、これにより地震力が低減される。
【0032】
また、各層の粘性減衰部材33が剪断方向に変形して、建物側部材17への地震エネルギーの入力を軽減させる。その結果、粘性減衰部材33は、水平方向の移動を和らげる。このようにして、地震エネルギー低減部55は、積層滑り板21の摩擦と、粘性減衰部材33の変形とにより、地震の揺れを建物19側に伝えにくくする。
【0033】
本実施の形態による減振構造35では、粘性減衰部材33と積層滑り板21から構成される地震エネルギー低減部55が多層構造となることにより、各層毎に地盤と建物との間の移動量である変位の吸収及び加速度の低減を行うことができる。すなわち図4(a)に示すように、基礎47側から変位が始まり(図中矢印a方向)、図4(b)に示すようにその変位が上層へと伝わって、矢印a方向に変位することとなる。これら変位に対して、多層の粘性減衰部材33による吸収作用が大きく確保できるので、より大きな地震エネルギーの低減効果を高めることとなる。また、地震エネルギー低減部55を多層構造にすることができ、各層毎の変位吸収方向を異ならせ、水平面上の任意方向の揺れを容易に吸収して加速度を低減することも可能となる。
【0034】
さらに、減振構造35では、地震エネルギー低減部55における粘性減衰部材33の中心部に挿入された芯材41の上端部39と下端部37が、上側凹部25と下側凹部23に達しているので、粘性減衰部材33の過剰な剪断変形が芯材41によって阻止され、粘性減衰部材33の破断が防止される。これにより、地震エネルギー低減部55が、滑りと、粘りの機能部に加え、規制の機能部も備えるので、粘性減衰部材33が必要以上に変形してしまうことを阻止できる。
【0035】
なお、芯材41が存在することによって、上層の可動範囲を規制することとなるが、中間板材43が介設されることにより、その可動範囲を拡大可能となり、変形量が増えることになる。このような建物側部材17、中間板材43、基礎側部材11よりなる上記構成において、例えば、粘性減衰部材33と芯材41の組合せで50mmの変形を許容するとした場合、最下層となる基礎側部材11とその上層の中間板材43と間で50mmの変形を起こした後に、そこで許容しきれなかったエネルギーは芯材41により伝達されて、そのさらに上層である中間板材43と建物側部材17との間で50mmの変形を許容しようとすることとなり、基礎側部材11と建物側部材17との間で合計100mmの変形を可能とする構成となる。
【0036】
なお、上記した実施の形態では、建物側部材17と建物19の土台53とを兼ねて一体な構成とした例について示したが、本発明の減振構造は、土台53と建物側部材17とが別体構成とされていてもよく、すなわち通常の構築での基礎47と、建物19としての土台53とを具備し、これら基礎47と土台53との間に挟まれ介設されるように減振構造が配置構成されることとしてもよい。このような介設構造(サンドイッチ構造)とすれば、既設の木造住宅や規格構成された建物に対して、その建物19自体の土台53と地盤上の基礎47との間に挟み込むように本発明の減振構造35を配設することで、上述した効果を得ることができるものであり、建物新築時における配置構成だけでなく、リフォーム等の改築される建物にも加速度低減の効果、すなわち地震を起因とする建物の揺れの低減効果などを得ることが可能となる。
【0037】
図5は中間板材を省略した他の実施の形態の側断面図、図6は図5に示した減振構造の分解図である。
本実施の形態による減振構造35Aは、図1に示した減振構造35の中間板材43が省略されている。基礎側部材11の上面13に、建物側部材17の下面15が直接対面する。基礎側部材11の上面13と建物側部材17の下面15とには積層滑り板21が設けられている。積層滑り板21は、上記同様に、建物19の荷重を建物側部材17を介して支持する。収容部27は、上面13の下側凹部23と下面15の上側凹部25を対向させて形成される。この収容部27には、上記同様に、軟質材料からなり下部29及び上部31を収容部27に嵌入させる粘性減衰部材33が嵌入されている。
【0038】
この減振構造35Aでは、建物側部材17の上側凹部25と、基礎側部材11の下側凹部23とに、粘性減衰部材33が嵌入し、地震により地盤と一体に基礎側部材11が移動すると、粘性減衰部材33が剪断方向に変形して、建物側部材17へ地震エネルギーが伝達される。そして、粘性減衰部材33が地震エネルギーによって変形するとともに、積層滑り板21の低摩擦による滑りで地震による揺れを起因とする加速度の低減となり、地盤側の揺れが建物側に伝わることを低減させる。この実施の形態による減振構造35Aによれば、中間板材43を省略して、最小構成で簡素な減振構造35Aを実現することができる。
【0039】
図7は中間板材を多層に構成した減振構造の側断面図である。
また、本発明に係る減振構造は、図7に示すように、中間板材43を複数層(図例では3層)に配設した減振構造35Bとしてもよい。図例のように複数の中間板材43が設けられる場合には、基礎側部材11と中間板材43の間、中間板材43と建物側部材17の間、及び中間板材同士の間に、積層滑り板21と、収容部27と、粘性減衰部材33が設けられることとなる。つまり、地震エネルギー低減部55が多段に配置されることとなる。
【0040】
このような多層構成とした減振構造35Bによれば、各粘性減衰部材33の変位量によって、より大きな地震エネルギーによる加速度の低減が可能となる。
【0041】
したがって、上記した各実施の形態に係る減振構造35,35A,35Bによれば、滑りと、粘りの機能部となる地震エネルギー低減部55をコンパクトに構成し、多数配置が可能となる。この結果、システムとしての簡素化を実現でき、木造建物19の基礎47と土台53の間に容易に設置することができるようになる。
【0042】
なお、本発明による減振構造は、基礎側部材11と建物側部材17を、基礎47、土台53に形成する、すなわち基礎47と基礎側部材11及び土台53と建物側部材17とをそれぞれ兼用する構成とすることで基礎側部材11と建物側部材17とを部材として構成せずに省略することも可能である。この場合、基礎47には下側凹部23が直接形成され、土台53には上側凹部25が直接形成され、これらによって形成される収容部27に粘性減衰部材33が嵌入されることとなる。また、積層滑り板21は、基礎47と土台53の間に挿入される。このような構成によれば、部材数を減らし、構造をさらに簡素にできるもので、すなわち、図に示したアンカーボルト49とナット51とによる固定構造を省くことが可能となる。
【0043】
また、上述のような基礎側部材11と基礎47との互いの固定構造は、実施の形態で述べたようにアンカーボルト49とナット51による締結固定構造として構成される他に、互いを接着固定する方法や、互いをビスや鎹で止める方法、側面に板材をあてがいその板材を介在させてビス止めする方法、長手方向に連続する蟻溝とこれに嵌入するレール状の突条とを嵌め合う構造や、磁力を用いた方法、或いはこれらの方法や構造を組み合わせたものなど、互いを密着固定する方法及び構造であれば、限定されるものではない。さらに、建物側部材17と土台53とが別体構造である場合においても同様である。
【0044】
また、上述した各実施の形態では、建物の構造として木造建築物である例を述べたが、木造に限らず、鉄骨構造の家屋などの建物に対しても、本発明の構造を構成することで、上記同様の効果を得ることができる。
【0045】
さらに、上述した各実施の形態では、揺れの原因として地震を例とし説明したが、地盤側と建物側との間においての揺れを低減させる構造であることから、その他の外的な力、例えば台風などの強風によるものや、周囲に振動源があるような環境など、その他を原因とする揺れを対象とすることができ、上記したように地盤側と建物側との間に配置構成することで揺れによる加速度の低減効果が得られるものである。
【符号の説明】
【0046】
11…基礎側部材
13…上面
15…下面
17…建物側部材
19…建物
21…積層滑り板
23…下側凹部
25…上側凹部
27…収容部
29…下部
31…上部
33…粘性減衰部材
35…減振構造
37…下端部
39…上端部
41…芯材
43…中間板材
45…柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎側部材と、
該基礎側部材の上面に下面が対面する建物側部材と、
前記基礎側部材の上面と前記建物側部材の下面とに設けられて建物の荷重を前記建物側部材を介して支持する積層滑り板と、
前記上面の下側凹部と前記下面の上側凹部を対向させて形成される収容部と、
軟質材料からなり下部及び上部を前記収容部に嵌入させる粘性減衰部材と、
を具備することを特徴とする減振構造。
【請求項2】
請求項1記載の減振構造であって、
前記粘性減衰部材の中心部に挿入され下端部が前記下側凹部に達するとともに、上端部が前記上側凹部に達する剛性を有する芯材と、
を具備することを特徴とする減振構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載の減振構造であって、
前記基礎側部材の上面と前記建物側部材の下面との間に、少なくとも一層の中間板材が設けられ、
前記基礎側部材と前記中間板材の間、前記中間板材と前記建物側部材の間、及び前記中間板材が二層以上のときは該中間板材同士の間に、前記積層滑り板と、前記収容部と、前記粘性減衰部材が設けられることを特徴とする減振構造。
【請求項4】
請求項1又は2又は3記載の減振構造であって、
前記建物側部材に下端が固定される一対の柱の間に、少なくとも一つの前記収容部及び前記粘性減衰部材、前記積層滑り板が設けられることを特徴とする減振構造。
【請求項5】
請求項1又は2又は3記載の減振構造であって、
前記建物側部材に下端縁が位置する耐力壁の下方に、少なくとも一つの前記収容部及び前記粘性減衰部材、前記積層滑り板が設けられることを特徴とする減振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−127056(P2012−127056A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277055(P2010−277055)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(595118892)株式会社ポラス暮し科学研究所 (32)
【Fターム(参考)】