説明

減速機およびこれを備える電動パワーステアリング装置

【課題】歯車の噛合い音を小さくでき、且つコスト安価な減速機およびこれを備える電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】入力歯車41の第1の支軸42および中間歯車43の第2の支軸44は、第1および第2のギヤハウジングに両持ち支持されている。出力歯車45の第3の支軸としての回転筒46は、第1のギヤハウジングに支持されている。第2のギヤハウジングに固定された位置決め軸31,33は、第1のギヤハウジングに形成された対応する位置決め孔32,34にルーズフィットで嵌め合わされている。各位置決め軸31,33が各位置決め孔32,34に対して移動することにより、第2のハウジングは第1のハウジングに対して、回転軸線L6回りに回転変位する。回転軸線L6と第2の支軸44の中心軸線L4とが合致するように、第2の支軸44の中心軸線L4が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機およびこれを備える電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの出力回転を、2段減速機構を用いて減速する構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、電動モータの出力軸に連結される入力軸と、中間軸と、出力軸が平行に配置されている。入力軸に連結された駆動ギヤと中間軸に連結された中間ギヤとの噛合いにより、1段目の減速が行われる。また、中間ギヤと出力軸に連結された出力ギヤとの噛合いにより、2段目の減速が行われる。
【特許文献1】特開2008−44425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記入力軸、中間軸および出力軸のそれぞれの一端を支持する第1のハウジングと、各軸のそれぞれの他端を支持する第2のハウジングとは、別体に形成されており、両者が互いに固定されている。このため、第1のハウジングと第2のハウジングの位置決めを精度よく行わないと、各ギヤの噛み合いがずれてしまい、これらのギヤの噛み合い状態を最適な状態にできないことから、噛合い音が増大してしまう。
【0004】
上記のようなずれを生じないようにするためには、第1および第2のハウジングを精度よく位置決めする必要があり、そのためには厳密な寸法公差の管理等が必要である。したがって、製造コストがかかる。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、歯車の噛合い音を小さくでき、且つコスト安価な減速機およびこれを備える電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、ハウジング(12)と、上記ハウジングに収容された平行軸歯車機構(19)と、を備え、上記平行軸歯車機構は、互いに平行な第1の支軸(42)、第2の支軸(44)および第3の支軸(46)と、上記第1の支軸によって支持された入力歯車(41)と、上記入力歯車に噛み合い上記第2の支軸によって支持された中間歯車(43)と、上記中間歯車に噛み合い上記第3の支軸によって支持された出力歯車(45)と、を含み、上記ハウジングは、上記第1の支軸の第1の端部(42a)、上記第2の支軸の第1の端部(44a)および上記第3の支軸を支持する第1のハウジング(23)と、上記第1の支軸の第2の端部(42b)および上記第2の支軸の第2の端部(44b)を支持する第2のハウジング(24)と、を含み、上記第1のハウジングおよび上記第2のハウジングは、上記第1の支軸とは平行な方向に延びた第1の位置決め軸(31)および第2の位置決め軸(33)を介して互いに位置決めされており、上記第1の位置決め軸および上記第2の位置決め軸は、上記第1のハウジングおよび上記第2のハウジングの何れか一方に固定され、他方に形成された第1の位置決め孔(32)および第2の位置決め孔(34)にルーズフィットで嵌め合わされており、上記第2の支軸の中心軸線(L4)は、上記第1の位置決め軸の中心軸線(L1)および上記第2の位置決め軸の中心軸線(L2)を含む平面(P1)において、上記第1の位置決め軸の中心軸線および上記第2の位置決め軸の中心軸線の間に配置され、各上記位置決め軸が各上記位置決め孔に対して移動することにより、上記第2のハウジングは第1のハウジングに対して所定の回転軸線(L6)回りに回転変位可能であり、上記所定の回転軸線と上記第2の支軸の中心軸線とが合致するように、第2の支軸の中心軸線が配置されていることを特徴とする減速機(18)である(請求項1)。
【0006】
本発明によれば、第1の位置決め軸と第1の位置決め孔との間にすき間が設けられているとともに、第2の位置決め軸と第2の位置決め孔との間にすき間が設けられている。このため、第2のハウジングを第1のハウジングに組み付けるときに、第2のハウジングが第1のハウジングに対して、所定の回転軸線回りにねじれるように回転することがある。
本発明によれば、所定の回転軸線と第2の支軸の中心軸線とが合致するようにされている結果、第2のハウジングは、第1のハウジングに対して第2の支軸の中心軸線回りに回転する。これにより、第2の支軸の中心軸線の位置は変わらないので、第2の支軸に支持された中間歯車と、第3の支軸に支持された出力歯車との噛み合い位置が変化することを防止できる。したがって、第1のハウジングに対する第2のハウジングの位置に拘らず、中間歯車と出力歯車との噛み合い状態を最適な状態に維持でき、両歯車の噛み合い音が大きくなることを防止できる。しかも、第1のハウジングと第2のハウジングとの相対位置がある程度ずれていてもよいので、これらのハウジングを厳密に位置合わせするための手間や構成が必要なく、製造コストを安価にできる。
【0007】
また、本発明において、上記第1の位置決め軸と第1の位置決め孔との径方向すき間をaとし、第2の位置決め軸と第2の位置決め孔との径方向すき間をbとし、第1の位置決め軸の中心軸線および第2の位置決め軸の中心軸線間の距離をLとすると、第1の位置決め軸の中心軸線と第2の支軸の中心軸線との間の距離Aは、下記式で表される場合がある(請求項2)。
【0008】
A={a/(a+b)}×L
この場合、所定の回転軸線と上記第2の支軸の中心軸線とを確実に合致することができる。
また、本発明において、操舵補助用の電動モータ(17)と、上記の減速機と、上記電動モータの出力が上記減速機を介して入力される転舵機構(7)と、を備える場合がある(請求項3)。この場合、静粛性に優れ且つ安価な電動パワーステアリング装置を実現できる。
【0009】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施の形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る電動パワーステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。
図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結しているステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結された例えばラックアンドピニオン機構からなる転舵機構7とを備えている。
【0011】
転舵機構7は、自在継手6を介して中間軸5に連結されたピニオン軸8と、車両の左右方向に延びる転舵軸9とを備えている。転舵軸9は、ピニオン軸8に設けられたピニオン8aに噛み合うラック9aと、ねじ軸9bとを有している。転舵軸9は、ラック9aおよびねじ軸9bが、単一の材料で同軸上に一体に形成されてなる。
ステアリングシャフト3は、車体に固定されたステアリングコラム10によって、図示しない軸受を介して回転可能に支持されている。
【0012】
転舵軸9は、車体に固定された主ハウジング11によって、図示しない軸受を介して直線往復動可能に支持されている。転舵軸9の一対の端部は、それぞれ主ハウジング11およびギヤハウジング12から突出し、各端部にはそれぞれタイロッド14が結合されている。各タイロッド14は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪15に連結されている。
【0013】
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン8aおよびラック9aによって、車両の左右方向に沿っての転舵軸9の直線運動に変換される。これにより、転舵輪15の転舵が達成される。
ピニオン軸8は、自在継手6を介して中間軸5に連なる入力軸8bと、ピニオン8aに連なる出力軸8cと、入力軸8bと出力軸8cとを同軸上に連結するトーションバー8dとを備えている。
【0014】
電動パワーステアリング装置1は、運転者の操舵を補助する操舵補助機構16を備えている。操舵補助機構16は、ブラシレスモータ等の操舵補助用の電動モータ17と、電動モータ17の動力(出力)を転舵機構7の転舵軸9に伝達する減速機としての動力伝達機構18と、を備えている。
動力伝達機構18は、電動モータ17の出力回転を減速する平行軸歯車機構としてのギヤ機構19と、ギヤ機構19の出力回転を転舵軸9の軸方向移動に変換するボールねじ機構等の運動変換機構20と、ギヤ機構19および運動変換機構20を収容するギヤハウジング12と、を備えている。
【0015】
上記のトーションバー8dを介する入力軸8bおよび出力軸8c間の相対回転変位量により操舵トルクを検出するトルクセンサ21が設けられている。トルクセンサ21によるトルク検出結果は、制御装置としてのECU22(電子制御ユニット)に入力される。また、図示しない車速センサからの車速検出結果がECU22に入力される。
ECU22は、トルクセンサ21からのトルク検出結果、および図示しない車速センサからの車速検出結果等に基づいて電動モータ17を制御する。具体的には、ECU22では、トルクと目標アシスト量との関係を車速毎に記憶したマップを用いて目標アシスト量を決定し、電動モータ17の発生するアシスト力を目標アシスト量に近づけるように制御する。
【0016】
図2は、電動パワーステアリング装置1の要部の断面図である。図2を参照して、動力伝達機構18のギヤ機構19は、ギヤハウジング12の第1および第2のギヤハウジング23,24内に収容されている。転舵軸9の軸方向Sに関して、第1のギヤハウジング23は、主ハウジング11と、第2のギヤハウジング24との間に配置されている。なお、以下では、転舵軸9の軸方向Sを単に「軸方向S」という。
【0017】
主ハウジング11は、転舵軸9のラック9a(図1参照)を収容するラックハウジング13と、後述する第1のモータハウジング25と、ラックハウジング13および第1のモータハウジング25を連結する連結部27とを含んでおり、これらのラックハウジング13、第1のモータハウジング25および連結部27が、単一の材料で一体に形成されている。
【0018】
電動モータ17のモータハウジング35は、互いに組み合わされた第1のモータハウジング25および第2のモータハウジング26を有している。第2のモータハウジング26は、第1のモータハウジング25の一端に外嵌固定されている。第1のモータハウジング25の一端面25aと、第1のギヤハウジング23の他端面23bのうちの一端面25aと対向する部分との間は、環状のシール部材28によって封止されている。第1のモータハウジング25と第1のギヤハウジング23とは、ねじ部材(図示せず)等を用いて固定されている。
【0019】
第1のギヤハウジング23の一端面23aおよび第2のギヤハウジング24の一端面24aは、それぞれ、転舵軸9の中心軸線L0とは直交する平坦な面に形成されており、互いに面接触している。
図3は、図2の矢印III方向に沿って見た動力伝達機構18の側面図である。なお、図2は、図3のII−II線に沿う断面を示している。図4(A)は、図3のIVA−IVA線に沿う断面図である。図4(B)は、図3のIVB−IVB線に沿う断面図である。図2、図3および図4(B)を参照して、第1のギヤハウジング23および第2のギヤハウジング24は、位置決め構造29によって相対的に位置決めされた状態で、複数の固定構造30を用いて互いに固定されている。
【0020】
位置決め構造29は、第1の位置決め軸31と、第1の位置決め孔32と、第2の位置決め軸33と、第2の位置決め孔34と、を含んでいる。
第1の位置決め軸31は、軸方向S(後述する第1の支軸42)と平行な方向に延びる円柱状のピン部材であり、モータハウジング35と対向するように配置されている。この第1の位置決め軸31の基端は、第2のギヤハウジング24の第1の固定孔36に圧入固定されている。第1の位置決め軸31の中間部および先端が、第2のギヤハウジング24から第1のギヤハウジング23側に突出している。
【0021】
第1の位置決め孔32は、第1のギヤハウジング23に形成されており、第1の位置決め軸31に対して軸方向Sと平行な方向に対向している。この第1の位置決め孔32は、例えば断面円形形状をなす丸孔である。図4(A)を参照して、第1の位置決め孔32の直径D2は、第1の位置決め軸31の直径D1と比べて僅かに(例えば、5μm程度)大きくされている。
【0022】
第1の位置決め孔32には、第1の位置決め軸31がルーズフィットで嵌め合わされている。
再び図2、図3および図4(B)を参照して、第2の位置決め軸33は、軸方向Sと平行な方向に真っ直ぐに延びる円柱状のピン部材であり、第1の位置決め軸31とは、ギヤ機構19を挟んで配置されている。この第2の位置決め軸33の基端は、第2のギヤハウジング24の第2の固定孔37に圧入固定されており、中間部および先端が、第2のギヤハウジング24から第1のギヤハウジング23側に突出している。
【0023】
第2の位置決め孔34は、第1のギヤハウジング23に形成されており、第2の位置決め軸33に対して軸方向Sと平行な方向に対向している。この第2の位置決め孔34は、例えば断面円形形状をなす丸孔である。第2の位置決め孔34の直径D4は、第2の位置決め軸33の直径D3とくらべて僅かに大きくされている。
第2の位置決め孔34には第2の位置決め軸33がルーズフィットで嵌め合わされている。
【0024】
図4(A)および図4(B)を参照して、第2の位置決め孔34の直径D4と、第2の位置決め軸33の直径D3との差(D4−D3)は、相対的に大きくされている。一方、第1の位置決め孔32の直径D2と、第1の位置決め軸31の直径D1との差(D2−D1)は、相対的に小さくされている。
図2および図3を参照して、上記の構成により、第1のギヤハウジング23と第2のギヤハウジング24とが固定構造30によって互いに固定されていないとき、第2のギヤハウジング24は、第1のギヤハウジング23に対して、矢印αで示すように、所定の回転軸線L6の回りを移動可能である。
【0025】
なお、第1のギヤハウジング23に第1の位置決め軸31を固定するとともに、第2のギヤハウジング24に第1の位置決め孔32を形成してもよい。また、第1のギヤハウジング23に第2の位置決め軸33を固定するとともに、第2のギヤハウジング24に第2の位置決め孔34を形成してもよい。
固定構造30は、第2のギヤハウジング24に形成されたねじ挿通孔38と、第1のギヤハウジング23に形成されたねじ孔39と、固定ねじ40と、を含んでいる。ねじ挿通孔38は、第2のギヤハウジング24を貫通している。ねじ孔39は、ねじ挿通孔38と対向している。固定ねじ40は、これらのねじ挿通孔38およびねじ孔39を挿通しており、ねじ孔39に螺合している。
【0026】
固定ねじ40の頭部40aと第1のギヤハウジング23の一端面23aとによって、第2のギヤハウジング24のうちねじ挿通孔38の周縁部が締め付けられている。
固定構造30は、ギヤハウジング12を軸方向Sに沿って見たときに、ギヤ機構19の周囲を取り囲むように複数(例えば、4つ)設けられている。
図2を参照して、ギヤ機構19は、電動モータ17によって駆動される入力歯車41と、入力歯車41を同行回転可能に且つ同軸的に支持する第1の支軸42と、入力歯車41に噛み合わされたアイドルギヤとしての中間歯車43と、中間歯車43を同行回転可能に且つ同軸的に支持する第2の支軸44と、中間歯車43に噛み合わされた出力歯車45と、出力歯車45を同行回転可能且つ同軸的に支持する第3の支軸としての回転筒46と、を含んでいる。
【0027】
入力歯車41、中間歯車43および出力歯車45は、それぞれ、はすば歯車を用いて形成されている。なお、これらの歯車41,43,45として、平歯車等の、平行軸歯車機構に適した他の歯車を用いてもよい。第1の支軸42、第2の支軸44および回転筒46は、軸方向Sとは平行な方向に延びており、互いに平行である。
入力歯車41および第1の支軸42は、第1および第2のギヤハウジング23,24に連通するように形成された収容孔49,50に収容されている。第1の支軸42の第1の端部42aは、軸受51を介して収容孔49の内周面に回転可能に支持されている。第1の支軸42の第1の端部42aは、セレーションやスプライン等を用いる継手47を介して、電動モータ17の出力軸48に同行回転可能に連結されている。第1の支軸42の第2の端部42bは、軸受52を介して収容孔50の内周面に回転可能に支持されている。入力歯車41は、これらの軸受51,52の間に配置されている。
【0028】
中間歯車43および第2の支軸44は、第1および第2のギヤハウジング23,24に連通するように形成された収容孔53,54内に主に収容されている。第2の支軸44の第1の端部44aは、軸受55を介して収容孔53の内周面に回転可能に支持されている。第2の支軸44の第2の端部44bは、軸受56を介して収容孔54の内周面に回転可能に支持されている。中間歯車43は、これらの軸受55,56の間に配置されている。中間歯車43は、収容孔53,54から径方向外方に突出し、入力歯車41および出力歯車45に噛み合わされている。
【0029】
運動変換機構20は、転舵軸9の一部に設けられたねじ軸9bと、ねじ軸9bの周囲を取り囲むボールナットからなり出力歯車45によって駆動される回転筒46と、ねじ軸9の外周および回転筒46の内周の対応するねじ溝57,58間に介在するボール59と、を含んでいる。ねじ軸9bを有する転舵軸9の回転が規制されていることにより、回転筒46に入力された回転が、ねじ軸9bの軸方向移動に変換されるようになっている。
【0030】
回転筒46は、ギヤ機構19の一部を構成するとともに、運動変換機構20の一部を構成している。回転筒46は、第1および第2のギヤハウジング23,24に連通するように形成された収容孔61,62内に収容されている。回転筒46の中間部は、軸受63を介して、収容孔61の内周面に回転可能に支持されている。
回転筒46の中間部の外周には、出力歯車45が同行回転可能に連結されている。なお、本実施形態では、回転筒46は、第2のギヤハウジング24に支持されていないが、第2のギヤハウジング24の収容孔62の内周面に、軸受を介して回転可能に支持されていてもよい。
【0031】
図5は、動力伝達機構18を軸方向Sに沿って見たときの要部の模式図である。図5では、第1および第2の支軸42,44のそれぞれの第2の端部42b,44bが見えるように、動力伝達機構18を見たときの要部を示している。
図2および図5を参照して、本実施の形態の特徴の1つは、第2のギヤハウジング24が第1のギヤハウジング23に対してねじれるように位置ずれ(アライメント誤差)を起こしていても、中間歯車43と出力歯車45との噛み合い音が大きくならないようにしてある点にある。
【0032】
具体的には、第1の位置決め軸31の中心軸線L1および第2の位置決め軸33の中心軸線L2を含む第1の平面P1が規定されている。この第1の平面P1上に、第1の支軸42の中心軸線L3、および第2の支軸44の中心軸線L4の双方が配置されている。
第1の位置決め軸31、第1の支軸42、第2の支軸44および第2の位置決め軸33の順にこれらが並んでいる。第1および第2の支軸42,44の中心軸線L3,L4は、第1および第2の位置決め軸31,33の中心軸線L1,L2の間に配置されている。
【0033】
第1の平面P1と交差するように、第2の平面P2が規定されている。第2の平面P2は、第2の支軸44の中心軸線L4と、第3の支軸としての回転筒46の中心軸線L5とを含む面である。中心軸線L5,L0は、合致している。
図5は、第1の位置決め軸31の外周が第1の位置決め孔32の内周に対して矢印α方向の他方α2側に片寄せされていることにより、第1の位置決め軸31の外周が第1の位置決め孔32の内周に当接しており、且つ、第2の位置決め軸33が第2の位置決め孔34に対して矢印α方向の他方α2側に片寄せされていることにより、第2の位置決め軸33の外周が第2の位置決め孔34の内周に当接している状態を示している。
【0034】
第1の位置決め軸31の断面形状および第1の位置決め孔32の断面形状は、それぞれ円形形状をなしている。第1の位置決め軸31の外周と第1の位置決め孔32の内周との間に、径方向すき間aが設けられている。径方向すき間aは、第1の位置決め孔32の内周に対して第1の位置決め軸31の外周が、矢印αの他方α2側に最も片寄せされた状態から、矢印αの一方α1側に最も片寄せされた状態に変位したときの、第1の位置決め軸31の外周のラジアル方向の変位量をいう。この径方向すき間aは、例えば、0.02mm程度に設定されている。
【0035】
第2の位置決め軸33の断面形状および第2の位置決め孔34の断面形状は、それぞれ円形形状をなしている。第2の位置決め軸33の外周と第2の位置決め孔34の内周との間に、径方向すき間bが設けられている。径方向すき間bは、第2の位置決め孔33の内周に対して第2の位置決め軸34の外周が、矢印αの他方α2側に最も片寄せされた状態から、矢印αの一方α1側に最も片寄せされた状態に変位したときの、第2の位置決め軸33の外周のラジアル方向の変位量をいう。この径方向すき間bは、例えば、0.04mm程度に設定されている。
【0036】
径方向すき間aは相対的に小さい値に設定されており、径方向すき間bは相対的に大きい値に設定されている。すなわち、径方向すき間aは、径方向すき間bよりも小さくされている(a<b)。また、第1の位置決め軸31の中心軸線L1と第2の位置決め軸33の中心軸線L2とは、所定の距離Lを隔てて平行に並んでいる。第1の位置決め軸31の中心軸線L1と第2の支軸44の中心軸線L4との間の距離Aは、下記式(1)で表される値に設定されていることにより、後述する回転軸線L6と中心軸線L4とが合致している。
【0037】
A={a/(a+b)}×L・・・・・(1)
第1および第2の位置決め軸31,33は、対応する位置決め孔32,34内で、当該対応する位置決め孔32,34に対して移動可能となっている。このため、固定構造30により第1および第2のギヤハウジング23,24が固定されていないとき、第2のギヤハウジング24は、第1のギヤハウジング23に対して、所定の回転軸線L6回りに回転変位することがある。この場合、第1の支軸42の第2の端部42b、入力歯車41、第2の支軸44の第2の端部44b、および中間歯車43も、所定の回転軸線L6回りに回転変位する。
【0038】
しかしながら、回転軸線L6と第2の支軸44の中心軸線L4とを合致させている。これにより、後述するように、中間歯車43と出力歯車45との噛み合い位置Bは変化しない。
上記の概略構成を有する電動パワーステアリング装置1の第1および第2のギヤハウジング23,24は、例えば、以下の手順で組み付けられる。
【0039】
すなわち、まず、図6に示すように、第2のギヤハウジング24に固定された第1および第2の位置決め軸31,33を、対応する第1および第2の位置決め孔32,34に挿入する(図6において、第1の位置決め軸31側のみを図示)。これにより、第1および第2のギヤハウジング23,24が互いに位置決めされる。次いで、図7に示すように、各固定ねじ40を対応するねじ挿通孔38およびねじ孔39にそれぞれ挿通し、各固定ねじ40の軸部40bを対応するねじ孔39にそれぞれ螺合する(図7では、1つの固定ねじ40についてのみ図示)。
【0040】
図2および図3を参照して、前述したように、第1の支軸42および第2の支軸44は、第1および第2のギヤハウジング23,24の双方によって支持されている。一方、第3の支軸としての回転筒46は、第1のギヤハウジング23に支持されているが、第2のギヤハウジング24によって支持されていない。
また、第1および第2のギヤハウジング23,24を組み付ける際に、前述したように、第2のギヤハウジング24が、第1のギヤハウジング23に対して回転軸線L6回りに位置ずれを起こす場合がある。
【0041】
具体的には、例えば、模式図である図8に示すように、第1の位置決め軸31が第1の位置決め孔32に対して、回転軸線L6回りの一方A1側に、径方向すき間aに相当する量だけ移動することにより、第1の位置決め軸31の外周が第1の位置決め孔32の内周に当接する。また、第2の位置決め軸33が第2の位置決め孔34に対して、回転軸線L6回りの一方A1側に、径方向すき間bに相当する量だけ移動することにより、第2の位置決め軸33の外周が第2の位置決め孔34の内周に当接する。
【0042】
図2および図8を参照して、この場合、第1の支軸42の第2の端部42b、入力歯車41、第2の支軸44の第2の端部44b、および中間歯車43は、所定の回転軸線L6(第2の支軸44の中心軸線L4)の回りを回転変位する。
ここで、回転軸線L6と第2の支軸44の中心軸線L4とは合致しているので、回転軸線L6回りに関する第1および第2のギヤハウジング23,24の相対位置に拘らず、第2の支軸44に支持された中間歯車43の位置は、不変である。換言すれば、第1の位置決め軸31の外周と第1の位置決め孔32の内周との相対位置、および第2の位置決め軸33の外周と第2の位置決め孔34の内周との相対位置に拘らず、中間歯車43の位置は、不変である。
【0043】
したがって、回転軸線L6回りに関する第1および第2のギヤハウジング23,24の相対位置に拘らず、中間歯車43と出力歯車45との噛み合い位置Bは、変化しない。
図9は、図8の要部の模式図である。図8および図9を参照して、中心軸線L4と回転軸線L6とを合致するための上記式(1)について説明する。径方向すき間aおよび径方向すき間bは、いずれも、1mm程度の小さな値に設定されている。このため、第1の位置決め軸31および第2の位置決め軸33が回転軸線L6回りに移動できる量は極めて小さい。したがって、回転軸線L6回りの第1の位置決め軸31の回転変位、および第2の位置決め軸33の回転変位は、実質的に直線変位であると考えることができる。
【0044】
このため、矢印α方向の他方α2側に片寄せされているときの第1の位置決め軸31の中心軸線L1と、矢印αの一方α1側に片寄せされているときの第1の位置決め軸31の中心軸線L1’との間の距離は、径方向すき間aに等しい。
同様に、矢印α方向の他方α2側に片寄せされているときの第2の位置決め軸33の中心軸線L2と、矢印α方向の一方αに片寄せされているときの第2の位置決め軸33の中心軸線L2’との間の距離は、径方向すき間bに等しい。
【0045】
回転軸線L6、および第1の位置決め軸31の中心軸線L1,L1’を結ぶ三角形T1と、回転軸線L6、および第2の位置決め軸33の中心軸線L2,L2’を結ぶ三角形T2とは、2組の角θ,θ’がそれぞれ等しい。したがって、これらの三角形T1,T2は、相似である。
よって、これらの三角形T1,T2の相似の関係から、第1の位置決め軸31の中心軸線L1と回転軸線L6との間の距離は、上記式(1)の値と同じである。したがって、第1の位置決め軸31の中心軸線L1と第2の支軸44の中心軸線L4との間の距離Aを、上記式(1)のように設定することで、第2の支軸44の中心軸線L4と、回転軸線L6とを合致することができる。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態によれば、第2のギヤハウジング24を第1のギヤハウジング23に組み付けるときに、第2のギヤハウジング24が第1のギヤハウジング23に対して、所定の回転軸線L6回りにねじれるように回転することがある。
このとき、所定の回転軸線L6と第2の支軸44の中心軸線L4とが合致するようにされている結果、第2のギヤハウジング24は、第1のギヤハウジング23に対して、第2の支軸44の中心軸線L4回りに回転する。これにより、中心軸線L4の位置は変わらないので、第2の支軸44に支持された中間歯車43と、第3の支軸としての回転筒46に支持された出力歯車45との噛み合い位置Bが変化することを防止できる。
【0047】
したがって、第1のギヤハウジング24に対する第2のギヤハウジング23の位置に拘らず、中間歯車43と出力歯車45との噛み合い状態を最適な状態に維持でき、両歯車43,45の噛み合い音が大きくなることを防止できる。
しかも、第1のギヤハウジング23と第2のギヤハウジング24との相対位置がある程度ずれていてもよいので、これら第1および第2のギヤハウジング23,24を厳密に位置合わせするための手間や構成が必要なく、製造コストを安価にできる。
【0048】
また、第1の位置決め軸31の中心軸線L1と第2の支軸44の中心軸線L4との間の距離Aを、上記式(1)のように設定している。これにより、回転軸線L6と第2の支軸44の中心軸線L4とを確実に合致することができる。
また、第1および第2の位置決め軸31,33を、第1のギヤハウジング23の対応する位置決め孔32,34にルーズフィットで嵌め合わせることができる。これにより、第1および第2の位置決め軸31,33の、第1のギヤハウジング23への挿入作業を容易に行うことができる。
【0049】
また、第1の位置決め孔32および第2の位置決め孔34の双方を、断面円形形状の丸孔にできる。したがって、第1および第2の位置決め孔32,34の何れかを長孔にすることにより対応する位置決め軸の位置を調整可能とする構成を採用する必要がない。このため、第1および第2の位置決め孔32,34の形成にかかるコストを安くでき、製造コストをより低減することができる。
【0050】
さらに、第1の支軸42の中心軸線L3と、第2の支軸44の中心軸線L4とを、第1の平面P1上に並ぶように配置している。これにより、第1および第2のギヤハウジング23,24が回転軸線L6回りに位置ずれした場合でも、第1の支軸42に支持された入力歯車41と、第2の支軸44に支持された中間歯車43との噛み合い位置が変化することを抑制でき、両歯車41,43の噛み合い音が大きくなることを抑制できる。
【0051】
以上より、静粛性に優れ且つ安価な電動パワーステアリング装置1を実現できる。
本発明は、以上の実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、ステアリングコラムに動力伝達機構18を設けることにより、コラム式の電動パワーステアリング装置に本発明を適用してもよい。この場合、出力歯車45は、ピニオン軸8の出力軸8cに連結される。電動モータの出力は、動力伝達機構18、および出力軸8cを介して、転舵軸9に伝達される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】電動パワーステアリング装置の要部の断面図である。
【図3】図2の矢印III方向に沿って見た動力伝達機構の側面図である。
【図4】(A)は、図3のIVA-IVA線に沿う断面図であり、(B)は、図3のIVB−IVB線に沿う断面図である。
【図5】動力伝達機構を軸方向に沿って見たときの要部の模式図である。
【図6】第1のギヤハウジングと第2のギヤハウジングとを組み付ける工程を説明するための要部の断面図である。
【図7】第1のギヤハウジングと第2のギヤハウジングとを組み付ける工程を説明するための要部の断面図である。
【図8】動力伝達機構を軸方向に沿って見たときの要部の模式図である。
【図9】図8の要部の模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1…電動パワーステアリング装置、7…転舵機構、12…ギヤハウジング、17…電動モータ、18…動力伝達機構(減速機)、19…ギヤ機構(平行軸歯車機構)、23…第1のギヤハウジング、24…第2のギヤハウジング、31…第1の位置決め軸、32…第1の位置決め孔、33…第2の位置決め軸、34…第2の位置決め孔、41…入力歯車、42…第1の支軸、42a…(第1の支軸の)第1の端部、42b…(第1の支軸の)第2の端部、43…中間歯車、44…第2の支軸、44a…(第2の支軸の)第1の端部、44b…(第2の支軸の)第2の端部、45…出力歯車、46…回転筒(第3の支軸)、A…第1の位置決め軸の中心軸線と第2の支軸の中心軸線との間の距離、a,b…径方向すき間、L…第1の位置決め軸の中心軸線および第2の位置決め軸の中心軸線間の距離、L1…(第1の位置決め軸の)中心軸線、L2…(第2の位置決め軸の)中心軸線、L4…(第2の支軸の)中心軸線、L6…所定の回転軸線、P1…第1の平面(平面)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
上記ハウジングに収容された平行軸歯車機構と、を備え、
上記平行軸歯車機構は、互いに平行な第1の支軸、第2の支軸および第3の支軸と、上記第1の支軸によって支持された入力歯車と、上記入力歯車に噛み合い上記第2の支軸によって支持された中間歯車と、上記中間歯車に噛み合い上記第3の支軸によって支持された出力歯車と、を含み、
上記ハウジングは、上記第1の支軸の第1の端部、上記第2の支軸の第1の端部および上記第3の支軸を支持する第1のハウジングと、上記第1の支軸の第2の端部および上記第2の支軸の第2の端部を支持する第2のハウジングと、を含み、
上記第1のハウジングおよび上記第2のハウジングは、上記第1の支軸とは平行な方向に延びた第1の位置決め軸および第2の位置決め軸を介して互いに位置決めされており、
上記第1の位置決め軸および上記第2の位置決め軸は、上記第1のハウジングおよび上記第2のハウジングの何れか一方に固定され、他方に形成された第1の位置決め孔および第2の位置決め孔にルーズフィットで嵌め合わされており、
上記第2の支軸の中心軸線は、上記第1の位置決め軸の中心軸線および上記第2の位置決め軸の中心軸線を含む平面において、上記第1の位置決め軸の中心軸線および上記第2の位置決め軸の中心軸線の間に配置され、
各上記位置決め軸が各上記位置決め孔に対して移動することにより、上記第2のハウジングは第1のハウジングに対して所定の回転軸線回りに回転変位可能であり、
上記所定の回転軸線と上記第2の支軸の中心軸線とが合致するように、第2の支軸の中心軸線が配置されていることを特徴とする減速機。
【請求項2】
請求項1において、上記第1の位置決め軸と第1の位置決め孔との径方向すき間をaとし、第2の位置決め軸と第2の位置決め孔との径方向すき間をbとし、第1の位置決め軸の中心軸線および第2の位置決め軸の中心軸線間の距離をLとすると、第1の位置決め軸の中心軸線と第2の支軸の中心軸線との間の距離Aは、下記式で表されることを特徴とする減速機。
A={a/(a+b)}×L
【請求項3】
操舵補助用の電動モータと、
請求項1または2記載の減速機と、
上記電動モータの出力が上記減速機を介して入力される転舵機構と、を備えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−36748(P2010−36748A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202750(P2008−202750)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】