説明

減速機構付ワイパモータ

【課題】ワイパアーム反転時のギヤ衝突音を小さくできる減速機構付ワイパモータを提供する。
【解決手段】位置調整手段29によってアマチュアシャフト18をスラスト方向へ移動させることにより、ウォーム21,22の歯面をウォームホイール23,24の歯面に、また、ピニオン25,26の歯面を出力ギヤ27の歯面にそれぞれ当接させ、ウォーム21,22とウォームホイール23,24との間、およびピニオン25,26と出力ギヤ27との間のバックラッシュを吸収するようにした。この状態のもとでワイパモータ11を作動させることができるので、ワイパアーム反転時のギヤ衝突音を大幅に減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に搭載されるワイパ装置の駆動源として使用するワイパモータの減速機構に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、ウィンドガラスに付着した水滴を払拭するワイパ装置が設けてある。その駆動源であるワイパモータは、モータ本体の回転を減速して出力する減速機構を備えている。減速機構の一つとして、アマチュアシャフトに逆向きのねじれを持つウォームを一対形成し、これらウォームのそれぞれにウォームホイールを噛合し、これらウォームホイールに設けたピニオンのそれぞれに単一の出力ギヤを噛合したものが知られている(特許文献1参照)。つまり、この減速機構では、アマチュアシャフトの逆向きウォームのそれぞれにウォームホイールを噛合することで、アマチュアシャフトに作用するスラスト荷重を相殺し、スラスト軸受けの設置を不要にしている。
【特許文献1】特開2003−153488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この減速機構では、アマチュアシャフトからそれぞれのウォームホイールを介して出力ギヤに動力が伝達される。すなわち、2つの経路を経て出力ギヤに動力が伝達されるため、2つの動力伝達経路にあるそれぞれのウォームホイールおよび出力ギヤのバックラッシュの影響を受けて出力軸のガタが大きくなり、ワイパアーム反転時の負荷変動によるギヤ衝突音が大きくなる。なお、バックラッシュを小さくすることは、ギヤ衝突音の減少には役立つが、出力ギヤの組み付けが難しくなるという課題を有する。
【0004】
本発明の目的は、ワイパアーム反転時のギヤ衝突音を小さくできる減速機構付ワイパモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の減速機構付ワイパモータは、アマチュアシャフトと、前記アマチュアシャフトを収容し、前記アマチュアシャフトの一端側を回転可能に軸支するヨークと、前記アマチュアシャフトの他端側にそれぞれ逆向きのねじれの歯面を持って一体的に形成された一対のウォームと、前記ヨークに接続され、前記アマチュアシャフトの他端側を収容するギヤハウジングと、前記ギヤハウジングに収容され、前記一対のウォームと噛合する一対のウォームホイールと、前記一対のウォームホイールに一体的に形成された一対のピニオンと、前記ギヤハウジングに収容され、前記一対のピニオンと噛合する単一の出力ギヤとを備えた減速機構付ワイパモータであって、前記アマチュアシャフトの何れか一方の端部側には、前記アマチュアシャフトをスラスト方向に移動させる位置調整手段が設けられ、前記アマチュアシャフトの何れか他方の端部側には、前記位置調整手段により前記アマチュアシャフトのスラスト方向への移動を許容するクリアランスが設けられることを特徴とする。
【0006】
本発明の減速機構付ワイパモータは、前記位置調整手段を、前記ギヤハウジングに設けることを特徴とする。
【0007】
本発明の減速機構付ワイパモータは、前記位置調整手段は、前記ギヤハウジングに設けられる螺子孔と、前記螺子孔にねじ結合されて先端が前記アマチュアシャフトの端部に軸方向から当接される螺子部材とから構成することを特徴とする。
【0008】
本発明の減速機構付ワイパモータは、前記位置調整手段は、前記ギヤハウジングに設けられる空隙部と、前記空隙部内に移動自在に収容されて前記アマチュアシャフトの端部を軸方向から回動自在に支持するスペース部材と、前記スペース部材を前記アマチュアシャフト側へ移動させるべく前記空隙部に充填固化される充填材とから構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アマチュアシャフトの一方の端部側には位置調整手段が設けられ、他方の端部側には位置調整手段によるスラスト方向へのアマチュアシャフトの移動を許容するクリアランスが設けられるため、アマチュアシャフトのスラスト方向への位置調整が可能となる。これにより、ウォームの歯面をウォームホイールの歯面に、また、ピニオンの歯面を出力ギヤの歯面にそれぞれ当接させて、その位置でアマチュアシャフトを保持することができる。したがって、噛合する各ギヤ間のバックラッシュに起因するアマチュアシャフトのガタを無くすことができ、ワイパアーム反転時のギヤ衝突音の発生を抑制することができる。また、位置調整手段はアマチュアシャフトの一方の端部側だけに設ければよいので、コストの上昇が少なくて済む。さらに、アマチュアシャフトの位置調整は減速機構の組立後に行えばよく、出力ギヤの組み付けが難しくなることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0011】
図1は本発明の減速機構付ワイパモータを示す正面図を、図2は図1の減速機構を裏側から見た図を、図3はアマチュアシャフトの位置調整方法を説明する図を、図4は位置調整手段の変形例を示す断面図を、図5は本発明の減速機構付ワイパモータを用いたワイパ装置の構造図をそれぞれ表している。
【0012】
ワイパモータ11は、図1に示しようにモータ本体12と減速機構13とを備え、本発明における減速機構付ワイパモータを構成している。モータ本体12は有底筒状のヨーク14に収容され、減速機構13はギヤハウジング15に収容されており、ヨーク14とギヤハウジング15とはそれぞれ図示しない締結ボルトにより接続されている。なお、図1ではモータ本体12を断面表示してあるが、減速機構13はリッドを取り外した開口状態で示してある。
【0013】
ヨーク14の内面には一対のマグネット16が固着してあり、その内側にアマチュア17を収容配置してある。アマチュア17はアマチュアシャフト18を備え、その一端側(図中右側)は、軸受け19を介してヨーク14に回動可能に軸支されている。アマチュアシャフト18の他端側(図中左側)はギヤハウジング15に配置される軸受け38により回動自在に軸支されてギヤハウジング15内に突出している。ここで、各軸受け19,38は、それぞれヨーク14およびギヤハウジング15に対して回動自在に設けられており、これによりアマチュアシャフト18は各軸受け19,38により自動調芯されてスムーズに回動できるようになっている。
【0014】
アマチュア17に巻装されたコイル(図示せず)にはブラシ20から整流子(図示せず)を介して給電される。アマチュア17はコイルに給電した際に各マグネット16との間で生じる電磁力によって回転する。
【0015】
アマチュアシャフト18のギヤハウジング15内に突出する部分、つまり、アマチュアシャフト18の他端側には、逆向きのねじれを持つ一対のウォーム21,22を形成してある。これらウォーム21,22のそれぞれにウォームホイール23,24を噛合させてある。ウォームホイール23,24はアマチュアシャフト18を挟むようにして図中上下側に配置されて同一方向に回転駆動される。各ウォームホイール23,24にはピニオン25,26が一体に設けてあり、これらピニオン25,26には、単一の出力ギヤ27が噛合されている。なお、出力ギヤ27の出力軸としてのシャフト28には、クランクアーム(図示せず)が取り付けられており、このクランクアームは、図5に示すようにリンク機構100を介してワイパアーム101に連係されるようになっている。
【0016】
この減速機構13には、ウォーム21,22とウォームホイール23,24との間、およびピニオン25,26と出力ギヤ27との間のバックラッシュを吸収する位置調整手段29を設けてある。すなわち、ギヤハウジング15にボス部30を設けるとともに、ボス部30の内面に螺子孔31を形成し、この螺子孔31に螺子部材32をギヤハウジング15の外側(図中左側)からねじ込んである。そして、螺子部材32の先端部にクッションゴム33を介してローラ34を設置し、このローラ34をアマチュアシャフト18の先端側(一方の端部側)に当接させてある。
【0017】
次に、減速機構13の動作について説明する。
【0018】
まず、減速機構13の組立後に位置調整手段29を構成する螺子部材32によってアマチュアシャフト18を押さえ付け、図3の矢印(1)に示すように、アマチュアシャフト18のスラスト方向への位置を調整する。つまり、螺子部材32をねじ込んでローラ34をアマチュアシャフト18の先端に当接させ、アマチュアシャフト18を図中右方へ移動させる。このとき、アマチュアシャフト18の基端側(他方の端部側)には、ヨーク14の底部との間でクリアランス39が形成されているため、アマチュアシャフト18は図中右方へ移動可能となっている。そして、図3の矢印(2)に示すように、ウォーム21,22が移動してそれぞれの歯面がウォームホイール23,24の歯面に当接する。これにより、ウォーム21,22とウォームホイール23,24との間のバックラッシュ(ガタ)が吸収される。さらに螺子部材32をねじ込むことによりアマチュアシャフト18を図中右方へ移動させると、ウォームホイール23,24がそれぞれウォーム21,22と当接した状態で図3の矢印(3),(4)に示すように回転し、これに伴いウォームホール23,24と一体に設けたピニオン25,26も矢印(3),(4)の方向に回転する。ピニオン25,26は出力ギヤ27と噛み合っているため、出力ギヤ27は矢印(3),(4)の方向へ回転力を受けるが、矢印(3)の方向と矢印(4)の方向に作用する回転力は、それぞれ出力ギヤ27に対して逆方向に作用するため、矢印(3)の方向と矢印(4)の方向に作用する回転力によりピニオン25,26と出力ギヤ27との間のバックラッシュ(ガタ)が吸収される。
【0019】
そして、上記のようにウォーム21,22とウォームホイール23,24との間、およびピニオン25,26と出力ギヤ27との間のバックラッシュを吸収した状態のもとで、ロックナットRNを用いて螺子部材32を固定し、その位置でアマチュアシャフト18を保持する。つまり、ウォーム21,22とウォームホイール23,24との間、およびピニオン25,26と出力ギヤ27との間におけるガタが無くなった状態でアマチュアシャフト18が保持される。ここで、ウォーム21,22をウォームホイール23,24に軽く当接させることにより上記各バックラッシュを吸収するようにすればよい。なお、図3中の符号Pは、ウォーム21,22とウォームホイール23,24との歯面同士の接触点、およびピニオン25,26と出力ギヤ27との歯面同士の接触点(合計4箇所)を示している。
【0020】
以上詳述したように、本実施の形態に係るワイパモータ11によれば、位置調整手段29によって、ウォーム21,22とウォームホイール23,24との間、およびピニオン25,26と出力ギヤ27との間のバックラッシュを吸収した状態のもとで、ワイパモータ11を作動させることができるので、ワイパモータ11の作動時におけるワイパアーム反転時のギヤ衝突音を大幅に減少させることができる。また、位置調整手段29はアマチュアシャフト18の一方の端部側だけに設ければよいので、コストの上昇が少なくて済む。さらに、アマチュアシャフト18の位置調整は減速機構13の組立後に行えばよく、出力ギヤ27の組み付けが難しくなることはない。なお、ギヤハウジング15内に位置調整手段29をアマチュアシャフト18に沿って配置してあるので、ギヤハウジング15の内部スペースを有効に利用することができ、ギヤハウジング15のコンパクト化に役立つ。
【0021】
なお、ワイパモータ11から発生するノイズは、モータ本体12から発生する周波数450〜550Hzの磁気ノイズと、減速機構13から発生する周波数100〜300Hzのギヤノイズに大別される。位置調整手段29でアマチュアシャフト18のガタを無くしておくと、ギヤノイズが3〜7dB(POA)低減され、磁気ノイズが3dB(POA)低減されることが実験で確認された。
【0022】
ところで、アマチュアシャフト18のガタを吸収するための位置調整手段には、図4に示すようなものもある。
【0023】
すなわち、ギヤハウジング15に空隙部35を設け、この空隙部35の内部に、アマチュアシャフト18の先端側を回動自在に支持するスペース部材36を移動自在に収容しておく。そして、空隙部35に充填材37を所定圧で充填してスペース部材36をアマチュアシャフト18側へ移動させる。その後、充填材37を固化させてアマチュアシャフト18のスラスト方向への位置を保持するようにする。この場合にも、上述した螺子部材32によるアマチュアシャフト18のスラスト方向への位置調整と同様の作用効果が期待できる。
【0024】
本発明は以上の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、以上の形態おいては、アマチュアシャフト18の減速機構13側(先端側)に位置調整手段29を設けたものを示したが、本発明はこれに限らず、アマチュアシャフト18のモータ本体12側(基端側)に位置調整手段29を設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の減速機構付ワイパモータを示す正面図である。
【図2】図1の減速機構を裏側から見た図である。
【図3】アマチュアシャフトの位置調整方法を説明する図である。
【図4】位置調整手段の変形例を示す断面図である。
【図5】本発明の減速機構付ワイパモータを用いたワイパ装置の構造図である。
【符号の説明】
【0026】
11 ワイパモータ(減速機構付ワイパモータ)
12 モータ本体
13 減速機構
14 ヨーク
15 ギヤハウジング
16 マグネット
17 アマチュア
18 アマチュアシャフト
19 軸受け
20 ブラシ
21,22 ウォーム
23,24 ウォームホイール
25,26 ピニオン
27 出力ギヤ
28 シャフト
29 位置調整手段
30 ボス部
31 螺子孔
32 螺子部材
33 クッションゴム
34 ローラ
35 空隙部(位置調整手段)
36 スペース部材(位置調整手段)
37 充填材(位置調整手段)
38 軸受け
39 クリアランス
100 リンク機構
101 ワイパアーム
RN ロックナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アマチュアシャフトと、
前記アマチュアシャフトを収容し、前記アマチュアシャフトの一端側を回転可能に軸支するヨークと、
前記アマチュアシャフトの他端側にそれぞれ逆向きのねじれの歯面を持って一体的に形成された一対のウォームと、
前記ヨークに接続され、前記アマチュアシャフトの他端側を収容するギヤハウジングと、
前記ギヤハウジングに収容され、前記一対のウォームと噛合する一対のウォームホイールと、
前記一対のウォームホイールに一体的に形成された一対のピニオンと、
前記ギヤハウジングに収容され、前記一対のピニオンと噛合する単一の出力ギヤとを備えた減速機構付ワイパモータであって、
前記アマチュアシャフトの何れか一方の端部側には、前記アマチュアシャフトをスラスト方向に移動させる位置調整手段が設けられ、
前記アマチュアシャフトの何れか他方の端部側には、前記位置調整手段により前記アマチュアシャフトのスラスト方向への移動を許容するクリアランスが設けられることを特徴とする減速機構付ワイパモータ。
【請求項2】
請求項1記載の減速機構付ワイパモータにおいて、前記位置調整手段を、前記ギヤハウジングに設けることを特徴とする減速機構付ワイパモータ。
【請求項3】
請求項2記載の減速機構付ワイパモータにおいて、前記位置調整手段は、前記ギヤハウジングに設けられる螺子孔と、前記螺子孔にねじ結合されて先端が前記アマチュアシャフトの端部に軸方向から当接される螺子部材とから構成することを特徴とする減速機構付ワイパモータ。
【請求項4】
請求項2記載の減速機構付ワイパモータにおいて、前記位置調整手段は、前記ギヤハウジングに設けられる空隙部と、前記空隙部内に移動自在に収容されて前記アマチュアシャフトの端部を軸方向から回動自在に支持するスペース部材と、前記スペース部材を前記アマチュアシャフト側へ移動させるべく前記空隙部に充填固化される充填材とから構成することを特徴とする減速機構付ワイパモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−83650(P2009−83650A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255679(P2007−255679)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】