説明

温度センサ接合部検査装置、及び、温度センサ接合部検査方法

【課題】温度センサのはんだ接合部の良否を、低コストで容易に導入可能な方法によって高精度で検査できる温度センサ接合部検査装置、及び、温度センサ接合部検査方法を提供する。
【解決手段】IGBT4が実装されたDCB基板3上にはんだ接合された温度センサ5の接合状態を検査する温度センサ接合部検査方法であって、温度センサ5に電流を通電し、DCB基板3に配設された放熱ベース部37の温度と温度センサ5の温度とをそれぞれ測定し、放熱ベース部37の温度と温度センサ5の温度との差に基づいて熱抵抗値を算出し、算出した熱抵抗値を予め設定された熱抵抗の閾値と比較して、温度センサ5のはんだ接合部35の検査を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサを基板に接合する温度センサ接合部の検査を行う温度センサ接合部検査装置、及び、温度センサ接合部検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、はんだ接合部を非破壊検査する方法として、X線CT等により接合部の画像を撮影し、画像中のはんだ部とボイド部の割合をもとに接合部の良否を判定する方法があった。また、PN接合を有する半導体電子部品のはんだ接合部の検査方法として、微少電流下でのPN接合順電圧を予め測定し、次に同順方向に大きな電流を通電して半導体電子部品を充分に発熱させ、通電終了後に微少電流におけるPN接合順電圧を再び測定して、通電前のPN接合順電圧と比較する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−310884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、半導体装置には動作中の温度を監視するための温度センサが設けられることが多く、この温度センサは、通常、半導体装置の基板にはんだ接合されている。温度センサのはんだ接合部の良否は伝熱性等に影響を与えるため、温度センサのはんだ接合部の検査は重要である。その検査方法としては上述したX線CT等の断層撮影による方法が挙げられるが、この方法は、はんだ部とボイド部の割合が撮影する断面の位置や二値化処理の閥値等によって変化するために一定の検出精度を保つことが容易でなく、高価な機材が必要であるため、導入は容易ではない。また、上述したPN接合を有する半導体電子部品のはんだ接合部の検査方法は温度センサのはんだ接合部に対して適用できるものではない。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、温度センサのはんだ接合部の良否を、低コストで容易に導入可能な方法によって高精度で検査できる温度センサ接合部検査装置、及び、温度センサ接合部検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、半導体装置が実装された回路基板上にはんだ接合された温度センサの接合状態を検査する温度センサ接合部検査装置であって、前記温度センサに電流を通電する電源供給部と、前記回路基板に配設された放熱ベース部の温度と前記温度センサの温度とをそれぞれ測定する温度測定部と、前記温度測定部により測定された前記放熱ベース部の温度と前記温度センサの温度との差に基づいて熱抵抗値を算出し、算出した熱抵抗値を予め設定された熱抵抗の閾値と比較して、温度センサの接合部の検査を行う制御部と、を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、半導体装置が実装された回路基板上にはんだ接合された温度センサの接合状態を、温度センサと放熱ベース部との間の熱抵抗値に基づいて判定できる。この方法は特殊な機材を利用することなく低コストで容易に実行可能である上、測定毎のばらつきが極めて小さく、容易に高精度で検査できる。さらに、温度センサの動作に影響するはんだ接合部の熱抵抗を直接的に測定して、この熱抵抗に基づいて直接的にはんだ接合部の機能の良否を判定できるので、実際の温度センサの動作への影響を基準とした的確な判定ができる。従って、半導体装置の温度を検出するための温度センサの接合状態を、高価な機材を必要としない方法によって、容易に高精度で検査できる。
【0006】
また、本発明は、上記温度センサ接合部検査装置において、前記温度センサは測温抵抗体であることを特徴とする。
本発明によれば、測温抵抗体である温度センサに通電して発熱させ、温度センサの温度と放熱ベース部の温度を測定することではんだ接合部の熱抵抗を正確に求めることができる。このため、測温抵抗体の特性を利用して、容易に高精度で、はんだ接合部の状態を検査できる。
【0007】
また、本発明は、上記温度センサ接合部検査装置において、前記制御部は、前記電源供給部による通電開始から温度を測定するまでの通電時間が熱抵抗に与える影響に基づいて予め設定された時間が経過した後に、前記温度測定部によって前記放熱ベース部の温度と前記温度センサの温度とを測定させることを特徴とする。
本発明によれば、温度センサへの通電開始から時間が経過して熱抵抗値の算出に適する状態になってから、温度を測定して熱抵抗を算出するので、熱抵抗値を正確に算出して高精度ではんだ接合部の状態を検査できる。
【0008】
また、本発明は、上記温度センサ接合部検査装置において、前記閾値は、前記電源供給部から前記温度センサに通電する電流値が熱抵抗に与える影響、及び、前記電源供給部による通電開始から前記温度測定部が温度を測定するまでの通電時間が熱抵抗に与える影響に基づいて設定されたことを特徴とする。
本発明によれば、温度センサに通電する電流値と温度測定までの通電時間が熱抵抗に与える影響を加味して閾値が設定されるので、熱抵抗値に基づいて正確にはんだ接合部の良否を判定できる。
【0009】
また、上記課題を解決するため、本発明は、半導体装置が実装された回路基板上にはんだ接合された温度センサの接合状態を検査する温度センサ接合部検査方法であって、前記温度センサに電流源から電流を通電するステップと、前記回路基板に配設された放熱ベース部の温度と前記温度センサの温度とをそれぞれ測定するステップと、前記放熱ベース部の温度と前記温度センサの温度との差に基づいて熱抵抗値を算出するステップと、算出した熱抵抗値を予め設定された熱抵抗の閾値と比較して、温度センサの接合部の検査を行うステップと、を有することを特徴とする。
本発明によれば、半導体装置が実装された回路基板上にはんだ接合された温度センサの接合状態を、温度センサと放熱ベース部との間の熱抵抗値に基づいて判定できる。この方法は特殊な機材を利用することなく低コストで容易に実行可能である上、測定毎のばらつきが極めて小さく、容易に高精度で検査できる。さらに、温度センサの動作に影響するはんだ接合部の熱抵抗を直接的に測定して、この熱抵抗に基づいて直接的にはんだ接合部の機能の良否を判定できるので、実際の温度センサの動作への影響を基準とした的確な判定ができる。従って、半導体装置の温度を検出するための温度センサの接合状態を、高価な機材を必要としない方法によって、容易に高精度で検査できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温度センサと放熱ベース部との間の熱抵抗値に基づいてはんだ接合部の検査を行える。この方法は特殊な機材を利用することなく低コストで容易に実行可能である上、測定毎のばらつきが極めて小さく、容易に高精度で検査できる。さらに、温度センサの動作に影響するはんだ接合部の熱抵抗を直接的に測定して、この熱抵抗に基づいて直接的にはんだ接合部の機能の良否を判定できるので、実際の温度センサの動作への影響を基準とした的確な判定ができる。従って、半導体装置の温度を検出するための温度センサの接合状態を、高価な機材を必要としない方法によって、容易に高精度で検査できる。
また、測温抵抗体の特性を利用して、測温抵抗体である温度センサに通電して発熱させ、温度センサの温度と放熱ベース部の温度を測定することではんだ接合部の熱抵抗を正確に求めることができ、容易に高精度で、はんだ接合部の状態を検査できる。
さらに、温度センサへの通電開始から時間が経過して熱抵抗値の算出に適する状態になってから、温度を測定して熱抵抗を算出するので、熱抵抗値を正確に算出し、高精度ではんだ接合部の状態を検査できる。
さらにまた、温度センサに通電する電流値と温度測定までの通電時間が熱抵抗に与える影響を加味して閾値が設定されるので、熱抵抗値に基づいて正確にはんだ接合部の良否を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態の検査方法の対象としてのパワーモジュールの構成を示す平面図である。
【図2】検査装置の構成および検査方法を示す説明図である。
【図3】検査方法の手順を示すフローチャートである。
【図4】熱抵抗値とボイド率との相関を示す相関係数と、温度センサに通電する電流値との相関を示す図表である。
【図5】熱抵抗値とボイド率との相関を示す相関係数と、温度センサに通電する通電時間との相関を示す図表である。
【図6】熱抵抗値とボイド率との相関を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の温度センサ接合部検査方法を適用した実施形態において、検査対象となる半導体装置の一実施例として、パワーモジュール1の構成を示す平面図である。また、図2はパワーモジュール1におけるはんだ接合部を検査する検査装置10の構成と、検査装置10を用いた検査方法を示す図であり、DCB基板3の断面構成を合わせて示す。
本実施形態で説明するパワーモジュール1は、合成樹脂製のケース2に、1または複数のIGBT4(半導体装置)を搭載したDCB基板3(回路基板)を収容したパッケージとして構成され、例えば、他のパワーモジュール1と並列接続されてIGBT4をブリッジ接続したインバータ回路を構成し、IGBT4のスイッチング動作によって三相交流電動機の駆動電流を出力するものである。
【0013】
ケース2は、DCB基板3を収容する空間を有する略箱形の樹脂製部材であり、上記空間の上部は蓋により覆われた構成としてもよい。
ケース2には、パワーモジュール1が上記駆動電流を入出力する3つの主端子21、22、23が配置され、DCB基板3を収容する空間には、主端子21に導通する内部配線板21a、主端子22に導通する内部配線板22a、及び、主端子23に導通する内部配線板23aがそれぞれ配置されている。
【0014】
DCB基板3は、後述するように、絶縁層としてのセラミックス層31(図2)の表面に銅箔32(図2)を接合して構成され、この銅箔32により回路パターンが形成される。銅箔32に形成された回路パターンには、IGBT4、IGBT4の温度を検出する温度センサ5、及び、IGBT4に付属する制御信号増幅回路やFWD(Free Wheeling Diode)等の各種回路(図示略)が実装されている。
【0015】
本実施形態のパワーモジュール1は2個のIGBT4と2個のFWD(図示略)を搭載した2素子型のモジュールであり、1個の温度センサ5が搭載され、銅箔32において各IGBT4及び温度センサ5が実装される各回路パターンは相互に絶縁されている。2個のIGBT4のコレクタ、エミッタの各端子は、内部配線板21a〜23aにワイヤーボンディング接合されている。
また、ケース2には、外部の制御回路(図示略)によりパワーモジュール1を制御するための複数の制御端子24が設けられ、DCB基板3を収容する空間には、各々の制御端子24に導通する複数の内部配線板24aが露出している。内部配線板24aには、IGBT4のゲート端子や温度センサ5の端子がワイヤーボンディング接合されている。
【0016】
図2に示すように、温度センサ5とIGBT4とが実装されるDCB基板3は、セラミックス層31、銅箔32、33、及び、銅箔33にはんだ接合部34を介して接合された放熱ベース部37を有し、銅箔32にはIGBT4及び温度センサ5がそれぞれはんだ接合部34、35により接合されている。また、放熱ベース部37はケース2(図1)の底面に露出して、外部のヒートシンク(図示略)に接合される。
セラミックス層31は熱伝導性の高いセラミックス材料で構成され、IGBT4が発する熱が銅箔32、セラミックス層31、銅箔33及びはんだ接合部36を経て、所定厚さの銅板等からなる放熱ベース部37に伝えられ、放熱される。
【0017】
IGBT4と同一のDCB基板3に実装された温度センサ5は、IGBT4を制御する制御回路(図示略)が、IGBT4のチップ温度が定格を超えないように制御を行うために設けられたセンサであり、白金測温抵抗体により構成される。温度センサ5の両端は、図1に示すように、それぞれ内部配線板24aに接合されている。これら2つの内部配線板24aに繋がる制御端子24を外部の制御回路(図示略)に接続すれば、該制御回路によって温度センサ5の抵抗値を検出することにより、温度を測定できる。
【0018】
パワーモジュール1においては、特に発熱が大きいIGBT4の近傍に温度センサ5が設けられる。例えば、V相電流を出力するパワーモジュール1が搭載する2個のIGBT4によりHiアームとLowアームを構成する場合、LowアームのIGBT4の近傍に温度センサ5が配置される。ここで、確実にIGBT4を保護するため、温度センサ5により検出される温度と、実際のIGBT4のチップ温度との差が所定値より小さいことが要求される。温度センサ5には、IGBT4の熱が、はんだ接合部34、セラミックス層31、及びはんだ接合部35を介して伝わるので、これら各部の仕様やIGBT4と温度センサ5との間の距離が、上記の要求を満たすように設計されている。
【0019】
ところで、一般にはんだ接合部34、35、36には、図2に示すようにボイドが発生することがある。ボイドの発生ははんだ接合部34、35、36の熱伝導に影響を与える可能性があり、特に、温度センサ5を接合するはんだ接合部35に多量の或いは大きなボイド35aが発生すると、温度センサ5による測定温度と温度センサ5のチップ温度との差が拡大するおそれがある。
そこで、本実施形態では、検査装置10によってはんだ接合部35におけるボイド35aの影響を検査し、はんだ接合部35の良否、すなわち、温度センサ5を用いたIGBT4の温度の測定に支障がないかどうかを判定する。
【0020】
検査装置10(温度センサ接合部検査装置)は、検査装置10の全体を中枢的に制御する制御部11と、制御部11の制御に従って温度センサ5に通電する電源部12(電源供給部)と、通電された温度センサ5の温度と、放熱ベース部37の温度とをそれぞれ測定する温度検出器15(温度測定部)と、制御部11により処理されたデータ等を外部の装置(図示略)との間で入出力するインタフェース18とを備えている。制御部11は、図示しないCPU、CPUが実行する制御プログラム及び各種設定値のデータ等を記憶したROM、CPUが処理するプログラムやデータを一時的に記憶するRAM等を備え、CPUが制御プログラムを実行することによって検査装置10の各部を制御する。
【0021】
電源部12は、温度センサ5の両端に接続される各制御端子24に接触する電源供給ライン13、14を介して、温度センサ5に電流を供給する。
温度検出器15は、温度センサ5に接する熱電対プローブ16、及び、放熱ベース部37の表面に接する熱電対プローブ17を備え、これら熱電対プローブ16、17により温度を検出(測定)する。
検査装置10による検査の際には、まず、温度センサ5の両端が接合された2個の制御端子24に電源供給ライン13、14が接続され、熱電対プローブ16が温度センサ5の表面に固定され、熱電対プローブ17が放熱ベース部37の表面に固定される。熱電対プローブ16,17は、例えば貼付等の方法により容易に固定できる。
【0022】
はんだ接合部35の検査においては、電源部12により、温度センサ5に電流が供給される。測温抵抗体である温度センサ5は通電により発熱して昇温され、その一方で、温度センサ5の熱がはんだ接合部35、セラミックス層31及びはんだ接合部36を介して放熱ベース部37に伝わるので、放熱ベース部37の温度も上昇する。ここで、温度検出器15によって、通電開始後の温度センサ5の温度及び放熱ベース部37の温度すなわちケース温度が検出され、検出された温度が制御部11により取得される。
【0023】
制御部11は、検出された温度センサ5の温度[℃]と放熱ベース部37の温度[℃]との差、及び、温度センサ5に通電した電力[W]に基づき、温度センサ5と放熱ベース部37との間の熱抵抗値Rth[℃/W]を算出する。制御部11は、はんだ接合部35の良否を判定するための熱抵抗の閾値を予めROMに記憶しており、この閾値を熱抵抗値Rthが超えた場合にははんだ接合部34を不良と判定し、それ以外の場合ははんだ接合部34を良と判定する。
熱抵抗の閾値は、はんだ接合部35におけるボイド率が、ボイド35aの影響により温度センサ5による測定温度とIGBT4のチップ温度との差が要求を満たす範囲で極大となった場合の熱抵抗値である。ここで、ボイド率とは、はんだ接合部35に占めるボイド35aの割合(断面積比、或いは体積比)である。熱抵抗値Rthが閾値以下の場合は、ボイド率が要求を満たす範囲内であり、はんだ接合部35は良品といえる。
【0024】
図3は、検査装置10による検査方法を示すフローチャートである。
検査装置10の制御部11は、電源部12を制御して、温度センサ5への通電を開始する(ステップS1)。
この温度センサ5への通電開始から、予め設定された所定時間が経過した後、制御部11は温度検出器15を制御して、熱電対プローブ16、17により温度を検出させる(ステップS2)。
ここで、制御部11は、温度検出器15が熱電対プローブ16により検出した温度センサ5の温度、及び、温度検出器15が熱電対プローブ17により検出した放熱ベース部37の温度に基づいて、温度センサ5と放熱ベース部37との間の熱抵抗値を算出する(ステップS3)。
そして、制御部11は、算出した熱抵抗値と、予め設定されて記憶している熱抵抗の閾値とを比較することにより、はんだ接合部34の判定を行う(ステップS4)。
【0025】
電源部12から温度センサ5に通電する際の電流値、及び、電源部12が温度センサ5への通電を開始してから温度検出器15により温度を測定(検出)するまでの通電時間は、熱抵抗値Rthとの相関が良好になるよう設定されている。
【0026】
図4は、熱抵抗値Rthとボイド率との相関を示す相関係数と、温度センサ5に通電する電流値との相関を示す図表である。
この図4に示す図表は、(1)ボイド率が既知の複数のパワーモジュール1の試料を用い、温度センサ5への通電開始から温度測定までの通電時間を1[sec]として熱抵抗値Rthを求め、(2)ボイド率の対数と熱抵抗値Rthとの相関をプロットして相関係数を求め、(3)通電する電流値を種々変化させて(2)の相関係数を求め、(4)相関係数と電流値との相関をプロットしたものである。
【0027】
図4に示すように、電流値が低いと相関係数が低く、電流値が高いと相関係数は十分に高くなる。図4の例では電流値が10[mA]以上であれば相関係数が十分に高くなり、電流値が20[mA]以上で相関係数がほぼ飽和する。従って、図4の例では、検査において温度センサ5に通電する電流値を20[mA]とすることが好ましい。
【0028】
図5は、熱抵抗値Rthとボイド率との相関を示す相関係数と、温度センサ5に通電を開始してから温度測定までの通電時間との相関を示す図表である。この図5に示す図表は、(1)ボイド率が既知の複数のパワーモジュール1の試料を用い、温度センサ5に通電する電流値を10[mA]として熱抵抗値Rthを求め、(2)ボイド率の対数と熱抵抗値Rthとの相関をプロットして相関係数を求め、(3)温度センサ5への通電開始から温度測定までの通電時間を種々変化させて(2)の相関係数を求め、(4)相関係数と通電時間との相関をプロットしたものである。
【0029】
図5に示すように、通電時間が短いと相関係数が低く、通電時間が長いと相関係数が十分に高くなる。図5の例では通電時間が0.1[sec]以上であれば相関係数が十分に高くなり、通電時間が1[sec]以上で相関係数がほぼ飽和する。従って、図5の例では、検査において温度センサ5への通電開始から温度測定までの通電時間を1[sec]とすることが好ましい。
【0030】
そして、図4及び図5に基づいて設定された電流値(10[mA])と通電時間(1[sec])に基づき、図6に示すように熱抵抗値Rthの閾値が決定される。
図6は、熱抵抗値Rthとボイド率との相関を示す図表である。この図6に示す図表は、(1)ボイド率が既知の複数のパワーモジュール1の試料を用い、温度センサ5に電流値(10[mA])、通電時間(1[sec])として通電して熱抵抗値Rthを求め、(2)ボイド率の対数と熱抵抗値Rthとの相関をプロットして相関係数を求め、(3)ボイド率の対数に対する熱抵抗値Rthについて単回帰分析による予測を行い、予測値を、ボイド率に対する熱抵抗値Rthとしてプロットしたもので、図中の縦軸は熱抵抗値、横軸はボイド率である。曲線Aは熱抵抗値Rthの予測値を示し、区間Bは熱抵抗値Rthの区間推定による信頼区間であり、区間Cは熱抵抗値Rthの予測区間である。
【0031】
仮に、温度センサ5へのボイド35aの影響の実態をもとに、要求を満たす範囲のボイド率の極大値が80[%]とした場合、熱抵抗値Rthの閾値Pは、ボイド率80[%]の切片における予測区間の下限とされる。
この例のように、熱抵抗の閾値は、ボイド率が既知の複数のパワーモジュール1の試料を用いたボイド率と熱抵抗値Rthとの相関を回帰分析して、適切に決定される。
【0032】
以上のように、本発明を適用した実施形態によれば、IGBT4が実装されたDCB基板3上にはんだ接合された温度センサ5の接合状態を検査する検査装置10は、温度センサ5に電流を通電する電源部12と、DCB基板3に配設された放熱ベース部37の温度と温度センサ5の温度とをそれぞれ測定する温度検出器15と、温度検出器15により測定された放熱ベース部37の温度と温度センサ5の温度との差に基づいて、温度センサ5と放熱ベース部37との間の熱抵抗値を算出し、算出した熱抵抗値を予め設定された熱抵抗の閾値と比較して、温度センサ5の接合部の検査を行う制御部11と、を備え、IGBT4が実装されたDCB基板3上にはんだ接合された温度センサ5の接合状態を、温度センサ5と放熱ベース部37との間の熱抵抗値に基づいて検査できる。この方法は特殊な機材を利用することなく低コストで容易に実行可能である上、測定する対象が明確に決まっているので、測定毎のばらつきが極めて小さい。このため、はんだ接合部35の良否を容易に高精度で判定できる。さらに、温度センサ5の動作に影響するはんだ接合部35の熱抵抗を直接的に測定して、この熱抵抗に基づいて直接的にはんだ接合部35の機能の良否を判定できるので、実際の温度センサ5の動作への影響を基準とした的確な判定ができる。従って、IGBT4の温度を検出するための温度センサ5の接合状態を、高価な機材を必要としない方法によって、容易に高精度で検査できる。
また、温度センサ5が通電により発熱し、この熱が放熱ベース部37に伝わるまで通電してから温度を測定し、簡単な演算を行うだけで良いので、非常に短い時間ではんだ接合部35の良否を判定できる。
【0033】
また、測温抵抗体である温度センサ5に通電して発熱させ、温度センサ5の温度と放熱ベース部37の温度を測定することではんだ接合部35の熱抵抗を正確に求めることができる。このため、測温抵抗体の特性を利用して、容易に高精度で、はんだ接合部35の状態を検査できる。
制御部11は、図4に示したように、電源部12による通電開始から温度を測定するまでの通電時間が熱抵抗に与える影響に基づいて予め設定された時間が経過し、熱抵抗値の算出に適する状態になってから、温度検出器15によって温度を測定して熱抵抗を算出するので、熱抵抗値を正確に算出して高精度ではんだ接合部35の状態を検査できる。
また、制御部11がはんだ接合部35の良否の判定に用いる閾値は、電源部12から温度センサ5に通電する電流値が熱抵抗に与える影響、及び、電源部12による通電開始から温度検出器15が温度を測定するまでの通電時間が熱抵抗に与える影響を加味して設定されているので、熱抵抗値に基づいてはんだ接合部35の良否を正確に判定できる。
【0034】
なお、上記実施形態においては、回路基板としてDCB基板(セラミックス絶縁基板)を用いる構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、絶縁基板であればDCB基板以外の基板を用いることができ、例えば、熱拡散シートや絶縁シートを用いた基板や、樹脂製の高熱伝導基板を用いてもよい。また、DCB基板3のセラミックス層31を構成する材料も特に制限は無く、アルミナ系、ジルコニア系、或いはその他のセラミックスを用いることができる。銅箔33、34、及び放熱ベース部37を構成する金属やこれら各層の厚みを含む各種仕様も任意であり、銅箔33、34により回路パターンを形成する方法も何ら制限されない。また、温度センサ5により温度を測定する対象の半導体素子は、IGBT4に限定されず、半導体素子の温度が定格範囲を超えないよう制御する目的で様々な半導体素子に対して適用可能である。温度センサ5は、白金測温抵抗体に限らず他の金属や半導体を用いた測温抵抗体を用いることもできる。また、温度センサ5の温度及び放熱ベース部37の温度を測定するために熱電対プローブ16、17を用いた構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、温度を検出する方法は任意に変更可能である。その他、検査装置10の細部構成や本発明の検査方法の適用範囲については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変更可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 パワーモジュール
3 DCB基板(回路基板)
4 IGBT(半導体素子)
5 温度センサ
10 検査装置(温度センサ接合部検査装置)
11 制御部
12 電源部(電源供給部)
13、14 電源供給ライン
15 温度検出器(温度測定部)
16、17 熱電対プローブ
24 制御端子
24a 内部配線板
31 セラミックス層
32、33 銅箔
34、35、36 はんだ接合部
35a ボイド
37 放熱ベース部
Rth 熱抵抗値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置が実装されたDCB基板上にはんだ接合された温度センサの接合状態を検査する温度センサ接合部検査装置であって、
前記温度センサに電流を通電する電源供給部と、
前記DCB基板に配設された放熱ベース部の温度と前記温度センサの温度とをそれぞれ測定する温度測定部と、
前記温度測定部により測定された前記放熱ベース部の温度と前記温度センサの温度との差に基づいて熱抵抗値を算出し、算出した熱抵抗値を予め設定された熱抵抗の閾値と比較して、温度センサの接合部の検査を行う制御部と、
を備えたことを特徴とする温度センサ接合部検査装置。
【請求項2】
前記温度センサは測温抵抗体であることを特徴とする請求項1記載の温度センサ接合部検査装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電源供給部による通電開始から温度を測定するまでの通電時間が熱抵抗に与える影響に基づいて予め設定された時間が経過した後に、前記温度測定部によって前記放熱ベース部の温度と前記温度センサの温度とを測定させることを特徴とする請求項1または2に記載の温度センサ接合部検査装置。
【請求項4】
前記閾値は、前記電源供給部から前記温度センサに通電する電流値が熱抵抗に与える影響、及び、前記電源供給部による通電開始から前記温度測定部が温度を測定するまでの通電時間が熱抵抗に与える影響に基づいて設定されたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の温度センサ接合部検査装置。
【請求項5】
半導体装置が実装されたDCB基板上にはんだ接合された温度センサの接合状態を検査する温度センサ接合部検査方法であって、
前記温度センサに電流源から電流を通電するステップと、
前記DCB基板に配設された放熱ベース部の温度と前記温度センサの温度とをそれぞれ測定するステップと、
前記放熱ベース部の温度と前記温度センサの温度との差に基づいて熱抵抗値を算出するステップと、
算出した熱抵抗値を予め設定された熱抵抗の閾値と比較して、温度センサの接合部の検査を行うステップと、
を有することを特徴とする温度センサ接合部検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−203113(P2011−203113A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70620(P2010−70620)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】