説明

測角レーダ装置

【課題】2つのアンテナ受信強度に基づいて検知対象物方向の角度を演算する測角レーダ装置において、その角度を精度よく求める。
【解決手段】送信アンテナ4から送信ビームを放射し、検知対象物からの反射ビームを2つの受信アンテナ5a,5bで受信する。受信ビームは、FM−CW送受信装置7及びA/D変換器8を経由して信号処理装置14に入力される。そして、アンテナゲイン差補正部18で、受信リファレンス信号メモリ部17から入力した受信アンテナ5a,5bのゲイン差のデータで受信ビーム強度を補正する。補正された受信ビームは、FFT処理部19で周波数解析され、CFAR処理部20で所定の閾値以上となるビーム強度が検知対象物からの成分として抽出される。周辺ノイズ補正部21は、抽出されたビーム強度から、その周波数近辺におけるビーム強度をノイズ成分として減算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信ビームを放射し、検知対象物で反射した反射ビームを指向角の異なる2つのアンテナで受信し、その受信ビームの強度から検知対象物方向の角度を演算する測角レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種センサや通信を使用して車両の走行をサポートしたり、道路状況の情報をドライバーや管理者に通知したり、または有料道路の料金収受を車両が走行したまま実施できるようにするという走行管理の構想が進められている。それらの中で必要となる技術の一つに、走行する車両や障害物などの検知対象物の位置検出があり、それを達成する手段としてレーダ装置が用いられていた。
【0003】
従来、そのようなレーダ装置として、特許文献1に示されるものがあった。図1は上記文献のレーダ装置が使用される状況を示す概念図である。路上には車両1と車両2が走行しており、車両1に搭載されたFM−CWレーダ装置3が前方の路上に対して送信ビームを放射し、異なる監視領域B1、B2からの電波を受信する2つの受信アンテナを用いて、監視領域内を走行する他車両2からの反射ビームを受信し、他車両2を検出する様子を示している。
【0004】
図6は、従来のFM−CWレーダ装置3の構成を示すブロック図である。FM−CWレーダ装置3は、送信ビームを車両前方に放射する送信アンテナ4、送信ビームの中心方向に対して中心方向が左に傾いた監視領域B1からの電波を受信する第1の受信アンテナ5a、送信ビームの中心方向に対して中心方向が右に傾いた監視領域B2からの電波を受信する第2の受信アンテナ5b、第1の受信アンテナ5aと第2の受信アンテナ5bのどちらか一方を一定時間毎に交互に有効にする受信アンテナ切り替えスイッチ6、常に送信ビームとしてFM−CW送信波を生成し、また受信ビームを信号処理装置で処理可能な周波数に変換するFM−CW送受信装置7、FM−CW送受信装置7が出力する受信ビーム強度をディジタル変換するA/D変換器8、A/D変換器8が出力する受信ビーム強度から監視領域にある検知対象物の(相対)距離、(相対)速度、及び受信ビーム中の検知対象物からの反射ビーム成分の強度を求める信号処理装置9、移動する検知対象物を検出するときに発生する誤差を補正する補正装置10および記憶装置11、2つの受信アンテナ5a,5bで受信される反射ビームの強度が異なることを利用して検知対象物の方向、即ち車両前方方向を基準とした検知対象物方向の角度を算出する測角装置12から構成されている。
【0005】
上記構成の従来技術のFM−CWレーダ装置3において、信号処理装置9では、まずA/D変換器8から入力した反射ビームの信号をFFT(高速フーリエ変換)などの手段を用いて周波数解析を行い、各周波数におけるビーム強度を演算する。次に、CFAR(Constant False Alarm Rate)などのスレッショルド設定手段を用いて、ビーム強度が所定閾値以上となる周波数を求めて、その周波数を検知対象物からの反射ビーム成分の周波数とする。そして、求めた検知対象物からの反射ビーム成分の周波数と、送信ビームの周波数の差を演算してビート周波数を算出し、このビート周波数から検知対象物の(相対)距離、および(相対)速度を演算して出力する。また、信号処理部9は、上記スレッショルド設定手段で所定の閾値以上となったビーム強度を、検知対象物からの反射ビーム成分の強度として測角装置12に出力する。そして、測角装置12は、入力した強度に基づき、検知対象物方向の角度を演算していた。
【0006】
ここで、測角装置12で行う検知対象物方向の演算について詳しく説明する。図7は、レーダ装置3が監視領域にある検知対象物を検出するときの、送信ビームの放射領域A、監視領域B1,B2、及び検知対象物2を示す図である。図7のように、監視領域B1,B2は、送信ビームの放射領域Aの中心方向に対して、それぞれ左右に角度θずれた方向を向いているので、受信アンテナ5a,5bの受信強度の特性は、それぞれ図8(a)における曲線S,Tとなる。2つのアンテナ5a,5bの受信強度A,Bの和(Σ)、差(Δ)、および和と差の比(Δ/Σ)を、図8(b)に示す。比(Δ/Σ)は、方向1と方向2の間の区間でほぼ直線となる。測角装置12はこの特性を利用し、信号処理部9から入力した検知対象物からの反射ビーム成分の強度の比(Δ/Σ)を求め、検知対象物方向の角度を演算する。
【0007】
【特許文献1】特開2000−241537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のようなレーダ装置3においては、受信アンテナ毎にゲインにばらつきがあるので、第1の受信アンテナ5aと第2の受信アンテナ5bでゲインが異なり、図9に示すように第1、第2の受信アンテナ5a,5bの受信ビーム強度は互いにそのゲイン差分ずれていた。このずれは、受信アンテナ5a,5bを切り替えたときに、受信ビーム強度の変動となって現れていた。また、受信ビーム強度には、検知対象物である他車両2からの反射ビーム成分だけでなく、検知対象物周辺からのノイズ成分が含まれていた。したがって、測角装置が検知対象物方向の角度を演算すると、その角度には上述の受信ビーム強度のずれ、およびノイズ成分による誤差があり、精度よく検知対象物方向の角度を算出することができないという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる問題を解決するためのものであり、2つのアンテナ受信強度に基づいて検知対象物方向の角度を演算する測角レーダ装置において、検知対象物方向の角度を精度よく求めることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、送信ビームを放射し、検知対象物で反射した反射ビームを2つのアンテナで受信し、それらの受信ビームの強度から検知対象物方向の角度を演算する測角レーダ装置において、2つのアンテナのゲイン差のデータを保持する受信リファレンス信号メモリ部と、アンテナの受信ビーム強度を前記アンテナゲイン差のデータに基づき補正して、2つのアンテナのアンテナゲイン差に起因する2つのアンテナの受信ビーム強度のずれを補正するアンテナゲイン差補正部と、を備えるものである。
【0011】
第2の発明は、送信ビームを放射し、検知対象物で反射した反射ビームを2つのアンテナで受信し、それらの受信ビームの強度から検知対象物方向の角度を演算する測角レーダ装置において、2つのアンテナのゲイン差のデータを保持する受信リファレンス信号メモリ部と、前記アンテナゲイン差のデータに基づき、2つのアンテナの受信ビーム強度のずれを補正するアンテナゲイン差補正部と、を備えるものである。
【0012】
第3の発明は、前記レーダ装置は、目標信号がノイズに埋もれるのを防止するため、受信ビームの強度に基づき制御ゲインを演算し、受信ビームを増幅する自動利得制御を行い、前記受信リファレンス信号メモリ部が保持するアンテナゲイン差のデータは、前記制御ゲインの値に対応したデータであり、前記演算した制御ゲインに基づき、対応するアンテナゲイン差を選択し、制御ゲインにより変化する受信ビーム強度のずれを補正するものである。
【0013】
第4の発明は、一方のアンテナが受信する標準反射体からの反射ビームの強度と、他方のアンテナが受信する標準反射体からの反射ビームの強度の差を、前記アンテナゲイン差として受信リファレンス信号メモリ部に書き込むゲイン差書き込み手段を備えたものである。
【0014】
第5の発明は、送信ビームを放射し、検知対象物で反射した反射ビームを2つのアンテナで受信し、受信した反射ビームを周波数解析して周波数毎のビーム強度を演算し、所定の閾値以上であるビーム強度を検知対象物からの反射ビーム成分の強度として抽出し、抽出したビーム強度から検知対象物方向の角度を演算する測角レーダ装置であって、前記抽出したビーム強度から、前記抽出したビーム強度の周波数近辺におけるビーム強度を減算する周辺ノイズ補正部を備え、前記周辺ノイズ補正部で減算されたビーム強度に基づき、検知対象物の方向を演算するものである。
【0015】
第6の発明は、前記周辺ノイズ補正部は、前記抽出したビーム強度の周波数より、大きい周波数におけるビーム強度と、小さい周波数におけるビーム強度のいずれか小さい方を、前記抽出したビーム強度から減算するものである。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、受信リファレンス信号メモリ部が保持する2つのアンテナのゲイン差のデータに基づき、アンテナゲイン差補正部がアンテナの受信ビーム強度を前記アンテナゲイン差のデータに基づき補正して、2つのアンテナのアンテナゲイン差に起因する2つのアンテナの受信ビーム強度のずれを補正するので、2つのアンテナの受信ビームから演算される検知対象物方向の角度を精度よく測定することができる。
【0017】
第2の発明によれば、受信リファレンス信号メモリ部が保持する2つのアンテナのゲイン差のデータに基づき、アンテナゲイン差補正部が2つのアンテナの受信ビーム強度のずれを補正するので、2つのアンテナの受信ビームから演算される検知対象物方向の角度を精度よく測定することができる。
【0018】
第3の発明によれば、自動利得制御の制御ゲインに対応したアンテナゲイン差のデータが選択されるので、制御ゲインにより変化する受信ビーム強度のずれを精度よく補正することができる。
【0019】
第4の発明によれば、一方のアンテナが受信する標準反射体からの反射ビームの強度と、他方のアンテナが受信する標準反射体からの反射ビームの強度の差を、アンテナゲイン差として受信リファレンス信号メモリ部に書き込むゲイン差書き込み手段を備えるので、アンテナゲイン差を簡易に設定することができる。
【0020】
第5の発明によれば、周辺ノイズ補正部が、抽出したビーム強度から、その抽出したビーム強度の周波数近辺におけるビーム強度を減算するので、その減算されたビーム強度から演算される検知対象物の方向の角度にはノイズによる誤差が含まれず、したがって検知対象物方向の角度を精度よく測定することができる。
【0021】
第6の発明によれば、前記周辺ノイズ補正部が、抽出したビーム強度の周波数より、大きい周波数におけるビーム強度と、小さい周波数におけるビーム強度のいずれか小さい方を、前記抽出したビーム強度から減算するので、抽出したビーム強度の周波数の近くに大きな成分がある場合でも、その成分が含まれないノイズ強度を選択でき、検知対象物方向の角度を精度よく測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の測角レーダ装置の実施の形態について、以下に説明する。尚、以下の説明では、FM−CW方式のレーダ装置について説明するが、本発明はこれに限るものではなく、2つの受信アンテナの受信ビームの強度から検知対象物方向の角度を求めるものであれば、他の種類のレーダ装置、例えばパルスレーダ等であってもよい。
【0023】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る測角レーダ装置が使用される状況を示す概念図である。路上には車両1と車両2が走行しており、車両1に搭載されたFM−CWレーダ装置13が前方の路上に対して送信ビームを放射し、監視領域B1、B2からの電波を受信する2つの受信アンテナを用いて、監視領域内を走行する他車両2からの反射ビームを受信し、他車両2を検出する様子を示している。
【0024】
図2は、実施の形態1に係るFM−CWレーダ装置13の構成を示すブロック図である。FM−CWレーダ装置13は、送信ビームを車両前方に放射する送信アンテナ4、送信ビームの中心方向に対して中心方向が左に傾いた監視領域B1からの電波を受信する第1の受信アンテナ5a、送信ビームの中心方向に対して中心方向が右に傾いた監視領域B2からの電波を受信する第2の受信アンテナ5b、第1の受信アンテナと第2の受信アンテナのどちらか一方を一定時間毎に交互に有効にする受信アンテナ切り替えスイッチ6、常に送信ビームとしてFM−CW送信波を生成し、また受信ビームを周波数変換するFM−CW送受信装置7、FM−CW送受信装置7の出力信号をディジタル変換するA/D変換器8、A/D変換器8が出力する受信ビームの周波数及び強度から監視領域にある検知対象物の相対距離、相対速度、及び受信ビーム中の検知対象物からの反射ビーム成分の強度を求める信号処理装置14、移動する検知対象物を検出するときに発生する誤差を補正する補正装置10および記憶装置11、2つの受信アンテナ5a,5bで受信される反射ビームの強度に基づき検知対象物の方向、即ち車両前方方向を基準とした検知対象物方向の角度を算出する制御・測角装置15から構成されている。
【0025】
また、信号処理装置14は、受信固定ゲイン決定部16、受信リファレンス信号メモリ部17、アンテナゲイン差補正部18、FFT処理部19、CFAR処理部20、周辺ノイズ補正部21から構成されている。
【0026】
本実施の形態では、FM−CW送受信装置7が内部で、検知対象物からの目標信号がFM−CW送受信装置7内で発生するノイズに埋もれないようにするために一般的に用いられている手段である自動利得制御(Automatic Gain Control)を行っている。即ち、A/D変換器8が出力する受信ビームの強度を、制御・測角装置15が一定周期でサンプリングし、絶対値が最大となった受信ビーム強度を受信固定ゲイン決定部16に出力する。受信固定ゲイン決定部16が、その受信ビーム強度の最大値から自動利得制御の制御ゲインを演算してFM−CW送受信装置7に送り、FM−CW送受信装置7が入力した制御ゲインで受信ビームを増幅する処理を行っている。
【0027】
また、本実施の形態の測角レーダ装置13では、第1の特徴的事項として、2つの受信アンテナ5a,5bのアンテナゲイン差による受信ビーム強度のずれを補正する処理を行っている。その処理について説明する。
【0028】
受信固定ゲイン決定部16が、自動利得制御の制御ゲインを演算してFM−CW送受信装置7に送るのと同時に、制御ゲインに対応するアドレス信号を受信リファレンス信号メモリ部17に送る。受信リファレンス信号メモリ部17は、図3に示すように、2つの受信アンテナ5a,5bのそれぞれに対応したメモリを備えており、制御・測角装置15から入力する受信アンテナ切替え信号に基づき現在使用している受信アンテナに対応するメモリを選択している。それぞれのメモリ上には、一定のアドレス間隔毎に制御ゲインに対応した補正データが保存されている。そして、受信固定ゲイン決定部16から入力したアドレス信号が指定するアドレスに保存されている補正データを読み出し、アンテナゲイン差補正部18に出力する。
【0029】
次に、アンテナゲイン差補正部18では、入力した補正データXを基に、補正値n=10Log10(X)(単位:dB)の演算を行い、この補正値nをA/D変換器8から入力する受信ビーム強度(単位:dB)に加算する。このような処理により、自動利得制御の制御ゲインに対応した補正データでアンテナゲイン差に起因する受信強度のずれが補正される。尚、受信リファレンス信号メモリ部17の一方の受信アンテナ5aに対応したメモリに格納されるデータは全て1であり、他方の受信アンテナ5bに対応したメモリに格納されるデータは受信アンテナ5a,5bのゲイン差、即ち(受信アンテナ5aのゲイン/受信アンテナ5bのゲイン)の値が保存されている。したがって、受信アンテナ5aの受信ビーム強度を補正する場合には、ゲイン差データは常に1であるから、n=0となり、受信ビームの信号は補正されない。また、受信アンテナ5bの受信ビーム強度を補正する場合には、n=10Log10{(受信アンテナ5bのゲイン/受信アンテナ5aのゲイン)}が受信ビーム強度に加算されるので、受信アンテナ5aを使用したときと同等な受信ビーム強度を得ることができる。
【0030】
上述したように、本実施の形態では、受信リファレンス信号メモリ部17が2つの受信アンテナ5a,5bのゲイン差のデータを予め保持しており、アンテナゲイン差補正部18がその受信リファレンス信号メモリ部17に保存されたゲイン差のデータに基づき、2つのアンテナ5a,5bの受信ビーム強度のずれを補正していることである。この処理を行うことにより、受信アンテナ5a,5bを切替えることにより発生していたアンテナゲイン差に起因する受信強度の変動を補正することができ、その結果、制御・測角装置15が演算する検知対象物方向の角度には受信強度のずれによる誤差が含まれず、精度よく求めることができる効果がある。また、FM−CW送受信装置13で自動利得制御を行っているので、自動利得制御の制御ゲインが変化すると、受信アンテナ5a,5bのゲイン差に起因する受信ビーム強度の変動幅が変化してしまうが、制御ゲインに基づき受信アンテナ5a,5bのゲイン差データを選択するようにしているので、このような問題も発生しない。
【0031】
また、本実施の形態の測角レーダ装置13では、第2の特徴的事項として、周辺ノイズ補正部21が、受信ビームの検知対象物成分の強度から、ノイズ成分のビーム強度を減算する処理を行っている。この処理について説明する。
【0032】
アンテナゲイン差補正部18で補正された受信ビームは、FFT処理部19で周波数解析されたあと、CFAR処理部20に出力され、各周波数におけるビーム強度が所定の閾値と比較され、所定の閾値以上となったビーム強度が検知対象物からの反射ビーム成分の強度として抽出される。この抽出されたビーム強度が周辺ノイズ補正部21に出力される。また同時に、抽出されたビーム強度の周波数近辺のビーム強度を所定周波数間隔毎にサンプリングして、周辺ノイズ補正部21に出力する。周辺ノイズ補正部21は、サンプリングしたビーム強度の平均値を演算する。そして、ビーム強度の平均値を、抽出したビーム強度から減算する。この処理は、受信ビームには、各周波数において強度がほぼ同じホワイトノイズが含まれるという仮定に基づいている。
【0033】
この処理を行うことにより、抽出した検知対象物から反射ビーム成分のビーム強度から、周辺ノイズを除去することができる。その結果、制御・測角装置15にて演算される検知対象物方向の角度には周辺ノイズ成分による誤差が含まれず、検知対象物方向の角度を精度よく求めることができる効果がある。
【0034】
次に、本実施の形態のレーダ装置13が受信アンテナ5aによる測定を開始して、受信アンテナ5bによる測定を終えるまでの測定の1サイクルの処理の流れを説明する。
【0035】
まず、制御・測角装置15が受信アンテナ切替え信号をアンテナ切り替えスイッチ6に出力し、使用する受信アンテナを受信アンテナ5bから受信アンテナ5aに切り替える。このとき同時に、制御・測角装置15は、受信固定ゲイン決定部16に、前回のサイクル中に一定周期でサンプリングしたA/D変換器出力の受信ビーム強度の最大値、即ち周波数解析前の受信ビームの最大値と、タイミング信号と、計測ステータス信号を出力する。また、受信リファレンス信号メモリ部17に、受信アンテナ切替え信号を出力する。
【0036】
受信固定ゲイン決定部は、計測ステータス信号を入力することで測定サイクルが変わったことを認識し、タイミング信号が入力されると、入力した受信ビーム強度の最大値から自動利得制御の制御ゲインを演算し、FM−CW送受信装置7に出力する。また、演算した制御ゲインに対応したアドレスを求め、アドレス信号を受信リファレンス信号メモリ部17に出力する。
【0037】
受信リファレンス信号メモリ部17は、制御・測角装置15から入力する受信アンテナ切替え信号から現在受信アンテナ5aが使用されていることを認識し、その受信アンテナ5aに対応したメモリを選択する。そして、受信固定ゲイン決定部16から入力するアドレス信号のアドレスに格納される補正データX(=1)を読み出し、アンテナゲイン差補正部18に出力する。アンテナゲイン差補正部18は入力した補正データを基に、加算値n(=10Log10(X)=0)を演算し、この加算値nを、A/D変換器8から入力する受信ビーム強度に加算する。
【0038】
その後、受信ビーム強度は、FFT処理部19、CFAR処理部20で処理され、受信ビーム中の検知対象物からの成分が抽出される。そして周辺ノイズ補正部21に入力され、周辺ノイズを除去する補正が行われる。周辺ノイズ成分が除去された受信強度が、補正装置10に出力され、特開2000−241537号公報に記載される補正が行われる。そして、制御・測角装置15はこの受信アンテナ5aで受信された後、アンテナゲイン差の補正、周辺ノイズを除去する補正がされたデータを保存する。ここまでの処理で、受信アンテナ5aによる測定が終了する。
【0039】
次に、アンテナ5bによる測定となり、まず、制御・測角装置15が受信アンテナ切替えスイッチ6に受信アンテナ切替え信号を出力し、使用する受信アンテナを受信アンテナ5aから受信アンテナ5bに切替える。同時に、受信固定ゲイン決定部16にタイミング信号を出力し、また受信リファレンス信号メモリ部17に受信アンテナ切替え信号を出力する。
【0040】
受信固定ゲイン決定部16はタイミング信号を入力すると、既に入力している前サイクルの受信ビーム強度の最大値から制御ゲインを演算し、FM−CW送受信装置7に出力する。このとき、既入力の受信ビーム強度の最大値で演算するので、受信アンテナ5aによる測定時と演算される制御ゲインは同じである。また、演算した制御ゲインに対応したアドレス信号を受信リファレンス信号メモリ部17に送信する。アドレス信号も受信アンテナ5aによる測定時と同じである。
【0041】
受信リファレンス信号メモリ部17は、制御・測角装置15から入力した受信アンテナ切替え信号により、受信アンテナ5bに対応したメモリを選択する。そして、受信固定ゲイン決定部16から入力したアドレス信号で指定されたアドレスの補正データを読み出す。読み出された補正データはアンテナゲイン差補正部18に出力される。
【0042】
アンテナゲイン差補正部18で、受信アンテナ5bで受信された受信ビーム強度(単位dB)に、加算値n=10Log10{(受信アンテナ5aのゲイン/受信アンテナ5bのゲイン)}が加算される。
【0043】
その後、受信ビーム強度は、受信アンテナ5aによる測定時と同様に処理され、制御・測角装置15に入力される。そして、制御・測角装置15は、受信アンテナ5aで受信された後に補正された検知対象物からの受信ビーム強度と、受信アンテナ5bで受信された後に補正された検知対象物からの受信ビーム強度から、検知対象物方向の角度を演算する。以上の処理で、測定の1サイクルが終了し、次のサイクルに進む。
【0044】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2に係るレーダ装置13について説明する。
【0045】
実施の形態2に係るレーダ装置13は、実施の形態1とは、周辺ノイズ補正部21の処理のみが異なる。周辺ノイズ補正部21は実施の形態1と同様にCFAR処理部20において、各周波数におけるビーム強度が所定の閾値と比較され、所定の閾値以上となったビーム強度が検知対象物からの反射ビーム成分の強度として抽出される。この抽出されたビーム強度が周辺ノイズ補正部21に出力される。また同時に、図4に示すように、抽出されたビーム強度の周波数近辺のビーム強度を所定周波数間隔毎にサンプリングして、周辺ノイズ補正部21に出力する。周辺ノイズ補正部23は、サンプリングしたビーム強度のうち、抽出したビーム強度の周波数より周波数が大きいビーム強度の平均値を演算し、また、抽出したビーム強度の周波数より周波数が小さいビーム強度の平均値を演算する。そして、いずれか小さい方のビーム強度の平均値を、抽出したビーム強度から減算する。
【0046】
上述の処理により、抽出したビーム強度の周波数より周波数が大きいビーム強度と、周波数が小さいビーム強度のいずれか小さい方のビーム強度を抽出したビーム強度から減算するので、図4のように抽出したビーム強度の周波数近辺に大きなノイズがあった場合でも、そのような大きなノイズの影響を受けることなく、周辺ノイズを除去できる効果がある。
【0047】
実施の形態3.
次に、本発明の実施の形態3に係るレーダ装置について説明する。
【0048】
図5は、実施の形態3に係るレーダ装置23の構成を示すブロック図である。実施の形態3においては、受信リファレンス信号メモリ部17に保存されるゲイン差を補正するための補正データを容易に設定し保存することを可能にしている。その処理について説明する。
【0049】
まず、送信アンテナ4および2つの受信アンテナ5a,5bの前に電波吸収体を配置する。そして、制御・測角装置22より受信アンテナ切替え信号を送り受信アンテナ5aを有効にし、また、受信固定ゲイン決定部16に任意の受信ビーム強度最大値とタイミング信号を送り、FM−CW送受信装置7に自動利得制御の制御ゲインを設定する。そして、送信アンテナ4より電波を送信する。制御・測角装置22のゲイン差書き込み部24は、A/D変換器8から直接入力する受信ビームの強度を所定時間サンプリングし、その強度の平均値を求める。次に、受信アンテナ切替え信号を送り受信アンテナ5bを有効にする。そして同様に、ゲイン差書き込み部24がA/D変換器8から直接入力する受信ビームの強度を所定時間サンプリングし、その強度の平均値を求める。以上の処理で求めた2つの受信アンテナ5a,5bによる受信ビームの平均値から、(受信アンテナ5aによる受信ビームの平均値/受信アンテナ5bによる受信ビームの平均値)を演算し、この演算した値を受信リファレンス信号メモリ部17が備える受信アンテナ5bに対応するメモリ上の設定した制御ゲインに対応したアドレスに書き込む。尚、受信アンテナ5aに対応するメモリには、製造時に'1'が書き込まれている。
【0050】
上記説明したように、本実施の形態のレーダ装置23においては、一方のアンテナ5aから出力される受信ビームの強度と、他方のアンテナ5bから出力される受信ビームの強度の差を、ゲイン差として受信リファレンス信号メモリ部17に書き込むゲイン差書き込み部を備えるので、受信リファレンス信号メモリ部17が保存するアンテナ5a,5bのゲイン差を簡単に設定することができ、また、簡易に製品出荷前のアンテナ5a,5bの試験を行うことができるので製品の価格を抑えることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】測角レーダ装置が使用される状況を示す概略図である。
【図2】実施の形態1に係る測角レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態1の受信リファレンス信号メモリ部を示す説明図である。
【図4】実施の形態2の測角レーダ装置の演算処理を説明するための説明図である。
【図5】実施の形態3に係る測角レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図6】従来技術の測角レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図7】送信ビームの放射領域A、監視領域B1,B2、及び検知対象物2を示す説明図である。
【図8】検出方向に対する受信アンテナの受信強度、およびその和、差、差/和のグラフである。
【図9】受信アンテナ間変動、周辺ノイズを説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 送信アンテナ、5a,5b 受信アンテナ、6 受信アンテナ切り替えスイッチ、7 FM−CW送受信装置、8 A/D変換器、10 補正装置、11 記憶装置、13 FM−CWレーダ装置、14 信号処理装置、15 制御・測角装置、16 受信固定ゲイン決定部、17 受信リファレンス信号メモリ部、18 アンテナゲイン差補正部、19 FFT処理部、20 CFAR処理部、21 周辺ノイズ補正部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信ビームを放射し、検知対象物で反射した反射ビームを2つのアンテナで受信し、それらの受信ビームの強度から検知対象物方向の角度を演算する測角レーダ装置において、
2つのアンテナのゲイン差のデータを保持する受信リファレンス信号メモリ部と、
アンテナの受信ビーム強度を前記アンテナゲイン差のデータに基づき補正して、2つのアンテナのアンテナゲイン差に起因する2つのアンテナの受信ビーム強度のずれを補正するアンテナゲイン差補正部と、
を備えることを特徴とする測角レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−126221(P2006−126221A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30570(P2006−30570)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【分割の表示】特願2002−9871(P2002−9871)の分割
【原出願日】平成14年1月18日(2002.1.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】