説明

湿式多板クラッチのセパレータプレート

【課題】湿式多板クラッチの構造を複雑化せずに、摩擦係数を向上させ、トルク容量が大きい湿式多板クラッチのセパレータプレートを提供すること。
【解決手段】湿式多板クラッチのセパレータプレート10は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂であるポリマー12を、金属製の基材14にコーティングしてなる。ポリマー12を基材14にコーティングすることによりセパレータプレート10の摩擦係数を向上させ、湿式多板クラッチの構造を複雑化せず、大きさや重量に影響を与えることなく、湿式多板クラッチのトルク容量を大きくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油中で動力の伝達・遮断を行う動力伝達装置で使用される湿式多板クラッチのセパレータプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の自動変速機においては、摩擦板とセパレータプレートとを交互に配した多板クラッチを組込み、潤滑油として使用されるATF(オートマチックトランスミッションフルーイッド)の中で、これらのプレートを相互に圧接させて摩擦係合させ、また、圧接から解放することによって、駆動力を伝達又は遮断するようにしている。
セパレータプレートに何らかの処理を施した湿式多板クラッチの一例として、特許文献1と2に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−247190号公報
【特許文献2】特開2002−147491号公報
【0004】
特許文献1には、セパレータプレートにクロムめっき処理が施され、摩擦板との係合面をシロキサン結合を持つ有機ケイ素化合物で被覆したセパレータプレートを具えた摩擦クラッチが開示されている。特許文献1の発明によれば、このようなセパレータプレートを用いることで、セパレータプレートと摩擦板の耐久性を向上させ、摩擦係数や微小変動に起因するスティックスリップ現象を防止できるとされている。
特許文献2の発明は、摩擦板の間に複数のセパレータプレートを配置し、セパレータプレートの相互に対向する面にコーティング処理や表面処理を施している。特許文献2によれば、複数のセパレータプレートを配置することで、ヒートスポット(熱変形)の発生を防止し、セパレータプレートの相互に対向する面にコーティング処理や表面処理を施せば、各セパレータプレート間の断熱、制振、衝撃吸収作用が働く、とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
湿式多板クラッチの課題の一つとして、トルク容量の大きさが挙げられる。無論、湿式多板クラッチの構造を複雑化せずに、トルク容量を大きくできるのが望ましい。しかし、特許文献1と2には、トルク容量を大きくする方法については、開示されていない。また、特許文献2の発明は、摩擦板の間に複数のセパレータプレートを配置することで、湿式多板クラッチの重量が増加する、という問題もある。
【0006】
そこで、本発明は、セパレータプレートにポリマーをコーティングすることにより、摩擦係数を向上させ、湿式多板クラッチのトルク容量を大きくすることが可能なセパレータプレートを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、湿式多板クラッチに使用されるセパレータプレートであって、
前記セパレータプレートの、少なくとも、摩擦材と係合する面に、ポリマーがコーティングされていることを特徴とする湿式多板クラッチのセパレータプレートによって前記課題を解決した。
また、請求項2のように、ポリマーに充填剤を添加すれば、セパレータプレートの耐久性が向上する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、セパレータプレートにポリマーをコーティングすることで、摩擦係数が向上するため、湿式多板クラッチの構造を複雑化せずに、トルク容量を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のセパレータプレートの概略図。
【図2】実施例1〜4及び比較例のμs、μdの測定結果を示す図。
【図3】実施例1〜4及び比較例のセパレートプレートを使用した湿式多板クラッチの摩擦材の摩耗量を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明のセパレータプレートの概略について、図1を参照しながら説明する。
セパレータプレート10は、ポリマー12を基材14にコーティングしてなる。ポリマー12としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いるのが好適である。具体的には、熱硬化性樹脂を用いる場合は、フェノール樹脂やエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等、熱可塑性樹脂を用いる場合は、フッ素樹脂、ポリフェトニレンサルファイド、ポリイミド、汎用プラスチック等を使用するのがよい。
さらに、上記樹脂の各種変性樹脂を使用してもよい。
基材14には、鉄、アルミニウム等の金属や合金が使用される。
なお、図1では、基材14の全体にポリマー12をコーティングしているが、コーティングは、摩擦板と係合する面のみにするだけでもよい。
【0011】
また、必要に応じて、ポリマー12に、充填剤を添加してもよい。これにより、セパレータプレート10の耐久性を向上させることができる。無機質の充填剤を用いる場合は、珪藻土、グラファイト、活性炭、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、ガラス繊維、タルク、二硫化モリブデン、セピオライト等を使用するのがよく、有機質の充填剤を用いる場合は、ゴム粉・セルロース、アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、アクリル、レーヨン等の微細化された有機繊維を使用するのが好適である。
【0012】
次に、ポリマー12を基材14にコーティングする方法について説明する。
ポリマー12は、ディッピング法により、基材14にコーティングされる。ディッピング法とは、コーティング液(液状ポリマー)に基材を浸漬した後、基材を引き上げ、基材に前記コーティング液(液状ポリマー)を塗布する方法をいう。ポリマー12は、液状ポリマーの粘度や液状ポリマーから基材14を引き上げる速度を調整することで、所望の膜厚とすることができる。
ディッピング法の他にも、スプレーやロールコータなど、一般的なコーティング法を適用してもよい。
【実施例】
【0013】
以下、実施例によって本発明のセパレータプレートを具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0014】
(実施例1)
フェノール樹脂をコーティングしたセパレータプレート。
(実施例2)
フェノール樹脂にカーボンブラックを添加した材料をコーティングしたセパレータプレート。
(実施例3)
フェノール樹脂に炭素繊維を添加した材料をコーティングしたセパレータプレート。
(実施例4)
ポリイミドをコーティングしたセパレータプレート。
(比較例)
ポリマーをコーティングしなかったセパレータプレート(従来品)。
【0015】
表1に、各実施例と比較例に対して行った耐久試験の要件と試験後のμs(静摩擦係数)、μd(動摩擦係数)の測定要件を示す。なお、耐久試験は、200サイクル実施した。
【0016】
【表1】

【0017】
図2に、各実施例と比較例のμs、μdの測定結果を示す。μsは、トルクの最大値から2秒後の値を元に算出した。
図2に示すとおり、各実施例は、比較例よりも、μsが高いことが分る。μdは、実施例1・2・3は比較例と同等以上であるが、実施例4は比較例よりも低い。比較例のセパレータプレートは、ポリマーのコーティングを行っていなかったため、各実施例と比べて、μdの実施例4を除き、μs、μdともに低かった。なお、トルク容量に関係するのは、μdよりもμsであるから、実施例4も、トルク容量を大きくするという本発明の目的を達成している。
【0018】
図3に、各実施例と比較例のセパレータプレートを使用した湿式多板クラッチの摩擦材の摩耗量を示す。
図3に示すように、各実施例と比較例の摩耗量の差は、15μmの範囲であり、これにより、ポリマーをコーティングしても、摩擦材の摩耗量に大きな影響がないことが分る。
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、セパレータプレートの基材の、少なくとも、摩擦板と係合する面に、ポリマーをコーティングすることにより、摩擦係数を向上させることができる。従って、湿式多板クラッチの構造を複雑化せず、また、大きさや重量に影響を与えることなく、トルク容量を大きくすることができる。また、ポリマーに充填剤を添加すれば、セパレータプレートの耐久性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0020】
10 セパレータプレート
12 ポリマー
14 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式多板クラッチに使用されるセパレータプレートであって、
前記セパレータプレートの基材の、少なくとも、摩擦板と係合する面に、ポリマーがコーティングされていることを特徴とする、
湿式多板クラッチのセパレータプレート。
【請求項2】
前記ポリマーに充填剤が添加されている、請求項1の湿式多板クラッチのセパレータプレート。
【請求項3】
前記ポリマーが熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である、請求項1又は2の湿式多板クラッチのセパレータプレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−57712(P2012−57712A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201216(P2010−201216)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000204882)株式会社ダイナックス (31)
【Fターム(参考)】