説明

湿式摩擦材

【課題】湿式摩擦材において、潤滑油量が多い部位、潤滑油が抜け難い部位においても確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができること。
【解決手段】湿式摩擦材1では、非締結状態において矢印の方向に回転したとき、分岐した矢印で示されるように内周から供給されるATFが回転後部側の拡がった部分3dに当接してATFが摩擦材基材3Bの摩擦面に供給され、更に摩擦材基材3Aの切り込み3aに当接してATFが摩擦材基材3Aの摩擦面の中間部分から外周側に供給される結果、摩擦材基材3A,3Bの摩擦面の全面にATFが積極的に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が確実に抑制され、より大きく顕著な引き摺りトルク抑制効果を得ることができる。セグメントタイプ摩擦材1が逆方向に空転した場合には、反対側の摩擦材基材3Aの拡がった部分3cと摩擦材基材3Bの切り込み3bが同様な役割を果たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中に浸した状態で対向面に高圧力をかけることによってトルクを得る湿式摩擦材であって、平板リング状の芯金にセグメントピースに切断した摩擦材基材を全周両面若しくは片面に接着してなるセグメントタイプ摩擦材、または平板リング形状の芯金の両面または片面にリング状摩擦材基材を接着したリング状摩擦材の両面若しくは片面をプレス加工して半径方向に複数の油溝を形成してなるプレス型摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、湿式摩擦材として、材料の歩留まり向上による低コスト化、引き摺りトルク低減による車両での低燃費化を目指して、平板リング状の芯金に平板リング形状に沿ったセグメントピースに切断した摩擦材基材を油溝となる間隔をおいて接着剤で順次並べて全周に亘って接着し、裏面にも同様にセグメントピースに切断した摩擦材基材を接着してなるセグメントタイプ摩擦材が開発されている。このようなセグメントタイプ摩擦材は、自動車等の自動変速機(Automatic Transmission、以下「AT」とも略する。)やオートバイ等の変速機に用いられる複数または単数の摩擦板を設けた摩擦材係合装置用として用いることができる。
【0003】
一例として、自動車等の自動変速機には湿式油圧クラッチが用いられており、複数枚のセグメントタイプ摩擦材と複数枚のセパレータプレートとを交互に重ね合わせ、油圧で両プレートを圧接してトルク伝達を行うようになっており、非締結状態から締結状態に移行する際に生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗防止等の理由から、両プレートの間に潤滑油(Automatic Transmission Fluid,自動変速機潤滑油、以下「ATF」とも略する。)を供給している。しかし、油圧クラッチの応答性を高めるためにセグメントタイプ摩擦材とセパレータプレートとの距離は小さく設定されており、また油圧クラッチの締結時のトルク伝達容量を充分に確保するために、セグメントタイプ摩擦材上に占める油通路の総面積は制約を受ける。この結果、油圧クラッチの非締結時にセグメントタイプ摩擦材とセパレータプレートとの間に残留するATFが排出され難くなり、両プレートの相対回転によってATFによる引き摺りトルクが発生するという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の発明においては、セグメントタイプ摩擦材においてセグメントピースの内周側の角を所定角度で切り落とすことによって、ATに組み込まれた場合に非締結状態においてセグメントタイプ摩擦材が回転したとき、内周側から供給されるATFがセグメントピースの切り落とされた部分に当接することによって、ATFが積極的に摩擦材基材の摩擦面に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が抑制され、ATFによる引き摺りトルクが大幅に低減されるとしている。
【特許文献1】特開2005−282648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術においては、ATFが供給されるのは摩擦材基材の摩擦面のうち内周側のみであり、セパレータプレートと摩擦面との接触が抑制されるのは内周側のみに限定されるため、ATFによる引き摺りトルクを低減する効果がまだまだ小さく、車両における大幅な低燃費化を実現するのは困難であるという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、潤滑油を摩擦材基材の摩擦面の全面に積極的に供給することによって、潤滑油量が多い部位、潤滑油が抜け難い部位においても確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる湿式摩擦材を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、平板リング形状の芯金に前記平板リング形状に沿ってセグメントピースに切断された摩擦材基材が全周両面若しくは全周片面に接着されて隣り合う前記セグメントピース同士の間隙によって半径方向に複数の油溝が形成されてなるセグメントタイプ摩擦材、または平板リング形状の芯金の両面若しくは片面にリング形状の摩擦材基材が接着されたリング形状摩擦材が両面若しくは片面をプレス加工されて半径方向に複数の油溝が形成されてなるプレス型摩擦材であって、前記複数の油溝は該油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝と前記油溝の内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝とが、前者の方が50%以上の割合で混在しており、かつ、後者の油溝の両隣の油溝は前者の油溝であるものである。
【0008】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1の構成において、前記複数の油溝は、その全てが前記油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝であって、前記油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝に挟まれた摩擦材基材の少なくとも内周側には左右対称の略V字形状の切り込みが設けられているものである。
【0009】
請求項3の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1の構成において、前記複数の油溝は、前記油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝の割合が50%であり、かつ、前記油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝と前記油溝の内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝とが交互に配置されているものである。
【0010】
請求項4の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝における拡がった部分の半径方向の長さは、前記油溝の長さの20%〜50%の範囲内であるものである。
【0011】
請求項5の発明に係る湿式摩擦材は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つの構成において、前記油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝における拡がった部分の円周方向の幅は、前記油溝の拡がっていない部分の幅の1.5倍〜4.0倍の範囲内であるものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る湿式摩擦材は、平板リング形状の芯金に平板リング形状に沿ってセグメントピースに切断された摩擦材基材が全周両面若しくは全周片面に接着されて隣り合うセグメントピース同士の間隙によって半径方向に複数の油溝が形成されてなるセグメントタイプ摩擦材、または平板リング形状の芯金の両面若しくは片面にリング形状の摩擦材基材が接着されたリング形状摩擦材が両面若しくは片面プレス加工されて半径方向に複数の油溝が形成されてなるプレス型摩擦材であって、複数の油溝は油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝と油溝の内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝とが、前者の方が50%以上の割合で混在しており、かつ、後者の油溝の両隣の油溝は前者の油溝である。
【0013】
かかる構成によって、非締結状態において湿式摩擦材がいずれかの方向に空転したときには、内周から供給される潤滑油が油溝の内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝において、空転後部側の拡がった部分に当接して、潤滑油が摩擦材基材の摩擦面の内周側に供給される。ここで、油溝の内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝の両隣の油溝は、いずれも油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝であるから、湿式摩擦材がいずれの方向に空転した場合でも、摩擦材基材の摩擦面の内周側に流れた潤滑油は、更に隣の油溝の左右対称の形状に拡がった中間部分の一方に当接して、潤滑油が摩擦材基材の摩擦面の中間部分から外周側に供給される。
【0014】
その結果、摩擦材基材の摩擦面の全面に潤滑油が積極的に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が確実に抑制され、過剰な潤滑油はいずれかの油溝から排出されるため、より大きく顕著な引き摺りトルク抑制効果を得ることができる。また、セグメントタイプ摩擦材の場合は芯金のリング状部分の幅一杯で横長の大きなセグメントピースとできるので、セグメントピースの数を少なくすることができ、切り出しと接着のための時間が短縮され、低コスト化することができる。
【0015】
更に、プレス型摩擦材の場合には、芯金のリング状部分の両面または片面全面に摩擦材基材を接着して両面または片面をプレス加工するのみで製造できるので、大量生産に向いており、やはり低コスト化することができる。
【0016】
このようにして、潤滑油を摩擦材基材の摩擦面の全面に積極的に供給することによって、潤滑油量が多い部位、潤滑油が抜け難い部位においても確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、製造時間を短縮することができてコストダウンできる湿式摩擦材となる。
【0017】
請求項2の発明に係る湿式摩擦材においては、複数の油溝は、その全てが油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝であって、油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝に挟まれた摩擦材基材の少なくとも内周側には左右対称の略V字形状の切り込みが設けられている。
【0018】
かかる構成によって、非締結状態において湿式摩擦材がいずれかの方向に空転したときには、内周から供給される潤滑油が摩擦材基材の内周側に設けられた左右対称の略V字形状の切り込み部分の一方に当接して、潤滑油が摩擦材基材の摩擦面の内周側に供給される。ここで、全ての油溝が油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝であるから、湿式摩擦材がいずれの方向に空転した場合でも、摩擦材基材の摩擦面の内周側に流れた潤滑油は、更に直近の油溝の左右対称の形状に拡がった中間部分の一方に当接して、潤滑油が摩擦材基材の摩擦面の中間部分から外周側に供給される。
【0019】
その結果、摩擦材基材の摩擦面の全面に潤滑油が積極的に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が確実に抑制され、過剰な潤滑油はいずれかの油溝から排出されるため、より大きく顕著な引き摺りトルク抑制効果を得ることができる。また、セグメントタイプ摩擦材の場合は芯金のリング状部分の幅一杯で横長の大きなセグメントピースとできるので、セグメントピースの数を少なくすることができ、切り出しと接着のための時間が短縮され、低コスト化することができる。
【0020】
更に、プレス型摩擦材の場合には、芯金のリング状部分の両面または片面全面に摩擦材基材を接着して両面または片面をプレス加工するのみで製造できるので、大量生産に向いており、やはり低コスト化することができる。
【0021】
このようにして、潤滑油を摩擦材基材の摩擦面の全面に積極的に供給することによって、潤滑油量が多い部位、潤滑油が抜け難い部位においても確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、製造時間を短縮することができてコストダウンできる湿式摩擦材となる。
【0022】
請求項3の発明に係る湿式摩擦材においては、複数の油溝は、油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝の割合が50%であり、かつ、油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝と油溝の内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝とが交互に配置されている。
【0023】
かかる構成によって、非締結状態において湿式摩擦材がいずれかの方向に空転したときには、内周から供給される潤滑油が油溝の内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝において、空転後部側の拡がった部分に当接して、潤滑油が摩擦材基材の摩擦面の内周側に供給される。ここで、油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝と油溝の内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝とが交互に配置されているから、湿式摩擦材がいずれの方向に空転した場合でも、摩擦材基材の摩擦面の内周側に流れた潤滑油は、更に隣の油溝の左右対称の形状に拡がった中間部分の一方に当接して、潤滑油が摩擦材基材の摩擦面の中間部分から外周側に供給される。
【0024】
その結果、摩擦材基材の摩擦面の全面に潤滑油が積極的に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が確実に抑制され、過剰な潤滑油はいずれかの油溝から排出されるため、より大きく顕著な引き摺りトルク抑制効果を得ることができる。また、セグメントタイプ摩擦材の場合は芯金のリング状部分の幅一杯で横長の大きなセグメントピースとできるので、セグメントピースの数を少なくすることができ、切り出しと接着のための時間が短縮され、低コスト化することができる。
【0025】
更に、プレス型摩擦材の場合には、芯金のリング状部分の両面または片面全面に摩擦材基材を接着して両面または片面をプレス加工するのみで製造できるので、大量生産に向いており、やはり低コスト化することができる。
【0026】
このようにして、潤滑油を摩擦材基材の摩擦面の全面に積極的に供給することによって、潤滑油量が多い部位、潤滑油が抜け難い部位においても確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、製造時間を短縮することができてコストダウンできる湿式摩擦材となる。
【0027】
請求項4の発明に係る湿式摩擦材においては、油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝における拡がった部分の半径方向の長さは、油溝の長さの20%〜50%の範囲内、より好ましくは油溝の長さの32%〜41%の範囲内である。
【0028】
本発明者らが鋭意実験研究を繰り返した結果、油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝における拡がった部分の半径方向の長さが、油溝の長さの20%〜50%の範囲内である場合に、引き摺りトルクの低減効果が顕著に表れることが分かった。更に、油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝における拡がった部分の半径方向の長さが、油溝の長さの32%〜41%の範囲内である場合に、より顕著に引き摺りトルクの低減効果が表れることを見出した。本発明者らはこの知見に基づいて、本発明を完成したものである。
【0029】
このようにして、より大きな引き摺りトルクの低減効果が得られるとともに、製造が短時間でできてコストダウンできる湿式摩擦材となる。
【0030】
請求項5の発明に係る湿式摩擦材においては、油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝における拡がった部分の円周方向の幅は、油溝の拡がっていない部分の幅の1.5倍〜4.0倍の範囲内、より好ましくは2.0倍〜4.0倍の範囲内である。
【0031】
本発明者らが鋭意実験研究を繰り返した結果、油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝における拡がった部分の円周方向の幅が、油溝の拡がっていない部分の幅の1.5倍〜4.0倍の範囲内である場合に、引き摺りトルクの低減効果が顕著に表れることが分かった。更に、油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝における拡がった部分の円周方向の幅が、油溝の拡がっていない部分の幅の2.0倍〜4.0倍の範囲内である場合に、より顕著に引き摺りトルクの低減効果が表れることを見出した。本発明者らはこの知見に基づいて、本発明を完成したものである。
【0032】
このようにして、より大きな引き摺りトルクの低減効果が得られるとともに、製造が短時間でできてコストダウンできる湿式摩擦材となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0034】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材について、図1乃至図8を参照して説明する。
【0035】
図1(a)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材(実施例1)の一部を示した部分平面図、(b),(c)は本発明の実施の形態1の第1変形例に係る湿式摩擦材に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材(実施例2)に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図、(e),(f)は本発明の実施の形態1のその他の変形例に係る湿式摩擦材に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図、(g),(h)は従来の湿式摩擦材(比較例1)に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図、(i)は従来の変形例の湿式摩擦材(比較例2)に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図である。
【0036】
図2(a)は従来の湿式摩擦材(比較例1)における引き摺りトルクの低減効果を示す説明図、(b)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材(実施例1)における引き摺りトルクの低減効果を示す説明図である。図3は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材(実施例1)における油溝の中間部分の切り込み幅と引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。図4は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材における油溝の中間部分の切り込み深さと引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。
【0037】
図5は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材における油溝の中間部分の切り込みのR形状と引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。図6は本発明の実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材(実施例2)の一部を示した部分平面図である。図7は従来の変形例の湿式摩擦材(比較例2)の一部を示した部分平面図である。図8は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材(実施例1,2)における回転数と引き摺りトルクの関係を従来の湿式摩擦材(比較例1,2)と比較して示す図である。
【0038】
図1に示されるように、本実施の形態1に係る湿式摩擦材(実施例1)としてのセグメントタイプ摩擦材1は、平板リング形状の芯金2に複数のセグメントピース3A,3Bを接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して油溝4A,4Bの間隔を空けて並べて貼り付け、芯金2の裏面にも同様に接着剤で貼り付けてなるものである。ここで、セグメントピース3Aの左辺中間部分には幅(セグメントタイプ摩擦材1の半径方向の長さ)がαmmで深さ(セグメントタイプ摩擦材1の円周方向の長さ)がβmmの切り込み3aが設けられ、セグメントピース3Bの右辺中間部分にも同じ形状の切り込み3bが設けられて、互いに向き合って中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝4Bを形成している。
【0039】
また、セグメントピース3Aの内周右角とセグメントピース3Bの内周左角は、セグメントタイプ摩擦材1の半径方向に対してγ度の角度で、高さδmmだけ切り落とされており、カット部分3c,3dとなって互いに向き合って、内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝4Aを形成している。芯金2の両面にこのようにセグメントピース3A及びセグメントピース3Bを接着配置して、両面から230℃〜250℃の熱プレスで30秒〜90秒加圧して芯金2にセグメントピース3A,3Bを固着させ、完成品(セグメントタイプ摩擦材1)を得ることができた。
【0040】
このセグメントタイプ摩擦材1(実施例1)においては、これらの内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝4Aと中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝4Bとは、交互に同数配置されている。したがって、本実施の形態1に係る湿式摩擦材としてのセグメントタイプ摩擦材1は、本発明の請求項1に係る湿式摩擦材に相当するとともに、本発明の請求項3に係る湿式摩擦材に相当する。
【0041】
次に、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1(実施例1)における引き摺りトルクの低減効果について、従来のセグメントタイプ摩擦材(比較例1)と比較して、図2を参照して説明する。
【0042】
図2(a)に示されるように、従来のセグメントタイプ摩擦材11(比較例1)は、芯金2の両面に図1(g),(h)に示される従来のセグメントピース13A,13Bを交互に配置してなるものであるが、ATに組み込まれた場合、非締結状態においてセグメントタイプ摩擦材11が矢印の方向に回転したとき、分岐した矢印で示されるように、内周から供給されるATFが回転後部側の拡がった部分13bに当接することによって、ATFが摩擦材基材13Bの摩擦面に供給されるが、その流れはセグメントタイプ摩擦材11の内周側のみに留まり、セパレータプレートと摩擦面との接触を抑制する効果は不十分であった。
【0043】
これに対して、図2(b)に示されるように、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1(実施例1)においては、非締結状態において矢印の方向に回転したとき、分岐した矢印で示されるように内周から供給されるATFが回転後部側の拡がった部分3dに当接することによって、ATFが摩擦材基材3Bの摩擦面に供給され、更に摩擦材基材3Aの切り込み3aに当接することによってATFが摩擦材基材3Aの摩擦面の中間部分から外周側に供給される。
【0044】
その結果、摩擦材基材3A,3Bの摩擦面の全面にATFが積極的に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が確実に抑制され、過剰な潤滑油はいずれかの油溝4A,4Bから排出されるため、より大きく顕著な引き摺りトルク抑制効果を得ることができる。セグメントタイプ摩擦材1が逆方向に空転した場合には、反対側の摩擦材基材3Aの拡がった部分3cと摩擦材基材3Bの切り込み3bが同様な役割を果たす。
【0045】
そこで、より大きな引き摺りトルク抑制効果を得るために、本実施の形態1のセグメントタイプ摩擦材1に用いられるセグメントピース3A,3Bに関する5つのパラメータ、即ち切り込み3a,3bの幅(半径方向の長さ)α、切り込み3a,3bの深さ(円周方向の長さ)β、切り込み3a,3bのR形状の大きさ、及びカット部分3c,3dの傾斜角度γ、高さδ、についてそれぞれ最適値を求めるべく実験を行った。その結果を示すのが、図3乃至図5の棒グラフである。
【0046】
まず、切り込み3a,3bの幅αの最適値を求めるために、切り込み深さβ=2.0mmに固定して、切り込み幅αを4通りに変化させたサンプルを作製してAT実機に組み込み、引き摺りトルク低減率を測定した。なお、引き摺りトルク低減率はセグメントタイプ摩擦材1の回転数を1000rpmから3000rpmまで順次増加させた中の、500rpmごとの測定値5点の平均値として表した。
【0047】
その結果、図3に示されるように、切り込み幅αが2.0mmから3.0mmと大きくなるにしたがって引き摺りトルク低減率が上昇し、切り込み幅α=4.0mmの場合に最大値約30%の引き摺りトルク低減率を示す。それより切り込み幅αを大きくして、α=4.5mmとしても、引き摺りトルク低減率は増加しない。セグメントピース3A,3B全体の高さ(セグメントタイプ摩擦材1の半径方向についての長さ)は11mmであり、セグメントピース3A,3B全体の幅(セグメントタイプ摩擦材1の円周方向についての長さ)は10mmである。
【0048】
したがって、切り込み幅αは2.2mmから5.5mm(セグメントピース3A,3Bの半径方向の長さは11mm、したがって油溝4Bの長さに対する長さの割合としては20%〜50%)の範囲内に保つことによって、顕著な引き摺りトルク低減効果が得られ、中でも切り込み幅αを3.5mmから4.5mm(油溝4Bの長さの約32%〜約41%)の範囲内に保つことによって、より顕著な引き摺りトルク低減効果が得られる。特に、α=4.0mm(油溝4Bの長さの約36.4%)の場合に、最大の引き摺りトルク低減効果を得ることができる。
【0049】
次に、切り込み3a,3bの深さβの最適値を求めるために、切り込み幅α=4.0mmに固定し、切り込み深さβを4通りに変化させたサンプルを作製してAT実機に組み込み、引き摺りトルク低減率を測定した。なお、引き摺りトルク低減率はセグメントタイプ摩擦材1の回転数を1000rpmから3000rpmまで順次増加させた中の、500rpmごとの測定値5点の平均値として表した。
【0050】
その結果、図4に示されるように、切り込み深さβが0.5mmの場合は引き摺りトルク低減率は約12%と低いが、1.0mmになると一気に約20%まで上昇し、切り込み深さβ=2.0mmの場合に最大値約30%の引き摺りトルク低減率を示す。それより切り込み深さβを大きくして、β=3.0mmとしても、引き摺りトルク低減率は増加しない。
【0051】
したがって、切り込み深さβは0.5mmから3.0mm(油溝4Bの直線部分の幅は2mm、故に油溝4Bの拡がった部分の幅の割合としては拡がっていない部分の幅の1.5倍〜4.0倍)の範囲内に保つことによって、顕著な引き摺りトルク低減効果が得られ、中でも切り込み深さβが1.0mmから3.0mm(油溝4Bの拡がった部分の幅が拡がっていない部分の幅の2.0倍〜4.0倍)の範囲内に保つことによって、より顕著な引き摺りトルク低減効果が得られる。特に、β=2.0mm(油溝4Bの拡がった部分の幅が拡がっていない部分の幅の3.0倍)の場合に、最大の引き摺りトルク低減効果を得ることができる。
【0052】
次に、切り込み3a,3bのR形状の大きさの最適値を求めるために、切り込み幅α=4.0mm、切り込み深さβ=2.0mmに固定し、切り込み3a,3bのR形状の大きさを3通りに変化させたサンプルを作製してAT実機に組み込み、引き摺りトルク低減率を測定した。なお、引き摺りトルク低減率はセグメントタイプ摩擦材1の回転数を1000rpmから3000rpmまで順次増加させた中の、500rpmごとの測定値5点の平均値として表した。
【0053】
その結果、図5に示されるように、切り込み3a,3bのR形状の大きさを0.5mm,1.0mm,1.5mmと変化させても、引き摺りトルク低減率はいずれも約30%であり、殆ど変化がなかった。したがって、切り込み3a,3bのR形状の大きさは、引き摺りトルク低減効果に対しては殆ど影響を与えないと結論付けることができる。同様な方法によって、カット部分3c,3dの傾斜角度γ及び高さδについてそれぞれ最適値を求めたところ、傾斜角度γ=45度、高さδ=3.0mmの場合に最も大きい引き摺りトルク低減率が得られることが分かった。
【0054】
以上の結果より、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1は、図1(a)における切り込み幅α=4.0mm、切り込み深さβ=2.0mm、傾斜角度γ=45度、高さδ=3.0mmとした。したがって、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1は、本発明の請求項4及び請求項5に係る湿式摩擦材にも相当する。
【0055】
次に、本実施の形態1の第1変形例に係るセグメントタイプ摩擦材について、図1(a),(b),(c)を参照して説明する。本実施の形態1の第1変形例に係るセグメントタイプ摩擦材は、図1(a)に示される本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1のセグメントピース3A,3Bの代わりに、図1(b),(c)に示されるセグメントピース5A,5Bを使用するものである。
【0056】
図1に示されるように、セグメントピース5A,5Bとセグメントピース3A,3Bの違いは、切り込み3a,3bのR形状がセグメントピース5A,5Bの方がRの大きさが小さい点のみであり、上述したように、切り込み3a,3bのR形状の大きさは引き摺りトルク低減効果に対しては殆ど影響を与えないため、本実施の形態1の第1変形例に係るセグメントタイプ摩擦材は、セグメントタイプ摩擦材1と同等の引き摺りトルク低減率が得られることとなる。
【0057】
次に、本実施の形態1の第2変形例(実施例2)に係るセグメントタイプ摩擦材について、図6を参照して説明する。図6に示されるように、本実施の形態1の第2変形例(実施例2)に係るセグメントタイプ摩擦材6は、図1(a)に示される本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1のセグメントピース3A,3Bの代わりに、図1(d)に示されるセグメントピース3Cを使用するものである。
【0058】
図1(d),図6に示されるように、セグメントピース3Cは、左辺中央・右辺中央・上辺中央・下辺中央にそれぞれ切り込み3a,3b,3e,3fを設けてなるものであり、本実施の形態1の第2変形例においては、上下の切り込み3e,3fの幅w1及び深さd1は、w1=3.0mm,d1=2.5mm、左右の切り込み3a,3bの幅w2及び深さd2は、w2=2.3mm,d2=2.0mmとしている。
【0059】
これによって、図6に示されるように、複数のセグメントピース3Cによって形成される油溝4Cは、全て油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝となり、油溝4Cに挟まれた摩擦材基材としてのセグメントピース3Cの内周側及び外周側には、左右対称の略V字形状の切り込み3e,3fが設けられている。したがって、本実施の形態1の第2変形例(実施例2)に係るセグメントタイプ摩擦材6は、本発明の請求項2に係る湿式摩擦材に相当する。
【0060】
セグメントピース3C全体の高さ(セグメントタイプ摩擦材6の半径方向についての長さ)は11mmであり、セグメントピース3C全体の幅(セグメントタイプ摩擦材6の円周方向についての長さ)は10mmであるため、左右の切り込み3a,3bの幅w1はセグメントピース3C全体の高さの約21%であり、左右の切り込み3a,3bの深さd1はセグメントピース3C全体の幅の20%である。また、上下の切り込み3e,3fの幅w2はセグメントピース3C全体の幅の30%であり、上下の切り込み3e,3fの深さd2はセグメントピース3C全体の高さの約23%である。
【0061】
そして、油溝4Cの拡がっていない部分の幅(隣り合うセグメントピース3C同士の間隔)は2mmであるため、左右の切り込み3a,3bの深さd2=2.0mmより、油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝4Cにおける拡がった部分の円周方向の幅(6mm)は、油溝4Cの拡がっていない部分の幅の3.0倍である。したがって、本実施の形態1の第2変形例(実施例2)に係るセグメントタイプ摩擦材6は、本発明の請求項4及び請求項5に係る湿式摩擦材にも相当する。
【0062】
更に、従来の変形例(比較例2)に係るセグメントタイプ摩擦材について、図7を参照して説明する。図7に示されるように、従来の変形例(比較例2)に係るセグメントタイプ摩擦材16は、図6に示される本実施の形態1の第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材6のセグメントピース3Cの代わりに、図1(i)に示されるセグメントピース13Cを使用するものである。
【0063】
図1(i),図7に示されるように、従来の変形例(比較例2)に係るセグメントタイプ摩擦材16に用いられるセグメントピース13Cは、左辺中央と右辺中央のみに切り込み13c,13dが設けられており、上辺と下辺即ちセグメントタイプ摩擦材16の外周側と内周側には切り込みが設けられていない。なお、切り込み13c,13dの幅及び深さは、本実施の形態1の第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材6に用いられるセグメントピース3Cの切り込み3a,3bと同一である。
【0064】
以上説明した本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1(実施例1)、第2変形例に係るセグメントタイプ摩擦材6(実施例2)、従来のセグメントタイプ摩擦材11(比較例1)、及び従来の変形例に係るセグメントタイプ摩擦材16(比較例2)について、相対回転数と引き摺りトルクの関係を試験によって検証した。試験条件としては、相対回転数=1000〜8000rpm、ATF油温=80℃、ATF油量=1000mL/min、ディスクサイズ=φ155mm−φ130mmにおいて試験し、ディスク枚数=3枚(したがって、相手材の鋼板ディスクは4枚)、パッククリアランス=0.25mm/枚、で行った。試験の結果を、図8に示す。
【0065】
図8に示されるように、相対回転数が1000rpmの時点で、実施例1,2と比較例1,2との間には既に差が出ており、本実施の形態1(実施例1,2)に係るセグメントタイプ摩擦材1,6の方が引き摺りトルクが小さくなっている。その後、相対回転数が上がるにしたがって、いずれのセグメントタイプ摩擦材も引き摺りトルクが小さくなるが、相対回転数が2000rpm,3000rpmの時点では、実施例1と比較例2との間の差はますます大きくなっている。
【0066】
そして、相対回転数が4000rpm〜7000rpmの範囲内においては、いずれのセグメントタイプ摩擦材についても引き摺りトルクは緩やかに上下しており、相対回転数が8000rpmの時点においては、本実施の形態1(実施例1,2)に係るセグメントタイプ摩擦材1,6と従来のセグメントタイプ摩擦材11,16(比較例1,2)との間には、引き摺りトルクの大きさに明らかな差が出ていることが分かる。このように、本実施の形態1(実施例1,2)に係るセグメントタイプ摩擦材1,6は、従来のセグメントタイプ摩擦材11,16(比較例1,2)に比較して、引き摺りトルクの低減効果が大きいことが実証された。
【0067】
なお、図8に示されるように、試験を行った相対回転数=1000〜8000rpmの全ての範囲に亘って、実施例1に係るセグメントタイプ摩擦材1の方が、実施例2に係るセグメントタイプ摩擦材6よりも引き摺りトルクが小さいという結果が出ている。したがって、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1,6の中でも、セグメントタイプ摩擦材1の方が、即ち油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝4Bと油溝の内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝4Aとが交互に配置されているセグメントタイプ摩擦材の方が、より引き摺りトルクの低減効果が大きいことが分かった。
【0068】
このようにして、本実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1,6においては、潤滑油(ATF)を摩擦材基材(セグメントピース)の摩擦面の全面に積極的に供給することによって、潤滑油量が多い部位、潤滑油が抜け難い部位においても確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、製造時間を短縮することができてコストダウンできる。
【0069】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材について、図9を参照して説明する。図9(a)は本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材のA−A断面を示した部分断面図である。
【0070】
図9(a),(b)に示されるように、本実施の形態2に係る湿式摩擦材7は、実施の形態1(セグメントタイプ摩擦材)と異なり、平板リング形状の芯金2の両面全面にリング形状の摩擦材基材を接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって、油溝9A,9Bを交互に形成してなるプレス型摩擦材である。
【0071】
ここで、油溝9Aは内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝であり、油溝9Bは中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝である。したがって、本実施の形態2に係る湿式摩擦材としてのプレス型摩擦材7は、本発明の請求項1に係る湿式摩擦材に相当するとともに、本発明の請求項3に係る湿式摩擦材に相当する。
【0072】
また、中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝9Bの拡がった部分における、摩擦材基材8A,8Bの円周方向の深さx及び半径方向の幅yについては、上記実施の形態1に係るセグメントタイプ摩擦材1におけるβ及びαと同一の寸法とした。即ち、x=2mm,y=4mmである。したがって、本実施の形態2に係る湿式摩擦材としてのプレス型摩擦材7は、本発明の請求項4及び請求項5に係る湿式摩擦材にも相当する。
【0073】
これによって、本実施の形態2に係るプレス型摩擦材7は、ATに組み込まれた場合、非締結状態においていずれかの方向に回転したとき、内周から供給されるATFが回転後部側の拡がった部分8c,8dに当接することによって、ATFが摩擦材基材8A,8Bの摩擦面に供給され、更に摩擦材基材8A,8Bの拡がった部分8a,8bに当接することによってATFが摩擦材基材8A,8Bの摩擦面の中間部分から外周側に供給される。
【0074】
その結果、摩擦材基材8A,8Bの摩擦面の全面にATFが積極的に供給されて、セパレータプレートと摩擦面との接触が確実に抑制され、過剰な潤滑油はいずれかの油溝9A,9Bから排出されるため、より大きく顕著な引き摺りトルク抑制効果を得ることができる。
【0075】
更に、本実施の形態2に係るプレス型摩擦材7は、平板リング形状の芯金2の両面全面にリング形状の摩擦材基材を接着剤(熱硬化性樹脂)を使用して接着して、両面をプレス加工することによって製造されるため、量産がより容易であり、より低コスト化できるという利点がある。
【0076】
このようにして、本実施の形態2に係るプレス型摩擦材7においては、潤滑油(ATF)を摩擦材基材の摩擦面の全面に積極的に供給することによって、潤滑油量が多い部位、潤滑油が抜け難い部位においても確実により大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができるとともに、製造時間を短縮することができてコストダウンできる。
【0077】
本発明を実施するに際しては、湿式摩擦材(セグメントタイプ摩擦材及びプレス型摩擦材)のその他の部分の構成、形状、数量、材質、大きさ、接続関係、製造方法等については、上記各実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1(a)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材(実施例1)の一部を示した部分平面図、(b),(c)は本発明の実施の形態1の第1変形例に係る湿式摩擦材に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図、(d)は本発明の実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材(実施例2)に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図、(e),(f)は本発明の実施の形態1のその他の変形例に係る湿式摩擦材に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図、(g),(h)は従来の湿式摩擦材(比較例1)に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図、(i)は従来の変形例の湿式摩擦材(比較例2)に用いられるセグメントピースの形状を示す平面図である。
【図2】図2(a)は従来の湿式摩擦材(比較例1)における引き摺りトルクの低減効果を示す説明図、(b)は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材(実施例1)における引き摺りトルクの低減効果を示す説明図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材(実施例1)における油溝の中間部分の切り込み幅と引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材における油溝の中間部分の切り込み深さと引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材における油溝の中間部分の切り込みのR形状と引き摺りトルク低減率の関係を示す図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態1の第2変形例に係る湿式摩擦材(実施例2)の一部を示した部分平面図である。
【図7】図7は従来の変形例の湿式摩擦材(比較例2)の一部を示した部分平面図である。
【図8】図8は本発明の実施の形態1に係る湿式摩擦材(実施例1,2)における回転数と引き摺りトルクの関係を従来の湿式摩擦材(比較例1,2)と比較して示す図である。
【図9】図9(a)は本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材の一部を示した部分平面図、(b)は本発明の実施の形態2に係る湿式摩擦材のA−A断面を示した部分断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1,6,7 湿式摩擦材
2 芯金
3A,3B,3C,3D,3E,5A,5B セグメントピース
4A,4B,4C,9A,9B 油溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板リング形状の芯金に前記平板リング形状に沿ってセグメントピースに切断された摩擦材基材が全周両面若しくは全周片面に接着されて隣り合う前記セグメントピース同士の間隙によって半径方向に複数の油溝が形成されてなるセグメントタイプ摩擦材、または平板リング形状の芯金の両面若しくは片面にリング形状の摩擦材基材が接着されたリング形状摩擦材が両面若しくは片面をプレス加工されて半径方向に複数の油溝が形成されてなるプレス型摩擦材であって、
前記複数の油溝は該油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝と前記油溝の内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝とが、前者の方が50%以上の割合で混在しており、かつ、後者の油溝の両隣の油溝は前者の油溝であることを特徴とする湿式摩擦材。
【請求項2】
前記複数の油溝は、その全てが前記油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝であって、前記油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝に挟まれた摩擦材基材の少なくとも内周側には左右対称の略V字形状の切り込みが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項3】
前記複数の油溝は、前記油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝の割合が50%であり、かつ、前記油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝と前記油溝の内周開口部が左右対称の形状に拡がった油溝とが交互に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項4】
前記油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝における拡がった部分の半径方向の長さは、前記油溝の長さの20%〜50%の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の湿式摩擦材。
【請求項5】
前記油溝の中間部分が左右対称の形状に拡がった油溝における拡がった部分の円周方向の幅は、前記油溝の拡がっていない部分の幅の1.5倍〜4.0倍の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の湿式摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−175354(P2008−175354A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11521(P2007−11521)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】