説明

溶射装置

【課題】原料粉体とキャリアガスとの混合物の良好な搬送性を確保しつつ、キャリアガス(酸素ガス)不足による原料粉体の燃焼不良の発生を防止できる溶射装置を提供する。
【解決手段】原料粉体10を貯蔵し当該原料粉体を払い出す払出口21を有する貯蔵手段20と、加圧されたキャリアガスの流れにより払出口21から原料粉体10を吸入し、キャリアガスと原料粉体とを混合し混合物とするエジェクター30と、エジェクター30により生成された前記混合物を噴射する噴射手段40とを備え、前記混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置において、エジェクター30及びそれより下流側の流路のうち、エジェクター30の吐出導管33のストレート部以外の位置から補填用のキャリアガスを吹き込むガス吹込み手段A,Bを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火組成物を形成するための溶射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐火組成物を形成するための溶射装置として、可燃性粉体(例えば、金属粉末)と耐火性粉体(耐火性骨材)とを含む原料粉体を、支燃性のキャリアガス(酸素ガス)によって搬送し噴射して着火溶融することで耐火組成物を形成する溶射装置が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
かかる溶射装置においては、エジェクターを使用して、原料粉体とキャリアガスとを混合し、その混合物を下流に向けて搬送する。そして、その搬送性を高めるために、エジェクターにおいてキャリアガスを噴出する噴出ノズルの先端のノズル孔径を絞り、キャリアガスの噴出速度を上げるようにしている。
【0004】
ところが、キャリアガスの噴出速度を上げるために噴出ノズル先端のノズル孔径を絞っているため、キャリアガス(酸素ガス)の絶対量が不足して原料粉体の燃焼が不十分になり、得られた耐火組成物の物性が悪くなることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−275816号公報
【特許文献2】特開2007−238977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、原料粉体とキャリアガスとの混合物の良好な搬送性を確保しつつ、キャリアガス(酸素ガス)不足による原料粉体の燃焼不良の発生を防止できる溶射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶射装置は、耐火性粉体及び可燃性粉体を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置であって、前記原料粉体を貯蔵し当該原料粉体を払い出す払出口を有する貯蔵手段と、加圧されたキャリアガスの流れにより前記払出口から前記原料粉体を吸入し、前記キャリアガスと前記原料粉体とを混合し前記混合物とするエジェクターと、前記エジェクターにより生成された前記混合物を噴射する噴射手段とを備え、前記エジェクターは、前記払出口に連通する内部空間を有する容器部と、加圧された前記キャリアガスを先端から前記内部空間に噴出する噴出ノズルと、前記内部空間に一端が連通し前記混合物を流路に沿って前記一端から他端へ導く吐出導管とを備え、前記吐出導管は流路の断面積が一定のストレート部を有し、前記エジェクター及びそれより下流側の流路のうち、前記吐出導管のストレート部以外の位置から補填用のキャリアガスを吹き込むガス吹込み手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、原料粉体とキャリアガスとの混合物の搬送性を高めるために、噴出ノズルの先端のノズル孔径を絞っていても、ガス吹込み手段により補填用のキャリアガスを吹き込むことができるので、キャリアガス(酸素ガス)不足による原料粉体の燃焼不良の発生を防止でき、良好な物性の耐火組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の溶射装置の一実施形態を示す要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の溶射装置の一実施形態を示す要部の断面図である。
【0011】
図1に示す溶射装置は、原料粉体10を貯蔵する貯蔵手段としてのホッパー20と、エジェクター30と、噴射手段40とを備える。
【0012】
原料粉体10は、可燃性粉体(例えば、金属粉末)と耐火性粉体(耐火性骨材)とを含んでなる。ホッパー20は、その底部に原料粉体10を払い出す払出口21を有する。エジェクター30は、加圧されたキャリアガス(酸素ガス)の流れにより払出口21から原料粉体10を吸入し、キャリアガスと原料粉体10とを混合し混合物とする。噴射手段40は、エジェクター30の出側と水平移送管50及びゴムホース60を介して接続されており、エジェクター30により生成された前記混合物を噴射する。なお、水平移送管50は省略することができ、エジェクター30の出側にゴムホース60を直接接続してもよい。
【0013】
次に、エジェクター30の構成を詳細に説明する。エジェクター30は、ホッパー20底部の払出口21に連通する内部空間を有する容器部31と、加圧されたキャリアガスを先端から容器部31の内部空間に噴出する先細りの噴出ノズル32と、容器部31の内部空間に一端が連通し前記混合物を流路に沿って前記一端から他端へ導く吐出導管33とを備える。すなわち、容器部31の内部空間において、キャリアガスは、先細りの噴出ノズル32先端のノズル孔から吐出導管33の一端(基端)に向けて高速で噴出し、それによって容器部31の内部空間を負圧(ここでは大気圧よりも低い圧力)にする。一方、容器部31の内部空間には垂直移送管70を介してホッパー20の払出口21が連通している。このためエジェクター30は、加圧されたキャリアガスの流れにより払出口21から原料粉体10を容器部31の内部空間に吸入し、噴出ノズル32先端のノズル孔から噴出するキャリアガスと原料粉体10とが容器部31の内部空間にて混合され混合物となる。
【0014】
なお、本実施形態において吐出導管33、流路の断面積が一定のストレート部のみからなるが、ストレート部の入側及び出側に上記特許文献1のような絞り部や拡張部を設けてもよい。
【0015】
本発明においては、エジェクター30及びそれより下流側の流路のうち、吐出導管33のストレート部以外の位置から補填用のキャリアガスを吹き込むガス吹込み手段を設ける。本実施形態においては、吐出導管33の上流側の容器部31と吐出導管33の下流側の水平移送管50の2箇所にガス吹込み手段を設けている。容器部31に設けたガス吹込み手段Aは、容器部31の内壁のテーパー面に沿ってキャリアガスを吹き込む。一方、水平移送管50に設けたガス吹込み手段Bは、水平移送管50内にキャリアガスを吹き込む。これらのガス吹込み手段A,Bは、いずれか一方を使用してもよいし、両方同時に使用してもよい。
【0016】
本発明においてガス吹込み手段を設ける位置は、吐出導管33のストレート部以外であれば特に限定されないが、例えば、ガス吹込み手段Aは、容器部31の内壁のテーパー面に沿って補填用キャリアガスを流し込むように設けるのが好ましい。これは、ガス吹込み手段Aを噴出ノズル32に対して急角度(例えば、垂直)に吹き込むように設けると、噴出ノズル32から噴出されるキャリアガスの流速を損なう要因になるためである。
【0017】
なお、ガス吹込み手段から吹込まれるキャリアガスの吹込み流量は、15Nm/h以上20Nm/h以下の範囲で使用するのが好ましい。吹込み流量が15Nm/h未満では燃焼に要するキャリアガスがやや不足気味となり可燃性粉体の燃焼性を十分に確保できない場合があるためである。一方、吹込み流量が20Nm/hを超えると全体のキャリアガス量が多くなるため、噴射手段40でのガス流速が大きくなり、粉体のリバウンド等が増えることで付着性が劣り、着火しづらくなる場合があるためである。
【0018】
また、ガス吹込み手段から吹き込まれるキャリアガスの圧力は、0.3MPa以上1MPa未満の範囲で使用するのが好ましい。圧力が1MPa以上の場合、高圧ガスとなるので機器類、部品類が全て高圧対策のものが必要となり、コストが嵩むだけでなく、装置重量も大きくなり機動性が損なわれるため好ましくないからである。また、装置の簡略化のため、噴射ノズル32及びガス吹込み手段は同一のガス供給源からキャリアガスが供給されるのが望ましいが、圧力が0.3MPa未満のように低い圧力の場合、噴出ノズル32から供給されるキャリアガスの流速も低下させてしまう。この場合、エジェクター効果、すなわち、キャリアガスの流れにより払出口21から原料粉体10を容器部31の内部空間に吸入し、キャリアガスと原料粉体10とを容器部31の内部空間にて混合させる効果を損なう。そうすると、エジェクター効果が損なわれないように、例えば、噴出ノズル32と、ガス吹込み手段とは、夫々別々のガス供給源からキャリアガスを供給する必要がある。この場合、ガス供給源を複数備える必要があり、かつ、キャリアガスの供給ラインが複雑化してしまうため好ましくない。
【0019】
また、噴出ノズル32のキャリアガスの流量と、ガス吹き込み手段のキャリアガスの流量との合計流量は20Nm/h以上50Nm/h以下の範囲で使用するのが好ましい。これは、この範囲で使用すれば40%以上の高い付着率を得ることができるからである。
【0020】
以上の溶射装置を使用して溶射する際には、まず、ホッパー20の払出口21から原料粉体10を払い出す(払出工程)。次いで、ホッパー20の払出口21に垂直移送管70を介して連通する内部空間を有するエジェクター30の容器部31に原料粉体10を導き(導入工程)、この導入工程により導かれた原料粉体10をエジェクター30におけるキャリアガスの流れにより吸入して(吸入工程)、原料粉体10とキャリアガスとを混合する(混合工程)。そして、混合工程により混合された混合物を、内面の少なくとも一部が樹脂又はゴムで構成された吐出導管33の流路に沿って搬送し(搬送工程)、その搬送された混合物を噴射手段40により噴射し(噴射工程)、噴射された混合物を燃焼させて耐火組成物を形成する(形成工程)。
【実施例】
【0021】
図1の溶射装置にて試験を行い、ガス吹込み手段からの補填用のキャリアガス吹込みの効果を確認した。
【0022】
試験は、ガス吹込み手段を使用する構成(実施例)及びガス吹込み手段を使用しない構成(比較例)について行った。
【0023】
なお、実施例及び比較例の試験は、噴出ノズル32から噴出するキャリアガス(酸素ガス)の噴出速度を上げるため、噴出ノズル32先端のノズル孔径を3mmに絞った条件で行った。噴出ノズル32先端のノズル孔径を3mmに絞ると、噴出ノズル32から噴出されるキャリアガス流量は約20Nm/h以下に制限される。このため、実施例及び比較例では、噴出ノズル32から噴出されるキャリアガスの流量は20Nm/h以下の条件で試験を行った。
【0024】
具体的には、実施例の試験では、噴出ノズル32から噴出するキャリアガスの流量を15Nm/h又は20Nm/h(圧力は0.5MPa一定)にし、ガス吹込み手段A又はBを使用して、補填用のキャリアガスを5〜30Nm/h(圧力は0.5MPa一定)の範囲で吹き込んだ条件で行った。
【0025】
一方、比較例の試験では、噴出ノズル32から噴出するキャリアガスの流量を15Nm/h又は20Nm/h(圧力は0.5MPa一定)にし、ガス吹込み手段A及びBを使用しない条件で行った。なお、実施例及び比較例において、キャリアガスの流量は、流量調整手段(図示省略)により調整した。
【0026】
実施例及び比較例について、耐火性組成物の付着率、見掛け気孔率及び圧縮強度を評価した。付着率は、{(耐火性組成物の重量)/(噴射した原料粉体の総重量)}×100とした。見掛け気孔率はJISR2205に準拠して測定し、圧縮強度はJISR2575に基づき測定した。
【0027】
結果を表1に示す。
【表1】

【0028】
表1より、ガス吹込み手段A又はBを使用して補填用のキャリアガスを吹き込んだ本発明の実施例では、いずれも付着率が40%を超えて良好であり、見掛け気孔率及び圧縮強度も良好であった。
【0029】
一方、ガス吹込み手段A及びBを使用しなかった比較例は、付着率、見掛け気孔率及び圧縮強度のいずれにおいても本発明の実施例に比べ劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の溶射技術は、コークス炉、転炉、溶解炉、AOD炉、取鍋、タンデッシュ、真空脱ガス炉、混銑車、電気炉、焼却炉、誘導炉、加熱炉、ガラス炉などの工可燃性金属粉体含有溶射が使用される工業窯炉等に利用可能である。
【符号の説明】
【0031】
10 原料粉体
20 ホッパー(貯蔵手段)
21 払出口
30 エジェクター
31 容器部
32 噴出ノズル
33 吐出導管
40 噴射手段
50 水平移送管
60 ゴムホース
70 垂直移送管
A,B ガス吹込み手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粉体及び可燃性粉体を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置であって、
前記原料粉体を貯蔵し当該原料粉体を払い出す払出口を有する貯蔵手段と、
加圧されたキャリアガスの流れにより前記払出口から前記原料粉体を吸入し、前記キャリアガスと前記原料粉体とを混合し前記混合物とするエジェクターと、
前記エジェクターにより生成された前記混合物を噴射する噴射手段とを備え、
前記エジェクターは、
前記払出口に連通する内部空間を有する容器部と、
加圧された前記キャリアガスを先端から前記内部空間に噴出する噴出ノズルと、
前記内部空間に一端が連通し前記混合物を流路に沿って前記一端から他端へ導く吐出導管とを備え、
前記吐出導管は流路の断面積が一定のストレート部を有し、
前記エジェクター及びそれより下流側の流路のうち、前記吐出導管のストレート部以外の位置から補填用のキャリアガスを吹き込むガス吹込み手段を設けたことを特徴とする溶射装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−44033(P2013−44033A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183753(P2011−183753)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】