説明

溶接形鋼の製造方法

【課題】T字継手部を備えた溶接形鋼をレーザー溶接法で製造するに際に、溶接部に窪みがなく、接合強度の高い溶接形鋼を簡便な方法で製造する。
【解決手段】いずれも鋼板からなるフランジ材1にウェブ材2の端部を垂直に押し当てたT字状継手部をレーザー溶接して溶接形鋼を製造する際、ウェブ材2の端部をフランジ材1に押圧しつつ、ウェブ材端部の接合部3にレーザー光4を照射する。
レーザー光4は、フランジ材1に対する傾斜角度αを30度以下にして照射することが好ましい。
この溶接方法は、フランジ材及びウェブ材として、Zn系めっき、好ましくはZnとAlを含む合金めっき、さらに好ましくはZnとAl及びMgを含む合金めっきが施されためっき鋼板を用いた溶接形鋼の製造に適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を熱源としたレーザー溶接によってT字状の溶接継手部を形成した溶接形鋼を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の躯体を構成する梁等に用いられているT形鋼やH形鋼等の形鋼は、熱間圧延で所定の断面形状に成形した後、必要に応じ後めっき,後塗装等を施すことにより製造されてきた。
しかし、近年の住宅の高耐久化、低コスト化に対応し、形鋼を形作るウェブ材やフランジ材に表面処理鋼板、特にZnをめっき金属中に含んだZn系めっき鋼板を用い、連続的に高周波溶接で接合する方法で製造した溶接形鋼が用いられるようになっている。
【0003】
溶接形鋼は、通常、連続的に送り込まれるめっき鋼帯等の素板を上下左右のロールで位置決めし、加圧しながら高周波溶接することにより製造されている。この製造方法は、例えば特許文献1等で紹介されているように、フランジ材とウェブ材といった材料表面に溶接電流を通電するための電極を接触させて連続的にフランジ材とウェブ材を溶接している。しかし、高周波溶接の場合は、加熱されるフランジ材とウェブ材とのT字継手部付近や材料と電極との接触部も加熱されるために材料のめっき層がダメージを受けることになる。したがって、ダメージを受けた部分の耐食性を確保するため、広い範囲に渡って補修塗料を塗布する必要がある。
【0004】
高周波溶接には、上記のような問題の他に、電極自身の摩耗が激しく、短時間で電極を交換する必要が生じるという問題もある。すなわち、高周波溶接では電極を材料表面に接触させながら材料を移動させている。そして、電極には銅合金が用いられているため、接触部で電極と材料のめっき金属との反応が起こって電極の摩耗が激しくなり、電極の交換頻度が多くなるのである。電極の短時間での交換は、溶接コストの上昇や生産効率の低下を招くという問題を含んでいる。また、高周波溶接は大きな溶接電流を与える必要があるために、溶接機が大型となり非常に高価であるため設備投資が大きくなるという問題も含んでいる。
さらに、被溶接形鋼に、サイズ的な制約が加わる。すなわち、高周波溶接では電極を材料表面に接触させる必要があるが、電極ホルダーがH形鋼のフランジ部に接触しやすくなるため、小型品の溶接は困難となる。W80mm×H80mm程度のサイズが限界となり、それ以下のサイズのH型鋼を高周波溶接法で製造することは困難である。
【0005】
このような高周波溶接での電極及び設備投資の問題を避けるために、この溶接方法とは別に、フランジとウェブとのT字継手部を溶融溶接する溶接H形鋼の製造方法がある。この溶接H形鋼の製造方法は、例えば特許文献2等で紹介されているように、図1に示すフランジ1とウェブ2とのT字継手部3a〜3dを上下片側ずつ、つまり、継手部3aと3bの組合せと継手部3cと3dの組合せで材料を反転させて溶接している。
通常、溶接は材料がZn系めっき鋼板であるためにCO溶接やMAG溶接といった消耗電極式、つまり溶接ワイヤーを用いたアーク溶接が適用されている。この方法であれば、電極損耗による交換作業がなくなり、設備投資も比較的低くすることができるメリットがある。
【0006】
上記のようなアーク溶接法を用いると、アングルやガゼットプレート、或いは柱のベースプレート等の建築部材も同様に、容易に製造することができる。
しかし、このような溶接が施されると、高周波溶接に比べて溶接速度が非常に遅く、生産性が低下する。さらに、加熱領域が広くなるために材料のめっき層が蒸発する損傷領域も広くなって溶接後の補修塗料の塗布量が多くなるという問題がある。また、2箇所のT字継手部を同時に溶接するため2台の溶接トーチを必要とするばかりでなく、反り等の変形を防止するために、溶接条件の細かな調整・管理が必要であり、管理項目や管理工程時間が増加する問題もある。
【0007】
一方で、ステンレス鋼を中心として、フランジとウェブとのT字継手部にレーザー光を照射するレーザー溶接法を採用することも提案されている。例えば特許文献3,4参照。
しかしながら、特許文献3,4で提案されたレーザー溶接法もステンレス鋼の溶接を目的としているために、めっき鋼板を素材とするときの問題点は全く考慮されていない。単に熱歪みによる変形を抑制し、溶接後の矯正を省こうとするに主眼が置かれているのみである。このため、Zn系めっき鋼板を素材としてH形鋼等の形鋼をレーザー溶接法により得ようとするとき、照射領域が広くなり、それに伴ってめっき層が蒸発する損傷領域も広くなって溶接後の補修塗料の塗布量が多くなるという問題は解消されない。
【0008】
そこで、本発明者等は、T字継手部を備えためっき鋼板製の形鋼を溶接法で製造する際に、補修塗料の塗布量を抑えても耐食性が劣ることがなく、溶接工程時間の短縮を図ることができる製造方法を提供するために、特許文献5で、ともにZn系めっきが施されためっき鋼板からなるフランジ材にウェブ材の端部を垂直に押し当ててT字状の溶接継手部を形成した溶接形鋼を製造する際、溶接法としてレーザー光を照射するレーザー溶接法を用い、前記レーザー光を、押し当てたウェブ材端部にフランジ材に対して30度以下の傾斜角度で、当該ウェブ材が板厚方向全域にわたって溶融されるように照射するレーザー溶接方法を提案した。
【0009】
【特許文献1】特開平8−150411号公報
【特許文献2】特開平2−15876号公報
【特許文献3】特開平10−99982号公報
【特許文献4】特開2005−21912号公報
【特許文献5】特願2006−139775号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献5で提案した溶接方法によると、押し当てた側のウェブ材端部に当該ウェブ材が板厚方向全域にわたって溶融されるようにレーザー光を照射しているため、溶融領域を狭く、かつ深くすることができる。その結果、形状精度良く溶接接合できるばかりでなく、被溶接鋼板がめっき鋼板であってもめっき層が蒸発する損傷領域を極力狭くすることができるため、溶接後の補修塗料の塗布量の低減効果が発揮される。また、溶融領域を深くすることができるため、片側からの溶接のみでも、所要の溶接強度を備えた形材を簡便に製造することができる。
【0011】
しかしながら、特許文献5による溶接方法では、被溶接部にレーザー光を照射して被溶接部の板厚方向全域を溶融させているので、場合によっては照射エネルギーにより、図2(a)に示すように、溶接部表面が窪むことがある。溶接部に窪みがあると応力集中を受けやすく、用途によっては強度不足になることもある。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、T字継手部を備えた溶接形鋼をレーザー溶接法で製造するに際に、溶接部に窪みがなく、接合強度の高い溶接形鋼を簡便な方法で製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の溶接形鋼の製造方法の製造方法は、その目的を達成するため、いずれも鋼板からなるフランジ材にウェブ材の端部を垂直に押し当てたT字状継手部をレーザー溶接して溶接形鋼を製造する際、ウェブ材の端部とフランジ材とを互いに押圧しつつ、ウェブ材端部の接合部にレーザー光を照射することを特徴とする。
なお、本発明では「ウェブ材の端部とフランジ材とを互いに押圧しつつ」を要件としているが、この要件は「固定したフランジ材にウェブ材の端部を、圧をかけて押し付ける」形態、「固定したウェブ材の端部にフランジ材を、圧をかけて押し付ける」形態、及び「フリーのフランジ材とフリーのウェブ材の端部を、互いに両方から圧をかけて近づける」形態を含むものである。
【0013】
ウェブ材の端部をフランジ材に押圧する手段としては、スクイズロールを用いることが好ましい。
また、レーザー光は、フランジ材に対して30度以下の傾斜角度で、ウェブ材端部の接合部に照射することが好ましい。
この溶接方法により、2枚のフランジ材の間に1枚のウェブ材の両端をT字継手により接合した溶接H形鋼が製造される。
さらに、本発明では、フランジ材及びウェブ材として、Zn系めっき、好ましくはZnとAlを含む合金めっき、さらに好ましくはZnとAl及びMgを含む合金めっきが施されためっき鋼板を用いた溶接形鋼が製造される。
【発明の効果】
【0014】
本発明方法では、フランジ材にウェブ材の端部を垂直に押し当てて形作られたT字状継手部にレーザー光を照射し、当該継手部を溶融させて溶接接合する際に、ウェブ材の端部をフランジ材に押圧しつつレーザー光を照射している。このため、溶融部が継手部から押出される形態となり、溶融部の固化後、接合金属が継手部の外領域まで広がった形態となる。したがって、接合部の窪み形成が抑制されるばかりか、かえって接合部の断面積を拡げ、接合強度は大きくなる。また、レーザー溶接の採用により、溶融領域を狭く、かつ深くすることができるので、めっき鋼板、特に亜鉛系めっき鋼板を素材とした形鋼であっても、めっき層の蒸発を抑制した溶接接合を行うことができる。しかもサイズの小さい溶接形鋼が容易に製造できる。
したがって、本発明により、めっき鋼板を素材とした形鋼であっても、最小限の溶接部補修のみで高強度、高耐食性を備えた溶接形鋼を低コストで製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者等は、T形鋼やH形鋼等、鋼板を素材としてT字状の溶接継手部を備えた形鋼をレーザー溶接法で製造する際に、溶接継手部に形成されやすい窪みの発生原因とそれをなくす手段について検討を重ねてきた。
レーザー溶接法では高出力のガスレーザーが使用される。このため、被接合金属が溶融されるのであるが、部分的に蒸発・飛散され、被溶接金属が僅かに減少する。また、被溶接金属同士は当接されているが、端面が面出し加工されていない場合には僅かに隙間があり、被溶接金属の減少と被溶接金属間の隙間の影響で接合金属が不足する。これらの現象に加え、溶接点にはシールドガスが噴きつけられていることから溶融池にはガス圧がかかり、また、重力の影響もあり、図2の(a)に見られるように、溶接継手部に窪みが形成されると想定される。
【0016】
継手部における接合金属の不足を補うには、当該領域に金属を補充する必要がある。
本発明は、ウェブ材を押圧することによりウェブ材自身を多く溶融させ、継手部における接合金属の不足を補おうとするものである。
通常通り、図3に示すように、フランジ材1とウェブ材2のT字継手部3にレーザートーチ5から傾斜角度α(このαについては後記する。)でレーザー4を照射する。本発明では、この際、ウェブ材2を図3中、矢印方向に押圧する。このため、ウェブ材2自身が通常よりも多く溶融され、押圧力により、溶融された接合金属が接合領域から僅かにはみ出すような形態となる。レーザー照射が終わり、溶融された接合金属が凝固した後には、図2の(b)に見られるように、窪みはなく、かえって断面積は大きくなり、結果的に接合強度は上昇する。
押圧量としては3〜5kNの押圧をかけて、0.3〜0.5mm程度押圧することが好ましい。
【0017】
ウェブ材の押圧方法には制限はないが、溶接点近傍を選択的に押圧する必要があり、図4に示すように、スクイズロール6により、フランジ材1をウェブ材2の端部に押圧することが好ましい。なお、図4では、ウェブ材2を2枚のフランジ材1で挟んだ状態でラインに乗せ、双方が平坦な一対のスクイズロール6で2枚のフランジ材の間隔を狭くするように流してH形鋼を製造している。スクイズロール6の近傍に配したレーザートーチ5からレーザー光4を照射して溶接している。図4ではレーザートーチ5は一個しか配置していないが、反体側のフランジ材と溶接すべく、もう一個のレーザートーチを配置しておくと、H型鋼の2枚のフランジ材を同時に接合することが可能となる。
その他の手法としては図5に示すようなテーパーが設けられたスクイズブロック8によって押圧させる方法がある。しかしながら、この手法ではフランジ材がスクイズブロック8に摺動するため、フランジ部に擦り傷などが発生する可能性がある。
【0018】
フランジ材とその板幅方向の凡そ中央に垂直に端部を押し当てたウェブ材からなるT形鋼を製造する場合には、フランジ材に当接するロールとして平坦なロールを、ウェブ材に当接するロールとしてV形溝を有するVロールを配したスクイズロールを用い、ウェブ材をフランジ材側に押圧しつつ、スクイズロールの近傍に配したレーザートーチからレーザー光を照射して溶接することが好ましい。
【0019】
レーザー光は非常に狭く、かつ高いエネルギー密度を有しており、焦点距離も比較的長い。したがって、この熱源を溶接法に用いると、狭い断面積で深い溶融金属領域を形成することができる。このため、ウェブ材とフランジ材の溶接接合に際し、例えば図3のように、T字継手部の片側のみからのレーザー光照射で十分に溶接接合することができ、溶接作業の省力化にも資することになる。
【0020】
レーザー光照射により形成される溶融金属領域をより狭く、かつ深くするためには、図3にてαで示す照射角度を小さくすることが好ましい。具体的には30度以下、好ましくは10〜20度とする。この角度αが20度を上回ると、ウェブ材の板厚方向の溶け込み深さが狭く浅くなって十分な接合強度を得ることができ難くなる。またこの角度が10度を下回ると、フランジ材表面にレーザー光が接触してしまい、被溶接材がめっき鋼板の場合、めっき金属の損傷領域が広がってしまう危険性がある。
なお、レーザー光がフランジ表面に接触せず、ウェブの板厚方向の溶け込み深さを深くするためには、図3に示したようにレーザー光4の材料への照射位置、いわゆる狙い位置を、ウェブ2の端部からδで示す僅かな量で移動させた位置にすることが好ましい。また、溶接トーチとフランジの干渉を避けるために、長焦点のレーザー溶接が適している。
【0021】
前記した通り、レーザー光を熱源とした溶接法では、狭い断面積で深い溶融金属領域を形成することができる。したがって、レーザー溶接法はめっき鋼板、特にZn系めっき鋼板、さらにはZn−Al系やZn−Al−Mg系めっきを施した鋼板を素材とした溶接構造物の製造に適している。
このため、本発明の溶接形鋼の製造方法、Zn系めっき鋼板、特にZn−Al系やZn−Al−Mg系のめっきを施した鋼板を素材とした形鋼の製造に好適に用いられる。
【実施例】
【0022】
板厚が2.3mmで引張強さが400N/mm2の鋼板にZn−6%Al−3%Mg合金めっき層を片面当り付着量が90g/m2で設けた溶融めっき鋼板を素材とした。板幅80mmにカットした素材をフランジ材に、板幅76mmにカットした素材をウェブ材として、図4に示すように流し、80mm×80mmの溶接H形鋼を作製した。
なお、この際、フランジ材の外面間の距離が80mmになるようにスクイズロールで押圧した。溶接は、被溶接フランジ材表面に対してレーザートーチ5を10度傾斜させて、片側のみから、被ウェブ材の幅方向全域に渡ってすみ肉溶接を実施した。溶接時のレーザー出力は4.0kW,溶接速度が4m/min,シールドガスをアルゴンとして20リットル/min供給した。
そして、製造したH形鋼の横断面を目視観察したところ、フランジ材とウェブ材の交差点の外側にはみ出すように、溶接ビードが僅かではあるが形成されていた。窪みは全く認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】溶接H形鋼の構成を示す模式図
【図2】T字溶接部の断面形状、(a)従来例、(b)本発明例
【図3】レーザー溶接によるT字継手部の溶接状況を示す模式図
【図4】アプセット方法の一実施態様を示す模式図
【図5】アプセット方法の他の実施態様を示す模式図
【符号の説明】
【0024】
1:フランジ材 2:ウェブ材 3,3a,3b,3c,3d:T字継手部 4:レーザー光 5:レーザートーチ 6:スクイズロール
7:引張用チャック 8:スクイズブロック
α:傾斜角度 δ:狙い位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
いずれも鋼板からなるフランジ材にウェブ材の端部を垂直に押し当てたT字状継手部をレーザー溶接して溶接形鋼を製造する際、ウェブ材の端部とフランジ材とを互いに押圧しつつ、ウェブ材端部の接合部にレーザー光を照射することを特徴とする溶接形鋼の製造方法。
【請求項2】
ウェブ材の端部をフランジ材に押圧する手段として、スクイズロールを用いる請求項1に記載の溶接形鋼の製造方法。
【請求項3】
フランジ材に対して30度以下の傾斜角度で、ウェブ材端部の接合部にレーザー光を照射する請求項1又は2に記載の溶接形鋼の製造方法。
【請求項4】
溶接形鋼が、2枚のフランジ材の間に1枚のウェブ材の両端をT字継手により接合したH形鋼である請求項1〜3のいずれかに記載の溶接形鋼の製造方法。
【請求項5】
フランジ材及びウェブ材が、Zn系めっきが施されためっき鋼板である請求項1〜4のいずれかに記載の溶接形鋼の製造方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−119485(P2009−119485A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293921(P2007−293921)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】