説明

溶接部の放射線透過試験方法

【課題】小さな欠陥をもより簡単で容易に欠陥を検出できる放射線透過試験方法、特に、管体と管板とを接続する溶接部の小さい欠陥をもより簡単で容易に検査できる放射線透過試験方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、管体端部の溶接部を放射線検査する方法において、鉛板を該管体先端部に挿嵌し、該管体端部とは反対側の方向から挿入した放射線源から放射線を照射して行うことを特徴とし、遮蔽プラグによる小さな欠陥が検出し難くなることや、種々の遮蔽プラグを準備しておく必要がなく、小さい欠陥をもより簡単で容易に検査できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を用いた透過試験方法に係り、特に、管体と管板とを接続する溶接部の溶接状態を検査するのに好適な試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱交換器、多管式反応器などの管体とこの管体を支持する管板との溶接状態や溶接欠陥の有無を検査するには非破壊で行う放射線を用いた透過検査が有効である。
放射線透過試験方法として、放射線の金属透過距離が等しくなるように円錐状切り欠きを有する遮蔽プラグを管体内に配置して行う方法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平3−8484号公報
【0003】
図1は、従来の放射線透過試験方法を示す断面図である。管板溶接部5の放射線による透過試験を行う場合を示している。
まず、内部に放射線源1を有する放射線容器2を溶接部5の反対側から管体3内に挿入する。次に、金属材料から成る遮蔽プラグ9を、管体3内に挿入、配置する。この遮蔽プラグ9の放射線源側端部には、円錐状切り欠き9aが形成してある。この切り欠き9aの母線とプラグ中心軸10とのなす角αは、溶接部5の外表面母線の管軸心とのなす角αとほぼ同じに形成する。これにより、溶接部5の表面から切り欠き9aの表面までの距離は、いずれの位置においてもほぼLで一定となり、このため、放射線6の金属透過距離は、いずれの部分においてもほぼ等しくLとなる。また、管板4の外部には、透過度計7が配置され、その背後に、管体3と直交するように写真フィルム18が配置されている。
そして、放射線源1から放射された放射線6は、いずれの部位においても、ほぼ等しい金属透過距離をもって写真フィルム18に到達するので、写真フィルムの感光濃度はほぼ均一となり、溶接部5の溶接状態、溶接欠陥などが判別確認できるというものである。
【0004】
一般に放射線が金属材料を透過する距離が長くなると欠陥の検出性が低下し、小さい欠陥が検出し難くなる。したがって、上記従来の遮蔽プラグを配置して行う方法は、放射線が金属材料を透過する距離が長くなり、小さい欠陥を検出し難い。また、管体の直径、管体の材質、溶接部の外表面母線の管軸心とのなす角度に対応してそれぞれ円錐状切り欠きを有する遮蔽プラグを準備しておかなければならないという煩雑さがある。
このように、従来の方法は、小さい欠陥が検出され難く、多くの円錐状切り欠きを有する遮蔽プラグを準備しておく必要があり、種々の管体端部の溶接部の小さい欠陥をもより簡単で容易に検査できる放射線透過試験方法が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、小さい欠陥をもより簡単で容易に検出できる放射線透過試験方法、特に、管体と管板とを接続する溶接部の小さい欠陥をもより簡単で容易に検査できる放射線透過試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、鉛板を該管体先端部に挿嵌し、該管体端部とは反対側の方向から挿入した放射線源から放射線を照射して行うことによって、管体と管板とを接続する溶接部の小さい欠陥をもより簡単で容易に検査できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、管体端部の溶接部を放射線検査する方法において、鉛板を該管体先端部に挿嵌し、該管体端部とは反対側の方向から挿入した放射線源から放射線を照射して行うことを特徴とする溶接部の放射線透過試験方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法は、種々の管径の大きさに対応する鉛板を準備しておくだけで、管体の材質などが異なる種々の管体端部の溶接部の小さい欠陥をもより簡単で容易に検査できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図2は本発明の一実施態様の放射線透過試験方法を示す断面図である。20は管体、21は管板であり、それらが溶接接合されている。検査対象の管体の先端部に鉛板23が挿嵌され、その上にフィルム24が配置されている。22は管板面である。26が放射線源の導入のための入導管であり、検査対象の管体の先端部とは反対側から管体内に挿入されている。
【0010】
入導管(ポリテトラエチレンなどの樹脂製)26は、管体内径と略同じ外径を有する入導管中心調整リング(ステンレス製)27と入導管内に挿入されている入導管中心調整リング受け筒(ステンレス製)28でねじ固定され、管体の中心に保持されている。通常、管体の先端部に鉛板23を挿嵌せずに、入導管を検査対象の管体の先端部とは反対側から管体内に挿入し、管板面22から突き出させ、入導管先端に入導管中心調整リング27をはめ込み、ねじで固定する。入導管を引いて放射線源の位置を管板面からの規定の距離Lに設定する。次いで管体の先端部に鉛板23を挿嵌し、その上にフィルム24を配置する。なお、鉛板を挿嵌せずに行うと、この部分のフィルム濃度が極端に上がってしまい、これが溶接部位にも影響し、欠陥検出精度が低下し好ましくない。
【0011】
入導管26の先端に放射線源25が挿入され、放射線源から放射線が照射され、鉛板で遮蔽された部分を除いてフィルムが感光する。なお、フィルムとして、通常、鉛箔増感紙入りパックフィルムが用いられる。
【0012】
鉛板の厚さは、放射線の遮蔽能力および欠陥の検出精度から、管体の厚さの約0.5〜2倍の厚さが好ましい。薄すぎると放射線の遮蔽能力が低下し、厚すぎると欠陥、特に溶接部の内径側の欠陥の検出精度が低下してしまう。
【0013】
管板面から放射線源までの距離Lは、下記式(1)で示されるLθ以上、式(2)で示されるL以下の範囲に設定するのが好ましい。この範囲外に放射線源を配置して行うと欠陥の検出精度が低下する。
【0014】
【数1】

(式中、Wは溶接部の開先幅(mm)、Hは管体突き出し高さ(mm)、Rは管体外半径(mm)を表す。)
【0015】
【数2】

(式中、W、H、Rは上記と同じであり、tは管体肉厚(mm)を表す。)
【0016】
上記式(1)および式(2)は、試験体の撮影対象位置の断面から幾何学的に求められる数式と実施例の結果から求められる。
図5試験体の撮影対象位置の断面図であり、幾何学的に下記式(3)、式(4)が得られる。
【0017】
【数3】

(式中、θは照射角度(°)、Lはフィルムから放射線源までの距離(mm)、xは管外表面から欠陥までの距離(mm)、yはフィルムから欠陥までの距離(mm)を表し、Rは上記と同じである。)
【0018】
【数4】

(式中、θ、x、tは上記と同じであり、Tは放射線の材料透過厚さ(mm)を表す。)
【0019】
実施例における最少の欠陥(0.5φ×1.5d 円筒形模擬欠陥)について、θ、Tを計算し、纏めて表1に示す。L、θ、Tは上記のとおりであり、Fは欠陥の管体内面からの距離を表す。
【0020】
【表1】

○:検出性良、△:辛うじて検出可能
【0021】
この結果から欠陥を確実に検出可能とするためには、照射角度が15°以下、材料透過厚さを20mm以下とするのが良い。
なお、より大きな欠陥では、材料透過厚さを20mmより大きくしても検出が可能となる。
また、上記の管外表面から欠陥までの距離x(mm)、フィルムから欠陥までの距離y(mm)は、一般に放射線は溶接部の開先中央を通ると看做してもよいので、この時、xは0.5W、yは0.5Hとなる。
これらの値と式(3)と式(4)とから、式(1)および式(2)が導かれる。
W、H,Rおよびtは把握することができるので、Lθ〜Lの範囲を求めることができる。
【0022】
外径19.0mmφ×肉厚2.0mm、外径25.4mmφ×肉厚2.0mm、および外径31.6mmφ×肉厚2.0mmの管体の場合について、管板面から放射線源までの距離Lを求めると、それぞれ42.1〜62.9mm、54.0〜80.9mm、65.9〜84.1mmとなる。
【0023】
撮影対象部位を内径側、外径側に分け、それぞれについてフィルム濃度を変えて行うと欠陥検査の精度が上がり好ましい。内径側、外径側は図5に示すとおり、溶接部の中央を境に内径側、外径側としている。
目標のフィルム濃度として、溶接部全体を撮影する場合、その中央部を2.5、溶接部を分けて撮影する場合、内径側の中央部を1.5〜2.0、外径側の中央部を2.5〜3.0になるように照射するのが好ましい。フィルム濃度は、通常、階段式標準濃度写真を使用して検定された濃度計を用いて測定される。
【実施例】
【0024】
図2に示す態様と同様にして模擬欠陥を形成した試験体について、欠陥検出を行った。
試験体の溶接面側の模式図を図3に示す。試験体の仕様、模擬欠陥は以下のとおりである。
(a)仕様
・管板 材質:S25C、厚さ:93mm
・管体 材質:STB35、
寸法:25.4mmφ×2.0mmt×5000mmL
・管体突き出し高さ:2mm
・溶接部の開先幅:3mm
(b)模擬欠陥
加工位置を図4に示す。単位はmm、ここでのWは欠陥の幅、Lは長さ、dは深さ、Fは管体内面からの距離、φは欠陥の径を表す。
(1)0.3W×3L×1.5d(F=3) スリット形模擬欠陥
(2)1.5φ×1.5d(F=3) 円筒形模擬欠陥
(3)1.0φ×1.5d(F=3) 円筒形模擬欠陥
(4)0.5φ×1.5d(F=3) 円筒形模擬欠陥
(5)0.3W×3L×1.5d(F=4.5) スリット形模擬欠陥
(6)1.5φ×1.5d(F=4.5) 円筒形模擬欠陥
(7)1.0φ×1.5d(F=4.5) 円筒形模擬欠陥
(8)0.5φ×1.5d(F=4.5) 円筒形模擬欠陥
【0025】
使用装置および材料は以下のとおりである。
(a)放射線装置
γ線装置(192Ir) P1-104H(ポニー工業製) γ線の強さ:242GBq
(b)フィルム
鉛箔増感紙入りパックフィルム フィルムはフジ#50
(c)治具
・入導管:ポリテトラエチレン製
・入導管中心調整リング:ステンレス製
・入導管中心調整リング固定ねじ受け筒:ステンレス製
【0026】
撮影する管端溶接部の管体反対側から入導管中心調整リング固定ねじ受け筒を入れた入導管を挿入し、撮影管板面から約20cm突き出し、入導管先端に入導管中心調整リングをはめ込み、ねじで固定した。
管体内を入導管が滑らかに移動できる程度にガムテーブを入導管中心調整リングに巻いた。
入導管を引いて放射線源を所定の距離L(放射線源〜管板面間距離)になる位置に配置する。その際に入導管先端と管体管端との距離をメジャーで測定し、距離Lを確認した。管板の反対側の管体管端位置を 入導管にマークを入れ、入導管の位置が動いていないか分かるようにし、管板の反対側の入導管と管体との隙間に詰め物をして入導管を固定した。
次に、鉛板を撮影する管体先端部に挿嵌し、その上に鉛箔増感紙入りパックフィルムを、鉛箔側を外側にして固定した。
【0027】
放射線源を入導管内に送り出し、所定の時間照射し、撮影した。所定の照射時間は、予め求めておいたフィルム濃度が目標濃度になる時間である。距離Lが60mm、80mm、100mmにおいて、撮影対象位置を全体、内径側、外径側に分け、それぞれ撮影した。内径側、外径側は図5に示すとおりであり、この試験体では、管体内面から約4.5mmが内径側で、そこから約3.0mmが外径側である。
照射時間、撮影後に測定したフィルム濃度を表2に示す。
模擬欠陥の検出結果を表3に示す。表中の符号は、◎は検出性優、○は検出性良、△3は辛うじて検出を示す。
距離Lが短い方が、また内径側、外径側に分けて行う方が、検出性が良くなる傾向を示している。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来の放射線透過試験方法を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施態様の放射線透過試験方法を示す断面図である。
【図3】試験体の溶接面側の模式図である。
【図4】試験体の模擬欠陥の加工位置を示す図である。
【図5】試験体の撮影対象位置の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 放射線源
2 放射線容器
3 管体
4 管板
5 溶接部
6 放射線
7 透過度計
8 フィルムカセット
9 遮蔽プラグ
9a 切り欠き
10 プラグ中心軸
18 写真フィルム
20 管体
21 管板
22 管板面
23 鉛板
24 フィルム
25 放射線源
26 入導管
27 入導管中心調整リング
28 入導管中心調整リング固定ねじ受け筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管体端部の溶接部を放射線検査する方法において、鉛板を該管体先端部に挿嵌し、該管体端部とは反対側の方向から挿入した放射線源から放射線を照射して行うことを特徴とする溶接部の放射線透過試験方法。
【請求項2】
鉛板の厚さが、管体の厚さの0.5〜2倍の厚さであることを特徴とする請求項1記載の溶接部の放射線透過試験方法。
【請求項3】
管板面から放射線源までの距離Lが、下記式(1)で示されるLθ以上、式(2)で示されるL以下の範囲になるように放射線源を配置して行うことを特徴とする請求項1記載の溶接部の放射線透過試験方法。
【数1】

(式中、Wは溶接部の開先幅(mm)、Hは管体突き出し高さ(mm)、Rは管体外半径(mm)を表す。)
【数2】

(式中、W、H、Rは上記と同じであり、tは管体肉厚(mm)を表す。)
【請求項4】
撮影対象部位を内径側、外径側に分け、それぞれについてフィルム濃度を変えて行うことを特徴とする請求項1記載の溶接部の放射線透過試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−180647(P2009−180647A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20890(P2008−20890)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】