説明

溶接部溶け込み深さ探査方法及び溶接部溶け込み深さ探査装置

【課題】金属部材同士を溶接した溶接部の、該金属部材内に溶け込んだ溶け込み深さを精度良く測定できる溶接部溶け込み深さ探査方法及びその探査装置を提案する。
【解決手段】金属部材同士を接合した溶接部23と該金属部材の非溶込部24との溶接界面25に向けて、超音波を発信し、この反射波から二次高調波を取り出すことにより、界面反射波を割り出し、該界面反射波を受信するまでの経過時間である界面反射波到達時間に基づいて溶接界面位置Bを算出することにより、溶接部23の溶け込み深さt0を測定するようにした溶接部溶け込み深さ測定方法及び装置1である。この方法及び装置によれば、反射波の二次高調波から界面反射波を容易かつ正確に割り出すことができるため、超音波の反射した溶接界面位置を正確に求めることができ、溶接部の溶け込み深さを精度良く測定することができ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材同士を溶接した溶接部の、該金属部材への溶け込み深さを、非破壊により測定する溶接部溶け込み深さ探査方法、及び溶接部溶け込み深さ探査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士を接合する溶接部は、双方の金属部材内に充分に溶け込むようにして生成されることにより、優れた接合力を発揮できることとなる。すなわち、溶接部の各金属部材への溶け込み深さが浅かったり、深すぎると、この溶接部は適正な接合力を発揮できない。したがって、溶接部が金属部材同士を適正に接合しているか否かは、該溶接部の溶け込み深さを調べることによって判定することが可能である。
【0003】
例えば、スチール製の自動車用ホイールにあっては、ホイールリムとホイールディスクとを溶接した、所謂2ピース製のものが主流である。そして、ホイールディスクのフランジ部端縁とホイールリムの内周面とを隅肉溶接することにより、両者を接合してなるものが知られている。この自動車用ホイールは、重要保安部品であることから、所定の強度や耐久性等の力学的特性を充分に発揮できることが求められている。このため、前記ホイールリムとホイールディスクとの溶接部にあっても、適正な接合力を有している必要がある。この溶接部は、上記したように、その溶け込み深さを調べることにより、適正に接合しているか否かを判定可能であることから、自動車用ホイールの生産にあって、溶接部の溶け込み深さを測定することにより、溶接部を良否判定することが一般的である。具体的には、抜き取り検査により、自動車用ホイールの溶接部を切断し、この切断面の溶け込み深さを実測している。
【0004】
一方、上記した溶接部の溶け込み深さを調べる方法として、例えば特許文献1のように、この溶接部に向けて超音波を発信し、その反射波をとらえることにより、溶接熱の作用によって金属部材の結晶構造が変化した溶接熱影響部と、結晶構造が変化していない部位との境界を検出する方法が提案されている。この方法は、15MHzという比較的高い周波数の超音波を発信することにより、溶接熱影響部で反射する波(熱影響部反射波)を検出できるようにしているものである。
【特許文献1】特開平2−102409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、溶接部の金属部材への溶け込み深さを測定する方法として、自動車用ホイールを切断し、溶接部の溶け込み深さを実測する方法にあっては、当該ホイールを廃却することとなるため、抜き取る割合に応じて、この分の費用が生産コストに上乗せされる。また、この方法では、自動車用ホイールの切断作業、切断面の研磨作業、溶け込み深さを実測する作業を順次行うこととなるため、これら作業に比較的多くの時間と労力とを要する。このため、上述した超音波を用いた方法のように、比較的短時間で非破壊により測定できる方法が求められている。
【0006】
また、上述した従来の、溶接部に向かって発信した超音波の反射波を調べる方法にあっては、金属部材内の溶接熱影響部と、溶接熱の影響していない部位との境界を検出することができるだけであり、溶接部と溶接熱影響部との境界である溶接界面を検出することはできない。これは、溶接熱影響部で反射する熱影響部反射波と、溶接界面で反射する界面反射波とが、ほぼ同じような振幅により連続して生じているため、これら両者を区別することができないからである。このように、比較的高い周波数の超音波を発信することにより感度を高めるだけでは、溶接界面を探査することはできなく、溶接部の溶け込み深さを測定することもできない。
【0007】
本発明は、溶接部の溶け込み深さを、非破壊により正確に測定可能な溶接部溶け込み深さ測定方法、及び溶接部溶け込み深さ探査装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属部材同士が溶接された探査対象物の、該金属部材内に溶け込んでいる溶接部と、該溶接部が生成されていない金属部材の非溶込部との溶接界面に向けて、所定周波数の超音波を発信し、この超音波の反射波を受信して、この反射波から、該反射波に含まれている二次高調波を取り出すことにより、前記超音波が溶接界面で反射した界面反射波を割り出し、超音波の発信から該界面反射波を受信するまでの経過時間である界面反射波到達時間に基づいて、溶接界面位置を算出することにより、溶接部の金属部材内への溶け込み深さを測定するようにしたことを特徴とする溶接部溶け込み深さ探査方法である。ここで、反射波は、基本周波数の整数倍の周波数の波が重ね合わされて構成されており、二次高調波は基本周波数の二倍の周波数の波である。
【0009】
ところで、上述した従来方法のように、溶接界面に向けて発信した超音波の反射波では、溶接界面で反射した界面反射波と溶接熱影響部で反射した熱影響部反射波とが連続して存在していることから、界面反射波を特定できない。これに対し、本発明の発明者らは、この超音波の反射波について、鋭意研鑽を重ねた結果、溶接界面で反射した界面反射波には二次高調波成分が比較的多く、熱影響部反射波には二次高調波成分が比較的少ないことを突き止めた。
【0010】
本発明は、上記したように、界面反射波が熱影響部反射波に比して二次高調波成分を多く有するという知見に基づいて成し得た方法である。すなわち、反射波から取り出した二次高調波には、熱影響部反射波に比して、界面反射波がはっきりと表れることから、熱影響部反射波と界面反射波とが連続して存在していても、この界面反射波を割り出すことができる。そして、この界面反射波が定まることにより、反射波(二次高調波)の波形から、超音波の発信から該界面反射波を受信するまでに経過した経過時間である界面反射波到達時間を求め、この界面反射波到達時間に基づいて溶接界面の位置を正確に算出できる。この溶接界面位置を算出したことにより、溶接部の溶け込み深さを精度良く測定することができ得る。したがって、この溶け込み深さに従って、溶接部の良否判定を行うことも可能となり、該溶接部の品質管理を行うことができ得る。
【0011】
尚、超音波の波形は、通常、その振幅と周期とにより表されるものであるから、反射波も、一般的に、その周期を表す時間経過に従ってその波形が示されるようになっている。このため、本発明のように界面反射波を割り出すことができれば、該界面反射波を受信するまでに経過した界面反射波到達時間を、その反射波(二次高調波)の波形から読みとることができる。
【0012】
例えば、本発明の方法によれば、上述した自動車用ホイールの溶接部の溶け込み深さを、正確かつ精度良く測定することができ、この溶接部の強度や耐久性等が充分であるという品質管理を行うことができ得る。また、本発明は、非破壊により溶け込み深さを測定する方法であるから、上述した従来の、自動車用ホイールを切断して溶接部の溶け込み深さを実測する方法のように、測定に用いた自動車用ホイールを廃棄することもなく、総じて生産コストを低減できる。さらに、本方法は、従来方法に比して、比較的短時間で行い得ると共に、その労力も少なくて済むという優れた利点も有する。
【0013】
また、上述した溶接部溶け込み深さ探査方法にあって、溶接界面に向けて超音波を発信する発信位置とほぼ同位置で、界面反射波を割り出し可能な二次高調波が含まれている反射波を受信するように、この発信位置と探査対象物の外面に入射する超音波の入射角とを調整し、この発信位置と入射角と界面反射波到達時間とに基づいて溶接界面位置を算出することにより、溶接部の溶け込み深さを測定するようにした方法が提案される。
【0014】
ここで、超音波は、光と同様に、強い指向性を有していることから、溶接界面に当たる角度に従って、該溶接界面で反射する界面反射波の進行方向が定まることとなる。そして、この界面反射波の進行方向に沿った位置で、超音波の反射波を受信することによって、界面反射波が最もはっきりと認められる反射波を得ることが可能である。尚、この界面反射波の進行方向から離れた位置で受信した反射波では、界面反射波が分かり難く、その二次高調波から界面反射波を正確に割り出すことができない。
【0015】
かかる方法にあって、超音波の発信位置とほぼ同位置で受信した反射波が、上述したように、界面反射波を最もはっきり認められるものとなるためには、超音波が溶接界面で逆向きに反射するように、該超音波を溶接界面に当てることが必要となる。すなわち、超音波を、溶接界面に当たる部位における該溶接界面の接平面に対して、略垂直に溶接界面に当てるように、超音波の発信位置と当該超音波の探査対象物への入射角とを調整する。これにより、発信位置とほぼ同位置で受信した反射波から取り出した二次高調波により、界面反射波を容易かつ適正に割り出すことができるため、界面反射波到達時間に基づいて、溶接界面位置を正確に算出することができ得る。したがって、本方法によれば、様々な界面形状を有する溶接界面に対して、超音波の発信位置と探査対象物への入射角とを調整することによって、該溶接界面で反射した界面反射波を適正に受信でき、その溶け込み深さを精度良く測定でき得る。
【0016】
この本方法にあっては、発信位置を先に設定し、その位置から発信する超音波の探査対象物への入射角を調整することにより、界面反射波を割り出し可能な二次高調波を含んだ反射波を受信し、溶接界面位置を算出するようにしても良い。また、探査対象物への超音波の入射角は、該超音波の発信方向と探査対象物の外面形状にしたがって定まる。したがって、超音波の発信する方向を定め、発信位置を調整することにより、界面反射波を割り出し可能な二次高調波を含んだ反射波を受信し、当該超音波の発信方向から定まる探査対象物への入射角に従って、溶接界面位置を算出することも可能である。尚、金属部材同士を溶接する探査対象物は、生産ライン等ではほぼ同様に生成されることから、その溶接界面を経験的に予測することが可能である。このような予測に基づいて、超音波の発信位置や入射角を予め設定することにより、比較的容易かつ効率的に溶接部の溶け込み深さを測定することが可能である。
【0017】
また、このような溶接部溶け込み方法にあって、溶接界面に向けて超音波を発信する発信位置を、該溶接界面に沿って順次位置変換すると共に、各発信位置から発信した超音波の探査対象物への入射角を夫々調整することにより、各発信位置毎に、界面反射波を割り出し可能な二次高調波が含まれている反射波を受信し、この発信位置と入射角と界面反射波到達時間とに基づいて溶接界面位置を夫々算出することにより、当該溶接界面の形状を探査するようにした方法が提案される。
【0018】
かかる方法にあっては、各発信位置毎に算出した各溶接界面位置を連続的につなげることにより、金属部材に溶け込んでいる溶接部の輪郭を探査するようにしている。これにより、溶接部の、金属部材への溶け込み形態を知ることができ、溶接部の品質管理を一層適正に行い得る。尚、発信位置が異なれば、発信角も異なると共に、超音波が反射する溶接界面位置も異なることとなるため、発信位置を多く設定するに従い、溶接界面の形状を正確に探査できる。
【0019】
上述した溶接部溶け込み深さ探査方法にあって、所定周波数の超音波を、金属部材の、溶接部が表出していない裏面側から発信し、その反射波を受信するようにした方法が提案される。
【0020】
ここで、金属部材の、溶接部の裏側となる裏面は、この溶接熱の影響を受け難く、その結晶構造も比較的安定していることから、この裏面から入射した超音波は、溶接界面に向けて安定的に進行することとなる。さらに、溶接界面で反射した界面反射波も、この金属部材の裏面を安定的に透過することができる。したがって、本方法によれば、界面反射波を比較的容易かつ正確に捉えることができ、上述した溶接部の溶け込み深さを正確に測定できるという作用効果を、安定して発揮し得る。
【0021】
一般的に、自動車用ホイール等のように、溶接部の溶け込み深さを測定することが求められる製品(探査対象物)にあっては、金属部材の外面形態が比較的平滑であることから、溶接部の裏側となる裏面は、溶接部の外面に比して平滑である。このため、金属部材の裏面から入射した超音波は、該裏面で乱反射し難く、上述した溶接部の溶け込み深さを正確に測定できるという作用効果を安定して発揮し得る。
【0022】
上述した溶接部溶け込み深さ探査方法にあって、超音波が、20MHz以上の周波数であるとした方法が提案される。
【0023】
このように、20MHz以上の高い周波数の超音波を溶接界面に向けて発信することにより、溶接界面で反射する感度が高まり、界面反射をよりはっきりと受信することができる。したがって、反射波から取り出した二次高調波によって、界面反射波を一層はっきりと認めることが可能となるから、該界面反射波を一層容易かつ正確に割り出すことができ、溶け込み深さの測定精度も向上する。そして、このような作用効果は、周波数を大きくするに従ってさらに高まる。尚、この界面反射波は、超音波の二倍となる40MHz以上の二次高調波成分を多く含むものとなっている。
【0024】
一方、上述した溶接部溶け込み深さ探査方法を具体化した装置として、所定周波数の超音波を発生する超音波発生手段と、該超音波発生手段により発生した超音波を発信する発信部と該超音波の反射波を受信する受信部とを具備する探触子と、金属部材同士を接合した探査対象物の、該金属部材に溶け込んだ溶接部と該溶接部が生成されていない非溶込部との溶接界面に向けて、探触子の発信部から所定周波数の超音波を発信する制御処理と、探触子の受信部により受信した反射波から、該反射波に含まれている二次高調波を取り出す処理と、この二次高調波から割り出された、溶接界面で反射した界面反射波に従って、超音波の発信から該界面反射波を受信するまでの経過時間である界面反射波到達時間を求め、該界面反射波到達時間に基づいて溶接界面位置を算出することにより、溶接部の金属部材への溶け込み深さを求める演算処理とを実行する制御処理手段とを備えたことを特徴とする。
【0025】
かかる構成の装置にあっては、上述した、界面反射波に二次高調波成分が比較的多く含まれており、熱影響部反射波には二次高調波成分が比較的少ないという知見を得たことによって成し得たものである。この装置により、反射波から取り出した二次高調波から、界面反射波を正確に割り出すことができ、界面反射波到達時間から溶接界面位置を正確に算出することができるため、溶接部の溶け込み深さを精度良く測定することができ得る。したがって、この溶け込み深さに従って、溶接部の良否判定を行うことが可能となり、該溶接部の品質管理を行うことができ得る。そして、本発明の装置によれば、上述した自動車用ホイールにあって、その溶接部の溶け込み深さを精度良く測定でき、該溶接部の品質管理を行い得る。
【0026】
尚、上述したように、反射波(二次高調波)の波形は、一般的に、時間経過に従って表現されるものであるから、反射波の受信は時間経過に伴って行われる。したがって、界面反射波が定まれば、界面反射波到達時間を求めることができる。
【0027】
また、本構成の探触子にあっては、その発信部と受信部とが夫々別部材として、それぞれ別々に配置する構成としても良いし、この両者を一体的に設けた構成としても良い。一方、本構成の制御処理手段にあって、二次高調波を取り出す処理としては、例えば、探触子の受信部により受信した反射波を、フーリエ解析することによって、該反射波から二次高調波を取り出す処理とすることができる。また、この二次高調波から界面反射波を割り出すには、例えば、二次高調波をモニター等に表出し、作業者により界面反射波を指定する構成とすることが可能である。又は、界面反射波の閾値を予め設定し、該閾値を満足するか否かの判定を行う演算処理を制御処理手段に備えるようにしても良い。
【0028】
上述した溶接部溶け込み深さ探査装置にあって、探触子が、発信部と受信部とを一体的に具備したものであると共に、超音波を発信する発信位置を位置変換可能とするように、該探触子を水平方向及び垂直方向に夫々移動する探触子走査手段と、探査対象物に入射する超音波の入射角を角度調整可能とするように、探触子を傾動する探触子傾動手段とを備えてなり、制御処理手段は、界面反射波を割り出し可能な二次高調波が含まれている反射波を、探触子の受信部が受信するように、探触子走査手段と探触子傾動手段とを駆動制御することにより、超音波の発信位置と該発信位置から発信した超音波の探査対象物への入射角とを夫々調整する制御処理を備えている構成が提案される。ここで、この探触子傾動手段は、探査対象物に対する超音波の発信方向を調整することにより、該探査対象物への超音波の入射角を調整するものである。
【0029】
かかる構成にあっては、超音波を発信する発信位置とほぼ同位置で反射波を受信するように、探触子走査手段を制御することにより発信位置を調整すると共に、探触子傾動手段を制御することにより超音波の探査対象物への入射角を調整するようにしたものである。このように調整した発信位置と入射角とによって、探触子の発信部から発信した超音波を、溶接界面に当たる位置での該溶接界面の接平面に対して略垂直となるように溶接界面に当てることにより、この溶接界面で逆向きに反射した界面反射波を、探触子の受信部で受信することができる。
【0030】
本構成にあって、溶接部の、金属部材内に最も溶け込んでいる部位は、例えば、この部位に超音波が略垂直に当たる所定入射角を予め設定し、探触子走査手段により探触子を順に移動しながら、超音波を発信し、この反射波を夫々受信する。そして、反射波が、界面反射波を割り出し可能な二次高調波を含んでいる場合に、この発信位置と入射角と界面反射波到達時間とに基づいて、溶接界面位置を算出し、溶接部の最も溶け込んでいる溶け込み深さを測定する。尚、溶接部の最も溶け込んでいる部位は、生産ライン等でほぼ同様に生成される場合、比較的容易に推測可能であることから、所定入射角を設定し易い。
【0031】
また、探触子走査手段により探触子を所定間隔毎に発信位置を位置変換すると共に、各発信位置に応じて、探触子傾動手段により入射角を調整することにより、各発信位置で受信した反射波からそれぞれの溶接界面位置を算出することもできる。そして、これら溶接界面位置を連続的につなげることにより、この溶接界面の形状を探査することも可能である。このように、探触子走査手段と探触子傾動手段とを駆動制御することにより、溶接部の溶け込み深さと、溶接界面の形状とを比較的容易かつ精度良く探査することができ得る。
【0032】
また、探触子走査手段と探触子傾動手段とを制御することにより、様々な界面形状を有する溶接界面に対して、超音波の発信位置と探査対象物への入射角を調整し、該溶接界面で反射した界面反射波を適正に受信可能である。さらに、様々な形状の探査対象物に対しても、同様に、超音波の発信位置と探査対象物への入射角を調整することにより、界面反射波を適正に受信可能である。したがって、例えば、自動車用ホイールの周方向に沿って生成した溶接部に対しても、この周方向やホイール軸方向に探触子を移動可能とすると共に、超音波を径方向に向けて発信するように探触子を傾動可能とすることにより、溶接部の溶け込み深さ及び溶接界面の形状を精度良く測定でき得る。
【発明の効果】
【0033】
本発明の溶接部溶け込み深さ探査方法は、上述したように、金属部材同士を接合した溶接部と該金属部材の非溶込部との溶接界面に向けて、所定周波数の超音波を発信し、受信した反射波から二次高調波を取り出すことにより、溶接界面で反射した界面反射波を割り出し、該界面反射波を受信するまでに経過した界面反射波到達時間に基づいて溶接界面位置を算出することにより、溶接部の金属部材内への溶け込み深さを測定するようにした方法である。この溶接部溶け込み深さ探査方法によれば、反射波の二次高調波から界面反射波を容易かつ正確に割り出すことができることから、超音波の反射した溶接界面位置を正確に求めることができ、溶接部の溶け込み深さを精度良く測定することができ得る。そして、このように精度良く測定した溶け込み深さに従って、溶接部が金属部材同士を充分に接合しているか否かを判定することにより、該溶接部の品質管理を行うことが可能となる。また、本方法は、非破壊により溶接部の溶け込み深さを測定する方法であるから、例えば、自動車用ホイールの生産にあって、抜き取り検査により該ホイールを切断して溶け込み深さを実測していた方法のように、当該ホイールを破棄する必要もなくなる。したがって、自動車用ホイールの生産コストを低減することができ得る。
【0034】
この溶接部溶け込み深さ探査方法にあって、超音波の発信位置とほぼ同位置で、界面反射波を割り出し可能な二次高調波が含まれている反射波を受信するように、この発信位置と超音波の探査対象物への入射角とを調整し、この発信位置と発信角と界面反射波到達時間とに基づいて溶接界面位置を算出することにより、溶接部の溶け込み深さを測定するようにした場合には、様々な界面形状の溶接界面にあっても、超音波の発信位置と探査対象物への入射角とを調整することにより、その溶接界面で反射した界面反射波を確実に受信することができる。このため、正確に溶接界面位置を算出でき得る。また、溶接部が最も深く溶け込んでいる溶接界面位置に対して、その界面反射波を受信可能な発信位置又は探査対象物への入射角を予測することにより、当該溶接界面位置を比較的容易かつ正確に得ることができ、その溶け込み深さを測定でき得る。
【0035】
ここで、溶接界面に向けて超音波を発信する発信位置を、該溶接界面に沿って順次位置変換すると共に、各発信位置における超音波の探査対象物への入射角を調整することにより、各発信位置毎に、界面反射波を割り出し可能な二次高調波が含まれている反射波を受信し、各溶接界面位置を算出することにより、溶接界面の形状を探査するようにした方法にあっては、それぞれの溶接界面位置を正確に求め得ることから、溶接界面の形状もほぼ正確に探査できる。このように、溶接界面の形状が探査できることにより、金属部材内に溶け込んでいる溶接部の状態を総合的に知ることができるため、該溶接部の品質管理を一層適正に行い得る。
【0036】
また、上述の溶接部溶け込み深さ探査方法にあって、所定周波数の超音波を、金属部材の、溶接部が表出していない裏面側から発信し、その反射波を受信するようにした場合には、超音波を金属部材内に安定して入射することができると共に、界面反射波を、金属部材の裏面を安定して透過でき得る。したがって、安定的な界面反射波を、比較的容易かつ正確に受信することができ、上述した溶接部の溶け込み深さを精度良く測定できるという作用効果を適正に発揮し得る。
【0037】
また、上述した溶接部溶け込み深さ探査方法にあって、超音波が、20MHz以上の周波数であるとした場合には、溶接界面で反射する感度が向上し、よりはっきりとした界面反射波が生成される。したがって、二次高調波から、一層容易かつ正確に界面反射波を割り出すことができ、溶け込み深さの測定精度も向上する。
【0038】
一方、溶接部溶け込み深さ探査装置にあっては、探査対象物の溶接界面に向けて、探触子の発信部から超音波を発信する制御処理と、探触子の受信部で受信した反射波から二次高調波を取り出す処理と、この二次高調波から割り出した界面反射波の界面反射波到達時間に基づいて、溶接界面位置を算出することにより、溶接部の溶け込み深さを測定する演算処理とを行う制御処理手段を備えてなるものとした。この溶接部溶け込み深さ探査装置によれば、反射波から取り出した二次高調波により、界面反射波を容易かつ正確に割り出すことができ、界面反射波到達時間に基づいて溶接界面位置を算出することにより溶接部の溶け込み深さを精度良く測定することができ得る。したがって、この溶け込み深さに従って、溶接部の良否判定を行うことが可能となり、該溶接部の品質管理を行うことができ得る。
【0039】
上述した溶接部溶け込み深さ探査装置にあって、発信部と受信部とを一体的に具備した探触子と、該探触子を移動する探触子走査手段と、探触子を傾動する探触子傾動手段とを備えてなり、制御処理手段が、探触子の受信部で、割り出し可能な界面反射波を受信するように、探触子走査手段と探触子傾動手段とにより、超音波の発信位置と探査対象物への入射角とを調整する制御処理を備えている構成とした。この構成は、様々な界面形状の溶接界面や、様々な形状の探査対象物に対しても、探触子走査手段と探触子傾動手段とを制御することにより、発信位置と入射角とを調整し、界面反射波を確実に受信でき、溶接界面位置を正確に得ることができ得る。尚、この探触子走査手段により、発信位置を順次位置変換し、探触子傾動手段により各発信位置毎に入射角を調整するように制御すれば、それぞれの発信位置で受信した界面反射波から各溶接界面位置を算出でき、総じて溶接界面の形状を正確に探査することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の実施例を添付図面を用いて詳述する。
図1は、本発明にかかる溶接部溶け込み深さ探査装置1の概略図である。この溶接部溶け込み深さ探査装置1は、探査対象物20を配置する配置台3が設けられた水槽2を備えており、この水槽2の水中に探査対象物20が配置される。また、この溶接部溶け込み深さ探査装置1は、この水槽2の水中で、探査対象物20に所定の超音波を発信すると共に、該超音波の反射波を受信する探触子4を備えている。
【0041】
この溶接部溶け込み深さ探査装置1には、上記した探触子4を、垂直方向に昇降移動すると共に、水平方向に沿って前後左右(紙面に垂直方向は図示省略)に移動する探触子走査装置11が配設されている。また、この溶接部溶け込み深さ探査装置1には、探触子4を、その垂直軸線に対して一方向(紙面の左右方向)へ傾動する探触子傾動装置12が配設されている。ここで、探触子4は、探触子傾動装置12を介して探触子走査装置11に取り付けられており、垂直方向と水平方向へ移動可能であると共に、傾動可能となっている。
【0042】
上記した探触子4は、超音波を発信する発信部4aと該超音波の反射波を受信する受信部4bとを一体的に備えてなるものである。すなわち、超音波を発信する発信位置と、反射波を受信する受信位置とは、ほぼ同位置となっている。したがって、上記した探触子走査装置11に従って、探触子4が垂直方向及び水平方向に移動することにより、超音波を発信する発信位置と、反射波を受信する受信位置とが揃って移動することとなる。ここで、探触子4の受信部4bは、発信部4aから発信された超音波の向きと逆向きの反射波を受信するようになっている。このため、受信部4bは、探触子4の向きが変更されても、発信部4aから発信された超音波の進行方向と逆向きに進んでくる反射波を常に受信し易くなっている。
【0043】
また、この探触子4は、その発信部4aから一方へ向けて超音波を発信するものであるから、探触子4の向きを変更することにより、発信部4aから発信される超音波の発信方向を変えることができる。上記した探触子傾動装置12により探触子4を傾動させることによって、発信部4aから発信する超音波の発信方向を適宜変更可能である。ここで、発信部4aから超音波を垂直下向きに発信した発信方向を基準発信方向とし、実際に発信部4aから発信した超音波の発信方向が、この基準発信方向となす角度を超音波の発信角θa(図8参照)としている。
【0044】
この探触子走査装置11が、本発明にかかる探触子走査手段であり、探触子傾動装置12が、本発明にかかる探触子傾動手段である。また、発信部4aから超音波を発信する発信位置は、該発信部4aを備えた探触子4の位置に従って決まることから、本実施例にあっては、この発信位置により、その場合の探触位置4の存在する位置を示すように以下表現している。同様に、発信部4aから超音波を発信する発信角θaは、探触子4が垂直下方向となす傾斜角をも示すように以下表現している。
【0045】
上述した溶接部溶け込み深さ探査装置1は、高周波発生器5、増幅器6、バンドパスフィルタ7、A/Dコンバータ8、及び制御処理装置9も備えている。探触子4は、高周波発生器5により発生した超音波を所定周波数に増幅する増幅器6に接続されており、該増幅器6から入力した所定周波数の超音波を発信する。ここで、本実施例にあっては、高周波発生器5及び増幅器6により、20MHz以上の超音波を発生することができるようになっている。さらに、本発明では、反射波の二次高調波を活用することから、入射した超音波の周波数の二倍となる40MHz以上の高調波を充分に受信可能とすることを要する。したがって、この探触子4の発信部4aは、20MHz以上の超音波を発信可能なものであると共に、探触子4の受信部4bは40MHz以上の高調波を確実かつ適正に受信可能なものである。
【0046】
さらに、この探触子4は、バンドパスフィルタ7を介してA/Dコンバータ8に接続されており、受信した反射波がバンドパスフィルタ7を経てA/Dコンバータ8に入力される。ここで、A/Dコンバータ8は、バンドパスフィルタ7から入力した反射波をデジタルデータに変換処理するものである。そして、A/Dコンバータ8によりデジタル化した反射波データは、制御処理装置9に入力される。
【0047】
上記した制御処理装置9は、当該溶接部溶け込み深さ探査装置1を統括的に制御処理するものであり、作業者が所定の探査条件を入力する各種入力キー(図示省略)や、該探査条件や探査結果を出力するモニター(図示省略)等を備えている。さらに、この制御処理装置9は、図示しない中央制御装置CPU、記憶装置RAM、記憶装置ROM等も備えている。ここで、記憶装置ROMには、上述した高周波発生器5、増幅器6、探触子走査装置11、探触子傾動装置12を夫々に駆動制御する各動作プログラムや、A/Dコンバータ8から入力した反射波データを演算処理し、溶接部溶け込み深さを測定する演算プログラム等が格納されている。そして、中央制御装置CPUは、これら各動作プログラムや演算プログラムを随時実行する。
【0048】
尚、上述した探触子4の受信部4bで受信した反射波は、所定周期の波が多数連続して構成されてなるものであるから、この波の周期を表す時間経過に従って入力される。すなわち、この反射波は、その振幅と経過時間を示す時間軸とにより波形として表現されるように、上記した制御処理装置9により処理されている。このため、制御処理装置9には、所定単位時間毎にカウントする時間カウンター(図示省略)を備えており、該時間カウンターのカウント数により時間経過を計測可能としている。そして、この制御処理装置9は、時間カウンターのカウント数に従って、探触子4の発信部4aから超音波を発信した時点から、反射波を受信するまでの時間経過を連続して計測する処理を行っている。
【0049】
このように制御処理装置9は、上述した高周波発生器5、増幅器6、探触子走査装置11、探触子傾動装置12、及びA/Dコンバータ8と夫々に接続している。尚、高周波発生器5及び増幅器6が、本発明にかかる超音波発生手段であり、この制御処理装置9が、本発明にかかる制御処理手段である。
【0050】
次に、このような溶接部溶け込み深さ探査装置1により、探査対象物20を探査する過程を順に説明する。
ここで、探査対象物20は、二枚の金属板21,22を重ね継ぎ手溶接したものであり、一方の金属板22の板端と他方の金属板21の表面21aとが隅肉溶接され、その溶接部23が該金属板22の板端に沿って形成されている(図2参照)。この探査対象物20を、溶接部23の溶接方向(長手方向)に対して略直交する横断方向に沿って切断し、この溶接部23の切断面を観察すると、図2のように、溶接部23は、金属板21内に比較的大きく溶け込んだ状態で形成されている。この溶接部23は、金属板21内で、該金属板21の裏面21bの方向へ膨らむ形状に形成されている。そして、この溶接部23と、金属板21の、該溶接部23の形成されていない非溶込部24との境界である溶接界面25も、金属板21の裏面方向へ膨らんだ曲面形状となっている。ここで、金属板21の表面21aから、この溶接界面25までの板厚方向距離が溶け込み深さtであり、溶接部23の最も溶け込んでいる位置までの距離が、最深溶け込み深さt0(図3参照)である。尚、この最深溶け込み深さt0は、溶接界面25の、金属板21の裏面方向へ膨らんだ頂点位置の深さである。また、この金属板21,22が、本発明にかかる金属部材であり、金属板21の裏面21bが、本発明にかかる探査対象物の外面に相当する。
【0051】
尚ここで、自動車用ホイールにあって、ホイールリムとホイールディスクとを溶接した溶接部の溶け込み深さと言うと、一般的に、この最深溶け込み深さt0を示す。そして、この溶接部は、その溶接方向で、最深溶け込み深さt0が所定基準値を満足しているか否かを判定することにより、その品質管理している。
【0052】
上記した探査対象物20を、水を満たした水槽2内の配置台3に、金属板21を金属板22より上側とし、かつこの裏面21bがほぼ水平方向に沿うようにして配置する(図1、図2参照)。この時、探査対象物20は、水槽2内で水没した状態となっている。
【0053】
この後、制御処理装置9の所定の入力キー操作に従って、探触子傾動装置12により探触子4を超音波の発信方向が垂直下向き(発信角θa=0度)となるように保持し、かつこの探触子4を水槽2の水中に入れる。そして、この探触子4を、探触子走査装置11により、探査対象物20の溶接部23の溶接方向に対して直交する方向(図1,2の左右方向)へ水平移動させる。さらに、制御処理装置9は、高周波発生器5により超音波を発生し、該超音波を増幅器6により増幅して20MHzの超音波として、前記移動に伴って探触子4の発信部4aから所定時間間隔で発信する。尚、このように垂直下向きに発信した超音波は、金属板21の裏面21bに略垂直に当たる。このため、この場合の超音波の裏面21bへの入射角は0度となるため、本実施例にあって、超音波を垂直下向きに発信する場合には、演算処理上、入射角は用いてない。
【0054】
ここで、上述したように、溶接界面25は、金属板21の裏面21b方向へ膨らむ曲面形状に形成されていることから、溶接部23の最も溶け込んでいる部位での溶接界面25の接平面は水平方向とほぼ等しくなる。上記のように垂直下向きに発信された超音波が、金属板21の裏面21bから非溶込部24に入射し、溶接界面25における溶接部23の最も溶け込んでいる部位に当たると、溶接界面25で反射した界面反射波のほとんどは、溶接界面25へ進んできた超音波の道筋を伝って、該超音波の進行方向と逆向きに進み、金属板21の裏面21bを透過して、探触子4の受信部4bにより受信されることとなる。
【0055】
上記の界面反射波について詳述すると、溶接界面25が微細な凹凸を全く有さない平滑な曲面形状であれば、溶接界面25で反射した界面反射波は乱反射を全く起こさない。この場合、溶接界面25で反射した全ての界面反射波は、溶接界面25へ向かってきた超音波と同じ道筋を伝って、その超音波の進行方向とは逆向きに進む。これにより、探触子4の受信部4bは、溶接界面25で反射した界面反射波の全てを受信できる。しかし、現実的には、溶接界面25には微細な凹凸を有していることから、溶接界面25で反射した界面反射波は乱反射を僅かに起こす。このため、溶接界面25で反射した界面反射波の一部は、溶接界面25へ向かってきた超音波と同じ道筋を伝って、その超音波の進行方向とは逆向きに進んで行かないことから、探触子4の受信部4bでは、溶接界面25で反射した界面反射波の全てを受信することがない。したがって、探触子4の発信部4aから垂直下向きに発信された超音波が、溶接界面25における溶接部23の最も溶け込んでいる部位に当たった場合には、探触子4の受信部4bは、溶接界面25で反射した全ての界面反射波を受信するのではなく、溶接界面25で反射したほとんどの界面反射波を受信することとなっている。
【0056】
一方、図9のように、上記した垂直下向きに進行する超音波Gが金属板21の裏面21bから入射し、溶接界面25の他の部位(溶接部23の最も溶け込んでいる部位以外の部位)に当たる場合には、この超音波g2は、その部位での接平面Pの法線Lに対して所定角度φ傾いて当たることとなる。このように超音波が溶接界面25の法線Lに対して所定角度φ傾いて当たると、その溶接界面25で反射した界面反射波h3のほとんどは、その同じ角度φで向かい側へ反射してしまう。すなわち、溶接界面25が微細な凹凸を全く有さない平滑な曲面形状であれば、上述と同様に、溶接界面25で反射した界面反射波h3は乱反射を全く起こさず、この界面反射波h3の全てが、その同じ角度φで向かい側へ反射し、探触子4の受信部4bでは界面反射波h3をまったく受信できない。しかし、現実的に溶接界面25には微細な凹凸を有していることから、この界面反射波h3は乱反射を僅かに起こし、溶接界面25で反射した界面反射波h3の一部は、溶接界面25へ向かってきた超音波g1,g2と同じ道筋を伝ってその超音波G、g1,g2の進行方向とは逆向きに進んで行くため、探触子4の受信部4bでは溶接界面25で反射した界面反射波h3の一部を受信できる(図示省略)。このため、超音波g2が、溶接界面25に略垂直に当たらなければ(図9参照)、界面反射波h3を割り出し可能な二次高調波を含む反射波を、探触子4の受信部4bで受信できない。以上のことから、探触子4の受信部4bで受信した反射波の波形に、界面反射波が最もはっきり表れていると認められる位置(図4参照)を、溶接部23の最も溶け込んだ部位の水平方向位置として特定することができる。
【0057】
上述したように、探触子4の発信部4aから超音波を発信することにより、該探触子4の受信部4bでは、溶接界面25で反射した界面反射波だけでなく、金属板21の裏面21bで反射した波や、溶接部23内を通過して、該溶接部23の外周面23aで反射した波等も受信する。このように、発信した超音波に対して反射した波を総合的に反射波という。尚、この反射波には、上記した界面反射波と、後述するように、溶接時の溶接熱により金属板21の結晶組織が変化した溶接熱影響部27で反射した波とが、連続して表れていることから、界面反射波を特定することはできない。ところが、発明者らの鋭意研鑽によって、この界面反射波には二次高調波成分が多く含まれ、かつ熱影響部で反射した波には二次高調波成分が少ないという知見を得た。したがって、反射波から二次高調波を取り出すことにより、界面反射波を割り出すことができ得る。この詳細については、後述する。
【0058】
そして、この溶接部23の最も溶け込んだ部位と特定した水平方向位置で受信した反射波の二次高調波から、界面反射波を割り出し、その界面反射波を受信した受信時間に基づいて溶接界面位置を算出することにより、最深溶け込み深さt0を測定することができる。
【0059】
一方、上述したように本実施例にあっては、探触子4の発信部4aから発信する超音波の周波数を20MHzに設定している。ここで、周波数20MHzの超音波では、この反射波に含まれている二次高調波の周波数が40MHzとなる。例えば、探査対象物20がスチール製の自動車用ホイールの場合には、スチール内を通過する音速が約6×106mm/secであることから、「波長=音速÷周波数」に従うと、二次高調波の40MHzにおける波長は、
波長=6×106 ÷ 40×106
=0.15mm
となる。そして、この0.15mmの波長を有する一周期分の二次高調波において比較的大きな振幅を生じた場合に、その一周期分の二次高調波を界面反射波と認識できる。つまり、0.15mmの誤差の範囲内で溶接界面25の位置を測定することが可能となる。さらに、その0.15mmの波長を有する半周期分の二次高調波において比較的大きな振幅を生じた場合には、その半周期分の二次高調波を界面反射波と認識できる。つまり、0.075mmの誤差の範囲内で溶接界面25の位置を測定することが可能となる。
【0060】
また仮に、探触子4の発信部4aから発信する超音波を40MHzとした場合には、この反射波に含まれている二次高調波の周波数が80MHzとなる。そして、この二次高調波80MHzにおける波長は、
波長=6×106 ÷ 80×106
=0.075mm
となる。つまり、一周期分の二次高調波において比較的大きな振幅を生じた場合に、0.075mmの誤差の範囲内で溶接界面25の位置を測定することが可能となる。さらに、その0.075mmの波長を有する半周期分の二次高調波において比較的大きな振幅を生じた場合では、0.0375mmの誤差の範囲内で溶接界面25の位置を測定することが可能となる。このように、探触子4の発信部4aから発信する超音波の周波数を上げることにより、溶接界面25の位置測定の精度が向上する。したがって、溶接界面25の位置を測定する精度の必要性に応じて、溶接界面25に向けて発信する超音波の周波数を設定することができる。そして、探触子4の発信部4aから発信する超音波を20MHz以上とすることにより、溶接界面25の位置を精度良く測定することが可能となる。
【0061】
次に、この最深溶け込み深さt0を測定する制御処理について詳細に説明する。
上述したように、探触子4を、その発信部4aから超音波を垂直下向きに発信するように保持し、探触子走査装置11により、溶接部23の溶接方向と略直交する方向(図1,2の左右方向)に水平移動させる。さらに、この移動に伴って、所定時間間隔毎に、探触子4の発信部4aから所定周波数の超音波を発信する。そして、この探触子4の受信部4bは、超音波を発信した発信位置毎に、その反射波を受信する。これら各反射波をモニター(図示省略)に順次表示し、作業者により、界面反射波が最もはっきりと表れていると認められる波形の反射波を選出するようにしている。ここで、この選出した反射波を受信した発信位置が、溶接部23が最も深くまで溶け込んでいる部位の水平方向位置として決定する。そして、この発信位置を、最深波発信位置Oとして設定する(図3参照)。
【0062】
図3のように、最深波発信位置Oで、探触子4の発信部4aから垂直下向きに発信した超音波は、金属板21の裏面21bに略垂直に入射し、金属板21内の非溶込部24を通って溶接界面25に当たる。尚、この溶接界面25には、超音波の当たる部位での接平面に略垂直となるように、超音波が当たることとなる。ここで、超音波が、金属板21の裏面21bに入射する位置を入射位置Aとし、溶接界面25に当たる位置を溶接界面位置Bとしている。また、金属板21,22内の非溶込部24には、溶接部23の周囲に、溶接時の溶接熱により、金属結晶が大きくなった溶接熱影響部27が生成されている。尚、この溶接熱影響部27は、溶接部23に近いほど、溶接熱の影響が強く、離れるに従って徐々に弱くなっている。
【0063】
ここで、図4のように、探触子4の発信部4aから発信した超音波Gの一部は、図4のように、入射位置Aで、金属板21の裏面21bで反射して裏面反射波h1を生ずる。一方、この入射位置Aから金属板21内に進入した超音波g1の一部は、組織構造が変化した溶接熱影響部27で乱反射する。そして、この溶接熱影響部27で乱反射した波の一部が、入射方向に沿って反射する熱影響部反射波h2である。また、この溶接熱影響部27を通過した超音波g2の一部は、溶接界面25で反射して界面反射波h3を生ずる。さらにまた、この溶接界面25を透過して溶接部23を通過した超音波g3の一部は、溶接部23の外周面23aで反射して、外周面反射波h4を生ずる。これら各反射波h1,h2,h3,h4が順に探触子4の受信部4bにより受信され、一連の反射波H(図5参照)を成している。
【0064】
図5は、スチール製の金属板21,22をアーク溶接した探査対象物20に、20MHzの超音波Gを入射して得た反射波Hの波形である(図4参照)。尚、これは、超音波Gを、上述のように、溶接部23の最も溶け込んだ部位に向けて発信されている場合のものである。この反射波Hには、上記した裏面反射波h1と外周面反射波h4とが比較的大きく表出している。そして、裏面反射波h1に連続するように、上記した熱影響部反射波h2と界面反射波h3と推測される波形が確認できる。しかし、この波形からは、熱影響部反射波h2と界面反射波h3とを区別することはできない。これは、溶接熱影響部27で乱反射した熱影響部反射波h2と、溶接界面25で反射した界面反射波h3とがほとんど同じような波形で連続して生じており、この両者の境界が不明確であるためである。
【0065】
この反射波Hは、基本周波数の整数倍の周波数の波を重ね合わせた非線形超音波として表現される。すなわち、反射波Hは、基本周波数の整数倍の周波数の波が重なり合って、該基本周波数の波形が歪んだ波となっている。上述した制御処理装置9は、探触子4の受信部4bで受信した反射波をA/Dコンバータ8によりデジタルデータ化して入力し、この反射波Hをフーリエ解析することによって、基本周波数の波、二次高調波、三次高調波、・・・に分解する。そして、基本周波数の二倍の周波数の二次高調波H’を取り出す。ここで、基本周波数は、探触子4の発信部4aから発信された超音波Gの20MHzであり、二次高調波H’の周波数は40MHzである。
【0066】
制御処理装置9により、上述した反射波H(図5)から取り出した二次高調波H’を図6に示す。この二次高調波H’には、反射波Hと同様に、金属板21の裏面21bで反射した裏面反射波h1’と、溶接部23内を通過して、該溶接部23から出る位置で反射した外周面反射波h4’とが、比較的大きく表出している。さらに、この裏面反射波h1’の後に、溶接界面25で反射した界面反射波h3’が表出している。一方、この界面反射波h3’に比して、溶接熱影響部27で反射した熱影響部反射波h2の二次高調波成分は小さく、裏面反射波h1’と界面反射波h3’との間に、極小さく表れているだけである。
【0067】
ここで、上述した反射波Hにあって、金属板21の裏面21bで反射した裏面反射波h1は、超音波Gが水中から金属板21の裏面21bを透過することにより発生し、比較的大きな歪みを生ずる。同様に、溶接部23から水中へ出る位置で反射した外周面反射波h4も、溶接部23の外周面23aから水中を透過することにより発生し、比較的大きな歪みを生ずる。一方、溶接界面25で反射した界面反射波h3にあっても、超音波h2が該溶接界面25を透過する時に比較的大きな歪みを生ずる。これに対して、溶接熱影響部27で反射した熱影響部反射波h2は、該溶接熱影響部27の結晶構造で乱反射したものであるから、比較的小さな歪みを生ずるだけである。そして、反射波Hに大きな歪みを生じているほど、その高調波成分を多く含んでいることであり、その歪みが二次高調波H’の各反射波h1’、h3’、h4’の振幅としてはっきりと表れる性質を有している。したがって、裏面反射波h1,界面反射波h3,外周面反射波h4には、二次高調波成分を多く有しており、これらに比して、熱影響部反射波h2には二次高調波成分が少ない。このため、二次高調波H’から、界面反射波h3’を正確に割り出すことができる。
【0068】
そして、本実施例にあっては、この界面反射波h3’を作業者が二次高調波H’から割り出す作業を行うようにしている。すなわち、反射波Hから取り出した二次高調波H’を、モニター(図示省略)に表示し、作業者が所定入力キーを操作することにより、このモニター上の二次高調波H’から界面反射波h3’を指定する。そして、この界面反射波h3’に従って、探触子4の受信部4aから超音波を発信した時点から、該探触子4の受信部4bによりこの界面反射波h3’を受信するまでに経過した経過時間である界面反射波到達時間Wbを求める。この界面反射波到達時間Wbに基づいて、後述する演算処理が行われるようになっている。尚、この界面反射波h3’は、数周期の波形として構成されていることから(図6参照)、時間経過に従う時間軸方向に幅を有している。このため、界面反射波h3’が存在している幅の範囲内における一点を特定することにより、界面反射波到達時間Wbを特定している。ここで、界面反射波h3’が存在している幅の範囲内における特定した一点の位置が、作業者毎に異なると、後述する算出処理結果に差が生ずることとなってしまう。このような差が生じないように、作業指針を定めている。例えば、経験的に、界面反射波h3’の波形の時間軸方向における中央点から、この界面反射波到達時間Wbを読み取るようにしている。
【0069】
上述した二次高調波H’の界面反射波h3’の界面反射波到達時間Wb(図6参照)に基づいて、制御処理装置9は、所定の演算プログラムに従って、溶接界面25の位置Bを特定し、さらに、最深溶け込み深さt0を算出する。本実施例にあっては、超音波Gを発信する探触子4の最深波発信位置Oを基準として、算出するようにしている。尚、上述したように、超音波を垂直下向きに発信する場合には、該超音波の金属板21への入射角は0度であるから、以下の算出処理には入射角を用いていない。
この算出処理は、大まかに下記の通りである。
(1)最深波発信位置Oと金属板21の裏面21b(入射位置A)との距離Yaを機械的に実測する(図3参照)。
(2)最深波発信位置Oで超音波Gを発信してから、入射位置Aで反射した裏面反射波h1’が探触子4の受信部4b(最深波発信位置O)に返ってくるまでの時間Wa(図6参照)を、上記距離Yaと水中での超音波の音速とから算出する。
(3)最深波発信位置Oで超音波Gを発信してから、溶接界面位置Bで反射した界面反射波h3’が探触子4の受信部4b(最深波発信位置O)に返ってくるまでに経過した経過時間である界面反射波到達時間Wb(図6参照)を、二次高調波H’のデータから読み込む(図6参照)。この界面反射波到達時間Wbから、上記時間Waを減算することにより、時間Wb’(図6参照)を算出する。この時間Wb’は、超音波g1,g2(図4参照)が入射位置Aから溶接界面位置Bへ到達するまでの時間と、溶接界面位置Bで反射した界面反射波h3が入射位置Aに到達するまでの時間との合計時間である。
(4)上記で算出した時間Wb’と、金属板21内での超音波の音速とから、図3に示すA−B位置間距離Ybを算出する。これにより、溶接界面位置Bが求まる。
(5)上記のようにA−B位置間距離Ybを、金属板21の板厚から減算することにより、該金属板21の表面21aからの最深溶け込み深さt0が測定される。
【0070】
このように、制御処理装置9は、探触子4の受信部4bで受信した反射波Hから、その二次高調波H’を取り出し、作業者により割り出された界面反射波h3’の界面反射波到達時間Wbに基づいて、溶接界面位置Bを算出し、最深溶け込み深さt0を測定する演算処理を実行する。ここで、この演算処理は、上述したように、界面反射波h3’を受信するまでの界面反射波到達時間Wbと超音波の音速とから溶接界面位置Bを算出することにより、最深溶け込み深さt0を測定するようにしている。すなわち、この測定は、界面反射波h3’を割り出すことができることにより成り立っていると言える。
【0071】
そして、上述のように溶接部溶け込み深さ探査装置1により測定した最深溶け込み深さt0が、正確であるか否かの検証を行った。この検証試験は、探査対象物20の最深溶け込み深さt0を、溶接部溶け込み深さ探査装置1により測定した後、当該探査対象物20を、切断して最深溶け込み深さを実測し、両者を比較することにより行っている。ここで、溶接部溶け込み深さ探査装置1により、溶接部23の溶接方向(図1,2の紙面に垂直方向)に沿った五箇所で、夫々最深溶け込み深さt0を測定した。そして、溶接部23を溶接方向に沿って縦切断し、前記五箇所の最深溶け込み深さt0を実測した。この結果を図7に示す。尚、実測位置は、切断位置の誤差に従ってズレを生じてしまうことから、横軸に、そのズレを表している(一目盛りを5mmとしている)。この図7から、溶接部溶け込み深さ探査装置1の測定値と、実測値とがほぼ等しいことが確認できた。したがって、この溶接部溶け込み深さ探査装置1によれば、溶接界面25の位置Bを正確に求め、最深溶け込み深さt0を精度良く測定できることが証明された。
【0072】
次に、上述した溶接部溶け込み深さ探査装置1により、溶接部23が金属板21内に溶け込んでいる輪郭(溶接界面25の形状)を探査することについて説明する。溶接界面25の形状は、溶接部23の溶接方向と直交する横断方向に、探触子4を所定間隔毎に位置変換し、各位置で発信した超音波の反射波からそれぞれの溶接界面位置を算出することによって、探査するようにしている。
【0073】
本実施例にあっては、上述した最深波発信位置Oを基準として、所定間隔毎に超音波を発信する発信位置を設定し、溶接界面位置を測定するようにしている。ここで、図8のように、溶接部23の溶接方向に直交する横断方向に沿った水平方向と、垂直方向とからなる座標上で、最深波発信位置Oを(0,0)とすると、上述した溶接部23が最も深く溶け込んでいる溶接界面位置Bは(0,−Ya−Yb)となる。このように、最深波発信位置Oを基準として、複数箇所の溶接界面位置の各座標位置を測定することによって、溶接界面25の、溶接方向に直交する横断方向に沿った形状を探査することができる。さらに、これを溶接部23の溶接方向に沿って所定間隔毎行うことにより、溶接部23が金属板21に溶け込んでいる全体的な輪郭を探査でき得る。
【0074】
上述したように、最深溶け込み深さt0を測定する最深波発信位置Oを定めた後、この最深波発信位置Oを基準位置として、探触子走査装置11により、探触子4を、溶接部23の溶接方向と直交する横断方向へ所定水平距離X1だけ移動すると共に、垂直方向へ所定距離Y1だけ移動する。そして、この発信位置O1で、探触子傾動装置12により、探触子4を、溶接部23の溶接方向と直交する方向に沿って所定角度毎に傾動する。この所定角度毎に、探触子4の発信部4aから超音波を発信する。
【0075】
上記した発信位置O1で、探触子4を所定角度毎に傾動すると共に超音波を発信することにより、各角度毎に反射波を受信する。そして、上述したように、最深溶け込み深さt0の水平方向位置を特定することと同様に、この反射波の波形から、溶接界面25で反射した界面反射波が最も明らかに認められる角度を、発信角θaとして特定する。尚、この発信角θaは、探触子4の垂直下向きを基準として定めている。尚、溶接界面25で反射した界面反射波が探触子4の受信部4bで最も明らかに認められた時には、溶接界面25における超音波が当たる部位(図8の溶接界面位置B1を参照)での接平面に対して、ほぼ垂直となるように溶接界面25に超音波が当たっている。
【0076】
ここで、発信位置O1で、探触子傾動装置12により垂直下方向に対して傾斜した探触子t4の発信部4aから発信角θaにより発信した超音波は、金属板21の裏面21bに該発信角θaと等しい入射角θbにより入射し、この入射した超音波は屈折角θcに屈折して金属板21内を進行する。この超音波が金属板21の裏面21bから入射する位置を、入射位置A1とする。ここで、本実施例にあっては、金属板21の裏面21bを水平方向に沿って配置し、かつ垂直下向きを基準発信方向として設定していることから、入射角θbは発信角θaと等しくなっている。尚、屈折角θcは、入射角θbと同様、金属板21の裏面21bに入射した位置におけるその法線方向となす角度である。
【0077】
このように発信位置O1での発信角θaを特定し終わると、同時に入射角θbも特定したこととなる。そして、発信位置O1で受信した反射波から二次高調波を取り出し、この場合の溶接界面25の位置B1を算出する処理を行う。これは、制御処理装置9により、最深波発信位置Oを基準として算出される。尚、上述したように、反射波から取り出した二次高調波H’は、モニター(図示省略)に表示され、作業者により界面反射波が指定される。そして、作業者により割り出した界面反射波の界面反射波到達時間に基づいて、溶接界面位置B1を算出する演算処理が行われる。
【0078】
以下に、溶接界面位置B1の算出方法を説明する。
(1)発信位置O1と入射位置A1との垂直方向距離Y1’を実測して求める。
(2)発信位置O1と入射位置A1との水平方向距離X1’を、垂直方向距離Y1’と入射角θb(発信角θa)から算出する。
(3)発信位置O1と入射位置A1との距離Saを、垂直方向距離Y1’と入射角θb(発信角θa)から算出する。
(4)発信位置O1で超音波を発信してから、入射位置A1で反射した裏面反射波が探触子4の受信部4bに返ってくるまでの時間(図6のWa参照)を、上記距離Saと水中での超音波の音速とから算出する。
(5)発信位置O1で超音波を発信してから、溶接界面位置B1で反射した界面反射波が探触子4に返ってくるまでに経過した経過時間である界面反射波到達時間(図6のWb参照)を、二次高調波のデータから読み込む。この界面反射波到達時間から、上記した裏面反射波を受信するまでの時間を減算する(Wb’=Wb−Wa:図6参照)。これにより、入射位置A1から溶接界面位置B1までの超音波(図4のg1,g2参照)の伝達時間と、溶接界面位置B1から入射位置A1までの界面反射波h3の伝達時間との合計時間(図6のWb’参照)を算出する。
(6)上記した超音波のA1−B1間の伝達時間と界面反射波のB1−A1間の伝達時間との合計時間(図6のWb’参照)と、金属板21内での超音波の音速とから、A1−B1位置間距離Sbを算出する。
(7)水中での超音波の音速、金属板21内での超音波の音速、及び入射角θbから屈折角θcを算出する。
(8)入射位置A1と溶接界面位置B1との垂直方向距離Y1’’を、上記したA1−B1位置間距離Sbと、屈折角θcとから算出する。
(9)入射位置A1と溶接界面位置B1との水平方向距離X1’’を、上記したA1−B1位置間距離Sbと、屈折角θcとから算出する。
(10) 溶接界面位置B1の位置が、最深波発信位置Oに対して、(−X1+X1’+X1’’、−Y1−Y1’−Y1’’)として算出される。
【0079】
尚、上記のように溶接界面位置B1を得ると、この溶接界面位置B1における溶け込み深さtを、金属板21の板厚と上記した垂直方向距離Y1’’とから算出する。
【0080】
同様に、探触子走査装置11により、探触子4を、溶接部23の溶接方向に直交する横断方向に沿って、所定間隔毎に移動して、各発信位置毎に、探触子傾動装置12により探触子4を傾動することにより発信角θa(入射角θb)を夫々調整して、各溶接界面位置を算出する処理を実行する。このように、溶接部23の溶接方向に直交する方向に沿って、溶接界面位置を夫々算出することにより、溶接部23の横断方向に沿った、溶接界面25の形状を探査できる。
【0081】
さらに、このように溶接部23の溶接方向に直交する横断方向に沿って、溶接界面25の形状を算出する処理を、溶接部23の溶接方向に沿った所定距離毎に実行する。これにより、溶接方向の所定距離毎に、溶接界面25の形状が夫々算出でき、これらを総合して、溶接部23の溶接界面25の全体形状を求めることができる。
【0082】
上述したように、本発明にかかる実施例にあっては、溶接部23の最深溶け込み深さt0を精度良く測定することができると共に、溶接部23の溶接界面25の形状をほぼ正確に測定することもでき得る。そして、この溶接部溶け込み深さ探査装置1は、探査対象物20を非破壊で探査することができる。したがって、金属部材同士を溶接してなる製品にあって、その溶接部を検査する場合に、当該製品を破壊する必要がなく、製造コストを抑制することができ得る。また、このような溶接部溶け込み深さ探査装置1は、自動車用ホイール以外の所定製品の生産ラインに配設することも可能であり、溶接部の強度や耐久性等の品質を重要視する製品にあって、全数検査を行い、製品の品質を確実に保持することができる。
【0083】
例えば、ディスクとリムとを溶接してなる自動車用ホイールにあっては、上述したように、重要保安製品であることから、その溶接部の強度や耐久性等が充分に発揮されるように、溶接部の品質管理は重要である。上述した溶接部溶け込み装置にあって、自動車用ホイールを水没可能な水槽(図示省略)を備えると共に、該自動車用ホイールの周方向に沿うように形成される溶接部を探査できるように、探触子をホイール周方向に沿って移動可能とし、かつ、ホイール軸方向と平行に移動可能とするように、探触子走査装置を備えている。また、探触子傾動装置は、ホイール軸方向に沿って、探触子を傾動可能とするものである。この溶接部溶け込み装置により、上述と同様に、自動車用ホイールの溶接部の、その最深溶け込み深さt0を測定できる。また、この溶接界面の形状を探査することもできる。而して、自動車用ホイールの溶接部を、正確かつ精度良く測定することができ、該ホイールの溶接部の品質管理を充分に行なうことができる。
【0084】
上述した実施例にあっては、溶接部23の溶け込み深さtや溶接界面25の形状を、最深波発信位置Oを基準として、二次高周波のデータに基づいて算出するように演算処理するようにしている。この演算処理は、上述した算出方法に限定されず、様々な算出方法で行うことも可能である。例えば、上記実施例では、基準発信方向を、金属板21の裏面21bに略垂直に入射する方向として、発信角を調整するようにしているが、基準発信方向を適宜設定し、これに対して発信角を調整することによっても、溶接界面位置B,B1を算出することが可能である。尚ここで、発信位置と基準発信方向に対する発信角とが定まれば、この超音波が金属板21へ入射する入射角を求めることができることから、この入射角と界面反射波とに基づいて、溶接界面位置を算出できる。したがって、金属部材が曲面等の様々な外面形状を有するものであっても、溶接界面位置を正確に算出でき、溶け込み深さを測定でき得る。
【0085】
また、上述した実施例では、反射波から取り出した二次高調波から、作業者が界面反射波を割り出すようにしているが、この他、二次高調波に表れる界面反射波の振幅等に、予め閾値を設定し、該閾値により判定を行うようにしても良い。そして、この閾値による判定は、上述した制御処理装置9により演算処理することもできる。同様に、溶接部23が最も溶け込んでいる最深波発信位置Oを設定するために、界面反射波が最も明らかに認められる発信位置を判定したり、所定の発信位置で発信角θaを判定することにあっても、作業者により判定する場合と、予め定めた閾値等に従って判定する処理を行う場合とのいずれとすることも可能である。
【0086】
また、本実施例は、溶接部23が溶け込んだ金属板21の裏面21b側で、探触子4の発信部4aから超音波を発信し、その反射波を受信するようにしている構成であるが、溶接部23の、金属板22側から超音波を発信して反射波受信するようにしても良い。この場合にも、反射波から二次高調波を取り出すことにより、界面反射波を割り出すことが可能となり、溶接界面25を算出して、溶け込み深さtを測定することができ得る。さらには、溶接界面ではなく、物体と物体とを接合した際の界面の深さを検出する場合においても、本実施例の探触子走査装置11を用いることにより精度良く測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の溶接部溶け込み深さ探査装置1を表す概略図である。
【図2】金属板21,22を重ね継ぎ手溶接した溶接部23の形状を表す断面図である。
【図3】超音波を発信する探触子4の最深波発信位置O、該超音波の入射位置A、溶接界面位置Bとの関係を表す説明図である。
【図4】探触子4の発信部4aから発信した超音波Gの反射する態様を説明する概念図である。
【図5】探査対象物20に入射した超音波の反射波Hを表すチャート図である。
【図6】同上の反射波Hから取り出した二次高調波H’を表すチャート図である。
【図7】溶接部23の最深溶け込み深さt0を、同上の溶接部溶け込み深さ探査装置1による測定値と、実測値とを対比する図である。
【図8】超音波を発信する探触子4の発信位置O1、該超音波の入射位置A1、溶接界面位置B1との関係を説明する説明図である。
【図9】探査対象物に入射した超音波g1,g2が、溶接界面25の接平面Pの法線Lに対して所定角度φ傾斜して当たった場合の、反射波Hの進行方向を表す説明図である。
【符号の説明】
【0088】
1 溶接部溶け込み深さ探査装置
4 探触子
4a 発信部
4b 受信部
5 高周波発生器(超音波発生手段)
6 増幅器(超音波発生手段)
9 制御処理装置(制御処理手段)
11 探触子走査装置(探触子走査手段)
12 探触子傾動装置(探触子傾動手段)
20 探査対象物
21、22 金属板(金属部材)
21b 裏面(探査対象物の外面)
23 溶接部
24 非溶込部
25 溶接界面
27 溶接熱影響部
B,B1 溶接界面位置
G,g1,g2,g3 超音波
H 反射波
H’ 二次高調波
3,h3’ 界面反射波
O 最深波発信位置
1 発信位置
0 最深溶け込み深さ
t 溶け込み深さ
Wb 界面反射波到達時間
θb 入射角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材同士が溶接された探査対象物の、該金属部材内に溶け込んでいる溶接部と、該溶接部が生成されていない金属部材の非溶込部との溶接界面に向けて、所定周波数の超音波を発信し、この超音波の反射波を受信して、この反射波から、該反射波に含まれている二次高調波を取り出すことにより、前記超音波が溶接界面で反射した界面反射波を割り出し、超音波の発信から該界面反射波を受信するまでの経過時間である界面反射波到達時間に基づいて、溶接界面位置を算出することにより、溶接部の金属部材内への溶け込み深さを測定するようにしたことを特徴とする溶接部溶け込み深さ探査方法。
【請求項2】
溶接界面に向けて超音波を発信する発信位置とほぼ同位置で、界面反射波を割り出し可能な二次高調波が含まれている反射波を受信するように、この発信位置と探査対象物の外面に入射する超音波の入射角とを調整し、この発信位置と入射角と界面反射波到達時間とに基づいて溶接界面位置を算出することにより、溶接部の溶け込み深さを測定するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の溶接部溶け込み深さ探査方法。
【請求項3】
溶接界面に向けて超音波を発信する発信位置を、該溶接界面に沿って順次位置変換すると共に、各発信位置から発信した超音波の探査対象物への入射角を夫々調整することにより、各発信位置毎に、界面反射波を割り出し可能な二次高調波が含まれている反射波を受信し、この発信位置と入射角と界面反射波到達時間とに基づいて溶接界面位置を夫々算出することにより、当該溶接界面の形状を探査するようにしたことを特徴とする請求項2に記載の溶接部溶け込み深さ探査方法。
【請求項4】
所定周波数の超音波を、金属部材の、溶接部が表出していない裏面側から発信し、その反射波を受信するようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の溶接部溶け込み深さ探査方法。
【請求項5】
超音波が、20MHz以上の周波数であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の溶接部溶け込み深さ探査方法。
【請求項6】
所定周波数の超音波を発生する超音波発生手段と、
該超音波発生手段により発生した超音波を発信する発信部と該超音波の反射波を受信する受信部とを具備する探触子と、
金属部材同士を接合した探査対象物の、該金属部材に溶け込んだ溶接部と該溶接部が生成されていない非溶込部との溶接界面に向けて、探触子の発信部から所定周波数の超音波を発信する制御処理と、探触子の受信部により受信した反射波から、該反射波に含まれている二次高調波を取り出す処理と、この二次高調波から割り出された、溶接界面で反射した界面反射波に従って、超音波の発信から該界面反射波を受信するまでの経過時間である界面反射波到達時間を求め、該界面反射波到達時間に基づいて溶接界面位置を算出することにより、溶接部の金属部材への溶け込み深さを求める演算処理とを実行する制御処理手段と
を備えていることを特徴とする溶接部溶け込み深さ探査装置。
【請求項7】
探触子が、発信部と受信部とを一体的に具備したものであると共に、
超音波を発信する発信位置を位置変換可能とするように、該探触子を水平方向及び垂直方向に夫々移動する探触子走査手段と、
探査対象物に入射する超音波の入射角を角度調整可能とするように、探触子を傾動する探触子傾動手段と
を備えてなり、
制御処理手段は、界面反射波を割り出し可能な二次高調波が含まれている反射波を、探触子の受信部が受信するように、探触子走査手段と探触子傾動手段とを駆動制御することにより、超音波の発信位置と該発信位置から発信した超音波の探査対象物への入射角とを夫々調整する制御処理を備えていることを特徴とする請求項6に記載の溶接部溶け込み深さ探査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−101329(P2007−101329A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290655(P2005−290655)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【出願人】(504327306)有限会社超音波材料診断研究所 (12)
【Fターム(参考)】