説明

溶液処理可能な有機半導体

半導体材料、その半導体材料を含有する組成物、その半導体材料を含有する半導体デバイス、及びその半導体材料を含有する半導体デバイスを製造する方法を記載する。より詳細には、半導体材料は、2つのシリルエチニル基並びに2つの電子供与性基で置換されたアントラセン系化合物(すなわち、アントラセン誘導体)である低分子半導体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体材料、その半導体材料を含有する組成物、その半導体材料を含有する半導体デバイス、及びその半導体材料を含有する半導体デバイスを製造する方法を記載する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体産業においては無機材料が優位を占めてきた。例えば、砒化シリコン及び砒化ガリウムは半導体材料として使用されており、二酸化ケイ素は絶縁体材料として使用されており、及びアルミニウム及び銅のような金属は電極材料として使用されている。しかしながら、近年、伝統的な無機材料よりも有機材料を半導体デバイスにおいて使用することを目的とした研究努力が増加している。特に他の利点として、有機材料の使用は、電子装置の製造コストを低下させることができ、広い領域に適用することを可能にし、ディスプレイ背面又は集積回路にフレキシブル回路基板の使用を可能にすることができる。
【0003】
種々の有機半導体材料が検討されてきており、最も一般的なものとしては、テトラセン、ペンタセン、ビス(アセニル)アセチレン、及びアセン−チオフェンにより例示されるような縮合芳香族環化合物;チオフェン又はフルオレン単位を含有するオリゴマー材料;並びにレジオレギュラーポリ(3−アルキルチオフェン)などの高分子材料が挙げられる。これらの有機半導体材料の少なくとも幾つかは、電荷キャリア移動度、オン/オフ電流比、及びサブ閾値電圧などの性能特性を有し、それらはアモルファスシリコン系デバイスと同等であるかあるいはそれより優れている。これらの材料は通常、それらがほとんどの溶媒にあまり可溶性ではないために、蒸着する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
良好な電気的性能特性ゆえに、多くの場合ペンタセンが有機半導体として最適である。しかしながら、ペンタセンは合成及び精製が困難な場合がある。多くの一般的溶媒に対するペンタセンの溶解度が限定されたものであるために、ペンタセンを含有する半導体層は通常、溶媒系蒸着技術を使用して形成することはできない。溶媒系蒸着技術における更なる厄介な問題は、多くの溶液中において、ペンタセンが酸化しやすい、あるいは二量化反応を生じやすいことである。一旦半導体層内に蒸着させたら、ペンタセンは時間の経過と共に酸化し得る。このことで、酸化したペンタセンを含有する半導体デバイスの性能が低下し、あるいは完全に損なわれ得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
半導体材料、その半導体材料を含有する組成物、その半導体材料を含有する半導体デバイス、及びその半導体材料を含有する半導体デバイスを製造する方法を記載する。より詳細には、半導体材料は、2つのシリルエチニル基並びに2つの電子供与性基で置換されたアントラセン系化合物(すなわち、アントラセン誘導体)である低分子半導体である。
【0006】
第1の態様において、式(I)の低分子半導体が提供される。
【0007】
【化1】

【0008】
この式において、それぞれのRは、独立してフェニル又はナフチルである。フェニル又はナフチル基は、非置換であるか、又はハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アシルオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアルキル又はヘテロアラルキルから選択される1つ以上の基で置換されることができる。それぞれのR基は、独立して、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアルキル、ヘテロアラルキル、又はヒドロキシアルキルから選択される。
【0009】
第2の態様において、組成物は、(a)低分子半導体及び(b)有機溶媒を含むように提供される。低分子半導体は、上述のような式(I)を有する。幾つかの実施形態において、組成物は更に絶縁ポリマーを含む。
【0010】
第3の態様では、半導体デバイスが提供される。半導体デバイスは、式(I)の低分子半導体を含む半導体層を含有する。幾つかの実施形態において、半導体層は更に絶縁ポリマーを含む。
【0011】
第4の態様では、半導体デバイスの製造方法が提供される。この方法は、式(I)の低分子半導体を含有する半導体層を提供することを含む。幾つかの実施形態において、半導体層は更に絶縁ポリマーを含む。
【0012】
上記の本発明の概要は、本発明のそれぞれの実施形態又はすべての実現形態を説明することを意図したものではない。続く図、「発明を実施するための形態」、及び実施例により、これらの実施形態をより詳しく例示する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
添付の図面と共に以下の本発明の様々な実施形態の詳細な説明を検討することで、本発明はより完全に理解され得る。
【図1】第1の代表的な薄膜トランジスタの概略図。
【図2】第2の代表的な薄膜トランジスタの概略図。
【図3】第3の代表的な薄膜トランジスタの概略図。
【図4】第4の代表的な薄膜トランジスタの概略図。
【図5】第5の代表的な薄膜トランジスタの概略図。
【図6】第6の代表的な薄膜トランジスタの概略図。
【0014】
本発明は種々の修正及び代替の形態に容易に応じるが、その細部は一例として図面に示されており、また詳しく説明することにする。しかしながら、その意図は、記載された特定の実施形態に本発明を限定することにないことを理解するべきである。逆に、本発明は、本発明の趣旨及び範囲内に含まれる、すべての修正、等価な形態、及び代替形態を対象とすることを意図する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
低分子半導体は、半導体デバイス、例えば薄膜トランジスタ内の半導体層に含まれることができるように提供される。普通、p型半導体である低分子半導体は、アントラセン誘導体であり、2つのシリルエチニル基並びに2つの電子供与性基を有する。電子供与性基は、フェニル又はナフチル基から選択され、非置換であるか、又はハロ、ヒドロキシル、アミノ、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アシルオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアルキル又はヘテロアラルキル基などの1つ以上の置換基で置換されることができる。
【0016】
本明細書で使用する時、用語「a」、「an」、及び「the」は、「少なくとも1つの(at least one)」と同じ意味で用いられ、記載された元素の1以上を意味する。
【0017】
用語「アルキル」とは、飽和炭化水素であるアルカンのラジカルである一価の基を意味する。アルキルは、直鎖状、分枝状又は環状、又はこれらの組み合わせであることができ、及び典型的には1〜30個の炭素原子を含んでいる。幾つかの実施形態において、アルキル基は、1〜20個の炭素原子、1〜14個の炭素原子、1〜10個の炭素原子、4〜10個の炭素原子、4〜8個の炭素原子、1〜8個の炭素原子、1〜6個の炭素原子、又は1〜4個の炭素原子を含有する。アルキル基の例としては、これらに限定されないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、第3ブチル、イソブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、シクロペンチル、シクロブチル、シクロプロピル、n−ヘプチル、n−オクチル、及びエチルヘキシルが挙げられる。
【0018】
用語「アルコキシ」とは、式−ORの一価の基を意味し、式中、Rはアルキル基である。例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなどが挙げられる。
【0019】
「アルケニル」という用語は、少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を有する炭化水素であるアルケンのラジカルである一価基を意味する。アルケニルは、直鎖状、分枝状又は環状の、又はこれらの組み合わせであることができ、及び典型的には2〜30個の炭素原子を含んでいる。幾つかの実施形態において、アルケニルは、2〜20個の炭素原子、2〜14個の炭素原子、2〜10個の炭素原子、4〜10個の炭素原子、4〜8個の炭素原子、2〜8個の炭素原子、2〜6個の炭素原子、又は2〜4個の炭素原子を含有する。代表的なアルケニル基としては、エテニル、n−プロペニル(すなわちアリル)、イソ−プロペニル、及びn−ブテニルが挙げられる。
【0020】
「アミノ」という用語は、式−N(Rの一価基を意味し、式中、それぞれのRは独立して、水素、アルキル、ヘテロアルキル、アリール、又はアラルキルである。
【0021】
用語「アリール」とは、芳香族炭素環式化合物のラジカルである一価の基を意味する。用語「炭素環」とは、その中のすべての環原子が炭素である環状構造を意味する。アリールは1つの芳香環を有することができ、又は芳香環に結合又は縮合する最大5個の炭素環式環構造を有することができる。その他の環状構造は、芳香族、非芳香族、又はこれらの組み合わせであることができる。アリール基の例としては、フェニル、ビフェニル、テルフェニル、アンスリル、ナフチル、アセナフチル、アントラキノニル、フェナンスリル、アントラセニル、ピレニル、ペリレニル、及びフルオレニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
用語「アラルキル」とは、化合物R−Arのラジカルである一価の基を意味し、式中、Arは芳香族炭素環式基であり、Rはアルキル基である。アラルキルは、多くの場合、アリール基で置換されたアルキルである。
【0023】
「アシルオキシ」という用語は、式−O(CO)Rの一価基を意味し、式中、(CO)はカルボニル基を指し、Rはアルキル、ヘテロアルキル、アリール又はアラルキルである。
【0024】
用語「ハロ」とは、ハロゲン基(即ち、−F、−Cl、−Br、又は−I)を意味する。
【0025】
用語「ヒドロキシアルキル」とは、少なくとも1つのヒドロキシル基で置換されたアルキルを意味する。
【0026】
「ヘテロアルキル」という用語は、チオ、オキシ、式−NR−の基(式中、Rが水素、アルキル、ヘテロアルキル、アラルキル若しくはアリールである)、又は式−SiR−の基(式中、Rがアルキルである)で置き換えられた1つ以上の−CH−基を有するアルキルを意味する。ヘテロアルキルは直鎖状、分枝状又は環状、又はこれらの組み合わせであることができ、並びに最大30個の炭素原子及び最大20個のへテロ原子を含むことができる。幾つかの実施形態において、ヘテロアルキルは、最大25個の炭素原子、最大20個の炭素原子、最大15個の炭素原子、又は最大10個の炭素原子を含む。チオアルキル基及びアルコキシ基はヘテロアルキル基の部分集合である。その他のヘテロアルキル基は、チオ、オキシ、−NR−、又は−SiR−基の両側に−CH−基を有する。
【0027】
「ヘテロアリール」という用語は、環内にS、O、N、又はこれらの組み合わせから独立して選択される1個以上のヘテロ原子を含む5〜7員芳香環を有する一価ラジカルを意味する。かかるヘテロアリール環は、芳香族、脂肪族、又はこれらの組み合わせである最大5個の環状構造に結合又は縮合されることができる。ヘテロアリール基の例としては、フラニル、チオフェニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、ピリジニル、ピリダジニル、ピラジニル、ピリミジニル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、インドリル、カルバゾイル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンズイミダゾリル、シンノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、フタラジニル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾトリアジニル、フェナジニル、フェナントリジニル、アクリジニル、及びインダゾリル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
「ヘテロアラルキル」という用語は、ヘテロアリールで置換されたアルキルを意味する。
【0029】
「ヒドロキシル」という用語は、式−OHの基を意味する。
【0030】
「シリルエチニル」という用語は、式−C≡C−Si(R(式中、Rは独立して、アルキル、アルコキシ、アルケニル、ヘテロアルキル、ヒドロキシアルキル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、又はヘテロアラルキルから選択される)の一価の基を意味する。これらの基は、時にシラニルエチニル基と呼ばれる。
【0031】
用語「トリアルキルシリル」とは、式−SiRの一価の基を意味し、式中、それぞれのRは、アルキルである。
【0032】
「の範囲内の」という語句は、当該範囲の両端点及び端点の間のあらゆる数字を含む。例えば、語句「1〜10の範囲で」とは、1、10、及び1〜10のすべての数を含む。更に、具体的に特に指示がない限り、具体的に範囲を記載していないいずれかの詳細な範囲は、その端点と、端点間のすべての数を含む。
【0033】
特に指示がない限り、明細書及び請求項に使用される外観の寸法、量、及び物理的特性を表すすべての数字は、用語「約」によってすべての事例において改変されると理解されたい。したがって、反対に指定されるまで、本明細書の数字は、本明細書で開示される教示を使用する所望の特性によって変化し得る近似値である。
【0034】
第1の態様において、低分子半導体が提供される。本発明で使用する時、半導体材料に関する用語「低分子」とは、半導体がポリマー材料ではないことを意味する。低分子半導体は、2つのシリルエチニル並びに2つの電子供与性基を有するアントラセン誘導体である。低分子半導体は、式(I)を有する。
【0035】
【化2】

【0036】
この式において、それぞれのRは独立して、フェニル又はナフチルから選択され、ここでフェニル又はナフチル基は非置換であるか、又は1つ以上の置換基で置換されることができる。フェニル又はナフチル基の好適な置換基としては、ハロ、ヒドロキシル、アミノ、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アシルオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアルキル又はヘテロアラルキル基が挙げられる。それぞれのR基は、独立して、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアルキル、ヘテロアラルキル、又はヒドロキシアルキルから選択される。
【0037】
フェニル又はナフチルの好適なアルキル、アルケニル、アルコキシ、アシルオキシ及びヘテロアルキル置換基R基は、直鎖状、環状又はこれらの組み合わせであることができ、普通は、最大10個の炭素原子、最大8個の炭素原子、最大6個の炭素原子、又は最大4個の炭素原子を含有する。フェニル又はナフチルのヘテロアルキル置換基R基は、ヘテロ原子としてオキシ基を有することが多い。好適なヘテロアリール置換基は多くの場合、1個又は2個のヘテロ原子を含む、5〜6員の飽和又は不飽和複素環を有する。代表的なヘテロアラルキル置換基は、1個又は2個のヘテロ原子を有する、5又は6員のヘテロアリールで置換されている、最大10個の炭素原子を有するアルキルを有する。好適なアミノ基は、一級アミノ基、二級アミノ基又は三級アミノ基であることができる。
【0038】
幾つかの実施形態において、R基は、式(II)から(IV)に示されるように、単一のR基で置換されたフェニル又は単一のR基で置換されたナフチル基であり、ここで、Rは水素、ハロ、ヒドロキシル、アミノ、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アシルオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアルキル、又はヘテロアラルキルから選択される。R基は、低分子のアントラセン部分に直接は結合していないフェニル又はナフチル基の炭素原子のいずれかであることができる。
【0039】
【化3】

【0040】
幾つかのより詳細な実施形態において、式(I)のR基は、式(V)又は(VI)を有することができる。
【0041】
【化4】

【0042】
幾つかの更により詳細な実施形態において、式(II)から(IV)のいずれかのRは、最大10個の炭素原子、最大6個の炭素原子、最大4個の炭素原子、最大3個の炭素原子、又は1個の炭素原子を有するアルコキシ基である。
【0043】
式(I)の低分子半導体中に含まれるそれぞれのシリルエチニル基は、式−C≡C−Si−(Rであり、式中、それぞれのRは、独立して、アルキル、アルコキシ、アルケニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアルキル、ヘテロアラルキル、又はヒドロキシアルキルである。代表的なアルキル、アルコキシ、アルケニル、ヘテロアルキル、及びヒドロキシアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状、又はこれらの組み合わせであってよく、通常最大10個の炭素原子、最大8個の炭素原子、最大6個の炭素原子、又は最大4個の炭素原子を有する。代表的なアリール基はフェニルであり、代表的なアラルキルは、フェニル基で置換された、最大10個の炭素原子を有するアルキルである。多くの場合、代表的なヘテロアリール基は、1個又は2個のヘテロ原子を含む、5〜6員の不飽和複素環を有する。代表的なヘテロアラルキル基は、1個又は2個のヘテロ原子を有する、5又は6員のヘテロアリールで置換されている、最大10個の炭素原子を有するアルキルを有する。
【0044】
幾つかの代表的なシリルエチニル基においては、それぞれのRは、直鎖状又は分枝状であり、最大10個の炭素原子、最大8個の炭素原子、最大6個の炭素原子、又は最大4個の炭素原子を有するアルキルである。つまり、シリルエチニル基は、トリアルキルシリルエチニル基である。それぞれのR基は、例えばイソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、又はn−ヘキシルであることができる。例えば、シリルエチニル基は、それぞれのRがイソプロピルであるトリイソプロピルシリルエチニルであることができる。
【0045】
他の代表的なシリルエチニル基において、それぞれのR基はアルキル基であるが、アルキル基の少なくとも1つは環状である。アルキル基中の炭素原子のすべて又は一部のみは、炭素環式環に含まれることができる。幾つかの代表的なアルキル基は、3〜6個の炭素原子を有し、炭素原子のすべては炭素環式環の一部である。他の代表的なアルキル基は、最大6個の炭素原子を有する環状部分に結合した最大10個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状部分を有する。アルキル基の非環状部分(すなわち直鎖状又は分枝状部分)又はアルキル基の環状部分は、シリルエチニル基のケイ素に結合できる。環状アルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2,2,3,3−テトラメチルシクロプロピル、2,3−ジメチルシクロプロピル、シクロブチルメチレン、及びシクロプロピルメチレンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
更に他の代表的なシリルエチニル基において、R基の少なくとも1つはアルケニル基であり、アルケニル基でないいずれかのR基はアルキル基である。すなわち、シリルエチニル基は、トリアルケニルシリルエチニル、アルキルジアルケニルシリルエチニル、又はジアルキルアルケニルシリルエチニルであることができる。アルケニル及びアルキル基はそれぞれ直鎖状又は分枝状であることができ、最大10個の炭素原子、最大8個の炭素原子、最大6個の炭素原子、又は最大4個の炭素原子を有することができる。例えば、アルケニル基及びいずれかのアルキル基のそれぞれは、3又は4個の炭素原子のいずれかを有することができる。代表的なアルケニル基としては、アリル、イソプロペニル、2−ブタ−1−エニル、及び3−ブタ−1−エニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
式(I)の低分子半導体は、任意の既知の合成方法によって作製することができる。例えば、反応スキームAに示すようにして半導体を作製することができる。
【0048】
【化5】

【0049】
まず、式H−C≡CH−Si(Rのシリルアセチレン化合物は、ブチルリチウムで処理して、シリルアセチレン化合物のリチウム化させた形のLi−C≡CH−Si(Rを形成することができる。種々のシリルアセチレン化合物が市販されている。例えば、(トリメチルシリル)アセチレン、(トリエチルシリル)アセチレン、(トリイソプロピルシリル)アセチレン、及び(tert−ブチルジメチルシリル)アセチレンは、GFS Chemicals(Columbus,OH)から市販されている。(ジメチルフェニルシリル)アセチレン、(メチルジフェニルシリル)アセチレン及び(トリフェニルシリル)アセチレンは、Sigma Aldrich(Milwaukee,WI)から入手可能である。
【0050】
次に、シリルアセチレン化合物をリチウム化した形のものは、2,6−ジブロモアントラキノンなどの2,6−ジハロアントラキノンと反応させることができる。次に、得られたジオール中間体を塩化スズなどの還元剤で処理して、式(VII)の2,6−ジハロ−9,10−ビス(シリルエチニル)アントラセンを形成することができる。2,6−ジブロモアントラキノンは、Ito et al.,Angew.Chem.Int.Ed.,42,1159〜1162(2003)に記載の手順を使用して、Sigma Aldrich(Milwaukee,WI)の2,6−ジアミノアントラキノンから作製可能である。更に、それは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)から再結晶させることができる。
【0051】
次に、式(VII)の2,6−ジハロ−9,10−ビス(シリルエチニル)アントラセンをビス(ピナコラト)ジボロンなどのジオキサボロランと反応させて、テトラメチルジオキサボロランなどのジオキサボロラン基を2個有する、式(VIII)の化合物を形成することができる。式(VIII)の化合物は、続けて、式(IX)のハロゲン化ベンゼン又はハロゲン化ナフタレン化合物と反応でき、式(X)の半導体化合物を形成できる。
【0052】
式(IX)の好適なハロゲン化ベンゼン又はハロゲン化ナフタレン化合物は市販されている。例えば、4−ブロモアニソール、4−ブロモベンゼン、4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、4−ブロモジフェニルエーテル、4−ブロモトルエン、4−ブロモスチレン、1−ブロモ−4−エチルベンゼン、4−ブロモフェノール、4−ブロモアニリン、4−ブロモ−N,N−ジエチルアニリン、1−ブロモ−4−シクロヘキシルベンゼン、1−ブロモ−4−ブトキシベンゼン、1−ブロモ−4−N−オクチルベンゼン、2−ブロモナフタレン、2−ブロモ−6−メトキシナフタレン、6−ブロモ−2−ナフタレノール、2−ブロモ−6−ブトキシナフタレン、2−ブロモ−6−エトキシナフタレン、1−ブロモナフタレン等は、Alfa Aesar(Ward Hill,MA)から入手可能である。
【0053】
通常、式(I)の低分子半導体は、示差走査熱量計を使用して特性を決定する際に、熱的に安定している。多くの場合、分解温度は350℃より高い。式(I)の低分子半導体の溶液は、長期間、周囲条件下にて、及び典型的な室内照明条件下にて安定している。例えば、周囲条件及び典型的室内照明条件下にて数週間保管後、溶液の色変化は観察されなかった。良好な安定性は、アントラセン構造からもたらされる。アントラセン誘導体は、その短い構成のために、ペンタセン又はペンタセン誘導体よりも良好な安定性を示すことが多い。9,10−位で置換されたシリルエチニル基は、これらの分子が一重項酸素又はそれら自身で(二量化反応)ディールスアルダー付加反応を起こすことを防止する。
【0054】
第2の態様において、コーティング組成物のような組成物が、(a)式(I)の低分子半導体及び(b)有機溶媒を含むように提供される。組成物は、組成物の総重量に基づいて少なくとも0.1重量%の式(I)の溶解した低分子半導体を含有する。この最小溶解度を提供することができる任意の有機溶媒を使用することが可能である。多くの場合、有機溶媒は、式(I)の低分子半導体上に存在するR基及びR基を基準にして選択される。幾つかの用途では、有機溶媒はまた、相対的に高い沸点及び相対的に低い毒性を有するように選択される。例えば、幾つかの用途についてであってすべての用途についてではないが、80℃より高い、90℃より高い、あるいは100℃より高い沸点を有する有機溶媒を使用するのが望ましい。組成物は、例えば半導体デバイスの半導体層を形成するために使用できる。
【0055】
第1の好適なタイプの有機溶媒は、1つ以上のアルキル基によって任意に置換され得る単一の芳香環を有する。即ち、第1の好適なタイプの有機溶媒は、非置換であるか又は少なくとも1つのアルキル基にて置換されているベンゼンであることができる。この第1のタイプの有機溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、n−ペンチルベンゼン、及びn−ヘキシルベンゼンが挙げられるが、これらに限定されない。第2の好適なタイプの有機溶媒は、1つ以上のハロ基で置換されているアルカンである。この第2のタイプの有機溶媒の例としては、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、及びトリクロロエタンが挙げられるが、これらに限定されない。第3の好適なタイプの有機溶媒は、1つ以上のハロ基によって置換されている単一の芳香環を有する。即ち、第3の好適なタイプの有機溶媒は、少なくとも1つのハロ基で置換されたベンゼンであることができる。この第3のタイプの有機溶媒の例としては、クロロベンゼン及びジクロロベンゼンが挙げられるが、これらに限定されない。第4の好適なタイプの有機溶媒は、環状、直鎖状、分枝状、又はこれらの組み合わせであるケトンである。この第4のタイプの有機溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソホロン、2,4−ペンタンジオン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−メチルシクロペンタノン、3−メチルシクロペンタノン、2,4−ジメチルシクロペンタノン、及び1,3−シクロヘキサノンが挙げられるが、これらに限定されない。第5の好適なタイプの有機溶媒は、環状エーテル又は芳香族エーテルのようなエーテルである。この第5のタイプの有機溶媒の例としては、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)及びアニソールが挙げられるが、これらに限定されない。第6の好適なタイプの有機溶媒は、アミドである。この第6のタイプの有機溶媒の例としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)が挙げられるが、これらに限定されない。第7の好適なタイプの有機溶媒は、少なくとも6個の炭素原子を有するようなアルカンである。この第7のタイプの有機溶媒の例としては、オクタン、ノナン、デカン、及びドデカンが挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態において、溶媒は、同じタイプの種々の有機溶媒の混合物、又は異なるタイプの種々の有機溶媒の混合物である。
【0056】
組成物中の低分子半導体の濃度は、多くの場合、組成物の総重量を基準として、少なくとも0.1重量%、少なくとも0.2重量%、少なくとも0.3重量%、少なくとも0.5重量%、少なくとも1.0重量%、少なくとも1.5重量%、又は少なくとも2.0重量%である。低分子半導体の濃度は、多くの場合、組成物の総重量を基準として、最大10重量%、最大5重量%、最大4重量%、最大3重量%、又は最大2重量%である。多くの実施形態では、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも98重量%、又は少なくとも99重量%の低分子半導体が、組成物中に溶解している。これらの実施形態において、組成物は、溶解させかつ分散又は懸濁させた、式(I)の低分子半導体を含むことができる。幾つかの実施形態では、組成物中に存在する低分子半導体の全量が、溶解している。即ち、これらの実施形態では、低分子半導体は、組成物中に完全に溶解されることができる。
【0057】
幾つかの実施形態において、組成物は絶縁ポリマーを更に含むことができる。有機溶媒に溶解し、低分子半導体に好適な絶縁ポリマーは、組成物に使用可能である。典型的には、好適な絶縁ポリマーは、ポリマーの主鎖に沿った共役炭素−炭素二重結合を有さない。即ち、絶縁ポリマーは高分子鎖の長さにわたって非導電性である。しかし、絶縁ポリマーは、共役炭素−炭素二重結合を有する領域を有することができる。例えば、絶縁ポリマーは、ペンダント共役芳香族基を有することができる。幾つかの実施形態では、絶縁ポリマーは脂肪族であり、炭素−炭素二重結合はあったとしてもほとんどない。
【0058】
多くの場合、絶縁ポリマーは非晶質物質である。代表的な絶縁ポリマーとしては、ポリスチレン(PS)、ポリ(α−メチルスチレン)(PαMS)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(ビニルアセテート)(PVAc)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、シアノエチルプルラン(CYPEL)、ポリ(ジビニルテトラメチルジシロキサン−ビス(ベンゾシクロブテン))(BCB)、などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
絶縁ポリマーは、有機溶媒に溶解することができる任意の好適な分子量を有することができる。絶縁ポリマーの分子量は、組成物の粘度に影響を与え得る。より高分子量の絶縁ポリマーは、より高粘度の組成物をもたらす傾向がある。組成物がコーティング層の作製に使用される場合、所望の粘度は、少なくともある程度は、コーティング層を作製するために使用される方法に依存し得る。例えば、低粘度組成物は、ナイフコーティング法と比較して、インクジェット法と共に使用することが可能である。
【0060】
しかし、多くの実施形態において、絶縁ポリマーの分子量は、少なくとも1000g/モル、少なくとも2000g/モル、少なくとも5000g/モル、少なくとも10,000g/モル、少なくとも20,000g/モル、少なくとも50,000g/モル、又は少なくとも100,000g/モルである。多くの場合、分子量は、1,000,000g/モル以下、500,000g/モル以下、200,000g/モル以下、又は100,000g/モル以下である。多くの場合、分子量は1000〜1,000,000g/モルの範囲内、2000〜500,000g/モルの範囲内、又は2000〜200,000g/モルの範囲内である。
【0061】
組成物中の絶縁ポリマーの濃度は、多くの場合、組成物の総重量を基準として、少なくとも0.1重量%、少なくとも0.2重量%、少なくとも0.5重量%、少なくとも1.0重量%、少なくとも1.5重量%、少なくとも2.0重量%、少なくとも2.5重量%、少なくとも3重量%、少なくとも5重量%、又は少なくとも10重量%である。下限濃度は、組成物の使用に依存し得る。インクジェット法を使用して、組成物を表面に適用してコーティング層を形成する場合、多くの場合、絶縁ポリマーの濃度は、組成物の総重量を基準として、少なくとも0.5重量%である。濃度が低いと、粘度が不所望に低い場合がある。しかし、ナイフコーティングなどの異なった技術を使用して、組成物を表面に適用してコーティング層を形成する場合、組成物の粘度は、より低くすることができる(即ち、絶縁ポリマーの濃度は、組成物の総重量を基準として、0.5重量%未満にできる)。
【0062】
組成物中の絶縁ポリマーの濃度は、多くの場合、組成物の総重量を基準として、最大20重量%、最大10重量%、最大5重量%、最大4重量%、又は最大3重量%である。濃度が高すぎる場合、組成物の粘度は、多くの用途において受け入れ難いほど高い場合がある。典型的には、上限は、組成物中での絶縁ポリマーの溶解度によって決定される。通常、絶縁ポリマーは、組成物中にて、分散又は懸濁しているというよりもむしろ、溶解しているか又は実質的に溶解している。本発明で使用する時、用語「実質的に溶解した」とは、絶縁ポリマーが溶解しているが、組成物中に溶解しない不純物を含有し得ることを意味する。少なくとも98重量%、少なくとも99重量%、少なくとも99.5重量%、少なくとも99.8重量%、又は少なくとも99.9重量%の絶縁ポリマーが、組成物中に溶解している。
【0063】
組成物内では、低分子半導体対絶縁ポリマーの任意の比が使用可能である。幾つかの用途では、低分子半導体対絶縁ポリマーの重量比は、1:10〜20:1の範囲内、1:10〜10:1の範囲内、1:8〜8:1の範囲内、1:5〜5:1の範囲内、1:4〜4:1の範囲内、1:3〜3:1の範囲内、又は1:2〜2:1の範囲内である。
【0064】
組成物の固形分%は、任意の所望の量であることができるが、典型的には、組成物の総重量を基準として、0.2〜30重量%の範囲内である。多くの場合、固形分%は、0.5〜20重量%の範囲内、0.5〜10重量%の範囲内、0.5〜5重量%の範囲内、又は1〜5重量%の範囲内である。多くの実施形態では、固形分%は、有機溶媒中での、式(I)の低分子半導体の溶解度によって、加えて絶縁ポリマーの溶解度によって制限される。
【0065】
多くの場合、組成物は、半導体層を半導体デバイス内に作製するために使用される。したがって、別の態様では、半導体層を含有する半導体デバイスが提供される。半導体層は、(a)式(I)の低分子半導体を含む。幾つかの実施形態において、半導体層は更に絶縁ポリマーを含む。
【0066】
半導体デバイスは、例えばS.M.Sze in Physics of Semiconductor Devices,2nd edition,John Wiley and Sons,New York(1981)に記載されている。これらの半導体デバイスは、整流器、トランジスタ(これには、p−n−p、n−p−n、及び薄膜トランジスタを包含する多数の種類がある)、光導電体、電流制限器、サーミスタ、p−n接合、電界効果ダイオード、ショットキーダイオード等を包含する。半導体デバイスは、回路を形成するために使用できるトランジスタ、トランジスタアレイ、ダイオード、コンデンサ、埋め込みコンデンサ、及び抵抗器のような構成要素を包含できる。半導体デバイスは、電子機能を発揮する回路のアレイも包含できる。これらのアレイ又は集積回路の例としては、インバータ、発振器、シフトレジスタ、及び論理回路が挙げられる。これらの半導体デバイス及びアレイの利用分野としては、無線認識デバイス(RFID)、スマートカード、ディスプレイのバックプレーン、センサ、記憶装置等が挙げられる。
【0067】
半導体デバイスの幾つかは、図1〜6に概略的に示すように、有機薄膜トランジスタである。図1〜6に示す種々の薄膜トランジスタのいかなる所与の層も、材料の複数の層を包含することができる。更に、いかなる層も単一材料又は複数の材料を包含することができる。更に、本明細書で使用する時、用語「配置された」、「配置する」、「蒸着された」、「蒸着する」、及び「隣接した」は、記述された層間での別の層を排除するものではない。本明細書で使用する時、これらの用語は、第1の層が第2の層の近くに位置付けられることを意味する。多くの場合、第1の層は、第2の層と接触するが、第1の層と第2の層との間に別の層を配置させることが可能である。
【0068】
有機薄膜トランジスタ100の実施形態の1つを、図1に概略的に示す。有機薄膜トランジスタ(OTFT)100は、ゲート電極14、ゲート電極14上に配置されるゲート誘電体層16、ソース電極22、ドレイン電極24、及びソース電極22及びドレイン電極24の双方に接触している半導体層20を含む。ソース電極22及びドレイン電極24は互いに分離しており(即ち、ソース電極22はドレイン電極24に接触しない)、誘電体層16に隣接させて位置付けられる。ソース電極22及びドレイン電極24の双方は、半導体層の一部分がソース電極とドレイン電極との間に位置付けられるように、半導体層20と接触している。ソース電極とドレイン電極との間に位置付けられた半導体層の一部は、チャネル21と呼ばれる。前記チャネルは、ゲート誘電体層16に隣接する。幾つかの半導体デバイスは、ゲート誘電体層16と半導体層20との間に任意の表面処理層を有する。
【0069】
任意の基材が、前記有機薄膜トランジスタに包含されることができる。例えば、任意の基材12は、OTFT 200について図2に概略的に示されるようにゲート電極14に隣接することができ、又はOTFT 300について図3に概略的に示されるように半導体層20に隣接することができる。OTFT 300は、基材12と半導体層20との間に任意の表面処理層を包含することができる。
【0070】
有機薄膜トランジスタの別の実施形態を、図4に概略的に示す。この有機薄膜トランジスタ400は、ゲート電極14、ゲート電極14上に配置されたゲート誘電体層16、半導体層20、並びに半導体層20上に配置されたソース電極22及びドレイン電極24を包含する。この実施形態において、半導体層20は、ゲート誘電体層16とソース電極22及びドレイン電極24の両方との間にある。ソース電極22及びドレイン電極24は互いに分離している(即ち、ソース電極22はドレイン電極24に接触しない)。ソース電極22及びドレイン電極24はいずれも、半導体層の一部がソース電極とドレイン電極との間に位置付けられるように半導体層に接触する。チャネル21は、ソース電極22とドレイン電極24との間に位置付けられた半導体層の一部である。1つ以上の任意の表面処理層が、半導体デバイスに包含されることができる。例えば、ゲート誘電体層16と半導体層20との間に任意の表面処理層を包含することができる。
【0071】
任意の基材を、有機薄膜トランジスタに包含することができる。例えば、任意の基材12は、OTFT 500について図5に概略的に示されるようにゲート電極14に接触すること又はOTFT 600について図6に概略的に示されるように半導体層20に接触することができる。OTFT 600は、基材12と半導体層20との間に任意の表面処理層を包含することができる。
【0072】
図1〜6に示す半導体デバイス構成体の動作においては、電圧をドレイン電極24に印加できる。しかしながら、少なくとも理想的には、ゲート電極14にも電圧が印加されない限り、電荷(即ち、電流)は、ソース電極22を通過しない。即ち、電圧がゲート電極14に印加されない限り、半導体層20のチャネル21は非導電状態のままである。ゲート電極14への電圧の印加と同時に、チャネル21は導電性になり、電荷がチャネル21を通ってソース電極22からドレイン電極24へと流れる。
【0073】
基材12はしばしば、製造、試験、及び/又は使用中にOTFTを支持する。基材は任意でOTFTに電気的機能を与えることができる。例えば、基材の裏側は電気接点を提供できる。有用な基材材料としては、これらに限定されないが、無機ガラス、セラミック材料、高分子材料、充填高分子材料(例えば、繊維強化高分子材料)、金属、紙、織布又は不織布、コーティングされた又はされていない金属箔、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0074】
ゲート電極14は、導電性材料の層を1つ以上包含することができる。例えば、ゲート電極は、ドープされたシリコン材料、金属、合金、導電性ポリマー、又はこれらの組み合わせを包含できる。好適な金属及び合金には、アルミニウム、クロム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金、タンタル、チタン、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。代表的な導電性ポリマーとしては、これらに限定されないが、ポリアニリン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホネート)、又はポリピロールが挙げられる。幾つかの有機薄膜トランジスタでは、同一の材料が、ゲート電極機能と基材の支持機能との両方を提供することができる。例えば、ドープされたシリコンは、ゲート電極及び基材の両方として機能することができる。
【0075】
幾つかの実施形態におけるゲート電極は、導電性のナノ粒子又は導電性のポリマー材料などの導電性材料を含有する分散液で基材表面をコーティングすることにより形成される。導電性ナノ粒子としては、これらに限定されないが、ITOナノ粒子、ATOナノ粒子、銀ナノ粒子、金ナノ粒子、又はカーボンナノチューブが挙げられる。
【0076】
ゲート誘電体層16は、ゲート電極14上に配置される。このゲート誘電体層16は、OTFTデバイスの残部からゲート電極14を電気的に絶縁する。ゲート誘電体に有用な材料としては、例えば、無機誘電体材料、高分子材料、又はこれらの組み合わせが挙げられる。ゲート誘電体は、好適な誘電体材料の単一層又は多層であることができる。単一層又は多層の誘電体のそれぞれの層は、1つ以上の誘電体材料を包含することができる。
【0077】
有機薄膜トランジスタは、ゲート誘電体層16と有機半導体層20の少なくとも一部との間に配置された、又は基材12と有機半導体層20の少なくとも一部との間に配置された、任意の表面処理層を包含できる。幾つかの実施形態では、任意の表面処理層は、ゲート誘電体層と半導体層との間又は基材と半導体層との間の境界面として機能する。表面処理層は、米国特許第6,433,359(B1)号(Kelly et al.)に記載されているような自己組織化単分子層又は米国特許第6,946,676号(Kelly et al.)、及び同第6,617,609号(Kelly et al.)に記載されているようなポリマー材料であることができる。
【0078】
ソース電極22及びドレイン電極24は、金属、合金、金属化合物、導電性金属酸化物、導電性セラミック、導電性分散液、及び導電性ポリマーであることができ、例えば、金、銀、ニッケル、クロム、バリウム、白金、パラジウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素酸化スズ(FTO)、アンチモン酸化スズ(ATO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホネート)、ポリアニリン、その他の導電性ポリマー、これらの合金、これらの組み合わせ、及びこれらの多層が挙げられる。当該技術分野において知られているとおり、これらの材料の幾つかは、n型半導体材料と共に用いるのに適しており、その他のものは、p型半導体材料と共に用いるのに適している。
【0079】
薄膜電極(例えば、ゲート電極、ソース電極、及びドレイン電極)は、物理蒸着(例えば、熱蒸着又はスパッタリング)、インクジェット印刷等、などの当該技術分野において既知の任意の手段によって提供することができる。これらの電極のパターニングは、シャドウマスキング、加法フォトリソグラフィ、減法フォトリソグラフィ、印刷、ミクロ接触印刷、及びパターンコーティングなどの既知の方法によって達成することができる。
【0080】
更に別の態様では、半導体デバイスの製造方法が提供される。方法は、式(I)の低分子半導体を含有する半導体層を提供することを含む。任意の好適な方法を使用して半導体層を提供することができるが、多くの場合、この層は組成物を使用して提供される。組成物は、上述したものと同一であることができる。幾つかの実施形態において、組成物と得られた半導体層との両方は、式(I)の低分子半導体に加えて絶縁ポリマーを含む。
【0081】
半導体デバイス作製の幾つかの代表的な方法では、方法は、誘電体層又は導電層から選択される第1の層を提供すること、及び第1の層に隣接させて半導体層を配置することを伴う。作製又は提供に特別な順番は必要とされないが、多くの場合、誘電体層、導電層、又は基板などの別の層の表面上に半導体層が作製される。導電層は、例えば、ゲート電極などの電極の1つ以上又はソース電極及びドレイン電極の両方を含む層を含むことができる。半導体層を第1の層に隣接させて配置する工程は、多くの場合、(1)式(I)の低分子半導体並びに低分子半導体の少なくとも一部を溶解する有機溶媒を含む組成物を作製すること、(2)組成物を第1の層へ適用して、コーティング層を形成すること、並びに(3)有機溶媒の少なくとも一部をコーティング層から除去すること、を包含する。組成物は、組成物の総重量に基づいて少なくとも0.1重量%の溶解した低分子半導体を含有する。多くの場合、組成物はまた、少なくとも0.1重量%の溶解した絶縁ポリマーを含有する。
【0082】
半導体デバイスの幾つかの作製方法は、有機薄膜トランジスタの作製方法である。有機薄膜トランジスタの1つの作製方法は、次の順番で多層を配置することを伴う。ゲート電極、ゲート誘電体層、互いに分離されているソース電極及びドレイン電極を有する層、並びにソース電極及びドレイン電極の両方と接触している半導体層。半導体層は、式(I)の低分子半導体及び任意に絶縁ポリマーを含む。本方法による代表的な有機薄膜トランジスタは、図1〜6にて概略的に示されている。
【0083】
例えば、図1に概略的に示す有機薄膜トランジスタは、ゲート電極14を提供すること、ゲート誘電体層16をゲート電極14に隣接させて蒸着させること、ソース電極22及びドレイン電極24を、ソース電極22及びドレイン電極24が互いに分離するようにゲート誘電体層16に隣接させて位置付けること、並びにソース電極22上に蒸着させた半導体層20を、ドレイン電極24の上、及びソース電極22とドレイン電極24との間の領域21に形成することによって作製できる。半導体層20は、ソース電極22とドレイン電極24との両方に接触する。ソース電極とドレイン電極との間の領域に位置付けられた半導体層の一部がチャネルを画定する。
【0084】
図2に概略的に示す有機薄膜トランジスタは、基材12を提供すること、ゲート電極14を基材12上に蒸着すること、ゲート電極14が基材12とゲート誘電体層16との間に位置付けられるように、ゲート誘電体層16をゲート電極14に隣接させて蒸着すること、ソース電極22及びドレイン電極24を、この2つの電極が互いに分離するように、ゲート誘電体層16に隣接させて位置付けること、並びに半導体層20を、ソース電極22、ドレイン電極24に隣接させて、ソース電極22とドレイン電極24との間の領域21に形成することによって作製できる。半導体層20は、ソース電極22とドレイン電極24との両方に接触する。ソース電極とドレイン電極との間の領域に位置付けられた半導体層の一部がチャネルを画定する。
【0085】
図3に図式的に示される有機薄膜トランジスタは、基材12を提供すること、基材12に隣接させて半導体層20を形成すること、ソース電極22及びドレイン電極24が互いに分離するように基材12の反対側の半導体層20に隣接させてソース電極22及びドレイン電極24を位置付けること、ソース電極22、ドレイン電極24、及びソース電極22とドレイン電極24との間の半導体層20の一部分に隣接させてゲート誘電体層16を蒸着すること、並びにゲート電極14をゲート誘電体層16に隣接させて蒸着することにより、作製することができる。ソース電極22とドレイン電極24との両方が半導体層20に接触する。半導体層の一部は、ソース電極22とドレイン電極24との間に位置付けられる。半導体層のこの部分がチャネルを画定する。
【0086】
図4〜6にて概略的に示される有機薄膜トランジスタは、多層を次の順番で配置させることを伴う方法によって作製することができる。ゲート電極、ゲート誘電体層、及び式(I)の半導体及び任意に絶縁ポリマーを含有する半導体層、並びに互いに分離されているソース電極及びドレイン電極を有する層(ここで、半導体層はドレイン電極及びソース電極の両方に接触している)。幾つかの実施形態では、表面処理層をゲート誘電体層と半導体層との間に位置付けることができる。基材は、ゲート電極に隣接させて又はソース電極及びドレイン電極を含有する層に隣接させて、位置付けることができる。
【0087】
例えば、図4に図式的に示される有機薄膜トランジスタは、ゲート電極14を提供すること、ゲート誘電体層16をゲート電極14に隣接させて蒸着すること、ゲート誘電体層16に隣接させて半導体層20を形成する(即ち、ゲート誘電体層16は、ゲート電極14と半導体層20との間に位置付けられる)こと、及び半導体層20に隣接させてソース電極22及びドレイン電極24を位置付けることにより、作製することができる。ソース電極22及びドレイン電極24は互いに分離し、いずれの電極も半導体層20に接触する。半導体層の一部は、ソース電極とドレイン電極との間に位置付けられる。
【0088】
図5に概略的に示される有機薄膜トランジスタは、基材12を提供すること、ゲート電極14を基材12に隣接させて蒸着させること、ゲート誘電体層16を、ゲート電極14が基材12とゲート誘電体層16との間に位置付けられるように、ゲート電極14に隣接させて蒸着すること、半導体層20をゲート誘電体層16に隣接させて形成すること、並びにソース電極22及びドレイン電極24を半導体層20に隣接させて位置付けることによって作製できる。ソース電極22及びドレイン電極24は互いに分離し、いずれの電極も半導体層20に接触する。半導体層20の一部は、ソース電極22とドレイン電極24との間に位置付けられる。
【0089】
図6に概略的に示す有機薄膜トランジスタは、基材12を提供すること、ソース電極22及びドレイン電極24を、ソース電極22及びドレイン電極24が互いに分離するように基材に隣接させて位置付けること、ソース電極22及びドレイン電極24に接触する半導体層20を形成すること、及びゲート誘電体層16を、ソース電極22及びドレイン電極24の反対側の半導体層に隣接させて付着させること、及びゲート電極14を、ゲート誘電体層16に隣接させて蒸着させることによって作製できる。半導体層20の一部は、ソース電極22とドレイン電極24との間に位置付けられる。
【0090】
図1〜6にて概略的に示された任意の有機薄膜トランジスタにおいて、半導体層は、(1)式(I)の低分子半導体、任意の絶縁ポリマー、並びに低分子半導体及び任意の絶縁ポリマーの両方の少なくとも一部を溶解する有機溶媒を含有する組成物を作製すること、(2)有機薄膜トランジスタの別層に組成物を適用すること、並びに(3)有機溶媒の少なくとも一部を除去することにより、形成することができる。組成物は、組成物の総重量を基準にして、少なくとも0.1重量%の溶解した低分子半導体を含有し、任意に更に少なくとも0.1重量%の溶解した絶縁ポリマーを含有する。
【実施例】
【0091】
すべての試薬は商業的供給源から購入し、特に指示がない限り更なる精製なしに使用した。
【0092】
炭酸ナトリウム、塩化スズ(II)、ビス(ピナコラト)ジボロン、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、4−ブロモアニソール、及び2−ブロモ−6−メトキシナフタレンを、Sigma Aldrich(Milwaukee,WI)から購入した。
【0093】
ALIQUAT 336(相間移動触媒)、n−ブチルリチウム、及びジクロロメタンとの[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム錯体、を、Alfa Aesar(Ward Hill,MI)から得た。
【0094】
トリイソプロピルシリルアセチレンは、GFS Chemicals(Columbus,OH)から購入した。
【0095】
ヘキサン及びテトラヒドロフラン(THF)をナトリウム上で蒸留した。
【0096】
すべての生成物及び中間体の分子構造は、H−NMR(400MHz)によって確認した。次の出発物質を、次のように公開された手順を用いて作製した。
【0097】
Ito et al.,Angew.Chem.Int.Ed.,42,1159〜1162(2003)に記載されるように、2.6−ジブロモアントラキノンを市販の2,6−ジアミノアントラキノン(Sigma Aldrich)から作製した。昇華後、それをDMFからの再結晶により更に精製した。
【0098】
前駆体2,6−ビス−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,10−ビス−[(トリイソプロピルシリル)エチニル]アントラセンは、予備例1及び2に記載されたように、反応スキーム1にしたがって合成した。
【0099】
【化6】

【0100】
Suzukiカップリング反応を用いて、反応スキーム2に示されるような式(I)の種々の化合物を合成した。実施例1において、前駆体2,6−ビス−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,10−ビス−[(トリイソプロピルシリル)エチニル]アントラセンを、4−ブロモアニソール(反応スキーム2のR−Br)と反応させた。実施例2において、同じ前駆体を、2−ブロモ−6−メトキシナフタレン(反応スキーム2のR−Br)と反応させた。
【0101】
【化7】

【0102】
予備例1−2,6−ジブロモ−9,10−ビス[(トリイソプロピルシリル)−エチニル]アントラセンの合成
トリイソプロピルシリルアセチレン(12.32g、67.5mmol)及び乾燥ヘキサン(140mL)を、オーブンで乾燥させた丸底フラスコ(1L)に乾燥窒素雰囲気下で添加した。ブチルリチウム(ヘキサン中2.7M、14.5mL、39.2mmol)を、乾燥窒素下で、シリンジを通して混合物に滴加した。混合物を室温で2時間攪拌した。この無色の溶液に、乾燥THF(300mL)及び2,6−ジブロモアントラキノン(5.49g、15.0mmol)を乾燥窒素下で添加した。溶液は即座に赤色になり、数分で2,6−ジブロモアントラキノン(dibromoanthraquininone)が溶解した。混合物を室温で一晩攪拌すると、溶液は暗赤色になった。脱イオン(DI)水(6.0mL)を添加すると、色が薄赤色に変化し、白色沈殿が生じた。次いで、塩化スズ(II)(8.088g、42.6mmol)のHCl(18mL、10%)水溶液を添加した。混合物を60℃に2時間加熱し、次に室温まで冷却した。溶媒を回転蒸発により除去した。DI水(100mL)を混合物に添加し、次いでヘキサン(100mL×3)で抽出した。中性になるまで、ヘキサン溶液をDI水で洗浄した。カラムクロマトグラフィー(シリカゲル/ヘキサン)を通して濃縮及び精製した。生成物として鮮黄色の固体(8.55g、収率:82%)を得た。
【0103】
予備例2−2,6−ビス−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,10−ビス[(トリイソプロピルシリル)エチニル]アントラセンの合成
予備例1の、2,6−ジブロモ−9,10−ビス−[(トリイソプロピルシリル)エチニル]アントラセン(5.225g、7.5mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(4.763g、18.8mmol)、KOAc(2.940g、30.0mmol)、及びCHCl(100mL)を、乾燥窒素下で250mLのフラスコに充填した。KOAcを懸濁した黄色溶液を得た。懸濁液を脱気し、微量の酸素を除去した。次いで[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(0.205g)を乾燥窒素下で添加した。溶液は橙色になった。混合物を70℃で3日間攪拌した後、室温まで冷却した。DI水(100mL×3)で洗浄し、MgSO上で乾燥させた。溶媒を回転蒸発により除去した。固体残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl)により精製し、酢酸エチルから再結晶化した。生成物として橙色の針状結晶を得た(3.20g、収率55%)。
【0104】
実施例1−2,6−ビス(4−メトキシ−フェニル)−9,10−ビス−[(トリイソプロピルシリル)エチニル]アントラセン(B4MP−TIPS−An)の合成
250mLのシュレンクフラスコに、2,6−ビス−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,10−ビス−[(トリイソプロピルシリル)エチニル]アントラセン(1.266g、1.60mmol)、4−ブロモアニソール(0.748g、4.00mmol)、炭酸ナトリウム(0.848g、8.00mmol)、ALIQUAT 336(0.072g、[CH(CHNCHCl及び[CH(CHNCHClの混合物、相間移動触媒として使用する)、蒸留水(25mL)、及びトルエン(100mL)を充填した。混合物をシュレンクラインを用いて窒素下で脱気して、酸素を除去した。次いで、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.024g、0.02mmol)を、窒素流下で添加した。脱気後もう一度、混合物を90℃にて窒素下で撹拌した。上方有機層は緑色がかった橙色に変化し、下方水層は無色であった。90℃で20時間撹拌した後、混合物を室温まで冷却した。少量の不溶性黒色固体をろ去した。暗緑色のトルエン溶液を、回転蒸発により約15mLまで濃縮し、次いでMeOH(100mL)でクエンチした。橙色固体(1.13g)をろ過により回収した。それを領域昇華により精製した。真空は1.1×10−6Torrであり、供給源領域温度は260℃であり、中心領域温度は200℃であった。綺麗な赤色/橙色結晶(1.0)を生成物として得た。
【0105】
実施例2−2,6−ビス−(6−メトキシ−ナフタレン2−イル)−9,10−ビス−[(トリイソプロピルシラニル)−エチニル]−アントラセン(BMN−TIPS−An)の合成
250mLのシュレンクフラスコに、2,6−ビス−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,10−ビス−[(トリイソプロピルシリル)エチニル]アントラセン(1.266g、1.60mmol)、2−ブロモ−6−メトキシアントラセン(0.949g、4.00mmol)、炭酸ナトリウム(0.848g、8.00mmol)、ALIQUAT 336(0.072g、[CH(CHNCHCl及び[CH(CHNCHClの混合物、相間移動触媒として使用する)、蒸留水(25mL)、及びトルエン(100mL)を充填する。混合物をシュレンクラインを用いて窒素下で3回脱気して、酸素を除去した。次いで、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.024g、0.02mmol)を、窒素流下で添加した。脱気後もう一度、混合物を90℃にて窒素下で撹拌した。赤色上方有機層は約1時間で暗緑色に変化し、下方水層は無色であった。90℃で20時間撹拌した後、混合物を室温まで冷却した。少量の不溶性黒色固体をろ去した。暗緑色のトルエン溶液を、回転蒸発により約15mLまで濃縮し、次いでMeOH(100mL)でクエンチした。橙色固体(1.15g)をろ過により回収した。それを領域昇華により更に精製した。真空は3〜5×10−6Torrであり、供給源領域温度は300℃であり、中心領域温度は220℃であった。橙色固体(0.4g)を中心領域にて回収した。
【0106】
実施例3−溶解度測定
実施例1にて合成されたB4MP−TIPS−Anの溶解度を、室温にて種々の溶媒中で測定した。この低分子半導体は、n−ブチルベンゼンに対して中程度の溶解度(約1.0重量%)を、並びにジクロロベンゼン(6.0重量%以上)及びキシレン(約3.5重量%)に対しては良好な溶解度を有していた。重量%は、溶液の総重量を基準にしている。
【0107】
実施例4−薄膜トランジスタ(TFT)デバイスの作製及び特性決定
高濃度ドープされたSiウエハ(Si100、Silicon Valley Microelectronics,Inc.,Santa Clara,CA)を、1000rpmで30秒間のスピンコーティングにより1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(HMDS)で前処理した。B4MP−TIPS−An及びポリスチレン(Mw=97400、Sigma Aldrich)を室温にてキシレンに溶解させ、それらの濃度を、組成物の総重量に基づいてぞれぞれ3.0重量%及び1.0重量%にした。次いで溶液をHMDS−処理された基材の一片にナイフコーティングした。風乾後、サンプルを空気中120℃にて30分間アニールした。金ソース/ドレイン電極(60nm厚さ)を2×10−6Torrの減圧下、熱蒸発法を用いてポリマーシャドーマスクを通してパターン付けした。Hewlett Packard半導体パラメータ分析機(モデル4145A、Hewlett Packard Corporation,Palo Alto,CAから入手可能)を使用して、ドレイン電圧(Vds)を−40Vに維持する一方、ゲート電圧(V)を+10V〜−40Vまで掃引することにより、薄膜トランジスタを周囲条件下で特性決定した。I1/2−Vトレースへの線形フィットは、飽和移動度及び閾値電圧(V)の抽出を可能にした。I−Vトレースへの線形フィットは、電流オン/オフ比を算出できるようにした。ホール移動度μは、0.21cm/Vsと算出され、閾値電圧は−8Vであり、オン/オフ比は6×10であった。
【0108】
実施例5−薄膜トランジスタ(TFT)デバイスの安定性試験
B4MP−TIPS−AnのTFTデバイスを実施例4に記載の手順にしたがって作製した。この実験にて使用される半導体溶液の組成は、総溶液重量に基づいて3.0重量%のB4MP−TIPS−An、2.0重量%のポリスチレン、及び95.0重量%のキシレンであった。16個のTFTデバイスをランダムに選択し、サンプルを作製直後にTFT特性を試験した。120℃に設定したエアオーブンにサンプルを入れた。これら16個のデバイスのTFT特性を3日間及び7日間経年させた後に再び測定した。これらの経年期間後、試験された16個のデバイスすべてが非常に良好に機能した。表1からわかるように、デバイスの移動度は3日間の経年後に元の値より約75%までわずかに低下し、空気中120℃にて7日間の経年後には約50%を維持した。驚くべきことに、オン/オフ比及びサブ閾値の傾きは、経年後に大きく改善した。平均して、移動度は0.079cm/Vsから0.059cm/Vsまで(3日間)及び0.039cm/Vsまで(7日間)低下し、オン/オフ比は1.0×10から1.7×10まで(3日間)及び8.7×10まで(7日間)増大し、サブ閾値の傾きは、3.2V/decadeから1.4V/decadeまで(3日間)及び1.5V/decadeまで(7日間)低下し、これは経年後にデバイスがより速くオンになることを示す。
【0109】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物であって、
【化1】

式中、
はフェニル又はナフチルであり、前記フェニル又はナフチルは、非置換であるか、又はハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アシルオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアルキル又はヘテロアラルキルから選択される1つ以上の置換基で置換され、
それぞれのRは独立して、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアルキル、ヘテロアラルキル、又はヒドロキシアルキルである、化合物。
【請求項2】
が式(II)、(III)又は(IV)のものであって、
【化2】

式中、
は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アシルオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアルキル、又はヘテロアラルキルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が式(V)又は(VI)のものであって、
【化3】

式中、
は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アシルオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアルキル、又はヘテロアラルキルである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
がアルコキシである、請求項2又は3に記載の化合物。
【請求項5】
それぞれのRがアルキル又はアルケニルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
(a)式(I)の低分子半導体であって、
【化4】

式中、
はフェニル又はナフチルであり、前記フェニル又はナフチルは、非置換であるか、又はハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アシルオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアルキル又はヘテロアラルキルから選択される1つ以上の置換基で置換され、
それぞれのRは独立して、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアルキル、ヘテロアラルキル、又はヒドロキシアルキルである、式(I)の低分子半導体と、
(b)有機溶媒と、を含む、組成物。
【請求項7】
前記組成物が、前記組成物の総重量に基づいて少なくとも0.1重量%の溶解した式(I)の低分子半導体を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
が式(II)、(III)又は(IV)のものであって、
【化5】

式中、
は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アシルオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアルキル、又はヘテロアラルキルである、請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
更に絶縁ポリマーを含む、請求項6〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記絶縁ポリマーが、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ビニルフェノール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニリデンフルオライド)、シアノエチルプルラン、又はポリ(ジビニルテトラメチルジシロキサン−ビス(ベンゾシクロブテン))を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記有機溶媒が、(a)非置換であるか又は少なくとも1つのアルキル基で置換されているベンゼン、(b)少なくとも1つのハロ基で置換されているアルカン、(c)少なくとも1つのハロ基で置換されているベンゼン、(d)ケトン、(e)エーテル、(f)アミド、(g)アルカン、又は(h)これらの混合物を含む、請求項6〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
式(I)の低分子半導体を含む半導体層を含む半導体デバイスであって、
【化6】

式中、
はフェニル又はナフチルであり、フェニル又はナフチルは、非置換であるか、又はハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アシルオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアルキル又はヘテロアラルキルから選択される1つ以上の置換基で置換され、
それぞれのRは独立して、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアルキル、ヘテロアラルキル、又はヒドロキシアルキルである、半導体デバイス。
【請求項13】
前記半導体層が更に絶縁ポリマーを含む、請求項12に記載の半導体デバイス。
【請求項14】
導電層、誘電体層、又はこれらの組み合わせを、前記半導体層に隣接させて更に含む、請求項12又は13に記載の半導体デバイス。
【請求項15】
前記半導体層の1つの表面に隣接した導電層及び前記半導体層の反対側の表面に隣接した誘電体層を更に含む、請求項12〜14のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項16】
互いに分離されかつ両方が前記半導体層と接触しているソース電極及びドレイン電極を含んでなる電極層を更に含む、請求項12〜15のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項17】
前記半導体デバイスが、有機薄膜トランジスタを含む、請求項12〜16のいずれか一項に記載の半導体デバイス。
【請求項18】
半導体デバイスを製造する方法であって、前記方法が、式(I)の低分子半導体を含む半導体層を提供することであって、
【化7】

式中、
はフェニル又はナフチルであり、前記フェニル又はナフチルは、非置換であるか、又はハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アシルオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアルキル又はヘテロアラルキルから選択される1つ以上の置換基で置換され、
それぞれのRは独立して、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアルキル、ヘテロアラルキル、又はヒドロキシアルキルである、半導体層を提供すること、を含む、半導体デバイスを製造する方法。
【請求項19】
前記半導体層が更に絶縁ポリマーを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記半導体層に隣接する第1の層を提供することを更に含み、前記第1の層が導電層又は誘電体層を含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記半導体デバイスが、
ゲート電極、
ゲート誘電体層、
前記半導体層、並びに
ソース電極及びドレイン電極を含む電極層であって、前記ソース電極及び前記ドレイン電極が互いに分離されており、かつ前記半導体層が前記ドレイン電極及び前記ソース電極の両方と接触している電極層、の順番で配置された多層を含む有機薄膜トランジスタを含む、請求項18〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記半導体デバイスが、
ゲート電極、
ゲート誘電体層、
ソース電極及びドレイン電極を含む電極層であって、前記ソース電極及び前記ドレイン電極が互いに分離された電極層、並びに
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の両方と接触している前記半導体層、の順番で配置された多層を含む有機薄膜トランジスタを含む、請求項18〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記半導体層を提供することが、組成物を前記半導体デバイスの別の層の表面に適用することを含み、前記組成物が、式(I)の低分子半導体及び前記低分子半導体の少なくとも一部を溶解する有機溶媒を含む、請求項18〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記方法が、前記組成物の適用後に、前記有機溶媒の少なくとも一部を除去することを更に含む、請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−524908(P2011−524908A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514647(P2011−514647)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/041904
【国際公開番号】WO2009/154877
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】