説明

溶液製膜方法

【課題】流延膜の剥ぎ取り後に、支持体表面に付着した化合物を除去する溶液製膜方法を提供する。
【解決手段】プラズマ発生装置66は酸素ラジカルを生成する。プラズマ発生装置66はノズル65を有する。ノズル65を剥取ローラ34と減圧チャンバ36の間に配置する。流延工程にて、流延ドラム32上でドープ21は流延膜33を形成する。流延膜33から析出した脂肪酸エステルが流延ドラム32の表面に付着する。剥取ローラ34は、流延膜33を湿潤フィルム38として剥ぎ取る。ノズル65は、流延ドラム32の表面に酸素ラジカルを供給する。酸素ラジカルは、析出物をH0、CO、COや低分子化合物に分解する。H0、CO、COは、流延ドラム32の表面から離れ、流延室12を浮遊する。液体の低分子化合物は、流延ドラム32の表面上でドープ21に溶解し、新たな流延膜33となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学機能性フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、強靭性や低複屈折率であることから、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置(LCD)の構成部材である偏光板の保護フィルムまたは光学補償フィルムなどに用いられている。
【0003】
主なフィルムの製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、膜厚精度を調整することが難しく、また、フィルム上に細かいスジ(ダイライン)ができるために、光学機能性フィルムへ使用することができるような高品質のフィルムを製造することが困難である。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含んだポリマー溶液(ドープ)を支持体上に流延して形成した流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとし、さらに、この湿潤フィルムを乾燥させてフィルムとする方法である。溶融押出方法と比べて、光学等方性や厚み均一性に優れるとともに、含有化合物の少ないフィルムを得ることができるため、LCD用途などの光学機能性フィルムは、主に溶液製膜方法で製造されている。
【0004】
この溶液製膜方法は、セルローストリアセテートなどのポリマーをジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする混合溶媒に溶解した高分子溶液(以下、ドープと称する)を調製する。更に、このドープに所定の添加剤を混合し、流延ドープを調製する。流延ドープを流延ダイより流延ビードを形成させて、キャスティングドラムやエンドレスバンドなどの支持体上に流延して流延膜を形成する(以下、流延工程と称する)。その流延膜が支持体上で冷却され、自己支持性を有するものとなった後に、支持体から膜(以下、この膜を湿潤フィルムと称する)として剥ぎ取り、この湿潤フィルムを乾燥させたものをフィルムとして巻き取る。
【0005】
流延工程において、流延膜から脂肪酸、脂肪酸エステルや脂肪酸金属塩などを主成分とする化合物が支持体上表面に析出し、この析出物が支持体表面に付着する。この析出物が付着した支持体を用いてフィルムを製造すると、この析出物がフィルムの表面に転写される。このようなフィルム表面への析出物の転写は、光学特性のムラを誘発する。このため、溶液製膜方法では、定期的に支持体表面を洗浄する必要があった。
【0006】
この支持体表面の洗浄方法として、有機溶液等を浸した不織布を用いて支持体表面を連続的に拭く方法(特許文献1)や、フィルム表面に溶媒処理、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、及び火炎処理などの処理を施し、フィルム表面の化合物を除去する方法(特許文献2)が開示されている。
【特許文献1】特開2003−1654号公報
【特許文献2】特開2001−89590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のようなWet処理では、溶液の洗浄跡が支持体表面に残りやすい。この有機溶液が残留した支持体表面に流延膜を形成すると、流延膜の表面には有機溶液の残存に起因するスジ状のムラや凹凸が形成され、2次故障の原因となる。更に、洗浄中に不織布と支持体の間に硬い異物が混入し、支持体表面が損傷するなどの2次故障が懸念される。表面が損傷した支持体上にドープを流延すると、この傷がフィルムに転写され、フィルムの光学特性のムラの原因となる。
【0008】
また、特許文献2のようなフィルム表面上の付着物の除去処理を行う場合には、フィルムの特性に影響を及さないような条件で除去処理を施すことが望ましいが、この条件を見出すことは容易ではない。また、この処理条件がフィルムを構成する材料及びその組成に依存するため、多品種のフィルム製造に対応可能なフィルム製造装置への適用は困難である。
【0009】
本発明は、上記問題を鑑み、支持体表面の損傷を回避しつつ、支持体表面に付着した化合物を容易に除去可能であり、大量生産に適する溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上へ流延し、前記ドープが前記支持体上で流延膜を形成し、前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取る溶液製膜方法において、前記流延膜の剥ぎ取り後に、分解手段を用いて前記支持体の表面に付着する化合物を分解することを特徴とする。
【0011】
前記分解手段が、前記支持体の表面への紫外線照射であることが好ましい。また、前記紫外線が波長185nmの紫外線を含むことが好ましく、更に、前記紫外線が波長254nmの紫外線を含むことが好ましい。
【0012】
前記分解手段が、前記支持体表面へ酸素ラジカルを供給することが好ましい。また、前記分解手段であるプラズマ発生装置を用いて酸素ラジカルを発生させ、この酸素ラジカルを前記支持体の表面に供給することが好ましい。
【0013】
前記化合物が、脂肪酸、脂肪酸エステル、及び脂肪酸金属塩のいずれかを含むことが好ましい。
【0014】
前記支持体が、キャスティングドラムであることが好ましい。また、前記ポリマーが、セルローストリアセテート、セルロースアセテート、プロピオネート又はセルロースアセテートブチレートのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の溶液製膜方法によれば、前記流延膜の剥ぎ取り後に、分解手段を用いて前記支持体の表面に付着する化合物を分解するため、フィルムの光学特性などを維持しつつ、洗浄中の支持体の2次故障を回避しながら、支持体表面を容易に洗浄することができる。また、フィルム製造中に、支持体表面の洗浄を行うことが可能になるため、フィルムの生産性が向上する。
【0016】
前記分解手段が、前記支持体の表面への紫外線照射であるため、支持体表面上の化合物に吸収された紫外線が、当該化合物を低分子化合物に分解することが可能になる。また、波長185nmの紫外線照射により、酸素分子からオゾン分子が生成される。熱分解により、紫外線照射によって生成したオゾン分子から酸素原子O(P)が生成される。更に、波長254nmの紫外線照射により、オゾン分子から酸素原子O(D)が生成される。これらの強力な酸化力を有する酸素原子O(D)及び酸素原子O(P)により、流延ドラム32の表面に付着する脂肪酸エステルを容易に分解することが可能になる。すなわち、上記のような波長を有する紫外線照射により、支持体表面上の化合物の除去が容易になる。
【0017】
前記分解手段が、前記支持体表面への酸素ラジカルの供給であるため、酸素ラジカルの強い酸化力により、化合物は分解される。この酸素ラジカルの酸化力を用いて、支持体表面に付着した化合物の除去を容易に行うことができる。このような酸素ラジカルは、前記分解手段であるプラズマ発生装置を用いて発生させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[溶液製膜方法]
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。図1に、本実施形態で用いるフィルム製造ライン10の概略図を示す。フィルム製造ライン10は、ストックタンク11と流延室12とピンテンタ13とクリップテンタ14と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
【0019】
ストックタンク11には、モータ11aで回転する攪拌翼11bとジャケット11cとが備えられており、その内部にはフィルム20の原料となるドープ21が貯留されている。ストックタンク11は、常時、その外周面に設けられているジャケット11cにより、ドープ21の温度が略一定となるように調整されるとともに、攪拌翼11bが回転されているので、ポリマーなどの凝集を抑制しながら、ドープ21の均一な品質が保持されている。また、ストックタンク11の下流には、ポンプ25と濾過装置26とが備えられている。なお、ドープ21の調製方法に関しては、後で詳細に説明する。
【0020】
流延室12には、ドープ21の流延口となる流延ダイ30と、支持体であるキャスティングドラム(以下、流延ドラムと称する)32と、流延ドラム32から流延膜33を剥ぎ取る剥取ローラ34と、流延室12の内部温度を調整する温調設備35とが備えられている。また、減圧チャンバ36は、流延ダイ30と剥取ローラ34との間の流延ドラム32の表面近傍に配される。
【0021】
流延ダイ30は、その下方に配置される流延ドラム32上にドープ21を流延する。流延ダイ30の材質は、電解質水溶液やジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性や低い熱膨張率などを有する素材から形成される。また、流延ダイ30の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。こうして、流延ダイ30は、スジ及びムラのない流延膜33を流延ドラム32上に形成する。
【0022】
円筒形状に形成される流延ドラム32は、駆動装置により円筒の軸を中心に回転する。流延ドラム32は、ステンレスから形成され、その周面はクロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、スジ及びムラのない流延膜33を形成するために、周面に鏡面加工が施されている。また、流延ドラム32の表面温度を所望の温度に保つために、流延ドラム32に伝熱媒体循環装置37が取り付けられている。この伝熱媒体循環装置37にて所望の温度に保持されている伝熱媒体が、流延ドラム32内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム32の表面温度を所望の温度に保持できる。
【0023】
流延ダイ30から流延ドラム32の表面へドープ21が流延される。この流延工程では、この流延ダイ30から流延ドラム32にかけて流延ビードを形成し、流延ドラム32の表面上に流延膜33を形成する。減圧チャンバ36は、流延ダイ30から流延するドープ21の背面(後に、流延ドラム32の表面に接する面)側を所望の圧力に減圧する。流延膜33が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ34は、流延ドラム32上の流延膜33を湿潤フィルム38として剥ぎ取る。
【0024】
また、流延室12内には、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)39と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置40とが備えられている。凝縮器39で凝縮液化した有機溶媒は、回収装置40により回収される。その溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0025】
流延室12の下流には、剥取ローラ34によって剥ぎ取られた湿潤フィルム38を乾燥させてフィルム20とするピンテンタ13と、このフィルム20を乾燥させながら延伸するクリップテンタ14とが設けられている。フィルム20は、クリップテンタ14の所定条件下の延伸処理によって、所望の光学特性が付与される。なお、ピンテンタ13は、固定手段として複数のピンを有する乾燥装置であり、クリップテンタ14は、把持手段としてクリップを有する乾燥装置である。
【0026】
クリップテンタ14の下流には耳切装置43が設けられている。この耳切装置43には、クラッシャ44が備えられており、ここで、フィルム20の両側端部は切断された後、クラッシャ44に送り込まれて粉砕される。
【0027】
乾燥室15には、多数のローラ47と吸着回収装置48とが備えられている。さらに、乾燥室15に併設された冷却室16の下流には、強制除電装置(除電バー)49が設けられている。また、本実施形態では、強制除電装置49下流側に、ナーリング付与ローラ50を設けている。巻取室17の内部には、巻取ローラ51とプレスローラ52とが備えられている。
【0028】
減圧チャンバ36と剥取ローラ34の間の流延ドラム32の表面近傍に配置されるノズル65は、配管66aを介して、プラズマ発生装置66と接続されている。また、ノズル65の先端には、供給口65aが備えられ、プラズマ発生装置66から送り出される気体は、この供給口65aから噴射される。また、供給口65aの先端近傍にはカバー67が備えられる。
【0029】
プラズマ発生装置66は、酸素を含む所定のガスが充填され、内部に電極対を格納するガス充填室を備えている。この電極間に所定の電圧を印加することにより、充填されるガスに含まれる酸素分子から酸素ラジカルが発生する。プラズマ発生装置66は、この発生した酸素ラジカルを、配管66a及び供給口65aを介して、流延室12へ送り出す。
【0030】
また、このノズル65にはシフト部が接続され、このシフト部によりノズル65は移動自在となっている。このシフト部の操作により、ノズル65の供給口65aと流延ドラム32との供給距離L1を所望の値に設定することができる。また、プラズマ発生装置66はタイマーを内蔵しており、このタイマーの操作によって定められた供給時間の間、プラズマ発生装置66は、酸素ラジカルを生成し、供給口65aへ送り出す。
【0031】
次に、図1を用いて、フィルム製造ライン10によりフィルム20を製造する方法の一例を説明する。ストックタンク11では、ジャケット11cの内部に伝熱媒体を流すことによりドープ21の温度を25〜35℃に調整するとともに、攪拌翼11bの回転により常に均一化している。適宜適量のドープ21を、ポンプ25によりストックタンク11から濾過装置26に送り込み濾過することにより、ドープ21中の不純物を取り除く。そして、このドープ21を流延ダイ30から流延ビードを形成させながら、所定の表面温度になるように冷却した流延ドラム32上に流延する。流延時のドープ21の温度は、30〜35℃であることが好ましい。
【0032】
流延ドラム32は、駆動装置により所定の回転数で回転している。また、流延ドラム32の表面温度は所定の範囲内を満たすように調整されている。その表面温度は、−10〜10℃の範囲内で略一定とすることが好ましい。このように冷却された流延ドラム32を用いると、流延させたドープ21から形成される流延膜33を冷却固化(ゲル化)させて自己支持性を持たせることができる。なお、表面温度の管理は、伝熱媒体循環装置37により行われ、流延ドラム32の表面温度を所定の値に保持する。流延膜33の冷却が進行すると、結晶の基となる架橋点が形成されて流延膜33のゲル化が促進される。
【0033】
ゲル化の進行により、流延膜33が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ34により流延ドラム32から剥ぎ取って湿潤フィルム38を形成する。そして、この湿潤フィルム38をピンテンタ13に送り込む。
【0034】
流延室12の内部温度は、温調設備35により所定の範囲内で略一定となるように調整される。流延室12の内部温度は、10〜30℃であることが好ましい。また、流延室12の内部には、流延されるドープ21や流延膜33中の溶媒が揮発後に浮遊している。そこで、本実施形態では、この浮遊溶媒を凝縮器39により凝縮液化した後、回収装置40に回収し、さらに再生装置により再生して、ドープ調製用溶媒として再利用する。
【0035】
ピンテンタ13では、多数のピンを湿潤フィルム38の両側端部に差し込み固定した後、この湿潤フィルム38を搬送する間に乾燥を促進させてフィルム20とする。そして、まだ溶媒を含んでいる状態のフィルム20をクリップテンタ14に送り込む。このとき、クリップテンタ14に送られる直前でのフィルム20の残留溶媒量は、50〜150重量%であることが好ましい。なお、本発明では、フィルム中に残留する溶媒量を乾量基準で示したものを残留溶媒量とする。また、その測定方法は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0036】
クリップテンタ14では、チェーンの動きにより無端で走行する多数のクリップによりフィルム20の両側端部を挟持した後、このフィルム20を搬送する間に、乾燥を促進させる。このとき、対面するクリップの幅を拡げてフィルム20の幅方向に張力を付与することでフィルム20を延伸する。このように、フィルム20の幅方向への延伸処理により、フィルム20中の分子が配向し、所望のレターデーション値をフィルム20に付与することができる。
【0037】
クリップテンタ14から送り出されたフィルム20は、耳切装置43によりの両側端部が切断される。両側端部が切断されたフィルム20は、乾燥室15と冷却室16とを経由し、巻取室17内の巻取ローラ51で巻き取られる。なお、耳切装置43によって切断された両側端部は、クラッシャ44により粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
【0038】
図2において、湿潤フィルム38が剥ぎ取られた後の流延ドラム32の表面には化合物が付着している。この化合物は、脂肪酸エステルを主成分とし、流延膜33が流延ドラム32に付着することによって流延膜33から析出したものである。この脂肪酸エステルがフィルム20に転写されると、光学特性のムラの原因となるため、流延ドラム32の表面から除去する必要がある。
【0039】
減圧チャンバ36と剥取ローラ34との間の流延ドラム32の表面近傍に配置されたノズル65は、所定の供給距離L1や供給時間に基づいて、湿潤フィルム45が剥ぎ取られた直後の流延ドラム32の表面に酸素ラジカルを供給する。この酸素ラジカルは脂肪酸エステルを主成分とする化合物と反応する。酸素ラジカルとの反応により、化合物はCO、CO、H0や低分子化合物などに分解される。酸素ラジカルによって発生した物質は、流延室12内の凝縮器39により回収される。また、低分子化合物は、流延ドラム32の表面上に流延されるドープ21に溶解し、新たな流延膜33となる。
【0040】
このようなノズル65及びプラズマ発生装置66を用いることにより、流延ドラム32上の脂肪酸エステルを分解し、除去することが容易になり、光学特性に優れたフィルムを製造することが可能になる。また、この酸素ラジカルを供給するノズル65を、減圧チャンバ36と剥取ローラ34との間の流延ドラム32の表面近傍に配置することにより、フィルム製造ライン10を停止させることなく、流延ドラム32の表面を洗浄することが可能になり、結果的に、フィルムの生産効率が向上する。更に、流延ドラム32に供給する酸素ラジカルが気体であるため、洗浄時の流延ドラム32の表面の損傷を回避することができる。なお、酸素ラジカルを生成する酸素分子は、流延室内に浮遊しているもの、或いは、流延室外部から供給されるものいずれであってもよい。
【0041】
酸素ラジカルの供給による脂肪酸エステルの分解の効果は、流延ドラム32の表面とノズル65の供給口65aとの供給距離L1、供給時間や流延ドラム32の表面温度に依存する。本発明において、供給距離L1が2mm未満の場合には、ノズル65を流延ドラム32に近づけることにより、流延ドラム32が損傷する恐れがある。更に、高温(250℃〜350℃)のノズル65を流延ドラム32に接近させることにより、流延ドラム32の温度が上昇してしまい、流延膜33の剥ぎ取り性が低下する恐れがある。一方、供給距離L1が15mmより大きい場合には、酸素ラジカルが流延ドラム32の表面に十分供給されないため、酸素ラジカルによる脂肪酸エステルの分解の効果が十分に発揮されない。すなわち、供給口65aと流延ドラム32の表面との供給距離L1は、好ましくは2mm以上15mm以下であり、より好ましくは2mm以上5mm以下である。
【0042】
また、供給時間が0.025secの場合は、流延ドラム32の脂肪酸エステルの分解効果が一部に見られる。一方、流延ドラム32の表面上のすべての脂肪酸エステルを分解するのに供給時間は0.05secあれば十分である。つまり、本発明における流延ドラム32の表面に酸素ラジカルを供給する供給時間は、好ましくは0.025sec以上0.05sec以下であり、より好ましくは0.375sec以上0.05sec以下である。
【0043】
流延ドラム32の表面温度−10℃の場合は、流延ドラム32の脂肪酸エステルの分解効果が一部に見られる。一方、この表面温度が高温になるにつれ脂肪酸エステルの分解効果は向上する。しかし、高温下(75℃以上)では、流延膜33の自己支持性が低下するため、湿潤フィルム38としての剥ぎ取り性が低下する。すなわち、本発明における流延ドラム32の温度は、好ましくは−10℃以上75℃以下であり、より好ましくは25℃以上55℃以下である。
【0044】
上記実施形態では、流延ドラム32の表面に付着する脂肪酸エステルが、流延膜33から析出したものと記載したが、これに限定されるものではない。例えば、流延室12内に揮発する気体などと流延膜33とが反応して生成される化合物であってもよい。
【0045】
上記実施形態では、流延ドラム32の表面に付着する化合物が脂肪酸エステルを主成分とするものであると記載したが、これに限らず、脂肪酸や脂肪酸金属塩などのような酸素ラジカルにより分解される化合物であれば、脂肪酸などの化合物と同様の効果を得ることが可能である。このような化合物を酸素ラジカルと反応させ、低分子化合物に分解することにより、化合物の除去を容易にし、ひいては、流延ドラム32の表面を容易に洗浄することができる。
【0046】
上記実施形態では、低分子化合物を新たな流延膜33と一体にすると記載したが、これに限らず、不織布などを用いて低分子化合物を拭き取ることも可能である。このような拭き取り装置を、ノズル65と減圧チャンバ36の間に設けることも可能である。
【0047】
本発明は、流延ドラム32の替わりに、回転ローラに掛け渡されて移動する流延バンドを用いる溶液製膜方法にも適用可能である。
【0048】
上記実施形態では、フィルム製造ライン10において、流延ドラム32の表面の脂肪酸エステルを除去する、いわゆる、オンラインで脂肪酸エステルを除去すると記載したが、フィルム製造ライン10から取り出した流延ドラム32の表面に同様の除去処理を施す、いわゆるオフラインで脂肪酸エステルを除去してもよい。
【0049】
上記実施形態では、流延室12の外部に設置されたプラズマ発生装置66にある酸素分子を用いて、酸素ラジカルを生成すると記載したが、これに限らず、流延室12内に浮遊する酸素分子を用いて酸素ラジカルを生成し、これを流延ドラム32表面に供給することにより、同等の効果を得ることができる。
【0050】
[溶液製膜方法]
次に、本発明の第2の実施形態について説明するが、詳細の説明は第1の実施形態と異なる部分に限って説明する。図3に、本実施形態で用いるフィルム製造ライン70の概略図を示す。フィルム製造ライン70は、ストックタンク11と流延室12とピンテンタ13とクリップテンタ14と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
【0051】
ストックタンク11には、モータ11aで回転する攪拌翼11bとジャケット11cとが備えられており、その内部にはフィルム20の原料となるドープ21が貯留されている。また、ストックタンク11の下流には、ポンプ25と濾過装置26とが備えられている。
【0052】
流延室12には、ドープ21の流延口となる流延ダイ30と、流延ドラム32と、流延ドラム32から流延膜33を剥ぎ取る剥取ローラ34と、流延室12の内部温度を調整する温調設備35とが備えられている。また、減圧チャンバ36は、流延ダイ30と剥取ローラ34との間の流延ドラム32の表面近傍に配される。更に、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器39と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置40とが備えられている。
【0053】
円筒形状に形成される流延ドラム32は、駆動装置により円筒の軸を中心に回転する。流延ドラム32はステンレスから形成され、その周面はクロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、スジ及びムラのない流延膜33を形成するために、流延ドラム32の周面には鏡面加工が施されている。また、流延ドラム32の表面温度を所望の温度に保つために、流延ドラム32に伝熱媒体循環装置37が取り付けられている。
【0054】
流延工程では、この流延ダイ30から流延ドラム32にかけて流延ビードを形成し、流延ドラム32の表面上に流延膜33を形成する。減圧チャンバ36は、流延ダイ30から流延するドープ21の背面(後に、流延ドラム32の表面に接する面)側を所望の圧力に減圧する。流延膜33が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ34は、流延ドラム32上の流延膜33を湿潤フィルム38として剥ぎ取る。
【0055】
流延室12の下流には、湿潤フィルム38を乾燥させてフィルム20とするピンテンタ13と、このフィルム20を乾燥させながら延伸するクリップテンタ14とが設けられている。クリップテンタ14の下流には耳切装置43が設けられている。この耳切装置43には、クラッシャ44が備えられている。乾燥室15には、多数のローラ47と吸着回収装置48とが備えられている。さらに、乾燥室15に併設された冷却室16の下流には、強制除電装置49が設けられている。また、本実施形態では、強制除電装置49下流側に、ナーリング付与ローラ50が設けられている。巻取室17の内部には、巻取ローラ51とプレスローラ52とが備えられている。
【0056】
図4に示すように、減圧チャンバ36と剥取ローラ34との間の流延ドラム32の表面近傍に配置される紫外線ランプ75は、いわゆる低圧水銀ランプであり、185nm及び254nmの2つの波長に強い線スペクトルを有する。また、この紫外線ランプ75に接続するコントローラは、紫外線ランプ75の照射をON/OFFを制御する。このコントローラにより紫外線ランプ75がONされると、紫外線ランプ75から、所定の方向に紫外線が照射される。また、コントローラにより紫外線ランプ75がOFFされると紫外線ランプ75の紫外線放射が停止する。
【0057】
また、このコントローラはタイマーを内蔵している。このタイマーによって定められた照射時間に基づいて、コントローラは紫外線ランプ75をON/OFFする。更に、この紫外線ランプ75に接続するシフト部により、紫外線ランプ75は移動自在となっている。このシフト部の操作により、紫外線ランプ75と流延ドラム32の表面との照射距離L2を所望の値に設定することができる。
【0058】
次に、図3を用いて、フィルム製造ライン70によりフィルム20を製造する方法の一例を説明する。ストックタンク11では、ジャケット11cの内部に伝熱媒体を流すことによりドープ21の温度を25〜35℃に調整するとともに、攪拌翼11bの回転により常に均一化している。適宜適量のドープ21を、ポンプ25によりストックタンク11から濾過装置26に送り込み濾過することにより、ドープ21中の不純物を取り除く。そして、このドープ21を流延ダイ30から流延ビードを形成させながら、所定の表面温度になるように冷却した流延ドラム32上に流延する。流延時のドープ21の温度は、30〜35℃であることが好ましい。
【0059】
流延ドラム32は、駆動装置により所定の回転数で回転している。また、流延ドラム32の表面温度は所定の範囲内を満たすように調整されている。その表面温度は、−10〜10℃の範囲内で略一定とすることが好ましい。このように冷却された流延ドラム32を用いると、流延させたドープ21から形成される流延膜33を冷却固化(ゲル化)させて自己支持性を持たせることができる。なお、表面温度の管理は、伝熱媒体循環装置37により行われ、流延ドラム32の表面温度を所定の値に保持する。流延膜33の冷却が進行すると、結晶の基となる架橋点が形成されて流延膜33のゲル化が促進される。
【0060】
ゲル化の進行により、流延膜33が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ34により流延ドラム32から剥ぎ取って湿潤フィルム38を形成する。そして、この湿潤フィルム38をピンテンタ13に送り込む。
【0061】
流延室12の内部温度は、温調設備35により所定の範囲内で略一定となるように調整される。流延室12の内部温度は、10〜30℃であることが好ましい。また、流延室12の内部には、流延されるドープ21や流延膜33中の溶媒が揮発後に浮遊している。そこで、本実施形態では、この浮遊溶媒を凝縮器39により凝縮液化した後、回収装置40に回収し、さらに再生装置により再生して、ドープ調製用溶媒として再利用する。
【0062】
ピンテンタ13では、多数のピンを湿潤フィルム38の両側端部に差し込み固定した後、この湿潤フィルム38を搬送する間に乾燥を促進させてフィルム20とする。そして、まだ溶媒を含んでいる状態のフィルム20をクリップテンタ14に送り込む。このとき、クリップテンタ14に送られる直前でのフィルム20の残留溶媒量は、50〜150重量%であることが好ましい。なお、本発明では、フィルム中に残留する溶媒量を乾量基準で示したものを残留溶媒量とする。また、その測定方法は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0063】
クリップテンタ14では、チェーンの動きにより無端で走行する多数のクリップによりフィルム20の両側端部を挟持した後、このフィルム20を搬送する間に、乾燥を促進させる。このとき、対面するクリップの幅を拡げてフィルム20の幅方向に張力を付与することでフィルム20を延伸する。このように、フィルム20の幅方向への延伸処理により、フィルム20中の分子が配向し、所望のレターデーション値をフィルム20に付与することができる。
【0064】
クリップテンタ14から送り出されたフィルム20は、耳切装置43によりの両側端部が切断される。両側端部が切断されたフィルム20は、乾燥室15と冷却室16とを経由し、巻取室17内の巻取ローラ51で巻き取られる。なお、耳切装置43によって切断された両側端部は、クラッシャ44により粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
【0065】
図4において、湿潤フィルム38が剥ぎ取られた後の流延ドラム32の表面には化合物が付着している。この化合物は、脂肪酸エステルを主成分とし、流延膜33が流延ドラム32に付着することによって流延膜33から析出したものである。この脂肪酸エステルがフィルム20に転写されると、光学特性のムラの原因となるため、流延ドラム32の表面から除去する必要がある。
【0066】
減圧チャンバ36と剥取ローラ34との間の流延ドラム32の表面近傍に配置された紫外線ランプ75は、シフト部及びコントローラの制御の下、所定の照射距離L2及び照射時間に基づいて、湿潤フィルム38が剥ぎ取られた直後の流延ドラム32の表面に紫外線を照射する。
【0067】
紫外線が脂肪酸エステルに照射されると、紫外線が有するエネルギーよりも低い結合エネルギーの結合は分解される。本実施形態で用いられる低圧水銀ランプである紫外線ランプ75は、185nmと254nmの線スペクトルが強いのが特徴であり、それぞれの波長の紫外線が有するエネルギーは、波長が185nmの場合で155(kcal/mol)、波長が254nmの場合で113(kcal/mol)である。一方、前述した化合物を構成する主要な結合であるC−C、C−H、C=C、O−HやC−Oの単結合エネルギーは、それぞれ84.3(kcal/mol)、97.6(kcal/mol)、140.5(kcal/mol)、110.6(kcal/mol)74.6(kcal/mol)である。こうして、流延ドラム32の表面に付着した化合物は、紫外線照射により分解される。
【0068】
また、波長が185nmの紫外線は、流延室12内の酸素分子に吸収されオゾン分子を生成する。一方、波長が254nmの紫外線は、オゾン分子に吸収され、励起状態の酸素原子O(D)が生成される。更に、熱分解により、オゾン分子から基底状態の酸素原子O(P)が生成される。これら強力な酸化力を有する酸素原子O(D)及び酸素原子O(P)や、紫外線により、流延ドラム32の表面に付着する脂肪酸エステルは分解され、CO、COやH0や低分子化合物を生成する。分解反応により生成したCO、COやH0は、流延室12内の凝縮器39により回収される。また、低分子化合物はドープ21に溶解し、流延ドラム32の表面上にて新たな流延膜33となる。
【0069】
このように、紫外線ランプ75を用いた流延ドラム32の表面への紫外線照射により、流延ドラム32に付着した脂肪酸エステルを容易に分解し、除去することができる。更に、波長185nm及び254nmに強い線スペクトルを有する紫外線ランプ75を用いるため、強力な酸化力を有する酸素原子O(D)と、酸素原子O(P)を生成することができる。このような流延ドラム32への紫外線の照射、或いは、酸素原子O(D)と酸素原子O(P)の供給により、流延ドラム32の表面の損傷を回避しつつ、脂肪酸エステルを分解し、容易に除去することができる。また、この紫外線照射を行う紫外線ランプ75を、減圧チャンバ36と剥取ローラ34との間に配置することにより、フィルム20の製膜過程において流延ドラム32の表面を洗浄することが可能となるため、光学特性に優れるフィルム20の生産効率が向上する。
【0070】
紫外線の照射による化合物の除去効果は、流延ドラム32の表面と紫外線ランプ75との照射距離L2、照射時間や流延ドラム32の表面温度に依存する。本発明において、紫外線ランプ75と流延ドラム32の表面との照射距離L2を、25mm未満にすると、紫外線ランプ75の照射により流延ドラム32の表面温度が上昇し、流延膜33の剥ぎ取り性を維持できない。一方、照射距離L2が50mmを超えると、脂肪酸エステルの分解の効果が十分に発揮されない。つまり、本発明における紫外線ランプ75と流延ドラム32の表面の照射距離L2は、好ましくは25mm以上50mm以下であり、より好ましくは25mm以上30mm以下ある。
【0071】
また、流延ドラム32の表面に紫外線を照射する照射時間が30minの場合では、流延ドラム32の表面に付着する脂肪酸エステルの除去効果が発揮されない。照射時間が60minの場合では、一部に除去効果がみられる。一方、照射時間が120minの場合では流延ドラム32表面の全面に除去効果が見られ、照射時間を180minで、除去効果は十分に発揮される。つまり、本発明における紫外線の照射時間は、好ましくは60min以上180min以下であり、より好ましくは120min以上180min以下である。
【0072】
更に、流延ドラム32の表面温度は、好ましくは−10℃以上30℃であり、より好ましくは5℃以上−5℃以下である。流延ドラム32の表面温度を30℃以上にすると、流延膜33の剥ぎ取り性が低下するためである。
【0073】
波長185nmの紫外線照射によりオゾン分子を生成可能な酸素分子は、流延工程が行われる流延室内にあるもの、或いは、流延室外部から供給されるものいずれであってもよい。
【0074】
上記実施形態では、流延ドラム32の表面に付着する化合物が脂肪酸エステルを主成分とするものであると記載したが、これに限らず、脂肪酸や脂肪酸金属塩の他、紫外線のエネルギーよりも低い結合エネルギーを有する化合物や、酸素原子O(D)や酸素原子O(P)よって分解される化合物の除去にも本発明を適用することも可能である。このような化合物を酸素ラジカルと反応させ、低分子化合物に分解することにより、化合物の除去を容易にし、ひいては、流延ドラム32の表面を洗浄することができる。
【0075】
上記実施形態では、流延ドラム32の表面上に付着する化合物を除去するために波長185nmや254nmの紫外線を照射するとしたが、これに限らず、脂肪酸エステルをはじめとする化合物の結合の切断が可能なものであれば、他の波長(例えば、波長172nm)の紫外線を照射しても同等の効果を得ることができる。また、低圧水銀ランプである紫外線ランプ75を用いると記載したが、これに限らず、波長172nmの紫外線照射を可能にするエキシマランプ、或いは、高圧水銀ランプやメタルハライドランプなどを用いてもよい。
【0076】
上記実施形態では、フィルム製造ライン70において、流延ドラム32の表面の化合物を除去する、いわゆる、オンラインで化合物を除去すると記載したが、これに限定されない。フィルム製造ライン70から取り出した流延ドラム32の表面に同様の除去処理を施す、いわゆるオフラインで化合物を除去してもよい。
【0077】
以下、本発明においてドープ21を調製する際に使用する原料について説明する。本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0078】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0079】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0080】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0081】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0082】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿,パルプ綿のどちらから得られたものでもよいが、リンター綿から得られたものが好ましい。
【0083】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0084】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
【0085】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25質量%が好ましく、より好ましくは、5〜20質量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0086】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0087】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0088】
本発明の溶液製膜方法では、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチマニホールド型の流延ダイを用いてもよい。ただし、共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5〜30%であることが好ましい。また、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0089】
流延ダイ、減圧室、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【実施例1】
【0090】
ステンレスから形成される板状のテストピースを用意した。Hcrメッキ及び鏡面加工を施したテストピースの片面上に脂肪酸エステルを塗布した。その後、プラズマ発生装置66を用いて、テストピース上の脂肪酸エステルの除去テストを行った。ノズル65及びプラズマ発生装置66には、松下電工(株)製Aiplasma(登録商標)を用いた。ノズル65とテストピースの表面との供給距離L1は2mmとした。テストピースの表面温度は−10℃とした。上記条件で、プラズマ発生装置66による酸素ラジカルの供給時間を、0.0125sec、0.025sec、0.0375sec、0.05secとし、脂肪酸エステルが付着するテストピースの表面に酸素ラジカルの供給を行った。供給時間が0.0125sec以下の場合ではテストピースの表面に付着した脂肪酸エステルを除去できなかった。供給時間が0.025secの場合では、一部の脂肪酸エステルが除去されたことが確認した。供給時間が0.375secの場合では、全面の脂肪酸エステルが除去されたことを確認した。供給時間が0.05secの場合では、脂肪酸エステルが十分に除去されたことを確認した。酸素ラジカル供給後、テストピースの表面を光学顕微鏡で観察したが、酸素ラジカルの供給による損傷はみられなかった。
【実施例2】
【0091】
テストピース、ノズル65及びプラズマ発生装置66は、実施例1と同様のものを用いた。実施例1において、供給時間を0.05secに固定し、テストピースとノズル65との供給距離L1を5mm、7mm、15mmとし、それぞれの場合について洗浄を行った。また、その他の条件は実施例1と同様のものとした。供給距離L1が15mmの場合では、一部の脂肪酸エステルが除去されたことが確認した。供給距離L1が5mm及び7mmの場合では、全面の脂肪酸エステルが除去されたことを確認した。酸素ラジカル供給後、テストピースの表面を光学顕微鏡で観察したが、酸素ラジカルの供給による損傷はみられなかった。
【実施例3】
【0092】
テストピース、ノズル65及びプラズマ発生装置66は、実施例1と同様のものを用いた。実施例1において、供給時間を0.025secに固定し、テストピースの表面温度を−10℃、25℃、55℃、75℃とし、それぞれの場合について洗浄を行った。また、その他の条件は実施例1と同様のものとした。表面温度が−10℃の場合では、一部の脂肪酸エステルが除去されたことが確認した。表面温度が25℃の場合では、全面の脂肪酸エステルが除去されたことを確認した。表面温度が55℃及び75℃の場合では、脂肪酸エステルが十分に除去されたことを確認した。酸素ラジカル供給後、テストピースの表面を光学顕微鏡で観察したが、酸素ラジカルの供給による損傷はみられなかった。
【実施例4】
【0093】
テストピースは、実施例1と同様のものを用いた。紫外線ランプ75を用いて、テストピース上の脂肪酸エステルの除去テストを行った。紫外線ランプ75には、(株)ジーエスユアサライティング製 SLC−500ATK(低圧水銀)を用いた。紫外線ランプ75とテストピースの表面との照射距離L2は50mmとした。テストピースの表面温度は−10℃とした。上記条件で、紫外線ランプ75による紫外線の照射時間を30min、60min、120min、180minとした。照射時間が30minの場合では、テストピースの表面の脂肪酸エステルを除去できなかった。照射時間が60minの場合では、一部の脂肪酸エステルが除去されたことが確認した。照射時間が120minの場合では、全面の脂肪酸エステルが除去されたことを確認した。照射時間が180minの場合では、脂肪酸エステルが十分に除去されたことを確認した。紫外線照射後、テストピースの表面を光学顕微鏡で観察したが、紫外線照射による損傷はみられなかった。
【実施例5】
【0094】
テストピース及び紫外線ランプ75は、実施例4と同様のものを用いた。実施例4において、照射時間を120minとした。紫外線ランプ75とテストピースの表面との照射距離L2を25mm、30mm、40mm、50mmとし、紫外線ランプ75による紫外線照射をテストピースの表面に行ったところ、照射距離L2が30mm以上の場合では、脂肪酸エステルが十分に除去されたことを確認した。照射距離L2が25mmの場合では、脂肪酸エステルが十分に除去されたことを確認した。紫外線照射後、テストピースの表面を光学顕微鏡で観察したが、紫外線照射による損傷はみられなかった。
【実施例6】
【0095】
テストピース及び紫外線ランプ75は、実施例4と同様のものを用いた。実施例4において、照射時間を120minとした。テストピースの表面温度を−10℃、−5℃、5℃、30℃とし、紫外線ランプ75による紫外線照射をテストピースの表面に行ったところ、表面温度が30℃未満の場合では、全面の化合物が除去されたことを確認した。表面温度が30℃の場合では、化合物が十分に除去されたことを確認した。紫外線照射後、テストピースの表面を光学顕微鏡で観察したが、紫外線照射の供給による損傷はみられなかった。
【0096】
[比較例1]
フィルム製造ライン70において、表面にクロムメッキが施され、表面が鏡面加工され、直径1000mmの円筒状の流延ドラム32の表面上に、ドープ21を乾燥厚み80μmで流延し、流延膜33を形成した。自己支持性を有する流延膜33を、剥取ローラ34により剥ぎ取り、湿潤フィルム38を得た。流延ドラム32の表面に化合物が付着しているか否かは、目視により確認した。また、付着物が、脂脂肪酸エステルを主成分とする化合物であることを、IR(赤外分光光度計)、GCMS(ガスクロマトグラフ質量分析計)及びNMR(核磁気共鳴分光計)を用いて確認した。湿潤フィルム38の剥ぎ取り後、バーコータを用いて厚さ略100mmの光触媒(TOTO社製)を流延ドラム32の表面上に形成した。紫外線ランプ75と流延ドラム32の表面との照射距離L2は50mmとした。流延ドラム32の表面温度は−10℃とした。上記条件で、紫外線ランプ75による紫外線の照射時間を60minとした。上記条件で、流延ドラム32の表面に紫外線照射の洗浄を行ったところ、脂肪酸エステルが十分に除去されたことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の第1の実施形態であるフィルム製造ラインの概要を示す説明図である。
【図2】図1に示す流延ドラム及びこの近傍に配置される酸素ラジカルを供給するノズル等の概要を示す側面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態であるフィルム製造ラインの概要を示す説明図である。
【図4】図3に示す流延ドラム及びこの近傍に配置される紫外線ランプ等の概要を示す側面図である。
【符号の説明】
【0098】
10、70 フィルム製造ライン
20 フィルム
21 ドープ
30 流延ダイ
32 流延ドラム
33 流延膜
34 剥取ローラ
36 減圧チャンバ
38 湿潤フィルム
65 ノズル
66 プラズマ発生装置
75 紫外線ランプ
L1 供給距離
L2 照射距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上へ流延し、
前記ドープが、前記支持体上で流延膜を形成し、
前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取る溶液製膜方法において、
前記流延膜の剥ぎ取り後に、
分解手段を用いて前記支持体の表面に付着する化合物を分解することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記分解手段が、前記支持体の表面への紫外線照射であることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記紫外線が波長185nmの紫外線を含むことを特徴とする請求項2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記紫外線が波長254nmの紫外線を含むことを特徴とする請求項2または3記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記分解手段が、前記支持体表面へ酸素ラジカルを供給することを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項6】
前記分解手段であるプラズマ発生装置を用いて酸素ラジカルを発生させ、
この酸素ラジカルを前記支持体の表面に供給することを特徴とする請求項5記載の溶液製膜方法。
【請求項7】
前記化合物が、脂肪酸、脂肪酸エステル、及び脂肪酸金属塩のいずれかを含むことを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項8】
前記支持体が、キャスティングドラムであることを特徴とする請求項1ないし7いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項9】
前記ポリマーが、セルローストリアセテート、セルロースアセテート、プロピオネート又はセルロースアセテートブチレートのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし8いずれか1項記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−237661(P2007−237661A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65727(P2006−65727)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】