説明

溶融ガラス塊成形用金型およびその製造方法

【課題】耐熱性、耐高温摩耗性、潤滑性、離型性等に優れた皮膜を被覆形成した溶融ガラス塊を成形するための成形用金型
【解決手段】溶融ガラス塊と接触する成形用金型内表面に、直接またはアンダーコートを介して、粒径5〜60μmの、金属硼化物と残部がNiおよびWを必須成分とするNi基耐熱合金とからなる金属硼化物サーメット溶射材料を、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、爆発溶射法のうちから選ばれるいずれかの溶射法によって溶射し、膜厚50〜1000μmの金属硼化物サーメット溶射皮膜を被覆形成する溶融ガラス塊成形用金型の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラス塊成形用金型およびその製造方法に関し、特に、溶融ガラス塊に接触する成形用金型の表面に形成する被覆層の構成に特徴を有する新たな提案である。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラス壜などは、次のような工程を経て製造されている。例えば、ソーダ灰や石灰石、ガラス屑などの主原料と、芒硝(NaSO)や各種着色剤、消色剤などの副原料とからなる原料を1500〜1600℃程度の温度に加熱して溶解し、その後、気泡などを除去した上で、壜の重量や形状などに応じた1100℃〜1200℃程度の温度に調整し、フィーダーを介して溶融ガラス塊(軟化状態にある高温の塊状ガラス)として最終的に製壜機、即ち成形用金型に供給している。
【0003】
図1は、一般的なガラス壜製造工程の概要を示したものである。ここで、図示の1は、溶融ガラス、2はガラス溶解炉、3は作業室、4はフィーダ一、5はオリフィス、7は溶融ガラス塊を示している。上記溶解炉2内の溶融ガラス1は、作業室3とフィーダー4において処理された後、切断機6によって適当な大きさのガラス塊7に切断される。その後、ファンネル8、スクープ9、トラフ10、デフレクター11と呼ばれる一連の雨樋形状の搬送部材を経て製壜のための製壜用金型12に送り込まれ、所要のガラス壜が成形される。
【0004】
ところで、前記溶融ガラス塊と接する成形用金型等の鋳鉄製基材の表面としては、次のような性質が求められる。
(1)溶融ガラスとの摩擦係数が小さく、滑り性が良好であること。
(2)耐高温摩耗性に優れ、初期の性能を長期間維持できること。
(3)汚れが付着しにくく、また溶融ガラスを汚染しないこと。
(4)保守点検が容易で再生が可能であること。
(5)経済的であること。
【0005】
特に、溶融ガラス塊の成形用金型については、摩擦抵抗が小さく、ガラス塊の該金型内への挿入が円滑にでき、かつ成形後のガラス壜の離型性に優れていることが重要である。
【0006】
このような要求に対し、従来、溶融ガラス塊と接する成形用金型の内表面や搬送部材には、黒鉛粉末(グラファイト粉末)と樹脂や乾性油からなる潤滑剤を塗布する方法で対処している。この従来方法は、操作が容易で、溶融ガラス塊の滑りも良好で、しかも、ガラスの品質にも悪影響を与えないなどの利点がある一方で、黒鉛粉末の消耗速度が大きく、頻繁に塗布する必要があるという欠点もある。さらに、この黒鉛粉末を含んだ潤滑剤というのは、飛散しやすい性質があることから、作業環境の悪化を招くのみならず、作業者に付着して不快感を与えるという欠点もあった。
【0007】
この対策として、溶融ガラス塊と接する成形用金型(部材)をはじめ、搬送用部材、プランジャーなどの表面に、各種の表面処理膜を施工する提案がなされ、無処理の基材に比較すると、かなり改善されてきた。例えば、
(1)特許文献1〜5には、成形用プランジャー表面やガラス塊搬送部材の表面に、自溶合金や炭化物(Cr)、酸化物セラミック粒子を用いたサーメット溶射皮膜を被覆する方法、特許文献6〜7には、溶融ガラス塊の供給用治具の表面に、窒化物や炭化物、酸化膜などを被覆形成する方法などが開示されている。
(2)また、特許文献8には、CVD法あるいはPVD法によるTiNやTiCN、TiB、SiCなどの薄膜を被覆する技術が開示されている。
(3)特許文献9には、板ガラスの成形用ロールに耐熱、耐食性合金の皮膜を被覆する方法が開示されている。
【0008】
一方、発明者らも、溶融ガラス塊の樋状搬送部材の表面に炭化物サーメットの金属成分として、Mo、Ta、Wなどの炭化物生成自由エネルギーの小さい金属を添加した皮膜を提案(特許文献10)し、さらに、潤滑性に優れた黒鉛粒子の表面に、NiやW、Ti、Alなどの薄膜を被覆した粒子を用いた溶射皮膜被覆部材の提案(特許文献11)をした。
【0009】
また、溶融ガラス塊の成形用金型についても、その内表面に各種の表面処理皮膜を被覆する提案がある。例えば、特許文献12、13には、CuやAl、Crを主成分とし残部がFeからなる金属質の皮膜が開示され、特許文献14、15には、金型表面にBNとコロイダルシリカを分散させた水溶液を塗布後、乾燥して皮膜化する技術が開示され、さらに、特許文献16〜18では、炭化物や炭化物サーメット皮膜を被覆する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭54−146818号公報
【特許文献2】特開平2−111634号公報
【特許文献3】特開平4−139032号公報
【特許文献4】特開平3−290326号公報
【特許文献5】特開平11−171562号公報
【特許文献6】特開平2−102145号公報
【特許文献7】特開昭63−297223号公報
【特許文献8】特開平1−239029号公報
【特許文献9】特開平3−137032号公報
【特許文献10】特開2002−20126号公報
【特許文献11】特開2002−20851号公報
【特許文献12】特開平8−109460号公報
【特許文献13】特開平8−120435号公報
【特許文献14】特開2003−119049号公報
【特許文献15】特開2003−119047号公報
【特許文献16】特開昭62−158122号公報
【特許文献17】特開平2−146133号公報
【特許文献18】特開2002−178034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記した従来技術のうち、例えば、金型表面に黒鉛粉末を含有する潤滑剤を塗布したりする、各種の表面処理皮膜の場合、次のような問題があった。それは、黒鉛粉末を塗布した金型表面は、良好な潤滑性を有すると共に、溶融ガラスと接触しても疵がつかないという利点がある一方で、潤滑剤が揮発しやすく、作業環境を汚染しやすいということである。しかも、塗布方法および塗布時期の判断などは、すべて熟練作業者の経験に頼っているため、作業の自動化、ロボット化などの無人化が難しいという問題がある。
【0012】
また、溶射法やCVD、PVDなどによる炭化物サーメット、酸化物、窒化物、耐熱合金などの従来の表面処理技術は、無処理の場合に比較すると、それなりの効果は認められるものの不十分であり、しばしば黒鉛粉末塗布技術との併用が必要になるという問題がある。
【0013】
ところで、従来、溶融ガラス塊の搬送用部材と、本発明対象である「ガラス塊の成形用金型」とは、これらに求められる条件や特性が明らかに異なるため、本来はそれぞれの要求特性に応じた表面処理を行う必要があるところ、実際には、これらについての十分な検討は行われておらず、未解決のままである。
【0014】
例えば、搬送用部材については、高温の溶融ガラス塊とその表面に形成されている表面処理皮膜との接触圧が小さくかつ接触時間も短いため、一般には皮膜の潤滑性能が重要な管理目標となる。
【0015】
これに対し、成形用金型の場合には、溶融ガラス塊との接触時間が長いため、耐熱性や耐高温摩耗性が求められると共に、表面処理皮膜表面の微小な粗さや僅かな疵などがガラス表面に転写され易いため、皮膜表面の研削、研磨などの加工が容易な皮膜や素材を用いることが求められる。しかも、製壜のための成形用金型の入口は、一般に狭く、ここを通過する溶融ガラス塊の潤滑性および成形後のガラス製品の離型性も重要な特性因子であるが、これらの諸特性を備えた表面処理皮膜、特に溶射皮膜は未だに開発されていないのが実情である。
【0016】
なお、近年では、作業環境およびガラス成形品に対する安全意識が向上していることから、有害物質の発生についての対策、検討も必要である。この点、従来の溶射皮膜は、クロム炭化物(Cr)やNi−Cr合金、自溶合金などの含Cr化合物やCr含有合金がよく使われているが、これらの皮膜成分は、高温環境下では酸化され、その一部が有害な6価クロムの化合物を生成する倶れがあるが、これらの課題については未解決のままである。
【0017】
本発明の目的は、従来技術が抱えている上述した問題点を解決すること、特に、耐熱性や耐高温摩耗性に優れると共に、溶融ガラス塊との離型性に優れる他、ガラス製品の品質の向上ならびに安全性に優れる製品製造のための溶融ガラス塊成形用金型およびその製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
従来技術の上述した課題を解決し、前記目的を達成するため、本発明では、溶融ガラス塊と接触する金型内表面が、直接またはアンダーコートを介して、金属硼化物とNiおよびWを必須成分とするNi基耐熱合金とからなる金属硼化物サーメットの溶射皮膜にて被覆形成されている溶融ガラス塊成形用金型を提案する。
【0019】
また、本発明は、溶融ガラス塊と接触する成形用金型内表面に、直接またはアンダーコートを介して、粒径5〜60μmの、金属硼化物とNiおよびWを必須成分とするNi基耐熱合金とからなる金属硼化物サーメット溶射材料を、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、爆発溶射法のうちから選ばれるいずれかの溶射法によって溶射し、膜厚50〜1000μmの金属硼化物サーメット溶射皮膜を被覆形成することを特徴とする溶融ガラス塊成形用金型の製造方法を提案する。
【0020】
なお、本発明において、
(1)前記サーメット溶射皮膜は、その表面の粗さRaが2μm以下、Rzが4μm以下の平滑面を有すること、
(2)前記金属硼化物サーメットは、TiB、ZrB、HfB、VB、TaB、NbB、W、CrB、NiBおよびMoBから選ばれるいずれか1種以上の金属硼化物を20〜90mass%含有し、残部が少なくともNiとWとを含むNi基耐熱合金であること、
(3)前記Ni基耐熱合金は、Wの含有量が0.5〜10mass%であるNi−W合金であること、
(4)前記Ni基耐熱合金は、Wの含有量が0.5〜10mass%、Crの含有量が20mass%未満のNi−W−Cr合金であること、
(5)前記Ni基耐熱合金は、Wの含有量が0.5〜10mass%、Crの含有量が20mass%未満で、さらにPおよびBのいずれか少なくとも一種を、それぞれ7mass%以下含有するNi−W−Cr−(P−B)合金であること、
(6)サーメットの耐熱合金成分が、Ni−W−Cr−(P−B)合金である前記金属硼化物サーメット溶射皮膜は、300〜700℃、0.5〜5時間の条件で熱処理が施されている溶射皮膜であること、
(7)前記金型内表面と金属硼化物サーメット溶射皮膜との間に形成されるアンダーコートは、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、自溶合金、MCrAlX合金(ただし、Mは、Coおよび/またはNi、Xは、希土類元素)から選ばれるいずれか1種以上の合金の溶射皮膜であって、膜厚が50〜150μmであること、
がより好ましい構成を提供する。
【発明の効果】
【0021】
前記のように構成された本発明によれば、耐熱性、耐高温摩耗性に優れる共に、溶融ガラス塊との離型性に優れる他、初期の金型寸法精度を長期間にわたって維持できる他、品質の良いガラス成形製品の製造に大きく貢献することができる。
【0022】
また、本発明方法によれば、溶射皮膜成分からの有害な6価クロム化合物の発生がなく、安全かつ衛生的な作業環境を提供することができると共に、安全にガラス製品を製造することができる。とくに、従来採用されてきた金型部材表面に対する定期的な黒鉛粉末の塗布作業を省略ないしは塗布頻度を著しく低減することができるので、前記6価クロム化合物の発生防止とともに、作業環境の改善に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】溶融ガラス塊の搬送状況ならびに成形用金型への供給工程の概要を示すガラス壜製造工程の略線図である。
【図2】無電解めっき法によってNi−W−P合金を被覆形成したNi−20mass%Cr合金粒子の断面状況を示す電子顕微鏡写真である。(A)は粒子全体の断面、(B)は被覆されたNi−W−P合金膜の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
従来技術が抱えている前述の課題を解決するため、鋭意実験研究した結果、発明者らは下記の解決手段に係る本発明を開発したので、その構成の詳細を説明する。
【0025】
(1)金属硼化物サーメット溶射皮膜、とくに金属硼化物サーメットからなる溶射粉末材料の組成とその特徴
本発明で用いる金属硼化物サーメット溶射粉末材料は、下記の金属硼化物と耐熱金属・合金にて構成されるものである。
(A)硼化物:TiB、ZrB、HfB、VB、TaB、NbB、W、CrB、NiB、MoB(なお、硼化物の分子式は、製造条件によって変化するので絶対的なものでない。ここでは市販品の表示に従ったものを記載した)
(B)Ni基耐熱合金;
(イ)Wを0.5〜10mass%含有するNi−W合金、
(ロ)Wを0.5〜10mass%含有し、かつCrを20mass%未満含有するNi−W−Cr合金、
(ハ)Wを0.5〜10mass%、Crを20mass%未満含有し、PおよびBのいずれか少なくとも一種を、それぞれ7mass%以下の割合で含むNi−W−Cr−(P−B)合金、
【0026】
金属硼化物とNi基耐熱合金との混合割合は、硼化物:20〜90mass%、Ni基耐熱合金:80〜10mass%の範囲とする。これらの好ましい混合割合は、硼化物40〜60mass%、残部Ni基耐熱合金である。本発明において、金属硼化物に着目し、上記の範囲に限定する理由は、この硼化物は硬くかつ耐高温摩耗性に優れるほか、高温状態のガラス塊との反応性が小さいため融着現象を招くおそれが少ないこと、さらには、成形後のガラス製品との剥離性(離型性)にも優れているからである。一方、上記耐熱金属・合金の成分は、これらを金属硼化物粒子と混合することによって、溶射皮膜形成時に、粒子同志の相互結合力を向上させる作用を担うとともに、金属硼化物粒子のみの積層構造のときに見られる隙間の生成を防ぎ、緻密な溶射皮膜を形成するのに有効である。
【0027】
なお、前記金属硼化物サーメットにおいて、耐熱合金が10mass%未満の含有量では、この耐熱金属・合金添加の効果が十分でなく、一方、金属硼化物の含有量が20mass%未満では、該金属硼化物が有する優れた耐熱性、高温安定性、耐高温摩耗性などの諸特性が十分に得られなくなる。なお、溶射皮膜はサーメット化することにより、基材と該皮膜との密着性が向上する。
【0028】
a.まず、前記耐熱合金のうちNi−W合金は、W:0.5〜10mass%を含有し、残部がNiの合金である。NiとWからなるNi基耐熱合金は、一般に、真空溶解炉によってNiとWとを溶製する方法で製造され、この処理において、Wの添加量を0.5〜10mass%にして得られるものである。W成分は、合金およびこれを皮膜化した際において、溶融ガラスとの剥離性に優れるほか、硬質であるため、耐高温摩耗性に優れた作用を発揮する。この点、Wの含有量が0.5mass%未満ではWの添加効果が顕われず、一方、10mass%以上添加すると、皮膜化した場合に割れ易くなる。なお、このNi−W合金は、粉砕法や溶融状態のままで小さいノズルから噴霧する方法で、粒径5〜60μm程度の球形粒子にしたものを用いる。
【0029】
b.次に、Ni―W−Cr系のNi基耐熱合金において、Crを含有させると、溶融ガラスとの剥離性に実用上問題がなく、かつ耐熱性が良好でになる。ただし、このCrを20mass%以上含有させると、耐熱性、耐酸化性は向上するものの、その一方でCrまたは3価のCrの酸化物(Cr)と溶融ガラスとの密着性が強く(離型性の劣化)なって、成形用金型としての生産性が低下する他、高温環境等の使用条件によっては有害な6価クロム化合物(主として酸化物CrOやNaCr)の生成が予想され、好ましくない。なお、市販のNi−Cr合金には、Si、P、S、Fe、Cなども含まれているが、これらの成分元素は含有量が少ないうえ、本発明の目的に影響を与えることがないため、特に規制するものではない。
【0030】
c.次に、Ni基耐熱合金の1つであるNi−W−Cr−(P−B)合金は、Cr含有量が20mass%のNi−Cr合金をマトリックスとし、これにWを0.5〜10mass%、PおよびBのいずれか少なくとも一種を、それぞれ7mass%以下の割合で含有する組成の耐熱合金である。
【0031】
PやBを含む他、NiとWならびにCrを含む上記Ni−W−Cr−(P−B)合金は、Cr含有量が20mass%のNi−Cr合金粒子(粒径5〜50μm)を、無電解めっき法によって、該合金粒子の表面にNiとWの合金を被覆して製造される。PやBは、上記めっき処理時に共析する成分である。具体的には、Niイオン、WイオンをNi−Cr合金粒子の表面に析出させるための還元剤として、次亜リン酸ナトリウム(NaHPO)を用いると、Ni、Wの析出とともに、1〜7mass%程度のPが共析し、ジメチル・アミン・ボラン化合物((CH)NHBH)または水素化棚素化合物(NaHB)を利用すると、1〜7mass%の範囲のBがNi、Wとともに析出する。なお、還元剤として、ヒドラジン(NH・NH)を使用すると、Ni−Wのみの析出となり、P、Bは含まれない。発明者らの研究によると、PもしくはBの含有量が1〜7mass%、より好ましくはP:2〜7mass%、B:2〜4mass%の範囲内であれば、本発明の目的の溶射皮膜の性能として、問題がなかったので、(NH・NH)還元剤の場合を含め、それぞれの許容含有量として、好ましくは1〜7mass%の範囲とする。
【0032】
なお、表1は、Ni−W−P系およびNi−W−B系の耐熱合金めっき膜を形成するための無電解めっき液の組成と温度条件を例示したものである。Ni−W−P合金を被覆した後、引き続いてNi−W−B合金膜を形成すると、PとBを含む溶射粉末材料となる。
【0033】
図2は、Ni−20mass%Cr合金粒子の外周面に、無電解めっき法によって、Ni−W−P合金膜を被覆した後、その断面状況を観察した電子顕微鏡写真である。Ni−W−P合金膜は、粒子の表面に緻密かつ均等に形成されている状況が観察できる。
【0034】
【表1】

【0035】
次に、上記金属硼化物粒子とNiやWを必須成分とするNi基耐熱合金の粒子は、それぞれ塩化ビニル溶液などのバインダーを用いて造粒し、粒径が5〜60μm範囲の金属硼化物サーメットからなる溶射粉末材料とする。この溶射粉末材料の粒径が5μm未満では、溶射ガンへの連続的な供給が困難な場合があり、一方、60μmより大きいと、溶射熱源との関係において、溶融、軟化現象が不十分となる場合がある。特に、硼化物の融点は2000℃以上を示すことから、過大な粒径の利用は好ましくない。
【0036】
なお、前記Ni基耐熱合金は、NiおよびNi−Cr合金粒子(以下、「マトリックス金属粒子」という)の表面に、W−PおよびBを無電解めっき法によって被覆形成して得られるが、この合金のNi−W、Ni−W−P、Ni−W−BおよびNi−W−P−Bからなる金属膜(以下、「合金めっき膜」という)は、次のような作用機構を有する。
【0037】
(イ)上記合金めっき膜が被覆されたマトリックス金属粒子は、溶射熱源中に投入されたとき、短時間内に融点に達するものの、加熱時間が非常に短いため、合金めっき膜とマトリックス金属粒子が相互に融合して、それぞれの化学成分が平均化するものではない。因みに、溶射熱源中に飛行する粒子の速度は、大気プラズマ溶射法で、1/100〜3/100秒、高速フレーム溶射法で1/500〜1/1000秒である。
【0038】
発明者らの実験的知見によると、合金めっき膜を被覆したマトリックス金属粒子によって形成された溶射皮膜では、その殆どが合金めっき膜を被覆したままの状態で堆積しており、マトリックス金属粒子が表面に露出することが少ないことを確認している。このため、本発明で使用するNi基耐熱合金とは、これの粒子表面がマトリックス金属よりも溶融ガラス塊との離型性に優れたNi−W等を主成分とする合金めっき膜によって構成され、これらの成分が具える特性を優位に利用することができるものである。
【0039】
このような特性を発揮させるための合金めっき膜の厚さは、マトリックス金属粒子の大きさにも影響されるが、例えば、マトリックス金属粒子の粒径が5〜50μmの場合では、0.5〜10μmの被覆厚にすることが望ましく、特に1〜5μmの厚さが好適である。
【0040】
それは、この合金めっき膜が0.5μmより薄いと、溶射熱源中で加熱された際に、マトリックス金属粒子の表面を十分被覆することができず、溶融ガラス塊との離型性を向上させることが困難となる。一方、その厚みが10μmより厚い場合も、被覆の効果が飽和するとともに、めっき処理費が増大して、成膜コストの増加を招く。
【0041】
(ロ)マトリックス金属粒子中に含まれているCrは、耐熱性、耐酸化性金属成分として優れているものの、酸素を含む高温環境下では、有害な6価クロム化合物を生成するおそれがある。この点、本発明のように、合金めっき膜を被覆形成したNi−Cr合金マトリックスでは、溶射熱源中はもとより、皮膜形成であっても、マトリックスス金属が露出することが少ないため、有害な6価クロム化合物の生成を抑制することができる。
【0042】
また、溶射熱源中において加熱されたとき、合金めっき膜とマトリックス金属粒子が完全に融合した場合においても、マトリックス粒子中のCr含有量は合金めっき膜の存在によって希釈されるため、6価クロム化合物の生成の危険度は安全側に移行させる効果も期待できる。このため、本発明に使用するNi―Cr合金中のCr含有量は、必ずしも20mass%未満に限定する必要がない場合もあり、実験結果からの知見によると、Ni−22mass%Cr合金でも、6価クロム化合物の発生を抑制することが可能である。
【0043】
(2)溶射皮膜の形成方法
金属硼化物サーメットの溶射粉末材料を使って溶射皮膜を形成するには、大気プラズマ溶射法や減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、爆発溶射法などを適用することが好まく、また、溶射雰囲気ガスの温度を低く抑制したワームスプレ一、コールドスプレーによっても成膜することができる。これらの溶射法による金属硼化物サーメット溶射皮膜は、金型(基材)内表面に直接形成してもよく、また、まず基材表面にアンダーコートを施工し、その上に、所謂、トップコートとして該金属硼化物サーメットの溶射皮膜を被覆て積層してもよい。
【0044】
金属硼化物サーメット溶射皮膜の厚さは、50〜1000μmの範囲がよく、特に100〜300μmの厚さにすることが好ましい。その理由は、50μm未満の厚さでは、基材表面に均等な厚みで成膜することができないからであり、一方、1000μm超の厚さの溶射皮膜に気孔が多くなって、ガラス成形面に悪影響を与えるからである。
【0045】
なお、本発明の金属硼化物サーメット溶射皮膜は、耐熱合金成分を10〜80mass%の割合で含ませているため、アンダーコートの施工は必須の条件ではないが、厚膜、例えば300μm以上の皮膜を形成する場合には、トップコートとの密着性を向上させるために、このアンダーコートを施工することが望ましい。
【0046】
アンダーコートとしては、基材との密着性と耐熱性を向上させる機能を優先して、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、自溶合金(JIS H8303)、M(NiまたはCo)−Cr−Al−X合金(ただしXは、Y、Ce、Laなどの希土類元素)などが好適である。その膜厚としては50〜150μmの範囲内の厚さがよく、特に、50〜100μmの厚さにすることが好ましい。その理由は、膜厚が50μmより薄い場合や150μm超では、ともにアンダーコートとしての機能が十分でないからである。
【0047】
(3)金属硼化物サーメット溶射皮膜の表面性状
成膜後の金属硼化物サーメット溶射皮膜の表面は、溶射プロセスや溶射材料の粒径の影響を受けるが、一般に粗い(Ra≧3〜8μm、Rz≧10〜22μm)ため、上述したような不都合がある。そのため、本発明では、その溶射皮膜表面を研削や研磨などの機械的、電気的な手段によって、Ra:2μm以下、Rz:4μm以下のより平滑化した表面に仕上げることが有効である。なお、ガラス成形用金型の場合、その表面に形成された前記溶射皮膜表面の性状は、ガラス成形面に直接、転写されるので、Ra値のみならず、Rz値についても所定値以下となるように十分な仕上げ管理を行うことが好ましい。
【0048】
上記の金属硼化物サーメット溶射皮膜の表面粗さRa≦2μmにする理由は、溶融ガラス塊との接触抵抗を小さくするとともに、平滑なガラス成形面を確保するためであり、一方、Rz≦4μmにする理由は、ガラス成形面に溶射皮膜の粗さが転写して、不良品発生の原因となる惧れがあるからである。
【0049】
なお、本発明において形成される金属硼化物サーメット溶射皮膜は、皮膜の種類がNi−W−Cr−(P−B)合金を含むものの場合、熱処理を施すことがより有効である。即ち、硼化物に対し、耐熱金属・合金を混合した溶射材料を溶射して得られる皮膜であることから、この皮膜を熱処理することは有益である。この熱処理条件としては、空気中、真空中または不活性ガス中において、300〜700℃、0.5〜5時間が好適である。その温度範囲を外れるか、時間が所定の範囲を外れると、硬質化が不十分であったり、硬度上昇が飽和して生産コストが嵩むほか、ときには結晶が粗大化して硬度が低下するため、熱処理の作用、効果が減殺される。特に、この熱処理はPやBを含む合金の場合に有効である。
【0050】
(4)基材
本発明の硼化物サーメット皮膜を形成するための成形用金型の基材としては、鋳鉄や鋳鋼、炭素鋼、工具鋼、低合金鋼などの鋼鉄製のものが好適である。その他、Alおよびその合金、Ti及びその合金、Mg合金などの非鉄金属をはじめ、セラミック焼結体や焼結炭素なども用いることができる。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
この実施例では、金属硼化物とNiおよびWを必須成分として含む耐熱合金からなる金属硼化物サーメット溶射皮膜の鋼鉄製基材への密着性を熱衝撃試験によって調べた。
【0052】
(1)供試基材:供試基材として、SUS410鋼(寸法:幅50mm×長さ50mm×厚さ3.2mm)の試験片を用いた。
(2)成膜用材料:硼化物として、MoB、Wを用い、それぞれの金属硼化物粒子に、Niを80〜99mass%、Wを0.5〜10mass%、Pを5〜7mass%、Bを2mass%に変化させた耐熱合金粒子を50mass%配合してなるサーメット粉末を準備し、大気プラズマ溶射法によって、試験片の片面に直接、150μm厚さの皮膜を形成した。
また、比較例として、金属硼化物粒子(W、MoB、TaB、CrB)のみの皮膜を、大気プラズマ溶射法によって、基材上に直接、150μmの厚さの皮膜を形成した。
(3)熱衝撃試験:上記溶射皮膜試験片を電気炉中で650℃×15分間加熱した後、これを炉外に取り出し、送風機の空気を流しながら、80℃以下の温度に冷却させる操作を1サイクルとし、合計10サイクルの試験を繰り返した。なお、1サイクルの試験毎に、溶射皮膜の表面を拡大鏡(×8)によって観察し、“ひび割れ”や局部剥離の有無を調査した。
(4)試験結果:試験結果を表2に示した。この表2に示す結果から明らかなように、硼化物のみの比較例の皮膜(No.9〜12)は、熱衝撃サイクル5〜8回の繰り返しによって、皮膜表面に割れや局部的な剥離部が発生した。これに対して、本発明に適合する金属硼化物サーメット溶射皮膜(No.1〜8)は、10サイクルの熱衝撃試験によっても、割れや剥離は認められず、良好な耐熱衝撃性を示した。この結果から、硼化物粒子にNi−W含有耐熱合金粒子を添加することによって、基材との密着性を向上させることができることが判った。
【0053】
【表2】

【0054】
(実施例2)
この実施例では、金属硼化物に添加する合金成分の種類と溶融ガラス塊の密着性との関係を明らかにすることによって、その離型性と耐熱衝撃性を定性的に求めた。
【0055】
(1)供試基材:供試基材として、FC200(寸法:幅50mm×長さ70mm×厚さ7mm)の試験片を用いた。
(2)供試皮膜:供試皮膜として、下記金属硼化物と合金成分とを重量で50:50に混合した金属硼化物サーメット材料を大気プラズマ溶射して、100μmの厚さの溶射皮膜を形成した。
a.硼化物:CrB、ZrB、MoB、TaB、W
b.合金成分:Niを20〜99mass%、Wを0.5〜15mass%、Pを2〜7mass%、Bを2〜4mass%に変化させたNi基耐熱合金
なお、比較例として、前記金属硼化物にCr、Ni−50〜75mass%Cr合金をそれぞれ質量比で50%添加したサーメット材料をはじめ、自溶合金(JIS H8303のSFNi4)、現在汎用されている黒鉛塗布膜を用い、同条件で試験した。
(3)溶融ガラスとの密着性試験:供試皮膜の表面に1200℃の溶融ガラス塊を圧着した後、室温まで放冷し、皮膜表面に固着したガラス塊を木製のハンマーによって叩き落とすことによって、ガラス塊の密着性(離型性)を定性的に調査した。
(4)熱衝撃試験:実施例1と同じ方法で評価した。
(5)試験結果:試験結果を表3に示した。この表3に示す結果から明らかなように、金属硼化物サーメット溶射皮膜であっても、添加する金属(合金)がCrもしくはCr含有量の多い合金皮膜(No.2、5、9、11)では、優れた耐熱衝撃性を保持しているものの溶融ガラスとの付着性が強く、溶融ガラス塊の成形用金型の被覆として不適当であることが判明した。また、自溶合金系の皮膜(No.14)も良好な熱衝撃性を発揮するが、溶融ガラス塊との剥離性は良好ではなかった。
【0056】
一方、黒鉛粉末の塗布膜は、溶融ガラス塊との剥離性は極めて良好であったが、試験中においても容易に周囲に飛散して、実験室の環境を甚しく汚染したので、実作業での適用は困難であることがわかった。
【0057】
これに対して、本発明に適合する皮膜(No.1、3、4、6、7、8、10)は溶融ガラス塊との離型性が良く、耐熱衝撃試験においても、皮膜の割れや剥離などは観察されず優れた性能を発揮した。
【0058】
【表3】

【0059】
(実施例3)
この実施例では、製壜用金型の表面に対して、本発明に適合する金属硼化物サーメット溶射皮膜を含む各種の溶射皮膜を被覆した後、実際の作業条件下における作業性を試験した。
【0060】
(1)供試金型:鋳鉄製の二ッ割れ状の金型内表面に、次に示す溶射皮膜を形成した。
(2)供試皮膜:本発明に係る皮膜として、MoBに対して、NiとWを必須成分とする耐熱合金を50mass%の割合で配合した金属硼化物サーメットを、大気プラズマ溶射法によって、200μmの厚さに形成した。また、比較例として、NiとWを含まない耐熱金属(合金)を50mass%の割合で添加したMoBサーメット溶射皮膜を、溶射法で200μmの厚さで施工したものと、Cr−20mass%Ni−8mass%Crサーメット材料を高速フレーム溶射法で、120μmの厚さに形成したものを準備した。なお、供試溶射皮膜の表面は、すべて機械研磨法によって表面粗さRa:2.0μm以下、Rz:4μm以下の平滑な面に仕上げた。
(3)試験項目:実際の製壜プラントにおける供試皮膜の試験項目は、溶融ガラス塊の金型内部への挿入状況の観察と試験後の皮膜表面の観察(ひび割れ、剥離の有無)である。
(4)試験結果:試験結果を表4に示した。この表4に示す結果から明らかなように、比較例の金属成分として、Crを多く含む耐熱合金からなる金属硼化物サーメット溶射皮膜(No.6〜8)は、溶融ガラス塊の金型内部への供給時に、入口付近で一時的に、とどまる現象が認められ、ガラス塊との摩擦抵抗が大きいことが判明した。また、試験後の皮膜表面に、少量ながら6価クロム化合物の生成が認められたことから、作業環境を汚染する可能性がうかがえる。なお、炭化物サーメット溶射皮膜(No.9)は、溶融ガラス塊との接触抵抗が少ないものの、この皮膜の表面にも6価クロム化合物の生成が認められた。この皮膜表面の6価クロム化合物は、Cr成分の酸化による可能性が大きい。
【0061】
以上の結果に対して、本発明に適合するNiとWを必須成分として含むとともに、Cr含有量を18mass%以下の合金成分からなる金属硼化物サーメット溶射皮膜(No.1〜5)は、溶融ガラス塊の金型内部への供給が順調に行われ、また150時間の使用後の皮膜表面には、ひび割れや剥離現象はなく、健全な状態を維持していた。
【0062】
【表4】

【0063】
(実施例4)
この実施例では、金属硼化物と、マトリックス金属およびその表面に無電解めっき膜を被覆した合金成分との混合割合を変化させたサーメット溶射皮膜の、基材に対する密着性と溶融ガラス塊との剥離性(離型性)を調査した。
【0064】
(1)供試基材:供試基材として、SUS410鋼(寸法:幅50mm×長さ70mm×厚さ3.2mm)を試験片とした。
(2)供試皮膜:金属硼化物として、MoBとZrBを用い、それぞれの金属硼化物に、無電解めっき膜(Ni−W−B合金を1μm)を被覆したマトリックス金属(NiまたはNi−Cr合金)の粉末を10〜90mass%の範囲で変化させたサーメット粉末を調製した後、これらの粉末を大気プラズマ溶射法にて、基材の片面に直接150μmの厚さに皮膜を形成した。
また、比較例の皮膜として、金属硼化物成分100mass%、金属成分100mass%の材料を大気プラズマ溶射法によって、150μmの厚さに形成したものを準備した。(3)試験方法:溶射皮膜の密着性は、実施例1に開示した熱衝撃試験方法、溶融ガラス塊との剥離性は、実施例2で採用した試験方法によって実施した。
【0065】
(4)試験結果:試験結果を表5に示した。この表5に示す結果から明らかなように、溶射皮膜の密着性は、無電解めっき膜を被覆したNiおよびNi−Cr合金のみからなる溶射皮膜(No.8、16)は良好であるとともに、金属成分を10〜90mass%含むサーメット溶射皮膜(No.2〜7、10〜15)も、この実験条件では、皮膜の剥離は全く認められず、良好な密着性を発揮した。
これに対して、金属硼化物のみからなる溶射皮膜(No.1、9)では、5〜6サイクルの試験後に、外観的にも観察されるような亀裂の発生が認められ、前記供試皮膜に比較すると、密着性とともに、熱的変化に対する耐性に乏しい様子がうかがえる。
【0066】
一方、溶融ガラス塊との剥離性試験では、無電解めっき膜を被覆したNiやNi−Cr合金のみの皮膜(No.8、16)および金属(合金)を90mass%含むサーメット皮膜(No.7、15)では、比較的良好な剥離性を示すものの、試験後のガラス塊の表面を拡大鏡にて観察すると、微量ではあるが金属酸化物片の付着が確認された。即ち、前記めっき膜を被覆したNiまたはNi−Cr合金皮膜では、高温の溶融ガラスと接触する時間が長くなると、金属が酸化してNiO、W、Crなどの酸化物を生成し、その一部がガラス塊の表面に転写される可能性のあることがうかがえる。また、金属硼化物のみの溶射皮膜(No.1、9)では、離型性に優れるとともに、金属酸化物などの生成は認められないが、拡大鏡でガラス塊との接合面を観察すると、微小ながらセラミック粒子の脱落痕らしきものが見られ、セラミック粒子の相互結合力が金属粒子に比較して小さいことがうかがえる。これに対して、金属(合金)成分を10mass%含むサーメット溶射皮膜では、粒子の相互結合力に優れるため、粒子の脱落現象が見られず、また、ガラス塊表面への金属酸化物の転写も認められなかった。
【0067】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の技術は、前述した溶融ガラス塊成形用金型の他、ガラス壜製造工程における溶融ガラス塊の搬送用部材をはじめ、大型のガラス成形品やガラス板材、自動車用ウインドガラス成形品の熱処理ロール、その他の高温用搬送用ロールの表面処理技術としても有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 溶融ガラス
2 ガラス溶解炉
3 作業室
4 フィーダー
5 オリフィス
6 ガラス切断機
7 ガラス塊
8 ファンネル
9 スクープ
10 トラフ
11 デフレクター
12 製壜用金型
13 成形された壜
14 溶射皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラス塊と接触する金型内表面が、直接またはアンダーコートを介して、金属硼化物とNiおよびWを必須成分とするNi基耐熱合金とからなる金属硼化物サーメットの溶射皮膜にて被覆形成されていることを特徴とする溶融ガラス塊成形用金型。
【請求項2】
前記金属硼化物サーメット溶射皮膜は、その表面の粗さRaが2μm以下、Rzが4μm以下の平滑面を有することを特徴とする請求項1に記載の溶融ガラス塊成形用金型。
【請求項3】
前記金属硼化物サーメットは、TiB、ZrB、HfB、VB、TaB、NbB、W、CrB、NiBおよびMoBから選ばれるいずれか1種以上の金属硼化物を20〜90mass%含有し、残部が少なくともNiとWとを含むNi基耐熱合金であることを特徴とする請求項1または2に記載の溶融ガラス塊成形用金型。
【請求項4】
前記Ni基耐熱合金は、Wの含有量が0.5〜10mass%であるNi−W合金であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1に記載の溶融ガラス塊成形用金型。
【請求項5】
前記Ni基耐熱合金は、Wの含有量が0.5〜10mass%、Crの含有量が20mass%未満のNi―W−Cr合金であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の溶融ガラス塊成形用金型。
【請求項6】
前記Ni基耐熱合金は、Wの含有量が0.5〜10mass%、Crの含有量が20mass%未満で、さらにPおよびBのいずれか少なくとも一種を、それぞれ7mass%以下含有するNi−W−Cr−(P−B)合金であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の溶融ガラス塊成形用金型。
【請求項7】
サーメットの耐熱合金成分がNi−W−Cr−(P−B)合金である前記金属硼化物サーメット溶射皮膜は、300〜700℃、0.5〜5時間の熱処理が施されている溶射皮膜であることを特徴とする請求6に記載の溶融ガラス塊成形用金型。
【請求項8】
前記金型内表面と金属硼化物サーメット溶射皮膜との間に形成されるアンダーコートは、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、自溶合金、MCrAlX合金(ただし、Mは、Coおよび/またはNi、Xは、希土類元素)から選ばれるいずれか1種以上の合金の溶射皮膜であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載の溶融ガラス塊成形用金型。
【請求項9】
溶融ガラス塊と接触する成形用金型内表面に、直接またはアンダーコートを介して、粒径5〜60μmの、金属硼化物とNiおよびWを必須成分とするNi基耐熱合金とからなる金属硼化物サーメット溶射材料を、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、爆発溶射法のうちから選ばれるいずれかの溶射法によって溶射し、膜厚50〜1000μmの金属硼化物サーメット溶射皮膜を被覆形成することを特徴とする溶融ガラス塊成形用金型の製造方法。
【請求項10】
前記金属硼化物サーメットは、金属硼化物としてTiB、ZrB、HfB、VB、TaB、NbB、W、CrB、NiBおよびMoBから選ばれるいずれか1種以上の金属硼化物を20〜90mass%含有し、残部がWの含有量が0.5〜10mass%であるNi−W合金、Wの含有量が0.5〜10mass%、Crの含有量が20mass%未満のNi−W−Cr合金、およびWの含有量が0.5〜10mass%、Crの含有量が20mass%未満で、PおよびBのいずれか少なくとも一種を、それぞれ7mass%以下含むNi−W−Cr−(P−B)合金のうちから選ばれるいずれか1種以上のNi基耐熱合金からなることを特徴とする請求項9に記載の溶融ガラス塊成形用金型の製造方法。
【請求項11】
前記金属硼化物サーメット溶射皮膜は、Ni基耐熱合金がNi−W−Cr−(P−B)合金の場合において、溶射皮膜形成後、空気中、真空中または不活性ガス中で300〜700℃、0.5〜5時間の熱処理を施すことを特徴とする請求項9に記載の溶融ガラス塊成形用金型の製造方法。
【請求項12】
前記金属硼化物サーメット溶射皮膜の被覆形成後、その皮膜表面を、Ra:2μm以下、Rz:4μm以下の平滑面に仕上げることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1に記載の溶融ガラス塊形用金型の製造方法。
【請求項13】
前記アンダーコートは、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、自溶合金、MCrAlX合金(ただし、Mは、Coおよび/またはNi、Xは、希土類元素)から選ばれるいずれか1種以上の合金のを溶射皮膜であって、膜厚が50〜150μmであることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1に記載の溶融ガラス塊成形用金型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−136396(P2012−136396A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290296(P2010−290296)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【出願人】(000178826)日本山村硝子株式会社 (140)
【Fターム(参考)】