説明

溶融金属中で使用される転がり軸受

【課題】溶融金属中での耐摩耗性に著しく優れた転がり軸受を提供する。
【解決手段】保持器を、全灰分量20ppm以下の高純度等方性黒鉛に、熱膨張係数0.5〜6.0×10-6/℃の熱分解炭素が、5〜250μmの厚さで被覆された熱分解炭素皮膜黒鉛で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば連続溶融金属メッキ浴中のロール支持装置に組み込まれる転がり軸受のように、溶融状態の亜鉛やアルミニウム等の溶融金属中で使用される転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、連続溶融亜鉛メッキ浴中のロール支持装置に組み込まれるような溶融金属中で使用される転がり軸受としては、高い耐熱性と耐食性とが要求されるために、形状が複雑である保持器以外はセラミックスで作製されたものが使用され、保持器については、その耐食性を向上させるために、例えば純タンタルまたはタンタルに10重量%以下の範囲でタングステンを加えた合金により作製することが提案されている(下記の特許文献1参照)。
【0003】
下記の特許文献2には、溶融金属中における耐食性および耐摩耗性をさらに向上させるために、保持器を黒鉛または黒鉛を含む複合材料で作製することが提案されている。このような転がり軸受では、転動体が保持器のポケット部を摩耗させることによって、保持器をなす前記材料が転動体に移転・付着(以下、「移着」と称する。)し、転動体に移着された前記材料が外輪・内輪の転がり接触部に移着することで潤滑がなされる。
【0004】
下記の特許文献3には、溶融金属中における耐食性および耐摩耗性をさらに向上させるために、保持器を純タンタル製、タンタル−タングステン合金(タングステン含有率10重量%以下)製、黒鉛製、またはC/Cコンポジット製とし、セラミックス製の内輪、外輪、転動体に、黒鉛やTaからなる固体潤滑膜を形成することが提案されている。
しかしながら、タンタル製の保持器は比重が16〜18と大きいため、軸受の回転トルクが大きくなる、低硬度(Hv80〜300)のためポケット部や案内面の摩耗が大きくなる等の問題点がある。また、黒鉛製の保持器は、溶融金属内から大気中に出した時に酸化されるため、再使用ときの耐摩耗性が著しく劣化する、高温での耐衝撃性が低いため割れが発生しやすい等の問題点がある。
【0005】
下記の特許文献4には、等方性黒鉛基材表面に又はその内部に、高純度且つ不浸透性の緻密な熱分解炭素被膜を形成せしめるか、又は浸透せしめて成る溶融金属用黒鉛材料が記載されている。また、「高純度C3 6 ガス等の炭化水素もしくは炭化水素化合物を高純度の等方性黒鉛基材上で熱分解せしめて成る溶融金属用黒鉛材は、高強度、耐熱衝撃性が強く、不浸透性で溶融金属に濡れにくく、離型性がよく、しかもカーボン微粉が飛散しない優れた黒鉛材料であると言える」、と記載されている。
【特許文献1】特開平5−187445号公報
【特許文献2】実開平7−19622号公報
【特許文献3】特開平9−144765号公報
【特許文献4】特開昭63−79761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、セラミックス製の内輪、外輪、および転動体と、特殊な材料で形成された保持器を用いることで、溶融金属中での耐摩耗性に著しく優れた転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、内輪、外輪、および転動体が窒化珪素(Si3 4 )またはサイアロン(Si−Al−O−N)からなり、保持器は、全灰分量20ppm以下の高純度等方性黒鉛に、熱膨張係数0.5〜6.0×10-6/℃(室温〜400℃)の熱分解炭素が、5〜250μmの厚さで被覆された熱分解炭素皮膜黒鉛からなることを特徴とする溶融金属中で使用される転がり軸受を提供する。
「全灰分量20ppm以下の高純度等方性黒鉛に、熱膨張係数0.5〜6.0×10-6/℃の熱分解炭素が、5〜250μmの厚さで被覆された熱分解炭素皮膜黒鉛」は、東洋炭素(株)より入手することができる。
この熱分解炭素皮膜黒鉛は、従来の高純度等方性黒鉛と比較して、耐久性、耐熱衝撃性不浸透性、離型性、カーボン微粉の不飛散性に優れている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の転がり軸受によれば、前述の熱分解炭素皮膜黒鉛で形成された保持器を用いることで、溶融金属中での耐摩耗性に著しく優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について具体的な実施例に基づいて説明する。
図1および2に示す形状の軌道輪試験片1を二枚(内輪試験片1A,外輪試験片1B)と、図3および4に示す形状の保持器試験片2を一枚と、直径3/8インチのボール3を三個で一組として、図5に示すような転がり軸受の摩耗試験用試験体Sを作製した。図1は軌道輪試験片の正面図であり、図2は図1のA−A線断面図であり、図3は保持器試験片の正面図であり、図4は図3のB−B線断面図である。
【0010】
軌道輪試験片1は、図1および2から分かるように、厚さT1 =6mm、直径D1 =52mmの円板の中心に、直径D2 =10mmの穴11を開け、片面の周辺部に円板と同心の環状の溝12を付けたものである。この溝12は断面が円弧状に形成され、その曲率半径は5.15mmであり、円板の面から最大0.8mm(=T2 )だけ凹んでいる。また、溝12の中心線の直径D3 を38.5mmとした。
【0011】
この軌道輪試験片1とボール3は窒化珪素製であり、窒化珪素の粉末をArおよびN2 の雰囲気下、2000℃で加圧焼結して得られた焼結体を機械加工することにより各形状に形成してある。保持器試験片2は、図3および4から分かるように、軌道輪試験片1と同じ大きさの円板の中心に直径D4 =24mmの穴21を開け、円板面に直径D5 =9.8mmの円形のポケット22を三個、各ポケット22の中心が同一円周上となるように等間隔で開けた形状のものである。そして、ポケット22のピッチ円Eの直径D6 は、軌道輪試験片1の溝12の中心線の直径D3 と同じ38.5mmとした。
【0012】
このような形状の保持器試験片2を、東洋炭素(株)製の高純度等方性黒鉛であって(熱分解炭素皮膜が形成されていない)、熱膨張係数が5.5×10-6/℃であるもの(No. 1−1)と2.0×10-6/℃であるもの(No. 2−1)と、東洋炭素(株)製の熱分解炭素被膜黒鉛「PYROGRAPH(登録商標)」であって、熱分解炭素皮膜の膜厚および黒鉛基材の熱膨張係数が表1に示す各値であるものを用い、機械加工により形成した。
【0013】
図5に示すように、溝12面を内側にした二枚の軌道輪試験片1A,1Bで、各ポケット22にボール3を入れた状態の保持器試験片2を挟み、各ボール3を各軌道輪試験片1A,1Bの溝12に収めることにより、転がり軸受の試験体Sを組み立てた。この状態で試験体Sを、るつぼ6の底部中心に配置し、回転軸7を上側の軌道輪試験片(内輪試験片)1A上の中心に配置した。この回転軸7は、るつぼ6より上側に出る部分が小径部71となっている。
【0014】
そして、るつぼ6内に溶融亜鉛8を入れて蓋61をした後、るつぼ6より上側に出た小径部71に重り9を取り付け、この小径部71に、アキシャル方向にフリーの継手91を介して回転軸92を接続し、この回転軸92にトルクセンサ93を取り付けた。この状態で回転軸92を回転して回転軸7を回転させることにより、軌道輪試験片1Aを回転させた。試験条件は下記の通りである。
〔試験条件〕
アキシャル荷重:446N
回転速度:300rpm
るつぼ内温度:480℃
そして、トルクが上昇し、試験体Sの回転が停止するまでの耐久時間を測定した。500時間経っても回転が停止しない場合は試験を終了し、耐久時間を「500時間以上」とした。その結果を下記の表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
この表に示すように、No. 1−1〜1−6では、黒鉛基材の熱膨張係数が5.5×10-6/℃であって、熱分解炭素皮膜の厚さが異なる場合の、保持器の耐久性の違いを見ている。そして、この結果から、黒鉛基材の熱膨張係数が5.5×10-6/℃の場合には、熱分解炭素皮膜の厚さを5〜60μmとすることで、500時間以上の耐久性が得られ、溶融金属の付着がなく、ポケットの摩耗は有るが破損は防止できることが分かった。
【0017】
No. 2−1〜2−6では、黒鉛基材の熱膨張係数が2.0×10-6/℃であって、熱分解炭素皮膜の厚さが異なる場合の、保持器の耐久性の違いを見ている。そして、この結果から、黒鉛基材の熱膨張係数が2.0×10-6/℃の場合には、熱分解炭素皮膜の厚さを5〜250μmとすることで、500時間以上の耐久性が得られ、溶融金属の付着がなく、ポケットの摩耗は有るが破損は防止できることが分かった。
【0018】
No. 3−1〜3−6では、熱分解炭素皮膜の厚さが50μmであって、黒鉛基材の熱膨張係数が異なる場合の、保持器の耐久性の違いを見ている。そして、この結果から、熱分解炭素皮膜の厚さが50μmの場合には、黒鉛基材の熱膨張係数を0.5〜6.0×10-6/℃とすることで、500時間以上の耐久性が得られ、溶融金属の付着がなく、ポケットの摩耗は有るが破損は防止できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例において使用した試験体を構成する軌道輪試験片の正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】実施例において使用した試験体を構成する保持器試験片の正面図である。
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】実施例における回転試験の概要を示す概要図である。
【符号の説明】
【0020】
1 軌道輪試験片
1A 内輪試験片
1B 外輪試験片
2 保持器試験片
3 ボール(転動体)
8 溶融亜鉛(溶融金属)
S 転がり軸受の試験体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪、外輪、および転動体が、窒化珪素またはサイアロンからなり、
保持器は、
全灰分量20ppm以下の高純度等方性黒鉛に、熱膨張係数0.5〜6.0×10-6/℃の熱分解炭素が、5〜250μmの厚さで被覆された熱分解炭素皮膜黒鉛からなることを特徴とする溶融金属中で使用される転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−298087(P2007−298087A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125410(P2006−125410)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】