説明

滑り軸受装置およびポンプ装置

【課題】共振時に発生する衝撃を低減することができ、軸受体に作用する径方向の荷重を十分に受けることができる滑り軸受装置を提供する。
【解決手段】主軸4と摺接する軸受体20と、軸受体20の周囲に設けられたハウジング21と、軸受体20とハウジング21との間に設けられた弾性体22とを備えたポンプ用の滑り軸受装置11であって、弾性体22は、保持部材26と、保持部材26の内周面に取付けた弾性部材27,28とを有し、弾性体22が軸方向において複数に分割されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば無注水のドライ状態と水によって潤滑される注水状態との両方の状態で使用される滑り軸受装置、および、この滑り軸受装置を備えたポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、図13に示すように、ケーシング82の下端に吸込口83を有する立軸斜流ポンプ装置81がある。ケーシング82内には回転自在な主軸84が挿通されており、主軸84の下端に羽根車85が設けられている。ケーシング82の上部には、主軸84を回転駆動させる駆動装置86(電動機)が設けられている。主軸84は滑り軸受装置87によって回転自在に支持されている。
【0003】
図14,図15に示すように、滑り軸受装置87は、主軸84の外周面に摺接する軸受体88と、軸受体88の周囲に設けられたハウジング89と、軸受体88とハウジング89との間に設けられた円筒形状の緩衝用ゴム90とを有している。
【0004】
ハウジング89は、金属製の円筒形状の部材であり、ケーシング82内に設けられた固定部材91に固定されている。ハウジング89の内周面には、複数本の嵌合凹部92が形成されている。
【0005】
軸受体88は円筒状の軸受シェル93と摺接部材94とで構成されている。摺接部材94は、セラミックスや樹脂等からなり、軸受シェル93の内側に圧入固定されている。摺接部材94の内周面とポンプ装置の主軸84の外周面とが摺接する。上記軸受シェル93の外周面には、複数本の嵌合凹部95が形成されている。
【0006】
緩衝用ゴム90の内外周面には、上記嵌合凹部92,95に嵌合する嵌合凸部96,97が形成されている。緩衝用ゴム90には、軸方向に沿って直線状の貫通孔98が複数形成されており、これら貫通孔98によって緩衝用ゴム90のばね定数が所定の値に調整される。
【0007】
これによると、主軸84が所定の回転方向に回転すると、主軸84の外周面が摺接部材94の内周面に摺接する。この際、緩衝用ゴム90の各嵌合凸部96,97がハウジング89の嵌合凹部92と軸受シェル93の嵌合凹部95とに嵌合しているため、軸受体88は、回り止めされ、主軸84と共回りすることはない。
【0008】
上記立軸斜流ポンプ装置81は先行待機運転を行うものであり、揚水を行う揚水運転と、揚水を行わない待機運転とに切り替え可能である。運転開始時は、待機運転に切り替えた状態で、駆動装置86を駆動し、主軸84の回転速度を所定の回転速度まで次第に上昇させる。この際、滑り軸受装置87は自揚水による潤滑作用が発揮されないドライ状態であるため、滑り軸受装置87に対する主軸84の摺動抵抗が増大する。
【0009】
主軸84の回転速度が所定の回転速度に達した後、吸水位が上昇して設定水位Hに達すると、待機運転から揚水運転に切り替えて、揚水を開始する。この際、主軸84の回転速度は所定の回転速度に保たれており、また、自揚水によって滑り軸受装置87が潤滑および冷却されるため、滑り軸受装置87に対する主軸84の摺動抵抗が減少する。
【0010】
その後、吸水位が設定水位Hよりも低下し、立軸斜流ポンプ装置81を引き続き駆動させる必要が無いと判断された場合、駆動装置86の駆動を停止させて、ケーシング82内の水を吸込口83から排出する。この際、主軸84には駆動装置86の駆動トルクが作用せず、主軸84は、自揚水による潤滑作用が発揮されないドライ状態で、惰性で回転しながら所定の回転速度から次第に減速し、最終的に停止する。
【0011】
また、緩衝用ゴム90の径方向の荷重の増加分ΔPに対する径方向の変位の増加分をΔRとすると、軸受装置87のばね定数がΔP/ΔRで定義される。緩衝用ゴム90に形成される貫通孔98の数を減少させることにより、緩衝用ゴム90を用いた軸受装置87のばね定数が増大する。反対に、貫通孔98の数を増加させることにより、緩衝用ゴム90を用いた軸受装置87のばね定数が低下する。
【0012】
また、図16は他の従来の滑り軸受装置100の縦断面図であり、円筒状の軸受体102の下部にフランジ部103が設けられ、軸受体102の回転を阻止するための回り止め部材101がフランジ部103に設けられて軸方向に挿通されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−266792
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記の従来形式では、揚水運転中に、径方向の比較的大きな荷重Pが軸受体88に作用し、このような径方向の大きな荷重Pを十分に受けるために、緩衝用ゴム90の貫通孔98の数を減少させて緩衝用ゴム90を用いた軸受装置87のばね定数を増大させている。
【0015】
しかしながら、上記のように軸受装置87のばね定数を増大させると、これに応じてポンプ装置81全体の固有振動数も上昇する。このため、駆動装置86の駆動が停止して、主軸84がドライ状態で惰性で回転しながら所定の回転速度から次第に減速していく際、主軸84の回転速度が十分に低下していない高速の時に、ポンプ装置81の固有振動数と一致して共振が発生し、主軸84の後ろ回り振動を誘発するので、主軸84の回転速度の高さに応じた大きな力(衝撃)が発生するといった問題がある。
【0016】
また、主軸84は惰性で回転しているため、共振周波数を通過せしめるだけの充分に強大なトルクすなわち減速力を持たず、共振を回避することができないという問題や、複数存在する全ての固有振動数を充分に高くすることによって共振を回避するのは、非現実的な剛性を要するという問題がある。
【0017】
反対に、緩衝用ゴム90の貫通孔98の数を増加させて緩衝用ゴム90を用いた軸受装置87のばね定数を低減させると、これに応じて固有振動数も低下するが、緩衝用ゴム90が径方向に変位し易くなるため、軸受体88に作用する径方向の荷重Pを十分に受けることができなくなる。したがって、径方向の荷重Pに対する軸受体88の径方向への変位量が増大し、径方向の荷重Pに対して主軸84が径方向へ大きく変位して、羽根車85がケーシング82の内周面に接触するといった問題がある。
【0018】
更に、主軸84の回転速度が変化しない場合であっても、ドライ状態において軸受体88の摺動面は異物の混入等に起因して摩擦条件が変化して共振を起こす場合があり、この場合、主軸84は駆動装置86の駆動力の供給が継続する、いわゆる強制振動状態に陥る。このような主軸84の強制振動を外部と遮断するためには、前述のばね定数を十分に低くする必要があるが、上記と同様に羽根車85とケーシング82との接触等の問題があるので、振動を遮断することができないという問題がある。
【0019】
本発明は、共振時に発生する力(衝撃)を低減することができるとともに、軸受体に作用する径方向の荷重を十分に受けることができる滑り軸受装置、および、このような滑り軸受装置を備えたポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本第1発明は、主軸と摺接する軸受体と、軸受体の周囲に設けられたハウジングと、軸受体とハウジングとの間に設けられた弾性体とを備えたポンプ用の滑り軸受装置であって、
弾性体は、保持部材と、保持部材の内周面に取付けた弾性部材とを有し、
弾性体が軸方向において複数に分割されているものである。
本第2発明は、弾性体は弾性率又は形状の異なる第一の弾性部材と第二の弾性部材とを有するものである。
本第3発明は、第二の弾性部材は軸方向において複数設けられ、
第一の弾性部材は、第二の弾性部材間に位置し、軸受体に接しているか又は近接しており、
第二の弾性部材は、軸受体から径方向に所定の間隔をあけて離間しており、
軸受体と第二の弾性部材との径方向の間隔が軸受体と第一の弾性部材との径方向の間隔よりも大きいものである。
【0021】
これによると、主軸によって軸受体の径方向に荷重が作用した場合、上記径方向の荷重が小さく、軸受体の径方向への変位が所定値以下であれば、第一の弾性部材が軸受体に接し、第二の弾性部材が軸受体から径方向に離間する。
【0022】
また、上記径方向の荷重が大きくなり、軸受体の径方向への変位が所定値を超えれば、第一の弾性部材が軸受体に接した状態で、さらに、第二の弾性部材が軸受体に接する。
本第4発明は、第一の弾性部材は軸受体の軸方向における中央部に配置されるものである。
【0023】
これによると、ドライ状態(揚水しない軽負荷時)等には、軸受装置の中央部で主軸を保持するので、主軸が傾く方向に変位しても大きな反力が発生せず、このため共振し難くなる。
本第5発明は、第一の弾性部材の弾性率が第二の弾性部材の弾性率よりも小さいものである。
【0024】
これによると、径方向の変位が所定値を超えた際に、軸受装置のばね定数が増大する軸受装置を簡単な構造で実現できる。
また、主軸の変位によって軸受体の径方向に荷重が作用した場合、荷重の大きさに応じて弾性体が径方向に変形する。この時、上記径方向の荷重が小さく、軸受体の径方向への変位が所定値以下となる場合、軸受装置のばね定数は上記所定値を超えた場合に比べて小さくなる。
【0025】
このため、上記所定値以下に変位した場合のばね定数が上記所定値を超えて変位した場合と同じ値を有する大きなばね定数となる弾性体を用いた従来の滑り軸受装置に比べて、変位が所定値以下の範囲では、軸受装置の固有振動数が低下する。したがって、駆動装置を停止して、主軸がドライ状態で惰性で回転しながら所定の回転速度から次第に減速していく際、低下させた固有振動数と一致して共振が発生するのは、主軸の回転速度が十分に低下した場合である。この時点では、主軸が有する回転エネルギーは散逸して低下しており、これにより、共振時に発生する力(衝撃)が低減される。
【0026】
また、主軸を回転駆動して揚水を行っている際、上記径方向の荷重が大きくなれば、軸受体の径方向への変位が所定値を超え、軸受装置のばね定数は上記所定値以下の場合に比べて大きくなる。これにより、上記径方向の荷重を十分に受けることができ、径方向の荷重に対する軸受体の径方向への変位量が低減される。したがって、径方向の荷重に対する主軸の径方向への変位量が低減されるため、羽根車がケーシングの内周面に接触するのを防止することができる。
本第6発明は、保持部材は軸方向において複数の保持リングに分割され、
弾性部材は各保持リングの内周面に備えられ、
保持リングの軸方向における長さは弾性部材の軸方向における長さよりも長いものである。
本第7発明は、第1発明から第6発明のいずれか1項に記載の滑り軸受装置を備えたポンプ装置であって、
揚水を行う揚水運転と揚水を行わない待機運転とに切り替え可能であるものである。
【発明の効果】
【0027】
以上のように本発明によると、組み立て性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるポンプ装置の縦断面図である。
【図2】同、ポンプ装置の羽根車の部分の縦断面図である。
【図3】同、ポンプ装置の滑り軸受装置の縦断面図である。
【図4】図3におけるX1−X1矢視図である。
【図5】図3におけるX2−X2矢視図である。
【図6】同、ポンプ装置の滑り軸受装置の第一および第二の弾性部材の斜視図である。
【図7】同、ポンプ装置の滑り軸受装置の第一の弾性部材の平面図である。
【図8】同、ポンプ装置の滑り軸受装置の軸受体の径方向への変位と径方向の荷重との関係を示すグラフである。
【図9】同、ポンプ装置の運転パターンと主軸の回転速度との関係を示すグラフである。
【図10】同、ポンプ装置の主軸の角速度と振動伝達率との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第2の実施の形態におけるポンプ装置の滑り軸受装置の縦断面図である。
【図12】本発明に対する参考例におけるポンプ装置の滑り軸受装置の縦断面図である。
【図13】従来のポンプ装置の縦断面図である。
【図14】同、ポンプ装置の滑り軸受装置の縦断面図である。
【図15】同、ポンプ装置の滑り軸受装置の一部分の平面図である。
【図16】他の従来のポンプ装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明における第1の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0030】
図1,図2に示すように、1は先行待機運転が行える立軸斜流ポンプ装置(ポンプ装置の一例)である。立軸斜流ポンプ装置1のケーシング2の下端には吸込口3が形成されている。ケーシング2内には主軸4が挿通されており、主軸4の下端に羽根車5が設けられている。ケーシング2の上方には、主軸4を回転駆動させるモータ等の駆動装置6が設けられている。
【0031】
上記主軸4は上下複数の滑り軸受装置11,12によって軸心15を中心に回転自在に支持されている。これら滑り軸受装置11,12はそれぞれ、ケーシング2内に設けられた固定部材16に設けられている。また、ケーシング2には、吸込口3に空気を吸気する吸気管17が設けられている。この吸気管17は弁等からなる気水切替装置18によって開閉されるように構成されている。尚、上記立軸斜流ポンプ1は、羽根車5が回転して水を吸い上げる揚水運転と、羽根車5が回転しているが水を吸い上げない待機運転(気中運転)とに切り替え可能である。
【0032】
図3に示すように、上記主軸4は、軸本体4aと、軸受箇所において軸本体4aに外嵌された円筒状のスリーブ4bとで構成されており、固定部材16を貫通している。
上記滑り軸受装置11は以下のように構成されている。
【0033】
図3〜図5に示すように、滑り軸受装置11は、主軸4を回転自在に保持する円筒状の軸受体20と、軸受体20の外側周囲に配置された金属製の円筒状のハウジング21とを有している。軸受体20はハウジング21内に設けられており、軸受体20とハウジング21との間には、弾性体22が設けられている。
【0034】
軸受体20は、金属製の円筒状のシェル23と、シェル23の内周側に取付けられた円筒状の摺接部材24とで構成されている。また、摺接部材24は、例えばセラミック製であり、主軸4に外嵌されており、内周面が主軸4のスリーブ4bに摺接自在である。
【0035】
また、ハウジング21は、固定部材16に設けられた円筒状の胴部21aと、胴部21aの上部に設けられた上部カバー21bと、胴部21aの下部に設けられた下部カバー21cとを有している。
【0036】
弾性体22は、金属製で円筒状の保持部材26と、保持部材26の内周面に取り付けられた第一および第二の弾性部材27,28とを有している。保持部材26は、軸方向において複数個(図3では3個)の保持リング30に分割されており、ハウジング21の胴部21a内に嵌め込まれ、複数のねじ29によって取付け固定されている。尚、保持部材26は3個の保持リング30からなるが、3個以外の複数個でもよい。
【0037】
第一および第二の弾性部材27,28は円環状に形成され、第二の弾性部材28は保持部材26の軸方向における両端部(上下両端部)に位置し、第一の弾性部材27は両第二の弾性部材28間に位置している。このような構成により、第一又は第二の弾性部材27,28を備えた複数の保持リング30を積み重ねることで、弾性体22を形成することができるため、組み立て性が向上する。尚、保持部材26は円筒状でなくてもよく、円筒の一部や角筒状であってもよい。
【0038】
図6に示すように、第一の弾性部材27の内周面には、周方向において複数の凹部31と凸部32とが形成されている。この凹部31の大きさを変えることで軸受装置11のばね定数を調整することができる。また、第二の弾性部材28の内周面には、軸方向の溝33が周方向において所定間隔毎に複数形成されている。尚、第一の弾性部材27はシェル23の軸方向(上下方向)における中央部に接触している。
【0039】
軸受体20のシェル23には、径方向外向きに突出する複数の回り止めねじ35(回り止め部材の一例)が設けられている。第一および第二の弾性部材27,28にはそれぞれ、内外周面に開口する複数の係止孔36が形成されている。また、ハウジング21の胴部21aと弾性体22の保持部材26とには、胴部21aの外周面と保持部材26の内周面とに貫通する複数の貫通孔37が形成され、これら各貫通孔37と各係止孔36とが径方向において連通している。各回り止めねじ35は各係止孔36内に挿入され、これによって、各回り止めねじ35は周方向において各弾性部材27,28に係合している。
【0040】
図3〜図5に示すように、第一の弾性部材27の内周面は、主軸4が停止しているときであっても、軸受体20のシェル23の外周面に接触している。また、第二の弾性部材28の内周面は、主軸4が停止しているとき、上記シェル23の外周面から径方向へ所定の間隔Sをあけて離間している。
【0041】
ハウジング21の上部カバー21bの内側と下部カバー21cの内側とには、円環状の上部の緩衝部材39と下部の緩衝部材40とが設けられている。上部の緩衝部材39は軸受体20のシェル23の上方に対向し、下部の緩衝部材40は、軸受体20のシェル23の下方に対向して、シェル23の下端部を下方から支持する。
【0042】
第一および第二の弾性部材27,28と上部および下部の緩衝部材39,40との材質はゴムであり、このうち、第一の弾性部材27と上部および下部の緩衝部材39,40とには柔軟なゴムが用いられている。また、第二の弾性部材28には、第一の弾性部材27よりも硬いゴムが用いられている。尚、第二の弾性部材28の弾性係数は第一の弾性部材27の弾性係数の約2〜3倍に設定されている。
【0043】
図7に示すように、弾性体22の径方向の荷重Pの増加分ΔPに対する径方向の変位Rの増加分をΔRとすると、軸受装置11のばね定数がΔP/ΔRで定義される。また、図8のグラフは、軸受体20の径方向への変位Rと径方向の荷重Pとの関係を示すものである。
【0044】
これによると、ばね定数(実線のグラフ(イ)の傾きに相当)は、軸受体20の径方向への変位Rが所定値Aを超えると、上記変位Rが所定値A以下のときよりも、大きな値になるように構成されている。第二の弾性部材28の内周面は、軸受体20の径方向への変位Rが所定値Aに達したときに、所定の間隔Sが0になって、軸受体20のシェル23の外周面に接触するように構成されている。
【0045】
ここで、図8のグラフ(イ)において、径方向への変位Rが0から所定値Aまでの範囲のばね定数(グラフ(イ)の傾き)は、第一の弾性部材27のみが軸受体20のシェル23に接触し、第二の弾性部材28はシェル23から離間しているため、第一の弾性部材27のみが関与する第1のばね定数kaになる。
【0046】
また、径方向への変位Rが所定値Aよりも大きい範囲のばね定数は、第一の弾性部材27と第二の弾性部材28とが共にシェル23に接触しているため、第一の弾性部材27と第二の弾性部材28とを合わせた第2のばね定数kbになる。この第2のばね定数kbは第1のばね定数kaよりも大きな値である。尚、参考として、二点鎖線のグラフ(ロ)は第一の弾性部材27のみで軸受装置11を構成したときのばね定数を示し、点線のグラフ(ハ)は第二の弾性部材28のみで軸受装置11を構成したときのばね定数を示している。このように弾性率の異なる弾性部材27,28を用いることで、所定値Aの変位量を境にして軸受装置11のばね定数を大きく変えることができる。
【0047】
尚、従来の軸受装置であってもゴムの材料特性やその構造から、主軸の径方向の変位が大きくなるとばね定数は徐々に増加するが、本発明で言うばね定数の変化は図8に示すような大きな変化を言う。
尚、図2に示す別の滑り軸受装置12は、上記滑り軸受装置11と同じ構造であり、滑り軸受装置11とは上下反対向きに設けられている。
以下、上記構成における作用を説明する。
【0048】
上記立軸斜流ポンプ装置1は先行待機運転を行うものであり、図9のグラフに示すように、運転開始時は、気水切替装置18を開いて待機運転に切り替え、この状態で、駆動装置6を駆動し、主軸4の回転速度を所定の回転速度Vまで次第に上昇させる。この際、滑り軸受装置11,12は自揚水による潤滑作用が発揮されないドライ状態である。
【0049】
主軸4の回転速度が所定の回転速度Vに達した後、吸水位が上昇して設定水位Hに達すると、気水切替装置18を閉じて待機運転から揚水運転に切り替え、揚水を開始する。この際、主軸4の回転速度(角速度)は所定の回転速度Vに保たれており、また、自揚水によって滑り軸受装置11,12が潤滑および冷却されるため、滑り軸受装置11,12に対する主軸4の摺動抵抗が減少する。
【0050】
その後、吸水位が設定水位Hよりも低下し、立軸斜流ポンプ装置1を引き続き駆動させる必要が無いと判断された場合、気水切替装置18を開き、駆動装置6の駆動を停止させて、ケーシング2内の水を吸込口3から排出し、運転を停止する。この際、主軸4には駆動装置6の駆動トルクが作用せず、主軸4は、自揚水による潤滑作用が発揮されないドライ状態で、惰性で回転しながら所定の回転速度Vから次第に減速し、最終的に停止する。
【0051】
運転中、主軸4によって軸受体20の径方向に荷重Pが作用した場合、この荷重Pが小さく、軸受体20の径方向への変位Rが所定値A以下であれば、第一の弾性部材27のみが軸受体20のシェル23に接触し、第二の弾性部材28はシェル23から離間した状態となる。これにより、弾性体20のばね定数は第2のばね定数kbよりも小さい第1のばね定数kaとなる。
【0052】
また、上記径方向の荷重Pが大きく、軸受体20の径方向への変位Rが所定値Aを超えれば、第一の弾性部材27が軸受体20のシェル23に接触した状態で、さらに、第二の弾性部材28もシェル23に接触する。これにより、軸受装置11のばね定数は第1のばね定数kaよりも大きい第2のばね定数kbとなる。
【0053】
ここで、図10のグラフは、主軸4の回転角速度ω(周波数(Hz))と振動伝達率Trと回転不釣合い力との関係を示すものである。実線のグラフ(ニ)は従来のポンプ装置における回転角速度ωと振動伝達率Trとの関係を示しており、大きなばね定数kbを有する滑り軸受装置である。また、点線のグラフ(ホ)は本実施の形態のポンプ装置1における回転角速度ωと振動伝達率Trとの関係を示しており、大小2種類のばね定数ka,kbを有する滑り軸受装置11(12)である。
【0054】
これによると、本実施の形態では第1のばね定数kaが第2のばね定数kbより小さいため、グラフ(ホ)に示すように、本実施の形態のポンプ装置1の固有振動数B1が従来のポンプ装置の固有振動数B2よりも低下する。
【0055】
したがって、図9のグラフに示すように、運転停止時、駆動装置6が停止して、主軸4がドライ状態で惰性で回転しながら所定の回転速度Vから次第に減速していく際、すなわち、図10に示すように主軸4の角速度ωが左へ低下していく際、固有振動数B2より低くなった固有振動数B1に達したときに共振が発生するが、この時の主軸4の角速度ω(すなわち回転速度)が十分に低下しているので、共振時に発生する力(衝撃)が低減される。
【0056】
また、上記図10の一点鎖線のグラフ(ヘ)は主軸4の回転角速度ωと回転不釣合い力との関係を示すものであり、回転不釣合い力は、図7に示すように、主軸4が所定の方向Cに回転しているときの軸受体20の摺接面(すなわち摺接部材24の内周面)に対する垂直抗力Nと同じになり、下記の式1で示される。
回転不釣合い力=垂直抗力N=M×e×ω 式1
尚、Mは主軸4の質量、eは比不釣合量(主軸4の図心と重心との距離)である。
また、主軸4が回転しているときの摩擦力Fとその偶力−Fとは下記の式2,式3で示される。
F=μ×N=μ×M×e×ω 式2
尚、μは摩擦係数である。
−F=−μ×M×e×ω 式3
【0057】
上記式3に示すように、偶力−Fは主軸4の角速度の2乗に比例するため、本実施の形態のポンプ装置1が固有振動数B1(図10のグラフ(ホ))で共振しているときの偶力−F1は、上記角速度ωが低いので、従来のポンプ装置が固有振動数B2(図10のグラフ(ニ))で共振しているときの偶力−F2よりも大幅に小さくなる。これにより、主軸4の重心が主軸4の回転方向Cとは反対方向へ移動することによって生じる自励振動(後ろ回り振動)を抑制することができる。
【0058】
また、揚水運転中に径方向の荷重Pが増大して、図8に示すように、軸受体20の径方向への変位Rが所定値Aを超えると、弾性体22のばね定数が小さな値の第1のばね定数kaから大きな値の第2のばね定数kbに変わる。これにより、上記径方向の荷重Pを十分に受けることができ、径方向の荷重Pに対する軸受体20の径方向への変位量Rが低減される。したがって、径方向の荷重Pに対する主軸4の径方向への変位量が低減されるため、羽根車5がケーシング2の内周面に接触するのを防止することができる。
【0059】
また、図3に示すように、回り止めねじ35は、各係止孔36内に挿入され、周方向において各弾性部材27,28に係合しているため、主軸4の回転に伴って軸受体20が回転してしまうのを防止することができる。
【0060】
このとき、従来では、図16に示すように、回り止め部材101を軸方向に設けるために、軸受体102にフランジ部103を設けていたが、本実施の形態によれば、図3に示すように、軸受体20にフランジ部を設ける必要は無くなる。これにより、軸受体20の軽量化が可能になり、慣性力を減少させることができるため、大きな反力が発生せず、共振し難くなる。
【0061】
また、軸受体20のシェル23は上部の緩衝部材39と下部の緩衝部材40との上下間に挟まれているため、軸受体20が上下方向(軸方向)にずれるのを防止することができるとともに、軸方向の荷重が軸受体20に作用した場合の反力が減少するので、共振しにくくなる。
【0062】
また、図8のグラフに示すように、変位Rが所定値A以下の領域では、軸受装置11のばね定数が十分に低くなるため、主軸4の強制振動を外部と遮断することができる。また、変位Rが所定値Aを超えた領域では、軸受装置11のばね定数が大きな値に切換るため、径方向の荷重Pに対する主軸4の径方向への変位量が抑制され、これにより、羽根車5がケーシング2に接触するのを防止できる。
【0063】
上記第1の実施の形態では、図3に示すように、第一の弾性部材27の内周面は、主軸4が停止しているときであっても、軸受体20のシェル23の外周面に接触しているが、シェル23の外周面から径方向へ所定の間隔Sよりも小さな間隔をあけて離間してもよい。
【0064】
上記第1の実施の形態では、図6に示すように、第一の弾性部材27を1個設けているが、複数個設けてもよい。また、第二の弾性部材28を2個設けているが、1個又は3個以上の複数個設けてもよい。
【0065】
上記第1の実施の形態では、柔軟な(弾性率が小さく低硬度の)第一の弾性部材27を1個と硬い(弾性率が大きく高硬度の)第二の弾性部材28を上下2個設け、第一の弾性部材27を両第二の弾性部材28間に配置しているが、第2の実施の形態として、図11に示すように、第一の弾性部材27を上下2個と第二の弾性部材28を1個設け、第二の弾性部材28を両第一の弾性部材27間に配置してもよい。
【0066】
また、上記第1の実施の形態では、第一および第二の弾性部材27,28をそれぞれ保持部材26の内周面に設けたが、第3の実施の形態として、第二の弾性部材28を保持部材26の内周面に設け、第二の弾性部材28の内周面に第一の弾性部材27を設けてもよい。
【0067】
上記各実施の形態では、第一の弾性部材27と緩衝部材39,40の弾性率と、第二の弾性部材28の弾性率とが異なるものを使用しているが、これに限定されるものではなく、同じ弾性率の材料であってもよい。
また、第4の実施の形態として、第一の弾性部材27の弾性率を第二の弾性部材28の弾性率より小さくしたものであってもよい。
【0068】
また、本発明に対する参考例として、図12に示すように、弾性体22を、保持部材26と、保持部材26の内周面に取り付けられた円筒状のゴム製の弾性部材45とで構成してもよい。弾性部材45の内周面には径方向内側へ突出する突出部46が全周にわたり形成されている。
【0069】
突出部46は、主軸4が停止しているときであっても、軸受体20のシェル23の外周面に接触している。また、弾性部材45の内周面は、主軸4が停止しているとき、上記シェル23の外周面から径方向へ所定の間隔Sをあけて離間している。
上記各実施の形態では、第一および第二の弾性部材27,28としてゴムを用いたが、ゴムの代わりに金属ばねや空気ばね等を用いてもよい。
【0070】
上記各実施の形態では、図3に示すように、主軸4は軸本体4aとスリーブ4bとで構成されているが、スリーブ4bが無く、軸本体4aのみで構成されているものでもよい。この場合、摺接部材24が軸本体4aの外周面に摺接する。
【0071】
上記各実施の形態では、軸受体20はシェル23と摺接部材24とで構成されているが、シェル23が無く、摺接部材24のみで構成されているものでもよい。この場合、第一および第二の弾性部材27,28の内周面が摺接部材24の外周面に接触する。
【0072】
上記各実施の形態では、弾性体22は保持部材26と第一および第二の弾性部材27,28とで構成されているが、保持部材26が無く、第一および第二の弾性部材27,28のみで構成されているものでもよい。この場合、第一および第二の弾性部材27,28はハウジング21の胴部21aの内周面に取り付けられる。
【0073】
上記各実施の形態では、ポンプ装置の一例として立軸斜流ポンプ装置1を挙げたが、立軸軸流ポンプ装置や横軸ポンプ装置等、その他の形式のポンプ装置であってもよい。また、気水切替型の先行待機運転ポンプを例に説明したが、気水混合型の先行待機運転ポンプであってもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 立軸斜流ポンプ装置(ポンプ装置)
4 主軸
11,12 滑り軸受装置
20 軸受体
21 ハウジング
22 弾性体
26 保持部材
27 第一の弾性部材
28 第二の弾性部材
30 保持リング
S 所定の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸と摺接する軸受体と、軸受体の周囲に設けられたハウジングと、軸受体とハウジングとの間に設けられた弾性体とを備えたポンプ用の滑り軸受装置であって、
弾性体は、保持部材と、保持部材の内周面に取付けた弾性部材とを有し、
弾性体が軸方向において複数に分割されていることを特徴とする滑り軸受装置。
【請求項2】
弾性体は弾性率又は形状の異なる第一の弾性部材と第二の弾性部材とを有することを特徴とする請求項1記載の滑り軸受装置。
【請求項3】
第二の弾性部材は軸方向において複数設けられ、
第一の弾性部材は、第二の弾性部材間に位置し、軸受体に接しているか又は近接しており、
第二の弾性部材は、軸受体から径方向に所定の間隔をあけて離間しており、
軸受体と第二の弾性部材との径方向の間隔が軸受体と第一の弾性部材との径方向の間隔よりも大きいことを特徴とする請求項2記載の滑り軸受装置。
【請求項4】
第一の弾性部材は軸受体の軸方向における中央部に配置されることを特徴とする請求項3記載の滑り軸受装置。
【請求項5】
第一の弾性部材の弾性率が第二の弾性部材の弾性率よりも小さいことを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の滑り軸受装置。
【請求項6】
保持部材は軸方向において複数の保持リングに分割され、
弾性部材は各保持リングの内周面に備えられ、
保持リングの軸方向における長さは弾性部材の軸方向における長さよりも長いことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の滑り軸受装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の滑り軸受装置を備えたポンプ装置であって、
揚水を行う揚水運転と揚水を行わない待機運転とに切り替え可能であることを特徴とするポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−141060(P2012−141060A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−78473(P2012−78473)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2008−90840(P2008−90840)の分割
【原出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】