説明

潤滑剤劣化検出装置およびセンサ付き軸受

【課題】 軸受内部などへの配置の自由度が高く、潤滑剤の厚さや温度変化・ノイズなどによる影響を受けずに潤滑剤の劣化状態を安定して精度良く検出できる潤滑剤劣化検出装置、およびその潤滑剤劣化検出装置を備えたセンサ付き軸受を提供する。
【解決手段】 この潤滑剤劣化検出装置1は、光源2と、光を検出するラインセンサ3と、このラインセンサ3から延びて先端が前記光源2に対向する導光器4と、前記ラインセンサ3の出力から潤滑剤6の劣化状態を検出する判定手段5とを備える。前記導光器4の先端は段差形状とする。前記判定手段5は、前記ラインセンサ3の各センサ素子3aから出力される光強度信号のうち、これら各センサ素子3aの光強度信号の分布から設定範囲よりも外れた光強度信号を異常信号として扱い、異常信号を除いた光強度信号を抽出して潤滑剤6の劣化状態の検出に用いる異常信号除外部10を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、潤滑剤の混入物などによる劣化状態を検出する潤滑剤劣化検出装置、およびその潤滑剤劣化検出装置を備えたセンサ付き軸受、例えば鉄道車両用、風車設備用、工場設備用等のセンサ付き軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤を封入した軸受では、軸受内部の潤滑剤(グリース、油など)が劣化すると転動体の潤滑不良が発生し、軸受寿命が短くなる。転動体の潤滑不良を、軸受の振動状態などから判断するのでは、寿命に達して動作異常が発生してから対処することになるため、潤滑状態の異常をより早く検出できない。そこで、軸受内の潤滑剤の状態を定期的あるいはリアルタイムに観測し、異常やメンテナンス期間の予測を可能にすることが望まれる。
【0003】
潤滑剤の劣化の主要な要因として、軸受の使用に伴って発生する摩耗粉が潤滑剤に混入することが挙げられる。
軸受の摩耗状態を検出するものとしては、軸受のシールの内側に電極やコイル等のセンサを配置し、摩耗粉の混入する潤滑剤の電気的特性(抵抗値や静電容量)を前記センサで検出するようにしたセンサ付き軸受が提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−293776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のセンサ付き軸受は、潤滑剤の電気的特性を検出するものであるため、
・ノイズの影響を受ける。
・軸受内部の温度変化による影響を受ける。
・コンパクトに出来ないため、取付位置に制約を受ける。
といった課題がある。
【0005】
このような課題を解決するものとして、潤滑剤を透過する透過光量を光検出素子で検出する光学式の構成を考えた。
この場合、潤滑剤の厚さが透過光量に影響するので、潤滑剤の厚さが一定となるように、測定部に潤滑剤を存在させる構成が必要になる。
【0006】
そこで、光検出素子を複数使用して、それぞれの光検出素子に入射する光が、互いに異なる厚さの潤滑剤を透過した光となるように、例えば各光検出素子の光検出面の位置をずらして配置し、これら光検出素子の出力の信号強度を比較することによって潤滑剤の透明度を測定する構成を考えた。
【0007】
しかし、このような構成の場合、それぞれの光検出素子に感度ばらつきがあるため、測定結果がばらついてしまうという課題がある。また、光検出素子の数が少ない場合には、微小なごみ等の影響を受けやすいという課題もある。
【0008】
この発明の目的は、軸受内部などへの配置の自由度が高く、潤滑剤の厚さや温度変化・ノイズなどによる影響を受けずに潤滑剤の劣化状態を安定して精度良く検出できる潤滑剤劣化検出装置、およびその潤滑剤劣化検出装置を備えたセンサ付き軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の潤滑剤劣化検出装置は、光源と、光を検出するラインセンサと、このラインセンサからそれぞれ延びて先端が前記光源に対向する複数の導光器とを設け、これら複数の導光器の先端を互いに段差形状とし、前記光源と導光器の先端との間を潤滑剤の配置空間とし、前記ラインセンサの出力から潤滑剤の劣化状態を検出する判定手段を設け、この判定手段は、前記ラインセンサの各センサ素子から出力される光強度信号のうち、これら各センサ素子の光強度信号の分布から設定範囲よりも外れた光強度信号を異常信号として扱い、異常信号を除いた光強度信号を抽出して潤滑剤の劣化状態の検出に用いる異常信号除外部を有するものとしている。
この構成によると、ラインセンサから光源側へ延びる複数の導光器を設けてその先端を段差形状とし、導光器と光源の間を潤滑剤の配置空間としたため、その段差形状によって光が透過する潤滑剤の厚さに違いが生じ、判定手段において、この潤滑剤の厚さの違いと光の強度を関連付けて検出することにより、潤滑剤の光透過率を検出することができる。上記段差形状で生じる光路差による光強度変化を検出するため、潤滑剤の全体の厚さや、温度変化による感度の影響を受け難く、光透過率を精度良く検出することができる。
また、ラインセンサを使用するため、センサ素子数が多く、平均化処理等が行えて、センサ素子毎の感度ばらつきを小さくでき、精度良く検出が行える。
さらに、ラインセンサの使用により光を検出するセンサ素子数を多くできるため、検出した信号を統計的に処理することによって、ごみやノイズの影響を受けずに潤滑剤の光透過率を検出することができる。具体的には、ラインセンサの出力から劣化状態を検出する判定手段は、各センサ素子から出力される光強度信号のうち、これら各センサ素子の光強度信号の分布から設定範囲よりも外れた光強度信号を異常信号として扱い、異常信号を除いた光強度信号を抽出して潤滑剤の劣化状態の検出に用いる異常信号除外部を有するものとしている。これにより、上記のようにごみやノイズの影響を受けずに潤滑剤の光透過率を検出することができる。
ラインセンサを用いることから、センサ素子が小さくて、検出部を小型化できるという利点も得られる。
これらにより、軸受内部などへの配置の自由度が高く、潤滑剤の厚さや、温度変化・ノイズなどによる影響を受けずに潤滑剤の劣化状態を安定して精度良く検出することができる。
【0010】
この発明において、前記判定手段は、検出信号の明暗パターンから発生する周期的成分を検出し、その周期的成分を信号処理するものとしても良い。周期パターンから外れた部分は、ごみや気泡等による異常信号であると判断し、それ以外の信号によって光透過率を算出するものとする。
例えば、前記異常信号除外部は、ラインセンサの長さ方向に並ぶセンサ素子の出力間での光強度の周期的な変化から、同じ強度になるべき検出位置を求め、その同じ強度になるべき各位置における光強度信号の強度のずれが、設定された閾値を超えることで異常と認識するものとする。
このように、ラインセンサで検出される光強度信号から導光器に対応する光強度を抽出する処理を、ラインセンサの長さ方向に並ぶセンサ素子の出力間での光強度の周期的な変化から、同じ光強度になるべき検出位置を求めることで行うものとすると、導光器の段差位置とラインセンサの各センサ素子の位置とが厳密に一致していなくても、導光器に対応する光強度を容易に抽出することができて、簡単な組み立てや取付けが可能となる。
【0011】
この発明において、前記導光器を、ラインセンサの長さ方向に沿って、長さが長いものと短いものとが交互に並んだものとし、前記異常信号除外部は、ラインセンサの長さ方向に並ぶセンサ素子の光強度信号のヒストグラムをとり、長い導光器に対応するセンサ素子と短い導光器に対応するセンサ素子との2種類の正常ピーク面積の和と、それ以外の面積との比率を求め、この比率が設定した閾値を超える場合に異常と認識するものとしても良い。上記正常ピーク面積の和を求めるにつき、正常であるか否かは正常範囲を適宜設定することで判別できる。
このように、ラインセンサの長さ方向に並ぶセンサ素子の光強度信号のヒストグラムをとることにより、単純な処理で自動的に各導光器に対応する2種類の光強度を抽出することができる。また、長い導光器と短い導光器の段差位置とラインセンサの各センサ素子の位置とが厳密に一致していなくても、2種類の光強度を抽出できるので、簡単な組み立て、取付けが可能となる。
とくに、異常信号除外部で、上記ヒストグラムにおける正常な2種類の光強度のピーク面積の和と、それ以外の面積との比率を求め、ピーク面積以外の面積の比率が設定した閾値を超える場合に異常と認識するものとすると、ラインセンサの検出する光強度信号に現れる異常が単純なノイズ信号である場合に異常と認識されにくいので、単純なノイズ信号をいたずらに異常と誤認するのを回避できる。したがって、一部に異常信号が入っていても、潤滑剤の劣化検出を問題なく行うことができる。
【0012】
この発明において、前記異常信号除外部が異常を認識したときに警告信号を出力する警告信号出力手段を設けても良い。この構成の場合、潤滑剤の劣化に起因するものとは別の異常が発生していることを警告することができる。
【0013】
この発明のセンサ付き軸受は、この発明の上記いずれかの構成の潤滑剤劣化検出装置を軸受に搭載したものである。
この構成によると、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで正確に検出することができる。これにより、軸受に動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受の潤滑不良による破損を防ぐことができる。また、潤滑剤交換の必要性を潤滑剤劣化検出装置の出力によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量が減少する。
【発明の効果】
【0014】
この発明の潤滑剤劣化検出装置は、光源と、光を検出するラインセンサと、このラインセンサからそれぞれ延びて先端が前記光源に対向する複数の導光器とを設け、これら複数の導光器の先端を互いに段差形状とし、前記光源と導光器の先端との間を潤滑剤の配置空間とし、前記ラインセンサの出力から潤滑剤の劣化状態を検出する判定手段を設け、この判定手段は、前記ラインセンサの各センサ素子から出力される光強度信号のうち、これら各センサ素子の光強度信号の分布から設定範囲よりも外れた光強度信号を異常信号として扱い、異常信号を除いた光強度信号を抽出して潤滑剤の劣化状態を検出に用いる異常信号除外部を有するものとしたため、軸受内部などへの配置の自由度が高く、潤滑剤の厚さや温度変化・ノイズなどによる影響を受けずに潤滑剤の劣化状態を安定して精度良く検出できる。
この発明のセンサ付き軸受は、この発明の潤滑剤劣化検出装置を軸受に搭載したものであるため、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで正確に検出することができる。その結果、軸受に動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受の潤滑不良による破損を防ぐことができる。また、潤滑剤交換の必要性を潤滑剤劣化検出装置の出力によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量が減少する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図1ないし図7と共に説明する。図1は、この実施形態の潤滑剤劣化検出装置の概略構成図を示す。この潤滑剤劣化検出装置1は、光源2と、この光源2から出射して検出対象となる潤滑剤6を透過した透過光を検出するラインセンサ3と、このラインセンサ3から延びて先端が前記光源2に対向する複数の導光器4と、前記ラインセンサ3の出力から潤滑剤6の劣化状態を検出する判定手段5とを備える。検出対象となる潤滑剤6は、例えば軸受内部に封入された潤滑剤である。
【0016】
ラインセンサ3は、その各センサ素子3aが光の進行方向に対して同一位置に並ぶように配置される。これに対して、各導光器4は、先端の並びが段差形状となるように、ラインセンサ3の長さ方向に対して一端側から他端側へ配列されている。具体的には、各導光器4は2種類の長さとされて、ラインセンサ3の長さ方向に沿って長さの長い導光器4と短い導光器4とが交互に並び、それらの先端位置が隣接する導光器4の間で所定間隔dだけ交互にずれるように配置されている。ここでは、導光器4として光ファイバが用いられるが、このほか透明樹脂を用いても良い。また、各導光器4は、必ずしもラインセンサ3のセンサ素子3a毎に設けられたものでなくても良く、各導光器4の基端が複数のセンサ素子3aに対向するものとしても良い。また、ラインセンサ3のセンサ素子3aのうち、導光器4と対向しないものがあっても良く、その場合に、例えばラインセンサ3のセンサ素子3aのうちの導光器4と対向するもののみを検出に用いるようにしても良い。
また、ラインセンサ3に対して、光源2もライン状光源とすることが望ましい。このように光源2をライン状とした場合、検出部に入射する光の強度が場所によらず均一になるので、安定した検出が可能となる。
【0017】
上記構成の潤滑剤劣化検出装置1において、前記潤滑剤6を透過する光の強度は図2に曲線グラフで示すように透過距離によって大きく減衰するため、先端位置を互いにずらして配置される各導光器4に入射する光強度はI1 ,I2 のように導光器4の先端位置に応じた値となる。これらの光強度が、各導光器4の基端に位置するラインセンサ3のセンサ素子3aで検出される。
【0018】
図3は、図1の潤滑剤劣化検出装置1の具体的構成例を示す。この構成例では、溝部8を有する平面状のハウジング7において、その溝部8の一側壁に前記ラインセンサ3を配置すると共に、前記溝部8の他側壁に光源2を配置し、さらにラインセンサ3の受光面から延びて先端が光源2に対向する光ファイバからなる前記導光器4を設けて、溝部8における光源2と導光器4との間の隙間に入ってくる潤滑剤6を検出するようにしている。
【0019】
前記判定手段5は、次のような基本処理により潤滑剤6の劣化状態を検出する。
潤滑剤6に摩耗粉等の異物が混入していると、図2に曲線グラフで示す減衰量が変化する。そこで、判定手段5は、上記したように距離dだけずらした隣り合う2つの導光器4に対応するラインセンサ3でのセンサ素子3aの受光強度I1 ,I2 を比較することにより相対強度を求め、その相対強度から透過光の減衰比率を検出し、その検出値から潤滑剤6の内部に混入した混入物の量を推定する。透過光の強度そのものは、潤滑剤6の厚さや光源2の光強度によって変化するが、透過光の減衰比率はこれらの要因によっては変化しないので、安定した検出が可能である。また、混入物の増加は潤滑剤6の劣化状態の進行を意味するので、判定手段5は、推定した混入物の量から潤滑剤6の劣化状態を検出することができる。
【0020】
ラインセンサ3で検出される光強度信号は、図4に示すように、ラインセンサ3における長い導光器4に対応するセンサ素子3aでの受光強度I1 と、短い導光器4に対応するセンサ素子3aでの受光強度I2 が、検出位置つまりセンサ素子3aの並び位置X1 ,X2 ,X3 …に応じて交互に出力される交番信号となり、長い導光器4に対応する受光強度I1 は大きく、短い導光器4に対応する受光強度I2 が小さくなるはずである。
ところが、図3において、光源2と導光器4との間に介在する潤滑剤6の中に気泡やごみなどが入り込んでいると、ラインセンサ3で検出される光強度信号に図5に示すような異常区間が現れる。このような異常区間の信号を使用して劣化検出を行うと検出結果に誤りが生じる。
【0021】
そこで、判定手段5は上記基本処理を行うにあたって、ラインセンサ3で検出される光強度信号に以下のような信号処理を異常信号除外部10(図1)で行う。
すなわち、判定手段5の異常信号除外部10は、ラインセンサ3の各センサ素子3aから出力される光強度信号のうち、これら各センサ素子3aの光強度信号の分布から設定範囲よりも外れた光強度信号を異常信号として扱い、異常信号を除いた光強度信号を抽出して潤滑剤6の劣化状態の検出に用いる。具体的には、異常信号除外部10は、ラインセンサ3の長さ方向に並ぶセンサ素子3aの出力間での光強度の周期的な変化から、上記2種類の光強度I1 ,I2 の検出位置X1 ,X2 ,X3 …を求めて、同じ光強度になるべき各検出位置における光強度信号のずれが、設定された閾値を超えることで異常と認識する。
判定手段5は、このようにして異常信号を除外して抽出した2種類の光強度I1 ,I2 の比を求めることで、潤滑剤6の光透過率を検出する。長い導光器4に対応する光強度I1 は、図4におけるX1 ,X3 …の検出位置の信号に対応し、その平均値または加算値が強度比の演算に用いられる。短い導光器4に対応する受光強度I2 は、図4におけるX2 ,X4 …の検出位置の信号に対応し、同様にその平均値または加算値が強度比の演算に用いられる。
このように、ラインセンサ3で検出される光強度信号から各導光器4に対応する2種類の光強度I1 ,I2 を抽出する処理では、ラインセンサ3の長さ方向に並ぶセンサ素子3aの出力間での光強度の周期的な変化から、上記2種類の光強度I1 ,I2 の検出位置X1 ,X2 ,X3 …を求めることで、それぞれの光強度I1 ,I2 を抽出するので、長い導光器4と短い導光器4の段差位置とラインセンサ3の各センサ素子3aの位置とが厳密に一致していなくても、2種類の光強度I1 ,I2 を容易に抽出することができ、簡単な組み立て、取付けが可能となる。
【0022】
また、この実施形態では、判定手段5の異常信号除外部10が上記したように異常を認識したときに警告信号を出力する警告信号出力手段11(図1)が設けられている。これにより、潤滑剤6の劣化に起因するものとは別の異常が発生していることを警告することができる。
【0023】
図6は、この実施形態における判定手段5の他の信号処理例を示す図である。この信号処理では、ラインセンサ3が受光した光強度を横軸にとり、ラインセンサ3におけるそれぞれの光強度となるセンサ素子3a数を縦軸にとって、図6のようにヒストグラムを作成する。これにより、2種類の光強度でピークとなる形状が得られる。このヒストグラムのそれぞれのピークは、2種類の長さの導光器4を通過した透過光の強度を示しているので、ピークから求めた光強度を上記した2種類の光強度I1 ,I2 として、それらの強度比を演算することができる。
このように、この信号処理例の場合、単純な処理で自動的に各導光器4に対応する2種類の光強度I1 ,I2 を抽出することができる。また、長い導光器4と短い導光器4の段差位置とラインセンサ3の各センサ素子3aの位置とが厳密に一致していなくても、2種類の光強度I1 ,I2 を抽出できるので、簡単な組み立て、取付けが可能となる。
【0024】
この信号処理例の場合、判定手段5の異常信号除外部10は、図7のように上記ヒストグラムに異常信号に起因する異常値の部分Aがある場合に、そのヒストグラムにおける正常な2種類の光強度I1 ,I2 のピーク面積の和と、それ以外の面積との比率を求め、ピーク面積以外の面積の比率が設定した閾値を超える場合に異常と認識するものとする。
このように異常の認識を行うと、ラインセンサ3の検出する光強度信号に現れる異常が単純なノイズ信号である場合に異常と認識されにくいので、単純なノイズ信号をいたずらに異常と誤認するのを回避できる。
異常値の比率が前記閾値を超えていない場合、判定手段5は上記した信号処理で求まった2種類の光強度I1 ,I2 の強度比を演算することにより、潤滑剤6の透過光の減衰比率を算出することができる。したがって、一部に異常信号が入っていても、潤滑剤6の劣化検出を問題なく行うことができる。
なお、正常ピークの面積は、図7のヒストグラムにおける、光強度I1 ,I2 のピーク面積であり、図7の異常値Aのようなピーク部の面積を「それ以外の面積」と考える。具体的に実施する場合には、図7のヒストグラムにしきい値を設け、その値を超えた部分について、正常なピークではないと分類する処理を行い、正常なピーク以外に現れてくるそれ以外のピーク面積が、設定値を超えた場合に異常と判断することができる。
【0025】
このように、この潤滑剤劣化検出装置1では、ラインセンサ3から光源2側へ延びる複数の導光器4を設けてその先端を段差形状としたため、その段差形状によって光が透過する潤滑剤6の厚さに違いが生じ、判定手段5において、この潤滑剤6の厚さの違い(所定間隔d)と光の強度を関連付けて検出することにより、潤滑剤6の光透過率を検出することができる。上記段差形状で生じる光路差(間隔d)による光強度変化を検出するため、潤滑剤6の全体の厚さや、温度変化による感度の影響を受け難く、光透過率を精度良く検出することができる。
また、受光部にラインセンサ3を用いているので、センサ素子3a毎の感度ばらつきを小さくでき、潤滑剤6の光透過率の違いや変化を精度良く検出することができる。ラインセンサ3の場合、センサ素子3aが小さいため、検出部を小型化できる。さらに、ラインセンサ3の場合、センサ素子3a数が多いため、それらの多数の信号を用いた平均化処理、または必要な部分の抽出処理を容易に実施できる。
とくに、この潤滑剤劣化検出装置1では、判定手段5の異常信号除外部10により、ラインセンサ3の各センサ素子3aから出力される光強度信号のうち、これら各センサ素子3aの光強度信号の分布から設定範囲よりも外れた光強度信号を異常信号として扱い、異常信号を除いた光強度信号を抽出して潤滑剤6の劣化状態を検出するようにしているので、ごみやノイズの影響を受けずに、精度の高い検出を行うことができる。
その結果、軸受内部などへの配置の自由度が高く、潤滑剤6の厚さや温度変化による影響を受けずに潤滑剤6の劣化状態を安定して精度良く検出できる。
【0026】
図8は、上記した潤滑剤劣化検出装置1を搭載したセンサ付き軸受を、鉄道車両用軸受ユニットに用いた断面図である。この場合の鉄道車両用軸受ユニットは、センサ付き軸受21とその内輪24の両側に各々接して設けられた付属部品である油切り22および後ろ蓋23とで構成される。軸受21は、ころ軸受、詳しくは複列の円すいころ軸受からなり、各列のころ26,26に対して設けた分割型の内輪24,24と、一体型の外輪25と、前記ころ26,26と、保持器27とを備える。
後ろ蓋23は、車軸30に軸受21よりも中央側で取付けられて外周のオイルシール28を摺接させたものである。油切り22は、車軸30に取付けられて外周にオイルシール29を摺接させたものである。これら軸受21の両端部に配置される両オイルシール28,29により軸受21の内部に潤滑剤が封止され、かつ防塵・耐水性が確保される。
【0027】
潤滑剤劣化検出装置1は軸受21の外輪25の中央部の内径面に取付けられ、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を検出する。潤滑剤劣化検出装置1は、ころ26の端面付近に配置される。外輪25には、潤滑剤劣化検出装置1の配線ケーブル15を挿通させるケーブル挿入孔25aが設けられ、配線ケーブル15の挿通部には、防水・防油処理が施される。前記配線ケーブル15を通じて、軸受外から潤滑剤劣化検出装置1への電源供給と軸受外への検出信号の取り出しが行われる。これにより、潤滑剤劣化検出装置1と取付部から軸受内部へ水分やゴミ等が侵入するのを防止している。
上記潤滑剤劣化検出装置1を搭載したこのセンサ付き軸受21では、軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を、リアルタイムで正確に検出することができる。その結果、軸受21に動作異常が発生する前に潤滑剤の交換の必要性を判断でき、軸受21の潤滑剤不良による破損を防ぐことができる。また、潤滑剤交換の必要性を潤滑剤劣化検出装置1の出力によって判断できるため、使用期限前に廃棄される潤滑剤の量が減少する。
【0028】
図9は、センサ付き軸受の他の例を示す。このセンサ付き軸受21Aは、図8に示したセンサ付き軸受21において、上記した潤滑剤劣化検出装置1を、オイルシール29の内側面に取付けたものである。この場合、潤滑剤劣化検出装置1は、保持器27の端面付近に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の一実施形態にかかる潤滑剤劣化検出装置の概略構成図である。
【図2】潤滑剤を透過する光の透過距離と透過光の強度との関係を示すグラフである。
【図3】上記潤滑剤劣化検出装置の具体的構成例を示す斜視図である。
【図4】同潤滑剤劣化検出装置におけるラインセンサの検出信号の波形図である。
【図5】ラインセンサの検出信号に異常信号がある場合の波形図である。
【図6】同潤滑剤劣化検出装置における判定手段での信号抽出処理の一例を示すヒストグラムである。
【図7】同信号抽出処理例においてラインセンサの検出信号に異常信号がある場合のヒストグラムである。
【図8】上記潤滑剤劣化検出装置を搭載したセンサ付き軸受の一例の断面図である。
【図9】上記潤滑剤劣化検出装置を搭載したセンサ付き軸受の他の例の断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1…潤滑剤劣化検出装置
2…光源
3…ラインセンサ
4…導光器
5…判定手段
6…潤滑剤
10…異常信号除外部
11…警告信号出力手段
21,21A…センサ付き軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、光を検出するラインセンサと、このラインセンサからそれぞれ延びて先端が前記光源に対向する複数の導光器とを設け、これら複数の導光器の先端を互いに段差形状とし、前記光源と導光器の先端との間を潤滑剤の配置空間とし、前記ラインセンサの出力から潤滑剤の劣化状態を検出する判定手段を設け、この判定手段は、前記ラインセンサの各センサ素子から出力される光強度信号のうち、これら各センサ素子の光強度信号の分布から設定範囲よりも外れた光強度信号を異常信号として扱い、異常信号を除いた光強度信号を抽出して潤滑剤の劣化状態の検出に用いる異常信号除外部を有するものとした潤滑剤劣化検出装置。
【請求項2】
請求項1において、前記異常信号除外部は、ラインセンサの長さ方向に並ぶセンサ素子の出力間での光強度の周期的な変化から、同じ強度になるべき検出位置を求め、その同じ強度になるべき各位置における光強度信号の強度のずれが、設定された閾値を超えることで異常と認識するものとした潤滑剤劣化検出装置。
【請求項3】
請求項1において、前記導光器を、ラインセンサの長さ方向に沿って、長さが長いものと短いものとが交互に並んだものとし、前記異常信号除外部は、ラインセンサの長さ方向に並ぶセンサ素子の出力する光強度信号のヒストグラムをとり、長い導光器に対応するセンサ素子と短い導光器に対応するセンサ素子との2種類の正常ピーク面積の和と、それ以外の面積との比率を求め、この比率が設定した閾値を超える場合に異常と認識するものとした潤滑剤劣化検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記異常信号除外部が異常を認識したときに警告信号を出力する警告信号出力手段を設けた潤滑剤劣化検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の潤滑剤劣化検出装置を軸受に搭載したセンサ付き軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−263801(P2007−263801A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90240(P2006−90240)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】