説明

潤滑性被膜用組成物及び潤滑性部材

【課題】密着性、耐薬品性、耐摩耗性、潤滑性に優れた潤滑性被膜を形成するための潤滑性被膜用組成物を提供すること。
【解決手段】親水性モノマーに由来する構造単位及びN−メチロールアクリルアミドに由来する構造単位を含む親水性ポリマーを含有することを特徴とする潤滑性被膜用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑性被膜用組成物及び潤滑性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療用器具などの基材表面に潤滑性を付与する方法として薬品処理、溶剤処理、カップリング剤処理、表面グラフト重合、界面活性剤処理などの化学的処理や、紫外線照射処理、低温プラズマ処理、スパッタエッチング処理などの物理的処理が行われている。しかしながら、これらの方法は、処理が煩雑である、長期の潤滑性に劣るという欠点を有していた。たとえば表面グラフト重合法によりアクリルアミド、ジメチルアクリルアミドをグラフト重合すると高い潤滑性を付与できるが、工程が複雑なため、適用することが困難であった。
【0003】
近年、このような問題点を解決する為、アジドの光分解によって生じる極めて活性の高いナイトレンラジカルを材料表面の親水化に適応する試みが報告されている。即ちアジド基を有する親水性高分子を用い高分子材料表面へ光固定する技術である。例えば、キトサンに4ーアジドベンゾイミデート塩酸塩を反応させ、アジド基をキトサンに導入する方法が開示されている。
また、特許文献1においては、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと、2−(ペルフルオロアルキル)エチル(メタ)アクリレートの共重合ポリマーにシランカップリング剤を加えることで、潤滑性付与と密着強化を図っている。
【0004】
更に、基材表面にアミノ化合物、ポリエチレンオキサイド化合物、疎水性化合物、ヘパリンなどの酸性多糖類の共重合物を被覆する方法(特許文献2)、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどと他のモノマーとの共重合物を被覆する方法(特許文献3)、共有結合により基材に被覆固定される親水性共重合物とヘパリンなどの酸性多糖類とを用いる方法(特許文献4)、ビニルピロリドン重合体とポリウレタンとを被覆する方法(特許文献5)、高分子材料からなる基材の表面にオゾン処理によってペルオキシドを生成させ、これに水溶性単量体をグラフト重合させる方法(特許文献6)などが知られている。
しかし、いずれの従来技術も、処理が煩雑であったり、密着性、潤滑性、耐薬品性、耐摩耗性などが不足しており、改善が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−289630公報
【特許文献2】特開平2−80056号公報
【特許文献3】特開平2−234765号公報
【特許文献4】特開平2−144070号公報
【特許文献5】特開平2−246979号公報
【特許文献6】特開平5−76590号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】バイオマテリアルズ[1987,vol.8,481]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、密着性、耐薬品性、耐摩耗性、潤滑性に優れた潤滑性被膜を形成するための潤滑性被膜用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の通りである。
【0009】
1. 親水性モノマーに由来する構造単位及びN−メチロールアクリルアミドに由来する構造単位を含む親水性ポリマーを含有することを特徴とする潤滑性被膜用組成物。
2. 前記親水性モノマーが、下記のいずれかの基を含むことを特徴とする上記1に記載の潤滑性被膜用組成物。
【0010】
【化1】

【0011】
(上記式中、R10は水素原子または直鎖、分岐又は環状のアルキル基を表し、複数ある場合各々同一でも異なっていてもよい。Rは、水素原子又は直鎖、分岐又は環状のアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表す。nは1〜100の整数を表す。)
3. 前記親水性モノマーが、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートのいずれか少なくとも1種であることを特徴とする上記1又は2に記載の潤滑性被膜用組成物。
4. 前記N−メチロールアクリルアミドに由来する構造単位が前記親水性ポリマー全体の2〜20mоl%含まれることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の潤滑性被膜用組成物。
5. さらに、触媒を含有することを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の潤滑性被膜用組成物。
6. 前記触媒が、酸又は塩基であることを特徴とする上記5に記載の潤滑性被膜用組成物。
7. 基材上に、上記1〜6のいずれかに記載の潤滑性被膜用組成物を塗布、乾燥して形成した潤滑性被膜を有することを特徴とする潤滑性部材。
8. 前記潤滑性被膜の表面における、荷重0.5〜2N、水中下での摩擦係数が0.15以下であることを特徴とする上記7に記載の潤滑性部材。
9. 前記潤滑性被膜の含水率が75%以上であることを特徴とする上記7又は8に記載の潤滑性部材。ただし、含水率(%)=[(水浸漬後の重量)―(水浸漬前の重量)]/(水浸漬後の重量)×100
10. 前記基材が、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂、及びアクリル系樹脂のうちいずれかであることを特徴とする上記7〜9のいずれかに記載の潤滑性部材。
11. 前記潤滑性部材が、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓、及びコンタクトレンズからなる群から選ばれたいずれか1種のための部材であることを特徴とする上記7〜10のいずれかに記載の潤滑性部材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、密着性、耐薬品性、耐摩耗性、潤滑性に優れた潤滑性被膜を形成するための潤滑性被膜用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリルアミド」、「(メタ)アクリル酸」は、それぞれ「アクリレートまたはメタクリレート」、「アクリルアミドまたはメタクリルアミド」、「アクリル酸またはメタクリル酸」を表す。
【0014】
〔潤滑性被膜用組成物〕
本発明の潤滑性被膜用組成物は、親水性モノマーに由来する構造単位及びN−メチロールアクリルアミドに由来する構造単位を含む親水性ポリマーを含有することを特徴とする。
【0015】
本発明では、親水性モノマーに由来する構造単位及び架橋構造を形成するN−メチロールアクリルアミドに由来する構造単位を含有する親水性ポリマーを用いることで高い潤滑性を維持できることに加えて潤滑性被膜表面に付着した水により潤滑性被膜が溶け出すことがなく長期にわたる耐水性にも優れる潤滑性被膜を提供することができるものと考えられる。
【0016】
(親水性ポリマー)
本発明の潤滑性被膜用組成物に含まれる親水性ポリマーは、親水性モノマーに由来する構造単位及びN−メチロールアクリルアミドに由来する構造単位を含む。
【0017】
該親水性ポリマーは、親水性モノマーとN−メチロールアクリルアミドを共重合させることで得ることができる。共重合の方法としては従来公知の方法が使用できる。また、親水性ポリマーは、ランダム共重合体でも、ブロック共重合体でもよい。また、親水性モノマーに由来する構造単位及びN−メチロールアクリルアミドに由来する構造単位以外の構造単位を含んでいてもよい。
【0018】
親水性モノマーは、親水性基を含むことが好ましい。親水性基としては、−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(R)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又はPO(R)(R)などを挙げることができる。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は直鎖、分岐又は環状のアルキル基(好ましくは炭素数1〜8)を表し、Rは、直鎖、分岐又は環状のアルキル基(好ましくは炭素数1〜8)を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は直鎖、分岐又は環状のアルキル基(好ましくは炭素数1〜8)、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。また、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(R)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又はPO(R)(R)についてR〜Rがお互い結合して環を形成していてもよく、また、形成された環は酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を含むヘテロ環であってもよい。R〜Rはさらに置換基を有していてもよく、ここで導入可能な置換基としては、後述するR〜Rがアルキル基の場合に導入可能な置換基として挙げたものを同様である。
【0019】
親水性基としては、より好ましくは以下に挙げる構造を含むものである。下記構造において*はポリマーへの結合位置を表す。
【0020】
【化2】

【0021】
上記式中、R10は水素原子または直鎖、分岐又は環状のアルキル基を表し、複数ある場合各々同一でも異なっていてもよい。Rは、水素原子又は直鎖、分岐又は環状のアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表す。nは1〜100の整数を表すことが好ましい。R10は複数存在する場合は各々同一でも異なっていてもよい。
【0022】
親水性モノマーに含まれる親水性基は、高い吸水性を発現させるために、高い親水性を示し、かつ水素結合性の小さい官能基が好ましい。具体的には、ピロリドン基、水酸基、アミド基、ジメチルアミド基、ポリエチレングリコール基、メトキシポリエチレングリコール基等が好ましい。 より好ましくは、ピロリドン基、ポリエチレングリコール基、メトキシポリエチレングリコール基、ジメチルアミド基である。尚、上記において、nは1〜100の整数を表すことが好ましい。
潤滑性被膜の吸水性が高いと、潤滑性被膜の摩擦係数を低減することができ、潤滑性をさらに向上させることができる。例えば、医療用器具に潤滑性被膜を塗設した場合、患者の体液を潤滑性被膜が吸収し、摩擦係数を低減させ、潤滑性が向上するので、患者の負担が軽減される。
【0023】
親水性モノマーとしては、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アクリルアミド、のいずれか少なくとも1種であることが好ましい。これらのうち、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートがより好ましく、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0024】
本発明では、N−メチロールアクリルアミドに由来する構造単位が、親水性ポリマー全体の1〜30mоl%含まれることが好ましい。このような範囲にすることで、潤滑性被膜が膨潤しやすくなり潤滑性に優れるという点で好ましい。また、より好ましくは、N−メチロールアクリルアミドに由来する構造単位が、親水性ポリマー全体の2〜25mоl%であり、さらに好ましくは、5〜20mоl%である。
【0025】
該親水性ポリマーは、下記一般式(I−1)で表される構造及び下記一般式(I−2)で表される構造を含む親水性ポリマーであることが好ましい。
【0026】
【化3】

【0027】
一般式(I−1)及び(I−2)中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を表す。Lは、単結合又は多価の有機連結基を表す。x及びyは組成比を表し、xは0<x<100、yは0<y<100となる数を表す。Aは−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(R)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又はPO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は直鎖、分岐又は環状のアルキル基を表し、Rは、直鎖、分岐又は環状のアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は直鎖、分岐又は環状のアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。
【0028】
上記一般式(I−1)及び(I−2)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭化水素基を表す。
炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられ、炭素原子数1〜8の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が好ましい。
具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
〜Rは、効果及び入手容易性の観点から、好ましくは水素原子、メチル基又はエチル基である。
【0029】
これらの炭化水素基は更に置換基を有していてもよい。アルキル基が置換基を有するとき、置換アルキル基は置換基とアルキレン基との結合により構成され、ここで、置換基としては、水素を除く一価の非金属原子団が用いられる。好ましい例としては、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルジチオ基、アリールジチオ基、アミノ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアリールアミノ基、N−アルキル−N−アリールアミノ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、Ν−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカルバモイルオキシ基、N,N−ジアルキルカルバモイルオキシ基、N,N−ジアリールカルバモイルオキシ基、N−アルキル−N−リールカルバモイルオキシ基、アルキルスルホキシ基、アリールスルホキシ基、アシルチオ基、アシルアミノ基、N−アルキルアシルアミノ基、N−アリールアシルアミノ基、ウレイド基、N’−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアルキルウレイド基、N’−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリールウレイド基、N−アルキルウレイド基、N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアルキル−N−アルキルウレイト基、N’,N’−ジアルキル−N−アリールウレイド基、N’−アリール−Ν−アルキルウレイド基、N’−アリール−N−アリールウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アルキルウレイド基、N’,N’−ジアリール−N−アリールウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アルキルウレイド基、N’−アルキル−N’−アリール−N−アリールウレイド基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アルキル−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アルコキシカルボニルアミノ基、N−アリール−N−アリーロキシカルボニルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、
【0030】
アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N,N−ジアリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホ基(−SOH)及びその共役塩基基(以下、スルホナト基と称す)、アルコキシスルホニル基、アリーロキシスルホニル基、スルフィナモイル基、N−アルキルスルフィナモイル基、N,N−ジアルキルスルフィナモイル基、N−アリールスルフィナモイル基、N,N−ジアリールスルフィナモイル基、N−アルキル−N−アリールスルフィナモイル基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N,N−ジアリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基ホスフォノ基(−PO)及びその共役塩基基(以下、ホスフォナト基と称す)、ジアルキルホスフォノ基(−PO(alkyl))、ジアリールホスフォノ基(−PO(aryl))、アルキルアリールホスフォノ基(−PO(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスフォノ基(−POH(alkyl))及びその共役塩基基(以後、アルキルホスフォナト基と称す)、モノアリールホスフォノ基(−POH(aryl))及びその共役塩基基(以後、アリールホスフォナト基と称す)、ホスフォノオキシ基(−OPO)及びその共役塩基基(以後、ホスフォナトオキシ基と称す)、ジアルキルホスフォノオキシ基(−OPO(alkyl))、ジアリールホスフォノオキシ基(−OPO(aryl))、アルキルアリールホスフォノオキシ基(−OPO(alkyl)(aryl))、モノアルキルホスフォノオキシ基(−OPOH(alkyl))及びその共役塩基基(以後、アルキルホスフォナトオキシ基と称す)、モノアリールホスフォノオキシ基(−OPOH(aryl))及びその共役塩基基(以後、アリールフォスホナトオキシ基と称す)、モルホルノ基、シアノ基、ニトロ基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
【0031】
これらの置換基における、アルキル基の具体例としては、R〜Rにおいて挙げたアルキル基が同様に挙げられ、アリール基の具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、クロロメチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フェノキシフェニル基、アセトキシフェニル基、ベンゾイロキシフェニル基、メチルチオフェニル基、フェニルチオフェニル基、メチルアミノフェニル基、ジメチルアミノフェニル基、アセチルアミノフェニル基、カルボキシフェニル基、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシフェニルカルボニル基、フェノキシカルボニルフェニル基、N−フェニルカルバモイルフェニル基、フェニル基、シアノフェニル基、スルホフェニル基、スルホナトフェニル基、ホスフォノフェニル基、ホスフォナトフェニル基等を挙げることができる。また、アルケニル基の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、シンナミル基、2−クロロ−1−エテニル基等が挙げられ、アルキニル基の例としては、エチニル基、1−プロピニル基、1−ブチニル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。アシル基(GCO−)におけるGとしては、水素、ならびに上記のアルキル基、アリール基を挙げることができる。
【0032】
これら置換基のうち、より好ましいものとしてはハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、N−アルキルアミノ基、N,N−ジアルキルアミノ基、アシルオキシ基、N−アルキルカルバモイルオキシ基、N−アリールカバモイルオキシ基、アシルアミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アルキルカルバモイル基、N,N−ジアルキルカルバモイル基、N−アリールカルバモイル基、N−アルキル−N−アリールカルバモイル基、スルホ基、スルホナト基、スルファモイル基、N−アルキルスルファモイル基、N,N−ジアルキルスルファモイル基、N−アリールスルファモイル基、N−アルキル−N−アリールスルファモイル基、ホスフォノ基、ホスフォナト基、ジアルキルホスフォノ基、ジアリールホスフォノ基、モノアルキルホスフォノ基、アルキルホスフォナト基、モノアリールホスフォノ基、アリールホスフォナト基、ホスフォノオキシ基、ホスフォナトオキシ基、アリール基、アルケニル基が挙げられる。
【0033】
一方、置換アルキル基におけるアルキレン基としては好ましくは炭素数1から20までのアルキル基上の水素原子のいずれか1つを除し、2価の有機残基としたものを挙げることができ、より好ましくは炭素原子数1から12まで、更に好ましくは炭素原子数1から8の直鎖状、より好ましくは炭素原子数3から12までの、更に好ましくは炭素原子数3から8までの分岐状ならびにより好ましくは炭素原子数5から10まで、更に好ましくは炭素原子数5から8までの環状のアルキレン基を挙げることができる。該置換基とアルキレン基を組み合わせる事により得られる置換アルキル基の、好ましい具体例としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、2−クロロエチル基、トリフルオロメチル基、ヒドロキシメチル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシエチル基、アリルオキシメチル基、フェノキシメチル基、メチルチオメチル基、トリルチオメチル基、エチルアミノエチル基、ジエチルアミノプロピル基、モルホリノプロピル基、アセチルオキシメチル基、ベンゾイルオキシメチル基、N−シクロヘキシルカルバモイルオキシエチル基、N−フェニルカルバモイルオキシエチル基、アセチルアミノエチル基、N−メチルベンゾイルアミノプロピル基、2−オキシエチル基、2−オキシプロピル基、カルボキシプロピル基、メトキシカルボニルエチル基、アリルオキシカルボニルブチル基、
【0034】
クロロフェノキシカルボニルメチル基、カルバモイルメチル基、N−メチルカルバモイルエチル基、N,N−ジプロピルカルバモイルメチル基、N−(メトキシフェニル)カルバモイルエチル基、N−メチル−N−(スルホフェニル)カルアバモイルメチル基、スルホブチル基、スルホナトブチル基、スルファモイルブチル基、N−エチルスルファモイルメチル基、N,N−ジプロピルスルファモイルプロピル基、N−トリルスルファモイルプロピル基、N−メチル−N−(ホスフォノフェニル)スルファモイルオクチル基、ホスフォノブチル基、ホスフォナトヘキシル基、ジエチルホスフォノブチル基、ジフェニルホスフォノプロピル基、メチルホスフォノブチル基、メチルホスフォナトブチル基、トリルホスフォノへキシル基、トリルホスフォナトヘキシル基、ホスフォノオキシプロピル基、ホスフォナトオキシブチル基、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基、1−メチル−1−フェニルエチル基、p−メチルベンジル基、シンナミル基、アリル基、1−プロペニルメチル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、2−メチルプロペニルメチル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基等を挙げることができる。
【0035】
潤滑性の観点から上記のなかでもヒドロキシメチル基が好ましい。
【0036】
Lは単結合又は有機連結基を表す。ここで単結合とはポリマーの主鎖とAが連結鎖なしに直接結合していることを表す。
Lが有機連結基を表す場合、Lは非金属原子からなる多価の連結基を表し、0個から60個までの炭素原子、0個から10個までの窒素原子、0個から50個までの酸素原子、0個から100個までの水素原子、及び0個から20個までの硫黄原子から成り立つものである。具体的には、−N<、脂肪族基、芳香族基、複素環基、及びそれらの組合せから選ばれることが好ましく、−O−、−S−、−CO−、−NH−、あるいは、−O−又はS−又はCO−又はNH−を含む組合せで、2価の連結基であることが好ましい。
より具体的な連結基としては下記の構造単位又はこれらが組合わされて構成されるものを挙げることができる。
【0037】
【化4】

【0038】
一般式(I−1)において、Lは単結合、又は、−CONH−、−NHCONH−、−OCONH−、−COO−、−(CH−CH−O)−、−SONH−及び−SO−からなる群より選択される構造を1つ以上有する連結基であることが好ましい。
【0039】
一般式(I−1)中、Aは−OH、−OR、−COR、−CO、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−NHCOR、−NHCO、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SO、−OSO、−SO、−NHSO、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(R)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又はPO(R)(R)を表す。ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は直鎖、分岐又は環状のアルキル基(好ましくは炭素数1〜8)を表し、Rは、直鎖、分岐又は環状のアルキル基(好ましくは炭素数1〜8)を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は直鎖、分岐又は環状のアルキル基(好ましくは炭素数1〜8)、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表し、Rはハロゲンイオン、無機アニオン、又は有機アニオンを表す。また、−CON(R)(R)、−N(R)(R)、−OCON(R)(R)、−NHCON(R)(R)、−SON(R)(R)、−N(R)(R)(R)、−N(R)(R)(R)(R)、−PO(R)(R)、−OPO(R)(R)、又はPO(R)(R)についてR〜Rがお互い結合して環を形成していてもよく、また、形成された環は酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を含むヘテロ環であってもよい。R〜Rはさらに置換基を有していてもよく、ここで導入可能な置換基としては、前記R〜Rがアルキル基の場合に導入可能な置換基として挙げたものを同様に挙げることができる。
【0040】
〜Rにおいて、直鎖、分岐又は環状のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が好適に挙げられる。
また、R〜Rにおいて、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム又はカリウム等、アルカリ土類金属としてしはバリウム等、オニウムとしてはアンモニウム、ヨードニウム又はスルホニウム等が好適に挙げられる。
ハロゲンイオンとしてはフッ素イオン、塩素イオン、臭素イオンを挙げることでき、無機アニオンとしては硝酸アニオン、硫酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン等が、有機アニオンとしてはメタンスルホン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ノナフルオロブタンスルホン酸アニオン、p−トルエンスルホン酸アニオン等が好適に挙げられる。
【0041】
Aとしては、高い吸水性を発現させるために、高い親水性を示し、かつ水素結合性の小さい官能基が良く、具体的には、ピロリドン基、水酸基、アミド基、ジメチルアミド基、ポリエチレングリコール基、メトキシポリエチレングリコール基等が好ましい。より好ましくは、ピロリドン基、ポリエチレングリコール基、メトキシポリエチレングリコール基、ジメチルアミド基である。尚、上記において、nは1〜100の整数を表すことが好ましく、2〜30を表すことがより好ましい。
【0042】
一般式(I−1)及び(I−2)において、x及びyは親水性ポリマーにおける、一般式(I−1)で表される構造単位と一般式(I−2)で表される構造単位の組成比を表す。xは0<x<100、yは0<y<100である。xは70≦x≦99の範囲であることが好ましく、80≦x≦96の範囲であることがさらに好ましい。yは1≦y≦30の範囲であることが好ましく、4≦y≦20の範囲であることがさらに好ましい。
【0043】
好ましくは、一般式(I−1)の構造単位のモル比(x)と一般式(I−2)の構造単位のモル比(y)が、x/y=50/50〜99/1の範囲が好ましく、x/y=70/30〜99/1がより好ましく、x/y=80/20〜96/4が最も好ましい。x/yが50/50以上であれば潤滑性が不足することなく、一方、x/y=99/1以下であれば、メチロール基の量が十分量となり、十分な硬化が得られ、膜強度、密着性も十分なものとなる。
【0044】
親水性ポリマーの質量平均分子量は、1,000〜100,000,000が好ましく、1,000〜50,000,000がさらに好ましく、1,000〜10,000,000が最も好ましい。
【0045】
親水性ポリマーは、他のモノマーとの共重合体であってもよい。用いることができる他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、ビニルエステル類、スチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、無水マレイン酸、マレイン酸イミド等の公知のモノマーも挙げられる。このようなモノマー類を共重合させることで、製膜性、膜強度、親水性、疎水性、溶解性、反応性、安定性、脆性等の諸物性を改善することができる。特に、親水性ポリマーは親水基の相互作用が大きいため、脆くなり易い。この脆性を改良するために、他のモノマーと共重合化させることは効果的である。
【0046】
アクリル酸エステル類の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、(n−又はi−)プロピルアクリレート、(n−、i−、sec−又はt−)ブチルアクリレート、アミルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、クロロエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、アリルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、クロロベンジルアクリレート、ヒドロキシベンジルアクリレート、ヒドロキシフェネチルアクリレート、ジヒドロキシフェネチルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェニルアクリレート、ヒドロキシフェニルアクリレート、クロロフェニルアクリレート、スルファモイルフェニルアクリレート、2−(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチルアクリレート等が挙げられる。
【0047】
メタクリル酸エステル類の具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、(n−又はi−)プロピルメタクリレート、(n−、i−、sec−又はt−)ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、クロロエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシペンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルメタクリレート、クロロベンジルメタクリレート、ヒドロキシベンジルメタクリレート、ヒドロキシフェネチルメタクリレート、ジヒドロキシフェネチルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ヒドロキシフェニルメタクリレート、クロロフェニルメタクリレート、スルファモイルフェニルメタクリレート、2−(ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。
【0048】
アクリルアミド類の具体例としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−ベンジルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−トリルアクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)アクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)アクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)アクリルアミド、N−(トリルスルホニル)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチル−N−フェニルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0049】
メタクリルアミド類の具体例としては、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−ベンジルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−トリルメタクリルアミド、N−(ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N−(スルファモイルフェニル)メタクリルアミド、N−(フェニルスルホニル)メタクリルアミド、N−(トリルスルホニル)メタクリルアミド、N−メチル−N−フェニルメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0050】
ビニルエステル類の具体例としては、ビニルアセテート、ビニルブチレート、ビニルベンゾエート等が挙げられる。
スチレン類の具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、シクロヘキシルスチレン、クロロメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレン、メトキシスチレン、ジメトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ヨードスチレン、フルオロスチレン、カルボキシスチレン等が挙げられる。
【0051】
これらの他のモノマーの割合は、諸物性の改良に十分な量である必要があるが、潤滑性被膜としての機能が十分であり、親水性ポリマーを添加する利点を十分得るために、割合は大きすぎないほうが好ましい。従って、親水性ポリマー中の他のモノマーの好ましい総割合は80質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0052】
親水性ポリマーの共重合比の測定は、核磁気共鳴装置(NMR)や、標準物質で検量線を作成し、赤外分光光度計により測定することができる。
【0053】
本発明における潤滑性被膜用組成物は、親水性ポリマーを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
親水性ポリマーは硬化性と潤滑性の観点から、潤滑性被膜用組成物の全固形分に対して20〜99.5質量%使用されることが好ましく、30〜99.5質量%使用されることがさらに好ましい。
【0054】
以下に、本発明に用いることのできる親水性ポリマーの具体例をその質量平均分子量(M.W.)とともに以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下に示す具体例のポリマーは記載される各構造単位が記載のモル比で含まれるランダム共重合体又はブロック共重合体であることを意味する。
【0055】
【化5】

【0056】
【化6】

【0057】
【化7】

【0058】
【化8】

【0059】
【化9】

【0060】
【化10】

【0061】
【化11】

【0062】
【化12】

【0063】
【化13】

【0064】
【化14】

【0065】
【化15】

【0066】
上記、潤滑性被膜用組成物は、粘度が0.1〜100mPa・s(5%水溶液、20℃測定)、好ましくは0.5〜70mPa・s、さらに好ましくは1〜50mPa・sの範囲にあると、良好な膜物性を与える。
【0067】
〔触媒〕
本発明の潤滑性被膜用組成物には、触媒を含むことが好ましい。触媒を使用することにより、潤滑性被膜を形成するための乾燥温度を低く設定することが可能であり、基材上での熱変形を抑制できる。
【0068】
本発明で用いることができる触媒としては、親水性ポリマー同士、親水性ポリマーと架橋剤、又は、親水性ポリマーとその他の添加剤と結合を生起させる反応を促進する触媒が選択されることが好ましい。触媒としては酸または塩基が好ましい。酸、あるいは塩基性化合物をそのまま用いるか、又は、酸、あるいは塩基性化合物を水又はアルコールなどの溶媒に溶解させた状態のもの(以下、これらを包括してそれぞれ酸性触媒、塩基性触媒とも称する)を用いることが好ましい。酸、あるいは塩基性化合物を溶媒に溶解させる際の濃度については特に限定はなく、用いる酸、或いは塩基性化合物の特性、触媒の所望の含有量などに応じて適宜選択すればよい。ここで、触媒を構成する酸或いは塩基性化合物の濃度が高い場合は、重縮合速度が速くなる傾向がある。但し、濃度の高い塩基性触媒を用いると、潤滑性被膜用組成物中で沈殿物が生成する場合があるため、塩基性触媒を用いる場合、その濃度は水溶液での濃度換算で1N以下であることが望ましい。
【0069】
酸性触媒あるいは塩基性触媒の種類は特に限定されないが、濃度の濃い触媒を用いる必要がある場合には乾燥後に塗膜中にほとんど残留しないような元素から構成される触媒がよい。具体的には、酸性触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素又は置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸などが挙げられ、塩基性触媒としては、アンモニア水などのアンモニア性塩基、エチルアミンやアニリンなどのアミン類などが挙げられる。
【0070】
また、前記の触媒の他に金属錯体からなるルイス酸触媒もまた好ましく使用できる。特に好ましい触媒は、金属錯体触媒であり、周期律表の2A、3B、4A及び5A族から選ばれる金属元素とβ−ジケトン、ケトエステル、ヒドロキシカルボン酸又はそのエステル、アミノアルコール、エノール性活性水素化合物の中から選ばれるオキソ又はヒドロキシ酸素含有化合物から構成される金属錯体である。
構成金属元素の中では、Mg、Ca、Sr、Baなどの2A族元素、Al、Gaなどの3B族元素、Ti、Zrなどの4A族元素及びV、Nb及びTaなどの5A族元素が好ましく、それぞれ触媒効果の優れた錯体を形成する。その中でもZr、Al及びTiから得られる錯体が優れており、好ましい。
【0071】
上記金属錯体の配位子を構成するオキソ又はヒドロキシ酸素含有化合物は、本発明においては、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)、2,4−ヘプタンジオンなどのβジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチルなどのケトエステル類、乳酸、乳酸メチル、サリチル酸、サリチル酸エチル、サリチル酸フェニル、リンゴ酸,酒石酸、酒石酸メチルなどのヒドロキシカルボン酸及びそのエステル、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ヘプタノン、4−ヒドロキシ−2−ヘプタノンなどのケトアルコール類、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチル−モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミノアルコール類、メチロールメラミン、メチロール尿素、メチロールアクリルアミド、マロン酸ジエチルエステルなどのエノール性活性化合物、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)のメチル基、メチレン基又はカルボニル炭素に置換基を有する化合物が挙げられる。
【0072】
好ましい配位子はアセチルアセトン又はアセチルアセトン誘導体であり、アセチルアセトン誘導体は、本発明においては、アセチルアセトンのメチル基、メチレン基又はカルボニル炭素に置換基を有する化合物を指す。アセチルアセトンのメチル基に置換する置換基としては、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のアルキル基、アシル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基であり、アセチルアセトンのメチレン基に置換する置換基としてはカルボキシル基、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のカルボキシアルキル基及びヒドロキシアルキル基であり、アセチルアセトンのカルボニル炭素に置換する置換基としては炭素数が1〜3のアルキル基であってこの場合はカルボニル酸素には水素原子が付加して水酸基となる。
【0073】
好ましいアセチルアセトン誘導体の具体例としては、エチルカルボニルアセトン、n−プロピルカルボニルアセトン、i−プロピルカルボニルアセトン、ジアセチルアセトン、1―アセチル−1−プロピオニル−アセチルアセトン、ヒドロキシエチルカルボニルアセトン、ヒドロキシプロピルカルボニルアセトン、アセト酢酸、アセトプロピオン酸、ジアセト酢酸、3,3−ジアセトプロピオン酸、4,4−ジアセト酪酸、カルボキシエチルカルボニルアセトン、カルボキシプロピルカルボニルアセトン、ジアセトンアルコールが挙げられる。
【0074】
中でも、アセチルアセトン及びジアセチルアセトンがとくに好ましい。上記のアセチルアセトン誘導体と上記金属元素の錯体は、金属元素1個当たりにアセチルアセトン誘導体が1〜4分子配位する単核錯体であり、金属元素の配位可能の手がアセチルアセトン誘導体の配位可能結合手の数の総和よりも多い場合には、水分子、ハロゲンイオン、ニトロ基、アンモニオ基など通常の錯体に汎用される配位子が配位してもよい。
【0075】
好ましい金属錯体の例としては、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)アルミニウム・アコ錯塩、モノ(アセチルアセトナト)アルミニウム・クロロ錯塩、ジ(ジアセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、トリス(アセチルアセトナト)バリウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、トリス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリス(安息香酸)錯塩、等が挙げられる。これらは水系塗布液での安定性及び、加熱乾燥時のゾルゲル反応でのゲル化促進効果に優れているが、中でも、特にエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)が好ましい。
【0076】
上記した金属錯体の対塩の記載を本明細書においては省略しているが、対塩の種類は、錯体化合物としての電荷の中性を保つ水溶性塩である限り任意であり、例えば硝酸塩、ハロゲン酸塩、硫酸塩、燐酸塩などの化学量論的中性が確保される塩の形が用いられる。
金属錯体の反応メカニズムとしては、塗布液中では、金属錯体は、配位構造を取って安定であり、塗布後の加熱乾燥過程に始まる縮合反応では、酸触媒に似た機構で架橋を促進させるものと考えられる。いずれにしても、この金属錯体を用いたことにより塗布液経時安定性及び皮膜面質の改善と、高親水性、高耐久性の、いずれも満足させるに至った。
【0077】
触媒は、本発明の潤滑性被膜用組成物中に、全固形分に対して、好ましくは0〜50質量%、更に好ましくは1〜25質量%の範囲で使用される。また、触媒は、単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0078】
〔架橋剤〕
潤滑性被膜用組成物中に、親水性ポリマーを含有する場合は、良好な硬化性を得るために架橋剤を含有することができる。
【0079】
架橋剤としては、Si、Ti、Zr、Alから選択される元素を含むアルコキシド化合物(金属アルコキシドともいう)がとくに好ましい。金属アルコキシドは、その構造中に加水分解して重縮合可能な官能基を有し、架橋剤としての機能を果たす加水分解重合性化合物であり、金属アルコキシド同士が重縮合することにより架橋構造を有する強固な架橋皮膜を形成し、さらに前記親水性ポリマーとも化学結合することができる。金属アルコキシドは一般式(V−1)又は一般式(V−2)で表すことができ、式中、R20は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R21及びR22はアルキル基又はアリール基を表し、ZはSi、Ti又はZrを表し、mは0〜2の整数を表す。R20及びR21がアルキル基を表す場合の炭素数は好ましくは1から4である。アルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、ハロゲン原子、アミノ基、メルカプト基などが挙げられる。なお、この化合物は低分子化合物であり、分子量2000以下であることが好ましい。
【0080】
(R20−Z−(OR214−m (V−1)
Al−(OR22 (V−2)
【0081】
以下に、一般式(V−1)又は一般式(V−2)で表される金属アルコキシドの具体例を挙げるが、これに限定されるものではない。
【0082】
ZがSiの場合、即ち、加水分解性化合物中にケイ素を含むものとしては、例えば、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、等を挙げることができる。これらのうち特に好ましいものとしては、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、等を挙げることができる。
【0083】
ZがTiである場合、即ち、チタンを含むものとしては、例えば、トリメトキシチタネート、テトラメトキシチタネート、トリエトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシタネート、クロロトリメトキシチタネート、クロロトリエトキシチタネート、エチルトリメトキシチタネート、メチルトリエトキシチタネート、エチルトリエトキシチタネート、ジエチルジエトキシチタネート、フェニルトリメトキシチタネート、フェニルトリエトキシチタネート等を挙げることができる。ZがZrである場合、即ち、ジルコニウムを含むものとしては、例えば、前記チタンを含むものとして例示した化合物に対応するジルコネートを挙げることができる。
また、中心金属がAlである場合、即ち、加水分解性化合物中にアルミニウムを含むものとしては、例えば、トリメトキシアルミネート、トリエトキシアルミネート、トリプロポキシアルミネート、トリイソプロポキシアルミネート等を挙げることができる。
【0084】
上記のなかでも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0085】
Si、Ti、Zr、Alから選択される金属アルコキシド化合物は、多く加え過ぎると膨潤し難くなり潤滑性が低下することから、潤滑性被膜用組成物の全固形分に対して、0〜50質量%使用されることが好ましく、0〜20質量%使用されることがさらに好ましい。
【0086】
〔その他の添加剤〕
さらにこの他にも、必要に応じて、例えば、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのワックス類、基材への密着性を改善するために、親水性を阻害しない範囲でタッキファイヤーなどを含有させることができる。
タッキファイヤーとしては、具体的には、特開2001−49200号公報の5〜6ページに記載されている高分子量の粘着性ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルキル基を有するアルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数3〜14の脂環族アルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数6〜14の芳香族アルコールとのエステルからなる共重合物)や、重合性不飽和結合を有する低分子量粘着付与性樹脂などである。
【0087】
(界面活性剤)
本発明においては、潤滑性被膜用組成物の被膜面状を向上させるために界面活性剤を用いるのが好ましい。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0088】
本発明に用いられるノニオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレン化ひまし油類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体が挙げられる。
【0089】
本発明に用いられるアニオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム塩、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩、石油スルホン酸塩類、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類、スチレン/無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン/無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類が挙げられる。
【0090】
本発明に用いられるカチオン界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体が挙げられる。
本発明に用いられる両性界面活性剤は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、カルボキシベタイン類、アミノカルボン酸類、スルホベタイン類、アミノ硫酸エステル類、イミタゾリン類が挙げられる。
なお、上記界面活性剤の中で、「ポリオキシエチレン」とあるものは、ポリオキシメチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等の「ポリオキシアルキレン」に読み替えることもでき、本発明においては、それらの界面活性剤も用いることができる。
【0091】
更に好ましい界面活性剤としては、分子内にパーフルオロアルキル基を含有するフッ素系界面活性剤が挙げられる。このようなフッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル等のアニオン型;パーフルオロアルキルベタイン等の両性型;パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン型;パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基及び親水性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基、親水性基及び親油性基を含有するオリゴマー、パーフルオロアルキル基及び親油性基を含有するウレタン等のノニオン型が挙げられる。また、特開昭62−170950号、同62−226143号及び同60−168144号の各公報に記載されているフッ素系界面活性剤も好適に挙げられる。
界面活性剤は、本発明の潤滑性被膜用組成物中に、全固形分に対して、好ましくは0.001〜10質量%、更に好ましくは0.01〜5質量%の範囲で使用される。また、界面活性剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0092】
好ましい界面活性剤の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0093】
【化16】

【0094】
(無機微粒子)
本発明の潤滑性性被膜用組成物には、形成される潤滑性性被膜の強度向上及び親水性向上のために無機微粒子を含有してもよい。無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウム又はこれらの混合物が好適に挙げられる。
無機微粒子は、平均粒径が、好ましくは5nm〜10μm、より好ましくは0.5〜3μmであるのがよい。上記範囲であると、潤滑性被膜中に安定に分散して、潤滑性被膜の膜強度を十分に保持し、親水性に優れる膜を形成することができる。上述したような無機微粒子はコロイダルシリカ分散物等の市販品として容易に入手することができる。
【0095】
本発明に係る無機微粒子は、本発明の潤滑性被膜用組成物中に、全固形分に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下の範囲で使用される。また、無機微粒子は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0096】
(酸化防止剤)
本発明の潤滑性部材の安定性向上のため、潤滑性被膜用組成物に酸化防止剤を添加することができる。酸化防止剤としては、ヨーロッパ公開特許、同第223739号公報、同309401号公報、同第309402号公報、同第310551号公報、同第310552号公報、同第459416号公報、ドイツ公開特許第3435443号公報、特開昭54−48535号公報、同62−262047号公報、同63−113536号公報、同63−163351号公報、特開平2−262654号公報、特開平2−71262号公報、特開平3−121449号公報、特開平5−61166号公報、特開平5−119449号公報、米国特許第4814262号明細書、米国特許第4980275号明細書等に記載のものを挙げることができる。
添加量は目的に応じて適宜選択されるが、固形分換算で0.1〜8質量%であることが好ましい。
【0097】
(高分子化合物)
本発明の潤滑性被膜用組成物には、潤滑性被膜の膜物性を調整するため、親水性を阻害しない範囲で各種高分子化合物を添加することができる。高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。これらのうち、アクリル系のモノマーの共重合によって得られるビニル系共重合体が好ましい。更に、高分子結合材の共重合組成として、「カルボキシル基含有モノマー」、「メタクリル酸アルキルエステル」、又は「アクリル酸アルキルエステル」を構造単位として含む共重合体も好ましく用いられる。
【0098】
(紫外線吸収剤)
本発明においては、潤滑性部材の耐候性向上、耐久性向上の観点から、紫外線吸収剤を用いることができる。
紫外線吸収剤としては、例えば、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤、などが挙げられる。
添加量は目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、固形分換算で0.5〜15質量%であることが好ましい。
【0099】
(溶剤)
本発明の潤滑性被膜用組成物は、潤滑性被膜形成時に、基板に対する均一な塗膜の形成性を確保するために、適度に有機溶剤を添加することも有効である。
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、などが挙げられる。
この場合、VOC(揮発性有機溶剤)の関連から問題が起こらない範囲での添加が有効であり、その量は潤滑性部材形成時の塗布液全体に対し0〜50質量%が好ましく、より好ましくは0〜30質量%の範囲である。
【0100】
(潤滑性被膜用組成物の調液)
滑性被膜用組成物の調製は、親水性ポリマー、及び必要に応じて、触媒、界面活性剤を、水やアルコールなどの溶媒に溶解後、攪拌することで実施できる。
反応温度は室温〜80℃であることが好ましい。反応時間、即ち攪拌を継続する時間は1〜72時間であることが好ましい。この攪拌により含有される成分の重縮合を進行させて、組成物の粘度を調整することができる。
【0101】
前記滑性被膜用組成物を調製する際に用いる溶媒としては、親水性ポリマーなど含有される成分を均一に、溶解、分散し得るものであれば特に制限はない。該溶媒としては、メタノール、エタノール、水等の水系溶媒が好ましい。
好ましい固形分濃度の範囲としては、塗布適性の観点から0.1〜99質量%、更に好ましくは、1〜40質量%である。
【0102】
(潤滑性部材)
本発明の潤滑性部材は、基材上に、潤滑性被膜用組成物から形成された潤滑性被膜を有する。潤滑性被膜は、基材上に、潤滑性被膜用組成物を塗布し、加熱、乾燥することにより形成することができる。
潤滑性被膜の形成において、潤滑性被膜用組成物を塗布した後の加熱、乾燥条件としては、高密度の架橋構造を効率よく形成するといった観点から、乾燥温度を80〜200℃とすることが好ましく、100〜180℃とすることがさらに好ましい。乾燥温度が低いと十分な架橋反応が進まず塗膜強度が低くなり、温度が高すぎると塗膜のひび割れを生じやすく部分的に潤滑性が不十分になる。乾燥時間は5秒〜5時間が好ましい。更に好ましくは10秒〜2時間である。乾燥時間が短いと乾燥不十分により塗膜強度が低下することがある。必要以上に乾燥時間を長くしすぎると基材が劣化したりする。また、潤滑性被膜への泡の混入を防ぐために、塗布後に室温で溶媒を揮発させてから加熱することもできる。
【0103】
潤滑性被膜用組成物の基材への塗布方法は、公知の塗布方法を用いることが可能であり、特に限定がない。例えばスプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、フィルムアプリケーター法、スクリーン印刷法、バーコーター法、刷毛塗り、スポンジ塗り等の方法が適用できる。例えば、内視鏡に潤滑性被膜用組成物を塗布する場合、その形状から、ディップコーティング法、スプレーコーティング法が好ましい。
【0104】
[動摩擦係数]
動摩擦係数は、潤滑性部材の滑りやすさの指標となり、この値が低いほど滑りやすく、発生する摩擦力も小さくなる。測定方法としては、潤滑性部材とアクリル板を水中に浸漬させ、荷重0.5〜2N下で潤滑性部材表面とアクリル板との摩擦力を計測し、動摩擦係数を算出することができる。
[含水率]
含水率は、膨潤状態における潤滑性被膜が含む水分量を示す。測定方法としては、潤滑性被膜用組成物を硬化させて膜厚1mmのフイルムを作成し、該フイルムの乾燥状態と膨潤状態の重量から(式―1)を用いて算出することができる。
乾燥状態の重量とは、潤滑性被膜用組成物を塗布、乾燥させて形成した潤滑性被膜の重量、又は、それを更に室温、大気中で保管した後の重量のことを指し、膨潤状態の重量とは、形成した潤滑性被膜を水中に3時間以上浸漬させたものの重量である。
(式―1)
含水率(%)=[(水浸漬後の重量)―(水浸漬前の重量)]/(水浸漬後の重量)×100
【0105】
基材と潤滑性被膜との間には、密着性の向上などのため、必要に応じて中間層を設けてもよい。
【0106】
〔基材〕
本発明に用いられる基材は、特に限定されないが、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、木、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、紙、皮革、合成樹脂、それらの組合せ、それらの積層体が、いずれも好適に利用できる。特に好ましい基材は、ガラス基板又はプラスチック基板である。
ガラス基板としては、ソーダガラス、鉛ガラス、硼珪酸ガラスなどの何れのガラスを使用しても良い。また目的に応じ、フロート板ガラス、型板ガラス、スリ板ガラス、網入ガラス、線入ガラス、強化ガラス、合わせガラス、複層ガラス、真空ガラス、防犯ガラス、高断熱Low−E複層ガラスを使用することができる。また素板ガラスのまま、前記親水層を塗設できるが、必要に応じ、潤滑性被膜の密着性を向上させる目的で、片面又は両面に、酸化法や粗面化法等により表面親水化処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、グロー放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられる。粗面化法としては、サンドブラスト、ブラシ研磨等により機械的に粗面化することもできる。
潤滑性を長期に渡って保持するには、基材表面に水酸基を有する基材が好ましく、例えば、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル樹脂などがより好ましい。
【0107】
[保護層]
潤滑性被膜の上に、保護層を設けてもよい。保護層は、ハンドリング時や輸送時、保管時などの潤滑性被膜表面の傷つきや、汚れ物質の付着による潤滑性の低下を防止する機能を有する。保護層は、潤滑性部材を適切な基材へ貼り付けた後には剥がされる。
【0108】
[用途]
本発明の潤滑性被膜用組成物の用途は特に限定されることはないが、医療用器具に適応されることが好ましい。例えば、各種医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓、及びコンタクトレンズ等が挙げられる。本発明の潤滑性被膜用組成物を、例えば、患者の体内に挿入される医療用器具に塗設すれば、患者の体液を吸収して潤滑性が向上し、患者の負担の低減や医師の操作性向上などの効果が期待できる。
【実施例】
【0109】
以下本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0110】
〔合成例1〕
(親水性ポリマー(A)の合成)
500ml三口フラスコにN,N−ジメチルアクリルアミド100g、N−メチロールアクリルアミド4.251g、及び蒸留水421.85gを入れ、80℃窒素気流下、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕1.211gを加えた。6時間攪拌しながら同温度に保った後、室温まで冷却した。その後反応液をアセトン4リットル中に投入し、析出した固体をろ取した。得られた固体をアセトンにて洗浄後、下記親水性ポリマー(A)を得た。乾燥後の質量は101gであった。GPC(ポリエチレンオキシド標準)により質量平均分子量4、500、000のポリマーであった。
下記の他の親水性ポリマーも上記と同様の手法により合成した。下記親水性ポリマー(S)は、N,N−ジメチルアクリルアミドのみを重合して作製した。
【0111】
【化17】

【0112】
【化18】

【0113】
【化19】

【0114】
(実施例1〜18、比較例1〜3)
作製した各親水性ポリマー、触媒、純水を表1に示す配合組成で混合し、撹拌を行って各潤滑性被膜用組成物を得た。潤滑性被膜用組成物を塗設する基材として、内視鏡用ウレタン樹脂(ポリオールとイソシアネート架橋剤からなる塗料を塗布乾燥して作成した)を得られた各潤滑性被膜用組成物に浸漬し、ディップコートし、10時間室温で乾燥させた後、100℃で1時間加熱して潤滑性被膜を形成し、各潤滑性部材を作製した。
【0115】
(実施例19)
基材をウレタン樹脂からアクリル樹脂に変更した以外は、実施例4と同様に作成した。
【0116】
(実施例20)
基材をウレタン樹脂からシリコン樹脂に変更した以外は、実施例4と同様に作成した。
【0117】
(実施例21)
基材をウレタン樹脂からオレフィン樹脂に変更した以外は、実施例4と同様に作成した。
【0118】
(実施例22)
基材をウレタン樹脂からフッ素樹脂に変更した以外は、実施例4と同様に作成した。
【0119】
(比較例4)
潤滑性被膜用組成物を有さない内視鏡用ウレタン樹脂を用いた。
【0120】
(性能評価)
1)密着性:潤滑性被膜に、碁盤目状にカッターで切れ目をいれた後、その表面に粘着テープを貼り付け、ついで、粘着テープを剥離した際の基材上の潤滑性被膜の残存状態を目視観察した。
○:剥離が見られない
△:一部剥離が見られる
×:著しく剥離がみられる
××:硬化が不充分で評価できない
【0121】
2)摩擦係数:荷重が0.5N、1N、2Nで、400mm/minの条件で連続荷重式引掻試験機(新東科学社製トライボギアTYPE18L)を用い、水中下で潤滑性被膜とアクリル板との摩擦力を測定し、摩擦係数を算出した。
【0122】
3)耐薬品性:潤滑性部材を過酢酸水溶液(0.2質量%、55℃)に浸漬し、浸漬前の摩擦係数と比較した。
○:[(浸漬後の摩擦係数)−(浸漬前の摩擦係数)]≦0
△:0<[(浸漬後の摩擦係数)−(浸漬前の摩擦係数)]<0.1
×:[(浸漬後の摩擦係数)−(浸漬前の摩擦係数)]≧0.1
【0123】
4)耐摩耗性:不織布(BEMCOT、旭化学繊維社製)で1kgの加重をかけて100回こすり、傷付き具合を以下の通り目視で評価した。
○:傷なし
△:線傷あり
×:剥れ、膜の溶出
【0124】
5)含水率:テフロン(登録商標)シート上に潤滑性被膜を形成してモデル膜を作成した(膜厚1mm)。次いで、該モデル膜を水に3時間浸漬させた。乾燥重量と吸水状態の重量を調べ、下記式より算出した。
含水率(%)=[(浸漬後の重量)―(浸漬前の重量)]/(浸漬後の重量)×100
【0125】
6)潤滑性:潤滑性被膜に水を接触させ、潤滑性を官能評価した。
○:非常に潤滑性を感じる(ヌルヌルする)
△:あまり潤滑性を感じない
▲:徐々に潤滑性が低下する
×:潤滑性なし
【0126】
【表1】

【0127】
上記表において、比較例3の含水率の欄の「溶出」とは、水に被膜が溶け出して、含水率を測定することができなかったものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性モノマーに由来する構造単位及びN−メチロールアクリルアミドに由来する構造単位を含む親水性ポリマーを含有することを特徴とする潤滑性被膜用組成物。
【請求項2】
前記親水性モノマーが、下記のいずれかの基を含むことを特徴とする請求項1に記載の潤滑性被膜用組成物。
【化1】

(上記式中、R10は水素原子または直鎖、分岐又は環状のアルキル基を表し、複数ある場合各々同一でも異なっていてもよい。Rは、水素原子又は直鎖、分岐又は環状のアルキル基、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はオニウムを表す。nは1〜100の整数を表す。)
【請求項3】
前記親水性モノマーが、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートのいずれか少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑性被膜用組成物。
【請求項4】
前記N−メチロールアクリルアミドに由来する構造単位が前記親水性ポリマー全体の2〜20mоl%含まれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑性被膜用組成物。
【請求項5】
さらに、触媒を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑性被膜用組成物。
【請求項6】
前記触媒が、酸又は塩基であることを特徴とする請求項5に記載の潤滑性被膜用組成物。
【請求項7】
基材上に、請求項1〜6のいずれかに記載の潤滑性被膜用組成物を塗布、乾燥して形成した潤滑性被膜を有することを特徴とする潤滑性部材。
【請求項8】
前記潤滑性被膜の表面における、荷重0.5〜2N、水中下での摩擦係数が0.15以下であることを特徴とする請求項7に記載の潤滑性部材。
【請求項9】
前記潤滑性被膜の含水率が75%以上であることを特徴とする請求項7又は8に記載の潤滑性部材。ただし、含水率(%)=[(水浸漬後の重量)―(水浸漬前の重量)]/(水浸漬後の重量)×100
【請求項10】
前記基材が、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂、及びアクリル系樹脂のうちいずれかであることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の潤滑性部材。
【請求項11】
前記潤滑性部材が、医療用チューブ、ガイドワイヤ、内視鏡、手術針、手術用縫合糸、鉗子、人工血管、人工心臓、及びコンタクトレンズからなる群から選ばれたいずれか1種のための部材であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の潤滑性部材。

【公開番号】特開2010−239981(P2010−239981A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88517(P2009−88517)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】