説明

潤滑油供給装置

【課題】必要量に応じて吐出油量を調整することができ、しかも、調整のための手段を有効利用した簡単な構造で、故障などにより装置の駆動が停止した場合のバックアップ手段を備えた潤滑油給油装置を提供する。
【解決手段】軸を中心に揺動自在に保持されピストン0112の往復運動とプランジャ0122を付勢する部材0123の付勢力とによって揺動することでピストンの往復運動をプランジャに伝達する作動レバー0130と、作動レバーの近傍に回転自在に保持され作動レバーの揺動範囲を規制することによってピストンおよびプランジャの往復運動の範囲を規制するとともに、ピストンが動力源の不調などにより停止している場合でも別の動力源によって連続回転駆動することで作動レバーを揺動しプランジャを駆動して油の吸引吐出を可能とした偏心カム0140などを備えた潤滑油供給装置0100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の焼付き及び摩耗減を防止するための潤滑油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)を構成するシリンダーとプランジャ(ピストン)の焼付き及び摩耗減を防止するための潤滑油供給装置に関しては、吐出に際して潤滑油を無駄に費消することなく最適のタイミングでの注油を行うことを可能にするための技術が従来より存在している。例えば特許文献1では、電磁弁制御の油圧シリンダーにて押し出し注油を行うことでエンジンサイクルに正確に関連付けて潤滑することを可能にした潤滑ポンプシステムが開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2004‐519595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、エンジンに向けて吐出する潤滑油の必要量は潤滑対象であるエンジンのピストンの形状やピストンの往復速度などによって異なり得る。しかし、従来の方法では必要量に応じて潤滑油の吐出量を調整することができず、例えば、より少ない吐出量で足りるにもかかわらず必要以上の量の潤滑油を吐出し、その結果として潤滑油を無駄に費消してしまうという問題があった。
【0004】
また、潤滑油供給装置の駆動が故障などにより停止した場合、エンジンの駆動が続いているにもかからわず潤滑油の吐出が停止してしまうと、エンジンの焼付き及び摩耗減を防ぐことができなくなってしまう。そこで、このような事態を回避するためには、手動などによって潤滑油の吐出を継続することができるためのバックアップ手段が必要となる。その場合、バックアップ手段は、故障しにくくかつ安価なコストで備えることができるものとすることが望ましく、このためには、装置が本来の機能である潤滑油の吐出のために備えている手段を有効利用した簡単な構造であることが求められる。しかし、従来の装置には、このようなバックアップ手段を備えたものは存在しなかった。
【0005】
そこで、本発明の解決すべき課題は、必要量に応じて潤滑油の吐出量を調整することができ、これにより潤滑油の吐出量を必要最小限に抑えることができる潤滑油供給装置であって、しかも、かかる調整のための手段を有効利用した簡単な構造で、故障などにより装置の駆動が停止した場合のバックアップ手段を備えた潤滑油給油装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、本発明は、第一シリンダーと、第一シリンダー内に配置され、エンジンピストンに同期して第一シリンダー内を往復運動するピストンとからなる第一ポンプと、油の吸い込み口を設けた第二シリンダーと、第二シリンダー内に配置され、第二シリンダー内を往復運動して潤滑油をエンジン内に吐出するプランジャと、前記プランジャを油吸引方向に付勢するための付勢部材とからなる第二ポンプと、軸を中心に揺動自在に保持され、一端が前記ピストンの端部の動きにつれて駆動可能なように構成され、他端がその動きにつれて前記プランジャの端部を駆動可能なように構成され、前記ピストンの往復運動と前記付勢部材の付勢力とによって揺動することで、前記ピストンの往復運動を前記プランジャに伝達する作動レバーと、作動レバーの近傍に設けられ、回転自在に保持され、作動レバーの揺動範囲を規制することによって前記ピストンおよび前記プランジャの往復運動の範囲を規制するようにするとともに、前記ピストンが動力源の不調などにより停止している場合でも前記ピストンの往復運動のための動力源とは別の動力源によって連続回転駆動することで作動レバーを揺動し、前記プランジャを駆動して第二ポンプによる油の吸引吐出を可能とした偏心カムとを備えた潤滑油供給装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、必要量に応じて潤滑油の吐出量を調整することができ、これにより潤滑油の吐出量を必要最小限に抑えることができる潤滑油供給装置であって、しかも、かかる調整のための手段を有効利用した簡単な構造で、故障などにより装置の駆動が停止した場合のバックアップ手段を備えた潤滑油給油装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうる。
【実施例1】
【0009】
<概要>
本実施例の潤滑油供給装置は、軸を中心に揺動自在に保持される作動レバーと、回転自在に保持されて作動レバーの揺動範囲を規制する偏心カムによって、必要量に応じて潤滑油の吐出量を調整することができるようにするとともに、故障などにより装置の駆動が停止した場合にこの作動レバーと偏心カムを利用して潤滑油を吐出できるようにした潤滑油給油装置である。
【0010】
<構成>
(全般)
図1は、本発明に係る潤滑油供給装置の構成の一例を示す概念図である。はじめに本図を用いて、本発明の潤滑油供給装置の全般的な構成について説明する。なお、本図はあくまで概念図であるから、必ずしも実際のシステムにおける各構成要素の物理的な配置位置、形状・寸法等を示すものではない。
【0011】
本図に示すように、本例の「潤滑油供給装置」0100は、「第一ポンプ」0110と、「第二ポンプ」0120と、「作動レバー」0130(斜線で示す)と、「偏心カム」0140とを備える。本図は、第一ポンプ及び第二ポンプの略中央部分で切断した垂直断面図である。本図の例では、作動レバーは潤滑油0101(以下、単に「油」ということがある。)を貯蔵するための「貯油タンク」0150の中に当該タンクに設けられた軸0131に揺動自在に備えられており、当該貯油タンクから第二ポンプの「第二シリンダー」0121に設けられた「油の吸い込み口」0124を介して油が第二シリンダー本体内に吸入されるようになっている。なお、貯油タンクは、本発明の潤滑油供給装置の必須構成要素ではなく、例えば、潤滑油供給装置が外部装置である貯油タンクに貯えられた潤滑油をパイプなどを介して油の吸い込み口から第二シリンダー内に吸入するように構成されていてもよい。第二シリンダー内に吸入された油は、本図では第二シリンダー上方に位置するエンジン(図示を省略)内の潤滑対象(例えばピストンリング)に対して吐出される。
【0012】
(第一ポンプ)
(全般)
「第一ポンプ」は、潤滑油供給装置を駆動するためのポンプであり、「第一シリンダー」0111と、「ピストン」0112とからなる。
【0013】
(ピストン)
ピストンは第一シリンダー内に配置され、エンジンピストンに同期して第一シリンダー内を往復運動するように構成されている。なお、エンジンピストンに同期した往復運動は公知技術を利用して実現可能であるので、ここでは説明を省略する。
【0014】
潤滑油供給装置の駆動は、図示を省略したモータなどの駆動力を第一ポンプのピストンに伝達して当該ピストンを第一シリンダー内で往復運動させ、この往復運動による駆動力を後述する作動レバー、第二ポンプのプランジャに順次伝達することにより行われる。これにより、第二ポンプのプランジャが第二シリンダー内を往復運動し、潤滑油がエンジン内の潤滑対象に対して吐出される。その際、上述のように第一ポンプのピストンの往復運動がエンジンピストンに同期しているため、エンジンの潤滑対象に対する油の吐出が最適のタイミングで行われることとなる。
【0015】
なお、第一ポンプのピストンを駆動するための動力源の種類には限定はなく、上述のモータのほか、例えば騒音防止の観点から空気圧制御や油圧制御を用いてもよい。
【0016】
エンジンピストンに同期したピストンの駆動力を作動レバー、プランジャに順次伝達することを可能にするための具体的な構成については、後述の作動レバーの構成中で説明する。
【0017】
(第二ポンプ)
(全般)
「第二ポンプ」は、「第二シリンダー」0121と、「プランジャ」0122と、「付勢部材」0123とからなる。
【0018】
(第二シリンダー)
第二シリンダーは、その内部でプランジャの往復運動をさせて、エンジン内に油を吐出させるためのものである。図1の例では、第二シリンダーの上端に設けられた油吐出口0121aからその上方に位置するエンジン(図示を省略)内に油が吐出されるようになっている。なお、第二シリンダー内には、油吸入時における逆流(油吐出口側から吸い込み口側への流れ)を防ぐため、本図の例のように逆止弁0121bが設けられていることが望ましい。
【0019】
第二シリンダーには、既述のように「油の吸い込み口」0124が設けられている。この吸い込み口は、貯油タンクに貯められた油を第二シリンダー内に吸入するための口である。この口の形状、構造には特に限定はない。本図に示す油の吸い込み口は、筒状の形状をしており、その先端の開口部0124aから油を吸い上げ、内部に設けられた管状部0124bを通じて第二シリンダー内に油を送り込むような構造をしたものの例である。この場合、管状部の一部に油吐出時における逆流(第二シリンダー本体側から吸い込み口開口部側への流れ)を防ぐため、本図の例のように逆止弁0124cが設けられていることが望ましい。
【0020】
(プランジャ)
プランジャは、第二シリンダー内に配置され、第二シリンダー内を往復運動して潤滑油をエンジン内に吐出するように構成されている。このプランジャの往復運動は、第一ポンプのピストンから作動レバーを介して伝達された駆動力によって行われる。このエンジンピストンに同期した駆動力の作動レバーからプランジャへの伝達を可能にするための具体的な構成についても、後述する作動レバーの構成中で説明する。
【0021】
(付勢部材)
付勢部材は、プランジャを油吸引方向に付勢するためのものである。ここで「油吸引方向」とは、文字通り油を吸引する方向、換言すれば油吐出口に向かう方向とは逆の方向を意味する。本図の例では、付勢部材が油吐出口0121aに向かう方向(上方向)とは逆の方向である下方向にプランジャを付勢している。本図の付勢部材はばねの例であるが、付勢部材の種類はこれに限定されず、例えばゴムその他の弾性体であってもよい。
【0022】
この付勢部材は、第一ポンプのピストンが上に移動した際に、作動レバーの一端がこれに追随して上に持ち上がるようにするために必要なものである。より詳細にいえば、付勢部材がプランジャを常に下方向に付勢しているために、第一ポンプのピストンが上に移動した際にプランジャが作動レバーの他端を押し下げ、これによって作動レバーの一端が押し上げられる。この付勢部材の具体的な働きについても、作動レバーの構成中で後述する。
【0023】
(作動レバー)
「作動レバー」は、軸0131(図1の例では貯油タンクに取り付けられている軸)を中心に揺動自在に保持され、一端0132がピストンの端部0112aの動きにつれて駆動可能なように構成され、他端0133がその動きにつれてプランジャの端部0122aを駆動可能なように構成され、ピストンの往復運動と付勢部材の付勢力とによって揺動することで、ピストンの往復運動をプランジャに伝達するように構成されている。
【0024】
上述のようにプランジャは付勢部材によって常に本図でいう下方向に付勢され、作動レバーの他端を押し下げる力が働く。この作動レバーの他端を押し下げる力の働きによって、軸を中心に揺動自在に保持される作動レバーの一端には、常にこれを上方向に押し上げる力が働く。
【0025】
ピストンが往復運動を行う過程において、ピストンが下に移動する際には、このピストンが下に移動しようとする力と作動レバーの一端が持ち上がろうとする力がぶつかり合うことになるが、前者の力が上回るようにモータ等の駆動力が設定されるため、ピストンが下に移動する。これにつれて作動レバーの一端も押し下げられ、軸を中心に揺動する作動レバーの他端が押し上げられる。このとき、作動レバーの他端が持ち上がろうとする力と付勢部材によりプランジャが下に移動しようとする力がぶつかり合うことになるが、やはり前者の力が上回るようにモータ等の駆動力が設定されるため、作動レバーの他端が持ち上がり、これにつれてプランジャも上に移動する。
【0026】
反対に、ピストンが上に移動する際には、ピストンが作動レバーの一端を押し下げようとする力が働かなくなる。従って、作動レバーの他端がピストンからの駆動力によって持ち上がろうとする力も働かなくなり、作動レバーの他端はプランジャの付勢力によって押し下げられることになる。即ち、プランジャが下に移動し、これにつれて作動レバーの他端が押し下げられるため、作動レバーの一端がピストンの上方向への移動に追随する形で押し上げられる。
【0027】
以上のような構成によって、エンジンピストンに同期したピストンの往復運動によって作動レバーが揺動し、プランジャが往復運動を行って油ををエンジンピストンに同期した最適のタイミングで吐出することが可能となる。
【0028】
なお、図1においては、作動レバーが油の中に完全に埋没する位置に取り付けられ、第一ポンプのピストンの端部0112aと作動レバーの一端0132の接点、および第二ポンプのプランジャの端部0122aと作動レバーの他端0133の接点が、常に油の中に浸っている状態になる構造のものを示した(後述する偏心カム0140と作動レバーの一端よりやや内側に備えられた突起0134の接点についても同様である)。しかし、このことは必須ではなく、第二シリンダーの油の吸い込み口の先端の開口部0124aが油の中に浸っていて油を吸入可能になっていれば、その余の構成部分は油に浸っていなくてもよい。ただし、接触する構成部分どうしの摩擦などによる各部材の摩耗を防ぐとの観点からは、本例のようにピストンの端部と作動レバーの一端の接点などが常に油の中に浸かっている方が望ましい。
【0029】
さらに、以上では、ピストンおよびプランジャの往復運動ならびに作動レバーの揺動が垂直方向(上下方向)である例で説明したが、このことは必須ではなく、例えばこれらの往復運動・揺動が水平方向(前後方向または左右方向)となるように各部材を配置することも可能である(以下の説明においても同様である)。
【0030】
(ピストンから作動レバーを介したプランジャへの駆動力の伝達のための具体的構成)
次に、上で述べたピストンの往復運動、作動レバーの揺動およびプランジャの往復運動によって油をエンジンに向けて吐出する要領を視覚的にわかりやすく示すため、別図も用いつつ、ピストンから作動レバーを介してプランジャに駆動力が伝達されるための具体的な構成の一例について遷移的に説明する。
【0031】
図2から図4までは、ピストンから作動レバーを介したプランジャへの駆動力の伝達のための具体的構成の一例を説明するための図であって、伝達の様子を図1の状態に続く時間の経過に従って図番の順に遷移的に示したものである。
【0032】
図1の状態は、ピストンが駆動されて第一シリンダー内を最下位置まで移動した状態を示す。この状態では、作動レバーの一端もピストンの端部に押し下げられて最下位置まで移動している。またこれに伴い、作動レバーの他端は最上位置まで移動した状態となっている。このため、作動レバーの他端がプランジャを第二シリンダー内の最上位置まで押し上げ、プランジャによる油の吐出が完了した状態となる。
【0033】
図2は、図1の状態からピストン0212が第一シリンダー0211内を少し上に移動した状態を示す。この状態では、作動レバー0230の一端0232が、付勢部材0223の付勢力によってピストン0212に追随して最下位置より少し上に移動した状態となり、作動レバーの他端0233が最上位置より少し下に移動した状態となる。このときプランジャ0222は付勢部材の付勢力により第二シリンダー0221内の最上位置から少し下の位置まで移動し、第二シリンダー内に油を吸入中の状態となる。
【0034】
図3は、図2の状態からピストン0312が第一シリンダー0311内をさらに上に移動して最上位置まで移動した状態を示す。この状態では、作動レバー0330の一端0332が、付勢部材0323の付勢力によってピストンにさらに追随して最上位置まで移動した状態となり、作動レバーの他端0333が最下位置まで移動した状態となる。このときプランジャ0322は付勢部材の付勢力により第二シリンダー0321内の最下位置まで移動し、第二シリンダー内への油を吸入が完了した状態となる。
【0035】
図4は、図3の状態からピストン0412が第一シリンダー0411内を少し下に移動した状態を示す。この状態では、ピストンの下方向への移動により、作動レバー0430の一端0432も少し下の位置まで押し下げられる。このため、作動レバーの他端0433も少し上の位置まで移動し、これに押し上げられてプランジャ0422も少し上の位置まで移動した状態となり、第二シリンダー0421内の油を吐出中の状態となる。この後、ピストンはさらに下に移動し、再び図1に示したような油の吐出を完了した状態となり、以後このサイクルを繰り返す。
【0036】
(複数の潤滑対象に油を一括して吐出するための構成)
以上では、一組の第一ポンプ、第二ポンプ、作動レバー等の組み合わせによって単一の潤滑対象に対して潤滑油を吐出するための構成について説明したが、本実施例の潤滑油供給装置は、このような組み合わせを複数有することによって、複数の潤滑対象に対して一括して潤滑油を吐出できるように構成することもできる。図1においては、垂直断面図で示したため一組の第一ポンプ、第二ポンプ、作動レバー等の組み合わせのみが現れているが、その手前および/またはその奥に同様の組み合わせからなる他の組が連なっている構成も、同図によって示される潤滑油供給装置の概念に含まれるものである。
【0037】
また、その場合に、必ずしも潤滑対象ごとに第一ポンプ、第二ポンプ、作動レバーなどを個別に備えていなくてもよく、例えば共通の一個の作動レバーですべての第二ポンプに駆動力を伝達するといったように、複数の組で共通して用いられる構成要素があってもよい。
【0038】
図5は、複数の潤滑対象に油の一括した吐出が可能な潤滑油供給装置の構成の一例を示す図である。
このうち、図5(a)は、かかる潤滑油供給装置の一例を示す平面図であり、いわば図1に示した装置を上から見た状態を示すものである。本図に示す潤滑油供給装置においては、一つの貯油タンク0550の中に第一ポンプ0510、第二ポンプ0520および作動レバー0530(斜線で示す)からなる組が複数組備えられている(煩雑を避けるため一組のみ符号を示した)。また、本図の例では、これら複数の作動レバーが共通する一本の軸0531(破線に囲まれた範囲を示す)を中心に保持されている。
【0039】
図5(b)は、図1のA‐A断面図、即ち、作動レバーの軸の略中心を軸方向に貫く垂直断面で切断した状態を示す図である。本図にも、複数の作動レバー0530が共通する一本の軸0531を中心に保持されている状態が現れている。
本図に示したような潤滑油供給装置を用いれば、例えば、複数のエンジンの潤滑対象に対し、それぞれのエンジンに同期して往復運動するピストンをそれぞれ有する複数の第一ポンプ、第二ポンプおよび作動レバーからなる組を一括駆動して、各潤滑対象に対して最適のタイミングで潤滑油を吐出することができる。
【0040】
さらに、このような複数の潤滑対象に対する一括した油吐出が可能な潤滑油供給装置の第一ポンプ、第二ポンプ、作動レバーなどの複数の組のうち、一部の組だけを駆動して複数の潤滑対象のうち一部のみに油の供給を行うように構成することも可能である。かかる構成の具体例については、別の実施例として後述する。
【0041】
(偏心カム)
次に、図1に戻り、偏心カムの構成について説明する。
「偏心カム」0140は、作動レバー0130の近傍に設けられ、回転自在に保持され、作動レバーの揺動範囲を規制することによってピストン0112およびプランジャ0122の往復運動の範囲を規制するようにするとともに、ピストンが動力源の不調などにより停止している場合でもピストンの往復運動のための動力源とは別の動力源によって連続回転駆動することで作動レバーを揺動し、プランジャを駆動して第二ポンプによる油の吸引吐出を可能としたものである。
【0042】
(作動レバーの揺動範囲の規制のための構成)
偏心カムの一つの機能は、作動レバーの揺動範囲を規制することによってピストンおよびプランジャの往復運動の範囲を規制することである。これは、第二シリンダーからの油吐出のタイミングを同一に維持しつつ、その吐出量を調整可能にすることを目的とする。
【0043】
図6は、偏心カムおよびその近傍の拡大図である。本図に示した偏心カム0640は、作動レバー0630の近傍に貯油タンク0650に直接取り付けられる形で設けられ、軸0641を中心に回転自在に保持されている。ここで「回転自在」とは、偏心カムを回転させて任意の向きに固定できるという意味であって、ピストンの往復運動中に常に偏心カムが回転するという意味ではない。即ち、偏心カムを任意の向きに固定した後は、吐出量を変化させるために改めて偏心カムを回転させて別の任意の向きに変えるという動作を行わない限り、偏心カムをその一定の向きに固定した状態でピストン運動が継続されて油の吐出が繰り返される(ただし、後述する故障の際のバックアップ手段として偏心カムを用いる場合は例外となる)。
【0044】
このように作動レバーの近傍に偏心カムを設けたことにより、作動レバーの揺動範囲は、作動レバーが偏心カムの下端に接した状態より右上がりにならない範囲に規制される。図6に示したのは、図1と同じ状態、即ち作動レバーが最も右下がりになっている状態である。一方、拡大図は省略するが、前出の図3は作動レバーが最も右上がりになっている状態であって、作動レバーの一端よりやや内側に備えられた突起0334が偏心カムの下端に接した状態となり、仮にピストン0312がこの状態からさらに上に移動したとしても、作動レバーは偏心カムに規制されてこれ以上持ち上がってピストンの動きに追随することはできない。
以上から、作動レバーは、図6(図1)に示した最下位置と図3に示した最上位置との間を揺動することが可能となる。
【0045】
偏心カムを回転させて任意の位置で固定する動作は、例えば手動によって行うようにすればよい。図6は、図1から図4までと同様、偏心カムの下端が最も上の位置になるように固定されている例である(本図では明確に現れていないが、次の図7Aに示されているように偏心カム0740はその周囲に描かれている仮想円内を軸を中心に回転可能であるところ、図6の偏心カムは同仮想円内の最も上に位置している状態を示している)。従って、この図の状態で作動レバーの揺動範囲は最大となる。仮に、これらの図の状態から偏心カムを軸を中心に180度回転させて偏心カムの下端が最も下の位置になるように固定すれば、作動レバーの揺動範囲は最小となる。
【0046】
図7Aおよび図7Bは、前出の図1とともに、偏心カムを回転させることにより作動レバーの揺動範囲を変化させた例を示す図である。
図1は、既述のように、偏心カムの下端が最も上の位置になるように固定され、作動レバーの揺動範囲は最大となる例である。この場合には、プランジャの往復運動量も最大となるため、油の吸入量および吐出量も最大となる。従って、油の吐出量を最大にしたいときには偏心カムをこのような向きに固定すればよい。
【0047】
図7Aは、図1の状態から偏心カム0740を仮想円内で90度回転させた状態で固定した例である。この場合には図1に比べて偏心カムの下端が少し下の位置に移動するので、作動レバー0730の揺動範囲が相対的に小さくなる。従って、油の吸入量および吐出量も相対的に少なくなる。
【0048】
図7Bは、図7Aの状態から偏心カム0740をさらに90度回転させた状態で固定した例である。この場合には偏心カムの下端が最も下の位置まで移動するので、作動レバー0730の揺動範囲が最小となり、油の吸入量および吐出量も最小となる。従って、油の吐出量を最小にしたいときには偏心カムをこのような向きに固定すればよい。
【0049】
このように偏心カムを回転させて向きを変えることで油の吐出量を増減させることができるが、このとき油の吐出のタイミングが変化することはない。なぜなら、偏心カムの向きを変えてもピストンの往復運動周期、作動レバーの揺動周期およびプランジャの往復運動周期は変化しないからである。より詳細に説明すると、図1、図7Aおよび図7Bの例からも明らかなように、偏心カムの向きを変えてもエンジンピストンに同期して往復運動するピストンの周期が変化するわけではないから、これに駆動される作動レバーの揺動周期にも変化はない。ただ、偏心カムの下端位置の変化によって作動レバーの一端の最上位置が変化し、一方で作動レバーの一端の最下位置は変化しないことから、作動レバーの振幅だけが変化する。このため、作動レバーの他端を常に付勢しているプランジャの往復運動も、周期は変化せず往復運動距離だけが変化する。これにより、エンジンピストンに同期した油の吐出を維持しつつ、その吐出量だけを必要に応じて調整することが可能となる。
【0050】
また、既述のように、本実施例の潤滑油供給装置は複数の潤滑対象に対して一括して潤滑油を吐出できるように構成することもできるが、この場合の偏心カムの構成についても、潤滑対象ごとに第一ポンプ、第二ポンプおよび作動レバーとともに個別に偏心カムが備えられていてもよいし、例えば共通の一個の偏心カムですべての作動レバーの揺動範囲を規制するように、複数の組に共通する偏心カムが備えられていてもよい。
【0051】
図5(c)は、図1のB‐B断面図、即ち、偏心カムの軸の略中心を軸方向に貫く垂直断面で切断した状態を示す図である。本図の例では、複数の作動レバー0530の揺動範囲を一括して規制するための一本の円筒形状の偏心カム0540が保持されている状態が現れている。
【0052】
このほかにも偏心カムの形状や取り付け要領には様々なバリエーションが考えられるが、このバリエーションについては便宜上次のピストンが故障などにより停止している場合の説明の中で合わせて述べる。
【0053】
(ピストンが停止している場合に作動レバーを揺動するための構成)
偏心カムのもう一つの機能は、ピストンが動力源の不調などにより停止している場合でもピストンの往復運動のための動力源とは別の動力源によって連続回転駆動することで作動レバーを揺動し、プランジャを駆動して第二ポンプによる油の吸引吐出を可能とすることである。本発明では、偏心カムが上に述べたような本来の機能の発揮のために備えている構造を有効利用した簡単な構造を有しており、これを手動などで回すことにより油の吐出を継続できるようにしている。
【0054】
図8は、別の動力源によるカムの回転駆動のための構成の一例を示す図であって、このような偏心カムを備える潤滑油供給装置の外観の一例を斜視図で示したものである。本図は、貯油タンク0850の中に一組の第一ポンプ0810、第二ポンプ0820および作動レバー(図示を省略)からなる組が備えられている例である。そして、この作動レバーの揺動範囲を規制するための偏心カム0840の軸に一致するハンドル軸0860が取り付けられるとともにその先端にハンドル0861が備えられ、このハンドルを手で回すことにより偏心カムを軸を中心に回転させることができるようになっている。動力源が故障した場合には、このハンドルを手で回して偏心カムを回転させることにより、この偏心カムの動きと付勢部材の付勢力を利用して作動レバーを揺動させ、プランジャを往復運動させて油を吐出することができる。
【0055】
図9は、別の動力源によるカムの回転駆動のための構成の別の一例を示す図である。本図は、図8に示したのと同様、貯油タンク0950の中に一組の第一ポンプ0910、第二ポンプ0920および作動レバーからなる組が備えられている例であるが、図8の例と異なり、このような貯油タンクが複数備えられた潤滑油供給装置の例である。本図の例はそれぞれの組のピストンを別々の動力源によって駆動することを想定したものである。これらの動力源の一部が故障した場合には、その故障した動力源に対応する組の偏心カムを、例えば本図に示すようなハンドル軸0960に設けられたウォーム0962および偏心カムに設けられたウォームホイール0963からなるウォームギヤを利用し、ハンドル軸の先端に備えられたハンドル0961を手で回すことことにより偏心カムを回転させればよい。これにより、この場合にも偏心カムの動きと付勢部材の付勢力を利用して作動レバーを揺動させ、プランジャを往復運動させて油を吐出することができる。
【0056】
さらに図10も、別の動力源によるカムの回転駆動のための構成の別の一例を示す図である。本図では、図5(c)に示した例と同様、一つの貯油タンク1050の中に複数の第一ポンプ1010、第二ポンプ1020および作動レバー(図示を省略)からなる組が備えられており、これら複数の作動レバーの揺動範囲を一括して規制するための一本の略円筒形状の偏心カム0840が保持されている例を示したものである(ただし、煩雑さを避けるため、図5(c)で八組示されている組数の図示を一部省略するとともに、一組のみ符号を示した)。本図の例では、偏心カムの軸に一致するハンドル軸1060が取り付けられるとともにその先端にハンドル1061が備えられている。本図の例はそれぞれの組のピストンを一つの動力源によって駆動することを想定したものである。そこで、当該動力源が故障した場合には、例えばハンドルを手で回すことにより偏心カムを軸を中心に回転させることで、すべての作動レバーを一括して揺動させてすべてのプランジャを往復運動させることができる。
【0057】
なお、本図には現れていないが、本例の偏心カムは断面が均一の形状(例えば同径の円)ではなく、エンジンのカムシャフトに多く見られるような、断面の異なる複数のカムを連ねたような形状のものであってもよい。この場合には、各プランジャの往復運動の周期を同一に保ちつつ、潤滑対象ごとに異なるタイミングで油を吐出することが可能となる。
【0058】
あるいは、図示は省略するが、図10のように一つの貯油タンクの中に複数の第一ポンプ、第二ポンプが備えられている場合において、作動レバーは一つだけ備えられ、一つの偏心カムを回転させてこの作動レバーを揺動させて複数のプランジャを一括して駆動するようにしてもよい。この場合、例えば作動レバーの形状はプランジャ側に広がった扇形にすることが考えられる。そして、扇の要の位置に設けられた偏心カム(従って図10のような長円筒形状ではなく短円筒形状でよい)をハンドルで回してこの扇形の作動レバーを揺動させ、作動レバーの扇の略先端位置で接する複数のプランジャを一括して駆動するようにすればよい。
【0059】
以上では、ピストンの往復運動のための動力源とは別の動力源がいずれも手動の場合の例で説明したが、この別の動力源は、ピストンの動力源とは別に設けられたモータなどであってもよい。別の動力源がモータの場合には、ピストンの動力源と同じようにエンジンピストンと同期した駆動を行うことが可能となり、非故障時と何ら変わりのない最適のタイミングで油を吐出することが可能となる。一方、手動の場合には、図8から図10までに示した例からも明らかなように、別のモータを設ける場合以上に極めて簡単な構造でバックアップ手段を講じることができるという利点がある。
【0060】
なお、手動の場合には非故障時と何ら変わりない最適のタイミングでの油の吐出は困難とならざるを得ないものの、注油を必要とするエンジンピストンに対して適時に潤滑油の供給を行うことを継続できる点に変わりはない。しかも、かかるバックアップ手段を、必要量に応じて吐出油量を調整するための手段である偏心カムを有効利用した構造で設けることができる点でも変わりはなく、従って、この手動のバックアップ手段を含め、本発明は、必要量に応じて吐出油量を調整することができる潤滑油供給装置の提供という共通の技術課題を解決するものであって、発明の単一性を有するものであることは言うまでもない。
【0061】
<効果>
本実施例の発明により、必要量に応じて潤滑油の吐出量を調整することができ、これにより潤滑油の吐出量を必要最小限に抑えることができる潤滑油供給装置であって、しかも、かかる調整のための手段を有効利用した簡単な構造で、故障などにより装置の駆動が停止した場合のバックアップ手段を備えた潤滑油給油装置を提供することが可能となる。
【実施例2】
【0062】
<概要>
本実施例の潤滑油供給装置は、第一ポンプ、第二ポンプ、作動レバー等の組み合わせを複数有することによって、複数の潤滑対象に対して一括して潤滑油を吐出できるように構成されたもののうち、特に、かかる複数の組のうち一部だけを駆動して複数の潤滑対象のうち一部のみに油の供給を行うようにした点に特徴を有する。
【0063】
<構成>
(全般)
図11は、本実施例の潤滑油供給装置の構成の一例を示す概念図である。本図に示す潤滑油供給装置は、二組の第一ポンプ1110a、1111bを有するとともに、八組の第二ポンプ1120a1、1120a2、1120a3、1120a4、1120b1、1120b2、1120b3、1120b4を有する。また、本図の潤滑油供給装置も実施例1で説明した装置と同様の作動レバー1130a、1130bを備えており、この作動レバーを介して第一ポンプのピストン1112a、1112bの往復運動が第二ポンプのプランジャ1122a1、1122a2、1122a3、1122a4、1122b1、1122b2、1122b3、1122b4に伝達され、当該プランジャの往復運動によって本図では第二ポンプの上方に配置されたエンジンシリンダー1170内に油が吐出されるようになっている。本図のエンジンシリンダーは、略円筒形状のシリンダー内をエンジンピストンが上下に往復運動する構造のエンジンシリンダーを平面概念図で示したものである。そして、エンジンシリンダーの側面には略45度間隔で8個のエンジン側吐出口1170a1、1170b1、1170a2、1170b2、1170a3、1170b3、1170a4、1170b4が設けられている。
【0064】
また、本図の潤滑油供給装置では、第一ポンプ1110aが4個の第二ポンプ1120a1、1120a2、1120a3、1120a4に、第一ポンプ1110bが4個の第二ポンプ1120b1、1120b2、1120b3、1120b4にそれぞれ対応しており、例えば、第一ポンプ1110aを駆動させることで作動レバー1130aを介して4個の第二ポンプ1120a1、1120a2、1120a3、1120a4を駆動し、それぞれの第二ポンプが備える4個のプランジャ1122a1、1122a2、1122a3、1122a4の往復運動により、エンジンシリンダー内の潤滑対象(例えばピストンリング)に対して油が吐出される。第一ポンプ1110bについても同様である。
【0065】
即ち、本図に示す潤滑油供給装置は、2個の第一ポンプのうち一方だけを駆動して、これに対応する4個の第二ポンプからだけ油の供給を行い、他方の停止している第一ポンプに対応する残りの4個の第二ポンプからの油の供給は行わないようにすることができるようにした点に特徴がある。
【0066】
本実施例の潤滑油供給装置は、例えば船舶の低速航行時などにおいて、船舶のエンジンを低速回転で駆動したり、複数のエンジンのうち一部のみを駆動したりする場合に有用である。なぜなら、このような場合に本実施例の潤滑油供給装置を用いれば、一部の第一ポンプだけを駆動し、これに対応する第二ポンプからだけ油の供給を行うことで、エンジンに向けて吐出する油の量をさらに少量に抑えることが可能となるからである。
【0067】
(第一ポンプ、第二ポンプ等の具体的構成)
次に、本図の例に即して、本実施例の潤滑油供給装置の第一ポンプ、第二ポンプ等の具体的構成の一例について説明する。
【0068】
本図の例では、潤滑対象であるエンジンシリンダーは1個であり、8個の第二ポンプからそれぞれ吐出される油は、これら8個の第二ポンプに対応してエンジンシリンダーに8箇所設けられたエンジン側吐出口から吐出されるようになっている。
【0069】
具体的には、本図左側の第一ポンプ1110aから伝達された駆動力による第二ポンプのプランジャ1122a1、1122a2、1122a3、1122a4の往復運動によるエンジン内への油の吐出は、エンジンシリンダーの側面に略90度間隔で設けられた4箇所のエンジン側吐出口1170a1、1170a2、1170a3、1170a4から行われる。一方、本図右側の第一ポンプ1110bから伝達された駆動力によるプランジャ1122b1、1122b2、1122b3、1122b4の往復運動によるエンジン内への油の吐出は、それぞれが上記のエンジン側吐出口のほぼ中間に位置するようにやはり略90度間隔で設けられた4箇所のエンジン側吐出口1170b1、1170b2、1170b3、1170b4から行われる。この結果、本例では、エンジンシリンダー内を往復運動するピストンの周囲に略45度間隔に配置された8箇所の吐出口からシリンダー内に向けて油が吐出されることになる。
【0070】
そこで、例えば、エンジンを低速で回転させる場合には、左側の第一ポンプ1110aだけを駆動してこれに対応する4個の第二ポンプのプランジャ1122a1、1122a2、1122a3、1122a4の往復運動によってエンジンシリンダーに油を吐出するようにすればよい。この場合油の吐出は、互いに略90度間隔で配置された4箇所のエンジン側吐出口1170a1、1170a2、1170a3、1170a4だけから行われる。
【0071】
このようにすることで、低速で往復運動するエンジンピストンに対して供給すべき潤滑油の量を高速で往復運動する際に比べて少量で済ませることができる。各第二ポンプからの吐出量にエンジンの高速回転時と変化がなく、単純に8個の第二ポンプからの吐出を4個の第二ポンプからの吐出に切り替えただけであれば、吐出量は高速回転時の半分で済むことになる。
【0072】
あるいは、上の場合において各第二ポンプから吐出される油の量を高速回転時よりも若干増加させてもよい。このような吐出量の調整は、実施例1で説明した吐出量を調整可能にするための構成を用いることで実現可能である。この結果、4個の第二ポンプから吐出される油の量の全体は高速回転時の半分より若干多い量となる。
【0073】
この場合、各第二ポンプからの吐出量を増加させない場合に比べて、4個のエンジン側吐出口1170a1、1170a2、1170a3、1170a4から吐出された油がピストンとシリンダーの隙間に浸透して広がっていく程度が増すので、潤滑対象である例えばピストンリングのより多くの表面に油を行き渡らせることが可能となる。この結果、エンジンピストンの焼付きや摩耗を適切に防ぎつつ、なおかつ油吐出量をすべての第一ポンプを駆動する場合に比べて一層少量で済ませることができる。
【0074】
なお、このような観点から、エンジン側吐出口を設ける位置は、別々に駆動される第一ポンプに対応する吐出口が互いに交互に配置されるようにすることが望ましい。図11に示したものは、第一ポンプ1110aに対応するエンジン側吐出口1170a1、1170a2、1170a3、1170a4と第一ポンプ1110bに対応するエンジン側吐出口1170b1、1170b、1170b3、1170b4が略45度間隔で交互に配置された好適な例である。
【0075】
本実施例の潤滑油供給装置も、実施例1の装置と同様に、ピストンが動力源の不調などにより停止している場合にピストンの往復運動のための動力源とは別の動力源によって連続回転駆動することで作動レバーを揺動し、プランジャを駆動して第二ポンプによる油の吸引吐出を可能とするように構成することができる。そのための具体的構成は、実施例1で説明したところと同様であるから、説明を省略する。
【0076】
(他の構成例)
なお、図11に示した構成はあくまで一例であり、他の構成によってもかかる複数の組のうち一部だけを駆動して複数の潤滑対象のうち一部のみに油の供給を行うようにすることが可能である。例えば、図11の例と異なり第一ポンプも第二ポンプに一対一に対応する数が備えられていてもよい。また、図11の例では作動レバーは第一ポンプに一対一に対応する形で2個備えられ、それぞれの作動レバーが4個ずつの第二ポンプに対してそれぞれ駆動力を伝達するように構成されているが、これと異なり第二ポンプに一対一で対応する形で計8個が備えられていてもよい。
【0077】
さらに、潤滑対象であるエンジンシリンダーが図11のように1個ではなく、複数のエンジンシリンダーに対して油を吐出するように構成されたものであってもよい。このように構成すれば、複数のエンジンピストンのうち一部だけを駆動する場合に、駆動しているエンジンピストンのエンジンシリンダーにのみ油を供給することが可能となる。例えば、図11の例を少し変えて、エンジンシリンダーが左右に2個備えられ、左側の4個の第二ポンプは左側のエンジンシリンダーに向けて、また右側の4個の第二ポンプは右側のエンジンシリンダーに向けて油を吐出するように構成されている例が考えられる。この場合、右側のエンジンピストンを停止して左側のエンジンピストンだけを駆動させる場合には、左側の第一ポンプだけを駆動することにより左側の4個の第二ポンプのプランジャだけを往復運動させて、左側のエンジンシリンダーだけに油を吐出することが可能となる。この場合も、両方のエンジンシリンダーに吐出する場合と比べて各第二ポンプからの吐出量に変化がなければ、全体の吐出量は半分で済むことになる。
【0078】
<効果>
本実施例の発明により、第一ポンプ、第二ポンプ、作動レバー等の組み合わせを複数有することによって複数の潤滑対象に対して一括して潤滑油を吐出できるように構成された潤滑油供給装置のうち、特に、かかる複数の組のうち一部だけを駆動して複数の潤滑対象のうち一部のみに油の供給を行うようにし、これにより潤滑油の吐出量を必要最小限に抑えることができる潤滑油供給装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る潤滑油供給装置の構成の一例を示す概念図
【図2】ピストンから作動レバーを介したプランジャへの駆動力の伝達のための具体的構成の一例を説明するための図
【図3】ピストンから作動レバーを介したプランジャへの駆動力の伝達のための具体的構成の一例を説明するための図
【図4】ピストンから作動レバーを介したプランジャへの駆動力の伝達のための具体的構成の一例を説明するための図
【図5】複数の潤滑対象に油の一括した吐出が可能な潤滑油供給装置の構成の一例を示す図
【図6】偏心カムおよびその近傍の拡大図
【図7A】偏心カムを回転させることにより作動レバーの揺動範囲を変化させた例を示す図
【図7B】偏心カムを回転させることにより作動レバーの揺動範囲を変化させた例を示す図
【図8】別の動力源によるカムの回転駆動のための構成の一例を示す図
【図9】別の動力源によるカムの回転駆動のための構成の一例を示す図
【図10】別の動力源によるカムの回転駆動のための構成の一例を示す図
【図11】実施例2の潤滑油供給装置の構成の一例を示す概念図
【符号の説明】
【0080】
0100 潤滑油供給装置
0101 油
0110 第一ポンプ
0111 第一シリンダー
0112 ピストン
0120 第二ポンプ
0121 第二シリンダー
0121a 油吐出口
0121b 第一シリンダー内の逆止弁
0122 プランジャ
0123 付勢部材
0124 油の吸い込み口
0124a 油の吸い込み口の先端の開口部
0124b 油の吸い込み口の管状部
0124c 油の吸い込み口内の逆止弁
0130 作動レバー
0131 作動レバーの軸
0132 作動レバーの一端
0133 作動レバーの他端
0134 作動レバーの一端よりやや内側に備えられた突起
0140 偏心カム
0150 貯油タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一シリンダーと、
第一シリンダー内に配置され、エンジンピストンに同期して第一シリンダー内を往復運動するピストンと、
からなる第一ポンプと、
油の吸い込み口を設けた第二シリンダーと、
第二シリンダー内に配置され、第二シリンダー内を往復運動して潤滑油をエンジン内に吐出するプランジャと、
前記プランジャを油吸引方向に付勢するための付勢部材と、
からなる第二ポンプと、
軸を中心に揺動自在に保持され、
一端が前記ピストンの端部の動きにつれて駆動可能なように構成され、
他端がその動きにつれて前記プランジャの端部を駆動可能なように構成され、
前記ピストンの往復運動と前記付勢部材の付勢力とによって揺動することで、前記ピストンの往復運動を前記プランジャに伝達する作動レバーと、
作動レバーの近傍に設けられ、回転自在に保持され、
作動レバーの揺動範囲を規制することによって前記ピストンおよび前記プランジャの往復運動の範囲を規制するようにするとともに、
前記ピストンが動力源の不調などにより停止している場合でも前記ピストンの往復運動のための動力源とは別の動力源によって連続回転駆動することで作動レバーを揺動し、前記プランジャを駆動して第二ポンプによる油の吸引吐出を可能とした偏心カムと、
を備えた潤滑油供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−264302(P2009−264302A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116441(P2008−116441)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(301009885)株式会社金山精機製作所 (9)
【Fターム(参考)】